説明

防護衣類用の積層構造体および防護衣類

【課題】 有害ガスの吸着性能、有害な微生物の遮蔽性能に優れ、しかも空気透過性および水蒸気透過性に優れ、活性炭の脱落防止性能に優れ、さらに取り扱い性、柔軟性、軽量性などにも優れる防護衣類用の材料および当該材料からなる防護衣類の提供。
【解決手段】 外層、中間層及び内層が外層/中間層/内層の順で積層した防護衣類用の積層構造体であって、外層が撥水・撥油加工を施した布帛から構成され、中間層が比表面積600〜5000m2/gの活性炭を含み、平均繊維径10〜1000nmのナノ繊維よりなる通気度0.1cc/cm2/sec以上のナノ繊維層によって前記活性炭を保護してなる活性炭含有複合層であり、内層が布帛から構成される防護衣類用の積層構造体、及び当該積層構造体よりなる防護衣類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防護衣類用の積層構造体およびそれからなる防護衣類に関する。より詳細には、本発明は、外層と内層との間にナノ繊維層によって活性炭層が保護された中間層を有し、有害な化学物質の防護性能および有害な微生物に対する遮蔽性能に優れ、空気透過性および水蒸気透過性に優れ、しかも活性炭の脱落がなく、更に取り扱い性、加工性、着用性、軽量性、柔軟性などの特性に優れる防護衣類用の積層構造体および当該積層構造体よりなる防護衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばサリンやマスタードガスなどのような有害な化学物質や有害な微生物がテロや紛争で用いられる危険性が高まっており、それに伴って有害な化学物質や微生物から人体を保護することのできる防護衣類の開発が急務になっている。また、テロや紛争に限らず、細菌やウイルスなどの有害微生物によって引き起こされる各種の伝染病から人体を保護する防護衣類、有害な化学物質の取り扱い業務に関与する人々を有害な化学物質から保護する防護衣類などの必要性も高まっている。
【0003】
有害な化学物質や微生物などから人体を保護する防護衣類としては、有害な化学物質や微生物を通さないゴム層を有する材料(例えばゴム引き布)から形成した防護衣類が知られている。しかしながら、ゴム層を有する材料は、有害な化学物質や微生物を通さないが同時に空気や水蒸気も全く通さないため、当該材料からなる衣服を着用して苛酷な条件下で作業を行うと、人体から発散した熱、水蒸気、炭酸ガスなどが衣服中に蓄積して外部に放出されず、着用感に著しく劣り、甚だしい場合には熱ストレス、熱中症などによる重篤な健康被害を引き起こす危険がある。
【0004】
上記の点から、有害な化学物質や微生物を遮蔽することができ、その一方で空気や水蒸気を透過させることのできる防護衣類または防護衣類用材料が従来から提案されている。
そのような従来技術としては、(1)液体不透過性層と、有害ガスを吸収、吸着または無毒化する固体粒子を保持した第二の層を有する保護材料(特許文献1を参照)、(2)活性炭繊維製布帛層とアラミド繊維製布帛層とを積層接着した防護服用の積層織物(特許文献2を参照)、(3)撥水・撥油性のカットパイル布帛よりなる液状有毒化学物質防護層、繊維状活性炭布帛よりなるガス状有毒化学物質吸着層および吸着材保護層が積層した積層構造物からなる防護衣用材(特許文献3を参照)、(4)ガス状有機化学物質に対して透過抑制能を有し湿分を透過する選択透過層と繊維状活性炭などからなるガス吸着層をホットメルト接着剤で接着すると共に選択透過層の非接着面側とガス吸着層の被接着面側に更に保護層を積層した防護材料(特許文献4を参照)、(5)シート状の第1キャリア層とシート状の第2キャリア層の間に活性炭繊維布帛よりなる吸着層を介在させ、前記吸着層を第1キャリア層と第2キャリア層に点接着によって接着積層した吸着フィルタ材料(特許文献5を参照)が知られている。
【0005】
しかしながら、上記した(1)〜(3)の従来の保護材料または防護材料は、有害な微生物の遮蔽性能が十分であるとはいえず、人体を有害な微生物から十分に保護することが困難である。しかも上記(1)の保護材料は、有害ガスの吸収、吸着または無毒化用の固体粒子が保護材料から脱落し易く、また上記(2)の積層織物は、液状化学物質に対する防護機能が不十分で、その上有害な微生物の遮蔽性能が十分でない。
また、上記(4)および(5)の従来の防護材料は、通気性や水蒸気透過性が不足していて、当該防護材料から製造した衣服を着用したときの着用性が劣り、しかも熱ストレスや熱中症などを発症する恐れがある。
【0006】
【特許文献1】特開平4−255342号公報
【特許文献2】特開平2−190328号公報
【特許文献3】特開平8−308945号公報
【特許文献4】特開2005−271222号公報
【特許文献5】特開2005−324025号公報
【特許文献6】特公平3−79467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、有害ガスの吸着性に優れていて、有害ガスから人体などを安全に防護することができ、更に有害な微生物の遮蔽性に優れていて人体などを有害な微生物から安全に防護することができ、その上液状化学物質に対する防護性能にも優れ、さらに空気および水蒸気の透過性に優れていて着用感に優れ且つ熱ストレスや熱中症などを引き起こすことがなく、しかも有害ガスの吸収、吸着のために用いられる活性炭の脱落のない防護衣類用の材料およびそれからなる防護衣類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが前記した目的を達成するために鋭意検討した結果、上記(1)〜(3)の従来の防護材料(積層材料)では、防護材料の形成に用いられている布帛などの材料では、当該材料中に形成されている空隙のサイズが大きく、そのためにバクテリアなどの有害な微生物の遮蔽能が低いことが判明した。また、上記(1)の防護材料では、有害ガスの吸収、吸着に用いられている固体粒子が布帛中のそのような大きな空隙を通ってしまうことにより脱落し易いことが判明した。さらに、上記(4)および(5)の従来の防護材料では、これらで用いられている選択透過膜やシート状材料の通気性および水蒸気透過性が不十分なために、防護材料の通気性能および水蒸気透過性能が不足していることが判明した。
【0009】
そこで、上記した知見に基づいて本発明者らが更に検討を重ねたところ、撥水・撥油加工を施した布帛を外層として用い、また布帛を内層として用い、前記外層をなす布帛と内層をなす布帛の間に、繊維径の極めて小さなナノ繊維から形成した通気度の高いナノ繊維層によって保護した比表面積の大きな活性炭の層を中間層として存在させると、それにより得られる積層構造体は、有害ガスの吸着性能に優れるだけでなく、有害な微生物の遮蔽性能に優れること、空気および水蒸気の透過性に優れること、しかも液状化学物質に対する防護性に優れ、その上屈曲性、成形加工性にも優れ、更に積層構造体からの活性炭の脱落がないことを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) 外層、中間層および内層が外層/中間層/内層の順で積層した防護衣類用の積層構造体であって;
・外層が撥水・撥油加工を施した布帛から構成され;
・中間層が、比表面積600〜3000m2/gの活性炭を含み、平均繊維径10〜1000nmのナノ繊維よりなる通気度0.1cc/cm2/sec以上のナノ繊維層によって前記活性炭が保護されている活性炭含有複合層であり;
・内層が布帛から構成されている;
ことを特徴とする防護衣類用の積層構造体である。
【0011】
そして、本発明は、
(2) 外層を構成する布帛の撥水度が80以上および撥油度が4以上である前記(1)の防護衣類用の積層構造体;
(3) 外層を構成する布帛が、難燃性で且つ耐熱性の布帛である前記(1)または(2)の防護衣類用の積層構造体:
(4) 中間層におけるナノ繊維層が、有機重合体ナノ繊維よりなる不織シートから構成されている前記(1)〜(3)のいずれかの防護衣類用の積層構造体;および、
(5) 中間層が、ホットメルト接着剤による点接着または線接着によるか或いはホットメルト不織布によって外層を構成する布帛および内層を構成する布帛と接着している前記(1)〜(4)のいずれかの防護衣類用の積層構造体;
である。
さらに、本発明は、
(6) 前記(1)〜(5)のいずれかの積層構造体からなる防護衣類である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防護衣類用の積層構造体は、有害ガスの吸着性能に優れており、そのため本発明の積層構造体からなる防護衣類は、人体などを有害ガスから安全に防護することができる。
また、本発明の防護衣類用の積層構造体は、液状化学物質に対する防護性能にも優れている。
その上、本発明の防護衣類用の積層構造体は、中間層に含まれる活性炭を空隙サイズの小さなナノ繊維層によって保護しているため、積層構造体からの活性炭の脱落がなく耐久性に優れている。
【0013】
本発明の防護衣類用の積層構造体は、中間層に用いているナノ繊維層における空隙のサイズがウイルスなどの有害な微生物を十分に遮蔽できる小さなサイズであるために、有害な微生物の遮蔽性能に優れている。
さらに、本発明の防護衣類用の積層構造体は、軽量で屈曲性があり、しかも空気透過性および水蒸気透過性に優れているため、防護衣類にして着用した際の着用感に優れ、更に熱中症などの熱ストレスによる着用者の健康被害などを生じない。
また、本発明の防護衣類用の積層構造体は、屈曲性があり、成形加工性に優れているため、防護衣類を作製する際の作業性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明は、防護衣類用の積層構造体および当該積層構造体よりなる防護衣類に関するものである。
ここで、本発明における「防護衣類」とは、有害なガス状物質、液状物質、微生物などからの防護を目的として、人および場合により動物(ペット用動物、災害救助犬、盲導犬、警察犬などの動物)が着用する衣類の総称であり、本発明の防護衣類には、衣服、手袋、靴下、帽子、マスク、襟巻き、合羽などが包含され、本発明の防護衣類用の積層構造体は、前記した防護衣類の製造に用いられる積層構造体である。
本発明の防護衣類用の積層構造体および防護衣類によって防護することを目的とする有害なガス状物質の代表例は、炭素原子を1個以上有する分子量が50以上の有害なガス状物質であって、活性炭などのガス吸着物質によって吸着され得るガス状物質である。そのような有害なガス状物質の具体例としては、農薬、殺虫剤、除草剤などに使用される有機リン系化合物、塗料、接着剤、その他の用途で汎用されているトルエン、塩化メチレン、クロロホルムなどの一般的な有機溶媒、塩素ガス、ホスゲン、マスタード、ルイサイト、クロルピクリン、青酸、砒素、V剤(VE、VG、VM、VX)、G剤(タブン、サリン、ソマン)などの軍事用ガス兵器などを挙げることができ、本発明の防護衣類用の積層構造体およびそれからなる防護衣類はこれらの有害なガスの防護に有効に用いることができる。
また、生物学的毒物および有害物としては、ウイルス、バクテリア、細菌、その他の有害微生物、炭疽菌、天然痘、エボラ、ペスト、マールブルクウイルスなどの軍事用生物兵器などを挙げることができ、本発明の防護衣類用の積層構造体およびそれからなる防護衣類は、これらの有害物からの防護に有効に用いることができる。
【0015】
本発明の防護衣類用の積層構造体(以下単に「積層構造体」ということがある)は、布帛よりなる外層、活性炭を含む中間層および布帛よりなる内層が、外層/中間層/内層の順で積層している。
【0016】
外層は、積層構造体から防護衣類を作製したときに、衣類の外側(表面)となる層である。外層は、撥水・撥油加工を施した布帛から構成されていることが必要である。外層が撥水・撥油加工を施した布帛から構成されていることによって、積層構造体に、水、液状の化学物質、油に対する防護機能が付与される。
外層を構成する布帛は、水、液状の化学物質、油に対する防護機能がより高くなる点から、撥水度が80以上、特に85以上であることが好ましく、また撥油度が4以上、特に5以上であることが好ましい。
本明細書における「撥水度」とは、JIS L 1092 5.2 スプレー試験に従って測定される撥水度をいい、また「撥油度」とはAATCC Test Method 118に従って測定される撥油度をいう。
【0017】
外層を構成する布帛(以下「外層布」ということがある)に対する撥水・撥油加工は、撥水および撥油の両性能を兼備する有機フッ素化合物を用いて行うことが好ましい。外層布の撥水・撥油加工に好ましく用いられる有機フッ素化合物系の撥水・撥油剤としては、例えば、ミネソタマイニング社製の「スコーチガード」(登録商標)などを挙げることができる。
外層布の撥水・撥油加工に当たっては、布帛の撥水・撥油加工において従来から採用されている処理方法(例えばスプレー塗布方法、浸漬方法、コーティング方法など)を採用することができる。
【0018】
外層布としては、撥水・撥油加工が施されていて、活性炭含有複合層からなる中間層が有する有害ガスの吸着性能、有害微生物の遮蔽性能、空気および水蒸気の透過性能を阻害せず、且つ積層構造体の補強作用を有する布帛であればいずれでもよく、織布、編布、不織布のいずれであってもよく、そのうちでも織布であることが、強度、均一性などの点から好ましい。
また、外層布を形成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、脂肪族ポリエステル、全部芳香族ポリエステルなどのポリエステルからなるポリエステル繊維、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、アラミド(全芳香族ポリアミド)などのポリアミドからなるポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリプロピレン繊維、エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維などの合成繊維、レーヨン、キュプラ、アセテートなどの半合成繊維、綿、羊毛、麻などの天然繊維、前記繊維の2種以上の併用などのいずれであってもよい。また、外層布は、紡績糸、フィラメント糸、短繊維のいずれから製造されていてもよい。
【0019】
特に、外層布として、難燃性の布帛(特に織布)を用いると、本発明の積層構造体に撥水・撥油性と共に難燃性が付与されて、火災が生じていたり、高温の現場で用いられることの多い防護衣類を製造したときに、着用者のより一層の安全を図ることができる。
外層布として有効な難燃素材としては、火傷防止の点からメルトドリップしないことが重要で、そのため、ビニロンやレーヨン、アクリル繊維やフェノール繊維のような炭化性重合体からなる難燃素材が好ましい。難燃性布帛の具体例としては、難燃性ビニロンと難燃性レーヨンを混紡した紡績糸を用いて製造した織布、難燃性ビニロンとアラミド繊維を混紡した紡績糸を用いて製造した織布などを挙げることができる。
【0020】
活性炭含有複合層からなる中間層が有する有害ガスの吸着性能、有害微生物の遮蔽性能、空気および水蒸気の透過性能などを阻害しないようにするために、外層布の通気度(空気透過度)は、8〜100cc/cm2/secであることが好ましく、10〜80cc/cm2/secであることがより好ましい。また、外層布の透湿度(水蒸気の透過度合)は、5000〜100000g/m2/24hrであることが好ましく、9000〜80000g/m2/24hrであることがより好ましい。
なお、本明細書でいう「通気度」(空気透過度)(外層布、活性炭ナノ繊維層、内層を構成する布帛、積層構造体の通気度)は、JIS L 1096(フラジール法)にしたがって測定した通気度である。
また、本明細書でいう「透湿度」(外層布、活性炭ナノ繊維層、内層を構成する布帛、積層構造体の透湿度)は、JIS L 1099 A−1法にしたがって測定した透湿度である。
【0021】
外層布の目付は、積層構造体の強度、柔軟性、取り扱い性、軽量性、遮蔽性などの点から、100〜500g/m2であることが好ましく、150〜300g/m2であることがより好ましい。
外層布の厚さは、積層構造体の強度、柔軟性、取り扱い性、遮蔽性などの点から、0.1〜1mmであることが好ましく、0.3〜0.8mmであることがより好ましい。
【0022】
本発明の防護衣類用の積層構造体における中間層は、活性炭を含み、当該活性炭をナノ繊維層が保護している活性炭含有複合層からなる。
中間層に用いる活性炭は、その比表面積が600〜3000m2/gの範囲内にあることが有害ガスの吸着性能、取り扱い性などの点から必要であり、比表面積が800〜2800m2/gの範囲内であることが好ましく、1000〜2500m2/gの範囲内であることがより好ましい。
活性炭の比表面積が前記範囲から外れて小さすぎると、積層構造体の有害ガス吸着性能が低下し、一方活性炭の比表面積が大きすぎると、活性炭が脆くなって取り扱い性が不良になる。
ここで、本明細書における活性炭の比表面積は、BET 1点法によって測定した比表面積をいう。
【0023】
中間層に含有させる活性炭としては、前記した比表面積を有する限りはその形態や形状などは特に制限されず、粒状、粉状、繊維状(短繊維状、長繊維状)、それらの混合体などのいずれであってもよい。そのうちでも、繊維状(特に短繊維状)の活性炭が吸着速度の点から好ましく用いられる。活性炭のサイズは特に制限されないが、一般的には、0.1〜3mmのサイズのものが好ましく用いられる。
【0024】
中間層における活性炭の含有量は、中間層の単位面積(1m2)当たりにつき、20〜200g程度、特に40〜150gであることが、有害なガス等の吸着量の点から好ましい。中間層における活性炭の含有量が、前記範囲よりも少ないと、積層構造体の有害ガス吸着性能が低くなり易く、一方前記範囲よりも多いと、積層構造体の柔軟性、成形加工性、軽量性、通気性などが低下し、しかも粉漏れが起こり易くなる。
中間層では、活性炭が均一な厚さで中間層をなす面に存在するようにする。
一般的には、活性炭は、厚さが0.1〜2.5mm、特に0.15〜2mmの活性炭層の形態をなして中間層中に存在していることが、有害ガスの吸着性能、積層構造体の柔軟性や成形加工性などの点から好ましい。
【0025】
中間層をなす活性炭含有複合層におけるナノ繊維層は、平均繊維径が10〜1000nmの範囲内のナノ繊維から形成されていることが必要であり、平均繊維径が20〜900nmのナノ繊維から形成されていることが好ましく、平均繊維径が40〜800nmのナノ繊維から形成されていることがより好ましい。
ナノ繊維層を形成するナノ繊維の平均繊維径が前記範囲から外れて小さすぎると通気性が悪くなり、一方大きすぎると、ナノ繊維層における空隙のサイズが大きくなって積層構造体に有害な微生物の遮蔽性能が付与されなくなり、しかも積層構造体から活性炭が脱落し易くなる。
ここで、本明細書におけるナノ繊維またはナノ繊維以外の繊維の平均繊維径とは、ナノ繊維またはナノ繊維以外の繊維の50本をランダムに採取し、採取した50本のナノ繊維またはナノ繊維以外の繊維のそれぞれについて、その長さ方向の中央部分の太さを走査型電子顕微鏡(例えば日立製作所製の走査型電子顕微鏡「S−510型」など)を用いて測定して、50本の平均値として求められる繊維径をいう。
【0026】
中間層におけるナノ繊維層は、ナノ繊維製のシート状物からなることが好ましく、特にナノ繊維製の不織シートからなることが、ナノ繊維製不織シートの製造の容易性、入手容易性、均一性、通気性などの点から好ましい。
本発明の積層構造体から製造した防護衣類を着用したときの着用感、熱ストレスの防止、遮蔽性などの点から、中間層を構成するナノ繊維層(特にナノ繊維層を構成するナノ繊維製不織シート)の通気度(空気の透過度)は、0.1〜50cc/cm2/secであることが好ましく、0.3〜30cc/cm2/secであることがより好ましい。また、ナノ繊維層(特にナノ繊維層を構成するナノ繊維製不織布シート)の透湿度(水蒸気の透過度合)は、4000〜20000g/m2/24hrであることが好ましく、6000〜18000g/m2/24hrであることがより好ましい。
【0027】
中間層におけるナノ繊維層(特にナノ繊維製不織シート)の目付は、有害微物の遮蔽性能、活性炭の脱落防止、空気および水蒸気透過性能、積層構造体の柔軟性、取り扱い性、軽量性、コストなどの点から、1〜10g/m2であることが好ましく、3〜8g/m2であることがより好ましい。
また、中間層におけるナノ繊維層の厚さは、有害ガスの吸着性能(有害ガスの吸着速度および吸着寿命)、有害微生物の遮蔽性能、空気および水蒸気の透過性能、柔軟性、取り扱い性、軽量性、コストなどの点から、0.01〜0.5mmであることが好ましく、0.05〜0.4mmであることがより好ましい。
【0028】
ナノ繊維層を形成するナノ繊維としては、ナノ繊維の形成容易性、積層構造体の柔軟性、成形加工性、軽量性、均一性、遮蔽性などの点から、繊維形成性の有機重合体よりなるナノ繊維が好ましく用いられる。本発明で用い得るナノ繊維としては、例えば、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、脂肪族ポリエステルなどのポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11などのポリアミド、ジカルボン酸成分の60%以上が芳香族ジカルボン酸である半芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン−ポリオレフィンブロック共重合体、レーヨン、キュプラ、アセテートなどからなるナノ繊維を挙げることができる。ナノ繊維層は、前記したナノ繊維の1種類から形成されていてもよいし、または2種類以上から形成されていてもよい。そのうちでも、中間層におけるナノ繊維層は、ポリウレタンからなるナノ繊維から形成されていることが、高伸度で衣類にしたときの追従性に優れる点から好ましい。
【0029】
中間層をなす活性炭含有複合層におけるナノ繊維層による活性炭の保護形態としては、活性炭を層状にし、その活性炭層の両側(上面と下面)にナノ繊維層を配置した形態が好ましく採用される。
その際に、活性炭層とナノ繊維層とを層間剥離が生じないように接着しておくことが好ましい。活性炭層を上下のナノ繊維層の間に接着固定する方法としては、例えば、活性炭に接着剤を混合し、その混合物を一方のナノ繊維層の表面に塗布した後、その塗布面に他方のナノ繊維層を重ねて接着固定して、ナノ繊維層/活性炭層/ナノ繊維層の順で接着積層した活性炭含有複合層を形成させる方法、ホットメルト不織布をナノ繊維層と活性炭層の間に介在させた状態でカレンダーなどによって熱圧着させて接着する方法などを挙げることができる。
活性炭に混合する接着剤としては、活性炭が有する有害ガスの吸着性能を阻害しないものを使用する必要があり、活性炭の有害ガス吸着性能を阻害しない接着剤としては、例えば、ポリウレタン系またはアクリル酸エステル系重合体エマルジヨンなどを挙げることができる。
また、活性炭に対する接着剤の混合量は、接着剤の種類やナノ繊維層を形成するナノ繊維の種類などに応じて異なり得るが、活性炭が有する有害ガスの吸着性能を阻害しないようにしながら、活性炭層をナノ繊維層に良好に接着させるために、一般的には、活性炭100質量部に対して、接着剤(固形分で)を0.1〜10質量部、更には0.5〜5質量部、特に0.5〜3質量部程度とすることが好ましい。
【0030】
本発明の積層構造体から製造した防護衣類を着用したときの着用感、熱ストレスの防止、遮蔽性などの点から、中間層をなす活性炭含有複合層の(空気の透過度)は、0.1〜50cc/cm2/secであることが好ましく、0.3〜30cc/cm2/secであることがより好ましく、また透湿度(水蒸気の透過度合)は、4000〜20000g/m2/24hrであることが好ましく、5500〜18000g/m2/24hrであることがより好ましい。
中間層をなす活性炭含有複合層の目付は、22〜220g/m2であることが好ましく、40〜150g/m2であることがより好ましい。
また、中間層をなす活性炭含有複合層の厚さは、0.1〜3mmであることが好ましく、0.2〜2mmであることがより好ましい。
【0031】
中間層に用いるナノ繊維、特にナノ繊維製不織シートの製法は特に制限されない。本発明の積層構造体で用いるナノ繊維製不織シートは、例えばいわゆるエレクトロスピニング法によって製造することができる。
具体的には、上記した繊維形成性の有機重合体の溶液を注射針のような細いノズルから高電圧領域にアース面に向けて噴出させて(スプレーして)アース面に有機重合体よりなるナノ繊維を不織シート状に堆積させることによって製造することができる。エレクトロスピニング法による有機重合体ナノ繊維の製造方法は既に知られている(例えば特許文献6を参照)。
エレクトロスピニング法によってナノ繊維を製造するに当たっては、有機重合体溶液の濃度、電圧、有機重合体の重合度、有機重合体溶液の表面張力などを調整することによって、ナノ繊維の繊維径を調整することができる。
【0032】
内層は、積層構造体から防護衣類を作製したときに衣類の裏面(人体側に位置する面)となる層である。内層を構成する布帛(以下「内層布」ということがある)としては、空気および水蒸気を透過させ、更に人体が接触しても人体を傷つけたり、不快な感触を与えず、しかも補強作用、活性炭保護作用を有する布帛であればいずれでもよく、織布、編布、不織布のいずれであってもよく、そのうちでも編布または織布であることが、強度、均一性などの点から好ましい。また、内層布は、立毛布帛(パイル布帛)であっても、または非立毛布帛(パイルを有しない布帛)のいずれであってもよい。内層布として立毛布帛を用いると、風合、吸汗性などの点でメリットがある。
また、内層布を形成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、脂肪族ポリエステルなどのポリエステルからなるポリエステル繊維、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11などのポリアミドからなるポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリプロピレン繊維、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの合成繊維、レーヨン、キュプラ、アセテートなどの半合成繊維、綿、羊毛、麻などの天然繊維、前記繊維の2種以上の併用などのいずれであってもよい。また、内層布は、紡績糸、フィラメント糸、短繊維のいずれから製造されていてもよい。
【0033】
内層布の通気度は、8〜100cc/cm2/secであることが好ましく、10〜80cc/cm2/secであることがより好ましい。また、内層布の透湿度(水蒸気の透過度合)は、5000〜100000g/m2/24hrであることが好ましく、10000〜80000g/m2/24hrであることがより好ましい。
【0034】
内層布の目付は、積層構造体の強度、柔軟性、取り扱い性、軽量性、風合などの点から、30〜300g/m2であることが好ましく、50〜200g/m2であることがより好ましい。
内層布の厚さは、積層構造体の強度、柔軟性、取り扱い性、風合などの点から、0.1〜1mmであることが好ましく、0.2〜0.7mmであることがより好ましい。
【0035】
本発明では、布帛からなる外層の下面と活性炭含有複合層からなる中間層の一方の面(上面)が接着し、活性炭含有複合層からなる中間層のもう一方の面(下面)と内層布の上面が接着して本発明の積層構造体を形成していてもよい。また場合によっては、外層布、活性炭含有複合層よりなる中間層および内層布を重ねた後、縫製によって前記3者を固定して本発明の積層構造体を形成してもよい。そのうちでも、接着剤を用いて外層、中間層および内層を接着積層することが、層間剥離のない丈夫な積層構造体を簡単に製造できるので好ましい。
【0036】
接着剤を用いて接着積層を行う場合は、外層と中間層との接着は、外層と中間層とが剥離することなく強固に接着され且つ活性炭含有複合層からなる中間層が有する有害ガスの吸着能、有害微生物の遮蔽能が阻害されず、外層および中間層が有する空気および水蒸気の透過能が阻害されないような接着方式を採用して行う。また、中間層と内層との接着も、中間層と内層が剥離することなく強固に接着され且つ中間層および内層が有する空気および水蒸気の透過能が阻害されないような接着方式が好ましく採用される。そのような接着方式としては、点接着、線接着、ホットメルト不織布による接着などを挙げることができる。外層と中間層の接着および中間層と内層の接着は、同じ接着剤を用いて同じ接着方式を採用して行ってもよいし、同じ接着剤を用いて別の接着方式を採用して行ってもよいし、異なる接着剤を用いて同じ接着方式又は異なる接着方式を採用して行ってもよい。
【0037】
点接着または線接着を行う際の接着剤としては、ホットメルト接着剤、熱可塑性重合体または熱硬化性重合体を有機溶媒に溶解した溶液型接着剤、熱可塑性重合体または熱硬化重合体を水に分散または溶解させた水性接着剤、反応性モノマー型接着剤などを挙げることができる。
そのうちでも、外層と中間層の接着および中間層と内層の接着は、外層を構成する布帛の材質、内層を構成する布帛の材質などに応じて、ポリエステル系、ポリアミド系、エチレン−酢酸ビニル共重合体系、ポリウレタン系のホットメルト接着剤を用いて点接着方式または線接着方式で行うか、或いはポリエステルホットメルト不織布、ポリアミドホットメルト不織布、ポリウレタンホットメルト不織布などのホットメルト不織布を接着剤として用いて接着することが、活性炭含有複合層からなる中間層の有害ガスの吸着能および有害微生物の遮蔽能が接着剤によって阻害されず、更に外層、中間層および内層の空気および水蒸気の透過能が接着剤によって阻害されず、しかも接着積層後に有機溶剤や水を除去するための乾燥処理などを行う必要がないので好ましい。
【0038】
特に、ホットメルト不織布を用いる場合は、外層布と中間層(活性炭含有複合層)の間にホットメルト不織布を介在させると共に、更に中間層(活性炭含有複合層)と内層布との間にもホットメルト不織布を介在させて、外層布/ホットメルト不織布/中間層(活性炭含有複合層)/ホットメルト不織布/内層布との順で重なった積層物をつくり、それをホットメルト不織布の溶融温度以上の温度で加熱加圧することによって、本発明の積層構造体を一度の接着工程で簡単に製造することができるので望ましい。
【0039】
外層と中間層との接着および/または中間層と内層の接着を点接着または線接着によって行う場合は、接着剤よりなる点の大きさ、線の太さ、単位面積当たりの点または線の数(点または線の密度)などは、接着剤の種類、外層布および内層布の種類などに応じて決めることができる。
また、外層と中間層との接着および/または中間層と内層の接着をホットメルト不織布を用いて行う場合は、得られる積層構造体の空気および水蒸気の透過性、柔軟性、取り扱い性、接着性などの点から、通気度が10〜200cc/cm2/sec、特に15〜150cc/cm2/sec、目付が10〜50g/m2、特に15〜35g/m2、厚さが0.05〜1mm、特に0.1〜0.7mmのホットメルト不織布を用いることが好ましい。
【0040】
外層、中間層および内層をホットメルト接着剤やホットメルト不織布を用いて接着積層する際の条件は、外層および内層を構成する布帛の種類、ホットメルト接着剤やホットメルト不織布の融点、各層の厚さなどに応じて調整することができる。一般的には、ホットメルト接着剤またはホットメルト不織布として、融点が180℃以下、好ましくは100〜160℃程度のものを使用して、ホットメルト接着剤(ホットメルト不織布)の融点以上の温度、好ましくは融点+10℃〜融点+40℃の範囲内の温度で10〜500Paのプレス圧、特に20〜200Paのプレス圧をかけて加熱加圧して接着積層することが好ましい。
【0041】
外層/中間層/内層の順で積層してなる本発明の積層構造体の全体の目付は、積層構造体の強度、柔軟性、取り扱い性、軽量性、通気性などの点から、200〜600g/m2であることが好ましく、300〜500g/m2であることがより好ましい。
本発明の積層構造体の全体の厚さは、積層構造体の強度、柔軟性、取り扱い性、通気性などの点から、0.3〜3mmであることが好ましく、0.6〜2mmであることがより好ましい。
【0042】
上記した本発明の積層構造体を用いて、各種防護衣類、例えば、衣服、手袋、靴下、帽子、マスク、襟巻き、合羽などの防護衣類を作製することができる。本発明の積層構造体を用いての防護衣類の作製方法は特に制限されず、防護衣類の種類、構造、形状、使用形態などに応じて、従来から採用されている防護衣類や通常の衣類の作製方法などを採用して作製することができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例などにより本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
以下の実施例などにおいて、ナノ繊維およびナノ繊維以外の繊維の平均繊維径、活性炭の比表面積、積層構造体の有害ガス吸着性、バクテリアの遮蔽性、空気透過性および水蒸気透過性、積層構造体からの活性炭の脱落防止性能、並びに積層構造体から作製した防護衣類の着用感を次のようにして測定または評価した。
【0044】
(1)ナノ繊維およびナノ繊維以外の繊維の平均繊維径:
ナノ繊維またはナノ繊維以外の繊維よりなる不織シートから50本の繊維をランダムに採取し、採取した50本の繊維のそれぞれについて、その長さ方向の中央部分の太さを走査型電子顕微鏡(日立製作所製の走査型電子顕微鏡「S−510型])を用いて測定し、50本の繊維の平均値を採って繊維の平均繊維径とした。
【0045】
(2)活性炭繊維の比表面積:
活性炭繊維よりなる不織シートから活性炭繊維0.05gを試料として採取し、当該試料を用いてBET 1点法にしたがってユアサアイオニクス(株)製の全自動表面積測定装置「モノソーブ」を使用して、比表面積を測定した。
【0046】
(3)積層構造体の有害ガス吸着性:
以下の実施例または比較例で得られた積層構造体を裁断して、縦×横=5cm×5cmの試験片を採取し、当該試験片を、有害ガス(酢酸3−メトキシブチル)の濃度を0.06mg/ccに予め調整しておいた内容積が350ccの容器の底部に積層構造体の外層を上に向けて配置[積層構造体の内層を容器の底に接触させて配置)して直ちに容器の蓋を閉めて密封し、その状態で60分間放置した後に当該容器内の気体を採取して、採取した気体中の有害ガスの濃度をガスクロマトグラフィーによって測定した。
そして採取した気体中の有害ガスの濃度が、当初の濃度(0.06mg/cc)の5%未満にまで低減していた場合を有害ガスの吸着性が良好(○)として評価し、当初の濃度の5%以上40%未満であった場合を有害ガスの吸着性がやや不良(△)として評価し、当初の濃度の40%以上であった場合を有害ガスの吸着性が不良(×)として評価した。
【0047】
(4)バクテリアの遮蔽性:
JIS L 1912の細菌濾過効率に従って、空気中の細菌が積層構造体を通して濾過される程度を試験した。
具体的には、黄色ブドウ球菌を使用し、総コロニー数が2,200±500個になるようにバクテリア懸濁液をつくり、そのバクテリア懸濁液を2.7〜3.3μmの大きさにエアロゾル化(気体化)し、そのエアロゾルを28.3L/分の速度で、以下の実施例または比較例で得られた積層構造体を裁断して得た試験片(縦×横=15cm×15cm)を通して1分間吸引濾過し、試験片を通過した空気(試験片で濾過された空気)を、トリプトソイ寒天培地を入れたシャーレがセットされたアンダーセンサンプラーに通じさせた後、シャーレを取り出して37±2℃で48時間培養した。
そして、下記の数式(1)から試験片の細菌捕集効率(BFE)(%)を求め、BFEが90%以上の場合をバクテリアの遮蔽性が良好(○)と評価し、BFEが50%以上90%未満である場合をバクテリアの遮蔽性がやや不良(△)と評価し、BFEが50%未満である場合をバクテリアの遮蔽性が不良(×)と評価した。

細菌捕集効率(BFE)(%)={(A−B)/A}×100 (1)
式中、A=コントロール(試験片をセットせずに同じ試験を実施)の総コロニー数
B=試験片をセットしたときの総コロニー数
【0048】
(5)積層構造体の空気透過性:
以下の実施例または比較例で得られた積層構造体を裁断して得た試験片(縦×横=10cm×10cm)を用いて、JIS L 1906(フラジール法)に準じて測定した。
【0049】
(6)積層構造体の水蒸気透過性:
以下の実施例または比較例で得られた積層構造体を裁断して得た試験片(縦×横=10cm×10cm)を用いて、JIS L 1099 A−1法に準じて測定した。
【0050】
(7)積層構造体からの活性炭の脱落防止性能:
以下の実施例または比較例で得られた積層構造体を裁断して得た試験片(縦×横=10cm×10cm)を、試験片(積層構造体)の外層を上にして篩の網目上に載置し、篩を振動数=100回/分、振幅=50cmの条件下で20分間水平方向に振動させた後、篩から試験片を取出して、試験片(積層構造体)の外層側および内層側を目視により観察し、活性炭が外層よび内層の外に漏れ出ていない場合を脱落防止性が良好(○)、活性炭が外層および/または内層の外に少し漏れ出ている場合を脱落防止性がやや不良(△)、活性炭が外層および/または内層の外にかなり漏れ出ている場合を脱落防止性が不良(×)として評価した。
【0051】
(8)積層構造体から作製した防護衣類の着用感:
以下の実施例または比較例で得られた積層構造体を用いて、頭から被る形式の外衣状物(頭を通す部分にのみ穴を開けた長さが150cmの筒状体)を作製し、その外衣状物を着用して、温度30℃の室内に30分間滞在し、そのときの着用感を以下の評価基準に従って評価した。
○:蒸した感じがせず、体温の上昇も殆どなく、着用感が良好である。
△:蒸した感じがややし、体温の上昇がややあり、着用感がやや不良である。
×:蒸した感じが強く、体温の上昇があり、着用感が不良である。
【0052】
《参考例1》[ポリウレタンナノ繊維からなる不織シートの作製]
(1) 熱可塑性ポリウレタン[(株)クラレ製「クラミロン1195」]を16質量%となるようにジメチルホルムアミドに投入後、90℃で撹拌溶解し、完全に溶解したものを常温まで冷却して紡糸原液を調製した。それにより得られた紡糸原液を用いて、静電紡糸を行った。静電紡糸に当たっては、口金として内径が0.9mmのニードルを使用し、また口金とナノ繊維の堆積面(コンベア)との間の距離を10cmとした。紡糸原液を口金から所定の供給量で紡出し、口金に23kV印加電圧を与えてコンベア上にポリウレタンナノ繊維を堆積させてポリウレタンナノ繊維からなる不織布シートを製造した。
(2) 上記(1)で得られたポリウレタンナノ繊維製不織シートの目付は4g/m2、厚さは0.1mm、通気度(空気の透過度)は1cc/cm2/secおよび水蒸気透過度は6500g/m2/24hrであった。
また、このポリウレタンナノ繊維製不織シートを構成しているポリウレタンナノ繊維の平均繊維径を上記した方法で測定したところ、平均繊維径は250nmであった。
【0053】
《参考例2》[活性炭含有複合層(A)用材の製造]
活性炭(クラレケミカル社製「クラレコール」;比表面積=2000m2/g、平均粒径=100μm)50質量部に接着剤(日本ゼオン社製「Nipol LX」;アクリレート系ラテックス接着剤、固形分濃度45質量%)10質量部を混合して活性炭混合物を調製し、この活性炭混合物を、上記の参考例1で得られたポリウレタンナノ繊維製不織シートの表面に約1mmの厚さに塗布した後、140℃で10分間乾燥した。その後、塗布面に上記の参考例1で得られたもう一枚のポリウレタンナノ繊維製不織シートを重ねて、温度120℃、圧力100Paの条件下で加熱加圧して、ポリウレタンナノ繊維製不織シート層/活性炭層/ポリウレタンナノ繊維製不織シート層よりなる活性炭含有複合層材(中間層用の複合材)[以下これを「活性炭含有複合層(A)用材」という]を製造した。
これにより得られた活性炭含有複合層(A)用材の厚さは0.3mm、目付は、108g/m2、通気度(空気の透過度)は0.8cc/cm2/sec、および水蒸気透過度は6000g/m2/24hrであった。また、この活性炭含有複合層(A)用材では、活性炭が活性炭含有複合層(A)用材の面積1m2当たりにつき100gの量で、上下のポリウレタンナノ繊維製不織シート層の間に均一な厚さの層を形成していた。
【0054】
《参考例3》[活性炭含有複合層(B)用材の製造]
参考例2で使用したのと同じ活性炭50質量部に参考例2で使用したのと同じ接着剤10質量部を混合して活性炭混合物を調製し、この活性炭混合物を、ポリエステル製スパンボンド不織布[東洋紡製「エクーレ」;ポリエステル繊維の平均繊維径=1800nm、不織布の厚さ=0.15mm、目付=20g/m2、通気度(空気の透過度)=95cc/cm2/sec、水蒸気透過度=8500g/m2/24hr]の表面に約1mmの厚さに塗布した後、140℃で10分間乾燥した。その後、塗布面にもう一枚の同じ市販のポリウレタン繊維製不織シートを重ねて、温度120℃、圧力100Paの条件下で加熱加圧して、ポリウレタン繊維製不織シート層/活性炭層/ポリウレタン繊維製不織シート層よりなる活性炭含有複合層材(中間層用の複合材)[以下これを「活性炭含有複合層(B)用材」という]を製造した。
これにより得られた活性炭含有複合層(B)用材の厚さは0.4mm、目付は140g/m2、通気度(空気の透過度)は35cc/cm2/sec、および水蒸気透過度は7700g/m2/24hrであった。また、この活性炭含有複合層(B)用材では、活性炭が活性炭含有複合層(B)用材の面積1m2当たりにつき100gの量で、上下のポリウレタン繊維製不織シート層の間に均一な厚さの層を形成していた。
【0055】
《参考例4》[活性炭含有複合層(C)用材)の製造]
参考例2で使用したのと同じ活性炭50質量部に参考例2で使用したのと同じ接着剤10質量部を混合して活性炭混合物を調製し、この活性炭混合物を、市販の多孔質フィルム[オージーフイルム社製「フレクロン」;材質ポリエステル、多孔質フィルムの厚さ=30μm、孔径=0.5μm、通気度(空気の透過度)=測定不能、水蒸気透過度=3450g/m2/24hr]の表面に約1mmの厚さに塗布した後、140℃で10分間乾燥した。その後、塗布面にもう一枚の同じ市販の多孔質フィルムを重ねて、温度120℃、圧力100Paの条件下で加熱加圧して、多孔質フィルム/活性炭層/多孔質フィルムよりなる活性炭含有複合層材(中間層用の複合材)[以下これを「活性炭含有複合層(C)用材)」という]を製造した。
これにより得られた活性炭含有複合層(C)用材)の厚さは0.2mm、目付は、110g/m2、通気度(空気の透過度)は測定不能、および水蒸気透過度は3000g/m2/24hrであった。また、この活性炭含有複合層(C)用材では、活性炭が活性炭含有複合層(C)用材の面積1m2当たりにつき100gの量で、上下の多孔質フィルムの間に均一な厚さの層を形成していた。
【0056】
《参考例5》[撥水・撥油加工を施した外層用の織布の製造]
(1) 難燃性ビニロン(株式会社クラレ製「バイナール」)とアラミド繊維を50:50の質量比で混紡してなる紡績糸(40番手)をつくり、当該紡績糸2本を合撚糸して双糸とし、当該双糸を用いて綾組織にて製織して外層用の織布[綾織布;厚さ=約0.3mm、目付=180g/m2、通気度(空気透過度)=18cc/cm2/sec、水蒸気透過度=9010g/m2/24hr]を製造した。
(2) 上記(1)で得られた織布に、撥水・撥油剤(ミネソタマイニング社製「スコッチガード」;フッ素系有機化合物)を5g/m2の量で噴霧して撥水・撥油加工を行って、撥水・撥油加工した難燃・耐熱性の外層用の織布(撥水度=100、撥油度=5)を製造した。
【0057】
《実施例1》
(1) ポリエチレンテレフタレート100%のトリコット編布[厚さ=約0.3mm、目付=80g/m2、通気度(空気透過度)=80cc/cm2/sec]を内層用の布帛として用い、この内層用布帛の上に接着剤としてポリウレタンホットメルト不織布[KBセーレン社製「エスパシオーネFF」;厚さ=約0.1mm、目付=25g/m2、通気度(空気透過度)=80cc/cm2/sec]を重ね、その上に上記の参考例2で得られた活性炭含有複合層(A)用材を重ね、その上に前記と同じポリウレタンホットメルト不織布を接着剤として重ね、当該ポリウレタンホットメルト不織布の上に上記の参考例5で得られた撥水・撥油加工した難燃・耐熱性の外層用の織布を重ねて、図1に示すような、外層用の織布/ポリウレタンホットメルト不織布/活性炭含有複合層(A)用材/ポリウレタンホットメルト不織布/内層用のトリコット編布の順で重なった積層物にした。
図1において、1は外層用の織布、2aおよび2bはポリウレタンホットメルト不織布、3は活性炭含有複合層(A)用材、3aおよび3bはポリウレタンナノ繊維製不織シート、3cは活性炭層、4は内層用のトリコット編布を示す。
【0058】
(2) 上記(1)で得られた積層物を、温度120℃、圧力100Paの条件下で12秒間加熱加圧してポリウレタンホットメルト不織布を溶融させて、外層用の織布と活性炭含有複合層(A)用材との接着、活性炭含有複合層(A)用材と内層用のトリコット編布との接着を行って、外層(撥水・撥油加工した難燃・耐熱性の織布)/中間層[活性炭含有複合層(A)]/内層(ポリエステルトリコット編布)の順で接着積層した防護衣類用の積層構造体(厚さ=1.0mm、目付=418g/m2)を製造した。
(3) 上記(2)で得られた防護衣類用の積層構造体の有害ガス吸着性能、バクテリア遮蔽性能、空気透過度および水蒸気透過度、活性炭の脱落防止性能、並びに積層構造体から作製した防護衣類の着用感を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0059】
《比較例1》
(1) 実施例1の(1)で用いたのと同じポリエチレンテレフタレート100%のトリコット編布(内層用の布帛)の上に、実施例1の(1)で用いたのと同じポリウレタンホットメルト不織布を重ね、その上に参考例5で得られた撥水・撥油加工した難燃性で耐熱性の外層用の織布を重ねた後、温度120℃、圧力100Paの条件下で12秒間加熱加圧してポリウレタンホットメルト不織布を溶融させて、外層用の織布(撥水・撥油加工した難燃・耐熱性の織布)と内層用の布帛(ポリエステルトリコット編布)がポリウレタンホットメルト不織布によって接着積層した外層/内層よりなる積層構造体(厚さ=0.6mm、目付=285g/m2)を製造した。
(2) 上記(1)で得られた防護衣類用の積層構造体の有害ガス吸着性能(有害ガスの吸着速度および有害ガスの吸着寿命)、バクテリア遮蔽性能、空気透過度および水蒸気透過度、活性炭の脱落防止性能、並びに積層構造体から作製した防護衣類の着用感を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0060】
《比較例2》
(1) 実施例1の(1)において、活性炭複合含有複合層(A)用材の代わりに、参考例3で製造した活性炭含有複合層(B)用材を使用し、それ以外は実施例1の(1)および(2)と同様に行って、外層(撥水・撥油加工した難燃・耐熱性の織布)/中間層[活性炭含有複合層(B)]/内層(ポリエステルトリコット編布)の順で接着積層した防護衣類用の積層構造体(厚さ=1.1mm、目付=450g/m2)を製造した。
(2) 上記(1)で得られた防護衣類用の積層構造体の有害ガス吸着性能、バクテリア遮蔽性能、空気透過度および水蒸気透過度、活性炭の脱落防止性能、並びに積層構造体から作製した防護衣類の着用感を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0061】
《比較例3》
(1) 実施例1の(1)において、活性炭複合含有複合層(A)用材の代わりに、参考例4で製造した活性炭含有複合層(C)用材を使用し、それ以外は実施例1の(1)および(2)と同様に行って、外層(撥水・撥油加工した難燃・耐熱性の織布)/中間層[活性炭含有複合層(C)]/内層(ポリエステルトリコット編布)の順で接着積層した防護衣類用の積層構造体(厚さ=0.9mm、目付=420g/m2)を製造した。
(2) 上記(1)で得られた防護衣類用の積層構造体の有害ガス吸着性能、バクテリア遮蔽性能、空気透過度および水蒸気透過度、活性炭の脱落防止性能、並びに積層構造体から作製した防護衣類の着用感を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0062】
《比較例4》
(1) 実施例1の(1)において、活性炭複合含有複合層(A)用材の代わりに、市販の活性炭繊維製織布[日本カイノール社製「カイノール」;織布を構成する活性炭繊維の平均繊維径=14000nm、比表面積=2500m2/g、織布の厚さ=0.44mm、目付=95g/m2、通気度(空気の透過度)=72cc/cm2/sec]を使用し、それ以外は実施例1の(1)および(2)と同様に行って、外層(撥水・撥油加工した難燃・耐熱性の織布)/中間層(活性炭繊維製不織シート)/内層(ポリエステルトリコット編布)の順で接着積層した防護衣類用の積層構造体(厚さ=1.1mm、目付=405g/m2)を製造した。
(2) 上記(1)で得られた防護衣類用の積層構造体の有害ガス吸着性能、バクテリア遮蔽性能、空気透過度および水蒸気透過度、活性炭の脱落防止性能、並びに積層構造体から作製した防護衣類の着用感を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0063】
【表1】

【0064】
上記の表1にみるように、実施例1の積層構造体は、撥水・撥油加工を施した布帛からなる外層を有し、中間層として、比表面積が600〜5000m2/gの範囲内の活性炭を含み、平均繊維径が10〜1000nmの範囲内のナノ繊維よりなる通気度0.1cc/cm2/sec以上のナノ繊維層によって前記活性炭を保護してなる活性炭含有複合層(A)を有し、内層が布帛からなり、且つ外層/中間層/内層の順で接着積層した構造を有していることにより、有害ガス吸着性およびバクテリア遮蔽性に優れ、しかも空気および水蒸気の透過度が高く、活性炭の脱落防止性能に優れ、その上防護衣類に作製したときに着用感に優れており、防護衣類用の積層構造体として極めて有用である。
【0065】
それに対して、比較例1の積層構造体は、活性炭含有複合層を持たないために、有害ガス吸着能およびバクテリア遮蔽能を有しておらず、防護衣類用として使用できない。
また、比較例2の積層構造体は、活性炭含有複合層よりなる中間層を有しているが、中間層における活性炭の保護層がナノ繊維層ではなく、平均繊維径が1000nmを超える通常の繊度の繊維からなる層であるために、バクテリア遮蔽性に劣り、しかも活性炭の脱落防止性能にも劣っている。
さらに、比較例3の積層構造体は、活性炭含有複合層よりなる中間層を有しているが、中間層における活性炭の保護層がナノ繊維層ではなく、多孔質フィルムであるために、積層構造体から作製した防護衣類を着用したときに、空気や水蒸気の透過がなく、衣類内に熱が蓄積してしまい、着用感に劣る。
また、比較例4の積層構造体は、中間層が通常の繊度の活性炭繊維製不織シートから構成されているため、バクテリア遮蔽能が低く、しかも活性炭の脱落防止性能にも劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の積層構造体は、有害ガスの吸着性能に優れていて人体などを有害ガスから安全に防護することができ、しかも有害な微生物の遮蔽性に優れていて人体などを有害な微生物から安全に防護することができ、その上液状化学物質に対する防護性能にも優れ、さらに空気や水蒸気の透過性に優れていて着用感に優れ且つ熱ストレスや熱中症などを引き起こさず、積層構造体からの活性炭の脱落がないので、防護衣類用として有効に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例1の(1)で形成した、加熱加圧する前の「外層用の織布/ポリウレタンホットメルト不織布/活性炭含有複合層(A)用材/ポリウレタンホットメルト不織布/内層用のトリコット編布」の順で重なった積層物を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1 外層用の織布
2a ポリウレタンホットメルト不織布
2b ポリウレタンホットメルト不織布
3 活性炭含有複合層(A)用材
3a ナノ繊維製不織シート
3b ナノ繊維製不織シート
3c 活性炭層
4 内層用のトリコット編布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外層、中間層および内層が外層/中間層/内層の順で積層した防護衣類用の積層構造体であって;
・外層が撥水・撥油加工を施した布帛から構成され;
・中間層が、比表面積600〜3000m2/gの活性炭を含み、平均繊維径10〜1000nmのナノ繊維よりなる通気度0.1cc/cm2/sec以上のナノ繊維層によって前記活性炭が保護されている活性炭含有複合層であり;
・内層が布帛から構成されている;
ことを特徴とする防護衣類用の積層構造体。
【請求項2】
外層を構成する布帛の撥水度が80以上および撥油度が4以上である請求項1に記載の防護衣類用の積層構造体。
【請求項3】
外層を構成する布帛が、難燃性の布帛である請求項1または2に記載の防護衣類用の積層構造体。
【請求項4】
中間層におけるナノ繊維層が、有機重合体ナノ繊維よりなる不織シートから構成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の防護衣類用の積層構造体。
【請求項5】
中間層が、ホットメルト接着剤による点接着または線接着によるか或いはホットメルト不織布によって外層を構成する布帛および内層を構成する布帛と接着している請求項1〜4のいずれか1項に記載の防護衣類用の積層構造体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層構造体からなる防護衣類。

【図1】
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【公開番号】特開2009−6012(P2009−6012A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171551(P2007−171551)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】