説明

防爆型掘進装置

【課題】 掘削機の後端に推進管を接続し、最後尾の推進管を元押して地盤を掘削しながら推進管を地中に埋入し、掘削された土砂を掘削機内に取り込んで坑外へ排出する掘進装置において、メタンや硫化水素等の爆発の危険性があるガスを含む地下水が掘削機内へ侵入するのを阻止し、確実に且つ低コストで防爆できるようにする。
【解決手段】 掘削機10の外殻11の後方にエアーパッキン41を介してリング部材40を取り付け、リング部材40に閉塞壁42を設け、掘削機10内に空気を圧送して掘削機10内の気圧を地下水圧以上に保持するレギュレーター46を設ける。推進管30間の目地34部分の管内にリング部材50を取り付け、リング部材50と推進管30の間の目地34の前後にエアーパッキン51を設け、エアーパッキン51間に目地34と連通し推進管30内とは隔離した滞留室52を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉型掘進機を用いてメタンや硫化水素等の爆発の危険性があるガスを含む地盤をトンネル掘削する際、ガス又はこれを含む地下水の侵入を阻止して防爆する防爆型掘進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に管路を埋設する場合、推進工法やシールド工法のような非開削工法が採用されることが多いが、腐植土層や軟弱シルト地盤等の堆積地盤を掘削する際、メタンや硫化水素等のガスを含む土質や地下水の箇所に遭遇する場合も多々見受けられる。いずれも可燃性で、濃度(一般的にメタンは5〜15%が爆発濃度)によっては掘削機の作動時のモーターコイルの接触火花、スイッチの接触やリレー回路の微電流の発生時の火花で爆発を起こす危険性がある。
【0003】
その場合、以下の対策が考えられる。
a)大きな送気・吸気の換気設備を別途設置し、掘削時に発生したガスを爆発しない風速で坑外の高位置へ一気に排気する(一般的には管内流速1m/秒)。
b)エアーカーテンを掘削機の後方に設置し、掘削機内から搬出される土砂や地下水に含まれているガスを管路側に侵入させないように遮断する。
c)減速機付きモーター・回路ボックス・動力線コネクター・信号設備・信号線継ぎ手部・通信設備などの全ての掘進機内に装備された機器やコネクター類を完全防爆仕様に変更する。
【0004】
しかし、前記a)記載の方法では、設備が大型でコストがかかり、残留ガスの完全除去までは至らない。前記b)記載の方法では、ガスの遮断が不完全な場合が多い。前記c)記載の方法では、コストがかかるとともに外部を被覆した機器が大型化し、内部空間が限られる中小口径の掘削機では機内装備として設置が難しく、防爆部品の入手に時間を要し、特定部品では入手が困難な場合もある。
【0005】
これに対し、掘削機内にガスが侵入しても内部機器を防爆仕様にすることなく防爆できるようにした掘進装置が特許文献1で提案されている。この技術は、掘削機と推進管を隔壁で遮断し、掘削機内にヘリウム等の不燃性ガスを供給するガスボンベを設けたことを特徴としている。この技術によれば、掘削機内に不燃性ガスを充満させておくと、例えば掘削機の中折れ部分からガスを含む地下水が侵入しても、不燃性ガスの雰囲気中であるから爆発しない、というものである。
【0006】
しかしながら、前記技術では、不燃性ガスを用いるからコストがかかる問題があり、管理が煩雑で取り扱いも慎重さが求められる。また、長時間掘進していると、ガスが掘削機内に徐々に侵入して濃度が高まっていき、不燃性ガスを充満させておいても濃度によっては爆発の危険性が依然あるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−307600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、従来のこれらの問題点を解消し、メタンや硫化水素等の爆発の危険性があるガスを含む地下水が掘削機内へ侵入するのを阻止し、確実に且つ低コストで防爆できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) 掘削機の後端に複数の推進管を接続し、最後尾の推進管を元押しして掘削機で地盤を掘削しながら推進管を地中に埋入し、掘削された土砂を掘削機内の排土管に取り込んで坑外へ排出する掘進装置において、掘削機と接続される配管・配線を除いて掘削機の後方を閉塞する閉塞壁を設け、その閉塞壁を貫通して掘削機内に空気を圧送して掘削機内の気圧を地下水圧以上に一定圧に保持する送気手段を設け、掘削機内への水・ガスの侵入を阻止できるようにしたことを特徴とする、防爆型掘進装置
2) 掘削機と推進管との目地の内側位置に膨張可能なパッキンを介してリング部材を取り付け、そのリング部材に閉塞壁を取り付け、掘削機内に空気を一定圧で圧送する送気管を閉塞壁に貫通した、前記1)記載の防爆型掘進装置
3) 前後の推進管同士の目地の内側位置にリング部材を所定間隔おいて取り付け、そのリング部材と推進管の内面との間の前後位置に膨張可能なパッキンを介在し、その前後のパッキン間に目地と連通し且つ推進管内とは隔離した空間を形成した、前記1)又は2)記載の防爆型掘進装置
4) 排土管内の土砂を坑外に吸引する吸引手段を設け、排土管に逆止弁付きの吸気管を閉塞壁に貫通して設けた、前記1)〜3)いずれか記載の防爆型掘進装置
5) 送気手段が、地下水圧を検知する液圧計と、掘削機内の気圧を検知する気圧計と、掘削機内に空気を圧送するレギュレーターと、気圧計で検知した掘削機内の気圧が液圧計で検知した地下水圧以上となるようにレギュレーターを制御する制御部とで構成したものである、前記1)〜4)いずれか記載の防爆型掘進装置
にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の前記1,2)記載の構成によれば、掘削機内にガスを含む地下水が侵入しようとしても、掘削機内の気圧が地下水圧以上に保持されるように加圧状態にあるから侵入しない。仮に中折修正装置の箇所で漏水が発生しても、機内圧が高いため地下水等は侵入しない。したがって、掘進に要する時間に係わらず地下水の侵入を確実に阻止して防爆でき、しかも侵入を阻止する気体は空気であるからガスボンベ等は不要で、低コストで実施できる。
【0011】
本発明の前記3)記載の構成によれば、掘進中の目地の開閉でガスを含む地下水が侵入してもパッキン間の空間に滞溜し、推進管内には侵入しない。したがって、ガスの侵入をより確実に阻止して防爆できる。
【0012】
本発明の前記4)記載の構成によれば、ガスを含む土砂又は地下水が排土管内に取り込まれても、吸引力によって坑外へ迅速に排出され、ガスは掘削機内や推進管内に漏出しない。また、吸気管には逆止弁を備えているから、排土管内のガスが推進管内に逆流することもない。その他、掘削機の後方で吸泥を行っているために、仮にメタンの流入があっても排土として管内吸気で坑外に搬出できる。したがって、ガスの侵入をより確実に阻止して防爆できる。
【0013】
本発明の前記5)記載の構成によれば、バーチカル(縦断勾配)推進工の場合や地盤内の透水性により地下水圧が変化しても、その変化に応じてレギュレーターの空気の圧送量が制御部で自動的に加減され、掘削機内の気圧を常に地下水圧以上に保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例の掘進装置の説明図である。
【図2】実施例の掘削機と推進管との接続部分の断面図である。
【図3】実施例の掘削機と推進管との接続部分の拡大図である。
【図4】実施例の前後の推進管同士の接続部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を実施例と図面に基づいて具体的に説明する。
【実施例】
【0016】
図1は実施例の掘進装置の説明図、図2は実施例の掘削機と推進管との接続部分の断面図、図3は実施例の掘削機と推進管との接続部分の拡大図、図4は実施例の前後の推進管同士の接続部分の拡大図である。
【0017】
図中、10は掘削機、11は外殻、12は排土取込口、13は隔壁、14はカッター、15はモーター、16は胴管、17は目地、20は排土装置、21は排土管、22は排土バルブ、23は排土貯溜槽、23aは攪拌羽根、23bはモーター、24は排土管、25は吸気管、25aは逆止弁、30は推進管、31はカラー、32はパッキン、33,34は目地、40はリング部材、41はエアーパッキン、42は閉塞壁、42aは点検窓、43はエアー供給チューブ、44はレギュレーター、45は送気管、46はレギュレーター(送気手段)、46aは液圧計、46bは気圧計、46cは制御部、47は排気管、50はリング部材、51はエアーパッキン、52は滞留室、53はエアー供給チューブ、54はレギュレーターである。
【0018】
本実施例の掘進装置の掘削機10は、図1に示すように、外殻11を複数に分割して方向修正用ジャッキ(図示せず)で中折れ可能に連結し、最前の外殻11に排土取込口12を備えた隔壁13を取り付けている。その隔壁13の前方にはカッター14を配置し、そのカッター14を回転駆動するモーター15を隔壁13の背面に取り付けている。
【0019】
排土装置20は、排土管21を排土取込口12に取り付けて連通し、その排土管21の途中位置に排土バルブ22を取り付け、排土管21の終端に排土貯溜槽23を取り付けている。排土貯溜槽23内には攪拌羽根23aをモーター23bで回転自在に取り付け、排土貯溜槽23の後面に排土管24を接続して坑外まで配管し、排土管24の終端に吸引装置(図示せず)を設けている。
【0020】
掘削機10と推進管30との接続部分は、図2,3に示すように、掘削機10の最後尾の外殻11の後端位置に胴管16を推進管30に対して取り付け、その胴管16の後端位置に推進管30の内径よりやや小径のリング部材40を推進管30に対して取り付け、そのリング部材40と推進管30との間にエアーパッキン41を前後に設けて水密している。リング部材40には閉塞壁42を設けて掘削機10と推進管30とを隔離し、逆止弁25a付きの吸気管25を閉塞壁42に貫通して排土貯溜槽23に配管している。閉塞壁42には掘削機10内の様子を確認できる透明な点検窓42aを備えている。
【0021】
エアーパッキン41にはエアー供給チューブ43を接続し、レギュレーター44で空気を圧送して一定圧力の膨張の状態を保持できるようにしている。閉塞壁42には送気管45を貫通して設け、外殻11の左右の外面に地下水圧を検知する液圧計46aを取り付け、閉塞壁42の外殻11側に掘削機10内の気圧を検知する気圧計46bを取り付け、掘削機10内に送気管45を通じて空気を圧送するレギュレーター46を設け、気圧計46bで検知した掘削機10内の気圧が液圧計46aで検知した地下水圧と比較して水頭差+2m以上(予備圧)となるようにレギュレーター46を制御する制御部46cを設けている。また、閉塞壁42には排気管47を貫通して坑外まで配管し、その終端に吸引装置(図示せず)を設けている。その他、モーター15,23bの配線等(図示せず)が閉塞壁42を貫通している。
【0022】
前後の推進管30同士の接続部分は、図4に示すように、推進管30の内径よりやや小径のリング部材50を推進管30に対して取り付け、そのリング部材50と推進管30との間の前後位置にエアーパッキン51を設けて水密し、前後のエアーパッキン51間の位置に目地34と連通し且つ推進管30内とは隔離した滞留室52を形成している。エアーパッキン51にはエアー供給チューブ53を接続し、レギュレーター54で空気を圧送して一定圧力の膨張の状態を保持できるようにしている。
【0023】
本実施例では、レギュレーター44,54でエアーパッキン41,51を一定圧力に膨張させて推進管30に密接させる。また、液圧計46aと気圧計46bで地下水圧と掘削機10内の気圧を検知し、制御部46cでレギュレーター46を制御して掘削機10内の気圧が地下水圧と比較して水頭差+2m以上(予備圧)に保持されるように空気を圧送する。坑外の吸引装置(図示せず)を駆動すると、排土装置20内が負圧となって逆止弁25a付きの吸気管25から自然吸気される。
【0024】
モーター15,23bを駆動して最後尾の推進管30を元押しすると、カッター14が地盤を掘削しながら地中を掘進する。掘削された土砂は排土取込口12から排土装置20の排土管21内に取り込まれ、後方へ搬送されて排土貯溜槽23に落下する。排土貯溜槽23では攪拌羽根23aで攪拌されて流動化し、排土管24を通じて吸引装置の吸引力で坑外へ排出される。
【0025】
ここで、地盤が腐植土層や軟弱シルト地盤の場合、メタンや硫化水素等の爆発の危険性があるガスを含む土砂又は地下水が排土装置20内に取り込まれたり、ガスを含む地下水が目地17,33,34から侵入しようとすることがある。ガスを含む土砂又は地下水が排土装置20内に取り込まれた場合は、吸引力によって坑外へ直接排出されるから、ガスが掘削機10の内部空間に漏出することはない。また、吸気管25には逆止弁25aを備えているから、排土装置20内のガスが逆流して推進管30内に流入することもない。
【0026】
掘削機10では、内部空間が閉塞壁42及びエアーパッキン41で後方の推進管30と隔離されているとともに、掘削機10内の気圧が水頭差+2mに保持されているから、ガスを含む地下水は目地17,33から掘削機10内に侵入することはない。また、バーチカル(縦断勾配)推進工の場合や地盤内の透水性により地下水圧が変化しても、その変化に応じてレギュレーター46の空気の圧送量が制御部46cで自動的に加減され、掘削機10内の気圧が常に水頭差+2mに保持される。さらに、前後の推進管30同士の目地34では、リング部材50とエアーパッキン51で密閉されているから、掘進中の目地34の開閉でガスを含む地下水が侵入しても滞流室52に滞溜し、推進管30内に侵入することはない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の技術は、メタンや硫化水素等の爆発の危険性があるガスを含む土質や地下水を有する腐植土層や軟弱シルト地盤等の掘進に有用である。
【符号の説明】
【0028】
10 掘削機
11 外殻
12 排土取込口
13 隔壁
14 カッター
15 モーター
16 胴管
17 目地
20 排土装置
21 排土管
22 排土バルブ
23 排土貯溜槽
23a 攪拌羽根
23b モーター
24 排土管
25 吸気管
25a 逆止弁
30 推進管
31 カラー
32 パッキン
33,34 目地
40 リング部材
41 エアーパッキン
42 閉塞壁
42a 点検窓
43 エアー供給チューブ
44 レギュレーター
45 送気管
46 レギュレーター(送気手段)
46a 液圧計
46b 気圧計
46c 制御部
47 排気管
50 リング部材
51 エアーパッキン
52 滞留室
53 エアー供給チューブ
54 レギュレーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削機の後端に複数の推進管を接続し、最後尾の推進管を元押しして掘削機で地盤を掘削しながら推進管を地中に埋入し、掘削された土砂を掘削機内の排土管に取り込んで坑外へ排出する掘進装置において、掘削機と接続される配管・配線を除いて掘削機の後方を閉塞する閉塞壁を設け、その閉塞壁を貫通して掘削機内に空気を圧送して掘削機内の気圧を地下水圧以上に一定圧に保持する送気手段を設け、掘削機内への水・ガスの侵入を阻止できるようにしたことを特徴とする、防爆型掘進装置。
【請求項2】
掘削機と推進管との目地の内側位置に膨張可能なパッキンを介してリング部材を取り付け、そのリング部材に閉塞壁を取り付け、掘削機内に空気を一定圧で圧送する送気管を閉塞壁に貫通した、請求項1記載の防爆型掘進装置。
【請求項3】
前後の推進管同士の目地の内側位置にリング部材を所定間隔おいて取り付け、そのリング部材と推進管の内面との間の前後位置に膨張可能なパッキンを介在し、その前後のパッキン間に目地と連通し且つ推進管内とは隔離した空間を形成した、請求項1又は2記載の防爆型掘進装置。
【請求項4】
排土管内の土砂を坑外に吸引する吸引手段を設け、排土管に逆止弁付きの吸気管を閉塞壁に貫通して設けた、請求項1〜3いずれか記載の防爆型掘進装置。
【請求項5】
送気手段が、地下水圧を検知する液圧計と、掘削機内の気圧を検知する気圧計と、掘削機内に空気を圧送するレギュレーターと、気圧計で検知した掘削機内の気圧が液圧計で検知した地下水圧以上となるようにレギュレーターを制御する制御部とで構成したものである、請求項1〜4いずれか記載の防爆型掘進装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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