説明

防護用貼り付け布帛、防護用基材、および防護用品

【課題】
防護用貼り付け布帛に最適な耐切創性、耐摩耗性、保温性を有した布帛であって、防護用基材および防護用品を提供する。
【解決手段】
本発明の防護用貼り付け布帛は、防護用基材の表面に貼り付ける布帛であって、引張強度が5cN/dtex以上30cN/dtex以下で、かつ、伸縮復元率が5%以上50%以下の高強度合成繊維製ケン縮糸条を含む編み糸から構成された編地である。
また、防護用基材は、上記編地を発泡体の表面に貼り付けて得られ、防護用品は該防護用基材を縫製して得られるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐切創性と耐摩耗性および保温性に優れた防護用貼り付け布帛、並びにこの布帛を用いてなる防護用基材および防護品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
防護用品において、例えば、スポーツ用に用いられるウエットスーツの一般的な基材構成は、水や外気に触れる外層部と、中層部と、肌に接する内層部とがこの順に積層された三層構造になっている。そして、中層部にはゴム発泡体を配置させている。また、外層部にはファッション性、ソフトな手触り風合い、適度な伸縮性、滑り易さなどから、内層部と同様にポリアミドケン縮糸の編地が貼り合わされている。
【0003】
一方、漁業などに使用される作業着では、外層部のポリアミドケン縮糸の編地を貼る代わりに、耐摩耗性を向上させるための樹脂コーティングが数回塗布されている。これは、水中の岩石あるいは船体との摩擦からゴム発泡体を保護するために施されているものである。
【0004】
しかしながら、長期間着用することにより、外層部の樹脂コーティングが剥がれたり、摩耗や切創傷が進み、ゴム発泡体に亀裂や穴が空いたりすることや、種々の原因で多くの損傷傷を受けたりすることがある。このような状況が長く続くと突然衝撃的な接触を受けると中層部のゴム発泡体が破れたりあるいは噛み砕きの強い魚類や甲殻類により破壊されることがあり、水中作業着としての保護機能は失われ大事故につながりかねない。よって、水中作業着では、耐摩耗性の他に、耐切創性などの耐久性が求められる。また、水中や船上あるいは冬期や北洋海域での漁が主体となる場合、高い保温性が求められる。
【0005】
そこでこれらの耐久性と保温性を改善する技術として、特許文献1には、高機能繊維のケン縮糸を裏面または中層に用いた防護ニットが提案されている。この技術は、高機能性繊維をケン縮加工したものであるが、具体的な引張強度や保温性の提案はしていない。
【0006】
また、特許文献2には、積層布帛の引張強度と目付けを規定した耐切創性のある衣類が提案されている。しかし、この衣類は、耐切創性に優れた衣類であるため、水中作業着等に使用するには耐摩耗性の問題がある。
【0007】
また、特許文献3には、芯糸の弾性糸に鞘糸のアラミド繊維を巻きつけたカバーリング糸を用いて成る編物が提案されている。この編物は、高い伸縮性を有し、耐切創性も高い利点を有するが、やはり、耐摩耗性の問題がある。
【特許文献1】特開2005−146484号公報(請求項1、3、段落0037、0038、0041)
【特許文献2】特開2005−42240号公報(請求項1、2、段落0006)
【特許文献3】特開2003−193345号公報(請求項3、段落0038)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解消し、漁業、海底油田作業、マリンスポーツに適したウエットスーツ、動物園、水族館などの飼育・調教・清掃に適した作業服、球技用のスポーツウェアやサポーター、武道格闘技に適したプロテクターに適した耐切創性と耐摩耗性および保温性を有するとともに、発泡体に貼り合わせるのに最適な防護用貼り付け布帛、防護用基材および防護用品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、係る課題を解決するために次の手段を採用するものである。
【0010】
すなわち、防護用貼り付け布帛であって、引張強度が5.0cN/dtex以上30cN/dtex以下、伸縮復元率が5%以上50%以下の高強度合成繊維ケン縮糸条を含んで成る編地で構成されていることを特徴とする防護用貼り付け布帛である。
【0011】
また本発明は、本発明の防護用貼り付け布帛を貼り付けて成ることを特徴とする防護用基材である
また本発明は、本発明の防護用貼り付け布帛を少なくとも一部に用いて構成されてなることを特徴とする防護用品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防護用貼り付け布帛によれば、耐切創性と耐摩耗性および保温性に優れた防護用貼り付け布帛、この布帛を用いてなる防護用基材および防護用品を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の防護用貼り付け布帛は、高強度合成繊維ケン縮糸条の引張強度が5cN/dtex以上30cN/dtex以下であることが必要である。引張強度が5cN/dtex未満では、編地の耐摩耗性や耐切創性などの耐久性が低くなるので、防護用に貼り付けた布帛の耐久性も低下しやすい。
【0014】
また、引張強度が高くなり30cN/dtexを超えると、布帛の耐久性としては高くなるが、一方で剛直性も高くなるので貼り付け布帛の風合いは硬化し、着用感は窮屈になり防護用貼り付け布帛としては不適である。
【0015】
高強度合成繊維ケン縮糸の引張強度とは引張試験における切断最大強力をいう。
【0016】
また、本発明の防護用貼り付け布帛は、該高強度合成繊維ケン縮糸条の伸縮復元率が5%以上50%以下であることが必要である。5%未満では貼り付け布帛の伸縮性が低くなると共に風合いも硬くなり、耐切創性も低下しやすくなるからである。一方、50%を超えると伸縮性には優れるが、布帛の貼り合わせ作業や伸縮調整差が生じやすくなるので好ましくない。例えば、発泡体に貼り付ける場合、貼り付ける発泡体自体の伸びも50%以下であることから、これ以上の高い伸縮復元率は必ずしも必要でない。
【0017】
該高強度合成繊維ケン縮糸条の製造方法としては、仮撚加工方法や、生糸を筒編み熱セット後に解編したニットデニット方法、ブレードなどで擦過させた擦過加工方法、押し込み加工方法であってもよいが、仮撚加工方法が品質や製造コストから最も適している。
【0018】
ケン縮糸形態としては、単糸条、双糸条のいずれであってもよいが、コスト的には前者が好ましく品質的には後者が好ましいので、目的により適宜使い分けるのがよい。
【0019】
その他の該高強度合成繊維ケン縮糸条の製造方法としては、サイドバイサイドの複合断面形状による収縮差混繊糸や前記したように高強度合成繊維ケン縮糸がポリプロピレンテレフタレート繊維などの弾性繊維を用いてもよい。その他、高伸縮性と高回復性が特に要求される場合は、弾性糸に該高強度合成繊維ケン縮糸条でカバーリング加工を施した、カバーリング糸を使うことも可能である。該貼り付け布帛は、該高強度合成繊維ケン縮糸条を含んで成る編地で構成されることが好ましく、ソフトな風合いや大きな伸縮性を有し、脱着性が容易で着用時の活動性も優れ、また、編地構造内の空気層によって保温性を上げることができる。
【0020】
該高強度合成繊維ケン縮糸条とは例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリプロピレンテレフタレート繊維などのポリエステル系繊維や、ポリアミド繊維や、アラミド繊維、ポリオレフィン系繊維などの高機能繊維であって、上記ケン縮糸条の引張強度や伸縮復元率を達成する上で好ましく採用することができる。なかでも染色性、耐光性の優れた特性を得る上では、ポリエチレンテレフタレート繊維が好ましく、また、ポリエチレンテレフタレート繊維は疎水性であり、公定水分率が低く、水分による蒸発潜熱を奪われにくいため、保温性に優れるのでより好ましい。
【0021】
高強度合成繊維ケン縮糸を構成する単繊維単繊維繊度としては、0.1dtex以上、10dtex以下が好ましく、より好ましくは2dtex以上4dtex以下である。単繊維繊度が太くなるほど、耐摩耗性や耐切創性が高くなり染色性も優れる。0.1dtex未満では細すぎるので、耐摩耗性や耐切創性が低くなり好ましくない。また、10dtexを超えると太過ぎるので風合いが硬くなり、防護用品の着用感は窮屈なものとなるので好ましくない。
【0022】
高強度合成繊維ケン縮糸の総繊度としては、防護用貼り付け布帛に鑑みて50dtex以上300dtex以下が適している。50dtex未満では地薄になり耐久性が低く、300dtexを超えると地厚になることから、貼合わせ用布帛としては重くなるため、活動的でなく好ましくない。このような観点から言うと、より好ましい総繊度は100dtex以上、250dtex以下である。
【0023】
一方、引張強度の大きさからすれば、パラ系アラミド繊維やポリエチレン繊維が好ましく使用することができ、優れた耐切創性を有するのである。
【0024】
本発明の防護用貼り付け布帛において高機能性繊維は、少なくとも3%以上の混用率が好ましく、より好ましくは5%以上であり、3%以下は耐久性を維持することが困難であり好ましくない。一方、高強度繊維糸条は前記のように高価であることから、実用的には50%以下とする布帛設計が好ましい。
【0025】
編地は多層構造であるのが好ましい。多層構造となるリバーシブル組織やサンドイッチ組織に構成すると、異なる糸条を適切に組み合わせることで、耐摩耗性や風合い、色・柄等、多くの機能をもった布帛を設計することができるためである。
【0026】
なかでも、高強度合成繊維ケン縮糸条が配されて成る層と、合成繊維ケン縮糸条が配されて成る層とから構成された2層構造組織が特に好ましい。例えば、表糸をポリエチレンテレフタレート繊維に、内糸は少なくともアラミド繊維あるいはポリエチレン繊維を用いることにより、表面では耐摩耗性や風合い、色・柄を、裏面では耐切創性などの耐久性に優れた布帛構造を設計することができる。
【0027】
多層構造組織の製造方法としては、丸編が一般的で有るが、経編であってよい。
【0028】
本発明の防護用貼り付け布帛の染色仕上げ加工について、外層は合成繊維ケン縮糸条を配しているので、所望の色・柄および伸縮性あるいは風合いに仕上げることが可能である。また、ファッション性が必要であればプリント加工を施すことも可能である。
【0029】
また、合成繊維を布帛に採用することにより、従来の発泡ゴムやラジアルコートでは得られない様々な所望の色・柄を提供することが可能となる。
【0030】
本発明の防護用貼り付け布帛の、後加工について、撥水処理、抗菌処理、防カビ処理、難燃処理、防汚処理などが施されているのでさらに高品質な布帛となる。
【0031】
撥水処理を施すことにより、布帛の含水性を押さえ該布帛の水分蒸発を少なくするので、蒸発潜熱が奪われることがなく保温性を保つことが出来る。特にフッ素系樹脂による撥水処理では、蒸発潜熱を大きく押さえることができるのでより好ましい。なお、これらの後加工は編地の表面のみの片面加工でも撥水機能を十分発揮することができる。
【0032】
本発明の防護用基材は、上記のような本発明の防護用貼り付け布帛を貼り付けて成る。
【0033】
貼り付ける対象としては、発泡体や不織布などがあり、なかでも発泡体が好ましい。発泡体に貼り付けることによって、保温性や耐衝撃性の機能を付与することができるためである。発泡体としては、ネオプレンゴム、ポリエチレン、ポリスチレンなどの樹脂からなるものが適している。また、発泡体単体以外に、防護用基材の内層側にさらに、ポリアミドケン縮糸のダブルジャージを積層させてなるものも好ましい。肌に接する内層部にかかる編み地を配することにより、柔らかな肌触り、水分保持による保温性とヌメリ感による滑り易さを得ることが出来る。発泡体への貼り付け方法としては、例えば、ドット式、ライン式、全面式があるが、通常は後者の全面塗布式が行われ、合成ゴム系接着剤G−17(コニシ株式会社製)、変成シリコーン樹脂系接着剤AX−041(セメダイン株式会社製)などを用いることができる。
【0034】
貼り付け面としては、高強度合成繊維ケン縮糸条が配されて成る層側を貼り付ける対象に貼り付けることが好ましい。上記形態とすることによって、防護用基材としたときの耐摩耗性、耐候性、染色性を向上させることができるためである。
【0035】
貼り付ける部分としては、発泡体表面の全面あるいは一部分であるが、その他必要箇所のみであっても良い。
【0036】
本発明による防護用貼り付け布帛、防護用基材は、防護用品に好ましく用いることができる。なかでも防護用貼り付け布帛や防護用基材を防護用品の少なくとも一部に用いて構成されるが好ましい。肘、膝、尻等、摩耗しやすい部分に使用することによって、軽量性と、低コスト性に優れた防護用品の設計が可能になるためである。
【0037】
次に、本発明に係る防護用品について説明する。
【0038】
本発明の防護用品は、上記防護用貼り付け布帛をスポーツ用または水中作業着用に縫製したり、接着したりして製造することが出来る。また、従来の防護用製品の外側に本発明品の貼り付け布帛を部分的に貼り付け、肘、膝、肩、足首などに相当する部位に部分的に縫製したり接着したりした、従来の防護製品を部分的に補強したものであってもよい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例と比較例を説明する。
【0040】
なお、実施例と比較例を行うに際して、編み糸、布帛等の各特性の測定方法は、次のものを用いた。
【0041】
(1)繊度(dtex)、伸縮復元率(%)
JIS L1013(1999年版)に準拠した。
【0042】
(2)引張強度、伸度
JIS L1013:1999 8.5.1に拠って測定した。
試料に0.03cN/dtexの初荷重をかけた状態で、引張試験機(インストロンジャパンカンパニィリミテッド MODEL5500R型)のつかみにつかみ間隔20cm、緩み0mmで取り付け、引張速度20cm/分の定速伸長にて試験を行った。
次の式によって引張強度及び伸度を算出した。試験回数は10回とし、その平均値を算出した。
=SD/F
ここに、T:引張強度
SD:切断時の強さ
:試料の正量繊度
伸度(%)=[(E2−E1)/(L+E1)]×100
ここに、E1:緩み(mm)(=0mm)
E2:切断時の伸び(mm)
L:つかみ間隔(mm)。
【0043】
(3)目付(g/m
JIS L1096(1999年版)に準拠した。
【0044】
(4)衝撃吸収エネルギー(×10−2 ジュール)
剃刀(フェザー安全剃刀株式会社製、刃物(品名:No99483))を振り子棒の先に取り付け、質量w、長さLの振り子棒を垂直位置から引き上げて垂直位置に対し角度を30°(θ)の位置に固定した。振り子棒が角度30°から振り抜け通過する最下部の位置に編地サンプルを固定した。振り子を30°の位置から解放し、刃先がサンプルを切断・通過させた。切断・通過後に振り子棒が振り上がった最大角度θを読みとり、下記式にて衝撃吸収エネルギーJを算出した。衝撃吸収エネルギーは大きいほど耐切創性に優れ、本パラメータにより瞬間的に切り裂くような動的切創性を評価することが出来る。
J(×10−2 ジュール )=WgL(COSθ−COSθ
ここで、W=526g、
L=12.9cm
g:重力加速度(9.80665m/s)。
【0045】
(5)切創抵抗値(N)
ISO 13997法に準拠した。
本パラメータにより、緩やかに切り裂くような静的切創性を評価することが出来る。
【0046】
(6)シーファー摩耗(個/2cm)
シーファー摩耗試験機(島津製作所製)を用い、サンプルを70φmmの円状に切断し、ナイロン製ブラシに4.4Nの圧力を加え、60rpmの回転数にて30回回転させた後のサンプル表面の毛羽立ち数を測定したものである。サンプルを折り曲げ、表面に突出した切断単繊維フィラメント本数を測定し、2cm当たりに換算したものであり、タテ方向とヨコ方向の合計平均本数の1/2で算出した。耐摩耗性を評価することが出来る。
【0047】
(7)表面白化度合い(シーファー磨耗法)
シーファー磨耗した試験片の表面白化状態を官能評価する。磨耗前に比べて、全く変化なしを○、わずかに確認できるを△、確認できるを×とし判定した。
【0048】
(8)破裂強さ(ミューレン形法)
JIS L1018(1999年版)に準拠し行った。
本パラメータにより、肘,膝、尻などの繰り返し回数や屈曲度合いが大きくなる部位の破裂・疲労の耐久性を評価することが出来る。
【0049】
(9)剥離強さ(N)
JIS L1089(1999年版)を参考に、ヨコ方向5cm×タテ方向25cmの試験片を3枚採取し、両接着面をはがし、つかみ間の距離を10cmとしてクランプにはがした面を取り付け引張り速度10cm/分にて層間の接着面を剥離させ、剥離最大応力の平均値を算出する。
【0050】
(10)はっ水度(スプレー試験)
JIS L1092(1998年版)に準拠した。
【0051】
(11)保温性
サーモラボII型試験機(カトーテック製)を用い、KES−F7にて試料サイズ20cm×20cm、n=5、室温20℃、湿度65%の測定条件に準拠した。
【0052】
(12)総合判定
次の判断基準により、4段階に判定した。
◎:比較品より優れている。
○:比較品と同等レベルである。
△:比較品よりやや劣る。
×:比較品より劣る。
【0053】
(13)粘度
試料0.8gを採取し、溶媒としてオルソ・クロル・フェノールを用い100℃下で溶解させ、2〜3分冷却させ、自動粘度計で測定した。
【0054】
[実施例1]
原糸粘度が0.690、繊度が84dtex、単繊維フィラメント数が24本、引張強度が7.7cN/dtexの高強力ポリエチレンテレフタレート繊維糸条(“テトロン”東レ製)を用いて仮撚加工温度180℃、仮撚数3200T/m、スピンドル回転数40×10rpm、仮撚加工張力10gの仮撚加工を施し、引張強度が6.7cN/dtex、伸縮復元率31%の高強度ポリエチレンテレフタレート(“テトロン” 東レ製)仮撚加工糸を得た。
【0055】
該仮撚加工糸を双糸として100%用い、22ゲージ(釜径33インチ)にてダブルジャージに編成し、幅130cm、目付447g/mの編地を得た。
【0056】
この編地を分散染料の黒色にて133℃の高温染色加工を行い乾熱180℃にて仕上げ加工後、さらにシリコーン系撥水剤にて表面に片面撥水処理を施し防護用貼り付け布帛を製造した。
【0057】
そして、この布帛に対して、前述の方法により諸特性を測定した。表1に、耐切創性、保温性、耐摩耗性その他の得られた一般特性を示す。耐摩耗性、耐切創性および保温性にすぐれた防護用貼り付け布帛であった。
【0058】
[実施例2]
実施例1と同様の繊度が84dtex、単繊維フィラメント数24本、引張強度が6.7cN/dtex、伸縮復元率31%のポリエチレンテレフタレート(“テトロン” 東レ製(登録商標))仮撚加工糸からなる双糸を得た。
【0059】
原糸の引張強度が21.2cN/dtex、繊度が220dtex、単繊維フィラメント数が134本のパラ系アラミド繊維の“ケブラー”(東レ・デュポン株式会社製(登録商標))に、仮撚温度390℃、仮撚数1900t/m、仮撚張力40gの仮撚加工を施し、引張強度が10.9cN/dtex、伸縮復元率7.2%の高強度ケン縮加工糸を得た。
【0060】
両ケン縮加工糸を用いて、編地の全重量に対し前者のポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸が94重量%、後者のパラ系アラミド繊維の高強度ケン縮加工糸が6重量%の交編比率にて22ゲージ(釜径33インチ)のダブルジャージに編成した。
【0061】
編成組織は染色性と耐光堅牢性にすぐれたポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸を外層部に、強度特性の高いパラ系アラミド繊維の高強度ケン縮加工糸を内層部に配列したリバーシブル組織にて編成し、幅128cm、目付455g/mの編地を得た。
【0062】
この編地を133℃にて分散染料の黒色に染色仕上げ加工を行い、さらにシリコーン系撥水剤にて外層部に片面撥水加工を施し防護用貼り付け布帛を製造した。
【0063】
得られた布帛の耐切創性、保温性、耐摩耗性その他の一般特性を表1に示す。布帛は耐摩耗性、耐切創性および保温性に優れたものであった。
【0064】
[実施例3]
ポリアミド繊維糸条として繊度が78dtex、単繊維フィラメント数が24本から成る“アミラン”(東レ製ナイロン6)原糸を用い、該原糸に仮撚加工温度180℃、仮撚数3400T/m、スピンドル回転数40×10rpm、仮撚加工張力8gの仮撚加工を施し仮撚加工糸を得た。
【0065】
該仮撚加工糸を用いて編地を製造し、該編地をネオプレンゴム発泡体の内側に接着させた。
【0066】
接着させた該ゴム発泡体の外側に実施例2で得られた貼り付け布帛をポリウレタン系樹脂のドット接着型により貼り付け3層構造の防護用基材を製造した。
【0067】
得られた防護用基材は、水中および海中における半年間浸漬処理した後の剥離耐久試験は問題なく、さらに耐切創性、耐摩耗性および保温性に優れたものであった。表1に評価結果をまとめて示す。
また、剥離強さの測定を試みたが、層間の接着性が優れているのでゴム発泡体と布帛は剥離できなかった。
【0068】
[実施例4]
実施例3で得られた防護用基材を用いて、防護用品の一例として漁業用ウエットスーツを縫製した。その結果、耐切創性、耐摩耗性および保温性にすぐれた漁業用ウエットスーツが得られた。表1に評価結果を示す。
【0069】
[比較例1]
原糸粘度が0.635、引張強度が5.89cN/dtexの繊度が84dtex、単繊維フィラメント数が24本のポリエチレンテレフタレート繊維糸条を用いて、仮撚加工温度180℃、仮撚数3200T/m、スピンドル回転数40×10rpm、仮撚加工張力10gの仮撚加工を施し、引張強度が4.5cN/dtex、伸縮復元率が38%のポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸を得た。
【0070】
該仮撚加工糸の双糸を用いて、22ゲージ(釜径33インチ)のダブルジャージに編成し、幅133cm、目付451g/mの編地を得た。
【0071】
この編地を133℃にて分散染料の黒色に染色仕上げ加工を行い、さらにシリコーン系撥水剤にて表地に片面撥水加工を施し貼り付け用布帛を製造した。
【0072】
得られた布帛の耐切創性、耐摩耗性、および保温性その他の一般特性を表2に示す。切創抵抗値、衝撃吸収エネルギー、シーファー磨耗、表面白化度合い、破裂強度は、実施例1で得られた防護用貼り付け布帛の特性に劣るものであった。
【0073】
[比較例2]
実施例3で得られたものと同様のポリアミド仮撚加工糸から成る編地をネオプレンゴム発泡体の内側に接着させ、該発泡体の外側に、貼り付け用布帛の代わりにラジアルコートを4回塗布した防護用基材製造した。
【0074】
得られた防護用基材の耐切創性、保温性その他の一般特性を表2に示す。耐切創性、破裂強度および保温性は実施例3に比べて極めて劣るものであった。
【0075】
[比較例3]
原糸粘度が0.690、引張強度が7.7cN/dtexの高強力ポリエチレンテレフタレート繊維糸条の繊度が84dtex、フィラメント本数が24本数を用いて、該原糸に仮撚加工温度130℃、仮撚数1500T/m、スピンドル回転数30×10rpm、仮撚加工張力10gの仮撚加工を施し、引張強度が7.5cN/dtex、伸縮復元率2.5%の高強度ポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸を得た。しかし、伸縮復元率は3%以下の低いものであった。
該仮撚加工糸の双糸を用いて、22ゲージ(釜径33インチ)のダブルジャージに編成し、幅131cm、目付450g/mの編地を得た。
【0076】
該編地を133℃にて分散染料の黒色に染色仕上げ加工を行い、さらにシリコーン系撥水剤にて外層部に片面撥水加工を施し防護用貼り付け布帛を製造した。
【0077】
得られた該布帛の耐切創性、保温性、耐摩耗性およびその他の一般特性を表2に示す。伸縮復元率が低いので、特に耐切創性が劣るものであった。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
上記表1と表2の結果より、次のことが言える。
すなわち、実施例1の防護用貼り付け布帛は、表糸100%使いの編地から成る布帛であるが、比較例1に比べてケン縮糸の強度が高いので、耐切創性および耐摩耗特性が優れている。また、比較例3に比べて伸縮復元率が高いのでさらに耐切創性が優れ、表面品位も高い。
【0081】
実施例2は、実施例1の裏糸にアラミド繊維のケン縮糸を交編して得た2層構造組織のリバーシブル布帛であるが、衝撃吸収エネルギーが高く動的な耐切創性、耐摩耗性が優れた防護用貼り付け布帛である。
【0082】
実施例3は、実施例2の防護用貼り付け布帛を、ポリアミド加工糸のジャージーとネオプレンゴム発泡体の接着体の発泡体側に貼り付けた防護用基材であるが、比較例2のラジアルコート基材に比べて、破裂強度および保温性が極めて高い。
【0083】
実施例4は、実施例3の防護用基材を用いた防護用品としてウエットスーツに縫製したものであるが、比較例2に比べて特に破裂強さが極めて高い。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、防護用品として漁業用のウエットスーツの他、海底油田作業用、海上自衛隊・警察・警備艇の作業服、動物園・水族館などの飼育・調教・清掃作業着、海底探査用・潜水用作業着に利用することが出来る。
【0085】
スポーツウェア用では部分補強あるいはプロテクターとして、マリーンスポーツウェアではボート、沢下り、シーカヤック、カヌーなどの部分補強に適用できる。
【0086】
その他、球技用スポーツではサポーター、武道・格闘技などのプロテクター、風合いのソフトさを生かし、女子用・子供用の一般スポーツのプロテクターなどに用いることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防護用貼り付け布帛であって、引張強度が5.0cN/dtex以上30cN/dtex以下、伸縮復元率が5%以上50%以下の高強度合成繊維ケン縮糸条を含んで成る編地で構成されていることを特徴とする防護用貼り付け布帛。
【請求項2】
前記高強度合成繊維ケン縮糸条がポリエチレンテレフタレートまたはパラ系アラミド繊維を含んで成る、請求項1記載の防護用貼り付け布帛。
【請求項3】
前記編地が、多層構造組織である請求項1または2記載の防護用貼り付け布帛。
【請求項4】
前記編地が高強度合成繊維ケン縮糸条が配されて成る層と合成繊維ケン縮糸条が配されて成る層とから構成された2層構造組織である、3記載の防護用貼り付け布帛。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の防護用貼り付け布帛を貼り付けて成ることを特徴とする防護用基材。
【請求項6】
貼り付ける対象が発泡体である、請求項5記載の防護用基材。
【請求項7】
前記編地が高強度合成繊維ケン縮糸条が配されて成る層と合成繊維ケン縮糸条が配されて成る層とから構成された2層構造組織であり、前記高強度合繊繊維ケン縮糸条が配されて成る層側を貼り付ける対象に向けて貼り付けてなる、請求項5または6記載の防護用基材。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか記載の防護用貼り付け布帛を少なくとも一部に用いて構成されてなることを特徴とする防護用品。

【公開番号】特開2008−19531(P2008−19531A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192748(P2006−192748)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】