説明

防虫ブロック

【課題】 残効性に優れ、かつ簡便に使用できる、水生害虫防除用として有効な固形の防虫組成物を提供する。
【解決手段】 昆虫成長阻害剤を軽石に担持させ、さらにセメントで固めて成型することにより、有効なブロックを得ることができる。昆虫成長阻害剤としては幼若ホルモン様化合物、特にピリプロキシフェンが好ましい。また、セメントとしては中性セメントが好ましい。本ブロックを水系に設置することにより、カ、ユスリカ、ブユ等の水生害虫を有効に防除できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間有効に使用できる防虫ブロックおよび、該防虫ブロックを水系に処理する防虫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マラリアを媒介するハマダラカ類、日本脳炎やフィラリアを媒介するイエカ類、デング熱を媒介するシマカ類等の蚊やしばしばアレルギーの原因となるユスリカ類、ブユ類等の幼虫は水系に棲息する。これらの害虫を防除するためには種々の殺虫剤が使用されてきた。そのうち、有機塩素系殺虫剤は残留により環境への影響が大きく使用が禁止された。その後広く使用されるようになった有機リン剤やカーバメイト剤は残効性が短く、またしばしば抵抗性により充分な効力が得られていない。ピレスロイド系殺虫剤は、殺虫効力は充分であるものの魚毒性が比較的高く水系での使用は好ましいものではない。そのような状況下で昆虫成長阻害剤が本分野に最も適した薬剤として広く使用されるようになっている。これらの殺虫剤を水系に処理するために適した固形製剤として、非特許文献1には、粒剤、水和剤、水溶剤、顆粒水和剤および錠剤等が記載されている。蚊の幼虫を防除する方法として特許文献1には水中分散性が優れた浮遊崩壊性組成物を使用する方法が開示されている。しかしながら、これらの製剤は特に流水系においては短時間で流亡し、残効性が充分でないため、さらに残効性の長い害虫防除組成物が望まれていた。
【0003】
【特許文献1】特開平10−017410号公報
【非特許文献1】新農薬開発の最前線 ―生物制御科学への展開― P.190〜211
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昆虫成長阻害剤を有効成分とし、水系において長期間有効であり、かつ使用し易い固形の防虫組成物を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、蚊、ユスリカ、ブユ等の幼虫のような水生害虫を、長期間有効に防除する方法について鋭意検討を行った。その結果、昆虫成長阻害剤を軽石に担持させ、さらにセメントで固めてなることを特徴とするブロックが本目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【発明の効果】
【0006】
本発明の防虫ブロックを用いることにより、水系に棲息する各種の害虫を長期間簡便に防除できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、(1)昆虫成長阻害剤を軽石に担持させセメントで固めてなることを特徴とする防虫ブロック、(2)昆虫成長阻害剤が幼若ホルモン様化合物である上記の防虫ブロック、(3)昆虫成長阻害剤がピリプロキシフェンである上記の防虫ブロック、(4)セメントが中性セメントである上記の防虫ブロック、および(5)上記の防虫ブロックを水系に設置して水系に棲息する害虫を防除する方法に関するものである。ここで用いる昆虫成長阻害剤は、当該害虫に活性を示すものであれば特に制限はなく、例えば、ピリプロキシフェン、フェノキシカルブ、メトプレン等の幼若ホルモン様化合物、ジフルベズロン、テフルベンズロン、クロルフルアズロン、フルフェノクスロン、トリフルムロン、ヘキサフルムロン、ビストリフルロン等のキチン合成阻害剤、シロマジン、テブフェノジド等を用いることができる。上記昆虫成長阻害剤の中で水生害虫に対する効力の強さや非標的生物への影響の少なさ等から幼若ホルモン様化合物が好ましく、ピリプロキシフェンが特に好ましい。
【0008】
また、本発明で用いられる軽石は多孔質のものであれば特に限定されず、例えば火山弾石等から得ることができる。軽石の粒子径も特に限定されないが、0.01mm〜10mmの範囲が好ましく、製造上からは2.5mm〜10mmのものが特に好ましい。セメントはそれらの軽石を接着し、成型できるものであれば良く、有効成分である昆虫成長阻害剤を安定に保つために中性セメントが好ましい。昆虫成長阻害剤と軽石を混合したものにセメントと水を加え充分混練後に鋼鉄製型枠にて振動加圧成型した後、摂氏55℃〜65℃の蒸気養生をすることにより目的のブロックを得る。この場合、昆虫成長阻害剤はそのまま使用しても良いが、通常の方法であらかじめ粒剤等に製剤したものを軽石と混合、使用することが好ましい。本発明ブロックの大きさや形状は特に限定されず、目的に応じて任意に選択することができるが、設置しやすさから通常は立方体、直方体、円柱、六角柱等に成型し、その質量が10g〜40000g程度である。本発明ブロックは水中に設置し、水生害虫の防除に用いられる。使用量は昆虫成長阻害剤の活性によって異なるが、通常水中濃度として、0.001ppm〜100ppm程度であり、好ましくは0.1ppm〜10ppm程度である。
【0009】
また、多種類の水生害虫を同時に防除するために他の殺虫剤を混合して使用することもできる。本ブロックは多孔質であり、水中で種々の微生物が繁殖し水の浄化をすることができるが、水の浄化に有用な微生物やバチルス・チューリンゲンシス等の殺虫性を有する微生物を、あらかじめ接種しておくことにより、より有用なブロックを得ることができる。
【0010】
上記の防虫ブロックを用いることにより、河川、池、用水路、防火用水等の水系に発生する蚊、ユスリカ、ブユ等を防除することができ、さらには水の浄化にも有効である。
(実施例)
【0011】
次に製造例および実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明がこれらによって限定されることはない。
【0012】
(製造例1)
ピリプロキシフェンを0.5%含有する粒剤(スミラブ粒剤、シントーファイン株式会社製)3.38gと、平均粒径5.0mmの軽石27.26g、平均粒径2.5mmの軽石27.26gを均一に混合し、中性セメント42.3gを混合し、水を加えて十分に混練し、鋼鉄製の型に入れて成型することにより防虫ブロックを製造した。
【実施例1】
【0013】
製造例1で作成した防虫ブロックおよび対照として市販ピリプロキシフェンを0.5%粒剤(スミラブ粒剤、シントーファイン株式会社製)を所定量量り、それぞれ2Lのポリ容器に入れ、ローラーポンプを用いて840mL/Hrの水を容器内に送り込んだ。また、ピリプロキシフェン濃度が1ppmになるよう容器上部に穴をあけ、水量が一定になるようにした。容器内からあふれた水は、別容器で受け止め、その水中のピリプロキシフェン濃度を経時的にHPLCで分析した。結果は表1に示す。
【表1】

実施例1のブロックは17日後においても9%しか溶出されず、対照の市販スミラブ粒剤と比べ徐放化されていた。
【実施例2】
【0014】
製造例1で製造したブロックを腰高シャーレに入れ、ピリプロキシフェン濃度が10ppmになるようにイオン交換水を加えた。イオン交換水は毎日交換し、交換した水を用いてヒトスジシマカに対する羽化阻害率を観察した。結果を表2に示す。
【表2】

製造例1のブロックは長期間にわたり、蚊を防除することができた。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明防虫ブロックは水系に棲息する害虫の防除に有効に利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆虫成長阻害剤を軽石に担持させセメントで固めてなることを特徴とする防虫ブロック。
【請求項2】
昆虫成長阻害剤が幼若ホルモン様化合物であることを特徴とする請求項1に記載の防虫ブロック。
【請求項3】
昆虫成長阻害剤がピリプロキシフェンであることを特徴とする請求項1または2に記載の防虫ブロック。
【請求項4】
セメントが中性セメントであることを特徴とする請求項1、2または3に記載の防虫ブロック。
【請求項5】
請求項1、2、3または4に記載の防虫ブロックを水系に設置することを特徴とする水生害虫防除方法。


【公開番号】特開2007−15942(P2007−15942A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196053(P2005−196053)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(397070417)シントーファイン株式会社 (31)
【出願人】(500569041)コヨウ株式会社 (2)
【出願人】(303048341)株式会社ビッグバイオ (10)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】