説明

防波堤の補強工法並びに補強された防波堤

【課題】 補強工事期間中であっても、既存防波堤の構造的強度を大幅に低減させることなく、且つ、既存防波堤の構造的強度並びに該防波堤を支持する土壌構造をも補強する防波堤の補強工法並びに該補強工法により補強された防波堤の提供。
【解決手段】 既存防波堤を補強する補強工法であって、前記既存防波堤の上方に突出するパラペットから、前記防波堤内部を通過し、該防波堤下方の岩盤まで延設する孔部を形成する削孔工程と、前記孔部に金属線を挿入し、該金属線先端を前記孔部底端で固定する金属線挿入工程と、前記孔部内に充填剤を注入する注入工程からなることを特徴とする補強工法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防波堤を補強するための工法並びに補強された防波堤に関し、より詳しくは、防波堤の補強のみならず防波堤を支持する土壌をも補強する防波堤の補強工法並びに補強された防波堤に関する。
【背景技術】
【0002】
図7に一般的な、防波堤の構造を示す。
一般的に、防波堤(100)は、栗石層(101)上に配される床版(102)と、床版(102)上に配される複数のブロック(103)から構成され、最上部に位置するブロック(103)は上方に突出するパラペット(104)を備える。
このような防波堤(100)は、特に内部に鉄筋等の骨組み構造を備えるものではなく、ブロック(103)を輾圧しながら徐々に積み上げていくことで構築される。
防波堤(100)は、常に波圧や水圧等の力が加えられるにもかかわらず、構造的強度がさほど高くないので、経時的に構造的強度が低下し、既存の多くの防波堤(100)は決壊する危険性を有するものである。
【0003】
特許文献1は、防波堤の補強工法の一例を開示している。
特許文献1が開示する防波堤の補強方法は、防波堤上面から板状のコンクリートブロックを埋設することにより、複数のブロック(103)間を構造的に連結させるものである。
【0004】
【特許文献1】特開平7−324316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される工法によれば、複数のブロック(103)間を構造的に連結させることで、防波堤(100)の強度を高めることが可能であるが、次のような課題を有する。
まず、板状のコンクリートブロックを埋設するために、既存防波堤に埋設用の溝部を形成する必要がある。防波堤(100)の強度を高めるためには、ある程度の厚さを有するコンクリートブロックを埋設する必要があり、このため、既存防波堤に形成される溝幅も広く形成される必要がある。
幅の広い溝部が形成されてから、コンクリートブロックが埋設されるまでの間、この溝部形成に起因して、既存防波堤(100)の強度は著しく低減する。一方で、既存防波堤(100)は、常に波圧や水圧を受けるものであるので、このような工事期間中の強度低減は、防波堤の決壊等を招来するおそれがある。
【0006】
従来の防波堤(100)の補強工法には、他の課題も存在する。
図7に示すように、既存防波堤(100)を支持する土壌内に空洞部(105)が形成されている場合が多い。空洞部(105)は、波が土壌を沖方向へ流出させることにより形成される。
このような空洞部(105)が形成されていると、既存防波堤(100)自身の構造的強度を上げたとしても、既存防波堤(100)を支える土壌自身が脆弱であるため、結果として防波堤(100)の決壊等を生ずることとなる。
【0007】
更に、従来の防波堤(100)の補強工程により、補強された後においても、防波堤(100)の構造は強度が低い土壌である砂の上に載置されているのに変わりがない。したがって、海流の影響により防波堤(100)の下の土砂が流されると、防波堤(100)の強度が著しく低減するものとなる。
【0008】
本発明は上記実情を鑑みてなされたものであって、補強工事期間中であっても、既存防波堤の構造的強度を大幅に低減させることなく、且つ、既存防波堤の構造的強度並びに該防波堤を支持する土壌構造をも補強する防波堤の補強工法並びに該補強工法により補強された防波堤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、既存防波堤を補強する補強工法であって、前記既存防波堤の上方に突出するパラペットから、前記防波堤内部を通過し、該防波堤下方の岩盤まで延設する孔部を形成する削孔工程と、前記孔部に金属線を挿入し、該金属線先端を前記孔部底端で固定する金属線挿入工程と、前記孔部内に充填剤を注入する注入工程からなることを特徴とする補強工法である。
請求項2記載の発明は、前記防波堤が、前記床板上に積み上げられる複数のブロックにより構成され、前記注入工程が、前記充填剤を、前記ブロック境界を通じて、前記波打ち面と反対側の陸側面を支持する土壌に形成された空洞部に充填することを特徴とする請求項1記載の補強工法である。
【0010】
請求項3記載の発明は、床版と、床版上方に積み上げられた複数のブロックからなる防波堤であって、前記防波堤上部から該防波堤下方の岩盤までを貫く孔部と、該孔部内部に挿入される金属線と、前記孔部に充填される充填剤を備えることを特徴とする防波堤である。
請求項4記載の発明は、前記防波堤の陸側面から突出する突出部を備え、該突出部が、前記ブロックの境界を通じて流出した充填剤が固化して形成されてなることを特徴とする請求項3記載の防波堤である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、既存防波堤に孔部を形成し、この孔部内に金属線を挿入して、既存防波堤の構造的強度を向上させるので、補強工事期間中も大幅に既存防波堤の強度を低減させることなく、既存防波堤を補強可能となる。
請求項2記載の発明によれば、既存防波堤を支持する土壌の強度を向上させることができる。
請求項3記載の発明によれば、防波堤を構成するブロック同士が金属線で接合されるとともに充填剤によってブロック間の境界も接合されるので、高い構造的強度を備える防波堤となる。
請求項4記載の発明によれば、土壌内部に入り込む突出部を備えるので、土壌と確実に連結する防波堤となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る防波堤補強工法並びに補強された防波堤の実施形態について、図を参照しつつ説明する。
図1は、防波堤補強工法のフローチャートである。
図1に示す如く、防波堤補強工法は、削孔工程、金属線挿入工程及び注入工程からなる。
図2は、削孔工程の形態を示す図であり、図2(a)は、削孔装置を防波堤上に配設した状態を示す側面図であり、図2(b)は、クレーンを防波堤上に配設した状態を示す図である。
図3は、図2に示す防波堤上に配設された削孔装置並びにクレーンの配置関係を示す平面図である。
【0013】
本発明の防波堤補強工法は、既存の様々な構造を備える防波堤に対して適用可能であるが、例示的に図2に示すような構造の防波堤(1)を示す。尚、図2において、左方を海側とし、右方を陸側とする。
防波堤(1)は、海底土壌中に形成された栗石層(11)上に配設される床版(12)と、床版(12)上に積み上げられるブロック(13)から構成される。最上部に配されるブロック(13)は、上方に突出するパラペット(131)を備え、また、陸側の土壌表面を覆うコンクリート部分(132)を備える。パラペット(131)上部において、パラペット(131)は、海側に突出する突出部(133)を備える。
積み上げられたブロック(13)で形成される防波堤(1)の波打ち面(14)は、下方から上方に向けて陸側に傾斜するとともに、最上部のパラペット(131)により形成される防波堤(1)の波打ち面は、海側に向けて湾曲して傾斜している。パラペット(131)の陸側面(134)は、下方から上方に向けて海側へ傾斜している。
波打ち面(14)の反対側の面である陸側面(15)は、下方から上方に向かって、陸側方向に傾斜している。
【0014】
削孔工程において、削孔装置(2)を防波堤(1)に取付けるための一対のブラケット(21)が容易される。ブラケット(21)は、パラペット(131)の突出部(133)の海側の面に当接して配される部材(211)と、パラペット(131)上端面に当接して配される水平な部材(212)と、水平な部材(212)の陸側端部から下方に延設する部材(213)を備え、側面視略C型形状を備えている。ブラケット(21)の部材(213)下端には、上下方向に伸縮するシリンダジャッキ(214)が配され、部材(212)の水平度を調整可能としている。
【0015】
削孔装置(2)は、ロッド(221)と、ロッド(221)先端に接続されたビット(222)と、ビット(222)をロッド(221)軸方向に往復動作させるエアハンマに空気を供給するとともにロッド(221)をその軸回りに回転動作させるエア・ロータリ・テーブルマシン(223)から構成される。
削孔装置(2)はブラケット(21)上に固定される。上記ブラケット(21)の構造により、後述するロッド(221)の回転に起因して削孔装置(2)が回転することを防止可能である。
【0016】
図3に示す如く、クレーン(3)は、防波堤(1)上に削孔装置(2)に隣接して配設される台座部(31)上に配設される。
台座部(31)は、パラペット(131)上面に載置される基台部(311)と、基台部(311)下面から延出するとともにパラペット(131)より海側に配される一対の海側脚部(312)と、基台部(311)下面から延出するとともにパラペット(131)より陸側に配される一対の陸側脚部(313)を備える。
海側脚部(312)下端には、円板車輪(314)が取付けられ、円板車輪(314)の周面は、パラペット(131)の海側側面に当接する。また、陸側脚部(313)の下端には、下方に向かって狭まる台形円錐状の円錐車輪(315)が取付けられ、円錐車輪(315)の周面はパラペット(131)の陸側斜面に当接する。
また基台部(311)の下面側には駆動輪(316)が取付けられ、駆動輪(316)はパラペット(131)の上面に当接している。
このようにして、台座部(31)が防波堤(1)上に固定される。そして、台座部(31)上にクレーン(3)が据付けられる。
駆動輪(316)を駆動させることで、クレーン(3)は防波堤(1)に沿って移動可能であり、削孔装置(2)との位置関係を調整可能である。このとき、円板車輪(314)と円錐車輪(315)は、パラペット(131)の両側面を挟持するので、クレーン(3)を安定的に移動させることが可能である。
そして、図2に示す如く、クレーン(3)はロッド(221)上端を支持する。
【0017】
削孔工程において、まず、ブラケット(21)と台座部(31)が防波堤(1)上に載置・固定される。そして、ブラケット(21)上に削孔装置(2)のテーブルマシン(223)が載置・固定され、台座部(31)上にクレーン(3)が載置・固定される。このとき、テーブルマシン(223)が備えるロッド(221)挿入用の貫通孔の軸はコンクリート部分(132)に対して傾斜している。
その後、ロッド(221)上端がクレーン(3)により吊り上げられ、ロッド(221)下端からテーブルマシン(223)の貫通孔に挿入される。そして、ビット(222)がパラペット(131)の陸側斜面に当接する。
この状態において、テーブルマシン(223)は、ビット(222)をロッド(221)の軸に沿って往復動させるとともにロッド(221)をその軸回りに回転動作させ、防波堤(1)を削孔する。
ビット(222)並びにロッド(221)は、各ブロック(13)を通過し、床版(12)並びに栗石層(11)を貫通し、栗石層(11)下方の所定深さまで達し、防波堤(1)下方の岩盤(10)内まで削抗する。
この後、ビット(222)とロッド(221)が防波堤(1)から引き抜かれ、削孔工程は完了する。
尚、ビット(222)とロッド(221)が引き抜かれた後、防波堤(1)内部に形成された孔部に水或いは空気を流入させて、削孔工程にて生じた孔部内の粉塵を除去してもよい。
【0018】
図4は、金属線挿入工程が完了した状態を示す。
削孔工程にて、防波堤(1)に対して削孔を行った後、クレーン(3)並びに削孔装置(2)は防波堤(1)から取り払われる。そして、防波堤(1)に形成された孔部(16)に金属線(4)が挿入される。金属線(4)は、孔部(16)の底端まで達する。
使用される金属線(4)には、PC鋼線等の引張強度が高い材料の線材が用いられることが好ましい。
【0019】
金属線(4)が挿入された後、孔部(16)内に根固め液が注入される。注入される根固め液は、栗石層(11)より下方の孔部(16)周囲の土壌を固化する。尚、図4中には符号(5)で示される領域が根固め液により固化された部分として示されている。
根固め液により領域(5)を固化した後、金属線(4)は上方に向けて引っ張られ、金属線(4)に所定の大きさの張力が加えられ、金属線(4)の弛みが除去される。
【0020】
図5は、注入工程の作業形態を示す。
金属線(4)に所定の張力が加えられた後に、液状の充填剤が孔部(16)へ注入される。充填剤は孔部(16)内部を満たす。
既存の防波堤(1)の多くは、防波堤(1)を構成するブロック(13)間の境界付近の陸側土壌内に空洞部(17)が形成されている。この空洞部(17)は、海水の流れによって、土壌内の土砂がブロック(13)間の境界を介して海側に洗い流されるために生ずる。
【0021】
注入工程で、液状の充填剤が孔部(16)に注入されると、孔部(16)からブロック(13)間の境界面を通じて、充填剤が空洞部(17)に流れ込む。そして、空洞部(17)は充填剤により満たされることとなる。
充填剤は時間経過とともに固化し、注入工程が完了する。
尚、このような充填剤としては、モルタルが好適に使用可能である。
【0022】
図6は、補強工程完了後の防波堤(1)を示す。
図6に示す如く、補強後の防波堤(1)は孔部(16)だけでなく、ブロック(13)間の境界並びに防波堤(1)を支持する陸側土壌に形成された空洞部(17)(図5参照)内に固化した充填剤が満たされている。
補強後の防波堤(1)は、各ブロック(13)が金属線(4)により接合され、且つブロック(13)間の境界面が充填剤により接合されるので、非常に高い構造的強度を備えるものとなる。
【0023】
空洞部(17)内に流入して固化してなる充填剤は陸側土壌側に突出する突出部(18)となり、結果として補強後の防波堤(1)は、土壌内部に食い込む部分を備えるものとなり、防波堤(1)と土壌の結合が補強前或いは新設された防波堤以上に強くなる。
更には、ブロック(13)間に流入した充填剤はブロック(13)間の隙間を生めるものとなり、ブロック(13)間への海水の流入を防ぐものとなる。したがって、補強後の防波堤(1)は再度の土壌内部への空洞部(17)の形成を防止可能であり、長期にわたって、構造的強度を維持可能となる。
【0024】
また、金属線(4)が岩盤(10)まで達するので、結果として、固い岩盤(10)に防波堤(1)が接続されることとなり、例え海流の影響により防波堤(1)の下方の土壌が流されたとしても防波堤(1)の強度への影響はほとんど生じない。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、既存防波堤の補強工事に好適に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る防波堤補強工程のフローチャートである。
【図2】本発明に係る防波堤補強工程の削孔工程の作業形態を示す図である。
【図3】本発明に係る防波堤補強工程の削孔工程に用いられる削孔装置とクレーンの配置を示す図である。
【図4】本発明に係る防波堤補強工程の金属線挿入工程の作業形態を示す図である。
【図5】本発明に係る防波堤補強工程の注入工程の作業形態を示す図である。
【図6】本発明に係る補強後の防波堤を示す図である。
【図7】一般的な防波堤の構造を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1・・・・・防波堤
10・・・・岩盤
12・・・・床版
13・・・・ブロック
131・・・パラペット
16・・・・孔部
18・・・・突出部
4・・・・・金属線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存防波堤を補強する補強工法であって、
前記既存防波堤の上方に突出するパラペットから、前記防波堤内部を通過し、該防波堤下方の岩盤まで延設する孔部を形成する削孔工程と、
前記孔部に金属線を挿入し、該金属線先端を前記孔部底端で固定する金属線挿入工程と、
前記孔部内に充填剤を注入する注入工程からなることを特徴とする補強工法。
【請求項2】
前記防波堤が、床版上に積み上げられる複数のブロックにより構成され、
前記注入工程が、前記充填剤を、前記ブロック境界を通じて、前記波打ち面と反対側の陸側面を支持する土壌に形成された空洞部に充填することを特徴とする請求項1記載の補強工法。
【請求項3】
床版と、床版上方に積み上げられた複数のブロックからなる防波堤であって、
前記防波堤上部から該防波堤下方の岩盤までを貫く孔部と、
該孔部内部に挿入される金属線と、
前記孔部に充填される充填剤を備えることを特徴とする防波堤。
【請求項4】
前記防波堤の陸側面から突出する突出部を備え、
該突出部が、前記ブロックの境界を通じて流出した充填剤が固化して形成されてなることを特徴とする請求項3記載の防波堤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−9608(P2007−9608A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194168(P2005−194168)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(596109273)株式会社高知丸高 (17)
【Fターム(参考)】