説明

関節症の疼痛治療用アキソマドール

本発明は、関節症の疼痛を治療する医薬を製造するためのアキソマドールの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節症の疼痛を治療するためのアキソマドールの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
関節症(骨関節症、変形性関節症)は、最も一般的なヒトの関節疾患である。それは、とりわけ年配の人の軟骨および他の関節組織の動力学的であるが、徐々に進行する変性疾患であり、断続的な炎症発現を伴う。炎症パラメータの欠如、可動性の制限、短期間の関節のこわばり、および放射線学上の特徴に基いて、それを他のリウマチ性疾患と区別することができる。
【0003】
関節症又は関節磨耗は、関節軟骨の崩壊で始まる関節障害である。重症の場合、最終的に隣接する骨で修復プロセスが起こり、関節表面が破壊される。従って、この疾患の結果、関節の疼痛やこわばりが可動域制限(Bewegungseinschraenkungen)とともに起こる。関節は変形し、最終的には完全に骨化する可能性がある。関節症は、たいていの場合、経過が徐々に進行する。軟骨層は、連続して、まず肥厚化し、軟骨細胞の代謝が活性化する。軟骨下骨梁が変化すると、海綿骨による圧力分散が低下する。修復組織にかかる荷重が大きくなり、病気が進行するにつれ、破壊に関する均衡が変化する。放射線医学上、関節裂隙の狭小化が顕著になり、辺縁に骨棘が形成される。他の詳細に関しては、例えば、非特許文献1および非特許文献2の全てを参照されたい。
【0004】
原則的に、あらゆる関節で関節症変化が起こる可能性がある。しかし、最もよく起こるのは、体重が多くかかる膝関節(膝関節症)や股関節(股関節症)である。この疾患は、また、小さい脊椎関節(脊椎関節症)や指関節で起こることも多い。ICD−10により、股関節症および膝関節症は、有痛性の可動域制限(動作開始時痛、荷重痛)又は歩行障害を伴う原発性軟骨疾患と定義される。しかし、滑膜炎のような炎症が起こっているとは限らない。
【0005】
関節症の主徴候および初期徴候は、疼痛(初期の三徴候:動作開始時痛、疲労痛、荷重痛;後期の三徴候:持続痛、夜間痛、筋肉痛)である。それは、可動域制限、気象感受性、軋轢音を伴う。関節症の疼痛の原因は、主に、関節周囲の腱および靭帯の付け根の刺激状態、続発性炎症、関節包の伸張、血腫(Reizerguessen)、軟骨下骨の圧力増大および微小骨折である。
【0006】
以前の研究では、疼痛は荷重時にのみ起こり、運動し続ける時(例えば、ゆっくりと歩行する時)、数分後に再び鎮まる。炎症が加わると、活動性の関節症の典型的な苦痛が現れる:関節が痛み、熱感があり、腫れる。可動性が制限される。炎症は治療しなくても鎮静することが多い。これは、関節症の経過がたいていは断続的であることを示す:比較的重度の疼痛と可動域制限のある時期が、疼痛が少なく可動性のよい時期と交互にある。磨耗の徴候が進行するほど、疼痛のある時期が次々に生じる。最終的には、絶えず疼痛がある。
【0007】
治療では、医薬によらない選択肢と医薬による選択肢が複数使用可能であり、これらは単独で又は組み合わせて使用される:
−一般的な処置、例えば、水泳、自転車乗り、適切な体操、歩行器の使用、食餌療法など;
−物理療法、例えば、温湿布、電気療法、および運動療法など;
−薬物療法;
−整形外科的方法、例えば、包帯、装具など;並びに
−手術療法、例えば、自家移植軟骨細胞の移植、人工関節など。
【0008】
特定の療法の結果を評価するために、European League Against Rheumatism(EULAR)は、Lequesne指数、即ち、医師による総合評価および患者の疼痛評価を推奨している。FDAは、関節の腫脹、発赤、および圧したときの硬さ(Druckfestigkeit)の評価の他に、Western−Ontario−McMaster−Universities変形性関節症指数(WOMAC)−およびLequesne指数による疼痛および機能の評価を推奨している。Osteoarthritis Research Societyは、医師および患者による総合評価の他に、関節症の対症療法に使用される医薬に関して、主要目標基準としてWOMAC疼痛スコアのスケールを、副次的目標基準としてWOMACの可動域制限スコア又はLequesne指数を推奨している。
【0009】
関節症の治療のために提供される薬物療法の有効物質群の範囲には、以下が含まれる;
−非オピオイド鎮痛薬、例えば、パラセタモール;
−非ステロイド系抗リウマチ薬/抗炎症薬(NSAR)、例えば、アセメタシン、アセチルサリチル酸、アセクロフェナク、ジクロフェナク、イブプロフェン、ケトプロフェン、メフェナム酸、チアプロフェン酸、インドメタシン、ロナゾラク、ナプロキセン、プログルメタシン、メロキシカム、ピロキシカム、ロフェコキシブ、セレコキシブ;
−オピオイド鎮痛薬、例えば、ジヒドロコデイン、トラマドール、チリジン−ナロキソン、モルヒネ、ブプレノルフィン、オキシコドン、フェンタニルおよびヒドロモルホン;
−経皮適用可能な抗炎症薬および発赤薬;
−関節内注射用グルココルチコステロイド−結晶懸濁液;および
−経口又は関節内注射用の他の有効物質、例えば、グルコサミン、アデメチオニオン、オキサセプロール、ヒアルロン酸など。
【0010】
オピオイド鎮痛薬は、関節症の医薬による治療の常套手段(Routine−Repertoire)に属するものではないが、特定の状況では不可避である。但し、従来のオピオイド鎮痛薬は、一部、著しい副作用、特に、便秘、吐気、嘔吐、頭痛、鎮静、疲労、低換気、アレルギー、および時々血圧低下を示す。これらの副作用は、関節症の慢性疼痛状態の長期療法を困難にする。従って、従来のオピオイド鎮痛薬の用いた治療は、例えば、手術が不可能であり、鎮痛作用を有する他の物質に反応を示さない重度の安静時疼痛がある患者で、たいていは、まず他の治療可能性を全て利用し尽した後で適応される。
【0011】
有効な鎮痛および改善された副作用特性を特徴とする薬物療法による代替の関節症治療方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許出願第0753506号明細書
【特許文献2】国際公開第01/57232号パンフレット
【特許文献3】国際公開第02/43714号パンフレット
【特許文献4】国際公開第03/024444号パンフレット
【特許文献5】国際公開第02/067916号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2005/009329号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】D.Hoeffler et al.,AVP Therapieempfehlungen der Arzneimittelkommission der Deutschen Aerzteschaft, Arzneiverordnung in der Praxis,“Degenerative Gelenkerkrankungen”, 2.Auflage 2001;
【非特許文献2】H.Broell et al.,CliniCum, Sonderausgabe September 2001, Konsensus−Statement,“Arthrose, Diagnostik & Therapie”
【非特許文献3】“Remington’s Pharmaceutical Sciences”, Hrsg. A.R.Gennaro, 17. Ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa.(1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の課題は、関節症の鎮痛に有効であり、従来の鎮痛薬と比較して有利な化合物を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の課題は、特許請求項の対象によって解決される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、関節症の疼痛を治療する医薬を製造するためのアキソマドールの使用に関する。
【0017】
驚いたことに、アキソマドールは、関節症の疼痛の治療に優れた効果を有し、副作用が少ないことが分かった。更に、アキソマドールは、慢性炎症性疼痛モデルで、例えば、モルヒネ、オキシコドン、およびトラマドールなどの従来の鎮痛薬と比較して優れた鎮痛効果を示すことが分かった。
【0018】
アキソマドール、即ち、(1RS,3RS,6RS)−6−ジメチルアミノメチル−1−(3−メトキシフェニル)−シクロヘキサン−1,3−ジオールは、中程度〜重度の、急性又は慢性の疼痛の治療に有効な合成の中枢性鎮痛薬である。アキソマドールは、その遊離塩基の形態で、又は塩若しくは溶媒和物として使用され得る。
【0019】
特許文献1は、アキソマドールの合成、および、マウスでのテイルフリック試験(Tail−Flick−Test)におけるその鎮痛効果の調査を記載している。特許文献2から、対応するエステル前駆体の酵素を用いたラセミ体分割によるアキソマドールの立体選択的合成が既知である。特許文献3は、尿意切迫感又は尿失禁を治療するためのアキソマドールを開示している。特許文献4は、尿失禁を治療するために、アキソマドールとムスカリン拮抗薬を含有する有効物質の組み合わせも使用できることを記載している。特許文献5は、アキソマドール塩酸塩の溶解挙動とサッカリン酸アキソマドールの水に対する溶解度を記載している。特許文献6は、有効物質を徐放するアキソマドールの医薬製剤を開示している。
【0020】
本明細書の目的では、「アキソマドール」は、(1RS,3RS,6RS)−6−ジメチルアミノメチル−1−(3−メトキシフェニル)−シクロヘキサン−1,3−ジオール、その薬学的に許容される塩および溶媒和物を意味する。
【0021】
好適な薬学的に許容される塩は、無機酸および/又は有機酸、例えば、酢酸、2,2−ジクロロ酢酸、アシル化アミノ酸、好ましくはアセチル化アミノ酸、例えば、N−アセチルアラニン、N−アセチルシステイン、N−アセチルグリシン、N−アセチルイソロイシン、N−アセチルロイシン、N−アセチルメチオニン、N−アセチルフェニルアラニン、N−アセチルプロリン、N−アセチルセリン、N−アセチルトレオニン、N−アセチルチロシン、N−アセチルバリン、アジピン酸、アルギン酸、アスコルビン酸、L−アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4−アセトアミド安息香酸、(+)−樟脳酸、(−)−樟脳酸、(+)−カンファースルホン酸、(−)−カンファースルホン酸、(+)−カンファー−10−スルホン酸、(−)−カンファー−10−スルホン酸、(±)−カンファー−10−スルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、陽イオン交換樹脂、桂皮酸、クエン酸、シクロヘキシルスルファミン酸、硫酸モノドデシルエステル、エタン−1,2−ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、粘液酸(ムチン酸、ガラクタル酸)、ゲンチシン酸、グルコースモノカルボン酸(グルコヘプトン酸)、D−グルコン酸、D−グルクロン酸、L−グルタミン酸、α−オキソグルタル酸(α−ケトグルタル酸)、ヒドロキシ酢酸(グリコール酸)、馬尿酸(N−ベンゾイルグリシン)、臭化水素、塩化水素、(+)−L−乳酸、(±)−DL−乳酸、ラクトビオン酸(4−O−β−D−ガラクトピラノシル−D−グルコン酸)、マレイン酸、(−)−L−リンゴ酸、マロン酸、(±)−DL−マンデル酸、メタンスルホン酸、ナフタレン−2−スルホン酸、ナフタレン−2,5−ジスルホン酸、1−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、オロト酸(ウラシル−6−カルボン酸)、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸(エンボン酸)、リン酸、L−ピログルタミン酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸、4−アミノサリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、タンニン酸、(+)−L−酒石酸、(±)−DL−酒石酸、チオシアン酸、p−トルエンスルホン酸、およびウンデシレン酸の塩などを含む。好ましい塩は、塩酸塩、サッカリン酸塩、リン酸二水素塩、リン酸水素塩、およびリン酸塩である。
【0022】
アキソマドールは、前述の有機酸および無機酸の塩の各任意の比の混合物として存在してもよい。
【0023】
好ましい実施形態では、医薬は、固体剤形である。好ましくは、医薬は、経口投与用に調製される。しかし、例えば、口腔内、舌下、経粘膜、直腸、腰椎内、腹腔内、経皮、静脈内、筋肉内、殿筋内、皮内および皮下適用用などの他の投与形態も可能である。
【0024】
調製に応じて、医薬は、好ましくは好適な添加剤および/又は助剤を含有する。好適な添加剤および/又は助剤は、本発明の意味では、ガレノス製剤を製造するための当業者に既知の全ての物質である。これらの助剤の選択および使用され得る量は、医薬が適用されるべき方法、即ち、経口、静脈内、腹腔内、皮内、筋肉内、鼻腔内、口腔内、又は局所に依存する。
【0025】
経口適用では、錠剤、咀嚼錠、糖衣錠、カプセル、顆粒、滴剤、液剤(Saeften)又はシロップの形態の製剤、非経口、局所、および吸入適用には、溶液、懸濁液、容易に再構成可能な乾燥調製物製剤およびスプレーが適している。他の可能性は、直腸に使用される座剤である。好適な経皮適用形態の例としては、デポ剤中で溶解した形態での使用、支持フィルム又は膏薬中での、場合によっては皮膚浸透を促進する薬剤を添加しての使用がある。
【0026】
例えば、経口適用形態のための助剤および添加剤の例としては、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、賦形剤、離型剤、場合によっては溶剤、香味物質、糖、特に、担体、希釈剤、着色料、酸化防止剤などがある。
【0027】
坐剤には、とりわけ、ワックス又は脂肪酸エステルを使用することができ、非経口適用剤には担体物質、保存料、懸濁助剤などを使用することができる。
【0028】
助剤としては、例えば、水、エタノール、2−プロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グルコース、フルクトース、ラクトース、サッカロース、デキストロース、糖蜜、デンプン、加工デンプン、ゼラチン、ソルビトール、イノシトール、マンニトール、微結晶性セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酢酸セルロース、シェラック、セチルアルコール、ポリビニルピロリドン、パラフィン、ワックス、天然および合成のガム類、アラビアゴム、アルギネート、デキストラン、飽和および不飽和脂肪酸、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸グリセリル、ラウリル硫酸ナトリウム、食用油、ゴマ油、ヤシ油、落花生油、大豆油、レシチン、乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレン−およびポリオキシプロピレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビン酸、安息香酸、クエン酸、アスコルビン酸、タンニン酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、酸化チタン、二酸化チタン、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸カルシウム、炭酸カリウム、リン酸カルシウム、リン酸二カルシウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、タルク、カオリン、ペクチン、クロスポビドン、寒天およびベントナイトがある。
【0029】
この医薬および医薬組成物の製造は、例えば、非特許文献3に、特に、第8部、76〜93章に記載されているように、製剤工学の従来技術で周知の手段、装置、方法、およびプロセスを用いて実施される。
【0030】
従って、例えば、錠剤のような固体製剤では、均質に分配されている有効物質を含有する固体組成物を形成するために、医薬の有効物質を、例えば、コーンスターチ、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、タルク、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム又は薬学的に許容されるガム類のような従来の錠剤成分などの医薬担体、および、例えば、水などの医薬希釈剤と一緒に造粒することができる。均質に分配されているとは、本明細書では、有効物質が組成物全体に一様に分配されており、そのため、同じ効果を有する単位用量の形態(錠剤、カプセル、糖衣錠など)に容易に分割できることであると理解される。固体組成物は、その後、単位用量の形態に分割される。また、徐放性の剤形を提供するため、錠剤又は丸薬は、被覆されても、又は他の方法で調合されてもよい。好適なコーティング剤としては、とりわけ、ポリマー酸、および、ポリマー酸と、例えば、シェラック、セチルアルコールおよび/又は酢酸セルロースのような材料との混合物がある。
【0031】
患者に投与され得るアキソマドールの量は、患者の体重、適用方法および疾患の重篤度に応じて変わる。好ましい実施形態では、医薬は遊離塩基を基準にしてアキソマドールを10〜2,000mg、好ましくは15〜1,000mg、更に好ましくは20〜500mgの量で含有する。
【0032】
経口、直腸又は経皮適用可能な製剤形態からアキソマドールを徐放することができる。好ましくは、医薬は、1日1回投与されるように、1日2回投与(bid)されるように、又は1日3回投与されるように調製されており、1日2回の投与(bid)が特に好ましい。
【0033】
アキソマドールの徐放は、例えば、マトリックス、被膜、又は浸透作用を有する放出系を用いて遅延することにより達成できる(例えば、特許文献6を参照)。
【0034】
好ましい実施形態では、
−医薬は、経口投与用に調製されている;および/又は
−医薬は、固体のおよび/又は圧縮されたおよび/又はフィルムでコーティングされた剤形である;および/又は
−医薬は、マトリックスからアキソマドールを徐放する;および/又は
−医薬は、医薬の総重量を基準にして、0.001〜99.999重量%、好ましくは0.1〜99.9重量%、更に好ましくは1.0〜99.0重量%、更に好ましくは2.5〜80重量%、最も好ましくは5.0〜50重量%、特に7.5〜40重量%の量でアキソマドールを含有する;および/又は
−医薬は、薬学的に許容される担体および/又は薬学的に許容される助剤を含有する;および/又は
−医薬は、25〜2,000mg、好ましくは50〜1,800mg、更に好ましくは60〜1,600mg、更に好ましくは70〜1,400mg、最も好ましくは80〜1,200mg、特に100〜1,000mgの範囲の総質量を有する;および/又は
−医薬は、錠剤、カプセル、ペレットおよび顆粒からなる群から選択される。
【0035】
医薬は、単純な錠剤として、および被覆された錠剤(例えば、フィルムコート錠又は糖衣錠)として存在してもよい。錠剤は、通常は丸く、両凸であるが、長円形の形状も同様に可能である。サシェ又はカプセル内に充填されているか又は崩壊性の錠剤に圧縮されている顆粒、スフェロイド、ペレット、又はマイクロカプセルも同様に可能である。
【0036】
副作用を回避するために、少なくとも0.001〜99.999重量%のアキソマドールを含有する医薬、特に、有効投与量が低いことが好ましい。医薬は、好ましくは0.01重量%〜99.99重量%のアキソマドール、より好ましくは0.1〜90重量%、更により好ましくは0.5〜80重量%、最も好ましくは1.0〜50重量%、特に5.0〜20重量%のアキソマドールを含有する。
【0037】
特に好ましくは、医薬は、1日2回投与されるように調製されており、遊離塩基を基準にしてアキソマドールを10〜2,000mgの量で含有する経口投与の形態である。
【0038】
アキソマドールは著しい抗痛覚過敏効果を示し、それは完全フロイントアジュバント(CFA)動物モデルで証明された。
【0039】
本発明によれば、アキソマドールは関節症の疼痛の治療に使用される。好ましくは、関節症は、膝関節症、股関節症および脊椎関節症からなる群から選択される。
【0040】
好ましくは、有痛性の関節症は、ICD−10(疾病および関連保健問題の国際統計分類(Internationale statistische Klassifikation der Krankenheiten und verwandter Gesundheitsprobleme)、WHO刊行、好ましくは2007年版)の意味の関節症である。好ましくは、関節症は、多発性関節症[M15]、股関節症[M16]、膝関節症[M17]、手根中手関節の関節症[M18]、その他の関節症[M19]、および脊椎の関節症[M47]から選択される。括弧内に記載されている記号は、ICD−10に使用されている名称に関連する。
【0041】
関節症が多発性関節症[M15]である場合、これは、好ましくは、原発性全身性(骨)関節症[M15.0]、ヘバーデン結節(関節障害を伴うもの)[M15.1]、ブシャール結節(関節障害を伴うもの)[M15.2]、続発性多発性関節症(外傷後多発性関節症)[M15.3]、びらん性(骨)関節症[M15.4]、その他の多発性関節症[M15.8]、および明示されていない多発性関節症(詳細不明の全身性(骨)関節症)[M15.9]からなる群から選択される。
【0042】
関節症が、股関節症[M16]である場合、これは、好ましくは、両側性原発性股関節症[M16.0]、その他の原発性股関節症(片側性又は詳細不明)[M16.1]、形成不全の結果としての両側性股関節症[M16.2]、その他の形成不全性股関節症(片側性又は詳細不明)[M16.3]、両側性外傷後股関節症[M16.4]、その他の外傷後股関節症[M16.5](片側性又は詳細不明)、その他の両側性続発性股関節症[M16.6]、その他の続発性股関節症(片側性又は詳細不明)[M16.7]、および明示されていない股関節症[M16.9]からなる群から選択される。
【0043】
関節症が膝関節症[M17]である場合、これは、好ましくは、両側性原発性膝関節症[M17.0]、その他の原発性膝関節症(片側性又は詳細不明)[M17.1]、両側性外傷後膝関節症[M17.2]、その他の外傷後膝関節症[M17.3](片側性又は詳細不明)、その他の両側性続発性膝関節症[M17.4]、その他の続発性膝関節症(片側性又は詳細不明)[M17.5]、および明示されていない膝関節症[M17.9]からなる群から選択される。
【0044】
関節症が、手根中手関節の関節症[M18]である場合、これは、好ましくは、手根中手関節の両側性原発性関節症[M18.0]、手根中手関節のその他の原発性関節症(片側性又は詳細不明)[M18.1]、手根中手関節の両側性外傷後関節症[M18.2]、手根中手関節のその他の外傷後関節症[M18.3](片側性又は詳細不明)、手根中手関節のその他の両側性続発性関節症[M18.4]、手根中手関節のその他の続発性関節症(片側性又は詳細不明)[M18.5]、および明示されていない手根中手関節の関節症[M18.9]からなる群から選択される。
【0045】
関節症がその他の関節症[M19]である場合、これは、好ましくは、その他の関節の原発性関節症(詳細不明の原発性関節症)[M19.0]、その他の関節の外傷後関節症(詳細不明の外傷後関節症)[M19.1]、その他の続発性関節症(詳細不明の続発性関節症)[M19.2]、その他の明示された関節症[M19.8]、および明示されていない関節症[M19.9]からなる群から選択される。
【0046】
好ましくは、疼痛は、中程度〜重度である。好ましい実施形態では、疼痛は、動作開始時痛、荷重痛、疲労痛、関節周囲圧痛、放散痛(例えば、存在する膝関節症の膝痛)、比較的長時間同じ姿勢をとり続けた後の安静時痛、持続痛、自発痛、運動時痛、夜間痛、筋肉痛、四肢の痛み、自発痛および安静時痛としての骨痛からなる群から選択される。好ましくは、疼痛は痛覚過敏又はアロディニアである。痛覚過敏は、好ましくは熱的に又は機械的に惹起される。
【0047】
本発明による医薬が僅かな副作用しか示さない場合でも、例えば、特定の依存形態を回避するために、アキソマドールの他にモルヒネ拮抗薬、特にナロキソン、ナルトレキソンおよび/又はレバロルファンも使用することが有利な可能性がある。
【0048】
更に、本発明は、アキソマドールを薬学的に許容される量で患者に投与する、関節症の疼痛の治療方法に関する。
【0049】
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明するのに役立つが、限定的に解釈されるべきではない。
【実施例】
【0050】
1.臨床試験
機能的分類I〜IIIの骨関節症(関節症、変形性関節症)による中程度〜重度の慢性疼痛を有する患者でアキソマドールの効果と安全性を決定するために、それぞれ4週間の治療期間を有する2つの試験を実施した。試験は両方とも無作為、多施設、二重盲目、ダブルダミー、プラセボおよび実薬対照の並行群試験デザインを有した。
【0051】
アキソマドールで処置された患者は、4週間後に疼痛の強さが臨床的に著しく減少した。
【0052】
全試験期間中、両方の試験で、有効物質で処置された患者群では、プラセボが投与された患者群よりも、望ましくない作用が頻繁に現れた。これらの望ましくない作用は、一般に中枢性鎮痛薬では典型的なものである。
【0053】
試験A:
この試験では、変形性股関節症又は変形性膝関節症を有する患者を5つの群に分けた。これらのうち3つの群の患者にアキソマドールを異なる1日投与量で投与し(遊離塩基を基準にして44、66および110mgをそれぞれ1日2回)、1つの群にはトラマドールを投与し(100mgを1日2回)、1つの群はプラセボで1日2回処置された。
【0054】
全ての患者群で、各評価時点で、ベースラインの疼痛と比較して疼痛の強さが減少していることが確認された。最大の解析対象集団で、29日目に、アキソマドールで処置された患者群では疼痛の強さの臨床的に有意な減少が確認された。トラマドール群およびプラセボ群では、このような改善は観察されなかった。
【0055】
プロトコールに従った集団では、投与量に応じて、疼痛の強さが臨床的に有意に減少していることが分かり(投与量が高いほど効果が高かった)、110mgのアキソマドールを1日2回投与された患者群の結果は、プラセボ群と比較して統計学的に有意であった(p<0.05)。
【0056】
望ましくない作用が最も頻繁に現れたのは、他の処置群より高用量の110mgのアキソマドール塩酸塩を1日2回投与された患者群であった。最も頻繁に現れた望ましくない作用は、吐気、便秘、過度の発汗、めまい、嘔吐、頭痛、口内乾燥、および眠気であった。
【0057】
試験B:
この試験では、変形性膝関節症を有する患者を4つの群に分けた。患者群の2つにアキソマドール塩酸塩を異なる投与量で:遊離塩基を基準にして100mgと150mg、2週間の漸増期間の後にそれぞれ1日2回投与したが、漸増期間中はアキソマドールの投与量を1週間ごとに増加させた。他の1つの患者群には漸増期間の後にオキシコドンCR(20mg、1日2回)を投与し、漸増期間中はオキシコドンCRを10mgから20mg(1日2回)に増加させた。他の1つの群には1日2回プラセボを投与した。
【0058】
29日目の最後の24時間の平均の疼痛の強さの解析から、最大の解析対象集団で、100mgのアキソマドールを1日2回投与された患者群では、プラセボと比較して統計学的に有意な差(p=0.0190)があることが分かった。
【0059】
プロトコールに従った集団で、両方のアキソマドール群(100mgのアキソマドール群ではp=0.0068、および150mgのアキソマドール群ではp=0.0079)と同様にオキシコドン群(p=0.0154)も、プラセボ群と比較して、主要評価項目に関して統計学的に有意な差を示した。これらの結果から、最大の解析対象集団でもプロトコールに従った集団でも、異なる副次評価項目に関する有意差が証明された。
【0060】
試験Bで、3つの有効物質群では、望ましくない作用がプラセボ群より多く現れた。これらの望ましくない作用は、アキソマドール群では、たいていの場合、軽度〜中程度であった。しかし、個々の患者で試験の中止に繋がった望ましくない副作用が現れる頻度は、オキシコドン群(患者の31.5%)では、両方のアキソマドール群(100mg群では16.3%、および150mg群では17.7%)の2倍の高さであった。最も頻繁に現れる望ましくない作用は、便秘、吐気、嘔吐および口内乾燥であった。
【0061】
2.慢性炎症性疼痛モデルにおける抗痛覚過敏作用
慢性炎症性疼痛におけるアキソマドールの抗痛覚過敏作用を決定するための調査は、完全フロイントアジュバント動物モデル(CFA)でラットで実施した。
【0062】
慢性炎症のモデルは、完全フロイントアジュバント(CFA)によって引き起こされる単発性関節症である。少量のCFA(100μgの結核菌(M.tuberculosis))を後肢に注射することによって、局所的な時間的に2〜4週間に限定された炎症反応が起こる。機械的又は熱的刺激で並行して発現する痛覚過敏(従って、以下ではCFA−痛覚過敏(CFA−HA)とも称される)は、炎症を起こした肢に限定されている。
【0063】
実験動物として、飼育業者(Janvier, Belgien)の、体重140〜160gのスプラーグドーリーラット(Sprague Dawley−Ratten)を使用した。ラットのCFA−HAは、CFA(1mg/mlのマイコバクテリア(結核菌(M.tuberculosis)、加熱死菌)/油性懸濁液(IFA;Difco)、100μl)を右後肢の足蹠に注射することによって、(同側に)惹起した。注射日を0日目(d0)と定義した。
【0064】
機械的触覚刺激による痛覚過敏を電子式von Frey測定装置で測定した(Somedic Electronic von Frey System;Somedic Sales AB, Hoerby, Schweden)。von Freyフィラメントを用いて肢の足蹠を刺激した。同側の肢と同様に対側の肢の機械的刺激による感受性を定量化するために、肢の逃避閾値(Pfotenwegziehschwelle)を加えられる圧力のグラムで報告した。1つの肢につき4つの測定値から中央値を求めた。同側の肢と対側の肢の逃避閾値は、CFA注射後1日目に、物質を投与する前(初期値)と、物質を投与した後(測定値)の様々な時点で(15分、30分および60分)測定された。物質の効果は、痛覚過敏の抑制%として次のように計算された:
HAの抑制率=(1−HA測定値/HA事前値)×100
HA事前値=物質を投与する前の対側の逃避閾値−同側の逃避閾値
HA測定値=物質を投与した後の対側の逃避閾値−同側の逃避閾値
【0065】
全部で、1つの実験動物群当たり10匹のラットを使用した。平均値±SEMは、個々の動物の中央値から計算された。有意性の計算を、反復測定に関して二元配置分散分析(ANOVA)を用いて行った。有意な治療効果がある場合、様々な測定時点でフィッシャー(Fisher)の有意性検定で対比較を行なった後、ダネット(Dunnett)の事後検定を行った。結果は、p<0.05の場合、統計学的に有意であると評価された。
【0066】
最大の効果(有効性)を決定するために、物質を最大の可能な用量まで静脈内(i.v.)適用した。最大限に可能な用量は、測定に影響を与える副作用や治療されない肢に対する強い抗侵害受容効果をまだ示さないが、更に用量を増加するとこの効果が生じる用量と定義された。
【0067】
最大の効果(有効性)は、最大の達成可能な痛覚過敏抑制に基いて決定されたが、それは、1.対側の肢での抗侵害受容効果との重複、および/又は、2.測定値の解釈に影響を及ぼす程度の副作用を惹起しない用量範囲で達成することができた。
【0068】
結果:
アキソマドールは、CFAによって惹起された痛覚過敏を有意に減少させる。
【0069】
10mg/kgのアキソマドールHClを静脈内投与した後に、40%の最大の抗痛覚過敏作用が達成された。より高い投与量では、抗痛覚過敏作用が9%に減少し、付加的な抗侵害受容作用と重複した。
【0070】
中枢性鎮痛薬であるモルヒネ、オキシコドン、およびトラマゾール(表を参照)を投与した後、達成された最大の作用は、アキソマドールHCLと比較して明らかに小さかった(それぞれの場合、<30%の痛覚過敏抑制)。
【0071】
アキソマドールHClおよび他の中枢性鎮痛薬を用いた調査の結果を次の表に要約する:
【0072】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節症の疼痛を治療する医薬を製造するためのアキソマドールの使用。
【請求項2】
前記医薬が固体剤形であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記医薬が経口投与用に調製されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記医薬が1日2回投与される(bid)ように調製されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記医薬がアキソマドールを10〜2,000mgの量で含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
アキソマドールが塩酸塩として存在することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記関節症が、膝関節症、股関節症および脊椎関節症からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記疼痛が中程度〜重度であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記疼痛が、動作開始時痛、荷重痛、疲労痛、関節周囲圧痛、放散痛、比較的長時間同じ姿勢をとり続けた後の安静時痛、持続痛、自発痛、運動時痛、夜間痛、筋肉痛、四肢の痛み、自発痛および安静時痛としての骨痛からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。

【公表番号】特表2010−526786(P2010−526786A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506858(P2010−506858)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003755
【国際公開番号】WO2008/138558
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(390035404)グリュネンタール・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (127)
【Fターム(参考)】