説明

防音性を有する耐火二層管

【課題】内管が合成樹脂製管からなる防音性が付与された耐火二層管であって、製造設備費が安く、製造が容易であり、耐火性、防音性が高く、外装のモルタル層の剥離やひび割れのおそれがなく、安価であり、高層又は低層の建築物の排水管として使用したとき、流水の衝撃等による騒音の拡散防止等の防音性に優れた効果を有する耐火二層管の提供。
【解決手段】合成樹脂製管の外面に、内側がモルタル非含浸の不織布又は連続気泡フォームからなる吸音層、前記吸音層の外側がモルタルを含浸させた不織布からなる遮音層である耐火性防音材を被覆した耐火二層管とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布又は連続気泡フォーム(以下、両者を併せて、「不織布等」と言う。)からなる吸音層とその外面にモルタルを含浸した遮音性を有する耐火層が強固に結合し、接着剤を使用せずに、剥離する危険が全くない優れた耐火性並びに吸音性及び遮音性(本発明においては、この両者を併せて、「防音性」と言う。)を有する耐火性防音材で被覆した合成樹脂製管であり、製造設備費が安く、ランニングコストも安価で製造することができる防音性を有する耐火二層管に関する。
本発明に係る耐火二層管は、通常の戸建て住宅や高層ビル等において、建築基準法や消防法に基づく排水管として使用することができ、さらに、これらの建築物において発生する排水騒音を大幅に低減することができる。
【背景技術】
【0002】
耐火二層管は、アパート、マンション、オフィスビル等の集合住宅での需要が大きい。これらの集合住宅は、隣接する区画の間に空間がなく、1枚の壁又は床(天井)で仕切られて建てられているのみである。このため、一旦火災が発生すると、隣接区画に延焼し、災害が大きく広がりやすい。
これに対しては、建築基準法や消防法において、生命、財産等の保全の観点から、上記のような集合住宅の隣接又は上下の区画には、耐火壁、耐火性床(天井)等(本発明においては、これらを一括して、「耐火壁」と言う。)を設ける延焼防止策が規定されている。
しかしながら、アパート、マンション、オフィスビル等の集合住宅において、隣接区画を耐火壁で仕切るのみでは、十分な延焼防止策が図られるとは言えず、耐火壁自体に、一戸建て住宅の外壁と同等の延焼防止の機能が求められている。
【0003】
また、上記のような通常の集合住宅における一般的な耐火壁には、開口部を穿ち、給水、排水等の水回り施設、あるいはまた、電気やガス等を供給するための配管、配線を設ける。これらの配管、配線等は、前記開口部を通じて耐火壁を貫通しているため、火災時には、前記開口部を経由する延焼を防止する機能が必要とされる。
上記要望に対応するために、建築基準法や消防法に基づく基準や行政指導において、集合住宅における隣接する区画の間の耐火壁を貫通する耐火性配管材についても、必要とされる構造や性能が定められている。
【0004】
前記耐火性配管材としては、耐火二層管部材が種々知られている。これらのうち、排水管等には、内管として軽量で強度のある硬質ポリ塩化ビニル管(PVC管)、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル管(PET管)等の熱可塑性樹脂管と、外管として軽量モルタル等からなる不燃性又は難燃性材料とにより構成される2層構造の耐火二層管が用いられている。
これらの耐火二層管は、構造的には、目的に応じて数多くの提案がなされているが、依然として、モルタル等からなる不燃性又は難燃性材料の外管と、軽量で、水の流れのよい強度のあるPVC管、PET管等の合成樹脂製内管で構成される2層構造のものが主流である。
【0005】
しかしながら、上記のような不燃性の外層管を備えた耐火二層管は、集合住宅等の排水管に使用した場合、台所、風呂場、トイレ等の排水時における水の衝撃による排水騒音(水の流れる音)の発生が避けられず、2層構造であっても、排水時の騒音を十分に遮断(防音)することができていないのが実情である。
したがって、耐火壁、耐火床のみで隣接する各室を構成したマンション、アパート等の高層住宅においては、その騒音対策が必要とされている。このため、マンション、アパート等において、前記耐火二層管を排水管として使用する際は、施工現場において、配管敷設後に耐火二層管の外周面にグラスウール又は遮音シート等を巻装して防音を行ったり、耐火二層管の敷設前に耐火二層管の外周面に吸音材や遮音材を工場で巻装してから工事現場に搬送し、配管敷設したりする方法も実施されていた。
【0006】
しかしながら、現場で敷設作業後に吸音材や遮音材を巻装するのは、配管施工場所が限られた狭い場所であるため、作業効率が悪く、一方、予め巻装した吸音材や遮音材の損傷や完全に隙間なく巻装することができない等の問題がある。
このため、給排水管等が原因となる排水騒音の合理的かつ確実な防止対策は、業界でもその開発が急がれている。
【0007】
この対策として、配管内で発生する音を低減するために、排水管製造工場等において、配管の外周にグラスウール、ロックウール等の吸音材やこれらの吸音材からなる吸音シートを巻き付け、針金等で固定することが行われている。
また、筒状に曲成した遮音シートの内周に軟質吸音材を積層し、長手方向にわたって割り溝を設けた排水管用遮音材も提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、敷設前の工場での吸音材や遮音材の巻装は、上述したように、取扱い中又は搬送中に巻装した吸音材が損傷してしまうおそれがあった。また、現場でグラスウール等の吸音材や吸音シートを配管に巻き付けて針金等で固定する場合は、施工に手間がかかり、また、防音効果も十分とは言えない。
さらに、筒状の防音材を形成した場合は、保管や運搬の際にかさばり、従来の耐火二層管に比較して、多大のスペースを必要とするという問題点がある。また、構成材料も、内管、外管、防音材と3部材が必要となり、吸音材が遮音材(外管)の外側にくることになり、防音性が不十分になりやすい。
【0009】
また、耐火二層管の製造方法として、モルタル層形成用のモルタルフィルム抄造装置のエンドレスフェルト上に断熱・吸音材料を載置し、前記エンドレスフェルトに当接して配置された金属製芯管に前記断熱・吸音材料を一層巻き取って、断熱・吸音層を形成し、その外周面に、抄造されたモルタルフィルムを所定厚さまで巻き取り、養生・硬化後、金属製芯管を引抜くことにより、モルタル製外管と断熱・吸音層とを一体成形し、得られた一体成形体の内部に内管を挿入する方法、あるいはまた、前記金属製芯管に代えて内管を用いて、同様の工程を経て、モルタル製外管と断熱・吸音層と内管とを一体成形する方法等が提案されている(特許文献2参照)。
しかしながら、上記方法において用いられるモルタルフィルム抄造装置は、設備が極めて高価であり、操業経費も高い。また、鉄等の金属製芯管を用いる場合には、これを抜くためにモルタルの二次養生が必要となる等、生産効率が高い方法ではない。しかも、断熱・吸音材料として用いられる無機繊維製のフェルト又はマットは高価であり、コストアップが避けられない。
【0010】
さらに、配管部材と、その外周を囲着する配管防音部材からなる配管防音構造において、前記配管防音部材が、吸音材、遮音材、防振材及び制振材から選ばれた防音材からなり、少なくとも前記吸音材を含む2層以上の防音材層を備えており、前記吸音材が85重量%以上の無機質人造繊維の不織布からなり、その表面及び裏面の一方又は双方に遮蔽層が設けられているものが提案されている(特許文献3参照)。
この提案では、吸音層、遮音材層を設けた防音材構造が示されているが、それぞれの層は、粘着材層、接着剤層等を用いて接合されているため、排水時の振動等で前記遮音材層が剥離するおそれがある。しかも、遮音材として高価なゴムやプラスチックシートを用いているため、コストダウンを図ることは困難である。
【0011】
さらにまた、遮音層と吸音層の2層からなる配管用防音材の配管への施工において、遮音層(アスファルトに熱可塑性ポリマー、無機充填剤を添加後均一に混合して得られたもの)と吸音層を接着固定し、吸音層の配管側に配管と平行にシワを発生させ、配管と配管用防音材とが部分的に接触して空気層が形成されるようにする配管の遮音方法が提案されている(特許文献4参照)。
この場合、吸音層と遮音層が設けられているため、防音効果は高いと考えられるが、耐火性は不十分である上、遮音層が高価であり、その上、吸音層の配管側にシワを配管と平行に設けることが必要であり、工程的に面倒、煩雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平4−11130号公報
【特許文献2】特開2008−249028号公報
【特許文献3】特開2007−146964号公報
【特許文献4】特開2007−321891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、内管が合成樹脂製管からなる防音性が付与された耐火二層管であって、製造設備費が安く、製造が容易であり、耐火性、防音性が高く、外装のモルタル層の剥離やひび割れのおそれがなく、安価であり、高層又は低層の建築物の排水管として使用したとき、流水の衝撃等による騒音の拡散防止等の防音性に優れた効果を有する耐火二層管の提供を目的とする。
【0014】
具体的には、本発明は、以下の点を解決すべき課題とする。
(1)耐火性防音層が、少なくとも従来の耐火二層管と同等の耐火性を有するとともに、モルタルを含浸させた不織布等により形成し、高剛性、耐火性、防音性を有するとともに、施工時、運搬時等において、吸音層の不織布繊維が飛散しないこと。
(2)高層又は低層の建築物用排水管として用いた時、排水騒音を低減する耐火二層管であること。
(3)接着剤を使用しなくても、吸音層と遮音層との剥離を確実に解消でき、さらに、内面の不織布等の吸音層により、排水管等の振動が吸収され、地震等の強い衝撃に遭遇しても吸音層からモルタル含浸層が剥離しないこと。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、
[1]合成樹脂製管の外面に、内側がモルタル非含浸の不織布又は連続気泡フォームからなる吸音層、前記吸音層の外側がモルタルを含浸させた不織布からなる遮音層である耐火性防音材を被覆してなることを特徴とする防音性を有する耐火二層管、
[2]前記不織布が、有機系繊維の圧縮体又はニードルパンチされたフェルトであることを特徴とする上記[1]に記載の防音性を有する耐火二層管、
[3] 前記モルタルが、セメント系モルタルであることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の防音性を有する耐火二層管、
[4]前記吸音層の厚さは少なくとも1mmであり、前記遮音層の厚さは少なくとも3mmであることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載の防音性を有する耐火二層管、
[5]排水用配管の材料として用いられることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載の防音性を有する耐火二層管、
【0016】
[6]合成樹脂製管外径に合わせた内径を有する、内側がモルタル非含浸の不織布又は連続気泡フォームからなる厚さが少なくとも1mmの吸音層、前記吸音層の外側がモルタルを含浸させた不織布からなる厚さが少なくとも3mmの遮音層である筒状の耐火性防音材を作製し、この筒状の耐火性防音材に前記合成樹脂製管を挿入することを特徴とする防音性を有する耐火二層管の製造方法、
[7]合成樹脂製管の外面に、不織布を巻き付けた後、セメント系モルタルを塗布又は含浸させて、内側がモルタル非含浸の不織布からなる少なくとも厚さ1mmの吸音層、前記吸音層の外側がモルタルを含浸させた不織布からなる少なくとも厚さ3mmの遮音層を形成することを特徴とする防音性を有する耐火二層管の製造方法、を開発することにより上記の課題を解決した。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る耐火二層管は、高層又は低層の住宅又は建築物に排水管として使用したとき、該排水管の火災抵抗性を高めて、従来の耐火二層管と同等又はそれ以上の耐火性を有し、内部の合成樹脂配管の表面温度の上昇を遅延させ、また、支持金具が焼失した際にも、剛性により配管の折損等を回避することができる。さらに、地震等の震動に対しても優れた耐震性を有するとともに、給排水時の配管内を流れる水の衝撃による騒音及び振動を低減することができる。
【0018】
本発明に係る耐火二層管の防音材は、モルタル非含浸の不織布(圧縮布又はフェルト状のもの)又は連続気泡フォームからなる吸音層、該吸音層の外側の一部にモルタルを含浸させた不織布の遮音層から構成されているため、安価で、防音材としては薄くても、吸音性及び遮音性に優れている。
また、従来の耐火二層管の外管が、押出法あるいは抄造法(巻き芯を抜くために養生が必要)で製造するのに比べて、本発明の耐火性防音材は、簡単な装置で、より容易に、かつ、安価に製造することができ、輸送等における制約が少ない。
さらに、前記防音材の内面は、モルタル非含浸の不織布等からなるため、合成樹脂製管等に不織布等を巻装後にモルタルを含浸させたときであっても、不織布等により緩衝されるため、モルタルの硬化の際の収縮を考慮する必要がない。しかも、吸音層とモルタル含浸層の剥離も全くなく、振動が激しくても、破損やクラックの発生に耐えられ、また、後からモルタルを含浸させた場合には、表面にモルタルの継ぎ目がない耐火二層管が得られる。
【0019】
本発明に係る耐火二層管は、表面が吸音層の不織布等へのモルタル含浸層であるため、完全に不燃性であり、高層不燃建築物に対応し、かつ、吸音材及び遮音材のいずれも有害物を含まないため、一般廃棄が可能である。
また、モルタル層の厚さの調節で、遮音性の調整が可能であり、特に、騒音の漏洩しやすい箇所(例えば、排水の衝突する曲管等)の必要部分のみモルタルを厚くすることによって対応可能であり、耐震性、耐火性、防音性に優れた二層管である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る耐火二層管の2層の防音材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明を詳細に説明する。
図1に、本発明に係る耐火二層管の防音材の構成を示す。この防音材は、モルタルを含浸させた不織布からなる遮音層2及びモルタル非含浸の不織布又は連続気泡フォームからなる吸音層1との2層構造である。
【0022】
前記吸音層1には、不織布又はポリウレタン等の連続気泡フォームが使用される。中でも、モルタルを含浸させる外面のフェルトの目付量(密度)を、モルタル非含浸の内面のフェルトの目付量(密度)に比して小さくして、モルタル含浸性を高めたものが好ましい。前記フェルトは、1枚のフェルトで疎部と密部の2層を有するものであっても、あるいはまた、密度の異なる2枚又はそれ以上のフェルトを組み合わせたものであってもよい。前記2層からなる1枚のフェルトは、繊維の種類が異なるものをニードルパンチ等で調整して一挙に製造することができる。
なお、本発明で言うフェルトとは、圧縮した繊維層、ニードルパンチしたフェルト等を含むものである。
【0023】
前記不織布の材質は、有機系繊維が好ましい。有機系繊維の不織布材料は、市販品をそのまま使用することができる上、物性的、コスト的に優れている。
不織布に使用される有機系繊維としては、ポリエチレンテレフタレート系(PET系ポリエステル)、6−ナイロン、6,6−ナイロン等のポリアミド、アクリル系繊維、木綿、羊毛等が挙げられる。中でも、物性や価格の点から、特に、PET系ポリエステル等の合成繊維が好ましい。
前記不織布は、制振、吸音効果の点で、フェルト、圧縮布として使用されることが好ましい。
【0024】
前記防音材に使用される不織布等の厚さ(吸音層と遮音層の合計)は、目的、材質や使用箇所により変更が必要であるが、通常3〜30mm、好ましくは4〜15mmである。
発泡ウレタンフォーム等の連続気泡フォームも、フェルトとほぼ同一程度の厚さで使用することができる。ただし、連続気泡フォームは、不織布よりもモルタル含浸層に対する補強効果が小さく、また、モルタルの含浸性が劣るため、本発明においては、モルタル非含浸の吸音層にのみ使用し、モルタル含浸の遮音層には使用しない。
【0025】
本発明において遮音層に使用される遮音材かつ耐火材としてのモルタルは、通常のセメントモルタル、早強ポルトランドセメント、超速硬セメントであり、硬化後に剛性を発揮することができるものであることが必要である。このモルタルは、水セメント比を選択することにより、良好な加工性を付与することができる。
使用するモルタルの粘度は、不織布の面重量(密度)、不織布の厚さ、必要となるモルタル含浸層の厚さ、モルタル含浸時間等を考慮して決定する必要がある。
なお、モルタル含浸時間を短縮するために、不織布のモルタル含浸層部分の面密度を、吸音層の部分に比して小さくしておくことも有効である。
また、不織布にモルタルを含浸させることにより、セメントの強度(剛性)を向上させることができるため、セメントモルタルとして短繊維混入モルタルの使用は不要である。短繊維混入モルタルは、むしろ、フェルトに対する浸透性が悪くなるため、短繊維は使用しないことが好ましい。
【0026】
モルタル含浸層の形成は、不織布を合成樹脂製管に巻き付けた後にモルタルを塗布又は含浸させることにより行うことができる。あるいはまた、不織布にモルタルを含浸させた後、その硬化前に成形しもよく、この場合は、被覆する面の形状に応じた形状の防音材による被覆が可能である。この方法は、Y字管、T字管や曲管部にも適用可能である。
【0027】
不織布にモルタルを含浸させた場合、モルタル非含浸の不織布層(非含浸層)を、少なくとも1mm、好ましくは3〜15mm程度残すことが必要である。この非含浸層の厚さは、モルタル含浸後に筒状の防音材に合成樹脂製管を挿入するとき等の加工性確保のためにも必要であるが、必要以上に厚くすることは、得られる耐火二層管の径が太くなるため好ましくない。
モルタル含浸層の厚さは、不織布の厚さ、目的、施工場所等に応じて適宜設定する必要がある。厚いほど遮音性が向上するが、重量の問題もあり、少なくとも3mm、好ましくは5〜10mm程度で、遮音性を相当発揮することができる。これ以上厚くしても、防音性は向上するものの、耐火性は向上せず、耐火二層管の重量が増加し、輸送、施工が困難になる。
【0028】
前記モルタル含浸層は、モルタルの硬化の際の収縮等が避けられないが、内面に不織布等があるため、それらの歪みは吸収され、内部に対する形状保持性、成形性に影響を与えない。また、該モルタル含浸層は、不織布で補強されたモルタル層であるため、耐火性は従来の短繊維混入モルタルと同等であり、遮音性に優れていることはもちろん、排水管等の被覆として使用した場合、振動によるひび割れのおそれがない。さらに、内面の不織布等の吸音層と一体化しているため、剥離の危険は全くない。
【0029】
上記のように、本発明の耐火性防音材は、内面は不織布等のままであり、外面に不織布にモルタルを含浸させた遮音層が形成されている。もちろん、モルタル含浸層の外側を同一のモルタル(この場合には、改めて塗布しなくても、含浸時に同時に形成してもよい。)又は他のモルタル、あるいはまた、樹脂フィルム、織布、塗料等の表面コート材、その他、吸音性向上のために不織布等の表面材で被覆することは自由である。
【0030】
本発明における合成樹脂製管は、従来の耐火二層管と同じものが使用できる。例えば、硬質塩化ビニル管(PVC管)、ポリエチレンテレフタレート管(PET管)等の熱可塑性樹脂から製造されたパイプを使用することができる。
【0031】
本発明に係る耐火二層管の製造方法は、上述したとおりであるが、具体的には、筒状に形成した不織布からなる吸音層表面にモルタルを塗布又は含浸させて遮音層を形成し、筒状の防音材を作製した後、合成樹脂製管を挿入する方法、合成樹脂製管の外面に吸音層を形成後、前記吸音層表面にモルタルを塗布又は含浸させる方法等が挙げられ、これらの方法により、排水管等の配管用の防音性を有する耐火二層管を容易に製造することができる。
【0032】
本発明の防音材においては、吸音層と遮音層の間に接着剤は使用しない。不織布の一部(疎部)にモルタルを含浸又は塗布して硬化させることにより、重量のある遮音層を形成する。このため、音源からの音波は、吸音層でその一部を熱に変換して吸音され、この吸音層を透過してきた音波を遮音層で反射させて、音源の反対側や排水管等の外部へ音波が漏れることを防止することができる。
【0033】
以上のとおり、本発明の耐火二層管は、内管の合成樹脂製管が、内側にモルタル非含浸の不織布等の吸音層、外側に不織布にモルタルを含浸させた遮音層からなる防音材の外管で被覆されているため、外管の遮音層は、従来の耐火二層管における外管と同様な耐火性能を有している。
また、排水管内部に振動があると、靱性に富む合成樹脂製内管は大きく振動し、外管に振動を与える。不織布等からなる吸音層と剛性の高いモルタル含浸層の遮音層とからなる防音材の外管は加速度に対する反応が鈍い。すなわち、前記防音材の内面側の吸音層は、柔軟な不織布等であるため、これがクッションとなり、凹むとともに接触面積を増大させてから、外面側のモルタル含浸層の遮音層に衝突するため、衝撃力は非常に低減される。したがって、振動(音波)の伝播が低減され、内管及び外管ともに、破損耐力が大きく改善される。
【0034】
集合住宅等に排水管として使用したときに問題となる騒音は、排水の集合管部又は曲管部への落下衝突の際の振動によって起こることが分かっている。振動は、剛性の高い材質の方への伝達が大きく、剛性の低い材質の方への伝達は小さい。また、振動は、主として鋳造金属からなる集合管部の突起部又は曲管部において発生するが、通常の耐火二層管においては、外管の剛性が高いため、振動の伝達が強く、これが騒音の伝達・発生の大きな要因となっていることが確認されている。
しかしながら、前記突起部又は曲管部に接合された二層管において、従来の耐火二層管では、排水管設備内部で発生した衝撃が、合成樹脂製管から直接、外管のモルタル層に伝達され、衝撃音、振動を吸収するものが全くなかった。
これに対して、本発明の耐火二層管では、吸音層として不織布等が存在し、合成樹脂製管からの衝撃の大部分が吸音層で吸収され、モルタル含浸層である遮音層への伝達が減殺される。また、前記モルタル含浸層は、モルタル非含浸の不織布等と一体化しているため、振動伝達が大きく減殺され、騒音の発生を減少させる顕著な効果が認められる。
【0035】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
長さ1.4mの称呼径φ100mm硬質塩化ビニル管(PVC管;重量4.78kg、外径約114mmφ)に、PETフェルト(材質PET;3.3,4.4,6.6デシテックスの混合品、概寸厚さ14mm、疎部約100g/m2、密部約200g/cm2の2層からなる。面重量平均300g/m2)に、モルタル(主成分ポルトランドセメント70±10重量部、砂26±6重量部(国土交通大臣認定配合))を厚さ7mmまで含浸させた防音材(内側:フェルト層、外側:含浸層)を巻いたPVC管を作製した。
これを半無響室(W:2m×L:3m×H:2m)内の試験装置(リオン社製;NA−29)にセットして一定流量:4リットル/秒の水を定常的に流し、管壁面から50cm、床面から110cmの高さにセットしたマイクを用いて、発生する騒音を測定した。
等価騒音レベル(LAeq)として10秒間測定してその値を騒音値とした。
また、その時のオクターブ周波数分析の結果を表1に示す。測定値は、ともに、A特性で計測したものである。
【0036】
[比較例1]
内管が長さ1.4mの呼び径100mmφの硬質塩化ビニル管(PVC管:重量4.78kg、外径約114mmφ)、外管が繊維混入モルタルセメント(厚さ6.5mm)であり、内管と外管の間に空隙を有する耐火二層管(ケイプラパイプ(登録商標);昭和電工建材株式会社製)を用いて、実施例1と同様にして、半無響室にセットして、一定流量:4リットル/秒の水を定常的に流し、管壁面から50cm、床面から110cmの高さにセットしたマイクを用いて、発生する騒音を測定した。
測定結果を表1に併せて示す。
【0037】
【表1】

【0038】
本発明で使用するモルタルは、脆く、それ単独では使用することは困難であるが、フェルト等の吸音層上に含浸させることにより、フェルト内面に浸透する。内部まで含浸しない場合であっても、フェルト表面の産毛状の短繊維に含浸されて補強されるため、飛躍的に強度が向上し、実用性を獲得することができる。
すなわち、本発明によれば、振動に対して強く、保管、移動等によってもモルタル層が破損されにくく、遮音層であるモルタル層が吸音層から剥離するおそれがなく、防音性に優れ、流水の衝撃等による騒音防止等に優れた効果を有し、しかも、加工性に優れている耐火二層管が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る耐火二層管は、モルタルを含浸させた不織布からなる遮音層と、モルタル非含浸の不織布又は連続気泡フォームからなる吸音層の2層を備えた防音材の外管を備えている。
本発明に係る耐火二層管は、製造が容易であり、コストも極めて低く、軽量、成形性、現場加工性、耐震動性、耐クラック性、耐水性、透水性に優れ、特に、前記防音材は、吸音層と遮音層は剥離の危険がほとんどなく、耐火性に優れているものである。
【符号の説明】
【0040】
1 吸音層
2 遮音層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製管の外面に、内側がモルタル非含浸の不織布又は連続気泡フォームからなる吸音層、前記吸音層の外側がモルタルを含浸させた不織布からなる遮音層である耐火性防音材を被覆してなることを特徴とする防音性を有する耐火二層管。
【請求項2】
前記不織布が、有機系繊維の圧縮体又はニードルパンチされたフェルトであることを特徴とする請求項1記載の防音性を有する耐火二層管。
【請求項3】
前記モルタルが、セメント系モルタルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の防音性を有する耐火二層管。
【請求項4】
前記吸音層の厚さは少なくとも1mmであり、前記遮音層の厚さは少なくとも3mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防音性を有する耐火二層管。
【請求項5】
排水用配管の材料として用いられることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の防音性を有する耐火二層管。
【請求項6】
合成樹脂製管外径に合わせた内径を有する、内側がモルタル非含浸の不織布又は連続気泡フォームからなる厚さが少なくとも1mmの吸音層、前記吸音層の外側がモルタルを含浸させた不織布からなる厚さが少なくとも3mmの遮音層である筒状の耐火性防音材を作製し、この筒状の耐火性防音材に前記合成樹脂製管を挿入することを特徴とする防音性を有する耐火二層管の製造方法。
【請求項7】
合成樹脂製管の外面に、不織布を巻き付けた後、セメント系モルタルを塗布又は含浸させて、内側がモルタル非含浸の不織布からなる少なくとも厚さ1mmの吸音層、前記吸音層の外側がモルタルを含浸させた不織布からなる少なくとも厚さ3mmの遮音層を形成することを特徴とする防音性を有する耐火二層管の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−21617(P2011−21617A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164406(P2009−164406)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000187194)昭和電工建材株式会社 (36)
【Fターム(参考)】