説明

防護服着用作業員のための熱中症警告装置

【課題】防護服着用の作業員の作業性を確保しながら、作業員を熱中症の危険から守るための装置を提供すること。
【解決手段】メモリー、マイクロプロセッサ及び外部との信号送受信用無線モジュールを含む集積回路と、該マイクロプロセッサから与えられる情報を外部に送信するとともに、外部からの信号を受信するためのアンテナが取り付けられている防護服と、情報を上記作業員に伝えるための手段と、上記作業員の深部体温を測定するセンサーと心拍数を測定するセンサーの少なくとも1つのセンサーと、危険区域の外に置かれた外部コンピュータを備える。センサーによって測定された上記作業員の深部体温及び/又は心拍数が、アンテナを介して外部コンピュータに送信され、外部コンピュータにおいて予め記憶されている深部体温及び/又は心拍数に関する熱中症警告値と比較される。熱中症の危険がある場合には、作業員に警告が与えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核燃料物質の取扱い、アスベストやダイオキシン等の有害物質の取扱い等、あるいは消火活動等のように、作業にあたって防護服を着用する必要のある現場における作業員の健康状態を管理する装置であって、特に熱中症の危険度を事前に作業員に警告する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、放射線管理区域である核燃料取扱い施設における既存設備の撤去にあたっては、付着する核燃料物質による汚染の拡大防止を図りつつ、作業員の核燃料物質の吸引による内部被ばくを防止するため、既存設備の周囲にビニール製のテント(以下「グリーンハウス」と称す)を設置し、作業員は特別の防護服を着用して作業に従事している。ここで使用される防護服は、一般の防護服に比べて非常に熱がこもり易く、発汗に伴う水分は防護服外に逃げ難い。このため、防護服内は高温多湿となり、作業員は「熱中症」を引き起こし易い環境に置かれることになる。
【0003】
従来、熱中症や過度の疲労を防止するため、予め作業限界に至るまでの時間を定め、それに基づいて実作業管理を行っている。作業限界時間は、人工気候室において実作業を模擬した一定強度の筋労作(エルゴメーター、踏み台昇降等)を行い、その時の心拍数、体温を測定し、それらの時間変化から予測している。
【0004】
作業場所には、監視カメラが設けられ、作業員の様子を遠隔監視しているものの、防護服を着用しているため、作業員の表情等を必ずしも正確に把握できていない。従って、作業限界時間内における作業員の熱中症予防等の健康管理はもっぱら自己管理に頼っているのが現状である。
【0005】
何かの行動を取ろうとしている、あるいは取っている者(以下、ユーザと言う)の支援を行う装置として、特許文献1に記載された「ユーザ支援装置」が知られている。この装置は、ユーザ自身の発汗量や表情、ユーザ周辺の気温や空気中の成分等をセンサーやカメラを使って把握し、把握した情報を通信手段を介して中央にあるコンピュータに送り、所定の処理を行って、必要な情報をユーザに知らせることによって、ユーザを支援する装置である。
【特許文献1】特開2005−315802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたユーザ支援装置は、防護服などの特殊な服を着用した作業員を対象とするものではないため、核燃料物質の取扱い、アスベストやダイオキシン等の有害物質の取扱い、あるいは消火活動等を行う作業員を対象とする支援装置として、そのまま適用することは不可能である。特に、防護服を着用している作業員にとって最も危険な熱中症の対策に対しては無力であり、また熱中症の予防に際しても、有害物質からの隔離とか、作業性の確保を考慮した上での大幅な改善が必要である。
【0007】
本発明の目的は、防護服を着用している作業員を有害物質からの隔離機能を損なうことなく、及び/または、防護服着用の作業員の作業性を確保しながら、作業員の熱中症危険度をリアルタイムに監視し、その情報を常時または周期的に作業員に知らせるための装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る熱中症警告装置は、少なくともメモリー、マイクロプロセッサ及び外部との信号送受信用無線モジュールを含む集積回路(IC)と、該マイクロプロセッサから与えられる情報を外部に送信するとともに、外部からの信号を受信するためのアンテナが取り付けられている防護服と、上記マイクロプロセッサから情報を上記作業員に伝えるための出力手段と、上記作業員の深部体温を測定するセンサーと心拍数を測定するセンサーの少なくとも1つのセンサーと、危険区域の外に置かれた外部コンピュータを備えている。測定された上記作業員の深部体温及び心拍数が、上記アンテナを介して上記外部コンピュータに送信され、上記外部コンピュータにおいて予め記憶されているそれぞれの熱中症警告値と比較される。比較結果は、通信手段によって即座に上記作業員に知らされる。この場合、熱中症の危険度が高い場合には、作業員に警告を与える。ここで、そのような状態がある程度続くような場合には、例えば、上記危険区域の外に退避するよう、作業員に勧告するようにしても良い。
【0009】
上記有害物質が放射性物質であっても上述の基本構成は同一であるが、上記ICに対する放射線の影響を最小限に抑えるために、少なくとも上記ICを防護服の内側に取り付けることが好ましい。耐放射線性のICや、上記ICを耐放射線対策を施したケースに入れて使用する場合であっても、このように取り付けることによって、上記ICが放射線の影響によって誤動作することをより一層効果的に防止できる。
【0010】
上記センサーの少なくとも1個、上記IC、上記アンテナ等を一体化し、センシングタグとして構成することが、より一層好ましい。RFID(Radio Frequency Identification)システムを用いれば、小型かつ軽量であり作業員への負担軽減、作業員の特定、情報漏洩の防止、耐熱性、放射線対策の容易さなど、より多くの利点が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放射線管理区域内において、核燃料物質によって汚染された設備を、若しくはアスベストやダイオキシン等の有害物質を含む設備を、防護服を着用して検査や解体を行う者、または極めて過酷な熱環境におかれる消防士の熱中症危険度を、リアルタイム・遠隔・客観的データに基づき監視・判断することが可能となり、熱中症の早期検知、安全性の向上のみならず、疲労の蓄積によるヒューマンエラーの発生を未然に防止することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
最初に、本発明の一実施形態に係る熱中症警告装置の概略構成について図1を用いて説明する。ここでは、放射線管理区域内において、核燃料物質によって汚染された設備を防護服を着用して解体する際に、解体作業員に対して熱中症の危険を警告する装置を例にとって説明する。以下、各図を通して、同一の参照符号は機能的に実質的に同一の構成を示す。
【0013】
図1において、10は、通称グリーンハウスと呼ばれる汚染管理用のハウスである。このハウス10は、放射性物質が付着しても焼却処分が可能なビニールによって覆われている。作業員は11で示されるような完全密封の耐放射線性の防護服を着用して解体作業を行う。すなわち、先に説明したように、作業員は完全密封の防護服11を着用している上に、農業用のビニールハウスのように気温が上昇し易い汚染管理用ハウス10内で作業するのに加え、放射線管理区域内では水分を補給することも不可能なため、熱中症の危険が極めて高い状況に置かれている。
【0014】
心拍数や体温など、作業員の体調に関する情報は、後に図2を参照して詳述されるモニタリング端末12によって採取され、放射線管理区域外にあるコンピュータ13に送信される。コンピュータ13では、入力された作業員の体調に関する情報を基に、後に図3を参照して詳述される所定の処理を行い、その結果を作業員のモニタリング端末12に送信する。なお、図1の作業員は、外部からエアーが供給される型の防護服11を着用しているが、外部からエアーが供給されるかどうかは、本発明とは直接関係がないのでここでは詳細な説明を省略する。
【0015】
次に、図2を参照し、モニタリング端末12について詳細に説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る熱中警告装置の概略構成図である。図2において、モニタリング端末12は、心拍センサー21、深部体温センサー22、皮膚温センサー23、温度センサー24及び湿度センサー25などを含む各種センサーと、CPU26、RTC27、無線モジュール28及びメモリー29などを含むICチップ(集積回路)20とから構成される。このICチップ20としては、個別に回路を構成しこれをIC化しても良いが、例えば、深部体温センサー22などの少なくとも1個のセンサーとICチップ20として、RFID(Radio Frequency Identification)システムで用いられるセンシングタグを使用することもできる。なお、本実施形態では、心拍数は光電脈波によって測定し、深部体温は鼓膜温を測定するようにした。通常、深部体温は直腸温を測定するが、作業員への負担が大きいため、同様の効果が期待できる鼓膜温を採用したものであり、これらの方法に限定されるものではない。
【0016】
次に、図2と共に図3を参照してICチップ20における動作について説明する。図3は、図2に示された熱中症警告装置におけるモニタリング端末と外部コンピュータの動作を説明するための概略フロー図である。図2において、各センサーから取り込まれる作業員の体調に関する心拍数、深部体温及び皮膚温の情報信号並びに作業員の周囲環境に関する温度及び湿度の情報信号は、RTC(実時間時計)27のクロックパルスに同期して周期的に、各センサー(21−25)からICチップ内のCPU(プロセッサ)26に入力される(図3のステップS30)。入力信号すなわち入力データは、CPU26によって付属のメモリー29に書き込まれる(図3のステップ31)。このメモリー29内のデータは、RTC27による制御によって、CPU26を経由して無線モジュール28から周期的に無線送信される(図3のステップ32)。以上の伝送技術は基本的に良く知られているので、これ以上の説明は省略する。なお、メモリー29に書き込まれたデータは、作業終了後に例えば有線で取り出され、作業員の体調等に関して詳細なデータ解析が行われる。
【0017】
さて、汚染管理用ハウス10の周囲には、上述の無線信号を送受信可能なアンテナ(図示せず)が設けられているアクセスポイント30が、設定されている。アクセスポイント30の設定位置は、ICチップ内の無線モジュール28の無線伝送可能距離、作業員の作業予定個所、及び汚染管理ハウス10内の電波障害物を総合的に考慮して適宜決められる。通常、アクセスポイントは1個所で良いが、上述の作業環境や作業員の位置特定の必要性などを考慮して、複数の個所に設定しても良い。アクセスポイント30において受信されたデ−タは、外部コンピュータ13に入力され、入力データのトレンドが表示される(図3のステップ33)。また、外部コンピュータ13に予め記憶されている熱中症評価プログラムに従い、取り込まれたデータに基づいて熱中症の危険度が評価される(図3のステップ34)。危険と評価された場合には、外部コンピュータ画面に警告が表示され、警報が発せられる(図3のステップ35)。また、同時に、データを受信した場合と逆の経路を介して、作業員に熱中症の危険度に応じた指示が与えられる。例えば、さほど緊急を要しない場合には、休憩を取ることを指示し、これ以上作業を継続すると非常に危険であると判断される場合には、汚染管理ハウス10からの退避を勧告する。この場合、例えば、トランシーバ等の別の通信手段を用いて、危険と判断された作業員に直接指示を与えるようにしても良い。あるいは、両者を併用して、二重の安全管理を行っても良い。
【0018】
熱中症評価プログラムとして、最も簡単には、過去の幾つかの事例から得られる、熱中症危険度のデータ値を閾値として設定し、外部コンピュータ13に取り込まれたデータ値をその閾値と比較しても良い。また、外部コンピュータ13に伝送するデータは、少なくとも心拍センサーの出力信号値及び深部体温センサーの出力信号値のいずれか一つであっても良い。すなわち、上述の熱中症危険度の判断に使用する閾値として、過去の事例から求められた心拍数のみを設定しても良いし、体温のみを設定しても良い。また、所定の体温と心拍数に達した時点で警告を出し、その状態が継続するようであれば警報(退避勧告)を出すようにしても良い。いずれにしても、本発明は、熱中症か心臓病かといった病気の原因を特定することを目的とするような装置ではなく、熱中症の危険性を判断するものであって、それほど厳格性を求める必要はない。なお、本実施形態では、心拍数に関しては、1分間の心拍数が数分間継続して180−年齢を超えた場合や、作業強度がピークに達した後、1分間経過後の心拍数が110以下に戻らない場合に警告を発するように設定した。また、深部体温に関しては、38℃を越えた場合に警告を発するように設定した。これらの値は、米国のACGIH(American Conference of Industrial Hygienists)によって提供される熱ストレスの許容限度のガイドラインに基づいて設定された。
【0019】
本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲を逸脱しない限り、本願の請求項に含まれる。例えば、上述の実施形態では、CPU、メモリー及び無線モジュールを一体としてIC化しているが、メモリーを単体で取り出し可能として、携帯電話やデジタルカメラで使用されているマイクロディスクやミニディスクを用いても良い。また、無線モジュールも単体で取り出し可能なように構成しても良い。本発明の効果を達成できるものであれば良く、具体的にどのようなものを採用するかは、単なる設計上の問題である。
【0020】
なお、以上の実施形態の説明にあたっては、区域という用語をもちいているが、ここでは、放射線管理区域のように物理的、数学的に一義的に定義されるものに限らず、現場の状況に応じてその都度適宜設定される範囲も含む意味で使用されている。すなわち、火災現場や危険物を積載したタンクローリ等の事故現場においては、例えば警察官(消防士)が設定する範囲を意味する。また、本願発明の本質から明らかなように、作業員とは、実際に解体や消火等の作業を行うものだけでなく、検査や確認を行う者も含む意味で使用されている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の熱中症警告装置の概要説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る熱中警告装置の概略構成図である。
【図3】図2に示された熱中症警告装置におけるモニタリング端末と外部コンピュータの動作説明図である。
【符号の説明】
【0022】
10…汚染管理用ハウス、11…防護服、12…モニタリング端末、13…外部コンピュータ、20…集積回路(IC)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防護服を着用した作業員に対する熱中症警告装置であって、該装置が、
少なくともメモリー、マイクロプロセッサ及び外部との信号送受信用無線モジュールを含む集積回路と、該マイクロプロセッサから与えられる情報を外部に送信するとともに、外部からの信号を受信するためのアンテナが取り付けられている防護服と、
外部から与えられる情報を上記作業員に伝えるための手段と、
上記作業員の深部体温を測定するセンサーと心拍数を測定するセンサーの少なくとも1つのセンサーと、
危険区域の外に置かれた外部コンピュータを備え、
上記センサーによって測定された上記作業員の深部体温及び/又は心拍数を、上記アンテナを介して上記外部コンピュータに送信し、上記外部コンピュータにおいて予め記憶されている深部体温及び/又は心拍数に関する熱中症警告値と比較し、熱中症の危険度が高い場合には、上記作業員に警告を与えることを特徴とする熱中症警告装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱中症警告装置において、少なくとも1つの上記センサー、上記集積回路及び上記アンテナがセンシングタグであることを特徴とする熱中症警告装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−108451(P2009−108451A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283522(P2007−283522)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000153100)株式会社日本環境調査研究所 (30)
【Fターム(参考)】