説明

防振制御装置、光学機器、撮像装置、及び防振制御方法

【課題】オートフォーカス動作中に生じる像倍率の急激な変化に伴う防振制御性能の低下を軽減しつつ、平行振れに対して高精度な像ブレ補正を行うこと。
【解決手段】撮像装置は角速度計108pと加速度計109pにより、装置に生じる角度振れと平行振れを検出する。角度振れ補正係数算出部313は角度振れに対する補正係数を算出し、平行振れ補正係数算出部314は平行振れに対する補正係数を算出する。カメラCPU106は、各補正係数を用いて角度振れ及び平行振れに対する補正量を演算する際、撮像光学系の合焦度を示す情報を取得し、合焦度が高い場合の補正係数に比べて、合焦度が低い場合の補正係数を小さくすることで補正量の変化を抑制する。角度振れ及び平行振れに対する補正量に従って駆動部112は振れ補正部110を駆動し、撮像光学系の像面に生じる像ブレを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手振れ等の振動による像ブレを補正して画像劣化を防止する防振制御技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在のカメラは露出決定やピント合わせといった、撮影上の重要な作業が全自動化され、また手振れ等による像ブレを防ぐ防振制御装置を搭載したカメラでは、撮影者の撮影ミスを誘発する要因は殆どなくなっている。
ここで、防振制御装置について簡単に説明する。カメラの手振れは通常、周波数1から10Hz程度の振動である。シャッタのレリーズ時点で手振れが起きても像ブレの無い撮影を可能にするには、手振れによるカメラの振れ(角度振れ)を検出し、検出値に応じて像ブレ補正用レンズ(以下、補正レンズという)を動かす必要がある。その際、カメラ振動を正確に検出して振れによる光軸変化を補正することが要件となる。原理的には振れの角速度等の検出結果を得る振動検出部と、その演算処理結果に基づいて補正レンズを変位させる駆動制御部が搭載されることで、画像ブレが抑制される。
【0003】
角速度計で角度振れを検出し、撮影レンズの一部や撮像素子を動かして像ブレを低減させる防振制御装置が様々な光学機器に搭載されている。しかし、至近距離での撮影(撮影倍率の高い撮影条件)では、角速度計のみでは検出できない振動、つまりカメラの光軸に対して直交する面内での水平方向または垂直方向に加わる、いわゆる平行振れによる画像劣化も無視できない。例えば、被写体に20cm程度まで接近したマクロ撮影の場合、平行振れを積極的に検出して補正を行う必要がある。また、被写体がカメラから1m程度の距離に位置していても、撮像光学系の焦点距離が非常に大きい(例えば400mm)条件下での撮影において、平行振れを検出して補正を行う必要がある。
特許文献1には、加速度計で検出した加速度の2階積分により平行振れを求め、別に設けた角速度計の出力と共に用いて振れ補正部を駆動する技術が開示されている。
【0004】
ところで、平行振れの検出に用いる加速度計の出力は外乱ノイズや温度変化などの環境変化の影響を受け易い。検出した加速度の2階積分によってそれらの不安定要因はさらに拡大されるため、平行振れの高精度な補正が難しくなる。特許文献2には平行振れを、カメラから離れた場所に回転中心がある時の角度振れとみなして求めることが開示されている。この方法では角速度計と加速度計を設け、それらの出力から角度振れの回転半径を用いた補正値と角度を求めて振れ補正を行う。外乱の影響を受け難い周波数帯域に限定して回転中心を求めることで上記した加速度計の不安定要因を軽減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−225405号公報
【特許文献2】特開2010−25962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、防振制御における平行振れの補正では、被写体が至近距離での撮影であるか遠距離での撮影であるかの違い(即ち撮影倍率の違い)により、撮像面上の補正すべきブレ量が大きく異なるため、以下の問題がある。
撮像装置に付設の表示装置を電子ビューファインダ(EVF)として機能させるために連続的に撮像されるEVF画像において、画像処理技術によりオートフォーカス(AF)処理で連続的なピント合わせを行う機能がある。これは、いわゆるコンティニュアス(Continuous)AF機能として知られている。この場合、撮影レンズの撮影倍率から像ブレを補正するための平行振れ補正量が算出される。カメラの平行振れ量が同じ場合でも、AF動作中は撮影倍率が時々刻々と変化するため、撮像面上にて補正すべき平行振れの補正量も撮影倍率に応じて変化することになる。ズームやフォーカスの状態から得られる撮影倍率の情報に従ってそのままに防振制御を行ったのでは、平行振れの補正量が過大となった場合、振れ補正の防振効果に影響を及ぼす虞がある。また、過剰な制御が原因で補正レンズが直ぐに制御端(可動範囲の端位置)に到達した場合、防振制御性能を低下させる虞がある。
本発明の目的は、AF動作中に生じる像倍率の急激な変化に伴う防振制御性能の低下を軽減しつつ、平行振れに対して高精度な像ブレ補正を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明に係る装置は、振れ補正手段と、撮像光学系の光軸に対して直交する方向に沿う装置の並進に伴って生じる平行振れを含む装置の振れ量を検出する検出手段と、前記検出手段による検出信号、前記撮像光学系のズームレンズ位置及びフォーカスレンズ位置の情報、並びに前記撮像光学系の合焦度を示す情報を取得して補正係数を算出し、前記振れ補正手段の補正量を算出する補正量算出手段と、前記補正量に従って前記振れ補正手段を駆動する駆動手段を備える。前記補正量算出手段は、前記合焦度が高い場合の前記補正係数に比べて、前記合焦度が低い場合の前記補正係数を小さくする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、AF動作中に生じる像倍率の急激な変化に伴う防振制御性能の低下を軽減しつつ、平行振れに対して高精度な像ブレ補正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図2から9と併せて本発明の第1実施形態を説明するために、防振システムを搭載したカメラを上面から見た模式図である。
【図2】図1のカメラを側面から見た模式図である。
【図3】防振制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図4】角度振れの回転中心と回転半径の説明図である。
【図5】図3の比較部308の構成例を示すブロック図である。
【図6】図7とともに振れ補正制御を説明するフローチャートであり、処理の前半部を示す。
【図7】図6に続く処理の後半部を示すフローチャートである。
【図8】防振制御用撮影倍率の算出処理を説明するブロック図(A)、及び、AF評価値とゲインの関係を例示する図(B)である。
【図9】AF評価値、レンズ位置、撮影倍率の時間的変化を例示する図である。
【図10】図11とともに本発明の第2実施形態を説明するために、防振制御用撮影倍率の算出処理を説明するブロック図(A)、及び、AF評価値とゲインの関係を例示する図(B)である。
【図11】ズームポジションが固定されている場合の、カメラから被写体までの被写体距離と撮影倍率の関係を示す図である。
【図12】本発明の第3実施形態を説明するために、防振制御用撮影倍率の算出処理を説明するブロック図である。
【図13】本発明の第3実施形態を説明するために、角速度、角速度絶対値、揺れ状態量、AF信頼性情報の時間的変化を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態を添付図面に従って説明する。本発明に係る防振制御装置は、デジタル一眼レフカメラやデジタルコンパクトカメラに限らず、デジタルビデオカメラや、監視カメラ、Webカメラ、携帯電話などの各種の撮像装置や光学機器に搭載できる。
【0011】
[第1実施形態]
図1及び図2は第1実施形態に係る防振制御装置を具備した光学装置としてカメラの構成例を示す。図1はカメラを平面からみた模式図、図2はカメラを側面からみた模式図である。図中に1点鎖線で示す軸は、カメラ101の撮像光学系の光軸102を表している。このカメラに搭載される防振システムでは、光軸102に対して矢印103p、103yで示す振れ(以下、角度振れという)、及び矢印104p、104yで示す振れ(以下、平行振れという)に対して像ブレ補正が行われる。つまり、角度振れは撮像光学系の光軸に対して直交する軸を中心とする装置の回転に伴って生じる振れであり、また平行振れは撮像光学系の光軸に対して直交する方向に沿う装置の並進に伴って生じる振れである。なお、符番の添え字pはピッチ方向を示し、yはヨー方向を示す。ピッチ方向とヨー方向は互いに直交し、また両方向とも光軸102の方向に対して直交しているものとする。
カメラ101の本体にはレリーズボタン105が設けられ、該ボタンの操作によるスイッチの開閉信号がカメラCPU(中央演算処理装置)106に送られる。本例ではレリーズボタン105の半押し状態でオン状態となる第1スイッチ(以下、SW1と記す)と、レリーズボタン105の全押し状態でオン状態となる第2スイッチ(以下、SW2と記す)をもつ2段式スイッチが設けられている。カメラCPU106はカメラ動作を制御し、像ブレ補正の制御を担当する。撮像素子107は、撮像光学系のレンズを通して得た被写体の光像を電気信号に変換して不図示の信号処理部に出力する。
【0012】
カメラ振動を検出する振れ検出手段は、角速度検出手段と加速度検出手段で構成される。
角速度計108p、108yは、矢印108pa、108yaで示す角度振れを各々検出する角速度検出手段である。また加速度計109p、109yは、矢印109pa、109yaで示す平行振れを各々検出する加速度検出手段である。角速度計108p、108y、及び加速度計109p、109yの各検出信号は、カメラCPU106に入力される。
振れ補正部110は、補正レンズ111を光軸102と直交する方向、具体的には図1の矢印110yに示す方向及び図2の矢印110pの方向に駆動し、角度振れと平行振れの両方を加味した振れ補正を行う。駆動部112は、カメラCPU106からの制御指令に従って振れ補正部110を制御し、これにより振れ補正動作が行われる。なお本実施形態では、カメラCPU106が算出した補正量に基づいて補正レンズ111を光軸に垂直な面内で移動させる、いわゆる光学防振の構成を採用している。補正量に基づく補正方法については光学防振に限らず、他の形態でも構わない。例えば、撮像素子107を光軸に垂直な面内で移動させることで防振を行う方法や、撮像素子107が出力する各撮影フレームの画像の切り出し位置を変更することで振れの影響を軽減させる電子防振を用いる方法がある。また、それらを適宜に組み合わせた補正方法を用いてもよい。
【0013】
図3は、本実施形態に係る防振制御装置の構成例を示すブロック図である。図3では、カメラの鉛直方向に生じる振れ(ピッチ方向:図2の矢印103p、104pの方向)についての構成のみを示している。しかし、同様の構成はカメラの水平方向に生じる振れ(ヨー方向:図1の矢印103y、104yの方向)に対しても設けられている。これらは基本的には同じ構成であるので、以下ではピッチ方向についての構成のみを図示して説明する。なお、図3にはカメラCPU106が行う処理を機能ブロックとして示すが、不図示のメモリに記憶したプログラムをカメラCPU106が解釈して実行することで各処理が行われる。
図3を用いて角度振れの補正について説明する。角度振れは第1の検出手段によって検出されてカメラCPU106の制御下で振れ補正が行われる。
角速度計108pによる角速度信号は、カメラCPU106のHPF積分フィルタ301に入力される。HPF積分フィルタ301にて、HPF(高域通過フィルタ)でDC(直流)成分をカットされた信号は積分されて、角度信号に変換される。手振れの周波数帯域はほぼ1から10Hzであり、HPF積分フィルタ301のHPFは手振れの周波数帯域から十分離れた周波数成分(例えば0.1Hz以下)を遮断する1次HPF特性を有する。
HPF積分フィルタ301の出力は敏感度調整部303に入力される。その際、敏感度調整部303には、角度振れ補正係数算出部(第1の補正係数算出部)313からの情報も入力される。角度振れ補正係数算出部313は、ズーム及びフォーカス情報302を取得する。該情報は撮像光学系の駆動部に設けた検出手段により得られるレンズ位置情報であり、該情報により求まる焦点距離や撮影倍率に基づいて第1の補正係数(以下、角度振れ補正係数という)が算出されて敏感度調整部303に出力される。なお、角度振れ補正係数の算出方法については後で詳述する。角度振れ補正係数算出部313の出力が敏感度調整部303に入力されると、該調整部はHPF積分フィルタ301の出力を増幅して角度振れ補正の目標値とする。これによりレンズのフォーカスやズームなどの光学情報の変化による振れ補正部110の振れ補正ストロークに対し、カメラ像面での振れ補正敏感度の変化が補正される。敏感度調整部303で求めた角度振れの補正目標値は、加算器312に送られる。加算器312の出力は像ブレ補正量として駆動部112に送られ、振れ補正部110が駆動される。これにより画像ブレ補正が行われる。
【0014】
次に、平行振れ補正について説明する。撮像光学系の光軸と直交する平面内にて水平方向又は垂直方向に装置に生じる平行振れは第2の検出手段によって検出されてカメラCPU106の制御下で振れ補正が行われる。
角速度計108pの出力はHPF積分フィルタ309に入力され、HPF積分フィルタ309にて、HPFでDC成分がカットされた後、積分されて角度信号に変換される。HPF積分フィルタ309の出力は利得調整部310に入力される。この利得調整部310とHPF積分フィルタ309により、平行振れ補正を行うべき周波数帯域におけるゲイン及び位相特性を調整している。利得調整部310の出力は後述する出力補正部311により補正されて平行振れの補正目標値となり、加算器312に送られて前述した角度振れの補正目標値に加算される。平行振れの補正量と角度振れの補正量の加算結果が像ブレ補正量となる。
また、上記処理と並行して、角速度計108pの出力はHPF位相調整部304に入力され、HPF位相調整部304にて角速度計108pの出力に重畳するDC成分がカットされると共にその信号の位相調整が行われる。ここでのカットオフ周波数は、後述するHPF積分フィルタ305のHPFのカットオフ周波数と合わせており、周波数特性が一致するように調整してある。HPF位相調整部304の出力は、角速度計BPF(帯域通過フィルタ)部306に送られて、所定帯域の周波数成分が抽出される。
【0015】
加速度計109pの出力はHPF積分フィルタ305に入力され、HPF積分フィルタ305にてHPFでDC成分がカットされた後、積分されて速度信号に変換される。この時のHPFのカットオフ周波数は上述したように、HPF位相調整部304のHPFの周波数特性と合わせて設定してある。HPF積分フィルタ305の出力は加速度計BPF部307に送られて、所定帯域の周波数成分が抽出される。
角速度計BPF部306及び加速度計BPF部307の各出力は、比較部308に入力される。比較部308は、利得調整部310の出力を補正する補正量(補正係数)を算出して、出力補正部311に出力する。なお、比較部308における補正量の算出方法については後述する。
出力補正部311には平行振れ補正係数算出部(第2の補正係数算出部)314の出力も入力される。ズーム及びフォーカス情報302とAF評価値315の情報は平行振れ補正係数算出部314に入力される。AF評価値315は被写体に対する撮像光学系の合焦度を示す情報である。本例では、撮像素子による撮像信号から高周波数成分を抽出することで得られるコントラストの度合いを示す情報が使用され、不図示のAF信号処理部から角度振れ補正係数算出部313及び平行振れ補正係数算出部314に出力される。平行振れ補正係数算出部314は、これらの情報により求まる撮影倍率に基づいて平行振れ補正係数を算出して出力する。平行振れ補正係数算出部314の出力は出力補正部311に入力され、求められた平行振れ補正係数に基づいて利得調整部310の出力が補正されて、平行振れ補正目標値が得られる。加算器312は平行振れ補正目標値を前述した角度振れ補正目標値に加算して駆動部112に出力する。駆動部112は振れ補正部110を駆動し、角度振れと平行振れによる画像ブレを補正する。
【0016】
次に、比較部308から出力される補正量、角度振れ補正係数算出部313、平行振れ補正係数算出部314から出力される補正係数に基づく像ブレ補正量の算出方法について説明する。
図4はカメラ101の角度振れ103pと平行振れ104pを示した図である。撮影レンズ内、つまり撮像光学系の主点位置における平行振れ104pの大きさをYと記し、角度振れ103pの大きさ、つまり角変位をθと記す。そして、角度振れの回転中心401pを定めた場合の回転半径402pの長さをLと記すと、これは回転中心401pから加速度計109pまでの距離に相当する。また、角速度をω、速度をV、加速度をA、角加速度をωaと記す。このとき、以下の関係式が成り立つ。
【数1】

ここで、(1)式中のYは、加速度計109pの出力を2階積分した変位で求まり、θは角速度計108pの出力を1階積分した角度で求まるので、Yをθで割れば回転半径の長さLが求まる。また(2)式中のVは、加速度計109pの出力を1階積分した速度で求まり、ωは角速度計108pの出力から求まるので、Vをωで割れば回転半径の長さLが求まる。(3)式中のAは加速度計109pの出力から求まり、ωaは角速度計108pの出力を1階微分することで求まるので、Aをωaで割れば回転半径の長さLが求まる。いずれの方法でもL値を求めることができる。
【0017】
撮像光学系の主点位置における平行振れYと、撮像光学系の振れ角度θ及び焦点距離f、撮影倍率βより撮像面に生ずるブレ量δは、下式(4)で求められる。
【数2】

上式(4)の右辺第1項のf及びβの値は、撮像光学系のズームレンズ及びフォーカスレンズの位置情報とそれらにより得られる撮影倍率や焦点距離より求まり、振れ角度θは角速度計108pの出力の1階積分より求まる。よって、これらの情報に応じて、図3を用いて説明したように角度振れ補正を行うことができる。
また、上式(4)の右辺第2項に関しては、ズームレンズ及びフォーカスレンズの位置情報とそれらにより得られる撮影倍率によりβ値が求まり、加速度計109pの出力の2階積分によってY値が求まる。これらの情報に応じて、図3を用いて説明したように平行振れ補正を行うことができる。
【0018】
しかし、本実施形態では式(4)を、下式(5)の様に書き直したブレ量δに対して像ブレ補正を行う。
【数3】

即ち、平行振れYに関しては、加速度計109pの出力から積分して求まる平行振れの変位を用いてはいない。式(1)又は式(2)又は式(3)から回転半径の長さLを求め、このL値と角速度計108pの出力の積分結果(θ)と、撮影倍率βからブレ量δを算出している。角度振れ補正係数算出部313は、式(5)の右辺第1項の補正係数「(1+β)×f」を算出し、平行振れ補正係数算出部314は、式(5)の右辺第2項の補正係数「β」を算出する。
【0019】
図5は、図3の比較部308における補正量算出処理について内部構成例を示したブロック図である。
角速度計BPF部306及び加速度計BPF部307の各出力は回転半径算出部501に送られ、下式(6)を用いて回転半径算出部501は回転半径の長さLを算出する。
【数4】

本例では、式(2)を用いてL値が算出される。
回転半径Lについては、(例えば、角速度計BPF部306及び加速度計BPF部307のカットオフ周波数が5Hzの場合、200ms程度に設定された)所定時間内の速度Vと角速度ωそれぞれの最大振幅のピーク値の比より算出してもよい。更に回転半径Lの更新は速度Vと角速度ωがそれぞれ算出された瞬間毎に行ってもよい。このとき、速度Vと角速度ωをそれぞれ時系列的に平均化したり、ローパスフィルタ(LPF)で高周波成分をカットすることで、回転半径を算出する際の高周波ノイズ成分を除去した回転半径が算出できる。
回転半径算出部501は、算出したL値を、静止画リミット処理部502と動画リミット処理部504に送る。静止画リミット処理部502は、静止画撮影用に設定されている上限値を用いて演算処理を行う。回転半径算出部501の出力するL値が静止画撮影用の上限値以上であれば、L値が当該上限値に固定され、また回転半径算出部501の出力するL値が静止画撮影用の上限値未満であれば、回転半径算出部501の出力するL値がそのまま出力される。
【0020】
動画リミット処理部504は、動画撮影用に設定されている上限値を用いて演算処理を行う。回転半径算出部501の出力するL値が動画撮影用の上限値以上であれば、L値が当該上限値に固定され、回転半径算出部501の出力するL値が動画撮影用の上限値未満であれば、回転半径算出部501の出力するL値がそのまま出力される。静止画リミット処理部502や動画リミット処理部504の出力値は補正信号整流部503、補正信号整流部505にそれぞれ送られる。補正信号整流部503、補正信号整流部505は、静止画リミット処理部502、動画リミット処理部504の出力値に対してそれぞれ整流処理を施し、補正信号にステップ的な変化が起こらないように処理する。ここでは、LPF(低域通過フィルタ)により高周波成分をカットすることで信号の整流が行われる。LPFのカットオフ周波数は、例えば0.5Hz以下の周波数に設定される。この他、所定期間に亘る移動平均演算によって信号整流を行う手段等を講じてもよい。
補正信号整流部503、補正信号整流部505の各出力は補正信号選択部507に送られる。補正信号選択部507には撮影モード506の情報が入力され、後述する図6及び7のフローチャートに従った補正信号の選択が行われて出力補正部311へ出力される。撮影モード506の情報とは、静止画撮影モードであるか、または動画撮影モードであるかを示す情報である。
【0021】
次に、図6及び7のフローチャートを参照して、本実施形態における防振制御の全体的な動作について説明する。本処理は装置の主電源投入により開始し、所定のサンプリング周期(インターバル)で実行される。
まず、図6のS601でカメラCPU106は防振スイッチ(防振SWと記す)の状態を検出する。防振SWは不図示の操作部に設けられ、振れ補正を行う(防振SWがオン状態)か行わない(防振SWがオフ状態)かを、撮影者がカメラに指示する際に用いる操作指示手段である。防振SWがオン状態であればS602へ進み、オフ状態であれば図7のS621へ処理を進める。
S602では加速度計109pの出力及び角速度計108pの出力の取り込みが行われる。次のS603でカメラCPU106は、振れ補正が可能な状態であるか否かを判定する。例えば、電源投入時点から加速度計109pや角速度計108pの各出力が安定するまでの状態は、振れ補正が可能な状態でないと判定される。また、加速度計109pや角速度計108pの各出力が安定した後では、振れ補正が可能な状態と判定される。電源供給直後の検出値が不安定な状態では、防振性能が充分でなく、この状態で振れ補正が行われないようにするために、S603の判定処理が設けられている。なお、加速度検出信号や角速度検出信号が安定した否かについては、電源投入時点からの経過時間及び検出信号の変動量等から判断できる。判定の結果、振れ補正が可能であれば、S604に処理を進め、振れ補正が可能な状態でない場合には図7のS621へ処理を進める。
【0022】
S604でカメラCPU106は、図3を用いて説明した方法で角度振れ量を算出し、次のS605で平行振れ量を算出する。S606でズーム及びフォーカス情報302が取得された後、S607では、振れ補正係数算出のためのAF評価値315が取得される。そしてS608に進む。
S608は動画撮影状態であるか否かの判定処理であり、動画撮影状態であれば図7のS609へ進み、そうでない場合、S610に進む。S609では動画撮影用の角度振れ補正係数と平行振れ補正係数がそれぞれ演算されて、S617に進む。各補正係数は、AF評価値315とズーム及びフォーカス情報302より演算されるが、その詳細は後述する。図6のS610ではSW2がオン状態であるか否か、即ち静止画露光を開始させる操作が行われたか否かについて判定される。SW2がオン状態であれば、図7のS611に処理を進め、SW2がオフ状態の場合、図7のS612に処理を進める。S611では、静止画撮影用の角度振れ補正係数と平行振れ補正係数がそれぞれ演算され、S617に進む。各補正係数は、SW2がオン状態となった後でAF動作が完了した後のズーム及びフォーカス情報302より演算される。
【0023】
S612はSW1がオン状態であるか否かの判定処理であり、SW1がオン状態であると判定されると、S613に進み、SW1がオフ状態の場合にはS616に処理を進める。S613では、現在のAFモードがコンティニュアスAFモードであるか否かについて判定され、当該モードであれば、S614に進む。それ以外のモード、例えば、手動でピント調整を行うマニュアルフォーカスモードなどの場合、S615に進む。S614では動画撮影用の角度振れ補正係数と平行振れ補正係数がそれぞれ演算される。各補正係数の演算は、AF評価値315とズーム及びフォーカス情報302より演算されるが、演算方法はS609の場合と同様であり、その詳細は後述する。また、S615では、ズーム及びフォーカス情報302に基づいて静止画撮影用の角度振れ補正係数と平行振れ補正係数がそれぞれ演算される。なお、AFモードがコンティニュアスAFモードでない場合には、SW1がオン状態になった後でAF動作が完了した後のズーム及びフォーカス情報302を用いて、角度振れ補正係数と平行振れ補正係数の演算が行われる。S616では、ズーム及びフォーカス情報302より角度振れ補正係数が演算され、平行振れ補正係数はゼロに設定される。
【0024】
S609、S611、S614、S615、S616の各ステップの処理後、S617に進み、これまでに求めた角度振れ補正係数から、カメラCPU106は式(5)の右辺第1項の計算式により角度振れ補正量を演算する。撮影倍率βが動画撮影用の撮影倍率βc1に設定された場合の角度振れ補正量を「角度振れ補正量1」とし、撮影倍率βが静止画撮影用の撮影倍率β2に設定された場合の角度振れ補正量を「角度振れ補正量2」とする。この場合、各補正量は下式から算出される。
【数5】

なお、防振制御に用いる撮影倍率βc1の算出方法については後述する。
次のS618では、これまでに求めた平行振れ補正係数から式(5)の右辺第2項の計算式により平行振れ補正量が演算される。撮影倍率βが動画撮影用の撮影倍率βc1に設定された場合の平行振れ補正量を「平行振れ補正量1」とし、撮影倍率βが静止画撮影用の撮影倍率β2に設定された場合の平行振れ補正量を「平行振れ補正量2」とする。この場合、各補正量は下式から算出される。
【数6】

なお、L1、L2は各撮影条件での回転半径をそれぞれ示す。
S619で振れ補正量の合成が行われ、角度振れ補正量と平行振れ補正量が加算される。S620では振れ補正量に基づいて振れ補正部110が駆動される。一方、図6のS601やS603から図7のS621に進んだ場合、振れ補正部110の駆動を停止させる制御が行われる。S620、S621の処理が終わると、振れ補正のサブルーチンが終了し、次回のサンプリング時点まで待機した後、再び処理が開始する。
【0025】
次に角度振れ補正係数と平行振れ補正係数の演算方法について説明する。
角度振れ補正係数算出部313は式(5)の右辺第1項のとおり、焦点距離fと撮影倍率βより、角度振れの補正係数「(1+β)×f」を算出する。また、平行振れ補正係数算出部314は式(5)の右辺第2項のとおり、撮影倍率βと回転半径Lより、補正係数「β×L」を算出する。これらの補正係数と角度振れ量から角度振れ補正量と平行振れ補正量が算出される。図6のS611及び615にて、静止画撮影用の角度振れ補正係数と平行振れ補正係数は、SW2がオン状態となった後でAF動作が完了後のズーム及びフォーカス情報302を用いてそれぞれ演算される。また、S616にて角度振れ補正係数はズーム及びフォーカス情報302を用いて演算され、平行振れ補正係数は0に設定される。これに対して、S609やS614では、動画撮影用の角度振れ補正係数と平行振れ補正係数が、以下のように演算される。
平行振れ補正係数算出部314は防振制御用撮影倍率βcを出力する。また角度振れ補正係数算出部313は、防振制御用撮影倍率βcに1を加算した後に、ズーム及びフォーカス情報302より求められる焦点距離fを乗算した値((1+βc)×f)を出力する。ズーム及びフォーカス情報302から求まる撮影倍率βをもとに防振制御用撮影倍率βcを算出する理由は以下の通りである。
【0026】
動画撮影では、撮影者が所望の被写体を追ってフレーミングしながら撮影することや、被写体が動くことで被写体の距離が変化してしまうことがあり、また、撮影中に被写体を変更しながら撮影することもある。このため、撮影倍率は刻々と変化し続けることになる。このときコントラストAF動作でカメラがAF評価値のピーク値を探している段階で、ズームやフォーカスの状態から得られる撮影倍率の情報に従ってそのままに防振制御を行った場合には問題が生じ得る。特に、ローコントラストの被写体の撮影や暗い場所での撮影では、AF動作が遅くなる虞があり、またAF精度の信頼性が低くなる虞がある。このとき、撮影倍率が大きくなる方向にフォーカスレンズを駆動させている場合(至近側への移動)に平行振れ補正量が過大になると、振れ補正の防振効果に影響を及ぼす虞がある。また、過剰な制御が原因で補正レンズが直ぐに制御端に到達し、防振制御性能を低下させてしまう可能性がある。そこで、本実施形態では、撮影倍率βに以下の処理を施して防振制御用撮影倍率βcを算出する。
【0027】
図8(A)は防振制御用撮影倍率βcを算出する演算部の構成例を示すブロック図である。
ズーム及びフォーカス情報302はズームレンズ位置とフォーカスレンズ位置の情報を含み、撮影倍率算出部701に入力される。撮影倍率算出部701は撮影倍率βを算出し、制御用撮影倍率演算部702に送り、該演算部は防振制御に使用する撮影倍率βcを算出する。
撮影倍率算出部701の出力値は可変ゲイン部710に出力され、可変ゲイン(以下、ゲイン係数をK1と記す)が乗算される。可変ゲイン部710にて使用するゲインテーブルをグラフ化した図が図8(B)である。
図8(B)は横軸にAF評価値をとり、縦軸にゲイン係数K1をとって両者の関係を例示したグラフである。AF評価値が小さく、AFの信頼性が低い点PではK1値が1未満であり、AF評価値が大きく、AFの信頼性が高い点QではK1値が1である。線分PQは正勾配で右上がりとされる。つまり、AF評価値315に応じてK1値が設定され、AF評価値が小さく、AFの信頼性が低くなるにつれてK1値が小さくなる。K1値は点Pで最小値を示し、AF評価値がそれ以上小さくなっても一定値を示す。また、AF評価値が大きく、AFの信頼性が高くなるにつれてK1値が大きくなり、1に近づいていく。K1値は点Qで1になり、AF評価値がそれ以上大きくなっても1のままである。なお、本例では線分PQで示す特性を例示するが、これに限らず曲線または折れ線などで示す特性による設定も可能である。
可変ゲイン部710の出力値はX1として条件比較器704に送られるとともに、減算器703に正入力として送られる。減算器703の負入力には、条件比較器704の出力値が遅延器707を介して供給される。遅延器707の出力は、条件比較器704の出力に対して1周期前のサンプリングデータであり、減算器703は可変ゲイン部710の出力値から、1周期前のサンプリングデータを減算する。減算器703の出力を「diff」と記すと、これは条件比較器704に入力される。条件比較器704はdiffが予め設定されている所定値(Xと記す)よりも小さいか否かを判定する。条件比較器704は、diffが所定値X未満の場合、可変ゲイン部710の出力値である撮影倍率X1を選択してLPF(低域通過フィルタ)708に出力する。
【0028】
減算器703の出力するdiffは乗算器705に送られ、予め設定されているゲイン係数(K2と記す)が乗算される。ここでK2の値は1未満の値(例えば0.1)に設定されており、diffが正符号であり、かつ、値が大きい場合、撮影倍率の急激な変化が起こらないように設定されている。加算器706は、乗算器705の出力と、遅延器707を経た1周期前のサンプリングデータを加算し、加算結果をX2として条件比較器704に送る。条件比較器704は、diffが所定値X以上である場合、X2を選択してLPF708に出力する。
判定基準となる所定値Xが正値に設定されているので、diffが負値であれば、条件比較器704にて撮影倍率算出部701の出力値であるX1が常に選択されることになる。よって、条件比較器704の出力値は、値が小さくなる方向へは遅れなく遷移していくが、diffが正値であって、増加方向の変化量が大きい場合には急激な変化が抑制されることになる。
LPF708は、条件比較器704の出力値を受けて高周波成分をカットし、防振制御用撮影倍率βcを敏感度調整部303や出力補正部311へ出力する。このLPF708も防振制御用撮影倍率の急激な変化を抑制する作用をもつ。
上記方法によれば、AF評価値に応じて撮影倍率に乗算するゲイン係数K1を変更することで、AFの信頼性が低いときは、防振制御用撮影倍率βcが実撮影倍率βよりも小さくなる。また、AFの信頼性が高いときは、防振制御用撮影倍率βcと実撮影倍率βとがほぼ同じになるように制御が行われる。これにより、AF動作によるフォーカス駆動中の防振制御において、被写体にピントが合っていない状態やAF確定前の動作中において、平行振れ補正の防振過補正を防止できる。したがって動画撮影中などのAF動作中も角度振れに加えて、平行振れの防振制御が実現できる。
【0029】
次に図9を用いて、本実施形態の効果について説明する。
図9(A)及び(B)は、AF動作時におけるフォーカスレンズの移動とAF評価値の変化との関係を例示する。図9(A)は、横軸に時間をとり、縦軸にAF評価値を示したグラフである。また、図9(B)は横軸に時間をとり、縦軸にフォーカスレンズの位置を示したグラフである。
図9(A)のグラフにおいて、Cに示す時点ではAF評価値がそのピーク値を超えた後、減少に転じるので、ピーク位置(合焦位置)の存在を確認することができる。図9(B)に示すように、レンズはAF評価値のピーク位置へと移動した後、山登り駆動動作を終了して微小駆動動作に移行する。一方、AF評価値のピークが無く、単調に減少している場合には、フォーカスレンズの駆動方向が合焦方向でないと判定できるので、レンズの駆動方向が反転されて山登り駆動動作が続行される。
図9(C)は防振制御用AF評価値の時間的変化を例示する。本例ではAF評価値に基づいてその信頼性が高いか低いかを複数の閾値と比較することで判定し、信頼性レベルを段階的に設定しているので、当該レベルの時間的変化は階段状となる。この信頼性レベルに応じて、図8を用いて説明したように可変ゲイン部710のK1値が変更される。図9(D)は撮影倍率の時間的変化を例示する。実線で示すグラフ線901は実撮影倍率β、つまり図8の撮影倍率算出部701の出力変化を示し、破線で示すグラフ線は防振制御用撮影倍率βc、つまり図8の制御用撮影倍率演算部702の出力変化を示す。図8で説明した方法で演算された防振制御用撮影倍率βcは、AFの信頼性が高い場合、撮影倍率βに近づくように変化し、AFの信頼性が低い場合には、撮影倍率βより小さくなるように変化する。
【0030】
なお、静止画撮影モードでユーザがレリーズボタン105を操作してSW2がオン状態になると静止画撮影用の防振が行われる。この場合、図6のS611及び615にて角度振れ補正量演算と平行振れ補正量演算に用いる撮影倍率には、静止画撮影直前の撮影倍率βが用いられる。これは、動画撮影用に演算された防振制御用撮影倍率βcには実際のレンズの撮影倍率に対して遅れが生じ、また過剰な制御を防ぐために撮影倍率が小さく設定されるためである。しかし、静止画撮影においては、AF動作の完了後に撮影が行われるため、撮影倍率にはズーム及びフォーカス情報302から得られる撮影倍率をそのまま用いた方がよい。すなわち、SW2がオン状態になった直後の撮影直前におけるAF動作完了後の撮影倍率βを角度振れ補正量及び平行振れ補正量の算出に用いることで、静止画撮影にとって最適な防振を行うことができる。
第1実施形態によれば、AF動作中に生じる像倍率の急激な変化に伴う防振制御性能の低下を軽減しつつ、動画撮影などでのAF動作中でも角度振れに加えて平行振れについての防振制御が可能となる。
【0031】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態を説明する。なお、以下では第1実施形態との相違点を説明し、第1実施形態の場合と同様の構成要素については既に使用した符号を用いることにより、それらの詳細な説明を省略する。なお、このような説明の省略の仕方は後述の第3実施形態でも同様とする。
図10(A)は第2実施形態に係る防振制御装置の角度振れ補正係数算出部313と平行振れ補正係数算出部314内における防振制御用撮影倍率の演算部を例示するブロック図である。
第2実施形態では、以下の点で第1実施形態と異なる。
まず、被写体距離算出部1001は、ズーム及びフォーカス情報302を取得して撮像装置から被写体までの距離(被写体距離)を算出する。後段の制御用被写体距離演算部1002は防振制御に使用する被写体距離(防振制御用被写体距離)を演算する。制御用被写体距離演算部1002の内部演算の構成は、図8に示す制御用撮影倍率演算部702とほぼ同様であるが、可変ゲイン部1003と減算器1004が異なる。
可変ゲイン部1003では、図8の可変ゲイン部710と異なり、図10(B)に例示するゲインテーブルに従い、AF評価値に応じてゲイン係数K1が設定される。
図10(B)は横軸にAF評価値をとり、縦軸にゲイン係数K1をとって両者の関係を例示したグラフである。AF評価値が小さく、AFの信頼性が低い点PではK1値が1より大きい。またAF評価値が大きく、AFの信頼性が高い点QではK1値が1である。線分PQは負勾配で右下がりとされる。つまり、AF評価値が小さく、AFの信頼性が低くなるにつれてK1値が大きくなり、逆にAF評価値が大きく、AFの信頼性が高くなるにつれてK1値が1に近づくように設定されている。
また減算器1004と図8の減算器703とで正負の入力が逆になっている。すなわち、可変ゲイン部1003の出力値が減算器1004の負入力とされ、遅延器707の出力値が減算器1004の正入力とされる。これは、被写体距離が小さくなる方向においては急激な変化を抑制し、被写体距離が大きくなる方向においては、変化を抑制しないように、防振制御用被写体距離を演算する必要があることによる。
【0032】
制御用被写体距離演算部1002で算出した防振制御用被写体距離は、撮影倍率算出部701に出力され、被写体距離とズーム位置情報に基づいて防振制御用撮影倍率βcが算出される。また、防振制御に用いる焦点距離情報も同様に演算され、防振制御用被写体距離とズーム位置情報により演算されることになる。
第2実施形態によれば、AF評価値に応じて被写体距離に乗算するゲイン係数K1が可変設定される。つまり、AFの信頼性が低いときには、防振制御用撮影倍率βcが実撮影倍率βよりも小さくなるように制御される。また、AFの信頼性が高いときには、防振制御用撮影倍率βcが実撮影倍率βに近づくように制御される。これにより、AF動作によるフォーカス駆動中の防振制御において、被写体にピントが合っていない状態や、AF確定前のAF動作中において、平行振れ補正の防振過補正を防止できる。したがって、動画撮影中などのAF動作中でも角度振れに加えて平行振れについての防振制御が可能となる。
図11は、ズームポジションが固定されている場合に、被写体距離に対する撮影倍率の変化を示す。横軸に被写体距離をとって、縦軸に撮影倍率を示しており、カメラから被写体までの距離が短くなるにつれて撮影倍率は急激に大きくなる。第2実施形態では被写体距離の急激な変化を抑制する制御が行われるので、第1実施形態で説明した防振制御用撮影倍率βcの演算に比べて、撮影倍率の急激な変化を抑制する効果が得られる。
【0033】
[第3実施形態]
次に本発明の第3実施形態を説明する。
図12は、第3実施形態に係る防振制御装置にて防振制御用撮影倍率の算出処理を説明するブロック図である。図13は、揺れ状態判定部1201により演算された揺れ状態量の時間的変化を例示する図である。
防振制御装置の振れ補正部110が振れ補正のために駆動できる範囲には制限がある。このため、振れ補正部110の可動範囲内で振れ補正制御を行えば、高い振れ補正効果が得られるが、可動範囲を超えてしまうと急激に振れ補正効果が低下してしまう。これは、振れ補正部110の制御端(可動範囲の端部)に達することで、これよりも外側へは駆動できなくなってしまうからである。特に歩行時の撮影においては、体の揺れによる振動が撮像装置に伝達するため、角度揺れの振幅が大きくなる。
加えて本発明における防振制御装置は、従来までの角度振れ補正に加えて平行振れ補正を行う。よって、平行振れ補正量が大きくなると、防振のためにより大きな可動範囲を必要とするので、可動範囲が不足してしまう。また、揺れが大きく、かつ、AF動作でAF評価値のピーク値を探す際、撮影倍率が大きくなる方向にフォーカスレンズを駆動させている場合(至近側への移動)に振れ補正量が過大となり、振れ補正の防振効果に好ましくない影響を及ぼす可能性がある。
【0034】
そこで、第3実施形態では、角速度計から演算される揺れ状態量と、AF信頼性の変化の頻度により求められるAF評価値の変化度合量とを用いて補正係数を算出し、振れ補正部110の補正量を算出する。
図12を用いて、揺れ状態判定部1201、ゲインテーブル1202及び可変ゲイン部1203の動作について説明する。
揺れ状態量演算を行う揺れ状態判定部1201は、角速度計108pからの角速度検出信号に基づき、揺れ状態量を求めて出力する。揺れ状態量とは、撮像装置がどのような揺れ状態にあるかを示す量である。そして、ゲインテーブル1202は、この揺れ状態量と、AF評価値の変化度合量に応じて可変ゲイン部1203に出力するゲイン(K3参照)の制御信号を生成する。
ここで、揺れ状態判定部1201の内部で行われる演算について説明する。まず、絶対値演算部1201aは、角速度計108pからの角速度検出信号の絶対値を演算する。次に、この絶対値信号は低域通過フィルタ(ローパスフィルタ:LPF)1201bに通され、角速度の絶対値の信号周波数成分のうち、設定されたカットオフ周波数を超える高周波成分が除去される。つまり、カットオフ周波数以下の低周波成分の信号が揺れ状態量を表す。
【0035】
図13(A)は角速度計108pから出力された角速度検出信号の時間的変化を例示する。図13(B)は絶対値演算部1201aの出力信号の時間的変化を例示する。図13(C)はLPF1201bを通して出力された揺れ状態量の時間的変化を例示する。期間ΔTime1の間、角速度検出信号の振幅量は小さい。これは、例えば撮像装置の振れが起こらないように撮影者が意識して手持ち撮影しているときのように、手振れの小さい状態である。期間ΔTime2の間、角速度検出信号の振幅量は大きく、これは歩行時の撮影など、手振れが非常に大きい状態である。期間ΔTime3では、角速度検出信号の振幅が、期間ΔTime1での状態と期間ΔTime2での状態との間、つまり、角速度検出信号の振幅量が中程度の状態である。期間ΔTime4では角速度検出信号の振幅量が大きいが、これは撮影者が撮像装置の構図を変える場合など、意図的に撮像装置を移動させたときの状態である。
揺れ状態判定部1201は、図13(C)に示すような揺れ状態量を検出し、歩行時の撮影などのように、揺れが大きい撮影状態であるか否かについて判定する。なお、図13(C)に示すShakeLevel1からShakeLevel4は、揺れ状態量のレベルについて複数の閾値を例示する。
図13(D)は、AF信頼性について時間的変化を例示する。なお、合焦度の変化頻度量については、不図示のAF信号処理部により、被写体に対する撮像光学系の合焦度を示す情報に基づき、合焦度変化頻度量演算によって算出される。つまり、本例ではAF評価値の変化度合量を、合焦度の変化頻度量として使用する。
期間ΔTimeD1では、AF信頼性に係る変化の割合が少ないため、AF評価値の変化度合量が小さいと判定される。また、期間ΔTimeD3では、AF信頼性に係る変化の割合が比較的に多いため、AF評価値の変化度合量が大きいと判定される。期間ΔTimeD2では、AF信頼性に係る変化の割合が期間ΔTimeD3程ではないが、比較的頻繁に変化しているので、AF評価値の変化度合量がやや大きいと判定される。AF評価値の変化度合量については、所定時間内におけるAF評価値の変化率の回数をカウントする処理が行われ、カウント値が所定の閾値以上であるか否かを判定することで算出され、この場合、所定時間毎に判定される。
【0036】
上記のように算出された揺れ状態量と、AF信頼性の高低に関する変化度合量からゲインテーブル1202の参照データを用いて、可変ゲイン部1203のゲインK3の値が決定される。可変ゲイン部1203にて使用するゲインテーブルをグラフ化した図を、図12(B)に示す。なお、前段の可変ゲイン部710については、第1実施形態の場合と同様である(図8(B)参照)。
図12(B)は、横軸にAF評価値の変化度合量をとり、縦軸にゲイン係数K3をとって両者の関係を例示したグラフである。また、ゲインテーブル1202では、AF評価値の変化度合量に加えて、揺れ状態量も参照され、本例では、4段階の揺れ状態量の大きさに応じて異なるグラフ線1204から1207を示す。図13(C)に示すShakeLevel1からShakeLevel4と各グラフ線との対応関係は以下の通りである。
揺れ状態量のレベル ゲインテーブル
ShakeLevel1 グラフ線1204
ShakeLevel2 グラフ線1205
ShakeLevel3 グラフ線1206
ShakeLevel4 グラフ線1207
例えば、揺れ状態量が図13(C)に示すShakeLevel4の場合、グラフ線1207で示すテーブルが参照される。AF評価値が小さく、AF評価値の変化度合量が小さい範囲ではK3値が1に近く、AF評価値の変化度合量が大きい範囲ではK3値が1よりも小さい。中間領域での特性を示す線分は正勾配である。AF評価値の変化度合量が小さい範囲にてグラフ線1207の示す定数値(定線分参照)は、グラフ線1206の場合よりも小さい。つまり、当該範囲でのK3値の大小関係は、「グラフ線1207<グラフ線1206<グラフ線1205<グラフ線1204」の関係を満たす。なお、ShakeLevel1以下の場合には、グラフ線1204に示すテーブルが参照され、ShakeLevel4以上の場合には、グラフ線1207に示すテーブルが参照される。またShakeLevel1より大きくShakeLevel4より小さい場合に、線形補間値が使用される。例えば、揺れ状態量の大きさがShakeLevel2とShakeLevel3の間である場合、グラフ線1205と1206のデータを用いた線形補間によってK3値が算出される。
【0037】
こうして揺れ状態量と、AF評価値の変化度合量を用いてゲイン係数の値が設定され、防振制御用撮影倍率が求まり、振れ補正量が算出される。なお、本実施形態では揺れ状態量とAF評価値の変化度合量に基づいてゲイン係数を算出したが、何れか一方だけを用いてもよい。
第3実施形態では、揺れが大きい状態であって、かつAF評価値の変化度合量が大きい状態、即ち、AF結果が安定しない状態では、ゲイン係数値を小さくすることで振れ補正量を小さくすることができる。これにより、振れ補正の制御量を弱める制御が行われる。したがって、歩行時の撮影などのように、角度揺れの振幅が大きく、かつAF動作が頻繁に発生したりAF処理にてピーク値を探している場合に、振れ補正部110が制御端に到達しないように防ぎ、防振制御性能の低下を防止できる。
【符号の説明】
【0038】
101 カメラ
106 カメラCPU
107 撮像素子
108y,108p 角速度計
109y,109p 加速度計
110 振れ補正部
112 駆動部
313 角度振れ補正係数算出部
314 平行振れ補正係数算出部
701 撮影倍率算出部
710 可変ゲイン部
1001 被写体距離算出部
1003 可変ゲイン部
1201 揺れ状態判定部
1202 ゲインテーブル
1203 可変ゲイン部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振れ補正手段と、
撮像光学系の光軸に対して直交する方向に沿う装置の並進に伴って生じる平行振れを含む装置の振れ量を検出する検出手段と、
前記検出手段による検出信号、前記撮像光学系のズームレンズ位置及びフォーカスレンズ位置の情報、並びに前記撮像光学系の合焦度を示す情報を取得して補正係数を算出し、前記振れ補正手段の補正量を算出する補正量算出手段と、
前記補正量に従って前記振れ補正手段を駆動する駆動手段を備え、
前記補正量算出手段は、前記合焦度が高い場合の前記補正係数に比べて、前記合焦度が低い場合の前記補正係数を小さくすることを特徴とする防振制御装置。
【請求項2】
振れ補正手段と、
撮像光学系の光軸に対して直交する方向に沿う装置の並進に伴って生じる平行振れを含む装置の振れ量を検出する検出手段と、
前記装置の振れ量から揺れ状態量を演算する揺れ状態量演算手段と、
前記撮像光学系の合焦度を示す情報を取得して合焦度の変化頻度量を演算する合焦度変化頻度量演算手段と、
前記検出手段による検出信号、前記撮像光学系のズームレンズ位置及びフォーカスレンズ位置の情報、前記合焦度、並びに合焦度の変化頻度量を取得して補正係数を算出し、前記振れ補正手段の補正量を算出する補正量算出手段と、
前記補正量に従って前記振れ補正手段を駆動する駆動手段を備え、
前記補正量算出手段は、前記合焦度の変化頻度量が小さい場合の前記補正係数に比べて、前記合焦度の変化頻度量が大きい場合の前記補正係数を小さくし、
または、前記揺れ状態量が小さい場合の前記補正係数に比べて、前記揺れ状態量が大きい場合の前記補正係数を小さくすることを特徴とする防振制御装置。
【請求項3】
前記撮像光学系の光軸に対して直交する軸を中心とする装置の回転に伴って生じる角度振れを検出する第1の検出手段と、
前記平行振れを検出する第2の検出手段と、
前記角度振れに対する補正係数を算出する第1の補正係数算出手段と、
前記平行振れに対する補正係数を算出する第2の補正係数算出手段を備え、
前記補正量算出手段は、前記第1及び第2の検出手段による検出信号及び前記補正係数を用いて算出した前記角度振れ及び前記平行振れの補正量を合成して前記駆動手段に出力することを特徴とする請求項1または2に記載の防振制御装置。
【請求項4】
前記第1及び第2の補正係数算出手段は、前記撮像光学系のズームレンズ位置及びフォーカスレンズ位置の情報を取得して防振制御用の像倍率を演算する際、前記合焦度が低くなるにつれて前記像倍率に乗算するゲイン係数を小さくすることで前記補正係数を変更することを特徴とする請求項3に記載の防振制御装置。
【請求項5】
前記第1及び第2の補正係数算出手段は、前記撮像光学系のズームレンズ位置及びフォーカスレンズ位置の情報を取得して被写体までの距離を演算する際、前記合焦度が低くなるにつれて被写体までの距離に乗算するゲイン係数を大きくすることで前記補正係数を変更することを特徴とする請求項3に記載の防振制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか1項に記載の防振制御装置と、
前記撮像光学系を備えることを特徴とする光学機器。
【請求項7】
前記撮像光学系による被写体の光像を電気信号に変換する撮像素子と、
請求項1ないし5の何れか1項に記載の防振制御装置を備えたことを特徴とする撮像装置。
【請求項8】
前記第1及び第2の補正係数算出手段は、
動画撮影の場合、前記撮像光学系のズームレンズ位置及びフォーカスレンズ位置の情報、並びに前記撮像光学系の合焦度を示す情報を取得して前記補正係数を算出し、
静止画撮影の場合、前記合焦度を示す情報を参照することなく前記撮像光学系のズームレンズ位置及びフォーカスレンズ位置の情報から防振制御用の像倍率を演算して前記補正係数を算出することを特徴とする請求項7に記載の撮像装置。
【請求項9】
振れ補正手段を駆動することによって像ブレを補正する防振制御方法であって、
撮像光学系の光軸に対して直交する方向に沿う装置の並進に伴って生じる平行振れを含む装置の振れ量を検出する検出ステップと、
前記検出ステップでの検出信号、前記撮像光学系のズームレンズ位置及びフォーカスレンズ位置の情報、並びに前記撮像光学系の合焦度を示す情報から補正係数を算出して前記振れ補正手段の補正量を算出する補正量算出ステップと、
前記補正量に従って前記振れ補正手段を駆動する駆動ステップを有し、
前記補正量算出ステップでは、前記合焦度が高い場合の前記補正係数に比べて、前記合焦度が低い場合の前記補正係数を小さくすることを特徴とする防振制御方法。
【請求項10】
振れ補正手段を駆動することによって像ブレを補正する防振制御方法であって、
撮像光学系の光軸に対して直交する方向に沿う装置の並進に伴って生じる平行振れを含む装置の振れ量を検出する検出ステップと、
前記装置の振れ量から揺れ状態量を演算する揺れ状態量演算ステップと、
前記撮像光学系の合焦度を示す情報を取得して合焦度の変化頻度量を演算する合焦度変化頻度量演算ステップと、
前記検出ステップでの検出信号、前記揺れ状態量、前記撮像光学系のズームレンズ位置及びフォーカスレンズ位置の情報、前記合焦度、並びに前記合焦度の変化頻度量を取得して補正係数を算出し、前記振れ補正手段の補正量を算出する補正量算出ステップと、
前記補正量に従って前記振れ補正手段を駆動する駆動ステップを有し、
前記補正量算出ステップでは、前記合焦度の変化頻度量が小さい場合の前記補正係数に比べて、前記合焦度の変化頻度量が大きい場合の前記補正係数を小さくし、または前記揺れ状態量が小さい場合の前記補正係数に比べて、前記揺れ状態量が大きい場合の前記補正係数を小さくすることを特徴とする防振制御方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−15638(P2013−15638A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147527(P2011−147527)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】