説明

防煙設備の風量計測装置

【課題】複数の排煙口や給気口を備える防煙設備の風量を、簡便かつ適切に計測することができる防煙設備の風量計測装置を提供する。
【解決手段】排煙用ファンと複数の排煙口を有する排煙機構または加圧給気用ファンと複数の給気口を有する加圧給気機構の少なくとも一方からなる防煙設備の風量を計測する風量計測装置100であって、メインダクト10と、このメインダクト10に並列に配したバイパスダクト12と、メインダクト10およびバイパスダクト12を通過するファンによる風量Q1,Q2をそれぞれ計測する風量計測手段16a,16bと、バイパスダクト12の通気抵抗を可変する通気抵抗可変手段14とを備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防煙設備の風量計測装置に関し、特に、維持管理時の風量点検に適した防煙設備の風量計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、安全モラルの低下が問題視され、安全に対する社会的意識が高まりつつある。火災時の安全に関しても例外ではなく、建物に設けられる火災対策設備やトンネルなど土木構造物に設けられる排煙設備(例えば、特許文献1参照)の維持管理段階での法規制が強化されてきている。排煙設備や加圧給気設備といった防煙設備については、例えば、商業施設などの建築物においては供用段階で実際に防煙設備を稼動させてその性能を確認する方向となってきている。この場合、基本的には防煙設備に備わる全ての排煙口や給気口で風速を計測し、所定の風量が有るか否かを確認する必要がある。
【0003】
図5は、建築物に備わる防煙設備としての排煙設備の一例を示す概略系統図である。図5に示すように、この排煙設備は、排煙用ファン1から延びる縦ダクト2と、各階ごとに天井裏で横引きされ各所室に連通した横引きダクト3とからなり、各横引きダクト3には複数の排煙口4が配置してある。なお、加圧給気設備の場合には、ダクト2、3を流れる気流の向きは排煙設備の場合とは逆となり、排煙口4および排煙用ファン1の代わりに給気口および加圧給気用ファンが用いられる。
【0004】
このように、防煙設備に備わる各排煙口や各給気口の数は非常に多く、これら全ての口の風速を計測することは、多大な手間と労力がかかりコストを要することとなる。このため、防煙設備の風量の点検確認のみを対象とする場合には、数少ないファンの吸い込み口や吹き出し口で風速を計測することにより点検に要する手間や労力を軽減することが考えられる。この場合、例えば、排煙設備の排煙用ファンや加圧給気設備の加圧給気用ファンに接続しているダクトを外して、排煙用ファンの吸い込み口や加圧給気用ファンの吹き出し口で風速を計測する方法が考えられる。
【0005】
吹き出し口等で風速を計測する方法としては、例えば図6に示すように、単一ダクト6内に設けたエアロアイ(登録商標)やエアロダンパーなどのピトー管型の風速センサ8を用いる方法が考えられる。
【0006】
一方、従来の風量計測装置として、特許文献2に示される装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−270398号公報
【特許文献2】特開2005−265726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記の各排煙口や各給気口には、通過風量を調整するためのダンパーが設けてある。閉鎖状態にあるダンパーには小さな隙間が生じていることがあり、防煙設備の稼動段階において、この隙間から微量の空気が漏れ風量(吸い込み風量や吹き出し風量)として漏れていることがある。
【0009】
風量計測対象の排煙口や給気口以外の箇所(ダンパーが閉鎖状態にある箇所)での漏れ風量が予想される場合、上記の従来の風量計測装置を用いて排煙用ファンの吸い込み口や加圧給気用ファンの吹き出し口にて複数点の風速を計測し、これらに基づく面風速からファンによる風量を求めようとしても、漏れ風量による風量損失を考慮しなければ、実際に吸い込み口や吹き出し口を通過している正確な風量を見積もることは難しい。この場合、風量計測対象の排煙口や給気口における風量を、設備上必要とされる風量よりも大きめに見積もってしまうおそれがある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、複数の排煙口や給気口を備える防煙設備の風量を、簡便かつ適切に計測することができる防煙設備の風量計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る防煙設備の風量計測装置は、排煙用ファンと複数の排煙口を有する排煙機構または加圧給気用ファンと複数の給気口を有する加圧給気機構の少なくとも一方からなる防煙設備の風量を計測する風量計測装置であって、メインダクトと、このメインダクトに並列に配したバイパスダクトと、前記メインダクトおよび前記バイパスダクトを通過する前記ファンによる風量を計測する風量計測手段と、前記バイパスダクトの通気抵抗を可変する通気抵抗可変手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項2に係る防煙設備の風量計測装置は、上述した請求項1において、前記通気抵抗可変手段は、前記バイパスダクトに直列に配した抵抗ダクトに設けられる開閉ダンパーであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項3に係る防煙設備の風量計測装置は、上述した請求項1または2において、前記メインダクトと前記バイパスダクトは、同一断面形状であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項4に係る防煙設備の風量計測装置は、上述した請求項1〜3のいずれか一つにおいて、前記メインダクトと前記バイパスダクトとを前記ファンの吹き出し口または吸い込み口に接続するためのフレキシブルダクトをさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る防煙設備の風量計測装置は、排煙用ファンと複数の排煙口を有する排煙機構または加圧給気用ファンと複数の給気口を有する加圧給気機構の少なくとも一方からなる防煙設備の風量を計測する風量計測装置であって、メインダクトと、このメインダクトに並列に配したバイパスダクトと、前記メインダクトおよび前記バイパスダクトを通過する前記ファンによる風量を計測する風量計測手段と、前記バイパスダクトの通気抵抗を可変する通気抵抗可変手段とを備えるので、防煙設備の維持管理時の風量計測に適用することにより、通気抵抗可変手段による通気抵抗によって排煙口や給気口等における漏れ風量を考慮することができる。したがって、防煙設備の風量を簡便かつ適切に計測することができる。このため、従来、各排煙口や各給気口において風量を計測する際に要していた手間や労力が軽減され、各排煙口や各給気口の必要風量に相当するものを簡便かつ低コストに検査することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明に係る防煙設備の風量計測装置の実施例を示す側断面図である。
【図2】図2は、開閉ダンパーの側断面図であり、(a)は全開の場合、(b)は中間の開度の場合、(c)は全閉の場合を示す図である。
【図3】図3は、接続口の拡大側断面図であり、(a)はボルト固定の場合、(b)は抑え金具による固定の場合を示す図である。
【図4】図4は、フレキシブルダクトと取り付け口との接続部の側断面図である。
【図5】図5は、従来の排煙設備(防煙設備)の一例を示す概略系統図である。
【図6】図6は、従来の単一ダクトによる風量計測装置を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る防煙設備の風量計測装置の実施例について、排煙用ファンと複数の排煙口を有する排煙機構に対して適用する場合を例にとり、図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明に係る防煙設備の風量計測装置は、加圧給気機構に対して、あるいは加圧給気機構と排煙機構の両方を具備する機構に対しても適用することができ、いずれにしてもこの実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
図1に示すように、本発明に係る防煙設備の風量計測装置100は、メインダクト10と、このメインダクト10に並列に配したバイパスダクト12と、メインダクト10およびバイパスダクト12をそれぞれ通過する風量Q1、Q2を計測する風量計測手段としての風速計測手段16a、16bと、バイパスダクト12の通気抵抗を可変する通気抵抗可変手段としての抵抗ダクト14とを備える。さらに、風量計測装置100は、フレキシブルダクト18と、図示しない排煙用ファンの吸い込み口への取り付け口20とを備える。
【0019】
本発明では、排煙口等(不図示)における漏れ風量を抵抗ダクト14で考慮することによって、各階の各排煙口や各給気口での風量の計測を、ファン近傍での風量の計測で代替することが可能である。このため、防煙設備の維持管理段階で各階の各排煙口や各給気口での風量を、手間や労力を要することなく簡便かつ適切に計測することができる。
【0020】
ここで、本発明の風量計測装置100を加圧給気機構の加圧給気用ファンの吹き出し口へ取り付ける場合には、フレキシブルダクト18の接続口22をメインダクト10およびバイパスダクト12の流入側の口(図1の上端側開口)に接続すればよい。
【0021】
メインダクト10は、排煙設備で通常使用されている鋼製ダクトにより構成することができる。基本的にメインダクト10は、0.25m2〜1m2程度の断面積と、ダクト径の数倍のダクト長を有するようにする。メインダクト10内には、風速計測手段16aが嵌め込まれている。ファン風量Q0からバイパスダクト12の通過風量Q2を差し引いたメインダクト10の通過風量Q1が、計測対象としている各階の排煙口や給気口の風量となる。
【0022】
バイパスダクト12も、メインダクト10と同様に、排煙設備で通常使用されている鋼製ダクトにより構成することができる。バイパスダクト12には、抵抗ダクト14が直列に配置され、風速計測手段16bが嵌め込まれている。バイパスダクト12を通過する風量Q2は、計測対象としている各階の排煙口や給気口以外からの漏れ風量に相当する風量である。ここで、バイパスダクト12とメインダクト10を同じ断面形状とすることにより、抵抗ダクト14による通気抵抗効果を高めることができる。
【0023】
抵抗ダクト14は、バイパスダクト12内の通気抵抗を可変させるためのものであり、図2に示すように、開度を調整可能な開閉ダンパー24を含んで構成される。
【0024】
図2(a)〜(c)に示すように、抵抗ダクト14に設けられる図示しない操作用レバーやダイヤルを手動等で操作し、回転軸24aを回動することによって、開閉ダンパー24の開度を全閉から全開までの範囲で可変調整することができる。開閉ダンパー24が全閉に近いほど、バイパスダクト12における通気抵抗値は大きくなり、ファンからの風量Q0に対してバイパスダクト12を通過する風量Q2は少なくなり、メインダクト10を通過する風量Q1は多くなる。一方、開閉ダンパー24が全開に近いほど、バイパスダクト12の通気抵抗値は小さくなり、ファンからの風量Q0に対してバイパスダクト12を通過する風量Q2は多くなり、メインダクト10を通過する風量Q1は少なくなる。
【0025】
ここで、漏れ風量の設定、つまり開度の設定については、図5に示すように、排煙口4(または給気口4)に設けられる排煙ダンパーや給気ダンパー(不図示)の閉鎖時の経路の通気抵抗値を予め求めておき、この通気抵抗値に相当する開度を抵抗ダクト14の開閉ダンパー24に付与することで、所定の漏れ風量を設定することができる。また、この通気抵抗値としては、防煙設備の設計計画段階時に設定された経路の通気抵抗値を用いてもよい。開閉ダンパー24は、全閉から全開まで開度を調整可能であるため、任意の通気抵抗値に対応することが可能である。なお、工事等によって経路上の排煙ダンパーや給気ダンパーの一部が開放されている場合も、それを考慮した形での風量の計測が可能である。
【0026】
風速計測手段16a、16bは、空調設備における風速計測に一般的に用いられているエアロアイ(登録商標)やエアロダンパーなどのピトー管型の風速センサや動圧を測定する微差圧計から構成することができる。この風速計測手段16a、16bにより計測した風速により各通過風量Q1、Q2を求めることができる。
【0027】
フレキシブルダクト18は、図示しない排煙用ファンや加圧給気用ファンへの取り付けを容易にするために、管胴を自在に曲げて動かすことが可能な可撓性の材質および形態で構成してある。このフレキシブルダクト18としては、例えば、鋼製やビニル等で蛇腹状に構成したものを用いることができる。
【0028】
フレキシブルダクト18と、メインダクト10およびバイパスダクト12とは、鋼製の接続口22で接続されている。接続口22には、図3(a)、(b)に示すように、空気を漏れにくくするために、その周囲にゴム等のパッキン28を設けている。これらのダクト10,12,18においては、パッキン28との接触部にねじ山等の凹凸を設けてもよい。こうすることで、より高い気密性を確保することができる。また、ダクト10,12,18の接合については、図3(a)に示すように、ボルトおよびナット26により接合固定してもよいし、図3(b)に示すように、回転式の抑え金具30により接合固定してもよい。なお、抵抗ダクト14および風速計測手段16a、16bについても、これと同様の構成により、空気の漏れを抑制するようにしている。
【0029】
排煙用ファンや加圧給気用ファンへの取り付け口20は、図4の拡大側断面図に示すように、ファンの吸い込み口34(または吹き出し口34)の形状やこの口34周辺の凹凸に影響されずに容易に接続できるように、ビニル等の可撓性材質で構成してある。この取り付け口20は、吸い込み口34(または吹き出し口34)との接触部分で空気が漏れにくいように内周に配置されたゴム等のパッキン28と、外周に配置された締め付け用の抑え金具32とを有しており、ファンの吸い込み口34(または吹き出し口34)の近傍に容易に固定できるようになっている。
【0030】
上記のように構成することで、本発明によれば、防煙設備の維持管理時の風量点検に適用することによって、各排煙口や各給気口の必要風量に相当するものを簡便かつ低コストに検査できる。
【0031】
また、防煙設備の中には稼動時に空気を室内に吹き出すものがある。特に、加圧給気設備は、ダクト内およびファン内に溜まった埃やゴミを室内に撒き散らす可能性が高い。このため、商業施設などの建築物における防煙設備においては、商業施設の営業を一部停止させて性能を確認するような事態にもなりかねない。これによって、商業施設の営業的な損失が生じるおそれがある。しかしながら、本発明の風量計測装置は、防煙設備の稼動中に、ダクトを切り離した加圧給気用ファンの近傍で各給気口での風量を見積もることが可能であり、商業施設の営業に支障をきたすおそれがないことから、上記の営業的な損失の発生を回避することができる。
【0032】
また、本発明の風量計測装置は、商業施設などの建築物だけでなく、トンネルなどの土木構造物における防煙設備の風量点検に対しても適用することが可能である。
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、排煙用ファンと複数の排煙口を有する排煙機構または加圧給気用ファンと複数の給気口を有する加圧給気機構の少なくとも一方からなる防煙設備の風量を計測する風量計測装置であって、メインダクトと、このメインダクトに並列に配したバイパスダクトと、前記メインダクトおよび前記バイパスダクトを通過する前記ファンによる風量を計測する風量計測手段と、前記バイパスダクトの通気抵抗を可変する通気抵抗可変手段とを備えるので、防煙設備の維持管理時の風量計測に適用することにより、通気抵抗可変手段による通気抵抗によって排煙口や給気口等における漏れ風量を考慮することができる。したがって、防煙設備の風量を簡便かつ適切に計測することができる。このため、従来、各排煙口や各給気口において風量を計測する際に要していた手間や労力が軽減され、各排煙口や各給気口の必要風量に相当するものを簡便かつ低コストに検査することができるという効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明に係る防煙設備の風量計測装置は、商業施設などの建築物やトンネルなどの土木構造物に備わる排煙設備や加圧給気設備といった防煙設備の性能確認に用いる風量計測装置に有用であり、特に、防煙設備の維持管理時の風量点検に用いる風量計測装置に適している。
【符号の説明】
【0035】
10 メインダクト
12 バイパスダクト
14 抵抗ダクト(通気抵抗可変手段)
16a,16b 風速計測手段(風量計測手段)
18 フレキシブルダクト
20 取り付け口
22 接続口
24 開閉ダンパー
24a 回転軸
26 ボルトおよびナット
28 パッキン
30,32 抑え金具
34 吸い込み口(吹き出し口)
100 防煙設備の風量計測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排煙用ファンと複数の排煙口を有する排煙機構または加圧給気用ファンと複数の給気口を有する加圧給気機構の少なくとも一方からなる防煙設備の風量を計測する風量計測装置であって、
メインダクトと、このメインダクトに並列に配したバイパスダクトと、前記メインダクトおよび前記バイパスダクトを通過する前記ファンによる風量を計測する風量計測手段と、前記バイパスダクトの通気抵抗を可変する通気抵抗可変手段とを備えることを特徴とする防煙設備の風量計測装置。
【請求項2】
前記通気抵抗可変手段は、前記バイパスダクトに直列に配した抵抗ダクトに設けられる開閉ダンパーであることを特徴とする請求項1に記載の防煙設備の風量計測装置。
【請求項3】
前記メインダクトと前記バイパスダクトは、同一断面形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の防煙設備の風量計測装置。
【請求項4】
前記メインダクトと前記バイパスダクトとを前記ファンの吹き出し口または吸い込み口に接続するためのフレキシブルダクトをさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の防煙設備の風量計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−207394(P2010−207394A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56617(P2009−56617)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】