説明

防弾チョッキ

【課題】高強度有機繊維からなる織物を最適に組合せた多層積層してなる防弾チョッキにおいて、織物を最も性能が発揮できる位置に配置した対破片用防弾チョッキを提供すること。
【解決手段】弾丸が衝突する側から身体側にむかって、それぞれの織物積層体を構成する織物のカバーファクター(Cc)が順次大きくなっていることがもっとも重要な要件である。弾の速度が最も早い衝突側には応答性の良い織物が高い耐弾能力を発揮するためカバーファクターの小さな織物を配し、弾の速度が低下した身体側には、応答性よりも目ズレし難い特性が要求されるためカバーファクターが大きい織物が適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高強度有機繊維からなる織物を最適に組合せた多層積層してなる防弾チョッキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防弾チョッキは一種類の織物またはシールドと呼ばれる柔軟な複合材料シート積層体と織物の積層体を組合せで構成されており、複数の織物を組み合わせることは少なかった。最近、高強度有機繊維からなる織物の積層体を複数積層する提案がされているが、これらの提案は防弾性能に耐刃性能を付加することを目的とした組み合わせの提案であり、組合せによる防弾性能の向上については十分検討されていない。
【特許文献1】特表2002-533651
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
解決しようとする問題点は、織物を最も性能が発揮できる位置に配置した対破片用防弾チョッキを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明者は高強度繊維からなる種々の織物についてその織り組織と衝撃速度と性能の発現性について鋭意検討した結果、以下の知見を得るに至った。即ち、ある一種の織物が全ての速度範囲で常に他に比べ優れた防弾性能を発現するのではなく、貫通挙動は繊度、織り組織、織り密度と弾速度によって変化するため、衝突する速度に応じて優れた性能を示す織物が異なるという挙動である。
一方、防弾チョッキによる弾丸の停止挙動について考えると着弾した弾は防弾チョッキを進むにしたがってその速度を失い、最終的に停止するに至る。
以上のことを併せて考えた結果、積層構造の中でそれぞれの部位毎に対象とする弾丸の速度に最も適した織物を配置することでそれぞれの織物の単独の性能から可成性で期待される耐弾性能よりも性能の高い防弾チョッキの設計を考案するに至った。具体的に説明すれば、速い速度で衝突する弾に対しては構成する繊維の応答性が優れることが必要であり、ヤーンのクリンプが少ない織物が適しており、遅い速度で衝突する弾に対しては応答性よりも織り構造が乱れにくい織物が適していることを見いだしたものである。これらのヤーンのクリンプの量や織り構造の乱れ即ち目ズレしにくさを表現する方法として本発明では以下の[数1]に示すカバーファクターを用いることができることがわかった。
【数1】

布帛のカバーファクター:Cc
たて方向のカバーファクター:Wc
よこ方向のカバーファクター:Fc
たて糸繊度:Ldw(dtex)
よこ糸繊度:Ldf(dtex)
たて糸比重:Sgw
よこ糸比重:Sgf
たて織り密度:Dw(本/25mm)
よこ織り密度:Df(本/25mm)
なお、[数1]はJOHN WILEY & SONS社発刊H. H. Yang著「Kevlar Aramid Fiber」P104以降を参考にして、比重の異なる繊維のカバーファクターの計算が可能となるように修正したものである。
【0005】
本発明は強度が30cN/dtex以上の高強度有機繊維からなる織物積層体を少なくとも2種類組合せて構成した防弾チョッキに関するものである。強度が低い繊維でも本発明の効果は得られるが、絶対性能が劣るため防弾チョッキとして適していない。また、高強度有機繊維の種類としては、高分子量ポリエチレン繊維、ポリベンズアゾール繊維、パラアラミド繊維、ポリアリレート繊維のいずれの繊維を用いても本発明の効果を得ることが出来る。好ましくは少なくとも1つ織物が元来保有する防弾性能が優れている高分子量ポリエチレン繊維またはポリベンズアゾール繊維から構成されると本発明の効果をより顕著に得ることができる。
本発明では、弾丸が衝突する側から身体側にむかって、それぞれの織物積層体を構成する織物の[数1]で算出されるカバーファクター(Cc)が順次大きくなっていることがもっとも重要な要件である。弾の速度が最も早い衝突側には応答性の良い織物が高い耐弾能力を発揮するためカバーファクターの小さな織物を配し、弾の速度が低下した身体側には、応答性よりも目ズレし難い特性が要求されるためカバーファクターが大きい織物が適している。さらに好ましくは、弾が衝突する側に配される織物積層体のカバーファクターが0.6以下、身体側に配される織物積層体のカバーファクターが0.6以上であるとより顕著な発明の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によって構成された2種類の織物からなる防弾チョッキはもともとの織物を単独で用いて得られる性能よりも高い防弾性能を示し、防弾チョッキの軽量化、薄厚化が可能となり、着用の不快感を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明ではそれぞれの速度での性能の優劣を判定する方法として以下の方法を用いた。
また、積層体としての防弾性能はMIL-STD-662Eに従って実施した試験で得られるV50値で比較した。V50値は試料を貫通する確率が50%である速度を示す数値である。その算出方法は、試料に10発以上の弾丸を発射し、非貫通であった弾丸の速度を速いほうからn点、貫通した弾丸の速度を遅い方からn点採り、それらの値を平均する。
【0008】
[織物A]
東洋紡績株式会社製高強度ポリエチレン繊維「ダイニーマ(登録商標)SK71」繊度440dtex、引っ張り強度38cN/dtexを用い、実質的に撚りを加えず、密度30本/25mm(たてよことも)、目付105g/m2の平織物を作成した。
【0009】
[織物B]
東洋紡績株式会社製高強度ポリエチレン繊維「ダイニーマ(登録商標)SK71」繊度440dtex、引っ張り強度38cN/dtexを用い、実質的に撚りを加えず、密度40本/25mm(たてよことも)、目付143g/m2の平織物を作成した。
【0010】
[織物C]
東洋紡績株式会社製高強度ポリエチレン繊維「ダイニーマ(登録商標)SK71」繊度440dtex、引っ張り強度38cN/dtexを用い、80回/1mの撚りを加え、密度45本/25mm(たてよことも)、目付165g/m2の平織物を作成した。
【0011】
[織物D]
東洋紡績株式会社製高強度ポリエチレン繊維「ダイニーマ(登録商標)SK60」繊度440dtex、引っ張り強度28cN/dtexを用い、80回/1mの撚りを加え、密度45本/25mm(たてよことも)、目付166g/m2の平織物を作成した。
【0012】
[織物E]
東洋紡績株式会社製ポリベンズビスオキサゾール繊維「ザイロン(登録商標)AS」繊度555dtex、引っ張り強度37cN/dtexを用い、実質的に撚りを加えず、密度30本/25mm(たてよことも)、目付133g/m2の平織物を作成した。
【0013】
[織物F]
東洋紡績株式会社製ポリベンズビスオキサゾール繊維「ザイロン(登録商標)AS」繊度555dtex、引っ張り強度37cN/dtexを用い、実質的に撚りを加えず、密度40本/25mm(たてよことも)、目付185g/m2の平織物を作成した。
【0014】
[織物G]
市販のHEXCEL株式会社製アラミド織布、密度27本/25mm(たてよことも)、目付207g/m2の平織物を用いた。用いられている繊維の繊度は1110dtex、強度は21cN/dtexであった

【0015】
[織物H]
市販のHEXCEL株式会社製アラミド織布、密度17本/25mm(たてよことも)、目付475g/m2の平織物を用いた。用いられている繊維の繊度は3330dtex、強度は20cN/dtexであった

各織物の仕様を表1に示す。
【表1】

【0016】
[織物積層体A]
織物Aを300mm×300mmに切断し、19枚重ね合わせ、四隅をミシンで鉤形に縫製し、目付2.0kg/m2の織物積層体を作成した。
【0017】
[織物積層体B]
織物Bを300mm×300mmに切断し、19枚重ね合わせ、四隅をミシンで鉤形に縫製し、目付2.0kg/m2の織物積層体を作成した。
【0018】
[織物積層体C]
織物Cを300mm×300mmに切断し、12枚重ね合わせ、四隅をミシンで鉤形に縫製し、目付2.0kg/m2の織物積層体を作成した。
【0019】
[織物積層体D]
織物Dを300mm×300mmに切断し、15枚重ね合わせ、四隅をミシンで鉤形に縫製し、目付2.0kg/m2の織物積層体を作成した。
【0020】
[織物積層体E]
織物Eを300mm×300mmに切断し、12枚重ね合わせ、四隅をミシンで鉤形に縫製し、目付2.0kg/m2の織物積層体を作成した。
【0021】
[織物積層体F]
織物Fを300mm×300mmに切断し、11枚重ね合わせ、四隅をミシンで鉤形に縫製し、目付2.0kg/m2の織物積層体を作成した。
【0022】
[織物積層体G]
織物Gを300mm×300mmに切断し、10枚重ね合わせ、四隅をミシンで鉤形に縫製し、目付2.1kg/m2の織物積層体を作成した。
【0023】
[織物積層体H]
織物Hを300mm×300mmに切断し、5枚重ね合わせ、四隅をミシンで鉤形に縫製し、目付2.4kg/m2の織物積層体を作成した。
【0024】
[織物積層体I]
織物Aを300mm×300mmに切断し、13枚重ね合わせ、四隅をミシンで鉤形に縫製し、目付1.4kg/m2の織物積層体を作成した。
【0025】
[織物積層体J]
織物Bを300mm×300mmに切断し、9枚重ね合わせ、四隅をミシンで鉤形に縫製し、目付1.3kg/m2の織物積層体を作成した。
【0026】
[織物積層体K]
織物Cを300mm×300mmに切断し、8枚重ね合わせ、四隅をミシンで鉤形に縫製し、目付1.3kg/m2の織物積層体を作成した。
【0027】
[実施例および比較例]
それぞれの織物を以下のように組合せて模擬破片弾(MIL-P-46593Aに記載のCalober.22 Type 1a)を用いてMIL-STD662Eに従って、V50の計測を実施した。
結果を表2に示す。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、織物積層体を弾の速度変化に適した配置にすることで、可成性で期待されるよりも高い耐弾性能を得ることが出来、防弾チョッキの高性能化、軽量化が達成できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強度が30cN/dtex以上の高強度有機繊維からなる織物を積層した織物積層体を少なくとも2種類組合せて構成した対破片用防弾チョッキにおいて、弾丸が衝突する側から身体側にむかって、それぞれの織物積層体を構成する織物の[数1]で算出されるカバーファクター(Cc)が順次大きくなっていることを特徴とする対破片用防弾チョッキ。
【数1】

布帛のカバーファクター:Cc
たて方向のカバーファクター:Wc
よこ方向のカバーファクター:Fc
たて糸繊度:Ldw(dtex)
よこ糸繊度:Ldf(dtex)
たて糸比重:Sgw
よこ糸比重:Sgf
織り密度たて:Dw(本/25mm)
織り密度よこ:Df(本/25mm)
【請求項2】
弾丸が衝突する側に配する織物積層体の[数1]で算出されるカバーファクターが0.6以下でかつ、身体側に配置する織物積層体のカバーファクターが0.6以上であることを特徴とする特許請求項1に記載の対破片用防弾チョッキ。
【請求項3】
身体側に配する織物積層体を構成する織物が平織物であることを特徴とする特許請求項1に記載の対破片用防弾チョッキ。
【請求項4】
高強度有機繊維がポリエチレン繊維またはポリベンズビスオキサゾール繊維であることを特徴とする請求項1に記載の対破片用防弾チョッキ。

【公開番号】特開2007−298220(P2007−298220A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125719(P2006−125719)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】