説明

防火アタッチメント

【課題】排水立管の溶融、炭化の前にバネ性が消失せず、排水管又は継手の開口の火災発生時の閉塞手段として確実に機能する防火アタッチメントを提供すること。
【解決手段】環状の取付部21と前記取付部21外周の非取付面側に設けた突片22と、前記突片22の下面側にバネ部材23と共に水平方向に回動可能に取り付けられた不燃性蓋部材24と前記不燃性蓋部材24の回動を規制する規制ピン25とからなり、前記バネ部材23として、排水立管12の着火温度以上の温度領域においても降伏点が維持される金属材料を用いたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中高層集合住宅等の建築物の床又は壁等の防火区画を貫通する排水管又は継手に取り付けられる防火アタッチメントに関し、詳細には各階の防火区画を貫通する排水管又は継手に取り付けられて、該排水管又は継手の管路を通じた他の防火区画への延焼を防止するようにした防火アタッチメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の住戸専有部分を備える中高層集合住宅等の建築物の排水設備1は、図8に示すように、建築物の上下方向に延びる排水立管2と、建築物の各階毎に設けられて、各階の住居部分の設備等からの排水を前記排水立管2まで導く排水横枝管3と、排水立管2と排水横枝管3とを接続する排水管又は継手4とを有してなり、排水管又は継手4は、その胴部4aがコンクリートスラブCの貫通孔C1に通されており、上階の排水立管2と下階の排水立て管2とが接続されるようになっている。排水管又は継手4は、胴部4aがコンクリートスラブCの貫通孔C1に通された後、その胴部4aと貫通孔C1の隙間部分がモルタルMにより埋め戻されている(特許文献1参照)。
【0003】
上記従来の排水設備において、建築物の上下方向に延びる排水立管2には、下階から上階への延焼を防ぐ目的で、鋼管や銅管などの金属管や樹脂管の周りにモルタル層を設けた耐火二層管などの配管部材が用いられていた。ところが、金属管や耐火二層管は重く、このような配管部材を配管場所に持ち込み、配管場所で所定の寸法に切断し接続するという配管作業は大変に手間がかかり、技術も要していた。
【0004】
そこで、運搬や配管作業の手間を大幅に削減できる軽量で、加工性に優れた樹脂製の配管部材の使用が望まれていた。
【0005】
このような要求に対し、従来より、汎用されている塩ビ管などの樹脂管を建築物の床又は壁等の防火区画を貫通する排水管又は継手に接続される排水立管の配管部材として用いることも検討された。
【0006】
しかし、塩ビ管などの樹脂管を建築物の床又は壁等の防火区画を貫通する排水管又は継手に接続される排水立管として用いた場合、塩ビ管などの樹脂管は可燃性材料であるため、火災発生時の熱で溶融して消失してしまい、これにより排水管又は継手の管路を通じて他の防火区画への延焼を引き起こす招く恐れがあった。
【0007】
そこで、本発明者らは、このような技術的課題に鑑み、中高層集合住宅等の建築物の床又は壁等の防火区画を貫通する排水管又は継手に接続される排水立管として、重く取り扱い性が悪い金属管や耐火二層管などの配管部材に代えて軽量で取り扱い性が良好な樹脂管を用いた場合でも、火災発生時に排水管又は継手の管路を通じた他の防火区画への延焼を確実に防止することができる防火アタッチメントとして、前記排水管又は継手の下端部に取り付けられる環状をなす取付部と、その取付部の非取付面側であって環周りに固定された複数の二等辺三角形状をなす板バネからなり、これら複数の板バネの先端が前記取付部の非取付面側で突き合わせ状態となるように付勢されていて、前記排水管又は継手に接続される樹脂製の排水立管端部周面を押圧して保持する保持部材とからなるものなどを提案している(特許文献2及び3参照)。
【0008】
この防火アタッチメントにあっては、火災発生時の熱によって前記排水立管が溶融して炭化したとき、これに伴って排水立管端部周面を押圧して保持していた保持部材を構成する各板バネがそのバネ力によって閉動し、その先端が前記排水立管の残焼物を抱き込みながら突き合わせ状態となって前記排水管又は継手の開口を閉塞し、排水管又は継手の管路を通じた他の防火区画への延焼が確実に防止されるようになっていた。
【0009】
【特許文献1】特開2005−146525号公報
【特許文献2】特願2006−226024号
【特許文献3】特願2007−070511号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上記防火アタッチメントにあっては、火災発生時の熱による排水立管の溶融、炭化に伴って保持部材を構成する各板バネが閉動するという作用を導き出す各板バネのバネ性が、火災発生時の熱によって排水立管が溶融し、炭化する前に消失してしまい、排水管又は継手の開口の火災発生時の閉塞手段として十分に機能しない場合があった。
【0011】
そこで、本発明者らは、火災発生時の熱による排水立管の溶融、炭化の前にバネ性が消失せず、排水管又は継手の開口の火災発生時の閉塞手段として確実に機能するバネ部材、防火アタッチメントについて、鋭意検討の結果、排水立管の着火温度以上の温度領域において降伏点が維持される金属材料からなるバネ部材を適用することで、排水立管の溶融、炭化の前にバネ部材のバネ性が消失せず、排水管又は継手の開口の火災発生時の閉塞手段として確実に機能することを発見し、この知見に基づいて、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、排水立管の溶融、炭化の前にバネ性が消失せず、排水管又は継手の開口の火災発生時の閉塞手段として確実に機能する防火アタッチメントを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、中高層集合住宅等の建築物の床又は壁の防火区画を貫通する排水管又は継手に取り付けられる防火アタッチメントであって、
前記排水管又は継手の端部に取り付けられ、前記排水管又は継手の管路に繋がる開口を有する取付部と、
前記取付部に取り付けられ、前記排水管又は継手に接続される樹脂製の排水立管の着火温度以上の温度領域において降伏点が維持される金属材料からなるバネ部材と、
前記バネ部材の付勢力で前記取付部の開口側へ回動し、前記取付部の開口を閉塞する不燃性蓋部材と、
を備えたことを特徴とする防火アタッチメントをその要旨とするものである。
【0014】
請求項2記載の発明は、バネ部材が、排水立管の着火温度乃至発火温度の温度領域において降伏点が維持される金属材料からなることを特徴とする防火アタッチメントをその要旨とするものである。
【0015】
請求項3記載の発明は、バネ部材が400〜460℃の温度領域において降伏点が維持される金属材料からなることを特徴とする防火アタッチメントをその要旨とした。
【0016】
請求項4記載の発明は、バネ部材を構成する金属材料が、ステンレス鋼、耐熱鋼、耐食耐熱超合金から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする防火アタッチメントをその要旨とした。
【0017】
請求項5記載の発明は、ステンレス鋼及び耐熱鋼が、Mn5〜16質量%、Cr16〜22質量%、Ni1〜12質量%の含有割合からなることを特徴とする防火アタッチメントをその要旨とした。
【0018】
請求項6記載の発明は、取付部は非取付面側に突片を有しており、前記突片にはバネ部材と共に不燃性蓋部材が水平方向に回動可能に取り付けられ、前記バネ部材の付勢力で前記取付部の開口側へ水平方向に回動し、前記突片の不燃性蓋部材の回動経路上に立設された可燃性の規制ピンによって該不燃性蓋部材の回動が規制されるようにしたことを特徴とする防火アタッチメントをその要旨とした。
【0019】
請求項7記載の発明は、取付部は非取付面側に複数の突片を有しており、前記各突片にはバネ部材と共に不燃性蓋部材が水平方向に回動可能に取り付けられ、前記バネ部材の付勢力で前記取付部の開口側へ水平方向に回動し、前記各突片の不燃性蓋部材の回動経路上に立設された可燃性の規制ピンによって該不燃性蓋部材の回動が規制されるようにしたことを特徴とする防火アタッチメントをその要旨とした。
【0020】
請求項8記載の発明は、バネ部材が、取付部の非取付側面に該取付部の開口に突出するように固定された板バネからなり、この板バネの内面に取り付けた不燃性蓋部材が前記板バネの付勢力で前記取付部の開口側に上下方向に回動し、該取付部の開口を閉塞するようにしたことを特徴とする防火アタッチメントをその要旨とした。
【発明の効果】
【0021】
請求項1〜5のいずれかに記載の防火アタッチメントにあっては、建築物の各階の防火区画を貫通する排水管又は継手の下端部に取付部を取り付け、前記排水管又は継手に排水立管端部を接続するとき、前記取付部の非取付面側に設けたバネ部材がそのバネ力に抗して変形し、前記バネ部材によって前記取付部の開口側へ回動するように付勢された不燃性蓋部材も前記排水立管の周面に沿って開動するようになっている。
【0022】
火災発生時の熱によって前記排水立管が溶融して炭化するとき、前記バネ部材は、排水立管の着火温度以上の温度領域においても降伏点が維持される金属材料からなることから、排水立管の溶融、炭化の前にバネ部材のバネ性が消失することがなく、その復元力によって元の形状に戻ろうとする。これに伴い不燃性蓋部材も前記バネ部材の付勢力で前記取付部の開口側へと回動し、前記取付部の開口を閉塞することにより、前記排水管又は継手の管路を通じた他の防火区画への延焼が確実に防止されるようになっている。
【0023】
請求項6及び7記載の防火アタッチメントにあっては、建築物の各階の防火区画を貫通する排水管又は継手の下端部に取付部を取り付け、前記排水管又は継手に排水立管端部を接続するとき、前記取付部の非取付面側の突片に取り付けたバネ部材によって前記取付部の開口側へ水平方向に回動するように付勢された不燃性蓋部材は、前記突片の不燃性蓋部材の回動経路上に立設された可燃性の規制ピンによってその回動が規制されている。
【0024】
火災発生時の熱によって前記排水立管が溶融して炭化するとき、突片の不燃性蓋部材の回動経路上に立設された可燃性の規制ピンも溶融して炭化する。一方、前記バネ部材は、排水立管の着火温度以上の温度領域においても降伏点が維持される金属材料からなることから、排水立管の溶融、炭化の前にバネ部材のバネ性が消失することがなく、前記不燃性蓋部材は、前記バネ部材の付勢力で前記取付部の開口側へ水平方向に回動し、前記取付部の開口を閉塞することにより、前記排水管又は継手への管路を通じた他の防火区画への延焼が確実に防止されるようになっている。
【0025】
請求項8記載の防火アタッチメントにあっては、建築物の各階の防火区画を貫通する排水管又は継手の下端部に取付部を取り付け、前記排水管又は継手に排水立管端部を接続するとき、取付部の非取付側面に該取付部の開口に突出するように固定された板バネからなるバネ部材は前記排水立管の周面に沿って外側方向に変形し、これに伴い不燃性蓋部材も前記排水立管の周面に沿って外側方向に開動するようになっている。
【0026】
火災発生時の熱によって前記排水立管が溶融して炭化するとき、取付部の非取付側面に該取付部の開口に突出するように固定された板バネからなるバネ部材は、排水立管の着火温度以上の温度領域においても降伏点が維持される金属材料からなることから、排水立管の溶融、炭化の前にバネ部材のバネ性が消失することがなく、その復元力によって元の形状に戻ろうとする。これに伴い不燃性蓋部材も前記バネ部材の付勢力で前記取付部の開口側へと上下方向に回動し、前記取付部の開口を閉塞することにより、前記排水管又は継手への管路を通じた他の防火区画への延焼が確実に防止されるようになっている。
【0027】
また、このアタッチメントを適用する場合、排水管又は継手の管路を通じた他の防火区画への延焼が確実に防止されるため、各階の排水管又は継手間を接合する排水立管には、ポリ塩化ビニル、架橋ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等の軽量で加工が容易な樹脂管を用いることができるため、建造物の配管作業をより効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の防火アタッチメントを図面に示した一形態に従ってさらに詳しく説明する。図1、並びに図2〜図7に示すように、アタッチメント20、30は、建造物の上下方向に延びる排水立管12と、建造物の各階毎に設けられて、各階の住居部分の設備等からの排水を前記排水立管12まで導く排水横枝管13とを接続する排水管又は継手14の下端部14bに取り付けられる。尚、アタッチメント11は、排水管又は継手14の下端部14bに限らず、上端部であっても良い。
【0029】
図示の排水管又は継手14は、その胴部14aがコンクリートスラブCの貫通孔C1に通された後、その胴部14aと貫通孔C1の隙間部分がモルタルMにより埋め戻されている。
【0030】
本発明のアタッチメントを適用する場合、排水管又は継手14の管路14cを通じた他の防火区画への延焼が確実に防止されるため、排水立管12には、ポリ塩化ビニル、架橋ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリエステル等の樹脂管を用いることができる。
【0031】
以下、上述のような作用効果を奏するアタッチメントの具体例を示す。図2〜図5に示すアタッチメント20は、環状の取付部21と前記取付部21外周の非取付面側に設けた突片22と、前記突片22の下面側にバネ部材23と共に水平方向に回動可能に取り付けられた不燃性蓋部材24と前記不燃性蓋部材24の回動を規制する規制ピン25とからなる。
【0032】
図示の取付部21は、環状に加工された金属材料の板材からなり、その環周には3つの取付用切り欠き21aが穿設されている。そして、図3に示すように、排水管又は継手14の下端部14bに取付部21を配し、該取付部21の取付用切り欠き21aに接続バンド14dのボルト14eによってボルト締めすることで、取付部21の排水管又は継手下端部14bへの取り付けがなされるようになっている。
【0033】
上記取付部21の環の外周には3つの突片22が設けられている。各突片22は金属材料の板材からなり、その下面側(非取付面側)には、バネ部材23と不燃性蓋部材24と規制ピン25が取り付けられている。尚、突片22は環状の取付部21とは別に製造されたものを溶接等で接合してもよいが、これら突片22と環状の取付部21は、一枚の鉄板から加工して一体に製造されたものであっても良い。この場合、溶接等の加工が不要であり、また部品点数を少なくすることができる。
【0034】
各突片22に取り付けられるバネ部材23はねじりバネからなり、その一端は突片22に固着され、他端は不燃性蓋部材24に当接するように配されている。不燃性蓋部材24は略円弧状に設けた鉄製の薄板であり、その基端部が回動軸22aによって軸支されている。そして、該不燃性蓋部材24は図2に示すように前記バネ部材23の付勢力で前記取付部21下端の開口21b側へ水平方向に回動するようになっている。
【0035】
また、突片22に取り付けられた各不燃性蓋部材24は、バネ部材23の付勢力で回動したとき、図4に示すように、前記取付部21下端の開口21b上で突き合わせ状態となって、該開口21bを閉蓋するようになっている。
【0036】
一方、図2に示すように、各突片22の不燃性蓋部材24が回動する経路上には樹脂製の規制ピン25が立設されていて、前記不燃性蓋部材24の取付部21下端の開口21b側への回動が規制されている。尚、規制ピン25は、各不燃性蓋部材24の回動を規制すると共に、火災時の熱によってその規制を解除できるものであるならば、上記樹脂製のピンのほか、例えば火災時の熱によって変形する形状記憶合金製のピンなど、何でも良い。
【0037】
上述のように、建造物の各階の排水管又は継手14の下端部14bに環状の取付部21を取り付け、前記排水管又は継手14の下端部14bに排水立管12端部を接続することで、建造物の各階の排水管又は継手14とこれらを接合する排水立管12とが連通状態となり、建造物の各階の排水がスムーズに階下へと排水されるようになっている。
【0038】
そして、火災が発生したとき、火災時の熱によって前記取付部21外周に設けた各突片22の規制ピン25が溶融して炭化する。これにより、各突片22の不燃性蓋部材24は規制ピン25による規制から開放され、バネ部材23の付勢力によって図2中矢印方向、すなわち取付部21下端の開口21b側へと回動することになる。この結果、図4及び図5に示すように、各突片22の不燃性蓋部材24は、取付部21下端の開口21b上で突き合わせ状態となり、該取付部21下端の開口21bが閉蓋されるようになっている。
【0039】
図2〜図5に示す防火アタッチメント20におけるバネ部材23は、排水立管12の着火温度以上の温度領域においても降伏点が維持される金属材料からなる。このため、上述の火災発生時の熱で樹脂製の排水立管12が溶融し炭化すると共に、各突片22の規制ピン25が溶融して炭化するときに、排水立管12及び規制ピン25の溶融、炭化の前にバネ部材23のバネ性が消失することがなく、規制ピン25の溶融、炭化に伴い、各突片22の不燃性蓋部材24は該バネ部材23の付勢力によって、図2中矢印に示すように取付部21下端の開口21b側へと回動することになる。尚、降伏点とは、引張試験の途中で応力(引張荷重)が急に低くなり、その後応力が大きくならないで伸びが進むという現象が生じる起点をいい、その転機の応力Wを試験前の材料片の断面積Aoで割った数値で表すことができる。これに対し、降伏点以下は弾性変形域と言われ、除荷すれば元の寸法に戻る範囲であるとされる。
【0040】
バネ部材23を構成する金属材料としては、ステンレス鋼、耐熱鋼、耐食耐熱超合金から選ばれる少なくとも1種を挙げることができ、これらの金属材料のうち、排水立管の着火温度以上の温度領域においても降伏点が維持されるものである限り、その金属材料を用いたバネ部材は上記作用効果を奏する。しかし、高い温度領域においても降伏点が維持される金属材料は高価であり、しかも入手が困難なものが多く、本発明の目的から、排水立管の溶融、炭化の前にバネ部材のバネ性が消失しなければ十分であることから、使用する金属材料としては、価格、入手容易性の観点から排水立管の着火温度乃至発火温度の温度領域において降伏点が維持される金属材料がより望ましい。
【0041】
排水立管の着火温度或いは発火温度は、排水立管の材料によって様々である。例えば排水立管にポリ塩化ビニルを用いた場合、該ポリ塩化ビニルの着火温度は約391℃であり、発火温度は約454℃となることから、ポリ塩化ビニルを排水立管に用いた場合、バネ部材を構成する金属材料は、400〜460℃の温度領域において降伏点が維持されるものが望ましい。
【0042】
同様に架橋ポリエチレンの場合、着火温度は約341℃であり、発火温度は約349℃となり、ポリプロピレンの場合、着火温度は約340℃であり、発火温度は約470℃となり、ポリブテンの場合、着火温度は約200℃であり、発火温度は約230℃となり、ポリエステルの場合、着火温度は約390℃であり、発火温度は約508℃となるので、バネ部材を構成する金属材料は、これら排水立管に使用する材料の種類に応じて、それぞれの着火温度から発火温度の温度領域において降伏点を維持することができる金属材料を適宜選択して用いることができる。
【0043】
例えば排水立管にポリ塩化ビニルを用いるとき、該防火アタッチメントのバネ部材を構成する金属材料としてステンレス鋼及び耐熱鋼の場合には、Mn5〜16質量%、Cr16〜22質量%、Ni1〜12質量%の含有割合のものが好ましい具体例として挙げることができる。
【0044】
次に、図6及び図7に示すアタッチメント30について説明する。このアタッチメント30は取付部31とバネ部材(板バネ32)と一対の不燃性蓋部材33とからなる。尚、取付部31、並びにバネ部材(板バネ32)を構成する金属材料については、図2〜図5に示すアタッチメント20の取付部21及びバネ部材23と同じであるため、ここでの説明は割愛する。
【0045】
図6に示すバネ部材は、環状をなす取付部31の対向する位置にそれぞれ固定された一対の板バネ32からなり、これら各板バネ32の内面には不燃性蓋部材33が取り付けられている。
【0046】
各板バネ32は、取付部31の非取付側面にそれぞれボルト31a締めにより固定されている。尚、板バネ32の取付部31への固定には、ボルトのほか溶接などの公知の固定手段を用いることができる。
【0047】
板バネ32としては、そのバネ力によって一対の不燃性蓋部材33をそのバネ力によって突き合わせ状態に保持できるものであれば良く、その大きさや形状は特に限定されない。
【0048】
一対の不燃性蓋部材33は鉄、アルミニウムなどの金属材料からなり、前記各板バネ32の内面にそれぞれ取り付けられ、各不燃性蓋部材33の先端を突き合わせ状態としたときに、取付部31下面の環状の開口が塞がれる形状に設けられている。
【0049】
そして、図6に示すように、建築物の各階の排水管又は継手14の下端部14bに環状の取付部31を取り付け、前記排水管又は継手14の下端部14bに排水立管端部12を接続することで、環状をなす取付部31の開口に突出するように前記取付部31の非取付側面に固定された板バネ32が、そのバネ力に抗して排水立管12端部周面に沿って外方にへの字状に変形し、これに伴い板バネ32の内面に取り付けられた不燃性蓋部材33も外方に向かって開動すると共に、前記板バネ32のバネ力によって排水立管12端部周面に当接し、これを押圧して該排水立管12端部を保持するようになっている。
【0050】
火災が発生したとき、その火災時の熱で樹脂製の排水立管は溶融して炭化する。これに伴い、図7に示すように、排水立管12周面を押圧する各板バネ32は、排水立管12の着火温度以上の温度領域において降伏点が維持される金属材料からなることから、排水立管12の溶融、炭化の前にバネ性が消失することがなく、そのバネ力によってへの字状からフラットな形状に戻ろうとする。
【0051】
これに伴い各板バネ32に取り付けた各不燃性蓋部材33も取付部31下面の環状の開口側(内方に)向かって回動し、各不燃性蓋部材33の先端が突き合わせ状態となって前記排水管又は継手14の下端部14bの挿し口(取付部31下面の開口)を閉塞することにより、前記排水管又は継手14の管路を通じた他の防火区画への延焼が確実に防止されることになる。
【0052】
尚、本発明のアタッチメントは、上記の例に限定されるものではなく、例えば図2〜図5に示す形態の変更例として、板状の取付部に1つの突片のみを設け、この突片にバネ部材と不燃性蓋部材と規制ピンをそれぞれ取り付け、前記規制ピンによる規制が火災時の熱によって解除されて、該不燃性蓋部材がバネ部材の働きで回動し、取付部下端の開口を閉蓋するようにしたり、図6及び図7に示す形態において、バネ部材を構成する板バネ、及び不燃性蓋部材をそれぞれ1つずつとして、1つの板バネを取付部の環上の一カ所に固着し、該板バネの復元力で1枚の不燃性蓋部材が排水管又は継手の下端部の挿し口(取付部下面の開口を閉塞)するようにするなど、特許請求の範囲に記載された範囲内で自由に変更することができる。
【0053】
実施例
図1に示すように、燃焼炉内に設けたコンクリートスラブの貫通孔に排水管又は継手14を通し、この排水管又は継手14の下端部14bに取付部31を取り付けた。
【0054】
次いで、図6に示すように、環状に加工された鋳鉄製の板材からなる取付部31を排水管又は継手14の下端部14bに配し、その環周に穿設されている3つの取付用切り欠き(図示しない)に接続部14dにボルト14eによってボルト締めすることで、取付部31を排水管又は継手14の下端部14bに取り付けた。
【0055】
次いで、取付部31の非取付側面にボルト31aによってステンレス鋼(Mn14〜16質量%、Cr16〜18質量%、Ni1〜2質量%、C0.6質量%以下、N0.5質量%以下の含有割合のもの)の一対の板バネ32をそれぞれ締め付け固定した。各板バネ32の内面には鋳鉄製の不燃性蓋部材33が取り付けられており、取付部31の非取付側面に各板バネ32を固定することで、不燃性蓋部材33の先端は突き合わせ状態となって前記取付部31の開口が閉塞された。
【0056】
次いで、排水管又は継手14の下端部14bにポリ塩化ビニル製の排水立管12の端部を接続する。下端部14bに排水立管12を接続することで、環状をなす取付部31の非取付側面に固定された板バネ32は、そのバネ力に抗して排水立管12端部周面に沿って外方にへの字状に変形し、これに伴い板バネ32の内面に取り付けられた不燃性蓋部材33も外方に向かって開動し、前記板バネ32のバネ力によって排水立管12端部周面に当接し、これを押圧して該排水立管12端部が保持された。
【0057】
次いで、炉内温度を上昇させて、図6に示す防火アタッチメント30による排水管又は継手14の管路の閉塞実験を行った。炉内温度が排水立管12の軟化温度を超えて排水立管12の軟化が始まると、これに伴い防火アタッチメント30の排水立管12端部周面に当接する不燃性蓋部材33も、各板バネ32のバネ力によって閉動を開始し、炉内温度が排水立管12の発火温度を超えたときには、図7に示すように、各不燃性蓋部材33は、各板バネ32のバネ力によってその先端が突き合わせ状態となって前記排水管又は継手14の下端部14bの挿し口を閉塞し、前記排水管又は継手14への管路が完全に閉塞されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のアタッチメントを取り付ける排水管又は継手を示す拡大断面図である。
【図2】本発明のアタッチメントを示す拡大平面図である。
【図3】図2に示すアタッチメントを排水管又は継手下端部に取り付けた状態を示す拡大断面図である。
【図4】排水立管が火災時の熱で消失した時のアタッチメントの状態を示す拡大平面図である。
【図5】本発明のアタッチメントを排水管又は継手下端部に取り付けた後、排水立管が火災時の熱で消失した時の状態を示す拡大断面図である。
【図6】本発明のアタッチメントの別例を示し、該アタッチメントを排水管又は継手下端部に取り付けた状態を示す拡大断面図である。
【図7】排水立管が火災時の熱で消失した時の図6に示すアタッチメントの状態を示す拡大平面図である。
【図8】従来の排水設備を示す模式図である。
【符号の説明】
【0059】
12 ・・・排水立て管
13 ・・・排水横枝管
14 ・・・排水管又は継手
14b ・・・下端部挿し口
20、30 ・・・アタッチメント
21、31 ・・・取付部
22 ・・・突片
23、32 ・・・バネ部材
24、33 ・・・不燃性蓋部材
25 ・・・規制ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中高層集合住宅等の建築物の床又は壁等の防火区画を貫通する排水管又は継手に取り付けられる防火アタッチメントであって、
前記排水管又は継手の端部に取り付けられ、前記排水管又は継手の管路に繋がる開口を有する取付部と、
前記取付部に取り付けられ、前記排水管又は継手に接続される樹脂製の排水立管の着火温度以上の温度領域において降伏点が維持される金属材料からなるバネ部材と、
前記バネ部材の付勢力で前記取付部の開口側へ回動し、前記取付部の開口を閉塞する不燃性蓋部材と、
を備えたことを特徴とする防火アタッチメント。
【請求項2】
バネ部材が、排水立管の着火温度乃至発火温度の温度領域において降伏点が維持される金属材料からなることを特徴とする請求項1記載の防火アタッチメント。
【請求項3】
バネ部材が400〜460℃の温度領域において降伏点が維持される金属材料からなることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の防火アタッチメント。
【請求項4】
バネ部材を構成する金属材料が、ステンレス鋼、耐熱鋼、耐食耐熱超合金から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防火アタッチメント。
【請求項5】
ステンレス鋼及び耐熱鋼が、Mn5〜16質量%、Cr16〜22質量%、Ni1〜12質量%の含有割合からなることを特徴とする請求項4に記載の防火アタッチメント。
【請求項6】
取付部は非取付面側に突片を有しており、前記突片にはバネ部材と共に不燃性蓋部材が水平方向に回動可能に取り付けられ、前記バネ部材の付勢力で前記取付部の開口側へ水平方向に回動し、前記突片の不燃性蓋部材の回動経路上に立設された可燃性の規制ピンによって該不燃性蓋部材の回動が規制されるようにしたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の防火アタッチメント。
【請求項7】
取付部は非取付面側に複数の突片を有しており、前記各突片にはバネ部材と共に不燃性蓋部材が水平方向に回動可能に取り付けられ、前記バネ部材の付勢力で前記取付部の開口側へ水平方向に回動し、前記各突片の不燃性蓋部材の回動経路上に立設された可燃性の規制ピンによって該不燃性蓋部材の回動が規制されるようにしたことを特徴とする請求項6に記載の防火アタッチメント。
【請求項8】
バネ部材が、取付部の非取付側面に該取付部の開口に突出するように固定された板バネからなり、この板バネの内面に取り付けた不燃性蓋部材が前記板バネの付勢力で前記取付部の開口側に上下方向に回動し、該取付部の開口を閉塞するようにしたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の防火アタッチメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−178398(P2009−178398A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21065(P2008−21065)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】