説明

防曇防汚性材料

【課題】 防曇防汚効果の寿命が長く、かつ表面の汚れに対しても容易に清浄化が行なえ、かつ膜としての硬度が実用上十分に高い防曇防汚性材料を提供する。
【解決手段】 金属酸化物マトリクスに、式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル型の界面活性剤を担持して、防曇防汚性材料を調製する。
RO-(CHCHO)n-H …(1)
(式(1)において、RはCの数が16〜18のアルキル基、nは15未満の正数)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鏡やレンズなどの基材の表面に被膜として形成される防曇防汚性材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鏡やレンズなど基材の表面に防曇性を付与する手段として、基材の表面に親水性を付与する方法と、親水性ポリマーを使用する方法とがある。
【0003】
基材の表面に上記のように親水性を付与する方法としては、(イ)基材の表面に微細な凹凸を形成し、界面活性剤を塗布する方法(例えば特許文献1等参照)、(ロ)光触媒を基材の表面にコーティングすることによって、基材の表面を親水性化する方法などが挙げられる。
【0004】
親水性ポリマーを使用する方法では、(ハ)プラスチックフィルムなどの基材の表面に親水性ポリマーをコーティングする方法、(ニ)親水性ポリマーを無機系コーティング材料と混合し、これを基材の表面にコーティングする方法がある。
【0005】
また、鏡やレンズなど基材の表面に防汚性を付与する手段として、基材の表面に親水性を付与する方法と、撥水性を付与する方法がある。
【0006】
基材の表面に上記のように親水性を付与する方法としては、(ホ)親水基であるシラノール基を多く含んだシリカコートを基材の表面に施す方法、(ヘ)光触媒を基材の表面にコーティングすることによって基材の表面を親水化する方法がある。
【0007】
基材の表面を撥水性にする方法では、(ト)基材の表面をフッ素系ポリマー及びその混合品でコーティングする方法がある。
【特許文献1】特開平9−127302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の従来の防曇性付与技術において、(イ)の界面活性剤を塗布する方法では、基材の表面に塗布された界面活性剤が消失してしまえば防曇効果も消失するものであるが、界面活性剤は基材の表面の凹凸に塗布されているだけであるので、結露した水が基材の表面から流れ落ちる際に界面活性剤が共に流れ落ちたり、また基材の表面に付着した汚れを取るため布などで表面を擦る際にも界面活性剤が消失したりするものであり、防曇効果は寿命が非常に短い。また(ロ)の光触媒をコーティングする方法においては、現状の光触媒は紫外線応答型であるため、光触媒機能を活性化させるためには紫外線を照射してやる必要があるが、通常屋内で使用する照明ランプや、蛍光灯では紫外線の量が十分ではなく、しかも光触媒表面への汚れの付着による触媒活性の低下を避けるため常に光触媒表面を清浄にしておく必要があり、屋内での使用に関しては実用的でない。また(ハ)(ニ)の親水性ポリマーを使用する方法では、親水性ポリマーは吸水した際に非常に柔らかくなるためキズなどがつき易いという問題があり、毛染め剤などが付着した場合、親水性ポリマーは色を含んだ水を吸水してしまうため基材の表面が着色してしまい、水などで洗っても落ちないという問題が生じる。
【0009】
また上記の従来の防汚性付与技術においても、(ホ)(ト)の方法は、特に油脂系の汚れに弱いという欠点があり、(ヘ)の方法においては上記と同じ理由で屋内での使用に関しては実用的でない。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、防曇防汚効果の寿命が長く、かつ表面の汚れに対しても容易に清浄化が行なえ、かつ膜としての硬度が実用上十分に高い防曇防汚性材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係る防曇防汚性材料は、金属酸化物マトリクスに、式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル型の界面活性剤を担持して成ることを特徴とするものである。
【0012】
RO-(CHCHO)n-H …(1)
(式(1)において、RはCの数が16〜18のアルキル基、nは15未満の正数)
また請求項2の発明は、請求項1において、金属酸化物マトリクスに金属酸化物粒子を含有することを特徴とするものである。
【0013】
また請求項3の発明は、請求項2において、上記の界面活性剤を含有すると共に上記の金属酸化物粒子を実質的に含有しない第一の金属酸化物マトリクスの層と、この層の表面に設けられる、上記の界面活性剤と上記の金属酸化物粒子を含有する第二の金属酸化物マトリクスの層とから形成したことを特徴とするものである。
【0014】
また請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、金属酸化物マトリクスを形成する材料が架橋性の金属含有物質であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、界面活性剤として上記式(1)のポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤を用いるようにしているので、水に容易に溶出することなく金属酸化物マトリクスに担持させることができ、防曇防汚効果の寿命を長く維持することができると共に、表面の汚れに対しても容易に清浄化を行なうことができるものである。さらにコーティング溶液として使用して基材に塗布するにあたって、基材に対するハジキがなく、良好な膜を形成することができるものである。また界面活性剤を担持する金属酸化物マトリクスによって表面硬度を確保することができ、硬度が実用上十分に高い膜を形成することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0017】
RO-(CHCHO)n-H …(1)
上記の式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤はさまざまな用途に広く使用されている非イオン系界面活性剤であり、基本的にアルキル(R)の部分が親油性を発揮し、エチレンオキシド(CHCHO)の部分が親水性を発揮する。またこのアルキルを構成する炭素(C)の数と、エチレンオキシドの付加モル数nとによって、界面活性剤としての性質が大きく異なることも知られている。
【0018】
そこで発明者は、特に防曇防汚効果の長寿命化という視点で、金属酸化物マトリクスに担持させるポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤を検討した結果、アルキルを構成する炭素(C)の数とエチレンオキシドの付加モル数nとが、防曇防汚効果及び、その寿命に大きく影響することを見出した。具体的には、上記式(1)において、アルキルを構成するCの数が16〜18であり、かつエチレンオキシドの付加モル数nが15未満である場合に、防曇防汚性材料として実用的な効果及び、寿命を発揮することを見いだした。
【0019】
すなわち、アルキルを構成するCの数が16未満であると、界面活性剤の親油性が不足し、防曇防汚効果において充分な寿命を得ることができない。例えばアルキルのCの数が12であるポリオキシエチレンラウリルエーテル型界面活性剤の場合、エチレンオキシドの付加モル数nが3〜50程度の種々の界面活性剤が提供されているが、例えば付加モル数nが6以上のものは容易に水に溶解してしまう。すなわち親油性に対して親水性が大きく勝ってしまい、金属酸化物マトリクスに界面活性剤を担持させて防曇防汚性材料とした場合、界面活性剤の水への溶解が顕著であり、金属酸化物マトリクス中の担持量が早く減少し、防曇防汚効果の消失が早くなる。またエチレンオキシドの付加モル数nが5以下のものは親水基が少ないため、アルキルのCの数が12であっても界面活性剤としては水に溶け難い構造となっているが、この界面活性剤を金属酸化物マトリクスに担持させると、容易に水に溶出してしまい、充分な寿命が得られない。これは、アルキルのCの数が12と少ない上にエチレンオキシドの付加モル数nも5以下と少ないため、界面活性剤の分子の長さが短く、そのため金属酸化物マトリクス内に保持され難くなって、水中へ溶出してしまうものと考えられる。
【0020】
またアルキルを構成するCの数が19以上であると、界面活性剤の親油性が強くなり過ぎてしまう。例えば金属酸化物マトリクスを一般的なオルガノアルコキシシランなどを用いて形成した場合は水系溶液となるため、基材に防曇防汚性材料を塗布する際には基材の表面を親水化しておくのであるが、界面活性剤の親油性が強過ぎるため、基材への塗布時に水系溶液のハジキが生じてしまい、塗布ができなくなってしまうという問題を生じる。
【0021】
またエチレンオキシドの付加モル数nについては、15以上であると親水性が強くなり過ぎてしまい、界面活性剤は水に対して容易に溶解してしまう。これはアルキルのCの数が19以上の界面活性剤についても同様であり、やはり親水基の増加により水への溶解が顕著となり、防曇防汚効果の長寿命化は望めない。エチレンオキシドの付加モル数nの下限は特に設定されないが、実用的には付加モル数nは2以上であることが好ましい。
【0022】
ここで、HLB(Hydrophi1e Lipophile Ba1ance)は非イオン系界面活性剤の親油基と親水基の間のバランスを表す指標として広く使用されている数値であり、本発明に用いるポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤のHLBは次式で表される。すなわちHLBの数値が大きい程、界面活性剤中に含まれる親水基の量が多く、水になじみやすいということがいえる。
【0023】
HLB=E/5 (E:界面活性剤におけるエチレンオキシドの重量分率(%))
そして本発明において用いるポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤のHLBは8〜15の範囲にあることが好ましい。HLBが8未満であると親水基の割合が低く、防曇防汚効果を十分に得ることができず、また15より大きいと水に対する溶解度が高過ぎて防曇防汚効果の寿命が短くなってしまうおそれがある。
【0024】
上記の界面活性剤の防曇防汚性材料中の含有量は、体積比率で5〜80vol%の範囲が好ましい。界面活性剤の含有量が5vol%未満であると、防曇防汚効果が十分に発揮されない。また界面活性剤の含有量が80vol%を超えると、防曇防汚性材料で形成される膜の硬度が実用に適さないほどに低くなるおそれがあると共に、膜の骨格を十分に形成することができなくなり、金属酸化物マトリクスに界面活性剤を担持しておくことが困難になって、流水等により容易に界面活性剤が流出してしまい、長寿命を得ることができなくなるものである。
【0025】
本発明において金属酸化物マトリクスの形成材料としては、架橋性の金属含有物質を用いるのが好ましい。この架橋性の金属含有物質としては、ケイ素、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、スズを含有した物質を挙げることができる。
【0026】
架橋性のケイ素含有物質としては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどに代表されるオルガノアルコキシシラン、またはこれらが部分加水分解・縮合反応して形成される、メチルシリケートなどのシロキサン骨格を有するオリゴマー、あるいはケイ酸ナトリウム(水ガラス)、シリコーンなどを挙げることができる。
【0027】
架橋性のチタン含有物質としては、例えばチタンテトラブトキシド、チタンイソプロコキシド、チタンキレートなどを挙げることができる。また四塩化チタンなどの塩化物を用いることもできる。
【0028】
架橋性のジルコニウム含有物質としては、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムアセチルアセトネート等のジルコニウムキレートなどを挙げることができる。また塩化酸化ジルコニウム、塩化ジルコニウムなどの塩化物を用いることもできる。
【0029】
架橋性のアルミニウム含有物質としては、例えばアルミニウムブトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムアセチルアセトネートなどのアルミニウムキレートなどが挙げられる。また塩化アルミニウムなどの塩化物、硝酸アルミニウムなどの硝酸塩を用いることもできる。
【0030】
架橋性のスズ含有物質としては、例えばスズブトキシド、スズエトキシド、スズアセチルアセトネートなどのスズキレートなどを挙げることができる。また塩化スズなどの塩化物、酢酸スズなどの酢酸塩を用いることもできる。
【0031】
上記のなかでも、架橋性のケイ素含有物質はコーティング材料として広く使われており、防曇防汚性材料を膜として形成する場合に、安価でかつ簡単なプロセスで膜を形成することができるために、特に好ましい。また架橋性のケイ素含有物質は屈折率も低いので、膜を形成した場合に干渉色がつき難く、透明な膜の形成にも適しているものである。有機系材料の膜の場合は一般に膜の硬度が低いため、傷が付き易く、耐摩耗性が低いなどの欠点があるが、このような問題もない。また、上記の架橋性の金属含有物質は単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いても構わない。例えば金属酸化物マトリクス形成材料としてケイ素の酸化物を用いる場合、これに加えてチタン、ジルコニウム、アルミニウム、スズの酸化物を添加することにより、金属酸化物マトリクスの耐水性、耐アルカリ性が向上するものである。
【0032】
架橋性の金属含有物質に界面活性剤を混合してコーティング材料を調製し、これを基材の表面にコーティングして架橋させることによって、金属酸化物マトリクスに界面活性剤が担持された防曇防汚性材料の膜を得ることができるものであり、界面活性剤の働きで膜の表面が親水性となり、そのため防曇防汚性が発揮される。しかし上記のように、水洗や結露水などによって、膜の金属酸化物マトリクスに担持された界面活性剤が徐々に水に溶出して防曇防汚機能が減少し、ついにはこの機能の寿命が尽きてしてしまう。また同時に界面活性剤を担持している金属酸化物マトリクスの水への溶出も避けることができない。なぜならコーティング膜として供するために架橋性の金属含有物質を用いて金属酸化物マトリクスを形成するのであるが、例えば金属酸化物がケイ素酸化物の場合、金属酸化物マトリクスの架橋度が低いため親水性のシラノール基が多量に残存し、ここに水がトラップされて金属と酸素の結合を切っていくからである。金属酸化物マトリクスの架橋度が低くなる原因としては、基材がプラスチックなどである場合の耐熱性による温度の制約、担持させている界面活性剤の揮発による温度の制約で、架橋の際の乾燥温度を高くすることができないことが挙げられる。このように防曇防汚性材料としてその機能の長寿命化を検討する際に、界面活性剤の水への溶出抑制と、膜の骨格を形成する金属酸化物マトリクスの耐水性が重要となってくる。
【0033】
本発明では、そこで防曇防汚性材料の金属酸化物マトリクス中に金属酸化物粒子を分散させるようにしている。すなわち、金属酸化物粒子をこのように分散させることによって、金属酸化物粒子が水の界面活性剤及び金属酸化物マトリクスに対するアタックの障害となって、防曇防汚性材料の耐水性を著しく向上させることができるものであり、また分散された金属酸化物粒子間には隙間があるので、担持された界面活性剤はこの隙間を通して膜の表面に除放されることになり、すなわち金属酸化物粒子によって界面活性剤の溶出を抑制することができるものであり、防曇防汚効果が長期間に亘って損なわれないようにすることができるものである。
【0034】
図1に、基材1の表面に膜Aとして形成した防曇防汚性材料の態様を示す。図1において2は界面活性剤を担持した金属酸化物マトリクス、3は金属酸化物粒子である。ここで、金属酸化物マトリクス2中における金属酸化物粒子3の含有量は、体積比率で20〜80vol%の範囲が好ましい。金属酸化物粒子3の含有量が20vol%未満であると、上記のような金属酸化物粒子3を分散することによる効果を十分に得ることができない。逆に金属酸化物粒子3の含有量が80vol%を超えると、マトリクスの骨格を形成する金属酸化物の量が少なくなるために金属酸化物マトリクス2を十分に形成することができなくなり、防曇防汚性材料による膜Aの硬度が実用に適さないほど低くなるおそれがあると共に、界面活性剤を十分に担持しておくことができなくなる。すなわち水により容易に界面活性剤が溶出して、長寿命を得ることができなくなるおそれがある。
【0035】
このような金属酸化物粒子としては、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、亜鉛、スズ等の酸化物、或いはゼオライト等の複合金属酸化物を用いることができるが、これらのなかでも、一般的にコーティング材料において広く使用されており、またそのものが親水性を持っており、さらにはその低い屈折率のため微粒子を用いることによって透明なコーティング膜が得られやすい、ケイ素の酸化物粒子が特に好ましい。
【0036】
ここで、金属酸化物粒子の平均粒径は、1〜100nmの範囲が好ましい。金属酸化物粒子の平均粒径が1nm未満の場合は、金属酸化物粒子の表面エネルギーが大きく、粒子同士の凝集力が大きくなってしまうために均一な分散が困難となり、上記の水のアタックに対する障害という機能を十分に得ることができなくなる。また金属酸化物粒子の平均粒径が100nmを超えると、粒子間の隙間が大きくなり、同様に水のアタックに対する障害という機能が得られない。さらに、防曇防汚性材料を透明なコーティング膜として使用する場合は、金属酸化物粒子の平均粒径は50nm以下であることが望ましい。50nmを超える場合には金属酸化物粒子が可視光を乱反射するため透明性が損なわれるものである。
【0037】
また金属酸化物粒子の防曇防汚性材料中の含有量は、3〜90質量%の範囲が好ましい。金属酸化物粒子の含有量が3質量%未満では、水のアタックに対する障害という機能を十分に得ることができない。また金属酸化物粒子の含有量が90質量%を超えると、界面活性剤及び金属酸化物マトリクスの量が少なくなってしまい、防曇防汚機能を十分に得ることができなくなる共に、膜としての構造を保つことができなくなるおそれがある。
【0038】
上記のように、金属酸化物マトリクスに金属酸化物粒子を含有させることにより、防曇防汚効果を損なうことなく、耐水性の向上により効果の長寿命化を図ることができるものであるが、金属酸化物粒子の含有により、防曇防汚性材料中に担持される界面活性剤の量が減少することは避けられないので、防曇防汚効果の長寿命化が損なわれてしまうことになる。
【0039】
そこで図2の実施の形態では、基材1の表面に界面活性剤を含有すると共に金属酸化物粒子3を実質的に含有しない第一の金属酸化物マトリクスの層4を形成し、この層4の表面に界面活性剤と金属酸化物粒子3を含有する第二の金属酸化物マトリクスの層5を形成し、この二層構造で防曇防汚性材料の膜Aを形成するようにしてある。このように、金属酸化物粒子3を含まない層4を第一層とし、金属酸化物粒子3を含む層5を第二層とした積層構造にすることにより、第一の層4で界面活性剤の担持量を多く保ちつつ、金属酸化物粒子3を有する表面側の第二の層5で界面活性剤の溶出抑制効果を得ることができるものであり、高い防曇防汚効果を長期間に亘って維持することができるものである。尚、第一の金属酸化物マトリクスの層4に金属酸化物粒子3を「実質的に」含有しないとは、金属酸化物粒子3を全く含有しない場合は勿論、金属酸化物粒子3を含有することによる上記の効果が得られない程度に微量含有していてもよいということを意味する。
【0040】
上記のように基材1の表面に形成される防曇防汚性材料の膜Aの厚みは、特に限定されるものではないが、100〜5000nmの範囲が好ましい。また膜Aを二層構造に形成する場合、第一の層4と第二の層5の厚みの比率は特に限定されないが、9:1〜5:5の範囲が好ましい。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。尚、配合計算に必要な密度は次の数値を用いた。SiO:2.2g/cm、TiO:4.2g/cm、ZrO:5.7g/cm、「エマルゲン210P」:1g/cm、「エマルゲン320P」:1g/cm、「エマルゲン404」:1g/cm
【0042】
(実施例1)
金属酸化物マトリクスの形成材料である、架橋性の金属含有物質として、ケイ素含有物質であるTEOS:テトラエトキシオルソシリケート(別名テトラエトキシシラン:東京化成工業(株)製)を用いた。また界面活性剤として構造式が
RO−(CHCHO)n−H
(Rで表されるアルキルを構成するCの数は16、(CHCHO)で表されるエチレンオキシドの付加モル数nは7、HLBは10.7:花王(株)製「エマルゲン210P」)
で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤を用いた。
【0043】
そしてまず、TEOS:エタノール:水:塩酸=1:8:5:0.003(モル比)となるように混合し、3時間攪拌することにより架橋性金属含有物質の混合溶液を得た。次いで「エマルゲン210P」を混合溶液の乾燥後材料の50vol%体積率となるように混合し、1時間攪拌することによりコーティング溶液を得た。体積率は乾燥後材料を形成する金属酸化物マトリクスであるケイ素酸化物(シリカ)の密度と界面活性剤の密度をそれぞれ2.2g/cm、0.95g/cmとして計算した。
【0044】
次に、このコーティング溶液にガラス基板をディップし、毎秒1mmの速度で引き上げた後、80℃にて3時間乾燥させることによって、防曇防汚性材料からなる厚み の膜がコーティングされたガラス基板を得た。
【0045】
(実施例2)
実施例1において、界面活性剤として構造式が
RO−(CHCHO)n−H
(Rで表されるアルキルを構成するCの数は18、(CHCHO)で表されるエチレンオキシドの付加モル数nは13、HLBは13.9:花王(株)製「エマルゲン320P」)
で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤を用いるようにした。その他は実施例1と同様にして、防曇防汚性材料からなる厚み480nmの膜がコーティングされたガラス基板を得た。
【0046】
(実施例3)
実施例1において、界面活性剤として構造式が
RO−(CHCHO)n−H
(Rで表されるアルキルを構成するCの数は18、(CHCHO)で表されるエチレンオキシドの付加モル数nは4、HLBは8.8:花王(株)製「エマルゲン404」)
で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤を用いるようにした。その他は実施例1と同様にして防曇防汚性材料からなる厚み510nmの膜がコーティングされたガラス基板を得た。
【0047】
(実施例4)
実施例1で得たコーティング溶液にチタン含有物質であるチタンテトラブトキシド(和光純薬工業(株)製)を添加した。添加量は金属酸化物全体(SiO+TiOとして計算)に占めるTiOのモル比が10mol%となるように設定した。そしてこのコーティング溶液を用い、実施例1と同様にして防曇防汚性材料からなる厚み620nmの膜がコーティングされたガラス基板を得た。
【0048】
(実施例5)
実施例1で得たコーティング溶液にジルコニウム含有物質であるジルコニウムブトキシド(和光純薬工業(株)製)を添加した。添加量は金属酸化物全体(SiO+ZrOとして計算)に占めるZrOのモル比が10mol%となるように設定した。そしてこのコーティング溶液を用い、実施例1と同様にして防曇防汚性材料からなる厚み650nmの膜がコーティングされたガラス基板を得た。
【0049】
(実施例6)
金属酸化物マトリクスの形成材料として実施例1と同じTEOS、界面活性剤として実施例1と同じ「エマルゲン210P」を用いた。また金属酸化物粒子用原材料として、平均粒径が50nmのケイ素酸化物(シリカ)を含有するコロイド水溶液(「スノーテックスOL」日産化学工業(株)製、シリカ20.8質量%含有)を用いた。
【0050】
そしてTEOS:「スノーテックOL」が含有するシリカ:エタノール:水(「スノーテックOL」が含有する水を含む):塩酸=1:1:3:13:0.01(モル比)となるように混合し、3時間攪拌することにより、金属酸化物粒子を含んだ架橋性金属含有物質の混合溶液を得た。この混合溶液の配合によれば、金属酸化物マトリクス中における金属酸化物粒子の体積比率は50vol%となる。次いで「エマルゲン210P」を混合液の乾燥後材料の50vol%体積率となるように混合し、1時間攪拌することによりコーティング溶液を得た。体積率は乾燥後材料を形成する金属マトリクスであるケイ素の酸化物(シリカ)の密度と界面活性剤の密度をそれぞれ2.2g/cm、1g/cmとして計算した。
【0051】
次に、このコーティング溶液にガラス基板をディップし、毎秒1mmの速度で引き上げた後、80℃にて3時間乾燥させることによって、防曇防汚性材料からなる厚み340nmの膜がコーティングされたガラス基板を得た(図1参照)。
【0052】
(実施例7)
実施例1で作製した防曇防汚性材料の層(金属酸化物粒子を含有しない層)がコーティングされたガラス基板を、実施例6で作製した金属酸化物粒子を含むコーティング溶液中にディップし、毎秒1mmの速度で引き上げた後、80℃にて3時間乾燥させることによって、界面活性剤を含有すると共に金属酸化物粒子を含有しない第一の金属酸化物マトリクスの層と、界面活性剤と金属酸化物粒子を含有する第二の金属酸化物マトリクスの層(厚み280nm)とからなる二層構造の防曇防汚性材料の膜がコーティングされたガラス基板を得た(図2参照)。
【0053】
(比較例1)
実施例1において、界面活性剤として構造式が
RO−(CHCHO)n−H
(Rで表されるアルキルを構成するCの数は12、(CHCHO)で表されるエチレンオキシドの付加モル数nは3、HLBは8.1:花王(株)製「エマルゲン103」)
で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤を用いるようにした。その他は実施例1と同様にして、防曇防汚性材料からなる厚み490nmの膜がコーティングされたガラス基板を得た。
【0054】
(比較例2)
実施例1において、界面活性剤として構造式が
RO−(CHCHO)n−H
(Rで表されるアルキルを構成するCの数は18、(CHCHO)で表されるエチレンオキシドの付加モル数nは30、HLBは16.2:花王(株)製「エマルゲン403」)
で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤を用いるようにした。その他は実施例1と同様にして、防曇防汚性材料からなる厚み500nmの膜がコーティングされたガラス基板を得た。
【0055】
(比較例3)
実施例1において、界面活性剤として構造式が
RO−(CHCHO)n−H
(Rで表されるアルキルを構成するCの数は12、(CHCHO)で表されるエチレンオキシドの付加モル数nは12、HLBは15.3:花王(株)製「エマルゲン120」)
で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤を用いるようにした。その他は実施例1と同様にして、防曇防汚性材料からなる厚み490nmの膜がコーティングされたガラス基板を得た。
【0056】
上記の実施例1〜7及び比較例1〜3で得た防曇防汚性材料の膜をコーティングしたガラス基板について、表面硬度、接触角、防曇性、防汚性を次の方法で測定し、その評価結果を表1に示した。
(表面硬度測定法) JIS K5400 8.4鉛筆ひっかき値による。
(接触角測定法) JIS R3257 6.静置法による。
(防曇性測定法) ウォーターバスで水を沸騰させ、ガラス基板をこのウォーターバス上で垂直にぶら下げ、ガラス基板が常に水蒸気に曝されるようにした。この状態で15分問保持し、ガラス基板の曇りを観察した。曇りが生じなければ、次いでガラス基板を乾燥させ、再度ウォーターバス上にぶら下げ、水蒸気に曝して曇りの観察を行ない、曇りが見られるまでこれを繰り返した。そして例えば5回目に水蒸気に曝した際に曇りが観察されれば、防曇性は4回とした。
(防汚性測定法) ガラス基板の表面に褐色化した食用油を滴下し、24時間保持した後に流水にて1分間ガラス基板を洗浄し、ガラス基板を乾燥させた。これを2回繰り返した後、ガラス基板の変色を目視観察した。
【0057】
【表1】

【0058】
また実施例1〜7及び比較例1〜3で得た防曇防汚性材料の膜をコーティングしたガラス基板について、防曇防汚性の寿命の試験を次の方法行ない、その評価結果を表2に示した。
(寿命試験) ガラス基板のコーティング面を水平面に対し45°の角度となるように配置し、水平面に対して垂直方向、すなわちコーティング面に対し45°の方向から1リットル/分の速度でコーティング面に均一に当たるように水を流した。これを24時間続けた後、上記の(接触角測定法)で接触角を、上記の(防汚性測定法)で防汚性をそれぞれ測定した。
【0059】
【表2】

【0060】
表1及び表2にみられるように、各実施例のものは、表面硬度が高く、また接触角が小さくて防曇性や防汚性が良好であり、流水24時間後も小さい接触角を維持して防汚性を長寿命化できるものであった。一方、各比較例のものでは、流水24時間後に接触角が大きくなり、防汚性が低下するものであった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の他の実施の形態の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 基材
2 金属酸化物マトリクス
3 金属酸化物粒子
A 防曇防汚性材料の膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物マトリクスに、式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル型の界面活性剤を担持して成ることを特徴とする防曇防汚性材料。
RO-(CHCHO)n-H …(1)
(式(1)において、RはCの数が16〜18のアルキル基、nは15未満の正数)
【請求項2】
金属酸化物マトリクスに金属酸化物粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載の防曇防汚性材料。
【請求項3】
上記の界面活性剤を含有すると共に上記の金属酸化物粒子を実質的に含有しない第一の金属酸化物マトリクスの層と、この層の表面に設けられる、上記の界面活性剤と上記の金属酸化物粒子を含有する第二の金属酸化物マトリクスの層とから形成したことを特徴とする請求項2に記載の防曇防汚性材料。
【請求項4】
金属酸化物マトリクスを形成する材料が架橋性の金属含有物質であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の防曇防汚性材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−119560(P2007−119560A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311998(P2005−311998)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】