説明

防毒マスク及び防じんマスク

【課題】使用した時間を正確に計時、積算することが可能で、安全にまた効率的に使用することが可能な防毒マスク及び防じんマスクを提供する。
【解決手段】有毒ガスを吸収する吸収缶2と、面体3と、該面体3の接顔部15に設けられ、該面体3を着用したとき顔の一部で押下されオンとなり、該面体3を顔から外すとオフとなる面体スイッチ20と、該面体スイッチ20と連動し該面体3を着用した時間を計時する計時手段と、該吸収缶の使用限度時間を設定可能な時間設定手段と、データを記憶する記憶手段と、信号を受けて警報を発する警報手段と、該計時手段が計時した時間を積算し、積算した時間が該時間設定手段により設定された時間に達したとき、該警報手段に信号を出力する演算制御手段とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収缶を備える防毒マスク、ろ過材を備える防じんマスクに関し、特に吸収缶、又はろ過材の交換時期をマスク着用者及び周囲の者に報知する装置を備える防毒マスク、及び防じんマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように環境空気中の有害なガスを吸収缶により除去する防毒マスクには、直結式、直結式小型、隔離式の3種類のマスクがあり、ガスの種類に応じた吸収缶が防毒マスクに取り付けられ使用される。環境空気中の粉塵などをろ過材で除去する防じんマスクは、取替え式防じんマスク、使い捨て防じんマスクに分類され、取替え式防じんマスクには、隔離式防じんマスクと直結式防じんマスクがある。防毒マスクの吸収缶や取替え式防じんマスクのろ過材には、使用限度が決められているため、使用環境に応じて所定の時間使用した後は、新たな吸収缶、又はろ過材に取り替える必要がある。このため防毒マスクや防じんマスクを使用する者は、吸収缶、又はろ過材の使用時間を計測し、積算値を求める必要がある。
【0003】
従来、防毒マスクの吸収缶の使用時間は、使用時間記録カードに記録するなどの方法で管理されていたため、防毒マスクを使用した場合であっても、防毒マスクの使用時間を使用時間記録カードに記録することを失念する可能性があった。防毒マスクの使用時間の記録を失念すると、使用限度時間に達した吸収缶を使用することとなり、安全上、又は衛生上好ましくないことは言うに及ばない。この問題を解決する方法として、吸収缶に使用時間を計時する計時手段と、計時手段によって計時された使用限度時間が近づくとこれを報知する報知手段とを備えた防毒マスクが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−164537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、カウンタ回路が内蔵されたカウンタ装置を吸収缶に取り付け使用する。カウンタ装置には、スイッチが設けられており、吸収缶を使用するとき、つまり防毒マスクを着用するとき、防毒マスク着用者は、このスイッチを入れ、防毒マスクの着用が終わるとこのスイッチを切る。このスイッチの入り切りよって、吸収缶の使用時間が計時される。カウンタ回路基板にはメモリが備えられ、吸収缶の使用時間は累積され、メモリに記憶される。さらにカウンタ回路基板には吸収缶の使用限度時間を予め記憶したROMが備えられ、使用時間の累積値と予め入力した吸収缶の使用限度時間とから、吸収缶の使用限度時間になると、光や音で報知するとする。
【0005】
特許文献1の技術は、防毒マスクを使用(着用)する者が、カウンタ装置のスイッチを入り切りするため、使用に際してスイッチを入れることを失念する場合がある。この状態で使用すると、吸収缶の累積使用時間が短く、まだ吸収缶の使用限度時間に達していないと判断され、吸収缶を使用してはいけない状態にもかかわらず、防毒マスクを使用することとなってしまい、安全上、衛生上好ましくない。逆に防毒マスクの使用者が、カウンタ装置のスイッチを切り忘れると、吸収缶の累積使用時間が長くなり、実際はまだ吸収缶の使用限度時間に達していないにもかかわらず使用限度に到達したと判断される。このような状況にあっては、まだ吸収缶を使用することが可能であるにもかかわらず、吸収缶を廃棄することなり不経済である。
【0006】
また防毒マスクは、一度の作業で吸収缶が破過するとは限らず、同じ吸収缶を何度かの作業で使用する場合も多い。このとき前回までの作業で吸収缶が破過しているにもかかわらず、これに気付かずその吸収缶をそのまま使用すると、安全衛生上好ましくない。このように吸収缶が破過している場合は、それを防毒マスクを着用しようとする者に報知し、吸収缶を交換することなく引き続き使用することがないような防毒マスクとする必要がある。以上のことは、ろ過材を時間で管理する取り替え式防じんマスクについても同じことが言える。
【0007】
本発明の目的は、使用した時間を正確に計時、積算することが可能で、安全にまた効率的に使用することが可能な防毒マスク及び防じんマスクを提供することにある。また使用限度時間に達した吸収缶を交換することなく引き続き使用することがない防毒マスク、又は、使用限度時間に達したろ過材を交換することなく引き続き使用することがない防じんマスクを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、有毒ガスを吸収する吸収缶と、
面体と、
該面体の接顔部に設けられ、該面体を着用したとき顔の一部で押下されオンとなり、該面体を顔から外すとオフとなる面体スイッチと、
該面体スイッチと連動し該面体を着用した時間を計時する計時手段と、
該吸収缶の使用限度時間を設定可能な時間設定手段と、
データを記憶する記憶手段と、
信号を受けて警報を発する警報手段と、
該計時手段が計時した時間を積算し、積算した時間が該時間設定手段により設定された時間に達したとき、該警報手段に信号を出力する演算制御手段と、
を含むことを特徴とする防毒マスクである。
【0009】
また本発明で、前記防毒マスクは、直結式小型防毒マスク又は直結式防毒マスクであり、
前記吸収缶は、前記面体に設けられたアダプタに装着され、
該アダプタは、前記吸収缶を装着したとき吸収缶に押下されオンとなり、前記吸収缶を該アダプタから取り外すとオフなるアダプタスイッチを備え、
該アダプタスイッチがオンのとき前記計時手段は計時可能で、前記記憶手段が記憶するデータは、該アダプタスイッチがオフにならないと消去されないことを特徴とする請求項1に記載の防毒マスクである。
【0010】
また本発明は、環境空気中の粉塵を除去するろ過材と、
面体と、
該面体の接顔部に設けられ、該面体を着用したとき顔の一部に押下されオンとなり、該面体を顔から外すとオフとなる面体スイッチと、
該面体スイッチと連動し該面体を装着した時間を計時する計時手段と、
該吸収缶の使用限度時間を設定可能な時間設定手段と、
データを記憶する記憶手段と、
信号を受けて警報を発する警報手段と、
該計時手段が計時した時間を積算し、積算した時間が該時間設定手段により設定された時間に達したとき、該警報手段に信号を出力する演算制御手段と、
を含むことを特徴とする防じんマスクである。
【0011】
また本発明で、前記防じんマスクは、直結式防じんマスクであり、
前記ろ過材は、前記面体に取り付けられたアダプタに装着され、
該アダプタは、前記ろ過材を装着したときろ過材に押下されオンとなり、前記ろ過材を該アダプタから取り外すとオフなるアダプタスイッチを備え、
該アダプタスイッチがオンのとき前記計時手段は計時可能で、前記記憶手段が記憶するデータは、該アダプタスイッチがオフにならないと消去されないことを特徴とする請求項3に記載の防じんマスクである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防毒マスクは、有毒ガスを吸収する吸収缶と、面体と、面体の接顔部に設けられ、面体を着用したとき顔の一部で押下されオンとなり、面体を顔から外すとオフとなる面体スイッチと、面体スイッチと連動し面体を着用した時間を計時する計時手段と、吸収缶の使用限度時間を設定可能な時間設定手段と、データを記憶する記憶手段と、信号を受けて警報を発する警報手段と、計時手段が計時した時間を積算し、積算した時間が時間設定手段により設定された時間に達したとき、警報手段に信号を出力する演算制御手段と、
を含むので、従来の防毒マスクのように、吸収缶の使用時間を計測するためのスイッチの入り忘れ、切り忘れがない。この結果、防毒マスクを着用した時間を正確に計時、積算することが可能となり、安全にまた効率的に防毒マスクを使用することができる。また本発明の防じんマスクも同様の構成からなるので、防じんマスクを使用した時間を正確に計時、積算することが可能となり、安全にまた効率的に防じんマスクを使用することができる。
【0013】
また本発明の防毒マスクは、直結式小型防毒マスク又は直結式防毒マスクであり、吸収缶は、面体に設けられたアダプタに装着され、アダプタは、吸収缶を装着したとき吸収缶に押下されオンとなり、吸収缶をアダプタから取り外すとオフなるアダプタスイッチを備え、アダプタスイッチがオンのとき計時手段は計時可能で、記憶手段が記憶するデータは、アダプタスイッチがオフにならないと消去されないので、吸収缶を装着しないと計時手段は計時を行わず、吸収缶を装着していないのもかかわらず、誤って防毒マスクの使用時間がカウントされることはない。また、吸収缶をアダプタから取外さないと、計時手段が計時した積算時間がリセットされないので、吸収缶が交換時期に達したとき、吸収缶の交換を忘れることがない。これにより使用限度時間に達した吸収缶を交換することなく引き続き使用することがなくなり、安全衛生上好ましい。
【0014】
また本発明の防じんマスクも同様の構成からなるので、ろ過材を装着していないにもかかわらず、誤って防じんマスクの使用時間がカウントされることはない。また、ろ過材をアダプタから取外さないと、計時手段が計時した積算時間が消去されないので、ろ過材が交換時期に達したとき、ろ過材の交換を忘れることがない。これにより使用限度時間に達したろ過材を交換することなく引き続き使用することがなくなり、安全衛生上好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明の第一実施形態としての直結式小型防毒マスク1の斜視図である。図2は、直結式小型防毒マスク1を切断線II―IIで切断した部分断面図である。図3は、直結式小型防毒マスク1の吸収缶を支持固定するアダプタの断面図である。直結式小型防毒マスク1は、2つの吸収管2(2a、2b)を備えるダイブルタイプの防毒マスクであり、着用者の鼻及び口を覆う面体3を備え、面体3の外面には吸収缶2を装着するためのアダプタ4(4a、4b)が設けられている。また面体3の外面のほぼ中央部にはタイマー表示部5が取り付けられ、面体の外面の下部には排気口6が設けられている。
【0016】
面体3は、柔軟性を有するゴムで形成され、両側端面には防毒マスク1を着用するとき、顔に面体3を固定するためのしめ紐7が取り付けられている。また、面体3の外面の両側部に設けられたアダプタ4(4a、4b)の外周には、ねじが設けられ、吸収缶2をアダプタ4に嵌め入れた後、アダプタ4のねじと螺合するねじを有する締め付けリング8(8a、8b)で吸収缶2を締め付ける。これにより、吸収缶2はアダプタ4に着脱自在に固定される。
【0017】
面体3は、内面側の一部9が2重構造となっている。この2重構造となっている部分にタイマー10が、またタイマー10底部であって面体3の接顔部15に面体スイッチ20が取り付けられている。タイマー10は、タイマー本体11と発光装置であるタイマー表示部5とを含み、タイマー本体11は、面体3の内面側の2重構造部9に形成されたタイマー本体収納部12に収納されており、タイマー表示部5は面体3の外面に突出するように取り付けられている。
【0018】
タイマー10は、吸収缶2の使用時間を計時するとともに、吸収缶2の使用時間が吸収缶2の使用限度時間に到達すると、タイマー表示部5及び図示を省略したブザーを通じて警報を発する。タイマー10は、図示を省略した駆動用の電源から電力の供給を受け駆動する。タイマー本体11は、任意の時間を設定可能な時間設定部、時間を計測する計時部、計測した時間を記憶する記憶部、計時した時間を積算する積算機能を有する演算制御部を備え、演算制御部は、計時手段が計時した時間、又は積算時間が、時間設定部により設定された時間に達したときは、タイマー表示部5に信号を出力し、タイマー表示部5は所定の発光表示を行う。さらにタイマー本体11は、図示を省略したブザーを内蔵し、演算制御部からの信号に基づき作動し、警報音を発する。
【0019】
上記のように本実施形態でタイマー10は、時間を計時する計時手段、時間を設定可能な時間設定手段、データを記憶する記憶手段、警報を発する警報手段、及び演算制御手段を一体的に備え、各手段の機能を発揮するが、これら各手段は、必ずしも一体的に構成されている必要はない。例えば、時間を計時手段としてカウンタを、また警報手段としてランプを使用し、時間設定手段、記憶手段及び演算制御手段にマイコンを使用し、これを接続してデータの送受信を行うことで各機能を発揮させてもよい。
【0020】
面体スイッチ20は、面体3を着用した時間を計時するために使用され、面体3の内面側の2重構造部9内であって、面体3を着用すると、着用者の鼻に当たる部分に取り付けられている。面体スイッチ20は、押しボタンスイッチと同様、スイッチ(突起体)が押下されている間だけ、オンとなり、スイッチ(突起体)の押下が解除されるとオフとなる。面体スイッチ20は、接顔部方向に吐出した突起体21を有し、突起体21は図示を省略した付勢バネで接顔部方向に押し出されている。この状態では、面体スイッチ20はオフとなっており、付勢バネによる押出力に抗して突起体21を反接顔部方向に押し込むことで、面体スイッチ20はオンとなる。
【0021】
これらの構成により、面体3を着用すると、突起体21が着用者の鼻により反接顔部方向に押し込まれ面体スイッチ20が入る。一方、着用している面体3を顔から取り外すと、面体スイッチ20は、付勢バネで接顔部方向に押し出されオフとなる。これにより面体3、つまり防毒マスク1を顔に着用しているときのみ面体スイッチ20を入りの状態とすることができる。ここでは、面体スイッチ20の取り付け場所を、着用者の鼻の位置としたけれども、面体スイッチ20の取り付け場所は、接顔部15であればよく鼻部に限定されず、着用者のあごの位置であってもよい。
【0022】
アダプタ4は、吸収缶2の外径よりも僅かに大きく、底部には、吸収缶2を介して吸気される空気を取り入れるための吸気口33が設けられている。さらに底部には、アダプタスイッチ30が取り付けられている。アダプタスイッチ30は、突起体31、突起体収容部32、及び付勢バネ(図示を省略)からなり、吸収缶2の交換に伴い、交換前の吸収缶の使用時間をリセットすることなどに使用される。
【0023】
アダプタスイッチ30は、面体スイッチ20と同様、スイッチ(突起体)が押下されている間だけ、オンとなり、スイッチ(突起体)の押下が解除されるとオフとなる。アダプタスイッチ30は、反接顔部方向に吐出した突起体31を有し、突起体31は図示を省略した付勢バネで反接顔部方向に押し出されている。この状態では、アダプタスイッチ30はオフとなっており、付勢バネによる押出力に抗して突起体31を接顔部方向に押し込むことで、アダプタスイッチ30はオンとなる。これらの構成により、吸収缶2をアダプタ4に装着すると、アダプタスイッチ30がオンとなり、吸収缶2をアダプタ4から取り外すと、アダプタスイッチ30はオフとなる。
【0024】
図4は本発明の第二実施形態としての直結式小型防毒マスク50の斜視図である。図1から図3に対応する部分には、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。第二実施形態としての直結式小型防毒マスク50は、第一実施形態としての直結式小型防毒マスク1と基本的な構成は同一であるが、面体3にタイマー10が装着されておらず、面体3と分離した状態で接続されている点に特徴を有する。さらに面体3に、タイマー10と接続する発光装置60が取り付けられている点も、本発明の第一実施形態の直結式小型防毒マスク1とは異なる。
【0025】
タイマー10は、第一実施形態に示すタイマー10と同様、タイマー本体11と図示を省略した表示部とからなり、基本的構成は、第一実施形態で示したタイマー10と同一である。但し、第一実施形態のタイマー10と異なり、表示部は必ずしも必要ではない。表示部は、タイマー本体11の演算制御部からの信号を受けて、予め定める発光表示を行うが、第二実施形態では、面体3にタイマー10と接続する発光装置60が取り付けられているので、タイマー10に備えられる図示を省略した表示部に代わり、タイマー本体11の演算制御部からの信号を発光装置60に送り、発光装置60を発光させ所定の表示を行うようにしてもよい。もちろん、タイマー10に表示部を設け、タイマー10の表示部と面体3に取り付けられた発光装置60とを発光表示させてもよい。発光装置にはLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)を使用することができる。
【0026】
上記のように、第一実施形態の直結式小型防毒マスク1と、第二実施形態の直結式小型防毒マスク50とは基本的構成は同じであるが、タイマー10を面体3に取り付けるか否かで、直結式小型防毒マスクの特長が異なっている。第一実施形態の防毒マスク1の場合、面体3にタイマー10が取り付けられているため、直結式小型防毒マスク1がコンパクトとなる利点がある。一方、第二実施形態の直結式小型防毒マスク50は、タイマーが面体3に装着されておらず、警報を発する発光装置60のみ面体3に取り付けられているため、第一実施形態の直結式小型防毒マスク1に比較して軽い。また作業場所によっては、防爆構造の機器、道具を使用することが求められる場合もあるが、このような場合であっても第二実施形態のようにタイマー10を面体3と分離すると、電源も含めタイマー10を防爆構造としやすい。
【0027】
図5は、本発明の直結式小型防毒マスク1、50の使用要領、及び本直結式小型防毒マスク1、50を使用した時の直結式小型防毒マスク1、50の機能を説明するためのフローチャートである。ステップS1からステップS12までの判断の組合せや順序は、一例を示すだけであり、変更してもよいことはもちろんである。
【0028】
まず防毒マスクを使用(着用)する者は、吸収缶2の破過曲線と環境空気中の有害ガス濃度とから、吸収缶2の使用限度時間を求め、タイマー10に吸収缶2の使用限度時間を設定する(ステップS1)。吸収缶2の使用限度時間の設定は、注意を喚起する吸収缶の使用限度時間に達する少し前の時間(注意喚起時間)と、交換時間に達したことを報知する交換時間の2つの時間を設定する。交換時間に達したことを報知する使用限度時間のみならず、吸収缶の交換注意を喚起する注意喚起時間を設けることで、防毒マスク使用時の安全性がより高まる。
【0029】
吸収缶2は、活性炭を主成分とするガス吸収剤が充填されたものが多く使用され、環境空気中の有害ガスの濃度と使用時間との関係が破過曲線として決められていることは周知のところである。環境空気中の有害ガス濃度が高いほど吸収缶の使用時間は短い。また、有機ガス用防毒マスクの吸収缶は、有機ガスの種類により破過時間が異なり、また使用する環境の温度又は湿度によっても、吸収缶の破過時間が異なるため、使用限度時間を設定するに際しては、これらの点を考慮し、余裕のある使用限度時間を設定することが望ましい。
【0030】
次にステップS2で、吸収缶2をアダプタ4に装着する。吸収缶2をアダプタ4に装着した時点では、アダプタスイッチ30はオンとなるものの、面体スイッチ20がオンとなっておらず、タイマー10による吸収缶2の使用時間の計時は開始されない。なお、ステップS1とステップS2の順番は入れ替えてもよい。面体3を着用すると(ステップS3)、面体スイッチ20がオンとなりタイマー10は、吸収缶使用時間の計時を開始する(ステップS4)。同時に、タイマー表示部5(発光装置60)の表示は、緑色に発光表示される。これにより防毒マスク着用者の周囲の者に、防毒マスク着用者の防毒マスクが安全に使用できることを知らせることができる。
【0031】
タイマー本体11の計時部が吸収缶使用時間の計時を開始すると、タイマー本体11の演算制御部は、記憶部に記憶されたこれまでの吸収缶の使用時間に、計時部が計時する時間を加算し、吸収缶積算使用時間を算出する。同時に吸収缶積算使用時間が、設定された注意喚起時間、又は交換時間に達したか否か判断する(ステップS5、ステップS6)。吸収缶積算使用時間が注意喚起時間、又は交換時間に達していないにもかかわらず、防毒マスク着用者が直結式小型防毒マスク1、50を顔から外すと(ステップS7)、面体スイッチ20がオフとなり、吸収缶使用時間の計時が終了し、これまでの吸収缶積算使用時間をタイマー本体11の記憶部に記憶する。同時にタイマー表示部5(発光装置60)の発光表示を停止する(ステップS8)。
【0032】
このように面体スイッチ20を面体3に取り付けたことで、吸収缶使用時間の計時開始、又は計時停止を忘れることがなく、直結式小型防毒マスク1、50を着用した時間のみを正確に計時することができる。これにより直結式小型防毒マスク1、50を安全に、また経済的に使用することができる。吸収缶2を交換することなく(ステップS9)、直結式小型防毒マスク1、50を再度着用すると(ステップS3)、今まで使用していた吸収缶積算使用時間は、そのまま保持され、新たな吸収缶使用時間がこれに加算される。吸収缶2は、吸収缶2の積算使用時間が注意喚起時間、又は吸収缶交換時間に達するまでは、安全に使用することができるので、本発明の構成を採用することで吸収缶2を限度一杯使用することが可能となり、経済的である。
【0033】
吸収缶2の積算使用時間が、注意喚起時間に達したと判断すると(ステップS5)、演算制御部は、タイマー表示部5(発光装置60)を黄色に発光させるための信号をタイマー表示部5(発光装置60)に送る。同時にタイマー本体11に装着されるブザーを通じて、警報音を発する(ステップS10)。警報音により防毒マスク着用者は、吸収缶2が交換すべき時期に近づいていることを知ることができる。また防毒マスク着用者の周囲の者も、警報音又はタイマー表示部5(発光装置60)の表示から、防毒マスク着用者の防毒マスクの吸収缶2が交換時期に近づいていることを知ることができる。よって、防毒マスク着用者が作業に夢中で、警報音に気付かない場合であっても、防毒マスク着用者の周囲の者が防毒マスク着用者に、吸収缶2が交換時期に近づいていることを知らせることができるので、安全である。
【0034】
吸収缶積算使用時間が、注意喚起時間に達し、注意を喚起するためにタイマー表示部5(発光装置60)が黄色に発光し、ブザーによる警報音が発せられているにもかかわらず、防毒マスクを着用したままの状態とすると(ステップS7)、タイマー10の計時部は計時を継続し、演算制御部は吸収缶積算使用時間の算出を継続する。演算制御部は、吸収缶積算使用時間が吸収缶の交換時間に達したと判断すると(ステップS6)、タイマー表示部5(発光装置60)に信号を送る。その結果、タイマー表示部5(発光装置60)は、黄色から赤色に変化し、防毒マスク着用者の周囲の者に防毒マスクの吸収缶2が交換時期に達したことを知らしめる。同時にブザー音も音量を増加させ、防毒マスク着用者に吸収缶2の交換を迫る(ステップS11)。
【0035】
その後、防毒マスク着用者が直結式小型防毒マスク1、50を顔から外すと(ステップS7)、上記のように面体スイッチ20がオフとなり、吸収缶使用時間の計時が終了し、これまでの吸収缶積算使用時間をタイマー本体11の記憶部に記憶する。同時にタイマー表示部5(発光装置60)の発光表示、ブザー音が停止する(ステップS8)。また、直結式小型防毒マスク1、50を着用していた者が、吸収缶2を交換するために吸収缶2を取り外すと(ステップS9)、アダプタスイッチ30がオフとなり、タイマー本体11の記憶部に記憶されている吸収缶積算使用時間がリセット(消去)される(ステップS12)。よって、新たな吸収缶2をアダプタ4に装着すると、吸収缶2の使用時間はゼロから計時されることなり、吸収缶の使用時間を誤って計時することがない。
【0036】
一方、吸収缶積算時間が吸収缶2の交換時間に達しているにもかかわらず、吸収缶2を取り外さないと(ステップS9)、タイマー本体11の記憶部に記憶された吸収缶積算使用時間はリセット(消去)されない。このため、吸収缶2を交換することなく直結式小型防毒マスク1、50を着用すると(ステップS3)、吸収缶積算使用時間が交換時間を越えているので(ステップS6)、吸収缶の交換を促す赤色の発光表示、警報音が発せられる(ステップS11)。これにより直結式小型防毒マスク1、50を使用する者は、破過した吸収缶2を使用することがなくなり、直結式小型防毒マスク1、50を安全に使用することができる。
【0037】
また、吸収缶積算時間が注意喚起時間に達した後で交換時間に達する前に、面体3を顔から取り外した場合、交換のため吸収缶2を取り外さないと、タイマー本体11の記憶部に記憶された吸収缶積算使用時間はリセット(消去)されない。このため、吸収缶2を交換することなく直結式小型防毒マスク1、50を再度着用すると(ステップS3)、吸収缶の交換を促す黄色の発光表示、警報音が発せられる(ステップS10)。これにより直結式小型防毒マスク1、50を使用する者は、破過直前の吸収缶を使用することがなくなり、直結式小型防毒マスク1、50を安全に使用することができる。
【0038】
上記のように、本発明の特徴は、第一実施形態、第二実施形態で示したように、直結式小型防毒マスク1、50を着用したときの時間を正確に計時することが可能となるように、面体3を装着するとスイッチが入り、顔から面体3を取り外すとスイッチが切れる面体スイッチ20を面体3の接顔部15に設けた点にある。また吸収缶2をアダプタ4に装着するとスイッチが入り、吸収缶2を外すとスイッチが切れるアダプタスイッチ30を有し、吸収缶2を取り外さないと、タイマー10が記憶する時間をリセットできない点も本発明の特徴である。
【0039】
よって本発明は、上記に示した直結式小型防毒マスク1、50以外にも、直結式防毒マスク、隔離式防毒マスクにも適用することができる。さらに本発明は、ろ過材を取り替え使用する防じんマスクである直結式防じんマスク、隔離式防じんマスクにも適用することができる。ろ過材を取り替えるタイプの防じんマスクは、本実施形態と同様アダプタにろ過材が装着されるため、ろ過材を防毒マスクの吸収缶と置き換えれば、本発明を容易に適用することができることが分かる。ろ過材を取替え使用する防じんマスクも、使用時間とともに粉塵がろ過材に付着し通気抵抗が大きくなるため、使用限度を時間で管理される場合もある。このような場合にあっては、本発明を適用することで、安全にまた経済的に粉塵マスクを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の一形態としての直結式小型防毒マスク1の斜視図である。
【図2】図1の直結式小型防毒マスク1を切断線II―IIで切断した部分断面図である。
【図3】本発明の直結式小型防毒マスク1の吸収缶2を支持固定するアダプタ4の断面図である。
【図4】本発明の第二実施形態としての直結式小型防毒マスク50の斜視図である。
【図5】本発明の直結式小型防毒マスク1、50の使用要領、及び直結式小型防毒マスク1、50を使用した時の直結式小型防毒マスク1、50の機能を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0041】
1、50 直結式小型防毒マスク
2 吸収缶
3 面体
4 アダプタ
5 タイマー表示部
10 タイマー
15 接顔部
20 面体スイッチ
30 アダプタスイッチ
60 発光装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有毒ガスを吸収する吸収缶と、
面体と、
該面体の接顔部に設けられ、該面体を着用したとき顔の一部で押下されオンとなり、該面体を顔から外すとオフとなる面体スイッチと、
該面体スイッチと連動し該面体を着用した時間を計時する計時手段と、
該吸収缶の使用限度時間を設定可能な時間設定手段と、
データを記憶する記憶手段と、
信号を受けて警報を発する警報手段と、
該計時手段が計時した時間を積算し、積算した時間が該時間設定手段により設定された時間に達したとき、該警報手段に信号を出力する演算制御手段と、
を含むことを特徴とする防毒マスク。
【請求項2】
前記防毒マスクは、直結式小型防毒マスク又は直結式防毒マスクであり、
前記吸収缶は、前記面体に設けられたアダプタに装着され、
該アダプタは、前記吸収缶を装着したとき吸収缶に押下されオンとなり、前記吸収缶を該アダプタから取り外すとオフなるアダプタスイッチを備え、
該アダプタスイッチがオンのとき前記計時手段は計時可能で、前記記憶手段が記憶するデータは、該アダプタスイッチがオフにならないと消去されないことを特徴とする請求項1に記載の防毒マスク。
【請求項3】
環境空気中の粉塵を除去するろ過材と、
面体と、
該面体の接顔部に設けられ、該面体を着用したとき顔の一部に押下されオンとなり、該面体を顔から外すとオフとなる面体スイッチと、
該面体スイッチと連動し該面体を装着した時間を計時する計時手段と、
該吸収缶の使用限度時間を設定可能な時間設定手段と、
データを記憶する記憶手段と、
信号を受けて警報を発する警報手段と、
該計時手段が計時した時間を積算し、積算した時間が該時間設定手段により設定された時間に達したとき、該警報手段に信号を出力する演算制御手段と、
を含むことを特徴とする防じんマスク。
【請求項4】
前記防じんマスクは、直結式防じんマスクであり、
前記ろ過材は、前記面体に取り付けられたアダプタに装着され、
該アダプタは、前記ろ過材を装着したときろ過材に押下されオンとなり、前記ろ過材を該アダプタから取り外すとオフなるアダプタスイッチを備え、
該アダプタスイッチがオンのとき前記計時手段は計時可能で、前記記憶手段が記憶するデータは、該アダプタスイッチがオフにならないと消去されないことを特徴とする請求項3に記載の防じんマスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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