説明

防球ネット

【課題】高強力であり、且つ目ずれを起こしにくい無結節型の防球ネットを提供する。
【解決手段】直線部2が組節部3で交わる四角形の網目を有する貫通式の無結節防球ネット1であって、前記防球ネット1において、前記網糸は全芳香族ポリエステル繊維から形成され、この網糸で形成された無結節ネット基材が樹脂コーティング液で被覆されている。前記樹脂コーティング液は、ポリオレフィン系樹脂エマルジョンまたはメラミン系樹脂エマルジョンなどであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフ場や校庭、グラウンドなどにおいて、ゴルフボール、野球ボールおよびテニスボール等のボールが場外へ飛び出すのを防ぐために有用に用いられる防球ネットに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールが場外に飛び出してしまうのを防ぐためには、防球ネットとして頑強な構造が望まれる。そのような要望から、従来、防球ネットとしては、ラッセルネットや結節ネットが使用されてきた。しかしながら、ラッセルネットは、編糸を鎖網で編んでいくため、ネット全体の重量が重くなると共に、網の視界性も不良となる。
【0003】
また、有結節ネットは、結節部で網糸が曲げられるため、網糸の本来の強力を発揮できないだけでなく、結節部の存在により、風圧の影響を受けやすい。したがって、ラッセルネットであっても有結節ネットであっても、このようなネットを支える支柱には負荷が大きくかかってしまう。
【0004】
一方、無結節ネットでは、上記のような支柱への付加や視界性などの問題はないが、そもそも、無結節ネットでは、単に隣り合う2子の網糸を平織り状に交差させて交差部分(または組節部分)を形成しているに過ぎないため、組節部がずれやすく(いわゆる目ズレ)、防球性能に劣っている。
【0005】
そこで、このような問題点を解決するため、特許第2906781号公報(特許文献1)には、超高強力ポリエチレン繊維フィラメント多数本からなる網糸を用いて、特殊な網目交差部を形成した亀甲型の防球ネットが開示されている。しかしながら、この防球ネットは、無結節ネットではあるものの、網目交差部において、網糸を複数回に渡り交差させて、交差部分の強度を向上させているため、交差部分のねじれにより、防球ネットに対して本来の繊維の強力を発揮できないだけでなく、生産性に劣り、生産コストを低減できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2906781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、軽量な無結節型のネットであっても、高強力であり、且つ目ズレを起こしにくい防球ネットを提供することにある。
本発明の別の目的は、簡単な構造であっても、高い防球性を実現できる防球ネットを提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、高い結節強度(または組節強度)を有するとともに、視界性に優れ、かつ防球ネットとして適切な柔らかさを併せもつ防球ネットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するため以下の点を検討したところ、全芳香族ポリエステル繊維を用いて無結節ネット基材を作製し、さらにこの無結節ネット基材に対して樹脂コーティングを含浸・被覆させると、具体的なメカニズムは定かではないが、交差部での繊維間のすべりによるずれを防ぐとともに、繊維のフィブリル化を防ぐことができるためか、防球ネットとしての防球性能が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、直線部が組節部で交わる四角形の網目を有する貫通式の無結節防球ネットであって、網糸は全芳香族ポリエステル繊維から形成され、この網糸で形成された無結節ネット基材が樹脂コーティング液で被覆されている防球ネットである。
【0010】
網糸を構成する全芳香族ポリエステル繊維は、強度10〜100cN/dtex程度であってもよく、且つ弾性率300〜2000cN/dtex程度であってもよい。また、防球ネットを構成する網糸の直径、すなわち、樹脂コーティングされた網糸の直径は、0.5〜3mm程度であってもよい。
【0011】
前記樹脂コーティング液は、耐摩耗性樹脂コーティング液であってもよく、例えば、ポリオレフィン系樹脂水溶性エマルジョンやメラミン系樹脂水溶性エマルジョンなどであってもよい。また、前記ポリオレフィン系樹脂水溶性エマルジョンは、ポリオレフィン・天然樹脂誘導体水溶性エマルジョンであってもよい。さらに、防球ネット全体に対する樹脂の付着量は、1〜25重量%程度であってもよい。
【0012】
さらに、本発明は、無結節防球ネットの製造方法も包含し、前記製造方法は、全芳香族ポリエステル繊維で網糸を形成する工程と、前記網糸を編んで、組節部が平織りの単位組織を有し、直線部が組節部で交わる四角形の網目を有する貫通式の無結節ネット基材を形成する工程と、前記無結節ネット基材を、樹脂コーティング液で被覆する工程とを備える。
【0013】
この製造方法では、樹脂コーティング液で被覆した無結節ネット基材に対して、さらに熱処理工程を行ってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、全芳香族ポリエステル繊維でネット基材を形成し、このネット基材に対して樹脂コーティングすることにより、無結節型ネットの防球性能を向上することができる。また、網糸を形成する全芳香族ポリエステル繊維に対して、高強力・高弾性率を付与することにより、網糸を細くしても、高い防球性能を保持できる。そして、このような防球ネットでは、防球ネットの軽量性と良好な視界性だけでなく、高い防球性能をも兼ね揃えることができる。
【0015】
また、組節部を平織りの基本単位を用いた簡単な構造で形成できるため、防球ネットの形成を簡便にでき、生産性を向上できる。
さらに、防球ネットにおける樹脂の被覆量を調節することにより、高い結節強度を有するだけでなく、適度な柔らかさを併せもつ防球ネットを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る防球ネットの一実施形態を示す概略図である。
【図2】図1の防球ネットの組節部分を拡大した概略拡大図である。
【図3】防球ネットの耐目ズレ強力を測定するために用いられる試料を切断する箇所を説明する図である。
【図4】防球ネットの耐目ズレ強力の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明から、より明瞭に理解される。図面は必ずしも一定の縮尺で示されておらず、本発明の原理を示す上で誇張したものになっている。また、添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一部分を示す。
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。図1は、本発明の防球ネットの一形態を説明するための概略図であり、図2は、この防球ネットの組節部分の概略拡大図である。
【0019】
[防球ネット]
図1に示すように、防球ネット1は、直線部2が組節部3で交わり、四角形の網目を形成して連なっている。また、この防球ネット全体には、樹脂コーティングが施されている。図2に示すように、防球ネット1の組節部3では、網糸4aおよび4bが略垂直に交差している。なお、図2では、網糸4aは縦方向に、網糸4bは横方向に伸びている。より具体的には、網糸4aは2子の単糸5aおよび6aがより合わされて形成されており、網糸4bは2子の単糸5bおよび6bがより合わされて形成されている。また、前記組節部3では、網糸4aおよび網糸4bが、互いに各単糸5a,6a,5b,6bを上下に交差させながら、平織りの単位組織を形成するように組み合わされている。
【0020】
前述したように、防球ネット1の組節部3では、縦の網糸4aと横の網糸4bとが、それぞれの単糸を上下に交差させつつ、互いに貫通しているため、網糸に曲げなどの負荷をかけず、網糸本来の性質を生かすことが可能となる。したがって、このような貫通式の防球ネットでは、全芳香族ポリエステル繊維の有する高い強度および弾性率をそのまま実現することが可能である。
【0021】
しかしながら、組節部3が、このような平織りの単位組織で形成されているため、樹脂コーティングをしていない場合、組節部3を形成する各単糸5a,6a,5b,6bは、ボールなどの衝撃により、交差部は動きやすく目ズレを起こしやすい。さらに、風圧などによりそれぞれの単糸が擦りあわされると、前記全芳香族ポリエステル繊維のフィブリル化を促進してしまう恐れがある。
【0022】
そこで、全芳香族ポリエステル繊維で構成された編糸から形成される無結節ネット基材に対して、樹脂コーティングをすると、全芳香族ポリエステル繊維の強力を発揮できるとともに、ボールや風圧などの衝撃を受けても、防球ネットの交差部(組節部)での目ずれを有効に防除することが可能となる。
【0023】
なお、各単糸を構成する原糸は、モノフィラメントまたはマルチフィラメントのいずれであってもよいが、樹脂コーティングの含浸性を高める観点から、マルチフィラメントが好ましく、原糸は、複数本のマルチフィラメントで構成された引き揃え糸、または前記引き揃え糸の撚り糸である場合が多い。
【0024】
例えば、単糸を構成する原糸は、1000〜2500dtex程度、好ましくは1300〜2000dtex程度であってもよく、マルチフィラメントである場合、原糸を構成するフィラメント数は100〜500程度、好ましくは170〜400程度であってもよい。
【0025】
また、網糸を構成する原糸の数は、2〜20本の幅広い範囲から選択することができ、好ましくは4〜14本程度であってもよい。なお、網糸の原糸の数は、「単糸を構成する原糸の数」を2倍したものである。
【0026】
視界性や防球性能の観点から、防球ネットを構成する網糸の直径、すなわち、樹脂で被覆された網糸の直径は、例えば、0.5〜3mm程度、好ましくは0.7〜2.3mm程度であってもよい。
【0027】
防球ネットの目合いは、用途に応じて適当に設定でき、例えば、10〜250mm程度から自由に選択できる。特に、防球ネットをゴルフ場で用いる場合、防球ネットの目合いは30〜60mm程度、好ましくは40〜50mm程度であってもよい。また、防球ネットを野球やテニス場で用いる場合、防球ネットの目合いは、50〜100mm程度、好ましくは60〜90mm程度であってもよい。
【0028】
(全芳香族ポリエステル繊維)
前記網糸は、全芳香族ポリエステル繊維から形成されている。前記全芳香族ポリエステル繊維を構成するポリアリレート系溶融異方性ポリマーは、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等より重合されて得られるポリマーであり、例えば、下記化1及び化2に示す構成単位の組合せからなるものである。
【0029】
【化1】

【0030】
【化2】

【0031】
特に好ましくは、下記化3に示す(A)、(B)の反復構成単位からなる部分が80モル%以上である全芳香族ポリエステルであり、特に(B)の成分が3〜45モル%である全芳香族ポリエステルが最も好ましい。
【0032】
【化3】

【0033】
本発明にいう溶融異方性とは、溶融相において光学的異方性を示すことである。この特性は、例えば試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を観察することにより認定できる。
【0034】
全芳香族ポリエステル繊維を構成するポリアリレート系溶融異方性ポリマーとして好ましいものは融点(以下、Mpと称す)が260〜360℃の範囲のものであり、さらに好ましくはMpが270〜350℃のものである。なお、Mpは示差走査熱量計(メトラー社DSC)により主吸熱ピークが現れる温度を測定することにより求められる。
【0035】
なお、前記ポリアリレート系溶融異方性ポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲内で、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステルエーテルケトン、フッ素樹脂等の熱可塑性ポリマーを添加してもよい。
【0036】
次に、溶融異方性ポリマーの紡糸方法について述べる。溶融異方性ポリマーは、ノズルを通過する時のせん断速度を10〜10sec−1とすると、紡糸時に著しい分子配向が生じるため、通常のポリエチレンテレフタレート紡糸原糸などに行われている紡糸後の延伸を行なわなくとも、紡糸原糸のままで強度8cN/dtex以上、弾性率400cN/dtex以上の繊維となる。本発明にいうせん断速度γは、円形ノズルの場合は次式により求めることが出来る。
γ=4Q/πr(sec−1
但し r:ノズルの半径(cm)
Q:単孔当たりのポリマー吐出量(cm/sec)
【0037】
紡糸原糸は、熱処理することにより強度・弾性率を更に向上させることが可能である。熱処理は(Mp−80℃)〜Mpの温度条件で行なうのが好ましい。本発明の全芳香族ポリエステル繊維の融点は熱処理温度を上げるに従い上昇するので、熱処理方法としては段階的に温度を上昇させながら熱処理する方法が好ましい。熱処理雰囲気としては、窒素、アルゴン等の不活性ガスや空気等の活性ガス、あるいはそれらを組み合わせた雰囲気などが好適に用いられる。また上記熱処理を減圧下で行っても何等差し支えない。
例えば、このような全芳香族ポリエステル繊維は、(株)クラレから「ベクトラン(登録商標)」として上市されている。
【0038】
全芳香族ポリエステル繊維は、通常、単繊維デシテックスが1〜20dtex程度、好ましくは5〜15dtex程度である。
【0039】
全芳香族ポリエステル繊維の強度は、例えば、10〜100cN/dtex程度、より好ましくは15〜80cN/dtex程度であってもよい。また、全芳香族ポリエステル繊維の弾性率は、例えば、300〜2000cN/dtex程度、より好ましくは400〜1500cN/dtex程度であってもよい。
【0040】
(樹脂コーティング液)
本発明では、防球ネット基材を樹脂コーティングすることにより、防球ネットの耐目ズレ強力を向上することができる。
樹脂コーティングは、全芳香族ポリエステル系繊維から形成されたネット基材を含浸または被覆して、防球ネットの耐目ズレ強力を向上できる限り、特に限定されず、例えば、各種合成樹脂の分散液または溶液を利用できる。
【0041】
このような合成樹脂のコーティング液としては、フェノール系樹脂塗料、アルキド系樹脂塗料、塩化ビニル系樹脂塗料、スチレンブタジエン樹脂塗料、アクリル系樹脂塗料、エポキシ系樹脂塗料、ポリエステル系樹脂塗料、ポリウレタン系樹脂塗料などの有機溶剤系塗料;水性酢酸ビニル系樹脂塗料、水性アルキド系樹脂塗料、水性メラミン系樹脂塗料、水性尿素系樹脂塗料、水性フェノール系樹脂塗料、水性アクリル系樹脂塗料、水性エポキシ系樹脂塗料、水性ポリブタジエン系樹脂塗料、水性ポリウレタン系樹脂塗料、水性ポリオレフィン系樹脂塗料などの水性樹脂塗料などが例示できる。
【0042】
特に、樹脂コーティング液は、耐摩耗性樹脂コーティング液であってもよい。耐摩耗性樹脂は、摩擦係数を低くしてすべりやすくするという働きがあるが、本発明では、防球ネットの組節部分が平織りの単位組織全体が、耐摩耗性樹脂で含浸・被覆されるためか、耐摩耗性樹脂の被覆によって、全芳香族ポリエステル繊維のフィブリル化を防除できるとともに、ネットの目ずれ(すなわち、網糸の抜けや切断によって生じる組節部の移動または欠損)をも防ぐことが可能であるため好ましい。
【0043】
例えば、耐摩耗性樹脂コーティング液としては、ポリオレフィン系樹脂水溶性エマルジョン(例えば、ポリオレフィン・天然樹脂誘導体水溶性エマルジョンなど)、メラミン系樹脂水溶性エマルジョン(例えば、メラミン・ホルムアルデヒド重縮合体水溶性エマルジョンなど)、アクリル系水溶性エマルジョン(例えば、(メタ)アクリル酸エステル重合体水溶性エマルジョン、アクリル・スチレン水溶性エマルジョンなど)などが例示できる。また、有機溶剤性溶液としては、ポリエステル系溶液などが例示できる。
【0044】
具体的には、メラミン系水溶性エマルジョンは、昭和高分子(株)製、「ミルベンレジンSM−300」などとして入手できる。ポリオレフィン系水溶性エマルジョンは、太田化研(株)製、「ナイロフィックスTK−20」、「ナイロフィックスTK−15」などとして入手でき、アクリル系水溶性エマルジョンは、BASFジャパン(株)製、「アクロナールYJ1800Dap」、「アクロナールYJ2770Dap」などとして入手できる。また、ポリエステル系溶液は、扇化学工業(株)製、「シーレジンBT−01」などとして入手できる。
【0045】
これらの樹脂のうち、ポリオレフィン系天然樹脂水溶性エマルジョン、特にポリオレフィン・ロジン誘導体水溶性エマルジョンが好ましい。
【0046】
これらの樹脂コーティング液を作製するに当たり、まず、前記樹脂溶液または分散液の原液を樹脂槽に投入する。ついで、濃度調整するため、水または有機溶媒をさらに投入し、均一に攪拌し、樹脂コーティング液を作製する。この樹脂コーティング液に対して、公知または慣用の方法により作製された貫通型の無結節ネット基材を浸漬し、その後、ネット基材を乾燥し、必要に応じて熱処理を施す。これらの工程により、樹脂が含浸・被覆した本発明の無結節防球ネットを得ることができる。
【0047】
防球ネット全体に対する樹脂の付着量は、繊維の繊度、撚り本数などに応じて変化するが、防球性能を向上させるとともに、防球ネットとしてのしなやかさをも兼ね揃える観点から、乾燥後の付着量として、1〜25重量%程度、好ましくは1.5〜20重量%、より好ましくは1.5〜18重量%程度であってもよい。
【0048】
なお、樹脂付着量は、無結節ネット基材の重量(A)と樹脂コーティング後の防球ネットの重量(B)より下記式で求められる。
樹脂付着量={(B)−(A)}/(B)×100
【0049】
熱処理は、樹脂コーティング液の種類に応じて適当に調節することが出来るが、通常100〜200℃(好ましくは、120〜180℃)下において、30秒〜5分(好ましくは1〜4分)程度行われる。
なお、本発明では、網体を耐熱性の高い全芳香族ポリエステル繊維で形成しているため、熱処理温度を高くしても、網体を構成する繊維が悪影響を受けること
はない。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお以下の実施例において、ポリアリレート系溶融異方性ポリマーの対数粘度ηinh、融点、強度、弾性率および耐目ズレ強力は下記の方法により測定したものを示す。
【0051】
[対数粘度]
ポリマー試料をペンタフルオロフェノールに0.1質量%溶解し(60〜80℃)、60℃の恒温槽中で、ウベローデ型粘度計で相対粘度(ηrel)を測定し、次式によって計算した。
ηinh=ln(ηrel)/c
ここでcはポリマー濃度(cN/dtexl)である。
【0052】
[融点]
示差走査熱量計(メトラー社製DSC)で観察される主吸熱ピークのピーク温度を融点Mp(℃)とした。
【0053】
[繊維強度・弾性率]
JIS L1013に準拠して測定した。
【0054】
[耐目ズレ強力の測定]
図3に示すように、防球ネットの直線部2のうち、太線の部分で示した10箇所を切断し、互いに隣り合う3つの連続した四角形の網目を有する試料を採取した。得られた試料において、上側の四角形および下段の四角形の網目を、テンシロン型引張試験機((株)オリエンテック製)を用い、互いに反対方向(矢印方向)に引張った。そして、前記試料に含まれる8箇所の組節部3のうち、いずれかの組節部が切断または抜けにより目ズレした時点の引張強伸度をもって、試料の耐目ズレ強力とした。
【0055】
(実施例1)
(1)全芳香族ポリエステル繊維の製造工程
パラアセトキシ安息香酸(A)と2,6−アセトキシナフトエ酸(B)の仕込み比を7:3(モル比)とし、重合温度310℃でアセテート法による重合を行い、繰り返し構成単位(A)と(B)のモル比が7:3である全芳香族ポリエステルポリマー(ηinh=5.8、Mp=280℃)を作製した。この全芳香族ポリエステルを単軸押し出し機を用いて紡糸温度315℃にて0.15mm径、200ホールの口金より巻取り速度2000m/分で紡糸し、1670dtex/200フィラメントの紡糸原糸を得た。得られた紡糸原糸を乾燥窒素雰囲気にて260℃で2時間、280℃で12時間熱処理し、全芳香族ポリエステル繊維(単繊維8.3デシテックス、強度20cN/dtex、弾性率505cN/dtex)を得た。
【0056】
(2)無結節ネット基材の作製工程
前記(1)で得られた全芳香族ポリエステル繊維マルチフィラメント糸(1670dtex、200フィラメント)に撚りを掛けて撚り糸(撚り本数:2)とし、この撚り糸をそれぞれの網糸を構成する単糸として、製網機を用いて無結節ネット基材を作製した。
【0057】
(3)樹脂コーティング工程
メラミン系エマルジョン(昭和高分子(株)製、「ミルベンレジンS−300」)を樹脂槽に投入後、水をさらに投入して前記エマルジョンと均一に攪拌、混合し、コーティング液(ミルベンレジン10重量%濃度,樹脂固形分含有量:約7.7重量%)を作製した。
前記(2)で得られた無結節ネット基材を前記コーティング液に浸漬し、基材全体を浸した後、脱液して風乾し、次いで熱風温度150℃にて2分間熱処理をし、防球ネットを得た。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表1に示す。
【0058】
(実施例2)
コーティング液を、ミルベンレジン20重量%濃度(樹脂固形分含有量:約15.4重量%)にする以外は、実施例1と同様にして防球ネットを作製した。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表1に示す。
【0059】
(実施例3)
コーティング液を、ミルベンレジン30重量%濃度(樹脂固形分含有量:約23.1重量%)にする以外は、実施例1と同様にして防球ネットを作製した。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表1に示す。
【0060】
(実施例4〜6)
ネット基材を構成する撚り糸の撚り本数を4本とする以外は、実施例1〜3と同様にコーティング樹脂の濃度を、それぞれミルベンレジン10重量%、20重量%、30重量%と変化させて防球ネットを得た。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表1に示す。
【0061】
(実施例7)
ネット基材を構成する網糸の撚り本数を6本とし、コーティング液を、ミルベンレジン3重量%濃度,樹脂固形分含有量約2.3重量%にする以外は、実施例1と同様にして防球ネットを作製した。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表1に示す。
【0062】
(実施例8)
ネット基材を構成する網糸の撚り本数を6本とし、コーティング液を、ミルベンレジン6重量%濃度,樹脂固形分含有量約4.6重量%にする以外は、実施例1と同様にして防球ネットを作製した。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表1に示す。
【0063】
(実施例9〜11)
ネット基材を構成する網糸の撚り本数を6本とする以外は、実施例1〜3と同様にコーティング樹脂の濃度をそれぞれミルベンレジン10重量%、20重量%、30重量%と変化させて防球ネットを得た。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表1に示す。
【0064】
(実施例12〜14)
ネット基材を構成する網糸の撚り本数を8本とする以外は、実施例1〜3と同様にコーティング樹脂の濃度を、それぞれミルベンレジン10重量%、20重量%、30重量%と変化させて防球ネットを得た。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表1に示す。
【0065】
(実施例15〜17)
ネット基材を構成する網糸の撚り本数を14本とする以外は、実施例1〜3と同様にコーティング樹脂の濃度を、それぞれミルベンレジン10重量%、20重量%、30重量%と変化させて防球ネットを得た。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表1に示す。
【0066】
(比較例1〜5)
樹脂コーティングを施さない無結節ネット基材をそのまま使用する以外は、実施例1(撚り本数:2本)、実施例4(撚り本数:4本)、実施例7(撚り本数:6本)、実施例12(撚り本数:8本)、実施例15(撚り本数:14本)と同様にして、それぞれ防球ネットを作製した。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有していたが、撚り本数が共通するそれぞれの実施例と比較すると、目ズレ発生時点の強度が低かった。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表1に示す。
【0067】
(比較例6)
市販されているゴルフネット(タイレ(株)製、ポリエチレンモノフィラメント糸使用、ベニートヤマ(株)製ゴルフネット)について、耐目ズレ強力を測定した。ゴルフネットは、目ズレ発生時点の強度が実施例と比較すると低かった。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
(実施例18)
実施例1と同様にして無結節ネット基材を作製した。
次いで、ポリオレフィン系樹脂水溶性エマルジョン(太田化研(株)製、「ナイロフィックスTK−15」)を樹脂槽に投入後、水をさらに投入して前記エマルジョンと均一に攪拌、混合し、コーティング液(ナイロフィックスTK−1510重量%濃度、樹脂固形分含有量:約6.5重量%)を作製した。
その後、前記無結節ネット基材を前記コーティング液に浸漬し、基材全体を浸した後、脱液して風乾し、次いで熱風温度150℃にて2分間熱処理をし、防球ネットを得た。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表2に示す。
【0070】
(実施例19)
コーティング液を、ナイロフィックス20重量%濃度(樹脂固形分含有量:約13重量%)にする以外は、実施例18と同様にして防球ネットを作製した。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表2に示す。
【0071】
(実施例20)
コーティング液を、ナイロフィックス30重量%濃度(樹脂固形分含有量:約19.5重量%)にする以外は、実施例18と同様にして防球ネットを作製した。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表2に示す。
【0072】
(実施例21)
ネット基材を構成する撚り糸の撚り本数を4本とし、コーティング液を、ナイロフィックス6重量%濃度,樹脂固形分含有量約3.9重量%にする以外は、実施例18と同様にして防球ネットを得た。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表2に示す。
【0073】
(実施例22〜24)
ネット基材を構成する撚り糸の撚り本数を4本とする以外は、実施例18〜20と同様にコーティング樹脂の濃度を、それぞれナイロフィックス10重量%、20重量%、30重量%と変化させて防球ネットを得た。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表2に示す。
【0074】
(実施例25〜28)
ネット基材を構成する撚り糸の撚り本数を6本とする以外は、実施例21〜24と同様にコーティング樹脂の濃度を、それぞれナイロフィックス6重量%、10重量%、20重量%、30重量%と変化させて防球ネットを得た。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表2に示す。
【0075】
(実施例29)
ネット基材を構成する撚り糸の撚り本数を8本とし、コーティング液を、ナイロフィックス3重量%濃度,樹脂固形分含有量約1.9重量%にする以外は、実施例18と同様にして防球ネットを得た。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表2に示す。
【0076】
(実施例30〜33)
ネット基材を構成する撚り糸の撚り本数を8本とする以外は、実施例25〜28と同様にコーティング樹脂の濃度を、それぞれナイロフィックス6重量%、10重量%、20重量%、30重量%と変化させて防球ネットを得た。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表2に示す。
【0077】
(実施例34〜38)
ネット基材を構成する撚り糸の撚り本数を14本とする以外は、実施例29〜33と同様にコーティング樹脂の濃度を、それぞれナイロフィックス3重量%、6重量%、10重量%、20重量%、30重量%と変化させて防球ネットを得た。得られた防球ネットは、防球ネットとして適切な柔らかさを有するとともに、高い耐目ズレ強力を有していた。得られた防球ネットの耐目ズレ強力を表2に示す。
【0078】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の防球ネットは、軽量な無結節ネットであっても、高強力であり、且つ防球性が高いため、ゴルフ場やテニス場を初めとして、校庭および野球グラウンドにおいて好ましく利用できる。特に、強風による風圧がかかった場合であっても、目ずれを起こしにくいため、屋外において、好適に使用できる。
【0080】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0081】
1:防球ネット
2:直線部
3:組節部
4a,4b:網糸
5a,5b,6a,6b:網糸の単糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線部が組節部で交わる四角形の網目を有する貫通式の無結節防球ネットであって、網糸は全芳香族ポリエステル繊維から形成され、この網糸で形成された無結節ネット基材が樹脂コーティング液で被覆されている防球ネット。
【請求項2】
請求項1において、前記全芳香族ポリエステル繊維が、強度10〜100cN/dtex、且つ弾性率300〜2000cN/dtexを有している防球ネット。
【請求項3】
請求項1または2において、樹脂コーティング液を構成する樹脂が、耐摩耗性樹脂である防球ネット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、樹脂コーティング液で被覆されている網糸の直径が、0.5〜3mmである防球ネット。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、前記樹脂コーティング液が、ポリオレフィン系樹脂水溶性エマルジョンまたはメラミン系樹脂水溶性エマルジョンである防球ネット。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、前記樹脂コーティング液が、ポリオレフィン・天然樹脂誘導体水溶性エマルジョンである防球ネット。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項において、防球ネット全体に対する樹脂の付着量が1〜25重量%である防球ネット。
【請求項8】
全芳香族ポリエステル繊維で網糸を形成する工程と、
前記網糸を編んで、組節部が平織りの単位組織を有し、直線部が組節部で交わる四角形の網目を有する貫通式の無結節ネット基材を形成する工程と、
前記無結節ネット基材を、樹脂コーティング液で被覆する工程と
を備える無結節防球ネットの製造方法。
【請求項9】
請求項8において、樹脂コーティング液を構成する樹脂が、耐摩耗性樹脂である製造方法。
【請求項10】
請求項8または9において、樹脂コーティング液で被覆した無結節ネット基材に対して、さらに熱処理工程を行う製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−291597(P2009−291597A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99735(P2009−99735)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(000113193)ベニートヤマ株式会社 (1)
【出願人】(595127872)清立商工株式会社 (1)
【Fターム(参考)】