説明

防曇性物品および防曇剤組成物

【課題】優れた防曇性能を有し、かつ耐久性にも優れた防曇性物品の提供および防曇剤組成物の提供。
【解決手段】基体と該基体表面に設けられた吸水性の架橋樹脂層とを有する防曇性物品であって、前記吸水性の架橋樹脂が、その表面の水接触角が30度以上(ただし、水滴接触2分後の測定値)であり、かつ、その飽和吸水量が60mg/cm以上の架橋樹脂であることを特徴とする防曇性物品、および、基体表面に塗布し、乾燥、反応させることにより基体表面に防曇性の架橋樹脂層を形成するための液状組成物であって、カチオン性基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U1)、炭化水素基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U2)および不飽和カルボン酸系モノマーのモノマー単位(U3)を含む架橋性ビニルポリマーと、架橋剤と、溶剤を含む防曇剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇性物品および防曇剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスやプラスチックなどの透明基体は、基体表面が露点温度以下になった場合、表面に微細な水滴が付着して透過光を散乱するため、透明性が損なわれ、いわゆる“曇り”の状態となる。曇りを防ぐ手段として、これまで種々の提案がなされてきた。
(1)基体表面に界面活性剤を処理して表面張力を下げる方法(たとえば特許文献1参照)、
(2)基体表面に親水性化合物を処理して基体表面を親水性にする方法(たとえば特許文献2、3参照)、
(3)基体表面に吸水性化合物を処理して基体表面の雰囲気湿度を低減する方法(たとえば特許文献4参照)、
(4)基体にヒーター等を設置して加温することにより、基体表面を露点温度以上に維持する方法、
(5)基体表面に撥水性化合物を処理して基体表面に微小水滴を付着させない方法。
【0003】
また、曇りを防ぐ効果(以下「防曇性能」とする)は、使用環境下において長期間持続することが求められている。さらに、防曇性能を種々の環境下で長期間持続させるべく、耐摩耗性、耐水性、耐熱性、耐湿性、および耐水拭き性などの耐久性も求められている。
【0004】
(1)の方法では、界面活性剤を基体表面に固定することが難しく、長期間にわたり低い表面張力を維持することが難しい。(2)の方法では、例えば親水性樹脂や親水性無機化合物が用いられる。しかし、いずれも特に無機系の汚れを吸着固定しやすく、長期間親水性を維持することが難しい。
【0005】
(3)の方法では、例えば吸水性樹脂が用いられる。吸水性樹脂は、無機化合物に比べ耐磨耗性や耐候性は劣るものの、樹脂表面を疎水性に設計すれば、特に無機系の汚れを防ぐ効果に優れ、長期間にわたって容易に防曇性能を維持できる。(4)の方法では、防曇性能を半永久的に維持できるが、通電に伴うエネルギーを常に必要とするため非常に高コストである。(5)の方法では、防曇性能を発現するために、直径1mm以下の極微小な水滴も滑落できるまたは付着させない撥水性が必要とされるが、現状そのような技術は存在していない。
したがって、本発明者らは、防曇性能を低コストかつ容易に持続できるのが、(3)の吸水性樹脂を用いる方法であると考えた。吸水性樹脂を用いる方法としては、防曇性能と耐摩耗性を両立させるため、界面活性剤とトリアルカノールアミン等を固定したウレタン樹脂を形成する塗布剤および防曇性膜が開示されている(特許文献5参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−238207号公報
【特許文献2】特開2001−356201号公報
【特許文献3】特開2000−192021号公報
【特許文献4】特開2002−53792号公報
【特許文献5】特開2004−269851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献5に開示された防曇性の樹脂膜は、優れた防曇性能を長期間にわたり維持することが難しい問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記の課題を解決すべくなされた発明であり、以下の発明を提供する。
<1>基体と該基体表面に設けられた吸水性の架橋樹脂層とを有する防曇性物品であって、前記吸水性の架橋樹脂が、その表面の水接触角が30度以上(ただし、水滴接触2分後の測定値)であり、かつ、その飽和吸水量が60mg/cm以上の架橋樹脂であることを特徴とする防曇性物品。
<2>架橋樹脂層が、架橋性樹脂と架橋剤とを基体表面で反応させることにより形成された樹脂層である、<1>に記載の防曇性物品。
<3>架橋樹脂層が、架橋性樹脂と架橋剤とシランカップリング剤と溶剤とを含む液状組成物を基体表面に塗布し、乾燥、反応させることにより形成された樹脂層である、<1>または<2>に記載の防曇性物品。
【0009】
<4>基体と該基体表面に設けられた吸水性の架橋樹脂層とを有する防曇性物品であって、前記吸水性の架橋樹脂が、カチオン性基と架橋性基とを有する架橋性ビニルポリマーと架橋剤との反応により得られる架橋樹脂であることを特徴とする防曇性物品。
<5>架橋性基がカルボキシル基である、<4>に記載の防曇性物品。
<6>前記架橋性ビニルポリマーが、カチオン性基を有するモノマー単位、炭化水素基を有するモノマー単位およびカルボキシル基を有するモノマー単位を含む架橋性ビニルポリマーである、<4>または<5>に記載の防曇性物品。
【0010】
<7>架橋剤が2以上のエポキシ基を有するエポキシ系架橋剤である、<5>または<6>に記載の防曇性物品。
<8>吸水性の架橋樹脂層が、架橋性ビニルポリマーと架橋剤とシランカップリング剤と溶剤とを含む液状組成物を基体表面に塗布し、乾燥、反応させることにより形成された樹脂層である、<4>〜<7>のいずれか1項に記載の防曇性物品。
【0011】
<9>基体と該基体表面に設けられた架橋樹脂層とを有する防曇性物品であって、前記架橋樹脂が架橋性ビニルポリマーと架橋剤との反応により得られる架橋樹脂であり、前記架橋性ビニルポリマーが、カチオン性基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U1)、炭化水素基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U2)および不飽和カルボン酸系モノマーのモノマー単位(U3)を含む架橋性ビニルポリマーであることを特徴とする防曇性物品。
<10>架橋性ビニルポリマーが、全モノマー単位に対して、5モル%以上のモノマー単位(U1)と、10モル%以上のモノマー単位(U2)、および、1〜20モル%のモノマー単位(U3)を含む、<9>に記載の防曇性物品。
【0012】
<11>モノマー単位(U1)が、下記式(1)で表されるモノマーのモノマー単位である、<9>または<10>に記載の防曇性物品。
CH=CR−COO−(CH−N・・・(1)
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子またはメチル基。
、R、R:それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアルキル基。
:1価アニオン。
m:1〜10の整数。
【0013】
<12>架橋剤が2以上のエポキシ基を有するエポキシ系架橋剤である、<9>〜<11>のいずれか1項に記載の防曇性物品。
<13>架橋樹脂層が、架橋性ビニルポリマーと架橋剤とシランカップリング剤と溶剤とを含む液状組成物を基体表面に塗布し、乾燥、反応させることにより形成された樹脂層である、<9>〜<12>のいずれか1項に記載の防曇性物品。
【0014】
<14>基体表面に塗布し、乾燥、反応させることにより基体表面に防曇性の架橋樹脂層を形成するための液状組成物であって、カチオン性基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U1)、炭化水素基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U2)および不飽和カルボン酸系モノマーのモノマー単位(U3)を含む架橋性ビニルポリマーと、架橋剤と、溶剤を含むことを特徴とする防曇剤組成物。
<15>さらにシランカップリング剤を含む、<14>に記載の防曇剤組成物。
<16>さらにシリコーン系レべリング剤を含む、<14>または<15>に記載の防曇剤組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の防曇性物品は、優れた防曇性能と、耐摩耗性、耐水性、耐湿性などの耐久性を有しており、種々の環境下、特に高温高湿の環境下でも、優れた防曇性能を長期間持続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の防曇性物品は、基体と該基体表面に設けられた吸水性の架橋樹脂層とを有する。
【0017】
基体としては、ガラス、プラスチック、金属、セラミックス、またはこれらの組み合わせ(複合材料、積層材料等)からなる基体であることが好ましく、ガラスまたはプラスチックからなる透明基体であることが特に好ましい。
基体の形状は平板でもよく、全面または一部に曲率を有していてもよい。基体の厚さは防曇性物品の用途により適宜選択され、一般には1〜10mmが好ましい。
【0018】
また、基体は、表面に反応性基を有することが好ましい。反応性基としては親水性基が好ましく、親水性基としては水酸基が好ましい。また、基体に酸素プラズマ処理、コロナ放電処理、オゾン処理等を施し、表面に付着した有機物を分解除去したり、表面に微細な凹凸構造を形成したりすることにより、表面を親水性化してもよい。また、ガラスや金属酸化物は通常、表面に水酸基を有する。
【0019】
また、基体と架橋樹脂層との密着性を高める等の目的で、基体表面にはシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物薄膜や有機基含有金属酸化物薄膜が設けられていてもよい。金属酸化物薄膜は加水分解性基を有する金属化合物を用いてゾルゲル法で形成することができる。この金属化合物としてはテトラアルコキシシランやそのオリゴマー、テトライソシアネートシランやそのオリゴマー等が好ましい。有機基含有金属酸化物薄膜は有機金属系カップリング剤で基体表面を処理して得られる薄膜である。有機金属系カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が使用でき、特にシラン系カップリング剤が好ましい。
【0020】
本発明における吸水性の架橋樹脂層は、前記基体表面に設けられた吸水性の架橋樹脂からなる。該架橋樹脂は、その表面の水接触角が30度以上(ただし、水滴接触2分後の測定値、以下同じ。)であり、かつ、その飽和吸水量が60mg/cm以上である樹脂である。
本発明における吸水性の架橋樹脂層は飽和吸水量が60mg/cm以上であり、そもそも防曇性能を発現するために充分な吸水力を有する。吸水量が増え、架橋樹脂層がその飽和吸水量の限界量を超えて吸水した場合においても、水接触角が30度以上であることにより、架橋樹脂層の表面に水膜を形成し難く、防曇性能を良好に維持できる。
【0021】
通常、基体の表面に水滴が接触すると、時間の経過とともに表面が濡れてゆき、基体表面における水滴の接触角が小さくなる傾向がある。しかし、本発明の防曇性物品は、水滴接触2分後においても接触角を30度以上に保てるので、水膜となりずらい。また、表面の水接触角が30度以上であると、耐水性を発現しやすく、無機系の汚れを吸着固定しにくいという利点もある。
水接触角の上限値は特に限定されないが、本発明の防曇性物品に使用されうる架橋樹脂の材料を考慮すると通常は100度程度である。
【0022】
飽和吸水量は、防曇性能と耐久性(耐磨耗性、耐水性、耐熱性、耐湿性、耐水拭き性等)との両立が可能である点から75〜185mg/cmであることが好ましく、90〜155mg/cmであることが特に好ましい。
【0023】
吸水性の架橋樹脂が、前記の表面の水接触角および飽和吸水量の条件を満たす場合、防曇性能と耐久性との両立ができる。
なお、水接触角は、防曇性物品を室温相対湿度50%の環境下に1時間放置した後、吸水性の架橋樹脂層の面に、1μlの水をのせてから2分後に接触角を測定した際の値である。
【0024】
また、飽和吸水量は以下の手順によって算出した。防曇性物品を室温相対湿度50%の環境下に1時間放置し、つぎに吸水性の架橋樹脂層の面を40℃の温水蒸気に曝露し、架橋樹脂層の面上に曇りまたは水膜による歪みが生じた直後に微量水分計を用いて防曇性物品全体の水分量(A)を測定する。別途、吸水性の架橋樹脂層が形成されていない基体そのものの水分量(B)を同様の手順で測定し、水分量(A)から水分量(B)を引いた値を架橋樹脂の体積で除した値を飽和吸水量とした。
微量水分計による水分量の測定は、試験サンプルを120℃で加熱し、サンプルから放出された水分を微量水分計内のモレキュラーシーブスに吸着させ、モレキュラーシーブスの重量変化を水分量とした。なお、測定の終点は、1分間あたりの重量変化の変化量が0.02mg以下になったときとした。
【0025】
このような吸水性の架橋樹脂としては特に限定されず、たとえば以下に示す樹脂のうち、前記の表面の水接触角および飽和吸水量の条件を満たしている樹脂が使用できる。なお、本発明において架橋樹脂とは、3次元網目構造を有する非線状の重合体をいい、線状重合体鎖同士が結合して3次元網目構造を形成しているものが好ましい。
デンプン−アクリロニトリルグラフト重合体加水分解物、デンプン−アクリル酸グラフト重合体等の複合体等のデンプン系樹脂;セルロース−アクリロニトリルグラフト重合体、カルボキシメチルセルロースの架橋体等のセルロース系樹脂;ポリビニルアルコール架橋重合体等のポリビニルアルコール系樹脂;ポリアクリル酸ナトリウム架橋体、ポリアクリル酸エステル架橋体等のアクリル系樹脂;ポリエチレングリコール・ジアクリレート架橋重合体、ポリアルキレンオキシド−ポリカルボン酸架橋体等のポリエーテル系樹脂;ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートとの反応物である架橋ポリウレタン等。
【0026】
なお、本発明における吸水性の架橋樹脂としては、JIS R 3212に従って実施した耐摩耗性試験による試験前後のヘイズ値の変化が20%以下であることが好ましい。また、これらの吸水性の架橋樹脂は、耐摩耗性、耐湿性、耐水性等の耐久性を満足する架橋密度を有していることが好ましい。
【0027】
基体表面に吸水性の架橋樹脂層を設ける方法としては、(1)架橋性樹脂と架橋剤とを基体表面で反応させる方法、(2)架橋性樹脂をフィルム状に成形し、基体表面と該フィルムとを架橋剤を用いて結合させる方法、および(3)吸水性の架橋樹脂をフィルム状に成形し、該フィルムを基体と貼り合わせる方法等が挙げられる。これらの方法のうち、(1)および(2)の方法が好ましく、大面積の基体表面に架橋樹脂層を設ける場合や、工業的量産の際に良好な外観を維持できるため、(1)の方法が特に好ましい。具体的には、架橋性樹脂と架橋剤とを必須成分とする組成物(以下、塗布用組成物ともいう)を基体表面に塗布し、乾燥、反応させることにより、基体表面に架橋樹脂層を形成することが好ましい。
【0028】
架橋性樹脂と架橋剤とを必須成分とする組成物は、基体表面と架橋樹脂との密着性を向上させるためのカップリング剤、および、塗布作業性向上のための溶剤を含んでいることが好ましい。よって、基体表面に吸水性の架橋樹脂層を設ける方法としては、架橋性樹脂と架橋剤とカップリング剤と溶剤とを含む液状の組成物を基体表面に塗布し、乾燥、反応させる方法が特に好ましい。その他に、溶剤中で架橋性樹脂と架橋剤とを反応させた後、カップリング剤を添加することによって得られる液状組成物を基体表面に塗布し、乾燥、さらに反応させる方法;架橋性樹脂と架橋剤とカップリング剤とを含む溶剤中でこれらの成分を反応させて得られる液状組成物を基体表面に塗布し、乾燥、さらに反応させる方法も好ましい。
【0029】
本発明における架橋性樹脂とは、架橋性基を有する重合体であって、架橋剤と反応して架橋樹脂となりうるものであれば特に制限はない。架橋性基を有する重合体は線状の重合体であることが好ましい。架橋性基としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロ基、チオール基、スルフィド基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基等が挙げられ、カルボキシル基、エポキシ基、および水酸基等が好ましく、カルボキシル基が特に好ましい。架橋性樹脂が有する架橋性基の数は、本発明において必要とされる防曇性能および耐久性を満足する限り何個でもよく、通常は架橋性樹脂1gあたり0.1〜2.0ミリモルであることが好ましい。
【0030】
このような架橋性樹脂としては、上記のような架橋性基を有するビニルポリマー(以下、架橋性ビニルポリマーという)が好ましい。本発明において架橋性ビニルポリマーとは、炭素−炭素二重結合を含む重合性部位を有するモノマーが重合することによって形成される主鎖を有する重合体をいう。架橋性ビニルポリマーは線状重合体であることが好ましい。また、架橋性ビニルポリマーは親水性の基や親水性の重合体鎖を有することが、吸水性の高い架橋樹脂が得られる点で好ましい。場合によっては架橋剤が架橋樹脂に吸水性を付与してもよい。
【0031】
本発明における架橋剤は、前記架橋性樹脂と反応し、3次元網目構造の架橋樹脂を形成する化合物であり、前記架橋性樹脂が有する架橋性基と反応しうる反応性基を有する化合物である。架橋剤を用いることにより、架橋剤が有する反応性基が、基体表面に存在する反応性基および架橋樹脂が有する架橋性基と反応し、基体表面に強固な架橋樹脂層を形成することができる。
【0032】
架橋剤の反応性基はその架橋剤と組み合わせる架橋性樹脂の架橋性基の種類に応じ、それと反応できる反応性基から選択される。該反応性基としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基等が挙げられる。例えば、架橋性樹脂の架橋性基がカルボキシル基の場合は、エポキシ基やアミノ基が好ましく、エポキシ基が特に好ましい。架橋性基が水酸基の場合はエポキシ基やイソシアネート基が好ましく、架橋性基がエポキシ基の場合はカルボキシル基、アミノ基、酸無水物基、水酸基が好ましい。また、架橋剤1分子が有する反応性基の数は平均して1.5個以上であり、2〜8個であることが好ましい。反応性基の数が前記の範囲であると、防曇性と耐摩耗性とのバランスに優れた吸水性の架橋樹脂を得ることができる。
【0033】
架橋剤は2種以上を併用することができる。例えば、主たる架橋剤とともに第2の架橋剤を併用できる。この第2の架橋剤は架橋性樹脂の架橋性基と反応する反応性基(主たる架橋剤と同じ反応性基であってもよく異なる反応性基であってもよい)を有する化合物であるばかりでなく、主たる架橋剤の反応性基に反応する反応性基を有する化合物であってもよい。主たる架橋剤に反応する第2の架橋剤は主たる架橋剤を介して架橋性樹脂と結合する。このような第2の架橋剤を併用することにより、架橋性樹脂と主たる架橋剤とによる架橋樹脂の形成を促進することができる。例えば、カルボキシル基を有する架橋性樹脂とエポキシ基を有する架橋剤との組み合わせにおいて、さらにアミノ基を有する第2の架橋剤や酸無水物基を有する第2の架橋剤を併用することにより、架橋樹脂の形成が促進される。つまり、防曇剤組成物中に含まれる架橋性樹脂と架橋剤との反応が促進され、架橋樹脂の架橋密度が高くなる。よって、架橋樹脂の耐摩耗性や耐水性などの耐久性を改善できて好ましい。
【0034】
また、この第2の架橋剤は架橋性樹脂を架橋する機能よりは架橋樹脂の物性を調節する成分として機能させることができる。例えば、第2の架橋剤によって架橋樹脂の吸水性を高めることもできる。
【0035】
なお、主たる架橋剤もまた架橋樹脂の機能に影響を与えるものであり、その点で第2の架橋剤との間に本質的な区別はない。
【0036】
本発明における架橋剤としては、ポリオール系化合物、ポリアミン系化合物、ポリカルボン酸系化合物(ポリカルボン酸無水物を含む)、ポリイソシアネート系化合物、ポリエポキシ系化合物等が挙げられる。これら架橋剤は架橋性樹脂の架橋性基に応じて選択される。カルボキシル基を有する架橋性樹脂の架橋に使用する架橋剤としては、特にポリエポキシ系化合物が好ましい。また、ポリエポキシ系化合物とともに第2の架橋剤としてポリアミンやポリカルボン酸無水物等を併用することも好ましい。
【0037】
ポリエポキシ系化合物としては、脂肪族ポリグリシジル化合物が好ましい。具体的には、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、特に防曇性能の良好な架橋樹脂が得られることから、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等の3個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル(1分子あたり平均のグリシジル基の数が2を超えるもの)が好ましい。
【0038】
ポリアミン系化合物としては、脂肪族ポリアミン系化合物および脂環式ポリアミン系化合物が好ましく、具体的には、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が好ましい。ポリカルボン酸系化合物としては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が好ましい。ポリオール系化合物としては、多価アルコール−エチレンオキシド付加物、多価アルコール−プロピレンオキシド付加物、ポリエステルポリオール等が好ましく、ポリイソシアネート系化合物としてはヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が好ましい。
【0039】
架橋剤と第2の架橋剤との組み合わせは、第2の架橋剤を使用する目的;架橋性樹脂や架橋剤の種類;等によって適宜選択できる。例えば、架橋樹脂の形成を促進する目的で第2の架橋剤を使用する場合であって、カルボキシル基を有する架橋性樹脂とエポキシ基を有する架橋剤とを組み合わせて用いる場合、アミノ基を有する第2の架橋剤や酸無水物基を有する第2の架橋剤を併用することが好ましい。この場合のアミノ基を有する第2の架橋剤としては、脂肪族ポリアミン系化合物および脂環式ポリアミン系化合物が好ましく、脂環式ポリアミン系化合物が特に好ましい。具体的にはイソホロンジアミンが好ましい。この組み合わせにより、架橋樹脂の形成が促進されるとともに、耐磨耗性や耐水拭き性が良好になるので好ましい。
【0040】
架橋性樹脂に対する架橋剤の割合は、架橋性基と反応性基の数がほぼ等しくなる割合が適当であり、その架橋性基に対する反応性基の当量比は0.8〜1.2程度が好ましい。ただし、第2の架橋剤やそれ以外のこの架橋反応系に共存する反応性化合物(例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤)が存在する場合はこれらを含めた相互に反応する反応性の基の当量比は0.8〜1.2程度が適当である。また、たとえ架橋樹脂中に残存しても差し支えない架橋性基や反応性基であれば、他の反応性の基に対するその反応性の基の割合はさらに多くてもよい。
また、第2の架橋剤が、主たる架橋剤の反応性基に反応する反応性基を有する化合物である場合、主たる架橋剤に対する第2の架橋剤の割合は、主たる架橋剤が有する反応性基/第2の架橋剤の有する反応性基の数が5〜1/5となる割合であることが好ましい。
【0041】
前記のように、第2の架橋剤は架橋性樹脂を架橋する機能のほかに架橋樹脂の物性調整のために使用することができる。例えば架橋剤であるエポキシ系化合物と反応するアミン類を使用して、エポキシ基とアミノ基が反応した親水性の結合を架橋樹脂にもたらすことができる。この場合、第2の架橋剤の1つの反応性基のみ反応した場合であっても機能が発揮される。
【0042】
また、架橋樹脂の物性調整の機能を発揮するものであれば、架橋性樹脂や架橋剤に結合しうる反応性の基を1個有する化合物であってもよい。この反応性の基を1個有する化合物は架橋機能を有しない化合物である。以下このような架橋樹脂の機能を調整する目的で使用する架橋機能を有しない反応性の化合物を改質剤という。
架橋剤に加えて改質剤を使用する場合は、改質剤の使用量は架橋剤に対して等質量以下が好ましく、0.01〜0.5倍質量が好ましい。改質剤としては、モノアミン類、モノイソシアネート類、モノカルボン酸類、モノヒドロキシ化合物類、モノエポキシ化合物類等が挙げられる。
【0043】
本発明において、架橋性樹脂と架橋剤とを基体表面で反応させる際にカップリング剤を共存させておくことによって基体表面と架橋樹脂との密着性を向上させることができる。また、前記のように基体表面をあらかじめカップリング剤で処理しておくことによっても同様に基体表面と架橋樹脂との密着性を向上させることができる。架橋樹脂を形成するための架橋性樹脂と架橋剤を含む塗布用組成物にカップリング剤を配合することは必須ではないが、たとえあらかじめカップリング剤で処理した基体を使用する場合であっても架橋性樹脂と架橋剤を含む塗布用組成物にはカップリング剤を存在させておくことが好ましい。カップリング剤が架橋性樹脂または架橋剤との反応性の基を有している場合は、前記改質剤と同様に架橋樹脂と基体との密着性向上に加えて架橋樹脂の機能を調整する目的で使用することもできる。
【0044】
カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、およびアルミニウム系カップリング剤等が挙げられ、シラン系カップリング剤が好ましい。これらカップリング剤は、架橋性樹脂の架橋性基や架橋剤の反応性基と反応しうる反応性の基を有することが好ましい。ここで、カップリング剤は金属原子−炭素原子間の結合を1個以上(好ましくは、1個または2個)有する化合物であることが好ましい。シラン系カップリング剤を例にとると、ケイ素原子に3個の加水分解性基および1個の1価有機基(ただし、ケイ素原子に結合する末端は炭素原子である基)が結合している化合物;ケイ素原子に2個の加水分解性基および2個の1価有機基(ただし、ケイ素原子に結合する末端は炭素原子である基)が結合している化合物;が好ましい。また、前記1価有機基としては、アルキル基のような炭化水素基であってもよく、官能基(エポキシ基を含有する基、グリシドキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシ基、イソシアネート基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基等)を有する基であってもよく、少なくとも1個は官能基を有する基であることが好ましい。
【0045】
シラン系カップリング剤としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのうち、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン系シランカップリング剤が好ましい。
【0046】
架橋性樹脂と架橋剤を含む塗布用組成物におけるカップリング剤の使用量は、それが必須の成分でないことよりその使用量の下限は限定されない。しかし、カップリング剤配合の効果を発揮させるためには、架橋性樹脂と架橋剤とカップリング剤の合計に対するカップリング剤の割合は0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。カップリング剤の使用量の上限は、カップリング剤の物性や機能によって制限される。架橋樹脂の密着性向上の目的で使用する場合は、架橋性樹脂と架橋剤とカップリング剤の合計に対するカップリング剤の割合は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。カップリング剤によってまたは架橋剤とカップリング剤によって架橋樹脂の吸水性や表面の水接触角などの物性を調整する場合は比較的多量のカップリング剤を使用することがある。その場合、架橋性樹脂と架橋剤とカップリング剤の合計に対するカップリング剤の割合は15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。カップリング剤の使用量が過剰の場合、高温に曝された場合に酸化等により架橋樹脂が着色しやすくなるなどの問題が生じるおそれがある。
【0047】
溶剤としては、架橋性樹脂や架橋剤等の成分の溶解性が良好である溶剤であれば特に限定されず、アルコール類、酢酸エステル類、エーテル類、および水等が挙げられ、アルコール類および水が好ましい。アルコール類としては、エタノールおよびイソプロピルアルコールが好ましい。溶剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、架橋性樹脂や架橋剤等の成分は溶剤との混合物として使用される場合がある。この場合には、該混合物中に含まれる溶剤を液状組成物における溶剤としてもよく、さらに他の溶剤を加えて液状組成物としてもよい。
【0048】
架橋樹脂層を架橋性樹脂、架橋剤、シランカップリング剤および溶剤を含む液状組成物を使用して形成する場合、それらは適宜選択して使用することができ、たとえば以下に示す組み合わせ(溶剤の記載は省略)を採用することができる。さらに、液状組成物は、必要に応じて前記改質剤を含むことも好ましい。
【0049】
(1)架橋性基としてカルボキシル基を有する架橋性樹脂、エポキシ基を有する架橋剤、およびアミノ基を有するシランカップリング剤の組み合わせ、
(2)架橋性基としてカルボキシル基を有する架橋性樹脂、アミノ基を有する架橋剤、およびイソシアネート基やエポキシ基を有するシランカップリング剤の組み合わせ、
(3)架橋性基としてエポキシ基を有する架橋性樹脂、カルボキシル基や水酸基を有する架橋剤、およびイソシアネート基やアミノ基を有するシランカップリング剤の組み合わせ。
【0050】
なお、本発明における「乾燥」とは、基体に塗布した前記液状組成物中の溶剤を揮発させて除去することを意味する。乾燥条件は、液状組成物中に含まれる溶剤の種類、塗膜の厚さ等により適宜設定され、たとえば、前記液状組成物を塗布した基体を、20〜100℃で1分間〜20時間保持することにより実施できる。
また、「反応」とは、組成物中に含まれる架橋性樹脂と架橋剤との反応による架橋樹脂の形成を行うことを意味する。この際、基体表面との結合形成反応を伴っていてもよく、防曇性物品の耐久性が良好になることから、基体表面との結合形成反応を伴っていることが好ましい。「反応」は、たとえば、乾燥後の基体を80〜200℃で1分間〜1時間保持することにより実施できる。
また、架橋反応の進行に妨げのない限り、「乾燥」と「反応」とを同一条件で引き続いて行ってもよい。
【0051】
組成物の基体表面への塗布方法としては、スピンコート、ディップコート、スプレーコート、フローコート、およびダイコート等が挙げられ、スプレーコート、フローコート、およびダイコートが好ましい。
液状組成物を基体表面に塗布して得られる組成物層の厚さは10〜50μmであることが好ましく、乾燥後の膜厚は5〜40μmであることが好ましく、反応後に得られる架橋樹脂層の厚さは5〜30μmであることが好ましい。
【0052】
本発明において、前記架橋樹脂は、カチオン性基と架橋性基とを有する架橋性ビニルポリマーと架橋剤との反応により得られる架橋樹脂であることが好ましい。架橋性ビニルポリマーは線状の重合体であることが好ましい。カチオン性基としては、4級アンモニウム構造を有する基が好ましい。架橋性基としては、架橋剤が有する反応性基と反応し、3次元網目構造を形成できる基であれば特に限定されない。架橋性基としては、前記の架橋性基が挙げられ、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基等が好ましく、カルボキシル基が特に好ましい。
【0053】
架橋性ビニルポリマーの分子量は、特に限定されるものではないが、数平均分子量として、500〜50000が好ましく、1000〜20000が特に好ましい。分子量が500未満の場合は、防曇性能が低下するおそれがある。また、分子量が50000を超えると、基体と架橋樹脂との密着性が低下するおそれがある。
【0054】
また、架橋性ビニルポリマー中のカチオン性基の割合はポリマー1g当たり0.1〜2.0ミリモルであり、0.4〜2.0ミリモルが好ましく、特に0.5〜1.5ミリモルが好ましい。さらに架橋性基の割合はポリマー1g当たり1.0〜3.0ミリモルが好ましく、特に1.5〜2.5ミリモルが好ましい。
【0055】
上記架橋性ビニルポリマーはカチオン性基を有するモノマー単位と架橋性基を有するモノマー単位を含む。また、通常はさらにこれらモノマー単位以外のモノマー単位を含む。他のモノマー単位は架橋性ビニルポリマー中のカチオン性基と架橋性基の量を調節するとともに架橋性ビニルポリマーやそれが架橋した架橋樹脂の物理的特性や化学的特性を調節するために使用される。他のモノマー単位を架橋性ビニルポリマー中にもたらすモノマーとしては各種のものを目的に応じて選択して使用できる。例えば、オレフィン系モノマー、芳香族ビニル系モノマー、ハロゲン化ビニル系モノマー、シアン化ビニル系モノマー、不飽和カルボン酸エステル系モノマー、ビニルエステル系モノマー、ビニルエーテル系モノマーなどが挙げられる。
【0056】
なお、架橋性ビニルポリマーにおけるモノマー単位とは、モノマーの重合により形成された単位をいい、具体的モノマー単位は「(モノマー名)のモノマー単位」と表すか、単に「(具体的モノマー名)単位」と表す。また、モノマー単位は、モノマーの重合により直接形成されるモノマー単位(不飽和二重結合部分以外の化学構造がモノマーと同一)を意味するが、本発明ではさらに、重合後にポリマーを化学的変換した場合にモノマー単位部分が化学的に変化しても化学的変換前にモノマー単位であった部分の単位もモノマー単位という。また、モノマー単位をもたらした元のモノマーを単に「モノマー単位のモノマー」という。
【0057】
架橋性ビニルポリマーとしては、カチオン性基を有するモノマー単位とともに、架橋性基としてカルボキシル基を有するモノマー単位を有し、他のモノマー単位として炭化水素基を有するモノマー単位を有する架橋性ビニルポリマーが好ましい。すなわち、カチオン性基を有するモノマー単位、炭化水素基を有するモノマー単位、およびカルボキシル基を有するモノマー単位を含む架橋性ビニルポリマーが好ましい。各モノマー単位は2種以上含まれていてもよく、またこれら以外のモノマー単位を含んでいてもよい。カチオン性基を有するモノマー単位としては、4級アンモニウム構造を有するモノマー単位が好ましく、炭化水素基を有するモノマー単位としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基などの炭化水素基を有するモノマー単位が好ましい。炭化水素基を有するモノマー単位のモノマーとしては、炭化水素エステル基を有するモノマー、炭化水素エーテル基を有するモノマー(アルキルビニルエーテルなど)、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、スチレンなどの重合性不飽和炭化水素等が挙げられ、炭化水素エステル基を有するモノマーが好ましい。カルボキシル基を有するモノマー単位のモノマーとしては、不飽和カルボン酸、不飽和ポリカルボン酸、およびこれらの酸無水物がある。
【0058】
各モノマー単位は上記の基を有するモノマーに由来するモノマー単位であってもよいが、上記の基を有しないモノマーから形成されたモノマー単位からポリマー形成後の化学的変換により上記の基を有するモノマー単位に変換されて形成されたモノマー単位であってもよい。例えば、不飽和カルボン酸エステルをモノマーとしてポリマーを形成した後そのモノマー単位を加水分解してカルボキシル基を有するモノマー単位とすることができる。同様に、不飽和カルボン酸をモノマーとしてポリマーを形成した後そのモノマー単位のカルボキシル基をアルキルエステル化してアルキル基(炭化水素基の1種)を有するモノマー単位とすることができる。
【0059】
さらに、カチオン性基を有するモノマー単位としては、カチオン性基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U1)であることが好ましい。炭化水素基を有するモノマー単位としては、炭化水素基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U2)であることが好ましい。カルボン酸基を有するモノマー単位としては、不飽和カルボン酸系モノマーのモノマー単位(U3)であることが好ましい。各モノマー単位(U1)〜(U3)のモノマーをそれぞれ以下モノマー(M1)〜(M3)という。モノマー(M3)の不飽和カルボン酸としては、不飽和脂肪族カルボン酸が好ましく、アクリル酸およびメタクリル酸が特に好ましい。モノマー(M1)、(M2)の不飽和カルボン酸エステルとしては、不飽和脂肪族カルボン酸エステルが好ましく、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルが特に好ましい。
【0060】
架橋性ビニルポリマー中のモノマー単位(U1)の含有量は、架橋性ビニルポリマーを構成する全モノマー単位に対して5モル%以上であることが好ましく、15〜50モル%であることが特に好ましい。モノマー単位(U2)の含有量は、全モノマー単位に対して10モル%以上であることが好ましく、20〜80モル%であることが特に好ましい。モノマー単位(U3)の含有量は、全モノマー単位に対して1〜20モル%であることが好ましく、10〜20モル%であることが特に好ましい。
【0061】
架橋性ビニルポリマーはモノマー(M1)〜(M3)を含むモノマーを共重合させることにより得ることができる。共重合体としては、ブロック共重合体およびランダム共重合体のいずれであってもよい。架橋性ビニルポリマーを得るための重合反応は、熱重合反応によることが好ましい。熱重合反応を行う際は、アゾビスイソブチロニトリル等の重合触媒を用いることが好ましい。
【0062】
モノマー単位(U1)としては、下式(1)で表されるモノマーのモノマー単位であることが好ましい。すなわち、モノマー(M1)としては、下式(1)で表されるモノマーが好ましい。
CH=CR−COO−(CH−N・・・(1)
式(1)においてRは水素原子またはメチル基であり、得られる吸水性の架橋樹脂の耐水性向上に効果的であるのでメチル基であることが好ましい。
【0063】
、R、およびRはそれぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアルキル基である。R、R、およびRが後者の基である場合、直鎖構造であっても分岐構造であってもよく、直鎖構造であることが好ましい。また、非置換の基であることが好ましい。置換基を有する場合、置換基としては、アルコキシ基、アリール基、またはハロゲン原子であることが好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。アリール基としてはフェニル基が好ましい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子が好ましい。なお、「炭素数1〜9」は置換基部分を除いたアルキル基部分の炭素数が1〜9であることを意味する。
【0064】
、R、およびRとしては、それぞれ独立に水素原子、メチル基、またはエチル基であることが好ましい。また、これらの基は同一の基であっても異なる基であってもよい。R、R、およびRとしては、全てがメチル基であること、および、これらのうちの1つが水素原子であり、他の2つがメチル基であることが好ましい。
【0065】
は1価アニオンであり、F、Cl、Br、I、およびp−CHSOが挙げられ、吸水性を支配する架橋樹脂層内部に水を保持する空間を確保しやすいため、FおよびClが好ましい。
mは1〜10の整数であり、防曇性能と耐久性との両立が容易である点から2〜5が好ましい。
【0066】
モノマー(M1)としては、以下に示すモノマーが好ましい。
CH=CH−COO−(CH−NH(CHCl・・・(1A)、
CH=C(CH)−COO−(CH−NH(CHCl・・・(1B)、
CH=CH−COO−(CH−N(CHCl・・・(1C)、
CH=C(CH)−COO−(CH−N(CHCl・・・(1D)。
【0067】
モノマー単位(U2)としては、下式(2)で表されるモノマーのモノマー単位であることが好ましい。すなわち、モノマー(M2)としては、下式(2)で表されるモノマーが好ましい。
CH=CR−COOR・・・(2)
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子またはメチル基。
:炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜8のアルコキシアルキル基、アリール基、またはアリールアルキル基。
【0068】
としては、得られる吸水性の架橋樹脂の耐水性向上に効果的であるのでメチル基であることが好ましい。Rが炭素数1〜30のアルキル基である場合、直鎖構造であっても分岐構造であってもよく、直鎖構造であることが好ましい。炭素数1〜30のアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基が特に好ましく、メチル基、エチル基、およびプロピル基がとりわけ好ましい。Rが炭素数2〜8のアルコキシアルキル基である場合、アルキル基部分の炭素数が1〜4であり、該アルキル基に置換するアルコキシ基部分の炭素数が1〜4であることが好ましい。Rが炭素数2〜8のアルコキシアルキル基である場合、メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、およびメトキシプロピル基が好ましく使用できる。
【0069】
がアリール基である場合、フェニル基、トリル基が好ましい。Rがアリールアルキル基である場合、ベンジル基が好ましい。
【0070】
モノマー(M2)としては、以下に示すモノマーが好ましい。
CH=CH−COOCH・・・(2A)
CH=C(CH)−COOCH・・・(2B)
CH=CH−COO−(CH−OCH・・・(2C)
CH=C(CH)−COO−(CH−OCH・・・(2D)。
【0071】
モノマー単位(U3)としては、下式(3)で表されるモノマーのモノマー単位が挙げられる。
CH=CR−COOH・・・(3)
ただし、式中のRは水素原子またはメチル基を示し、水素原子であることが好ましい。Rが水素原子であると、架橋性ビニルポリマーを得るための重合反応が速やかに進行し、重合反応の収率も良好である。このことは、重合反応に関与する部位の立体障害が小さくなるためと考えられる。
【0072】
モノマー(M3)としては前記式(3)で表されるモノマー以外に、不飽和ジカルボン酸および不飽和ジカルボン酸の無水物も使用できる。不飽和ジカルボン酸としては、マレイン酸およびフマル酸等が挙げられる。不飽和ジカルボン酸の無水物としては、無水マレイン酸等が挙げられる。モノマー(M3)としては、式(3)で表されるモノマーが好ましい。
【0073】
本発明は、また、基体表面に塗布、乾燥、反応させることにより基体表面に防曇性の架橋樹脂層を形成させるための液状組成物であって、カチオン性基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U1)、炭化水素基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U2)、および不飽和カルボン酸系モノマーのモノマー単位(U3)を含む架橋性ビニルポリマーと、架橋剤と、溶剤とを含むことを特徴とする防曇剤組成物を提供する。本発明の防曇剤組成物に含まれる架橋性ビニルポリマー、該ポリマーに含まれるモノマー単位(U1)〜(U3)、架橋剤(主たる架橋剤、第2の架橋剤)、溶剤としては、前記と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
【0074】
本発明の防曇剤組成物に含まれる成分の割合は、各々の成分の分子量にもよるが、一般には以下のような割合とすることが好ましい。架橋性ビニルポリマーは、架橋性ビニルポリマー、架橋剤、およびカップリング剤の合計に対して、2〜20モル%含まれることが好ましい。架橋剤は、架橋性ビニルポリマー、架橋剤、およびカップリング剤の合計に対して、10〜90モル%含まれることが好ましい。カップリング剤は、架橋性ビニルポリマー、架橋剤、およびカップリング剤の合計に対して、10〜90モル%含まれることが好ましい。
【0075】
前記好ましい割合を質量%で表すと、以下の割合が好ましい。架橋性ビニルポリマーは、架橋性ビニルポリマー、架橋剤、およびカップリング剤の合計に対して、20〜60質量%含まれることが好ましい。架橋剤は、架橋性ビニルポリマー、架橋剤、およびカップリング剤の合計に対して、40〜80質量%含まれることが好ましい。カップリング剤は、架橋性ビニルポリマー、架橋剤、およびカップリング剤の合計に対して、5〜40質量%含まれることが好ましい。
また、溶剤の量は、架橋性ビニルポリマー、架橋剤、およびカップリングの合計量に対して0.5〜9倍量であることが好ましい。
【0076】
本発明の防曇剤組成物は、前記のようにシランカップリング剤を含んでいることが好ましい。シランカップリング剤を添加することにより、該組成物を用いて形成される、防曇性能を有する吸水性の架橋樹脂と基体表面との密着性を高めることができる。
【0077】
本発明の防曇剤組成物を基体に塗布する際、防曇剤組成物の濡れ性によって塗膜の厚さが不均一になる場合がある。塗膜の厚さが不均一なまま架橋反応が進み、架橋性樹脂が形成されると、防曇性物品に透視歪みを生じる場合がある。塗膜の厚さを均一にするためには、防曇剤組成物にレベリング剤を添加することが好ましい。レベリング剤としては、シリコーン系レべリング剤、フッ素系レべリング剤、および界面活性剤等が挙げられ、シリコーン系レべリング剤が好ましい。シリコーン系レべリング剤としては、アミノ変性シリコーン、カルボニル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、およびアルコキシ変性シリコーン等が挙げられ、アミノ変性シリコーンおよびポリエーテル変性シリコーンが好ましい。
【0078】
その他に、防曇剤組成物に親水性を付与でき、防曇性能を向上させることができる点から、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖等のオキシアルキレン鎖を有するシリコーン系レべリング剤も好ましい。シリコーン系レべリング剤の添加量は、防曇剤組成物に対して0.02〜1質量%とすることで濡れ性を改善でき、塗膜の厚さを均一にすることができる。シリコーン系レべリング剤の添加量が多くなりすぎると、塗膜が白濁する場合があるため、0.02〜0.30質量%が好ましく、0.02〜0.10質量%が特に好ましい。
【0079】
本発明の防曇剤組成物は、さらに改質剤を含むことが好ましい。改質剤を含むことにより、架橋性樹脂や架橋剤のみでは付与できない機能や特性を架橋樹脂に付与したり、また、架橋性樹脂や架橋剤のみでは充分ではない架橋樹脂の機能や特性を向上させたりすることができる。改質剤は、架橋性樹脂や架橋剤等の成分によって適宜選択され、本発明の防曇剤組成物に添加する改質剤としては、架橋性樹脂がカルボキシル基を有する樹脂で架橋剤がエポキシ基を有する架橋剤である場合、モノアミン類およびモノカルボン酸類が好ましい。
【0080】
本発明の防曇剤組成物は、さらにフィラーを含んでいることが好ましい。フィラーを含むことによって、該組成物を用いて形成される架橋樹脂の機械的強度、耐熱性を高めることができ、架橋反応時の樹脂の硬化収縮を低減できる。フィラーとしては、金属酸化物からなるフィラーであることが好ましい。金属酸化物としては、シリカ、アルミナ、チタニア、およびジルコニア等が挙げられ、シリカが好ましい。このようなフィラーとしては、スノーテックスIPA−ST(日産化学工業社製)等が挙げられる。
【0081】
また、前記のフィラーのほかに、ITO(Indium Tin Oxide)からなるフィラーも使用することができる。ITOは赤外線吸収性を有するため、架橋樹脂に熱線吸収性を付与できる。よって、ITOからなるフィラーを使用すると、吸水性に加えて熱線吸収による防曇効果も期待できる。
【0082】
フィラーは粒子状であることが好ましく、その平均粒子径は0.01〜0.3μmであり、0.01〜0.1μmであることが好ましい。また、フィラーの配合量は、架橋性ビニルポリマーと、架橋剤と、シランカップリング剤、必要に応じて添加される改質剤との合計量に対して1〜20質量%が好ましく、1〜10質量%が特に好ましい。1質量%未満であると、架橋樹脂の硬化収縮の低減効果が低下しやすく、20質量%超であると、吸水するための空間が充分に確保できず、防曇性能が低下しやすい。
【0083】
本発明の防曇性物品は、基体表面に設けられた架橋樹脂が、水接触角が30°以上であり、かつ飽和吸水量が60mg/cmであることによって、良好な防曇性能を有し、かつ耐久性にも優れる。また、本発明の防曇性物品は、基体表面に設けられた架橋樹脂が、カチオン性基と架橋性基とを有する架橋性ビニルポリマーと架橋剤との反応によって得られる架橋樹脂であることによって、良好な防曇性能を有し、かつ耐久性にも優れる。さらに、本発明の防曇性物品を構成する架橋性樹脂が、前記の水接触角および飽和吸水量の条件を満たし、かつ、架橋性ビニルポリマーと架橋剤との反応によって得られる架橋樹脂であると、防曇性能がさらに良好であり、耐久性もさらに向上させることができる。
【0084】
本発明の防曇性物品としては、輸送機器(自動車、鉄道、船舶、飛行機等)用窓ガラス、冷蔵ショーケース、洗面化粧台用鏡、浴室用鏡、光学機器等が挙げられる。本発明の防曇剤組成物は、良好な防曇性能を有し、かつ耐久性にも優れるため、前記の防曇性物品を得るために有用である。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
【0086】
[例1]
[例1−1]防曇剤組成物の調製
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、架橋性ビニルポリマーと溶剤の混合物(日本純薬社製、商品名:ジュリマーSPO−601)(9.0g)、平均エポキシ官能基数2.3のグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、商品名:デナコールEX−314)(2.7g)、およびイソホロンジアミン(東京化成工業製)(0.69g)を入れて、25℃にて1時間撹拌した。次いでN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名:KBM602)(0.5g)、ケイ酸テトラエチル(純正化学製)(0.1g)、およびエタノール(純正化学製)(5.2g)を添加して、25℃にて1時間撹拌して、防曇剤組成物1を得た。なお、ジュリマーSPO−601は、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド、メトキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート、およびアクリル酸を溶剤中で熱重合することによって得られると考えられる。
【0087】
[例1−2]防曇性物品の作製
酸化セリウムで表面を研磨洗浄し乾燥した清浄なガラス基板(100mm×100mm×2mm)に、防曇剤組成物1をスピンコートによって塗布して、100℃で1時間焼成し、膜厚20μmの架橋樹脂層を有する防曇性物品1を得た。
得られた防曇性物品1について、以下に示す項目について評価を行った。結果を表1に示す。防曇性物品の水接触角は45°であり、飽和吸水量は99.4mg/cmであった。また、評価試験の結果、防曇性物品1は、優れた防曇性能、耐摩耗性、耐水性、耐熱性、耐湿性、耐水拭き性を有していた。
【0088】
1.水接触角
防曇性物品を室温相対湿度50%の環境下に1時間放置した後、架橋樹脂層の表面に1μLの水滴を滴下し、2分経過後の水接触角を測定した。
2.膜厚
防曇性物品を室温相対湿度50%の環境下に1時間放置した後、触針式表面形状測定器(アルバック社製、商品名:DEKTAK3030)を用いて、膜厚段差を測定した。
【0089】
3.飽和吸水量
防曇性物品を室温相対湿度50%の環境下に1時間放置し、つぎに吸水性の架橋樹脂層の面を40℃の温水蒸気に曝露し、架橋樹脂層の面上に曇りまたは水膜による歪みが生じた直後に微量水分計を用いて防曇性物品全体の水分量(A)を測定する。別途、吸水性の架橋樹脂層が形成されていない基体そのものの水分量(B)を同様の手順で測定し、水分量(A)から水分量(B)を引いた値を架橋樹脂の体積で除した値を飽和吸水量とした。
水分量は、微量水分計(株式会社ケット科学研究所製、商品番号:FM−300)によって測定した。試験サンプルを120℃で加熱し、サンプルから放出された水分を微量水分計内のモレキュラーシーブスに吸着させ、モレキュラーシーブスの重量変化を水分量とした。なお、測定の終点は、1分間あたりの重量変化の変化量が0.02mg以下になったときとした。なお、飽和吸水量の評価は、3.3cm×10cm×厚さ2mmのガラス基板を用いて作製した防曇性物品(吸水性の架橋樹脂層の塗布面積が、33cm)を用いて実施した。
【0090】
4.防曇性能
室温相対湿度50%の環境下に1時間放置した防曇性物品の架橋性樹脂層表面を、40℃の温水浴上に翳し、曇りや水膜による歪みが認められるまでの防曇時間(分)を測定した。なお、通常のガラスは0.01〜0.08分で曇りを生じた。
【0091】
5.耐摩耗性
JIS R 3212(車内側)に準拠して行った。Taber社5130型摩耗試験機で、摩耗輪CS−10Fを用いた。防曇性物品の架橋樹脂層表面に摩耗輪を接触させ、5.00Nの荷重をかけて100回転し、曇価変化ΔH(%)を測定し、以下の評価基準に基づき評価した。
○:ΔHが20%以下であった。
×:ΔHが20%超であるか、または、架橋樹脂層の剥離が観察されるか、の少なくとも一方が生じた。
【0092】
6.耐水性
防曇性物品を40℃の恒温水槽中に150時間放置した後、以下の評価基準に基づき評価した。
○:外観に変化がなく、防曇時間が1分以上であった。
×:外観に変化があるか、または、防曇時間が1分未満であるか、の少なくとも一方が生じた。
【0093】
7.耐熱性
JIS R 3212(合わせガラス)に準拠して行った。防曇性物品を、沸騰水中に2時間保持した後、以下の評価基準に基づき評価した。
○:外観に変化がなく、防曇時間が1分以上であった。
×:外観に変化があるか、または、防曇時間が1分未満であるか、の少なくとも一方が生じた。
【0094】
8.耐湿性
防曇性物品を、90℃、90%RHの恒温恒湿槽中に500時間保持した後、以下の評価基準に基づき評価した。
○:外観に変化がなく、防曇時間が1分以上であった。
×:外観に変化があるか、または、防曇時間が1分未満であるか、の少なくとも一方が生じた。
【0095】
9.耐水拭き性
防曇性物品の架橋樹脂の面を、水(1mL)を含ませたネル布(綿300番)を用い、4.90N/4cmの荷重をかけて5000往復した後、以下の評価基準に基づき評価した。
○:外観に変化がなく、防曇時間が1分以上であった。
×:外観に変化があるか、または、防曇時間が1分未満であるか、の少なくとも一方が生じた。
【0096】
[例2]
[例2−1]防曇剤組成物の調製
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、水(49g)、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(KBM602)(1g)を入れて、25℃にて1時間撹拌し、次いでエタノール(50g)を添加して、コート液Bを調製した。また、例1と同様に防曇剤組成物1を調製した。
【0097】
[例2−2]防曇性物品の作製
研磨洗浄された清浄なガラス基板に、コート液Bをスピンコートによって塗布して、100℃で5分間焼成し、膜厚10nmのアンダーコートを作製した。続いて、アンダーコート上に防曇剤組成物1をスピンコートによって塗布して、100℃で1時間焼成し、膜厚20μmの架橋樹脂層を有する防曇性物品2を得た。
【0098】
防曇性物品2について例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
得られた防曇性物品2は、水接触角が44°、飽和吸水量が95.8mg/cmであった。優れた防曇性能と耐摩耗性、耐水性、耐熱性、耐湿性、耐水拭き性を有していた。
【0099】
[例3]
例1の防曇剤組成物1に、さらにポリオキシアルキレンアミノ変性ジメチルポリシロキサンコポリマー(日本ユニカー社製、商品番号:FZ−3789)(0.03g)(防曇剤組成物に対し0.08質量%)およびエタノール(18g)を添加し、防曇剤組成物3を得た。この防曇剤組成物3を用い、例1と同様に防曇性物品3を得た。
得られた膜厚21μmの架橋樹脂層を有する防曇性物品3は、水接触角が41°、飽和吸水量が106.7mg/cmであり、優れた防曇性能と耐摩耗性、耐水性、耐熱性、耐湿性、耐水拭き性を有していた。
【0100】
[例4]
例1における防曇剤組成物1に含まれるN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(0.5g)とケイ酸テトラエチル(0.1g)とを、テトライソシアネートシラン(松本製薬工業社製、商品番号:SI−400)(0.1g)に変更する以外は例1と同様に防曇剤組成物4を調製し、防曇性物品4を得た。
得られた膜厚30μmの架橋樹脂層を有する防曇性物品4は、水接触角が32°、飽和吸水量が124.8mg/cmであった。優れた防曇性能を有していたが、耐摩耗性でΔHが20%以上となり、耐水性、耐熱性、耐湿性、耐水拭き性で膜剥離が確認された。
【0101】
[例5]
例1における防曇剤組成物1に含まれるイソホロンジアミン(0.69g)をN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン(三菱ガス化学社製、商品名:TETRAD−X)(0.67g)に変更する以外は、例1と同様に防曇剤組成物5を調製し、防曇性物品5を得た。得られた膜厚12μmの架橋樹脂層を有する防曇性物品5は、水接触角が52°、飽和吸水量が56.7mg/cmであった。防曇性物品5優れた防曇性能を有し、耐水性、耐熱性、耐湿性にも優れていたが、耐摩耗性でΔHが20%以上、耐水拭き性で傷が確認された。
【0102】
[例6]
例1の防曇剤組成物1と比較し、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(0.5g)を添加しないこと以外は、例1と同様に防曇剤組成物6を調製し、防曇性物品6を得た。得られた膜厚15μmの架橋樹脂層を有する防曇性物品は、水接触角が35°、飽和吸水量が136.1mg/cmであった。防曇性物品6は優れた防曇性能を有していたが、耐摩耗性でΔHが20%以上、耐熱性で膜剥離、耐水拭き性で傷が確認された。
【0103】
[例7]
例1の防曇剤組成物1と比較し、イソホロンジアミン(0.69g)を添加しないこと以外は、例1と同様に防曇剤組成物7を調製し、防曇性物品7を得た。得られた膜厚19μmの架橋樹脂層を有する防曇性物品7は、水接触角が47°、飽和吸水量が49.1mg/cmであった。防曇性物品7は、防曇性に優れ、耐水性、耐熱性、耐湿性にも優れていたが、耐摩耗性でΔHが20%以上、耐水拭き性で傷が確認された。
【0104】
[例8]
ケイ酸テトラエチル(0.1g)を添加しないこと以外は、例1と同様に防曇剤組成物8を調製し、防曇性物品8を得た。得られた膜厚21μmの架橋樹脂層を有する防曇性物品8は、水接触角が50°、飽和吸水量が98.5mg/cmであった。防曇性物品8は、防曇性、耐摩耗性、耐水性、耐熱性、耐湿性、耐水拭き性に優れていた。
【0105】
[例9]
例1における架橋性ビニルポリマーと溶剤の混合物(9.0g)を、下記の架橋性ビニルポリマーと溶剤との混合物(9.0g)に変更する以外は例1と同様にして防曇剤組成物9を調製し、防曇性物品9を得る。
膜厚が約15μmの架橋樹脂層を有する防曇性物品9は、水接触角が40°以上であり、飽和吸水量が70mg/cm以上である。防曇性物品9は優れた防曇性能と耐摩耗性、耐水性、耐熱性、耐湿性、耐水拭き性を有する。
【0106】
<例9における架橋性ビニルポリマーと溶剤との混合物>
メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(1.07g)[モノマー単位(U1)として25mol%]、アクリル酸2−メトキシエチル(0.80g)[モノマー単位(U2)として30mol%]、メタクリル酸メチル(0.61g)[モノマー単位(U2)として30mol%]、アクリル酸(0.22g)[モノマー単位(U3)として15mol%]を、イソプロピルアルコール(3.15g)と水(3.15g)との混合溶媒中で熱重合して得られる、架橋性ビニルポリマーと溶剤の混合物。
【0107】
[例10]
例1と比較して、防曇剤組成物1の25℃における撹拌時間を3時間以上とし、粘度(25℃)が10Pa・s以上の架橋樹脂10を得る。架橋樹脂10を成形し、厚さが約30μmのフィルム状の架橋樹脂10を得る。架橋樹脂10の片方の表面に粘着剤を塗布し、該粘着剤が塗布された面を清浄なガラス表面に貼り合わせ、膜厚30μmの架橋樹脂層を有する防曇性物品10を得る。
【0108】
防曇性物品10は、水接触角が50°以上、飽和吸水量が70mg/cm以上である。防曇性能と耐摩耗性に優れるが、耐水性、耐熱性、耐湿性、耐水拭き性の試験後に膜剥離が確認される。膜の剥離は粘着剤の劣化によるものと考えられる。
【0109】
[例11]
例1における架橋性ビニルポリマーと溶剤の混合物(9.0g)を、下記の架橋性ビニルポリマーと溶剤との混合物(9.0g)に変更する以外は例1と同様にして防曇剤組成物11を調製し、防曇性物品11を得る。
膜厚が約15μmの架橋樹脂層を有する防曇性物品11は、水接触角が40°以上、飽和吸水量が30mg/cm以下である。防曇性能の評価を行った結果、防曇時間は1分以下であり、耐摩耗性、耐水性、耐熱性、耐湿性、耐水拭き性で膜剥離が確認される。
【0110】
<例11における架橋性ビニルポリマーと溶剤との混合物>
N,N−ジメチルアクリルアミド(0.64g)、アクリル酸2−メトキシエチル(1.01g)、メタクリル酸メチル(0.77g)、およびアクリル酸(0.28g)をイソプロピルアルコール(3.15g)と水(3.15g)との混合溶媒中で熱重合して得られる、架橋性ビニルポリマーと溶剤の混合物。
【0111】
[例12]
架橋性ビニルポリマーと溶剤の混合物(日本純薬社製、商品名:ジュリマーSPO−601)(9.0g)を、下記の架橋性ビニルポリマーと溶剤との混合物(9.0g)に変更する以外は例1と同様にして防曇剤組成物12を調製し、防曇性物品12を得る。
防曇性物品12における架橋樹脂層の厚さは約20μmである。防曇性物品12は、水接触角が60°以上であり、飽和吸水量は15μg/cm以下である。防曇性物品12の防曇時間は1分以下であり、耐水性、耐熱性、耐湿性、耐水拭き性試験後の防曇時間は1分以下である。
【0112】
<例12における架橋性ビニルポリマーと溶剤との混合物>
ポリエチレングリコールジメタクリレート(日立化成工業製、商品名:FA−220M、Mw:330)(0.31g)、アクリル酸2−メトキシエチル(1.11g)、メタクリル酸メチル(0.94g)、およびアクリル酸(0.34g)を、イソプロピルアルコール(3.15g)と水(3.15g)との混合溶媒中で熱重合して得られる、架橋性ビニルポリマーと溶剤の混合物。
【0113】
[例13]
例1における架橋性ビニルポリマーと溶剤の混合物(9.0g)を、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、およびアクリル酸を溶剤中で熱重合して得られる、架橋性ビニルポリマーと溶剤の混合物(日本純薬社製、商品名:ジュリマーAT−510)(9.0g)とすること以外は、例1と同様に防曇性物品13を得る。
膜厚が約8μmの架橋樹脂層を有する防曇性物品13は、水接触角が55°以上、飽和吸水量が10μg/cm以下である。防曇性能の評価を行うと、防曇時間は1分以下である。耐摩耗性の評価でΔHが20%以下であり、耐水性、耐熱性、耐湿性、耐水拭き性の評価で防曇時間が1分以下である。
【0114】
[例14]
例1における平均エポキシ官能基数2.3のグリセロールポリグリシジルエーテル(2.7g)をエポキシ官能基数1のラウリルアルコール(EO)15グリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、商品名:デナコールEX−171)(2.7g)とする以外は、例1と同様に防曇性物品14を得る。
膜厚が約10μmの架橋樹脂層を有する防曇性物品14は、水接触角が60°以上、飽和吸水量が15μg/cm以下である。防曇性能を評価すると、防曇時間は1分以下である。耐摩耗性、耐水性、耐熱性、耐湿性、耐水拭き性の試験後に膜剥離が確認される。
【0115】
[例15]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、ポリカプロラクトンジオール(ダイセル化学工業製、商品名:プラクセルL205AL)(10g)と、ポリエチレングリコール(平均分子量:1000)(20g)を入れて、25℃にて1時間撹拌する。次いで、ポリイソシアネート(住友バイエルウレタン製、ビューレットタイプ、商品名:N3200)(40g)を添加して、25℃にて1時間撹拌する。ついでジアセトンアルコールで希釈して、防曇剤組成物15を得る。
膜厚が約10μmの架橋樹脂層を有する防曇性物品15は、水接触角が10°以下、飽和吸水量が20mg/cm以下である。防曇性能は1分以下であり、耐摩耗性の評価でΔHが20%以下である。
【0116】
【表1】

【0117】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の防曇性物品は、優れた防曇性能を有し、かつ耐久性も備えているため、輸送機器(自動車、鉄道、船舶、飛行機等)用窓ガラス、冷蔵ショーケース、洗面化粧台用鏡、浴室用鏡、光学機器等に利用できる。また、本発明の防曇剤組成物は、これらの防曇性物品の作製に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と該基体表面に設けられた吸水性の架橋樹脂層とを有する防曇性物品であって、前記吸水性の架橋樹脂が、その表面の水接触角が30度以上(ただし、水滴接触2分後の測定値)であり、かつ、その飽和吸水量が60mg/cm以上の架橋樹脂であることを特徴とする防曇性物品。
【請求項2】
架橋樹脂層が、架橋性樹脂と架橋剤とを基体表面で反応させることにより形成された樹脂層である、請求項1に記載の防曇性物品。
【請求項3】
架橋樹脂層が、架橋性樹脂と架橋剤とシランカップリング剤と溶剤とを含む液状組成物を基体表面に塗布し、乾燥、反応させることにより形成された樹脂層である、請求項1または2に記載の防曇性物品。
【請求項4】
基体と該基体表面に設けられた吸水性の架橋樹脂層とを有する防曇性物品であって、前記吸水性の架橋樹脂が、カチオン性基と架橋性基とを有する架橋性ビニルポリマーと架橋剤との反応により得られる架橋樹脂であることを特徴とする防曇性物品。
【請求項5】
架橋性基がカルボキシル基である、請求項4に記載の防曇性物品。
【請求項6】
前記架橋性ビニルポリマーが、カチオン性基を有するモノマー単位、炭化水素基を有するモノマー単位およびカルボキシル基を有するモノマー単位を含む架橋性ビニルポリマーである、請求項4または5に記載の防曇性物品。
【請求項7】
架橋剤が2以上のエポキシ基を有するエポキシ系架橋剤である、請求項5または6に記載の防曇性物品。
【請求項8】
吸水性の架橋樹脂層が、架橋性ビニルポリマーと架橋剤とシランカップリング剤と溶剤とを含む液状組成物を基体表面に塗布し、乾燥、反応させることにより形成された樹脂層である、請求項4〜7のいずれか1項に記載の防曇性物品。
【請求項9】
基体と該基体表面に設けられた架橋樹脂層とを有する防曇性物品であって、前記架橋樹脂が架橋性ビニルポリマーと架橋剤との反応により得られる架橋樹脂であり、前記架橋性ビニルポリマーが、カチオン性基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U1)、炭化水素基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U2)および不飽和カルボン酸系モノマーのモノマー単位(U3)を含む架橋性ビニルポリマーであることを特徴とする防曇性物品。
【請求項10】
架橋性ビニルポリマーが、全モノマー単位に対して、5モル%以上のモノマー単位(U1)と、10モル%以上のモノマー単位(U2)、および、1〜20モル%のモノマー単位(U3)を含む、請求項9に記載の防曇性物品。
【請求項11】
モノマー単位(U1)が、下記式(1)で表されるモノマーのモノマー単位である、請求項9または10に記載の防曇性物品。
CH=CR−COO−(CH−N・・・(1)
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子またはメチル基。
、R、R:それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアルキル基。
:1価アニオン。
m:1〜10の整数。
【請求項12】
架橋剤が2以上のエポキシ基を有するエポキシ系架橋剤である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の防曇性物品。
【請求項13】
架橋樹脂層が、架橋性ビニルポリマーと架橋剤とシランカップリング剤と溶剤とを含む液状組成物を基体表面に塗布し、乾燥、反応させることにより形成された樹脂層である、請求項9〜12のいずれか1項に記載の防曇性物品。
【請求項14】
基体表面に塗布し、乾燥、反応させることにより基体表面に防曇性の架橋樹脂層を形成するための液状組成物であって、カチオン性基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U1)、炭化水素基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U2)および不飽和カルボン酸系モノマーのモノマー単位(U3)を含む架橋性ビニルポリマーと、架橋剤と、溶剤を含むことを特徴とする防曇剤組成物。
【請求項15】
さらにシランカップリング剤を含む、請求項14に記載の防曇剤組成物。
【請求項16】
さらにシリコーン系レべリング剤を含む、請求項14または15に記載の防曇剤組成物。

【公開番号】特開2007−237728(P2007−237728A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203972(P2006−203972)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】