防水通音膜、防水通音膜の製造方法およびそれを用いた電気製品
【課題】通音性をなるべく低下させることなく、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を用いた防水通音膜の防水性の更なる向上を図る。
【解決手段】防水通音膜10は、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜1を含むものであり、面密度が1〜20g/m2である。ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜1は、第1多孔質層1aと、ポリテトラフルオロエチレンのマトリクス間に働く結着力に基づいて第1多孔質層1aに積層および一体化された第2多孔質層1bとを含む。
【解決手段】防水通音膜10は、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜1を含むものであり、面密度が1〜20g/m2である。ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜1は、第1多孔質層1aと、ポリテトラフルオロエチレンのマトリクス間に働く結着力に基づいて第1多孔質層1aに積層および一体化された第2多孔質層1bとを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声機能を備えた電気製品に使用される防水通音膜と、その製造方法に関する。本発明は、さらに、その防水通音膜を用いた電気製品に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン、電子手帳、デジタルカメラといった電気製品は、しばしば屋外で使用されるため、防水機能を持たせることが望まれている。防水機能を付与することが最も困難な部位は、スピーカー、マイク、ブザーなどの発音部および受音部である。音声機能を備えた電気製品の筐体には、通常、発音部および受音部に対応する位置に開口が設けられる。
【0003】
良好な通音性を確保しつつ、発音部および受音部のための開口から筐体内部への水や埃の侵入を防ぐための部材として、防水通音膜が知られている。防水通音膜は、音の透過を阻害しにくい材料でできた薄膜である。筐体に設けられた開口を防水通音膜で塞ぐことにより、通音性と防水性の両立を図ることができる。このような防水通音膜に好適な材料として、下記特許文献1に記載されているように、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜がある。
【0004】
PTFE多孔質膜の防水性は、平均孔径を小さくすることに伴って向上することが知られている。ただし、平均孔径を小さくすると面密度が大きくなり、通音性が低下する。つまり、通音性と防水性は、トレードオフの関係にある。そのため、通音性を低下させずに防水性を高めることは容易ではない。そこで、下記特許文献1においては、平均孔径と面密度を規定し、防水性と通音性の両立を図るようにしている。
【特許文献1】特開2004−83811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電気製品に求められる防水性は、年を追うごとに高まってきている。具体的には、生活防水レベルにとどまらず、水中に浸漬可能なレベル、さらには所定の水深で一定時間の使用が可能なレベルの防水性が求められるようになってきている。
【0006】
上記特許文献1に開示された防水通音膜は、それを用いた電気製品を水に浸漬する状況までは想定していない。本発明者が鋭意検討を行ったところ、水に浸漬可能な電気製品を実現するうえで、次のような問題があることが判明した。すなわち、高い水圧が防水通音膜に一定時間以上かかると、水圧によって膜が伸び、膜の微孔が変形して水が透過しやすくなったり、膜が破裂しやすくなったりする。つまり、一定の水圧にも耐えうるような高い防水性(耐水性)を実現するには、膜強度が重要なファクターとなる。膜の面密度を大きくすれば膜強度も向上するが、通音性の低下を伴うことは上述した通りである。
【0007】
そこで本発明は、通音性をなるべく低下させることなく、PTFE多孔質膜によって構成された防水通音膜の防水性のさらなる向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、
PTFE微粉末と加工助剤とを含むペーストを押出成形する工程と、
ペーストの成形体としてのシートまたはペーストの成形体を圧延して得られるシートを、PTFEの融点未満の温度で第1方向に延伸する工程と、
シートを複数枚重ね合わせる工程と、
重ね合わせた複数枚のシートをPTFEの融点未満の温度で第1方向と交差する第2方向に延伸する工程と、
複数枚のシートをPTFEの融点以上の温度で焼成し、PTFEのマトリクス間に働く結着力に基づいて一体化する工程と、をこの順番で行い、
当該防水通音膜の面密度が1〜20g/m2となるように、シートの第1方向および第2方向への延伸倍率を調整する、防水通音膜の製造方法を提供する。
【0009】
他の側面において、本発明は、
PTFE微粉末と加工助剤とを含むペーストを押出成形する工程と、
ペーストの成形体としてのシートまたはペーストの成形体を圧延して得られるシートを、PTFEの融点未満の温度で2軸延伸する工程と、
シートを複数枚重ね合わせる工程と、
重ね合わせた複数枚のシートをPTFEの融点以上の温度で焼成し、PTFEのマトリクス間に働く結着力に基づいて一体化する工程と、をこの順番で行い、
当該防水通音膜の面密度が1〜20g/m2となるように、シートの延伸倍率を調整する、防水通音膜の製造方法を提供する。
【0010】
上記製造方法によれば、
PTFE多孔質膜を含む防水通音膜であって、PTFE多孔質膜が第1多孔質層と、PTFEのマトリクス間に働く結着力に基づいて第1多孔質層に積層および一体化された第2多孔質層とを含み、当該防水通音膜の面密度が1〜20g/m2である、防水通音膜を提供できる。
【発明の効果】
【0011】
前述したように、防水通音膜の防水性(耐水性)の向上を図るには、膜強度の向上を図ることが重要となる。膜強度の向上を図る方法の1つとして、延伸倍率を高めることが挙げられる。なぜなら、PTFE多孔質膜は、延伸倍率が高くなるほどPTFE分子の配向が進み、マトリクス強度が増加する傾向を示すからである。したがって、面密度が同一であっても、延伸倍率が低い単層膜と、延伸倍率が高い多層膜とを比較すると、後者の方が高強度となる。
【0012】
ただし、面密度と延伸倍率とが同一であったとしても、必ずしも同一強度のPTFE多孔質膜が得られるわけではない。例えば、厚さ200μmのPTFEシートを10倍×20倍の倍率で2軸延伸および積層して得られる2層膜と、厚さ400μmのPTFEシートを10倍×20倍の倍率で2軸延伸して得られる単層膜とを比較する。両者は、厚さおよび延伸倍率が同一なので、一見すると、強度も同一となるように思われる。そうだとすれば、わざわざ多層構造を採用する利点がないことになる。しかしながら、このことは誤りである。その理由は以下の通りである。
【0013】
例えば、ペーストの成形体を圧延することによってPTFEシート(未延伸シート)を得る場合において、厚さ400μmPTFEシートを得るためにペーストの成形体に加える圧力は、厚さ200μmのPTFEシートを得るためにペーストの成形体に加える圧力に比べて相対的に小さくなる。ペーストの成形体に加わる圧力が小さいと、PTFEの粒子間に働く結着力が弱まり、最終的に得られるPTFE多孔質膜の強度も弱くなる。つまり、高強度のPTFE多孔質膜を得るためには、延伸倍率だけでなく、延伸前のPTFEシートの加圧履歴も極めて重要となる。
【0014】
ここで、厚さ200μmのPTFEシートと同一の加圧履歴を有する厚さ400μmのPTFEシートを得るために、ペーストを成形するためのダイスの設計変更を行うという方法も考えられる。極端に言えば、口金の広さが2倍程度のダイスを新たに作製し、これを用いてペースト押出を行えば、圧延前の成形体の厚みが増すので、圧延工程での加圧力を大きく設定したとしても、十分な厚さのPTFEシートを得ることが可能になる。しかしながら、ダイスの設計変更は多大な設備費を要するとともに、あらゆる工程の条件を変更する必要性に迫られるため、現実的でない。
【0015】
このような問題は、圧延を行わない場合、例えば、Tダイを用いてペーストをシート状に押出成形する場合においても同様に存在する。
【0016】
以上の理由から、面密度を1〜20g/m2とする前提の下で膜強度を稼ぐためには、本発明のごとく、PTFEシートを多層化する方法を採用することが賢明である。本発明によれば、従来からある生産設備をそのまま利用できるので、生産コストの増加を殆ど伴うことなく、優れた通音性と防水性とを兼ね備えた防水通音膜を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態にかかる防水通音膜の製造方法を示す工程説明図である。
【0018】
(1)ペースト準備工程
まず、PTFE微粉末20と加工助剤21(液状潤滑剤)とを所定割合で含む混合物を十分に混練し、押出成形用のペースト22を準備する。PTFE微粉末20は、乳化重合法のような公知方法によって製造された市販品でよい。PTFE微粉末20の平均粒径は、例えば、0.2〜1.0μmである。加工助剤21としては、ナフサや流動パラフィンのような有機溶剤を用いることができる。PTFE微粉末20と加工助剤21の混合比率は、100質量部のPTFE微粉末20に対し、加工助剤21を15〜30質量部とすることができる。
【0019】
(2)予備成形工程
次に、PTFE微粉末と加工助剤とを含むペースト22を円筒状に予備成形する。予備成形は、ペースト22に10〜30kg/cm2程度の圧力を加えて行うとよい。十分な圧力を加えることにより、ペースト内部のボイド(空隙)が圧縮され、物性が安定化する。
【0020】
(3)押出成形工程
次に、予備成形されたペースト22を公知の押出法により成形し、シート状またはロッド状の成形体23aを得る。
【0021】
(4)圧延工程
次に、シート状またはロッド状の成形体23aを圧延し、帯状のPTFEシート23bを得る。この時点でのPTFEシート23bの厚さは、例えば、0.1〜1.0mmである。圧延工程においては、シート状またはロッド状の成形体23aに十分な圧力を加えるとよい。具体的には、(圧延後の面積)/(圧延前の面積)で表される引き延ばし率が3〜30(あるいは5〜20)となるように、圧延ロール25,25の隙間を調整するとよい。このようにすれば、PTFEの粒子間に働く結着力が強くなり、最終的に得られるPTFE多孔質膜の強度が高まる。
【0022】
なお、圧延前の成形体23aがシート状である場合には、圧延工程を省略することも可能である。すなわち、押出法によってシート状に成形された成形体23aを乾燥させ、圧延を行うことなく延伸してもよい。
【0023】
(5)乾燥工程
次に、圧延されたPTFEシート23bを乾燥機26内で乾燥させる。乾燥機26の雰囲気温度は、PTFEの融点未満の温度、例えば、50〜200℃に保たれる。乾燥工程により、加工助剤が揮発し、加工助剤の含有量が十分に減じられたPTFEシート23cが得られる。
【0024】
(6)第1の延伸工程
次に、図1Bに示すように、乾燥させたPTFEシート23cを長手方向(MD)に延伸する。長手方向の延伸倍率は、例えば3〜30倍であり、5〜20倍としてもよい。長手方向の延伸倍率をこの程度まで高くすることにより、PTFE分子の配向を十分に促進することができ、ひいてはPTFE多孔質膜の強度を高めることができる。第1の延伸工程は、PTFEシート23cの柔軟性が十分に発揮される温度であって、PTFEの融点未満の温度、例えば、150〜300℃の雰囲気温度で行うことができる。具体的には、図1Aに示す乾燥工程で用いた乾燥機26内で第1の延伸工程を行うことができる。
【0025】
(7)重ね合わせ工程
次に、長手方向に延伸された2枚のPTFEシート23d,23dを重ね合わせる。重ね合わせは、一方のPTFEシート23dの搬送経路と、他方のPTFEシート23dの搬送経路とを合流させる形で行うとよい。そのようにすれば、2枚のPTFEシート23d,23dの長手方向を揃えて重ね合わせを行うことになるので、重ね合わせるべきPTFEシート23dを裁断する必要がなく、生産性に優れる。ここで、PTFEシート23dの重ね合わせ枚数は、工程が煩雑にならない範囲内で定めることができる。
【0026】
前述したように、PTFE多孔質膜の強度は、延伸前にPTFEシートが受けた加圧履歴と、延伸倍率とによって変化する。より高い圧力で圧延されたPTFEシート23bを得るには、圧延工程において、圧延ロール25,25の隙間を狭くするとよい。圧延ロール25,25の隙間を狭くすると、得られるPTFEシート23bの厚みも小さくなるので、最終的に必要な面密度が確保されるように、重ね合わせ工程における重ね合わせ枚数を増やせばよい。また、延伸倍率の上昇に対しても、重ね合わせ枚数の増加で対応することができる。具体的には、後述する実施例に示すように、3層構造や4層構造のPTFE多孔質膜を防水通音膜に好適に用いることができる。
【0027】
(8)第2の延伸工程
次に、重ね合わされた2枚のPTFEシート23d,23dを、その重ね合わせ状態を維持しつつ、長手方向と直交する幅方向(TD)に延伸する。幅方向の延伸倍率は、例えば3〜50倍であり、5〜30倍としてもよい。幅方向の延伸倍率をこの程度まで高くすることにより、長手方向の高い延伸倍率と相俟って、PTFE多孔質膜の更なる高強度化を図ることができる。幅方向の延伸工程は、PTFEの融点未満の温度、例えば、50〜300℃の雰囲気温度で公知のテンター法により行うことができる。
【0028】
(9)焼成工程
最後に、2軸方向に延伸された2枚のPTFEシート23e,23eをPTFEの融点以上の温度、例えば、350〜500℃(炉27の雰囲気温度)で焼成する。焼成工程を行うことにより、PTFEのマトリクス間に働く結着力に基づき、2枚のPTFEシート23e,23eが両者の境界面の全体にわたって一体化する。これにより、防水通音膜に用いられるPTFE多孔質膜1が得られる。この焼成工程は、2枚のPTFEシート23e,23eを加圧しながら行ってもよいし、プレス型または熱ロールに接触させることによって行ってもよい。
【0029】
なお、図1Aおよび図1Bに示す製造方法によれば、第1の延伸工程と第2の延伸工程との間に重ね合わせ工程を挟んでいるが、第1の延伸工程と第2の延伸工程とを連続的に行うようにしてもよい。すなわち、未延伸のPTFEシートを複数枚重ね合わせた後、重ね合わされたPTFEシートをテンター法のような公知の延伸方法により2軸延伸してもよい。
【0030】
ただし、重ね合わせ工程の後で2軸延伸工程を行う場合、多孔質構造が不均一になる可能性がある。なぜなら、重ね合わされたPTFEシートの界面近傍の部分と、界面から離れた部分とで張力のかかり方が相違するからである。多孔質構造が不均一になると、通音性に影響がでる。これに対し、本実施形態によれば、長手方向の延伸で微孔を形成した後に、重ね合わせおよび幅方向の延伸を行うため、従来の単層の場合と比較しても遜色のない良質な多孔質構造を形成することができる。また、長手方向に延伸されたPTFEシートのハンドリング容易性は、未延伸のPTFEシートのハンドリング容易性よりも高い。したがって、本実施形態によれば、正確に重ね合わせ工程を行うことができるとともに、シート間に空気泡が挟まれるような問題も生じにくい。また、未延伸のシートを重ね合わせても容易に接着しないが、長手方向に延伸した後のシートは容易かつ均一に接着できる。
【0031】
また、本実施形態のように、長手方向の延伸工程と、幅方向の延伸工程との間に、重ね合わせ工程を挟むことにより、長手方向の延伸倍率が互いに相違する2つの層を有するPTFE多孔質膜を製造できる。このような特殊なPTFE多孔質膜は、面密度や膜厚の微調整が必要となる製品(防水通音膜)に有効である。
【0032】
また、予め2軸延伸された複数枚のPTFEシートを重ね合わせ、焼成により一体化するようにしてもよい。ただし、現実の生産過程において、幅方向への延伸を行った後のPTFEシートの面積は非常に大きくなるので、当該順序によれば、重ね合わせが困難となる可能性がある。
【0033】
これに対し、幅方向の延伸の前に重ね合わせを行う場合には、PTFEシートの幅が狭いので重ね合わせが容易であり、重ね合わせ時にPTFEシートにシワが生じたり、亀裂が入ったりするなどの不具合が生じにくく、ひいては重ね合わせ工程の追加に伴う歩留まりの低下を抑制することが可能となる。図1Bに示すように、本実施形態によれば、重ね合わせの前に長手方向の延伸を行っているが、PTFEシートの長手方向は、通常、圧延方向や搬送方向に沿う方向であるから、長手方向の面積拡大はPTFEシートのハンドリング容易性に大した影響を及ぼさず、重ね合わせの困難性を高める要因となりにくい。
【0034】
以上に説明した方法により、図2Aおよび図2Bに示す防水通音膜10を製造することができる。
【0035】
図2Aに示す防水通音膜10は、円板状のPTFE多孔質膜1で作られている。図2Bに示すように、防水通音膜10としてのPTFE多孔質膜1は、第1多孔質層1aと、第2多孔質層1bとを含む。第2多孔質層1bは、PTFEのマトリクス間に働く結着力に基づいて第1多孔質層1aに積層および一体化されている。図1Aおよび図1Bで説明した製造方法によれば、第1多孔質層1aと第2多孔質層1bは、実質的に同一のマトリクス構造を有したものとなる。言い換えれば、第1多孔質層1aの延伸方向と第2多孔質層1bの延伸方向とが一致し、かつ延伸倍率が各延伸方向に関して等しくなる。また、第1多孔質層1aの厚さと第2多孔質層1bの厚さも同一となる。
【0036】
防水通音膜10の面密度は(複数層の合計で)1〜20g/m2である。面密度がこのような範囲内にある防水通音膜10は、物理的強度が十分であるとともに、音響透過損失が小さく、通音性にも優れる。防水通音膜10の面密度の好ましい範囲は、2〜10g/m2である。
【0037】
防水通音膜10の耐水圧を高く保つために、防水通音膜10を構成する多孔質層1a,1bの平均孔径は0.1〜1.0μmであるとよい(0.7μm以下であってもよく、0.5μm以下であってもよい)。平均孔径が小さくなることによって膜の通気性は低下するが、防水通音膜10は膜自体が振動することによって音を伝播するため、通気性は通音性能にそれほど大きな影響を与えない。
【0038】
なお、平均孔径の測定方法は、ASTM F316−86に記載されている測定法が一般的に普及しており、自動化された測定装置が市販されている(例えば、米国Porous Material Inc.より入手可能なPerm-Porometer)。この方式は、既知の表面張力を持つ液体に浸漬したPTFE多孔質膜をホルダに固定し、一方から加圧することによって膜から液体を追い出し、その圧力から平均孔径を求めるものである。この方式は簡便かつ再現性が高いだけでなく、測定装置を完全に自動化できるという点で優れている。
【0039】
また、防水通音膜10には、耐水性を高めるために、含フッ素ポリマーなどの撥水剤を用いて撥水処理を行ってもよい。
【0040】
次に、図3に示す防水通音膜11は、PTFE多孔質膜1と、PTFE多孔質膜1に積層および一体化された支持体2とを有する。支持体2は、PTFE多孔質膜1の片面に設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。この防水通音膜11の面密度も、1〜20g/m2であり、6〜20g/m2としてもよい。支持体2の面密度は、例えば、5〜19g/m2であり、そのような面密度を実現するように支持体2の厚みが調整されている。支持体2の形状は、PTFE多孔質膜1と同一径の円形でありうる。
【0041】
支持体2としては、ネット、フォームラバー、スポンジシートなどの多孔体、不織布、織布などを用いることができるが、特に、ネットが好ましい。ネット形状の素材はメッシュとも呼ばれ、フィラメント(繊維)が組み合わさってできた網目の間がほぼ均一に開口しているため、PTFE多孔質膜の通音性が阻害されにくいからである。ネットの材質としては、コストと加工性とを考慮して、ポリオレフィン、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂が好適である。それ以外には、金属メッシュを用いることも可能である。金属メッシュは、マイクやスピーカーが電磁的なノイズを拾うことを抑制する電磁遮蔽材をしても機能する。
【0042】
PTFE多孔質膜1と支持体2との接着方法は、特に限定されないが、支持体2がネットである場合、ネットにPTFE多孔質膜1より低融点の材料を用い、熱ラミネートによってネットの表面を融解させ、PTFE多孔質膜1に部分的に含浸させる方法が好ましい。このように接着剤を用いずに両者を接着するので、余分な重量増加がなく、かつ、接着剤がメッシュの開口を閉塞することによる通気性の低下も最小限に抑えることができる。
【0043】
また、支持体は、PTFE多孔質膜1の周縁部に取り付けられた枠であってもよい。図4は、PTFE多孔質膜1の周縁部に、リング形状の支持体3が取り付けられた防水通音膜12を示している。このように、リング形状の枠を支持体3として設けた形態によれば、図3に示した防水通音膜11と同様、PTFE多孔質膜1を補強することができ、取り扱いが容易となる。また、この支持体3が電気製品の筐体への取付しろとなるため、筐体への取り付け作業が容易となる。また、リング形状の支持体3とPTFE多孔質膜1とを有する防水通音膜12においては、通音部分がPTFE多孔質膜1単体であることから、PTFE多孔質膜1の全面に支持体2としてネットなどを貼り合わせた形態(図3参照)よりも、通音性の点で有利である。なお、図4に示した例では、支持体3は、PTFE多孔質膜1単体の周縁部に取り付けられているが、PTFE多孔質膜1とシート状の支持体2との積層物の周縁部に取り付けてもよい。
【0044】
支持材3の材質は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂や金属が好適である。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)などのポリエステル、ポリイミド、あるいはこれらの複合材が挙げられる。金属としては、ステンレスやアルミニウムのような耐蝕性に優れるものが挙げられる。リング形状の支持体3の厚みは、例えば5〜500μmであり、25〜200μmであってもよい。また、リング幅(外径と内径の差)は0.5〜2mmであることが、電気製品の筐体への取付しろとして適当である。また、リング形状の支持体3には、上記した樹脂でできた発泡体を用いることもできる。
【0045】
PTFE多孔質膜1とリング形状の支持体3の接着方法は、特に限定されず、例えば、加熱溶着、超音波溶着、接着剤による接着、両面テープによる接着などの方法により行うことができる。特に、PTFE多孔質膜1と支持体3との接着が容易な両面テープを用いることが好ましい。
【0046】
図5Aおよび図5Bは、防水通音膜10が用いられた電気製品の一例を示している。図5Aおよび図5Bに示す電気製品は、携帯電話5である。携帯電話5の筐体9には、スピーカー6、マイク7、ブザー8などの発音部および受音部のための開口が設けられている。それらの開口を塞ぐ形で、防水通音膜10が内側から筐体9に取り付けられている。これにより、筐体9の内部への水や埃の侵入が阻止され、発音部および受音部が保護される。防水通音膜10の取り付けは、筐体9との接合部から水が浸入することのないように、例えば、両面テープを用いた貼付、熱溶着、高周波溶着、超音波溶着などの方法により行われる。
【0047】
なお、本実施形態の防水通音膜10は、携帯電話5だけでなく、音声の出力を行うための発音部および音声の入力を行うための受音部から選ばれる少なくとも1つを備えた電気製品に適用できる。具体的には、ノートパソコン、電子手帳、デジタルカメラ、携帯用オーディオのような音声機能を備えた各種電気製品に適用可能である。
【0048】
防水通音膜10は、その表裏に両面テープを両面に貼り付けることによって形成されたアセンブリの形で提供されうる。図6Aに示すように、アセンブリ40は、防水通音膜10と、防水通音膜10の表裏に貼り付けられた2つの両面テープ30とを有する。両面テープ30は、平面視でリングまたは枠の形状を有する。両面テープ30の開口部30hに防水通音膜10が露出している。アセンブリ40の一方の面に台紙セパレータ34が設けられ、他方の面にタブ付きセパレータ32が設けられている。アセンブリ40が2枚のセパレータ32,34の間に保持されているので、防水通音膜10を確実に保護できるとともに、携帯電話等の対象物への取り付け作業が容易化する。
【0049】
セパレータ32は、アセンブリ40とともに台紙セパレータ34から剥離されうる。図6Bの平面図に示すように、セパレータ32のタブ32tは、アセンブリ40の外縁から外向きに突出するように形成されている。セパレータ32のタブ32tの部分を掴んだまま、アセンブリ40を携帯電話等の対象物に貼り付けることができる。そして、タブ32tを引き上げることにより、アセンブリ40からセパレータ32を容易に剥離できる。このように、防水通音膜10に直接触れることなく、防水通音膜10を対象物に取り付けることができるので、作業時に防水通音膜10にダメージが及びにくい。また、対象物にキズを付けたりする可能性も低減できる。
【0050】
セパレータ32,34は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラートなどの樹脂でできていてもよいし、紙でできていてもよい。また、台紙セパレータ34には、アセンブリ40を載せる部分にエンボス加工が施されていてもよい。また、台紙セパレータ34と両面テープ30との間の接着力(180°ピール接着強度)よりも、タブ付きセパレータ32と両面テープ30との間の接着力の方が強いことが望ましい。そのようにすれば、タブ付きセパレータ32をアセンブリ40とともに台紙セパレータ34から容易に剥離できるからである。
【0051】
1つのアセンブリ40に対して1つのタブ付きセパレータ32が設けられる。他方、台紙セパレータ34は、多数個のアセンブリ40に共有されていてもよいし、1つのアセンブリ40に対して1つの台紙セパレータ34が設けられていてもよい。後者の製品は、タブ付きセパレータ32をアセンブリ40の上に載せた後、タブ付きセパレータ32よりも大きく台紙セパレータ34を打ち抜くことによって得られる。
【0052】
アセンブリ40やタブ付きセパレータ32の形状は特に限定されない。図7Aに示すように、アセンブリ40が円形であってもよい。また、図7Bに示すように、アセンブリ40の全周に渡って円形のタブ32tが形成されていてもよい。また、図7Cに示すように、アセンブリ40が矩形であり、平面視でタブ32tがアセンブリ40を取り囲む枠の形状を有していてもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
PTFE微粉末(ダイキン工業社製 F101HE)100重量部、液状潤滑剤(ナフサ)20重量部の割合で混練し、PTFE微粉末とナフサとを含むペーストを準備した。このペーストを20kg/cm2の条件で円筒状に予備成形した。次に、円筒状の予備成形体を押出成形し、ロッド状成形体(φ47mm)を得た。次に、ロッド状成形体を、液状潤滑剤を含んだ状態で1対の金属圧延ロールの間に通し、厚さ200μmの長尺シートを得た。この長尺シートを温度150℃の乾燥機内に5分間滞留するように連続的に通して液状潤滑剤を乾燥除去し、PTFEシートを作製した。
【0055】
(実施例1)
上記したPTFEシートを290℃の雰囲気温度の乾燥機中で長手方向に8倍延伸した。さらに、長手方向に延伸したPTFEシートを2枚重ね合わせ、テンター法により150℃の雰囲気温度で幅方向に31.5倍延伸した。その後、2軸延伸したPTFEシートを焼成し、2層構造を有するPTFE多孔質膜を得た。
【0056】
(実施例2A〜2C)
上記したPTFEシートを290℃の雰囲気温度の乾燥機中で長手方向に13倍延伸し、さらに、テンター法により150℃の雰囲気温度で幅方向に45倍延伸した。その後、2軸延伸したPTFEシートを3枚重ね合わせて焼成し、3層構造を有するPTFE多孔質膜を得た。
【0057】
(実施例3A,3B)
上記したPTFEシートを290℃の雰囲気温度の乾燥機中で長手方向に13倍延伸し、さらに、テンター法により150℃の雰囲気温度で幅方向に45倍延伸した。その後、2軸延伸したPTFEシートを4枚重ね合わせて焼成し、4層構造を有するPTFE多孔質膜を得た。
【0058】
(実施例4)
実施例3AのPTFE多孔質膜に、支持体として低融点オレフィン系ネット(DelStar Technologies,Inc.製 デルネットX550(面密度12g/m2))をラミネートし、支持体付きPTFE多孔質膜を得た。
【0059】
(実施例5)
上記したPTFEシートを290℃の雰囲気温度の乾燥機中で長手方向に10倍延伸し、さらに、テンター法により150℃の雰囲気温度で幅方向に45倍延伸した。その後、2軸延伸したPTFEシートを3枚重ね合わせて焼成し、3層構造を有するPTFE多孔質膜を得た。
【0060】
(実施例6A〜6C)
上記したPTFEシートを290℃の雰囲気温度の乾燥機中で長手方向に8倍延伸し、さらに、テンター法により150℃の雰囲気温度で幅方向に45倍延伸した。その後、2軸延伸したPTFEシートを2枚重ね合わせて焼成し、2層構造を有するPTFE多孔質膜を得た。
【0061】
(比較例1A〜1E)
上記したPTFEシートを290℃の雰囲気温度の乾燥機中で長手方向に4倍延伸し、さらに、テンター法により150℃の雰囲気温度で幅方向に20倍延伸した。2軸延伸したPTFEシートを焼成し、PTFE多孔質膜を得た。
【0062】
(比較例2A〜2C)
上記したPTFEシートを290℃の雰囲気温度の乾燥機中で長手方向に6倍延伸し、さらに、テンター法により150℃の雰囲気温度で幅方向に20倍延伸した。2軸延伸したPTFEシートを焼成し、PTFE多孔質膜を得た。
【0063】
実施例および比較例の面密度および耐水圧をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0064】
面密度は、実施例および比較例の各多孔質膜をφ47mmのポンチで打ち抜き、打ち抜いた部分の質量を測定し、1m2当りの質量に換算して求めた。
【0065】
耐水圧は、JIS L 1092に記載されている耐水度試験機(高水圧法)に準じて測定した。ただし、JIS L 1092に規定の面積では、膜が著しく変形するため、ステンレスメッシュ(開口径2mm)を膜の加圧面の反対側に設置し、変形を抑制した状態で測定した。
【0066】
【表1】
【0067】
表1から分かるように、面密度が同程度であっても、多層構造を有する実施例の方が相対的に高い耐水圧を示した。さらに、それらの実施例の中でも、同程度の面密度で比較したとき、積層数が増加するにつれて耐水圧が高くなる傾向を示した。
【0068】
(耐水圧保持試験)
次に、実施例1、実施例3Aおよび比較例2Aについて、耐水圧保持試験を行った。耐水圧保持試験は、耐水圧試験と同じくJIS L 1092に記載されている耐水度試験機を用いて行った。具体的には、150kPaの水圧(深度15mの水圧に相当する)をPTFE多孔質膜にかけ、1時間保持した後に水漏れの有無を観察し、良否判定を行った。ただし、JIS L 1092に規定の面積では膜が著しく変形するため、ステンレスメッシュ(開口径3mm)を膜の加圧面の反対側に設置し、変形をある程度抑制した状態で測定した。
【0069】
結果を表2に示す。なお、良否の判定基準は次の通りである。
◎:水漏れ無し
○:30分〜1時間の間にごく僅かな際漏れが発生
△:30分以内に際漏れが発生
×:破裂
【0070】
【表2】
【0071】
表2から明らかなように、実施例1、実施例3Aおよび比較例2Aは、面密度がいずれも4g/m2と近いにも拘わらず、耐水圧保持試験で顕著な差異が認められた。すなわち、実施例の耐水圧保持時間は、比較例のそれよりも長かった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1A】本発明の実施形態にかかる防水通音膜の製造方法を示す工程説明図
【図1B】図1Aに続く工程説明図
【図2A】本発明の防水通音膜の一例を示す斜視図
【図2B】図1の防水通音膜の断面図
【図3】本発明の防水通音膜の他の例を示す斜視図
【図4】本発明の防水通音膜の他の例を示す斜視図
【図5A】防水通音膜が適用された携帯電話の正面図
【図5B】防水通音膜が適用された携帯電話の背面図
【図6A】2枚のセパレータの間に保持された防水通音膜の断面図
【図6B】図6Aの平面図
【図7A】セパレータおよび防水通音膜の別の形状を示す平面図
【図7B】セパレータおよび防水通音膜のさらに別の形状を示す平面図
【図7C】セパレータおよび防水通音膜のさらに別の形状を示す平面図
【符号の説明】
【0073】
10,11,12 防水通音膜
1 PTFE多孔質膜
2,3 支持体
5 携帯電話
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声機能を備えた電気製品に使用される防水通音膜と、その製造方法に関する。本発明は、さらに、その防水通音膜を用いた電気製品に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン、電子手帳、デジタルカメラといった電気製品は、しばしば屋外で使用されるため、防水機能を持たせることが望まれている。防水機能を付与することが最も困難な部位は、スピーカー、マイク、ブザーなどの発音部および受音部である。音声機能を備えた電気製品の筐体には、通常、発音部および受音部に対応する位置に開口が設けられる。
【0003】
良好な通音性を確保しつつ、発音部および受音部のための開口から筐体内部への水や埃の侵入を防ぐための部材として、防水通音膜が知られている。防水通音膜は、音の透過を阻害しにくい材料でできた薄膜である。筐体に設けられた開口を防水通音膜で塞ぐことにより、通音性と防水性の両立を図ることができる。このような防水通音膜に好適な材料として、下記特許文献1に記載されているように、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜がある。
【0004】
PTFE多孔質膜の防水性は、平均孔径を小さくすることに伴って向上することが知られている。ただし、平均孔径を小さくすると面密度が大きくなり、通音性が低下する。つまり、通音性と防水性は、トレードオフの関係にある。そのため、通音性を低下させずに防水性を高めることは容易ではない。そこで、下記特許文献1においては、平均孔径と面密度を規定し、防水性と通音性の両立を図るようにしている。
【特許文献1】特開2004−83811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電気製品に求められる防水性は、年を追うごとに高まってきている。具体的には、生活防水レベルにとどまらず、水中に浸漬可能なレベル、さらには所定の水深で一定時間の使用が可能なレベルの防水性が求められるようになってきている。
【0006】
上記特許文献1に開示された防水通音膜は、それを用いた電気製品を水に浸漬する状況までは想定していない。本発明者が鋭意検討を行ったところ、水に浸漬可能な電気製品を実現するうえで、次のような問題があることが判明した。すなわち、高い水圧が防水通音膜に一定時間以上かかると、水圧によって膜が伸び、膜の微孔が変形して水が透過しやすくなったり、膜が破裂しやすくなったりする。つまり、一定の水圧にも耐えうるような高い防水性(耐水性)を実現するには、膜強度が重要なファクターとなる。膜の面密度を大きくすれば膜強度も向上するが、通音性の低下を伴うことは上述した通りである。
【0007】
そこで本発明は、通音性をなるべく低下させることなく、PTFE多孔質膜によって構成された防水通音膜の防水性のさらなる向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、
PTFE微粉末と加工助剤とを含むペーストを押出成形する工程と、
ペーストの成形体としてのシートまたはペーストの成形体を圧延して得られるシートを、PTFEの融点未満の温度で第1方向に延伸する工程と、
シートを複数枚重ね合わせる工程と、
重ね合わせた複数枚のシートをPTFEの融点未満の温度で第1方向と交差する第2方向に延伸する工程と、
複数枚のシートをPTFEの融点以上の温度で焼成し、PTFEのマトリクス間に働く結着力に基づいて一体化する工程と、をこの順番で行い、
当該防水通音膜の面密度が1〜20g/m2となるように、シートの第1方向および第2方向への延伸倍率を調整する、防水通音膜の製造方法を提供する。
【0009】
他の側面において、本発明は、
PTFE微粉末と加工助剤とを含むペーストを押出成形する工程と、
ペーストの成形体としてのシートまたはペーストの成形体を圧延して得られるシートを、PTFEの融点未満の温度で2軸延伸する工程と、
シートを複数枚重ね合わせる工程と、
重ね合わせた複数枚のシートをPTFEの融点以上の温度で焼成し、PTFEのマトリクス間に働く結着力に基づいて一体化する工程と、をこの順番で行い、
当該防水通音膜の面密度が1〜20g/m2となるように、シートの延伸倍率を調整する、防水通音膜の製造方法を提供する。
【0010】
上記製造方法によれば、
PTFE多孔質膜を含む防水通音膜であって、PTFE多孔質膜が第1多孔質層と、PTFEのマトリクス間に働く結着力に基づいて第1多孔質層に積層および一体化された第2多孔質層とを含み、当該防水通音膜の面密度が1〜20g/m2である、防水通音膜を提供できる。
【発明の効果】
【0011】
前述したように、防水通音膜の防水性(耐水性)の向上を図るには、膜強度の向上を図ることが重要となる。膜強度の向上を図る方法の1つとして、延伸倍率を高めることが挙げられる。なぜなら、PTFE多孔質膜は、延伸倍率が高くなるほどPTFE分子の配向が進み、マトリクス強度が増加する傾向を示すからである。したがって、面密度が同一であっても、延伸倍率が低い単層膜と、延伸倍率が高い多層膜とを比較すると、後者の方が高強度となる。
【0012】
ただし、面密度と延伸倍率とが同一であったとしても、必ずしも同一強度のPTFE多孔質膜が得られるわけではない。例えば、厚さ200μmのPTFEシートを10倍×20倍の倍率で2軸延伸および積層して得られる2層膜と、厚さ400μmのPTFEシートを10倍×20倍の倍率で2軸延伸して得られる単層膜とを比較する。両者は、厚さおよび延伸倍率が同一なので、一見すると、強度も同一となるように思われる。そうだとすれば、わざわざ多層構造を採用する利点がないことになる。しかしながら、このことは誤りである。その理由は以下の通りである。
【0013】
例えば、ペーストの成形体を圧延することによってPTFEシート(未延伸シート)を得る場合において、厚さ400μmPTFEシートを得るためにペーストの成形体に加える圧力は、厚さ200μmのPTFEシートを得るためにペーストの成形体に加える圧力に比べて相対的に小さくなる。ペーストの成形体に加わる圧力が小さいと、PTFEの粒子間に働く結着力が弱まり、最終的に得られるPTFE多孔質膜の強度も弱くなる。つまり、高強度のPTFE多孔質膜を得るためには、延伸倍率だけでなく、延伸前のPTFEシートの加圧履歴も極めて重要となる。
【0014】
ここで、厚さ200μmのPTFEシートと同一の加圧履歴を有する厚さ400μmのPTFEシートを得るために、ペーストを成形するためのダイスの設計変更を行うという方法も考えられる。極端に言えば、口金の広さが2倍程度のダイスを新たに作製し、これを用いてペースト押出を行えば、圧延前の成形体の厚みが増すので、圧延工程での加圧力を大きく設定したとしても、十分な厚さのPTFEシートを得ることが可能になる。しかしながら、ダイスの設計変更は多大な設備費を要するとともに、あらゆる工程の条件を変更する必要性に迫られるため、現実的でない。
【0015】
このような問題は、圧延を行わない場合、例えば、Tダイを用いてペーストをシート状に押出成形する場合においても同様に存在する。
【0016】
以上の理由から、面密度を1〜20g/m2とする前提の下で膜強度を稼ぐためには、本発明のごとく、PTFEシートを多層化する方法を採用することが賢明である。本発明によれば、従来からある生産設備をそのまま利用できるので、生産コストの増加を殆ど伴うことなく、優れた通音性と防水性とを兼ね備えた防水通音膜を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態にかかる防水通音膜の製造方法を示す工程説明図である。
【0018】
(1)ペースト準備工程
まず、PTFE微粉末20と加工助剤21(液状潤滑剤)とを所定割合で含む混合物を十分に混練し、押出成形用のペースト22を準備する。PTFE微粉末20は、乳化重合法のような公知方法によって製造された市販品でよい。PTFE微粉末20の平均粒径は、例えば、0.2〜1.0μmである。加工助剤21としては、ナフサや流動パラフィンのような有機溶剤を用いることができる。PTFE微粉末20と加工助剤21の混合比率は、100質量部のPTFE微粉末20に対し、加工助剤21を15〜30質量部とすることができる。
【0019】
(2)予備成形工程
次に、PTFE微粉末と加工助剤とを含むペースト22を円筒状に予備成形する。予備成形は、ペースト22に10〜30kg/cm2程度の圧力を加えて行うとよい。十分な圧力を加えることにより、ペースト内部のボイド(空隙)が圧縮され、物性が安定化する。
【0020】
(3)押出成形工程
次に、予備成形されたペースト22を公知の押出法により成形し、シート状またはロッド状の成形体23aを得る。
【0021】
(4)圧延工程
次に、シート状またはロッド状の成形体23aを圧延し、帯状のPTFEシート23bを得る。この時点でのPTFEシート23bの厚さは、例えば、0.1〜1.0mmである。圧延工程においては、シート状またはロッド状の成形体23aに十分な圧力を加えるとよい。具体的には、(圧延後の面積)/(圧延前の面積)で表される引き延ばし率が3〜30(あるいは5〜20)となるように、圧延ロール25,25の隙間を調整するとよい。このようにすれば、PTFEの粒子間に働く結着力が強くなり、最終的に得られるPTFE多孔質膜の強度が高まる。
【0022】
なお、圧延前の成形体23aがシート状である場合には、圧延工程を省略することも可能である。すなわち、押出法によってシート状に成形された成形体23aを乾燥させ、圧延を行うことなく延伸してもよい。
【0023】
(5)乾燥工程
次に、圧延されたPTFEシート23bを乾燥機26内で乾燥させる。乾燥機26の雰囲気温度は、PTFEの融点未満の温度、例えば、50〜200℃に保たれる。乾燥工程により、加工助剤が揮発し、加工助剤の含有量が十分に減じられたPTFEシート23cが得られる。
【0024】
(6)第1の延伸工程
次に、図1Bに示すように、乾燥させたPTFEシート23cを長手方向(MD)に延伸する。長手方向の延伸倍率は、例えば3〜30倍であり、5〜20倍としてもよい。長手方向の延伸倍率をこの程度まで高くすることにより、PTFE分子の配向を十分に促進することができ、ひいてはPTFE多孔質膜の強度を高めることができる。第1の延伸工程は、PTFEシート23cの柔軟性が十分に発揮される温度であって、PTFEの融点未満の温度、例えば、150〜300℃の雰囲気温度で行うことができる。具体的には、図1Aに示す乾燥工程で用いた乾燥機26内で第1の延伸工程を行うことができる。
【0025】
(7)重ね合わせ工程
次に、長手方向に延伸された2枚のPTFEシート23d,23dを重ね合わせる。重ね合わせは、一方のPTFEシート23dの搬送経路と、他方のPTFEシート23dの搬送経路とを合流させる形で行うとよい。そのようにすれば、2枚のPTFEシート23d,23dの長手方向を揃えて重ね合わせを行うことになるので、重ね合わせるべきPTFEシート23dを裁断する必要がなく、生産性に優れる。ここで、PTFEシート23dの重ね合わせ枚数は、工程が煩雑にならない範囲内で定めることができる。
【0026】
前述したように、PTFE多孔質膜の強度は、延伸前にPTFEシートが受けた加圧履歴と、延伸倍率とによって変化する。より高い圧力で圧延されたPTFEシート23bを得るには、圧延工程において、圧延ロール25,25の隙間を狭くするとよい。圧延ロール25,25の隙間を狭くすると、得られるPTFEシート23bの厚みも小さくなるので、最終的に必要な面密度が確保されるように、重ね合わせ工程における重ね合わせ枚数を増やせばよい。また、延伸倍率の上昇に対しても、重ね合わせ枚数の増加で対応することができる。具体的には、後述する実施例に示すように、3層構造や4層構造のPTFE多孔質膜を防水通音膜に好適に用いることができる。
【0027】
(8)第2の延伸工程
次に、重ね合わされた2枚のPTFEシート23d,23dを、その重ね合わせ状態を維持しつつ、長手方向と直交する幅方向(TD)に延伸する。幅方向の延伸倍率は、例えば3〜50倍であり、5〜30倍としてもよい。幅方向の延伸倍率をこの程度まで高くすることにより、長手方向の高い延伸倍率と相俟って、PTFE多孔質膜の更なる高強度化を図ることができる。幅方向の延伸工程は、PTFEの融点未満の温度、例えば、50〜300℃の雰囲気温度で公知のテンター法により行うことができる。
【0028】
(9)焼成工程
最後に、2軸方向に延伸された2枚のPTFEシート23e,23eをPTFEの融点以上の温度、例えば、350〜500℃(炉27の雰囲気温度)で焼成する。焼成工程を行うことにより、PTFEのマトリクス間に働く結着力に基づき、2枚のPTFEシート23e,23eが両者の境界面の全体にわたって一体化する。これにより、防水通音膜に用いられるPTFE多孔質膜1が得られる。この焼成工程は、2枚のPTFEシート23e,23eを加圧しながら行ってもよいし、プレス型または熱ロールに接触させることによって行ってもよい。
【0029】
なお、図1Aおよび図1Bに示す製造方法によれば、第1の延伸工程と第2の延伸工程との間に重ね合わせ工程を挟んでいるが、第1の延伸工程と第2の延伸工程とを連続的に行うようにしてもよい。すなわち、未延伸のPTFEシートを複数枚重ね合わせた後、重ね合わされたPTFEシートをテンター法のような公知の延伸方法により2軸延伸してもよい。
【0030】
ただし、重ね合わせ工程の後で2軸延伸工程を行う場合、多孔質構造が不均一になる可能性がある。なぜなら、重ね合わされたPTFEシートの界面近傍の部分と、界面から離れた部分とで張力のかかり方が相違するからである。多孔質構造が不均一になると、通音性に影響がでる。これに対し、本実施形態によれば、長手方向の延伸で微孔を形成した後に、重ね合わせおよび幅方向の延伸を行うため、従来の単層の場合と比較しても遜色のない良質な多孔質構造を形成することができる。また、長手方向に延伸されたPTFEシートのハンドリング容易性は、未延伸のPTFEシートのハンドリング容易性よりも高い。したがって、本実施形態によれば、正確に重ね合わせ工程を行うことができるとともに、シート間に空気泡が挟まれるような問題も生じにくい。また、未延伸のシートを重ね合わせても容易に接着しないが、長手方向に延伸した後のシートは容易かつ均一に接着できる。
【0031】
また、本実施形態のように、長手方向の延伸工程と、幅方向の延伸工程との間に、重ね合わせ工程を挟むことにより、長手方向の延伸倍率が互いに相違する2つの層を有するPTFE多孔質膜を製造できる。このような特殊なPTFE多孔質膜は、面密度や膜厚の微調整が必要となる製品(防水通音膜)に有効である。
【0032】
また、予め2軸延伸された複数枚のPTFEシートを重ね合わせ、焼成により一体化するようにしてもよい。ただし、現実の生産過程において、幅方向への延伸を行った後のPTFEシートの面積は非常に大きくなるので、当該順序によれば、重ね合わせが困難となる可能性がある。
【0033】
これに対し、幅方向の延伸の前に重ね合わせを行う場合には、PTFEシートの幅が狭いので重ね合わせが容易であり、重ね合わせ時にPTFEシートにシワが生じたり、亀裂が入ったりするなどの不具合が生じにくく、ひいては重ね合わせ工程の追加に伴う歩留まりの低下を抑制することが可能となる。図1Bに示すように、本実施形態によれば、重ね合わせの前に長手方向の延伸を行っているが、PTFEシートの長手方向は、通常、圧延方向や搬送方向に沿う方向であるから、長手方向の面積拡大はPTFEシートのハンドリング容易性に大した影響を及ぼさず、重ね合わせの困難性を高める要因となりにくい。
【0034】
以上に説明した方法により、図2Aおよび図2Bに示す防水通音膜10を製造することができる。
【0035】
図2Aに示す防水通音膜10は、円板状のPTFE多孔質膜1で作られている。図2Bに示すように、防水通音膜10としてのPTFE多孔質膜1は、第1多孔質層1aと、第2多孔質層1bとを含む。第2多孔質層1bは、PTFEのマトリクス間に働く結着力に基づいて第1多孔質層1aに積層および一体化されている。図1Aおよび図1Bで説明した製造方法によれば、第1多孔質層1aと第2多孔質層1bは、実質的に同一のマトリクス構造を有したものとなる。言い換えれば、第1多孔質層1aの延伸方向と第2多孔質層1bの延伸方向とが一致し、かつ延伸倍率が各延伸方向に関して等しくなる。また、第1多孔質層1aの厚さと第2多孔質層1bの厚さも同一となる。
【0036】
防水通音膜10の面密度は(複数層の合計で)1〜20g/m2である。面密度がこのような範囲内にある防水通音膜10は、物理的強度が十分であるとともに、音響透過損失が小さく、通音性にも優れる。防水通音膜10の面密度の好ましい範囲は、2〜10g/m2である。
【0037】
防水通音膜10の耐水圧を高く保つために、防水通音膜10を構成する多孔質層1a,1bの平均孔径は0.1〜1.0μmであるとよい(0.7μm以下であってもよく、0.5μm以下であってもよい)。平均孔径が小さくなることによって膜の通気性は低下するが、防水通音膜10は膜自体が振動することによって音を伝播するため、通気性は通音性能にそれほど大きな影響を与えない。
【0038】
なお、平均孔径の測定方法は、ASTM F316−86に記載されている測定法が一般的に普及しており、自動化された測定装置が市販されている(例えば、米国Porous Material Inc.より入手可能なPerm-Porometer)。この方式は、既知の表面張力を持つ液体に浸漬したPTFE多孔質膜をホルダに固定し、一方から加圧することによって膜から液体を追い出し、その圧力から平均孔径を求めるものである。この方式は簡便かつ再現性が高いだけでなく、測定装置を完全に自動化できるという点で優れている。
【0039】
また、防水通音膜10には、耐水性を高めるために、含フッ素ポリマーなどの撥水剤を用いて撥水処理を行ってもよい。
【0040】
次に、図3に示す防水通音膜11は、PTFE多孔質膜1と、PTFE多孔質膜1に積層および一体化された支持体2とを有する。支持体2は、PTFE多孔質膜1の片面に設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。この防水通音膜11の面密度も、1〜20g/m2であり、6〜20g/m2としてもよい。支持体2の面密度は、例えば、5〜19g/m2であり、そのような面密度を実現するように支持体2の厚みが調整されている。支持体2の形状は、PTFE多孔質膜1と同一径の円形でありうる。
【0041】
支持体2としては、ネット、フォームラバー、スポンジシートなどの多孔体、不織布、織布などを用いることができるが、特に、ネットが好ましい。ネット形状の素材はメッシュとも呼ばれ、フィラメント(繊維)が組み合わさってできた網目の間がほぼ均一に開口しているため、PTFE多孔質膜の通音性が阻害されにくいからである。ネットの材質としては、コストと加工性とを考慮して、ポリオレフィン、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂が好適である。それ以外には、金属メッシュを用いることも可能である。金属メッシュは、マイクやスピーカーが電磁的なノイズを拾うことを抑制する電磁遮蔽材をしても機能する。
【0042】
PTFE多孔質膜1と支持体2との接着方法は、特に限定されないが、支持体2がネットである場合、ネットにPTFE多孔質膜1より低融点の材料を用い、熱ラミネートによってネットの表面を融解させ、PTFE多孔質膜1に部分的に含浸させる方法が好ましい。このように接着剤を用いずに両者を接着するので、余分な重量増加がなく、かつ、接着剤がメッシュの開口を閉塞することによる通気性の低下も最小限に抑えることができる。
【0043】
また、支持体は、PTFE多孔質膜1の周縁部に取り付けられた枠であってもよい。図4は、PTFE多孔質膜1の周縁部に、リング形状の支持体3が取り付けられた防水通音膜12を示している。このように、リング形状の枠を支持体3として設けた形態によれば、図3に示した防水通音膜11と同様、PTFE多孔質膜1を補強することができ、取り扱いが容易となる。また、この支持体3が電気製品の筐体への取付しろとなるため、筐体への取り付け作業が容易となる。また、リング形状の支持体3とPTFE多孔質膜1とを有する防水通音膜12においては、通音部分がPTFE多孔質膜1単体であることから、PTFE多孔質膜1の全面に支持体2としてネットなどを貼り合わせた形態(図3参照)よりも、通音性の点で有利である。なお、図4に示した例では、支持体3は、PTFE多孔質膜1単体の周縁部に取り付けられているが、PTFE多孔質膜1とシート状の支持体2との積層物の周縁部に取り付けてもよい。
【0044】
支持材3の材質は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂や金属が好適である。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)などのポリエステル、ポリイミド、あるいはこれらの複合材が挙げられる。金属としては、ステンレスやアルミニウムのような耐蝕性に優れるものが挙げられる。リング形状の支持体3の厚みは、例えば5〜500μmであり、25〜200μmであってもよい。また、リング幅(外径と内径の差)は0.5〜2mmであることが、電気製品の筐体への取付しろとして適当である。また、リング形状の支持体3には、上記した樹脂でできた発泡体を用いることもできる。
【0045】
PTFE多孔質膜1とリング形状の支持体3の接着方法は、特に限定されず、例えば、加熱溶着、超音波溶着、接着剤による接着、両面テープによる接着などの方法により行うことができる。特に、PTFE多孔質膜1と支持体3との接着が容易な両面テープを用いることが好ましい。
【0046】
図5Aおよび図5Bは、防水通音膜10が用いられた電気製品の一例を示している。図5Aおよび図5Bに示す電気製品は、携帯電話5である。携帯電話5の筐体9には、スピーカー6、マイク7、ブザー8などの発音部および受音部のための開口が設けられている。それらの開口を塞ぐ形で、防水通音膜10が内側から筐体9に取り付けられている。これにより、筐体9の内部への水や埃の侵入が阻止され、発音部および受音部が保護される。防水通音膜10の取り付けは、筐体9との接合部から水が浸入することのないように、例えば、両面テープを用いた貼付、熱溶着、高周波溶着、超音波溶着などの方法により行われる。
【0047】
なお、本実施形態の防水通音膜10は、携帯電話5だけでなく、音声の出力を行うための発音部および音声の入力を行うための受音部から選ばれる少なくとも1つを備えた電気製品に適用できる。具体的には、ノートパソコン、電子手帳、デジタルカメラ、携帯用オーディオのような音声機能を備えた各種電気製品に適用可能である。
【0048】
防水通音膜10は、その表裏に両面テープを両面に貼り付けることによって形成されたアセンブリの形で提供されうる。図6Aに示すように、アセンブリ40は、防水通音膜10と、防水通音膜10の表裏に貼り付けられた2つの両面テープ30とを有する。両面テープ30は、平面視でリングまたは枠の形状を有する。両面テープ30の開口部30hに防水通音膜10が露出している。アセンブリ40の一方の面に台紙セパレータ34が設けられ、他方の面にタブ付きセパレータ32が設けられている。アセンブリ40が2枚のセパレータ32,34の間に保持されているので、防水通音膜10を確実に保護できるとともに、携帯電話等の対象物への取り付け作業が容易化する。
【0049】
セパレータ32は、アセンブリ40とともに台紙セパレータ34から剥離されうる。図6Bの平面図に示すように、セパレータ32のタブ32tは、アセンブリ40の外縁から外向きに突出するように形成されている。セパレータ32のタブ32tの部分を掴んだまま、アセンブリ40を携帯電話等の対象物に貼り付けることができる。そして、タブ32tを引き上げることにより、アセンブリ40からセパレータ32を容易に剥離できる。このように、防水通音膜10に直接触れることなく、防水通音膜10を対象物に取り付けることができるので、作業時に防水通音膜10にダメージが及びにくい。また、対象物にキズを付けたりする可能性も低減できる。
【0050】
セパレータ32,34は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラートなどの樹脂でできていてもよいし、紙でできていてもよい。また、台紙セパレータ34には、アセンブリ40を載せる部分にエンボス加工が施されていてもよい。また、台紙セパレータ34と両面テープ30との間の接着力(180°ピール接着強度)よりも、タブ付きセパレータ32と両面テープ30との間の接着力の方が強いことが望ましい。そのようにすれば、タブ付きセパレータ32をアセンブリ40とともに台紙セパレータ34から容易に剥離できるからである。
【0051】
1つのアセンブリ40に対して1つのタブ付きセパレータ32が設けられる。他方、台紙セパレータ34は、多数個のアセンブリ40に共有されていてもよいし、1つのアセンブリ40に対して1つの台紙セパレータ34が設けられていてもよい。後者の製品は、タブ付きセパレータ32をアセンブリ40の上に載せた後、タブ付きセパレータ32よりも大きく台紙セパレータ34を打ち抜くことによって得られる。
【0052】
アセンブリ40やタブ付きセパレータ32の形状は特に限定されない。図7Aに示すように、アセンブリ40が円形であってもよい。また、図7Bに示すように、アセンブリ40の全周に渡って円形のタブ32tが形成されていてもよい。また、図7Cに示すように、アセンブリ40が矩形であり、平面視でタブ32tがアセンブリ40を取り囲む枠の形状を有していてもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
PTFE微粉末(ダイキン工業社製 F101HE)100重量部、液状潤滑剤(ナフサ)20重量部の割合で混練し、PTFE微粉末とナフサとを含むペーストを準備した。このペーストを20kg/cm2の条件で円筒状に予備成形した。次に、円筒状の予備成形体を押出成形し、ロッド状成形体(φ47mm)を得た。次に、ロッド状成形体を、液状潤滑剤を含んだ状態で1対の金属圧延ロールの間に通し、厚さ200μmの長尺シートを得た。この長尺シートを温度150℃の乾燥機内に5分間滞留するように連続的に通して液状潤滑剤を乾燥除去し、PTFEシートを作製した。
【0055】
(実施例1)
上記したPTFEシートを290℃の雰囲気温度の乾燥機中で長手方向に8倍延伸した。さらに、長手方向に延伸したPTFEシートを2枚重ね合わせ、テンター法により150℃の雰囲気温度で幅方向に31.5倍延伸した。その後、2軸延伸したPTFEシートを焼成し、2層構造を有するPTFE多孔質膜を得た。
【0056】
(実施例2A〜2C)
上記したPTFEシートを290℃の雰囲気温度の乾燥機中で長手方向に13倍延伸し、さらに、テンター法により150℃の雰囲気温度で幅方向に45倍延伸した。その後、2軸延伸したPTFEシートを3枚重ね合わせて焼成し、3層構造を有するPTFE多孔質膜を得た。
【0057】
(実施例3A,3B)
上記したPTFEシートを290℃の雰囲気温度の乾燥機中で長手方向に13倍延伸し、さらに、テンター法により150℃の雰囲気温度で幅方向に45倍延伸した。その後、2軸延伸したPTFEシートを4枚重ね合わせて焼成し、4層構造を有するPTFE多孔質膜を得た。
【0058】
(実施例4)
実施例3AのPTFE多孔質膜に、支持体として低融点オレフィン系ネット(DelStar Technologies,Inc.製 デルネットX550(面密度12g/m2))をラミネートし、支持体付きPTFE多孔質膜を得た。
【0059】
(実施例5)
上記したPTFEシートを290℃の雰囲気温度の乾燥機中で長手方向に10倍延伸し、さらに、テンター法により150℃の雰囲気温度で幅方向に45倍延伸した。その後、2軸延伸したPTFEシートを3枚重ね合わせて焼成し、3層構造を有するPTFE多孔質膜を得た。
【0060】
(実施例6A〜6C)
上記したPTFEシートを290℃の雰囲気温度の乾燥機中で長手方向に8倍延伸し、さらに、テンター法により150℃の雰囲気温度で幅方向に45倍延伸した。その後、2軸延伸したPTFEシートを2枚重ね合わせて焼成し、2層構造を有するPTFE多孔質膜を得た。
【0061】
(比較例1A〜1E)
上記したPTFEシートを290℃の雰囲気温度の乾燥機中で長手方向に4倍延伸し、さらに、テンター法により150℃の雰囲気温度で幅方向に20倍延伸した。2軸延伸したPTFEシートを焼成し、PTFE多孔質膜を得た。
【0062】
(比較例2A〜2C)
上記したPTFEシートを290℃の雰囲気温度の乾燥機中で長手方向に6倍延伸し、さらに、テンター法により150℃の雰囲気温度で幅方向に20倍延伸した。2軸延伸したPTFEシートを焼成し、PTFE多孔質膜を得た。
【0063】
実施例および比較例の面密度および耐水圧をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0064】
面密度は、実施例および比較例の各多孔質膜をφ47mmのポンチで打ち抜き、打ち抜いた部分の質量を測定し、1m2当りの質量に換算して求めた。
【0065】
耐水圧は、JIS L 1092に記載されている耐水度試験機(高水圧法)に準じて測定した。ただし、JIS L 1092に規定の面積では、膜が著しく変形するため、ステンレスメッシュ(開口径2mm)を膜の加圧面の反対側に設置し、変形を抑制した状態で測定した。
【0066】
【表1】
【0067】
表1から分かるように、面密度が同程度であっても、多層構造を有する実施例の方が相対的に高い耐水圧を示した。さらに、それらの実施例の中でも、同程度の面密度で比較したとき、積層数が増加するにつれて耐水圧が高くなる傾向を示した。
【0068】
(耐水圧保持試験)
次に、実施例1、実施例3Aおよび比較例2Aについて、耐水圧保持試験を行った。耐水圧保持試験は、耐水圧試験と同じくJIS L 1092に記載されている耐水度試験機を用いて行った。具体的には、150kPaの水圧(深度15mの水圧に相当する)をPTFE多孔質膜にかけ、1時間保持した後に水漏れの有無を観察し、良否判定を行った。ただし、JIS L 1092に規定の面積では膜が著しく変形するため、ステンレスメッシュ(開口径3mm)を膜の加圧面の反対側に設置し、変形をある程度抑制した状態で測定した。
【0069】
結果を表2に示す。なお、良否の判定基準は次の通りである。
◎:水漏れ無し
○:30分〜1時間の間にごく僅かな際漏れが発生
△:30分以内に際漏れが発生
×:破裂
【0070】
【表2】
【0071】
表2から明らかなように、実施例1、実施例3Aおよび比較例2Aは、面密度がいずれも4g/m2と近いにも拘わらず、耐水圧保持試験で顕著な差異が認められた。すなわち、実施例の耐水圧保持時間は、比較例のそれよりも長かった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1A】本発明の実施形態にかかる防水通音膜の製造方法を示す工程説明図
【図1B】図1Aに続く工程説明図
【図2A】本発明の防水通音膜の一例を示す斜視図
【図2B】図1の防水通音膜の断面図
【図3】本発明の防水通音膜の他の例を示す斜視図
【図4】本発明の防水通音膜の他の例を示す斜視図
【図5A】防水通音膜が適用された携帯電話の正面図
【図5B】防水通音膜が適用された携帯電話の背面図
【図6A】2枚のセパレータの間に保持された防水通音膜の断面図
【図6B】図6Aの平面図
【図7A】セパレータおよび防水通音膜の別の形状を示す平面図
【図7B】セパレータおよび防水通音膜のさらに別の形状を示す平面図
【図7C】セパレータおよび防水通音膜のさらに別の形状を示す平面図
【符号の説明】
【0073】
10,11,12 防水通音膜
1 PTFE多孔質膜
2,3 支持体
5 携帯電話
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を含む防水通音膜であって、
前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜が、第1多孔質層と、ポリテトラフルオロエチレンのマトリクス間に働く結着力に基づいて前記第1多孔質層に積層および一体化された第2多孔質層とを含み、
当該防水通音膜の面密度が1〜20g/m2である、防水通音膜。
【請求項2】
前記第1多孔質層および前記第2多孔質層がそれぞれ2軸延伸されており、
前記第1多孔質層の延伸倍率と前記第2多孔質層の延伸倍率が等しい、請求項1に記載の防水通音膜。
【請求項3】
前記第1多孔質層の延伸方向と前記第2多孔質層の延伸方向とが一致し、かつ延伸倍率が各延伸方向に関して等しい、請求項2に記載の防水通音膜。
【請求項4】
前記第1多孔質層および前記第2多孔質層の平均孔径がそれぞれ1μm以下であり、
当該防水通音膜の面密度が10g/m2以下である、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の防水通音膜。
【請求項5】
前記第1多孔質層および前記第2多孔質層から選ばれる少なくとも1つに積層された支持体をさらに含む、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の防水通音膜。
【請求項6】
ポリテトラフルオロエチレン微粉末と加工助剤とを含むペーストを押出成形する工程と、
前記ペーストの成形体としてのシートまたは前記ペーストの成形体を圧延して得られるシートを、ポリテトラフルオロエチレンの融点未満の温度で第1方向に延伸する工程と、
前記シートを複数枚重ね合わせる工程と、
重ね合わせた複数枚の前記シートをポリテトラフルオロエチレンの融点未満の温度で前記第1方向と交差する第2方向に延伸する工程と、
複数枚の前記シートをポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度で焼成し、ポリテトラフルオロエチレンのマトリクス間に働く結着力に基づいて一体化する工程と、をこの順番で行い、
当該防水通音膜の面密度が1〜20g/m2となるように、前記シートの第1方向および第2方向への延伸倍率を調整する、防水通音膜の製造方法。
【請求項7】
ポリテトラフルオロエチレン微粉末と加工助剤とを含むペーストを押出成形する工程と、
前記ペーストの成形体としてのシートまたは前記ペーストの成形体を圧延して得られるシートを、ポリテトラフルオロエチレンの融点未満の温度で2軸延伸する工程と、
前記シートを複数枚重ね合わせる工程と、
重ね合わせた複数枚の前記シートをポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度で焼成し、ポリテトラフルオロエチレンのマトリクス間に働く結着力に基づいて一体化する工程と、をこの順番で行い、
当該防水通音膜の面密度が1〜20g/m2となるように、前記シートの延伸倍率を調整する、防水通音膜の製造方法。
【請求項8】
音声機能を備えた電気製品であって、音声の出力を行うための発音部および音声の入力を行うための受音部から選ばれる少なくとも1つと、前記発音部および/または前記受音部を水や埃から保護する防水通音膜とを備え、前記防水通音膜として請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の防水通音膜が用いられている、電気製品。
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を含む防水通音膜であって、
前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜が、第1多孔質層と、ポリテトラフルオロエチレンのマトリクス間に働く結着力に基づいて前記第1多孔質層に積層および一体化された第2多孔質層とを含み、
当該防水通音膜の面密度が1〜20g/m2である、防水通音膜。
【請求項2】
前記第1多孔質層および前記第2多孔質層がそれぞれ2軸延伸されており、
前記第1多孔質層の延伸倍率と前記第2多孔質層の延伸倍率が等しい、請求項1に記載の防水通音膜。
【請求項3】
前記第1多孔質層の延伸方向と前記第2多孔質層の延伸方向とが一致し、かつ延伸倍率が各延伸方向に関して等しい、請求項2に記載の防水通音膜。
【請求項4】
前記第1多孔質層および前記第2多孔質層の平均孔径がそれぞれ1μm以下であり、
当該防水通音膜の面密度が10g/m2以下である、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の防水通音膜。
【請求項5】
前記第1多孔質層および前記第2多孔質層から選ばれる少なくとも1つに積層された支持体をさらに含む、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の防水通音膜。
【請求項6】
ポリテトラフルオロエチレン微粉末と加工助剤とを含むペーストを押出成形する工程と、
前記ペーストの成形体としてのシートまたは前記ペーストの成形体を圧延して得られるシートを、ポリテトラフルオロエチレンの融点未満の温度で第1方向に延伸する工程と、
前記シートを複数枚重ね合わせる工程と、
重ね合わせた複数枚の前記シートをポリテトラフルオロエチレンの融点未満の温度で前記第1方向と交差する第2方向に延伸する工程と、
複数枚の前記シートをポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度で焼成し、ポリテトラフルオロエチレンのマトリクス間に働く結着力に基づいて一体化する工程と、をこの順番で行い、
当該防水通音膜の面密度が1〜20g/m2となるように、前記シートの第1方向および第2方向への延伸倍率を調整する、防水通音膜の製造方法。
【請求項7】
ポリテトラフルオロエチレン微粉末と加工助剤とを含むペーストを押出成形する工程と、
前記ペーストの成形体としてのシートまたは前記ペーストの成形体を圧延して得られるシートを、ポリテトラフルオロエチレンの融点未満の温度で2軸延伸する工程と、
前記シートを複数枚重ね合わせる工程と、
重ね合わせた複数枚の前記シートをポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度で焼成し、ポリテトラフルオロエチレンのマトリクス間に働く結着力に基づいて一体化する工程と、をこの順番で行い、
当該防水通音膜の面密度が1〜20g/m2となるように、前記シートの延伸倍率を調整する、防水通音膜の製造方法。
【請求項8】
音声機能を備えた電気製品であって、音声の出力を行うための発音部および音声の入力を行うための受音部から選ばれる少なくとも1つと、前記発音部および/または前記受音部を水や埃から保護する防水通音膜とを備え、前記防水通音膜として請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の防水通音膜が用いられている、電気製品。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【公開番号】特開2009−44731(P2009−44731A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181528(P2008−181528)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
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