説明

防護材料及び防護衣服

【課題】 透湿膜層を透過した微量なガス状有機化学物質をガス吸着層により吸着除去できるとともに、使用で発生する摩耗やキズあるいは接合部やファスナー部からのガスの侵入に対しても着用者を保護でき、さらに着用者の熱ストレスを抑制するために軽量、柔軟で高透湿な防護材料及び防護衣服を提供することにある。
【解決手段】 ポリウレタンを含む透湿膜層およびガス吸着性物質を含む層(ガス吸着層)をそれぞれ少なくとも1層以上有する防護材料および防護衣服であって、透湿膜層と他の層との積層はメルトインデックス100g/10min以下の接着剤により積層されている防護材料及び防護衣服。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害化学物質の取り扱い作業者を保護する性能を有する防護材料および防護衣服に関する。更に詳しくは、有機リン系化合物等の如く皮膚から吸収されて人体に悪影響を及ぼすガス状又は液状有機化学物質から作業者を有効に防護し得ると共に、軽量かつ高度な透湿度により着用者の熱ストレスを抑制できる防護材料および防護衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有害化学物質などから人体を保護する防護衣服としては、従来から種々提案されている。例えばゴム曳き布のように、有害化学物質が全く透過しない材料で構成されたものが提案されている。しかしながら、これらの材料を用いると、防護性能は高いものの、生地が重いため作業性が劣り、また通気性および透湿度が全くないため、酷暑環境下や過酷な肉体労働環境下で作業すると作業者に多大な熱ストレスが加わり、重篤な健康障害を及ぼす危険性を抱えている。
【0003】
このような、不具合を解消するため、通気性があり活性炭等の吸着材料からなる防護積層布帛が開示されている。これらの布帛は、通気性を有するため体から発散される汗や水蒸気を効果的に衣服外に放出し、熱ストレスを抑制することができるが、その一方で、通気性のある織物、編み物等から構成されているものが大半を占めるため、液状の有害化学物質や有害な微粉塵、細菌、ウィルスなどのエアロゾルに対して完全な防護性を得ることができない。
【0004】
またセルロースをベースにしたポリマーにより選択透過性を有する防護材料が開示されている。かかるポリマーは、ガス状有機化学物質に対する透過抑制能および透湿性能を有してはいるが、ポリマー単独による防護材料では、ガス状有機化学物質の微量な透過は抑制しきれず、透過量を少なくするために選択透過層の厚さを大きくすると、透湿度が低くなりさらに堅くて重い材料となる。また防護衣服の使用で発生する摩耗やキズなどポリマーの劣化の影響で一旦ガスの透過が生じると急激に衣服内のガス濃度が上昇する危険性がある。さらに防護衣服を着用した状態において、袖口、裾口、襟元等の接合部やファスナーから有害化学物質の侵入があった場合は、それらを2次的に除去できる手段はなく着用者を保護できなくなる。
【特許文献1】特表平11−505775号公報
【0005】
また、ポリアルキレンイミン又はポリアリルアミンを透湿性のある基材にコーティングすることによって得られる防護材料が開示されている。活性炭のような他の吸着材料を接着剤により固定させると記載されている。ただし、一般的な接着剤による吸着材料の固定では吸着材料が接着剤に含まれるガス吸着性を劣化させる成分を吸着する、或いは細孔が接着剤により被覆され、本来吸着材料がもつ吸着速度および吸着容量が低下するといった問題がある。
【特許文献2】特開平07−504580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、透湿膜層により高い透湿性を有し、かつ液状の有害化学物質や有害な微粉塵、細菌、ウィルスなどのエアロゾルに対して高い防護性能を有し、更にガス状有機化学物質をガス吸着層により吸着除去できるとともに、着用者の熱ストレスを抑制するために軽量かつ柔軟で透湿性のある防護材料及び防護衣服を

提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、(1)ポリウレタンを含む透湿膜層およびガス吸着性物質を含む層(ガス吸着層)をそれぞれ少なくとも1層以上有する防護材料であって、透湿膜層と他の層との積層がメルトインデックス100g/10min以下の接着剤により積層されている防護材料、(2)透湿膜層の透湿度が60g/m2・h以上850g/m2・h以下であることを特徴とする(1)に記載の防護材料、(3) 透湿膜層の質量が200g/m2以下であることを特徴とする(1)又は(2)いずれかに記載の防護材料、(4)ガス吸着層の質量が200g/m2以下であることを特徴とする(1)乃至(3)いずれかに記載の防護材料、(5)ガス吸着層がBET比表面積700m2/g以上3000m2/g以下の活性炭であることを特徴とする(1)乃至(4)いずれかに記載の防護材料、(6)ガス吸着層が繊維状活性炭であることを特徴とする(1)乃至(5)いずれかに記載の防護材料、(7)外層付加層および/また内層付加層を付与したことを特徴とする(1)乃至(6)いずれかに記載の防護材料、(8)(1)乃至(7)いずれかに記載の防護材料を用いることを特徴とする防護衣服である。
【発明の効果】
【0008】
本発明による防護材料は、透湿膜層とガス吸着層を有することを特徴とする防護材料および防護衣服であり、ガス吸着層の外側に透湿膜層が配置されていることにより長時間の使用が可能であるとともに、軽量で柔軟かつ高度な透湿性能により熱ストレスを抑制できる効果がある。さらに、透湿膜層として無孔質または微多孔質のフィルムまたは被膜を用いるため、液状の有害化学物質や有害な微粉塵、細菌、ウィルスなどのエアロゾルに対しても優れた防護性を得ることができ、またガス吸着層として活性炭を用いることで高いガス吸着性能を得ることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る防護材料は、透湿度60g/m2・h以上850g/m2・h以下の透湿膜層をそれぞれ少なくとも1層少なくとも1層以上含むことが好ましい。透湿膜層の透湿度が60g/m2・h以下では着用者から発する汗・蒸気を有効に外部へ放出できず、850g/m2・hを超えると耐久性に問題があるからである。更に好ましくは100g/m2・h以上750g/m2・h以下である。
【0010】
本発明に係る防護服の透湿膜層を形成するベース樹脂は、公知のウレタン系樹脂で微多孔質膜を形成できる樹脂であるが、他の樹脂としてはシリコン、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリエステル、共重合ポリエステル、ポリオレフィン、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、ポリビニルアルコール、セルロース、セルロース誘導体等の皮膜形成性能を有するポリマーで皮膜形成後に透湿性を有する材料でも構わない。
【0011】
上記の透湿膜層を形成するポリマーはキャスト法、押出法、射出成型法等により一旦ポリマー単独のフィルムとして製膜する方法、メルトブローン法、フラッシュ紡糸法、エレクトロスピン法等による微細繊維不織布を膜とする方法、該ポリマーの溶液あるいは低重合物を基材にコーティング、ディッピング等により塗工後に乾燥あるいは重合固化する方法などが挙げられる。
【0012】
これらの材料を単独、混合、あるいは順次コーティングおよび積層して皮膜を形成しても構わない。また、本樹脂層中には、他の添加剤、例えば酸化チタン、シリカ等が添加されていても良い。
【0013】
本発明で使用する透湿膜層の厚さとしては、3μm以上100μm以下であることが好ましい。3μm以下であると、十分な強度が得られなく、ピンホール、クラック等の問題が発生する。一方、100μmを超えると、透湿性が低下するうえ、材料が堅くなり衣服材料には適さなくなる。更に好ましくは5μm以上70μm以下である。
【0014】
透湿膜層の質量としては、200g/m2以下であることが好ましい。当該範囲であれば、本発明の目的とする軽量な防護材料を得ること可能だからである。更に好ましくは150g/m2以下である。
【0015】
透湿膜層は皮膜を形成し単独で用いても構わないが、皮膜の補強あるいは保護のために透湿性のある基材と複合しても良い。強度を維持しながら軽量で柔軟な防護材料とするには、基材の厚さは0.05mm以上0.50mm以下が好ましい。基材にはシート状繊維集合体あるいは透湿性のある微多孔あるいは無孔質のフィルム又は膜を用いることが出来る。
【0016】
シート状繊維集合体としては綿、麻、毛、絹等の天然繊維、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル等の再生繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維、ナイロン、アラミド、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、アクリル、アクリル系、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリクラール、ポリアリレート、ポリビニルアルコール、ポリベンザゾール、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド等の合成繊維からなる織物、編物、不織布等が挙げられる。これら繊維は単独あるいは混紡、交織、交編等により組み合わせてシート状繊維集合体としても良い。透湿性のある微多孔あるいは無孔質のフィルム又は膜としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、共重合ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、アクリレート等のシート状物が挙げられる。
【0017】
透湿膜層を基材と複合させて防護材料とする場合、透湿性の低下を防ぎ且つ材料の柔軟性を維持したうえでラミネート法およびコーティング法により積層できる。ラミネート法では透湿膜層と基材の間をポリウレタン系あるいはアクリル酸エステル系エマルジョンで接着する場合や透湿膜層あるいは基材の一部を溶着あるいは融着する場合は全面接着するのではなくドット状に部分接着することが好ましい。低融点の共重合ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンから成る低目付の不織布、網状体あるいは粉体を介して熱接着することも可能である。
【0018】
本発明では、上記の基材に後加工、例えば撥水撥油加工、難燃加工等を施しておいてもよい。撥水剤はフッ素系、ポリシロキサン系、パラフィン系等があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明でいうガス状有機化学物質とは炭素元素を1つ以上持つガス状化合物のことである。50以上の比較的大きな分子量をもち、活性炭等のガス吸着性物質が吸着可能なガス状化学物質である。一例を挙げると、農薬、殺虫剤、除草剤に使用される有機リン系化合物や塗装作業などに使用されるトルエン、塩化メチレン、クロロホルムなどの一般的な有機溶剤があげられる。
【0020】
本発明に使用するガス吸着性物質としては、活性炭やカーボンブラックなどの炭素系吸着材、あるいは、シリカゲル、ゼオライト系吸着材、炭化ケイ素、活性アルミナなどの無機系吸着材から対象とする被吸着物質に応じ適宜選定することができる。その中でも広範囲なガスに対応できる活性炭は好ましく、特に吸着速度や吸着容量が大きく少量の使用で効果的な透過抑制能が得られることから繊維状活性炭はより好ましい。
【0021】
活性炭のBET比表面積としては700m2/g以上3000m2/g以下が好ましく、少量の使用で十分な透過抑制能を得るためには、1000m2/g以上2500m2/g以下がさらに好ましい。BET比表面積が700m2/g未満であると十分な防護性を得るために多くの活性炭が必要となり防護材料が重くなる。一方、3000m2/gより大きくなると吸着したガス状有機化学物質を脱離する問題が起こる。
【0022】
活性炭の質量としては20g/m2以上200g/m2以下が好ましい。20g/m2未満であると、吸着できる容量が小さくなり使用時間が制限される。一方200g/m2より大きくなると防護材料が重くなり熱ストレスの原因となる。さらに好ましくは30g/m2以上150g/m2以下である。
【0023】
少量の使用で効果的な透過抑制能を得るために繊維状の活性炭を使用する方法は有効な手段であるが、その際、使用する繊維状活性炭の原料としては、綿、麻といった天然セルロース繊維の他、レーヨン、ポリノジック、溶剤紡糸法によるといった再生セルロース繊維、さらにはポリビニルアルコール繊維、アクリル系繊維、芳香族ポリアミド繊維、リグニン繊維、フェノール繊維、石油ピッチ繊維等の合成繊維が挙げられるが、得られる繊維状活性炭の物性(強度等)や吸着性能から再生セルロース繊維、フェノール系繊維、アクリル系繊維が好ましい。これらの原料繊維の短繊維あるいは長繊維を用いて製織、製編、不織布化した布帛を必要に応じて適当な耐炎化剤を含有させた後、450℃以下の温度で耐炎化処理を施し、次いで500℃以上1000℃以下の温度で炭化賦活する方法によって繊維状活性炭を製造することができる。
【0024】
繊維状活性炭をシート化する方法としては、シート基材にガス吸着性物質をバインダーにより接着する方法、あるいは吸着剤を適当なパルプおよびバインダーを含めスラリー状とし、湿式抄紙機により抄造する方法、あるいは活性炭素繊維の原料繊維をあらかじめ製織、製編、不織布化し、必要に応じて耐炎化処理したのち炭化・賦活する方法により吸着シートを得ることができる。
【0025】
したがって、繊維状活性炭シートの形態としては、織物状、編物状、不織布状、フェルト状、紙状、フィルム状などあげられるが、防護衣着用時の運動作業性、身体へのフィット性、柔軟性、積層の容易性から織物状又は編物状であることが好ましい。
【0026】
透湿膜層とガス吸着層の積層手段としては、以下の方法が上げられる。第1の方法としては、透湿膜層にシート状または粒状または粉状のガス吸着性物質を接着剤により接着する。第2の方法は、透湿膜層とガス吸着層のいずれかをあらかじめ作製した後、他方をコーティングまたはディッピングする方法があげられる。第3の方法は、接着せずに縫製し、フラシの形状を作ることも可能であり、ガス吸着層の吸着容量を下げないことからも、このフラシの形状にすることが好ましい。
【0027】
上記記載の第1の方法で使用する接着剤としては、ウレタン系、ビニルアルコール系、エステル系、エポキシ系、塩ビ系、オレフィン系など挙げられるが、積層による透湿性の低下を抑制するためには透湿性の接着剤であるウレタン系、ビニルアルコール系、エステル系が好ましい。
【0028】
また使用する接着剤のメルトインデックスとしては、100g/10min以下であることが好ましい。100g/10min以下とすることにより接着の際、ガス吸着性物質の表面を接着剤が被覆する面積が小さくなり積層によるガス吸着性能の低下を抑制することができるからである。より好ましくは80g/10min以下である。
【0029】
本願発明で用いる接着剤は、不織布状であることが好ましい。粒子であれば均一塗布が困難であるため、少量で接着すると、吸着剤を固着できず、また多量に使用すると硬くなり、更には吸着性能低下を招来する。またフィルムであれば通気性が低下するからである。
【0030】
透湿膜層およびガス吸着層の層数は、それぞれ少なくとも1層は必要であるが、柔軟性を高める目的や対象ガスを考慮して、複数枚必要なときなどは、透湿膜層とガス吸着層をそれぞれ必要数選定し重ね合わせて使用することも有効な手段である。
【0031】
透湿膜層とガス吸着層の積層順序としては、ガス吸着層を保護するために、衣服の内側から見てガス吸着層の外側に少なくとも1層の透湿膜層があることが好ましい。また、透湿膜層を複数用いる場合は、ガス吸着層を保護するために、透湿膜層によりガス吸着層を挟み込む構造としてもよい。
【0032】
透湿膜層とガス吸着層からなる積層体の質量としては、400g/m2以下が好ましい。400g/m2を超えると着用者への負荷が大きくなり、体から発散される汗・蒸気を透湿性だけでは処理できなくなるからである。さらに好ましくは300g/m2以下である。
【0033】
また、外部から侵入する液状有機化学物質に対しては、耐液性のある不織布および吸油性の紙等を透湿膜層とガス吸着層の間に挟み込むことは有効な手段となる。
使用する不織布の材質としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等、特に限定されるものではないが、また、これらの素材を抄紙し、紙状で透湿膜層とガス吸着層の間に挟み使用しても良い。
【0034】
図1に示すように透湿膜層とガス吸着層からなる積層材料の最も外側に外層付加層を設けてもよい。外層付加層の目的としては、外部から与えられる機械的な力から選択透過層およびガス吸着層を保護すること、機械的強度を補うことであり、撥水性と撥油性が付与されている織物、編物あるいは不織布などが好ましい。
外層付加層としては、JIS L 1092に記載の6.2スプレー試験を実施した場合の撥水度が4以上、AATCC Test Method 118による撥油度が4級以上である織物、編物、または不織布などが好適に用いることができるが、柔軟性を考慮したものの使用が推奨される。
選択透過層とガス吸着層からなる積層材料と外層付加層とは、あらかじめ接着剤により接着されている形態でもよいし、柔軟性を考慮し、接着せずに重ね合わせた状態で縫製加工し、衣服を作製してもよい。
【0035】
図1に示すように透湿膜層とガス吸着層からなる積層材料の最も内側に内層付加層を設けてもよい。内層付加層としては、織物、編物、不織布、開孔フィルム等の材料があげられるが、透湿性、柔軟性の面から粗い密度で製織あるいは製編された織物あるいは編物が好ましい。内層付加層の目的としては、外部から与えられる機械的な力からガス吸着性物質及び透湿膜層を保護する役割と、防護衣着用者の汗によるべたつき感を抑制する役割である。
【0036】
内層付加層とガス吸着層をあらかじめキルティングにより積層することは、積層によるガス吸着層の性能低下を抑え、より柔軟な積層材料を得るのに有効な手段である。内層付加層とガス吸着層をあらかじめキルティングにより積層した後、透湿膜層を接着剤により積層することにより防護材料を得ることができる。
【0037】
外層付加層および/また内層付加層を付与した積層体の質量としては、500g/m2以下が好ましく、さらに好ましくは450 g/m2以下である。500g/m2を超えると防護衣服の質量が大きくなり熱ストレスの原因となる
【実施例】
【0038】
次に実施例および比較例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。尚、実施例に記載の評価は以下に記す方法による。
【0039】
ガス透過性試験:試験に用いる容器図を図3に示す。内容積350ccの2つのガラスセルで試験品を挟み込み、周囲をパラフィンにより密閉する。この試験容器の上方セルから酢酸3メトキシブチルを20μL、試験品上に滴下する。これを25±2℃に設定した恒温ボックスに入れ、下方セル側のガス濃度を一定時間ごとにサンプリングし、ガスクロマトグラフィにより試験片を透過したガス濃度を測定する。
【0040】
透湿性:JIS L 1099 塩化カルシウム法に準拠した。
【0041】
比表面積:窒素の吸着等温線を求め、これを基にしてBET法により算出する。
【0042】
質量:JIS L 1018 8.4及びJIS L 1096 8.4による。
【0043】
厚さ:JIS L 1018 8.5及びJIS L 1096 8.5による。
【0044】
メルトインデックス:JIS K 7210による。
【0045】
通気性:JIS L 1018 8.33及びJIS L 1096 8.27による。
【0046】
剛軟度:JIS L 1096 8.19による。
【0047】
着用感:ワンピース型の防護衣服を着用し、32℃、70%RHの恒温恒湿室において、10 分間、速度5km/hrでトレッドミル上で歩行した後の心拍数、血圧、皮膚温、直腸温、衣 服内温湿度の測定およびアンケート調査からの総合評価。
【0048】
透湿膜層としてはポリウレタンをナイロン織物へコーティングした防水透湿布帛である東洋紡績(株)製のアクアベントを購入し使用した。使用したナイロン織物は、78デシテックス96フィラメントからなる質量60g/m2の平織物を定法により精錬、染色、撥水処理、乾燥後、コーターを使用し、ウレタン樹脂溶液をコーティングした。これを、20℃の水中に導き、3分間凝固させた後、130℃のオーブンで乾燥し、樹脂層厚50μmの微多孔膜を得た。得られた透湿膜層の厚みは0.22mm、質量110g/m2、透湿度418g/m2・hであった。
【0049】
ガス吸着層として繊維状活性炭編物を以下の方法で作製した。単糸2.2デシテックス20番手のノボラック系フェノール樹脂繊維紡績糸からなる質量200g/m2のフライス編物を410℃の不活性雰囲気中で30分間加熱し、次に870℃まで20分間、不活性雰囲気中で加熱し炭化を進行させ、次に水蒸気を12容量%含有する雰囲気中、870℃の温度で2時間賦活した。得られた編物状の繊維状活性炭の質量は、120g/m2、比表面積1400m2/g、厚さ1.00mm、通気性は水位計1.27cmの圧力差で320cm3/cm2・sであった。
【0050】
外層付加層を以下の方法で作製した。綿糸40番手を使った平織物に、フッ素系撥水・撥油加工を施し、樹脂固形分で0.54wt%付着した。得られた織物は、厚さ0.22mm、質量120g/m2、剛軟度0.56gf・cmで、通気性は水位計1.27cmの圧力差で50cm3/cm2・s、撥水度は5、撥油度は6級であった。
【0051】
内層付加層を以下の方法で作製した。ハーフトリコット機により、ポリエステルフィラメント(33dtex、18フィラメント)を、2-0/1-3の組織で編成後、定法により精練し、更に分散染料により染色した。このようにして得られた編地は、厚さ0.20mm、質量45g/m2、通気性は水位計1.27cmの圧力差で700cm3/cm2・s、撥水度5、撥油度6級であった。
【0052】
(実施例1)
内層付加層とガス吸着層をキルティング加工した後、質量20g/m2、メルトインデックス
60g/10minの通気性不織布状ホットメルト接着剤(呉羽テック(株)製ダイナック)により、透湿膜層とキルティング加工を施した内層付加層とガス吸着層の一体品を図2に示すように接着した。最後に外層付加層をホットメルトタイプのウレタン接着剤を使用し点接着により積層した。得られた防護材料は、質量427g/m2、厚さ1.83mm、透湿度364g/m2・hであった。この防護材料を用いたガス透過性試験結果を表1に示す。また、着用感については表2に示す。
【0053】
参考例1
実施例1においてガス吸着層を除いた防護材料を作製した。得られた防護材料は質量275g/m2、厚さ0.72mm、透湿度403g/m2・hであった。この防護材料を用いたガス透過性試験結果を表1に示す。また、着用感については表2に示す。
【0054】
参考例2
透湿膜層とガス吸着層を、メルトインデックス120g/10minの透湿型ウレタン樹脂により点接着した。質量262g/m2、厚さ1.87mm、透湿度365g/m2・hであった。この防護材料を用いたガス透過性試験結果を表1に示す。また、着用感については表2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
実施例1は、ガス透過抑制能および着用感に優れ好適な防護材料であるのに対し、参考例1はガス防護性が得られず、参考例2については、活性炭の吸着能の低下により微量なガス透過を抑制できない結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の防護材料及び防護衣服は、透湿膜層とガス吸着層を合わせることにより、ガス状有機化学物質を防護できるとともに、さらに高い透湿性を有することで着用感に優れた防護材料に関するものであり、防護衣服、農業用資材、防護テント、メディカル用品などに利用することができ、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の積層体とした防護材料を示す斜視図である。
【図2】本発明の積層体とした防護材料を示す斜視図である。
【図3】ガス透過性試験法に用いる試験容器を示す概略図である。
【符号の説明】
【0060】
1:外層付加層
2:透湿膜層
3:ガス吸着層
4:内層付加層
5:通気性不織布状ホットメルト接着剤
6:キルティング
7:上方セル(150cc)
8:サンプリング口
9:試験液
10:試験品
11:パラフィンシーリング
12:下方セル(150cc)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンを含む透湿膜層およびガス吸着性物質を含む層(ガス吸着層)をそれぞれ少なくとも1層以上有する防護材料であって、透湿膜層と他の層との積層がメルトインデックス100g/10min以下の接着剤により積層されている防護材料。
【請求項2】
透湿膜層の透湿度が60g/m2・h以上850g/m2・h以下であることを特徴とする請求項1に記載の防護材料。
【請求項3】
透湿膜層の質量が200g/m2以下であることを特徴とする請求項1又は2いずれかに記載の防護材料。
【請求項4】
ガス吸着層の質量が200g/m2以下であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の防護材料。
【請求項5】
ガス吸着層がBET比表面積700m2/g以上3000m2/g以下の活性炭であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の防護材料。
【請求項6】
ガス吸着層が繊維状活性炭であることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の防護材料。
【請求項7】
外層付加層および/また内層付加層を付与したことを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の防護材料。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれかに記載の防護材料を用いることを特徴とする防護衣服。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−181(P2007−181A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180624(P2005−180624)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】