説明

防護鋼板を用いたエレメント工法

【課題】 軌道及び道路への影響を最小限に留めるエレメント工法を提供する。
【解決手段】 両側に連結継手を形成した防護鋼板の先端部をワイヤーソーまたはチェーンソーで切削しながら隣り合う防護鋼板同士を嵌合させながら挿入し、土留め部材を施工する段階、隅角部に継手を形成したコ型エレメント、L型エレメントを防護鋼板の下側に内部を掘削しながら順次嵌合挿入する段階により上床版エレメントを挿入完成後、エレメント内部にコンクリートを充填することにより剛な上床版を完成する防護鋼板を用いたエレメント工法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄道線路や道路等の下に非開削で交差構造物を構築する工法に関し、特に地山を防護する鋼板を施工した後、防護鋼板をエレメント本体に兼用して交差構造物を構築するエレメント工法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路や道路等の下に非開削で地下構造物を構築する方法として種々の工法が使用されているが、特に土被りが小さい場合には、交差方向に箱型の鋼管エレメントを連結継手により順次挿入していき、それらを本体構造物として利用する方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、鉄道線路や道路等の下に交差構造物を構築する工法で、軌道及び道路面に変状をほとんど与えない工法として、地山をワイヤーソーで切削し、その切削部に防護鋼板を挿入して土留部材とする工法も知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平11−247579号公報
【特許文献2】特開2004−204624号報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の工法は、エレメント挿入時に軌道または道路面に変状をきたす恐れがあった。特許文献2の工法は地山の防護を行う点ではすぐれているものの、防護鋼板とは別にエレメントを挿入しなければならない。そこで、防護鋼板自体を本体構造物として利用することが考えられ、その具体的手法の確立が要請されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決しようとするもので、地山をワイヤーソーやチェーンソーで切削し、その切削部に鋼板を挿入して土留部材とする工法をさらに発展させ、軌道及び道路への影響を最小限に留めるエレメント工法を提供することを目的とする。
そのために本発明の防護鋼板を用いたエレメント工法は、防護鋼板の先端部をワイヤーソーまたはチェーンソーで切削しながら隣り合う防護鋼板同士を嵌合させながら挿入し、土留め部材を施工する段階、
土留め部材を構成する防護鋼板の嵌合部付近の鉛直下向きの継手に嵌合させながらコ型エレメントを掘削挿入する段階、
土留め部材を構成する防護鋼板の嵌合部付近の鉛直下向きの継手、及び前記コ型エレメントに嵌合させながらL型エレメントを掘削挿入する段階、
土留め部材を構成する防護鋼板の嵌合部付近の鉛直下向きの継手、及び前記L型エレメントに嵌合させながらL型エレメントを順次掘削挿入する段階、
前記各段階により上床版エレメントの挿入完成後、エレメント内部にコンクリートを充填する段階
を含むことを特徴とする。
また、本発明は、前記防護鋼板同士が両側に設けた連結継手で嵌合させるとともに、一方の側にはさらに鉛直下向きの継手が形成されていることを特徴とする。
また、本発明は、前記防護鋼板同士が両側に設けた連結継手と別体の連結継手を介して嵌合させるとともに、別体の連結継手は、さらに鉛直下向きの継手を有していることを特徴とする。
また、本発明は、前記コ型エレメントが隅角部に形成された継手を前記鉛直下向きの継手に嵌合させ、防護鋼板とコ型エレメントで囲まれた内部を掘削しながら挿入することにより施工されることを特徴とする。
また、本発明は、前記L型エレメントが隅角部に形成された継手を前記鉛直下向きの継手に嵌合させるとともに、コ型エレメントまたはL型エレメントの継手に嵌合させ、防護鋼板、コ型エレメント及びL型エレメントで囲まれた内部、または防護鋼板とL型エレメントで囲まれた内部を掘削しながら挿入することにより施工されることを特徴とする。
また、本発明は、さらに、箱型の鋼管エレメントを連結継手により順次挿入し、側壁、下床版を施工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、線路下等の地山を防護鋼板で防護し、かつ防護鋼板をエレメントの一部に兼用することができるので、軌道及び道路への影響を最小限に留め、かつ低コスト化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1、図2は本発明工法の施工手順を説明する図、図3はワイヤーソーで地山を切削して鋼板を挿入する説明図、図4、図5は継手部の詳細図である。
【0008】
本実施の形態の例は、軌道2上を列車1が走行する線路下の地山3に線路と交差する方向に構造物を構築しようとするものであり、まず、水平ボーリングにより塩化ビニルなどの合成樹脂からなるガイド管4を軌道2から近い所定深さにおいて発進立坑と到達立坑間に複数本施工する(図1(a))。次いで、ワイヤーソーで地盤を切削しながら地山を防護するための防護鋼板10を連結継手で順次嵌合させなから挿入する(図1(b))。
【0009】
ここで、ワイヤーソーで地盤を切削しながら防護鋼板を挿入する方法の一例について図3により説明する。
線路下の地山3には行路を挟む両側に発進立坑A及び到達立坑Bが築造されている。これら発進立坑A及び到達立坑B間の地山3内には、防護鋼板10の幅寸法に対応した間隔を置いてガイド管4が水平ボーリングにより設置されている。防護鋼板10の先端角部両側には従動プーリ12が取り付けられており、発進立坑Aの内部及び坑外にはワイヤソー14の方向変換や繰り出し長さを調整するための複数の調整用従動プーリ13と、駆動プーリ11とが設置されている。これらの従動プーリ12,13及び駆動プーリ11にはワイヤソー14が無端状に巻き掛けられ、このワイヤソー14はワイヤに適宜間隔を置いて多数のダイヤモンドビットが取り付けられている。もろちん、ワイヤソーに代えてチェーンソーを使用することもできる。
【0010】
到達立坑Bには反力壁15から反力を得て作動する牽引ジャッキ16が設置され、この牽引ジャッキ16に把持される牽引ワイヤーロープ17は防護鋼板10の先端に固定されている。牽引ワイヤロープ17は、発進立坑A及び到達立坑B間をボーリングし、そのボーリング孔に予め挿入するが、ガイド管4の内部に挿入するようにしてもよい。
【0011】
防護鋼板10の地山への挿入方法を説明すると、防護鋼板10は、牽引ジャッキ16により発進立坑Aから到達立坑Bに向けて牽引される。この牽引に伴って、防護鋼板10の先端に取り付けた従動プーリ12はガイド管4内を移動する。また、牽引に伴って駆動プーリ11が駆動され、これによりワイヤソー14が循環走行し、しかも防護鋼板10に伴って牽引されることから、ガイド管4及び防護鋼板12の先端付近の地山が切削される。この結果、防護鋼板10の牽引中においてその先端付近の地山は、常時、ワイヤソー14によってスリット状に切削される。そのため、防護鋼板10は牽引されることによって、スリット状の切削部に入り込み、スムーズに地山に挿入される。なお、上記の例においては駆動プーリ11を発進立坑A側に設けるようにしたが、これを到達立坑B側に設けるようにしてもよい。
【0012】
こうして挿入される防護鋼板10は、ワイヤソー14によって切断されるガイド管内において順次隣接する防護鋼板と継手で連結され、軌道2の直下を防護するように施工され、線路防護体が完成する(図1(b))。次いで、このようにして施工された防護鋼板により軌道への影響を与えることなく、防護鋼板に対してその下側にコ型エレメント、L型エレメントを嵌合継手で防護鋼板に連結しながら順次、掘削挿入する(図1(c)、図1(d))。
【0013】
ここで、防護鋼板を相互に嵌合させるとともに、コ型エレメント、L型エレメントを連結する継手の例について図4、図5を参照して説明する。
【0014】
図4において、防護鋼板10の一端には、地山への挿入方向に沿って継手20が形成され、他端には隣接する防護鋼板の継手20と嵌合する継手21及び鋼板から下方へ延びる継手22が形成されている。そして、連結する一方の防護鋼板10の継手20と、この防護鋼板と連結する他方の防護鋼板の継手21とを順次連結していく。上記したようにワイヤーソーにより地山とともにガイド管4を切断しながら防護鋼板10が牽引され、一方の防護鋼板10が設置されたときその継手20の端部はガイド管4内に位置している。次いで、この防護鋼板と連結する他方の防護鋼板の継手21を継手20に嵌合させ、ワイヤーソーにより地山とともにガイド管4を切断しながら牽引することにより、防護鋼板をガイド管4内において相互に嵌合させながら設置することができる。こうして順次防護鋼板を設置した状態が図1(b)の状態である。
【0015】
次に、防護鋼板の下側にコ型エレメントを嵌合する場合を説明する。コ型エレメント30は、防護鋼板と同程度の長さを有し、隅角部にその長手方向に沿って継手31〜34が形成されており、図では継手31、32のみ図示している。このコ型エレメント30を上方を開口側とし、防護鋼板10の下方へ延びる継手22にコ型エレメントの上方側の継手31、33(図示せず)を嵌合させ、支保部材により防護鋼板を支えながら、防護鋼板10とコ型エレメント30で囲まれた内部を掘削し、コ型エレメントを挿入していく。こうして防護鋼板10とコ型エレメント30とからなるエレメントが施工された状態が図1(c)である。
【0016】
次いで、防護鋼板10とコ型エレメント30の両側にL型エレメント40を嵌合挿入する。L型エレメント40はコ型エレメントの1つの側板が無いエレメントで、隅角部にその長手方向に沿って継手41〜43が形成されており、図では継手41、42のみ図示している。このL型エレメント40の上方側の継手41と、下方側で開口側の継手43(図示せず)をそれぞれ、防護鋼板10の下方へ延びる継手22、コ型エレメントの下方側の継手32または33(図示せず)に嵌合させ、支保部材により防護鋼板を支えながら、防護鋼板10、コ型エレメント30、L型エレメント40で囲まれた内部を掘削しながらL型エレメント40を挿入する。次いで、設置されたL型エレメントの両側に他のL型エレメントを順次施工する。すなわち、防護鋼板10、L型エレメント40の各継手にL型エレメント40の継手を嵌合させ、支保部材により防護鋼板を支えながら、防護鋼板10、隣り合うL型エレメント40で囲まれた内部を掘削しながらL型エレメント40を順次嵌合挿入していく。こうして防護鋼板10とコ型エレメント30とからなるエレメントを順次施工していく状態が図1(d)である。
【0017】
なお、図4の例では、防護鋼板10の一端には、地山への挿入方向に沿って継手20が形成され、他端には隣接する防護鋼板の継手20と嵌合する継手21及び鋼板から下方へ延びる継手22が形成されているが、例えば、図5に示すように、防護鋼板の両側に継手50を形成し、防護鋼板とコ型エレメント及びL型エレメントとの連結には、両側、及び下方に延びる3つの継手を有する別体の継手51を使用するようにしてもよい。この継手を使用する場合は、例えば1つの防護鋼板10を施工した後、ガイド管4内に防護鋼板10と嵌合させながら別体の継手51を挿入し、次いで継手51に嵌合させながら防護鋼板を順次嵌合挿入することにより防護鋼板を施工する。コ型エレメント、L型エレメントの施工は図4の場合と同様である。
【0018】
こうして全ての防護鋼板の下側にL型エレメントを施工して上床版エレメントが挿入完成した状態が図2(a)であり、この後、エレメント内部にコンクリートを充填する。次いで、側壁15、下床版17に、例えば、従来の箱型の鋼管エレメントを連結継手により順次挿入した状態が図2(b)である。なお、側壁側の地山を保護する必要がある場合には、側壁にも上記の場合と同様に、予め防護鋼板を施工して土留め部材を施工し、次いで防護鋼板の内側にコ型エレメント、L型エレメントを防護鋼板に嵌合させながら順次施工し、防護鋼板をエレメントの一部に兼用して側方床版を施工するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明によれば、線路下等の地山を防護し、軌道、道路面に変状をほとんど与えずに交差構造物や桁等を構築することがきるので産業上の利用価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明工法の施工手順を説明する図である。
【図2】本発明工法の施工手順を説明する図である。
【図3】ワイヤーソーで地山を切削して鋼板を挿入する説明図である。
【図4】継手部の詳細図である。
【図5】継手部の詳細図である。
【符号の説明】
【0021】
1…列車、2…軌道、3…地山、4…ガイド管、10…防護鋼板、11…駆動プーリ、12…従動プーリ、13…調整用従動プーリ、14…ワイヤソー、15…反力壁、16…牽引ジャッキ、17…牽引ワイヤーロープ、20〜22…継手、30…コ型エレメント、31〜34…継手、40…L型エレメント、41〜43…継手、51…別体の継手。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防護鋼板の先端部をワイヤーソーまたはチェーンソーで切削しながら隣り合う防護鋼板同士を嵌合させながら挿入し、土留め部材を施工する段階、
土留め部材を構成する防護鋼板の嵌合部付近の鉛直下向きの継手に嵌合させながらコ型エレメントを掘削挿入する段階、
土留め部材を構成する防護鋼板の嵌合部付近の鉛直下向きの継手、及び前記コ型エレメントに嵌合させながらL型エレメントを掘削挿入する段階、
土留め部材を構成する防護鋼板の嵌合部付近の鉛直下向きの継手、及び前記L型エレメントに嵌合させながらL型エレメントを順次掘削挿入する段階、
前記各段階により上床版エレメントの挿入完成後、エレメント内部にコンクリートを充填する段階
を含む防護鋼板を用いたエレメント工法。
【請求項2】
前記防護鋼板同士は両側に設けた連結継手で嵌合させるとともに、一方の側にはさらに鉛直下向きの継手が形成されていることを特徴とする請求項1記載のエレメント工法。
【請求項3】
前記防護鋼板同士は両側に設けた連結継手と別体の連結継手を介して嵌合させるとともに、別体の連結継手は、さらに鉛直下向きの継手を有していることを特徴とする請求項1記載のエレメント工法。
【請求項4】
前記コ型エレメントは隅角部に形成された継手を前記鉛直下向きの継手に嵌合させ、防護鋼板とコ型エレメントで囲まれた内部を掘削しながら挿入することにより施工されることを特徴とする請求項1記載のエレメント工法。
【請求項5】
前記L型エレメントは隅角部に形成された継手を前記鉛直下向きの継手に嵌合させるとともに、コ型エレメントまたはL型エレメントの継手に嵌合させ、防護鋼板、コ型エレメント及びL型エレメントで囲まれた内部、または防護鋼板とL型エレメントで囲まれた内部を掘削しながら挿入することにより施工されることを特徴とする請求項1記載のエレメント工法。
【請求項6】
さらに、箱型の鋼管エレメントを連結継手により順次挿入し、側壁、下床版を施工することを特徴とする請求項1記載のエレメント工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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