説明

降雨装置

【課題】安定した雨滴衝撃力を与えつつ降雨強度を自在に調整することができるとともに、急傾斜地への設置や持ち運びが容易な降雨装置を提供する。
【解決手段】ノズル50からの放水により人工的に降雨を与える降雨装置10を構成するにあたり、回転駆動手段22と、この回転駆動手段22の回転をノズル50の揺動運動(首振り運動)に変換する四節回転連鎖の梃子クランク機構により構成された動力伝達手段60と、ノズル50の揺動範囲(往復角運動の最大振れ角)の中心位置を外す位置に配置されてノズル50からの放水の一部を受けるキャッチトレイ100とを設け、動力伝達手段60を、梃子クランク機構のクランクの長さを変更自在な構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルからの放水により人工的に降雨を与える降雨装置に係り、例えば、急傾斜地や山地の浸透能を測定する場合等に利用できる。
【背景技術】
【0002】
従来より、農地等の低傾斜地においては、降雨装置を用いて人工的に降雨を与えることにより、浸透能の測定が行われている。このような浸透能の測定を行う際に用いる降雨装置としては、例えば、放水ノズルを揺動(首振り運動)させて測定対象地点に散水するものが知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
そして、より一般的な降雨装置としては、例えば、静水圧の変動により降雨量を自由に調節または一定に保つことができ、自然の降雨に近似した状況を容易に再現することができる人工降雨装置が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、多数のノズルユニットを備え、各ノズルユニットの給水路に設けられた各弁の開閉制御を行うことにより、迅速な降雨量の切り替えや、雨滴粒径の変更を可能とし、「通り雨」の再現も可能とした降雨システムが知られている(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−113588号公報(要約)
【特許文献2】特開平8−247322号公報(要約、請求項1)
【非特許文献1】L.D.メイヤー(Meyer)、W.C.ハーモン(Harmon)著、“低傾斜地の浸透能測定用の可変強度式人工降雨装置(Multiple−Intensity Rainfall Simulator for Erosion Reserch on Row Sideslopes)”、トランザクションズ・オブ・ザ・ASAE(Transactions of the ASAE)、22、1979年、p.100−103
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した非特許文献1に記載された低傾斜地の浸透能測定用の可変強度式人工降雨装置は、農地のような低傾斜地で用いる装置であり、装置が大掛かりなものであった。従って、容易に持ち運ぶことができず、また、急斜面に固定することもできないので、山地のような急傾斜地での浸透能の測定試験に用いるのには適していない。また、この装置では、ノズルを交換することにより、ノズルの特性が変わることを利用して降雨強度を変えることはできるものの、ノズルを変えれば、雨滴衝撃力が変わってしまうので、精度のよい浸透能の測定試験を行うことができない。なお、この非特許文献1に記載された装置では、ノズルは揺動(首振り運動)するが、本願発明とは異なり、揺動範囲(首振りの最大角度)を自在に調節することができるわけではないため、本願発明の如く雨滴衝撃力を安定させた状態で降雨強度を変化させることはできない。
【0007】
一般的に、ノズルの流量を変えたり、ノズルの口径を変えたり、あるいはノズルの吐出圧を変えることにより、降雨強度を調整することはできるが、それらの方法では、単位面積当たりに与えられる降雨エネルギ(J/mm/m2)が変わってしまうので、精度のよい浸透能の測定試験を行うことができない。なぜなら、近年、浸透能と雨滴衝撃力との間に関係があることがわかってきたため、浸透能の測定試験では、雨滴衝撃力を安定して与えながら、つまり降雨エネルギ(J/mm/m2)を一定に保ちながら、降雨強度を自在に調節することができる降雨装置が必要とされているからである。
【0008】
また、前述した特許文献1に記載された人工降雨装置では、静水圧の変動により降雨量を調節するので、安定した雨滴衝撃力を与えることができないうえ、水槽を用いることから、大掛かりな装置となり、持ち運ぶことは困難である。
【0009】
さらに、前述した特許文献2に記載された降雨システムでは、多数のノズルユニットを備えているので、大掛かりな装置となり、持ち運ぶことは困難であるとともに、各ノズルの弁の開閉制御を行うものであるから、複数のノズルをまとめて考えると、ノズルの流量制御と同じことになり、安定した雨滴衝撃力を与えることができない。
【0010】
本発明の目的は、安定した雨滴衝撃力を与えつつ降雨強度を自在に調整することができるとともに、急傾斜地への設置や持ち運びが容易な降雨装置を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ノズルからの放水により人工的に降雨を与える降雨装置であって、回転駆動手段と、この回転駆動手段の回転をノズルの揺動運動に変換する四節回転連鎖の梃子クランク機構により構成された動力伝達手段と、ノズルの揺動範囲の中心位置を外す位置に設けられてノズルからの放水の一部を受けるキャッチトレイとを備え、動力伝達手段は、梃子クランク機構のクランクの長さを変更自在とされていることを特徴とするものである。
【0012】
ここで、「ノズルからの放水の一部」とは、どのような装置の設定状態であっても、必ずキャッチトレイによりノズルからの放水の一部を受けるという意味ではなく、キャッチトレイによりノズルからの放水を受ける場合(そのような設定状態とした場合)には、放水の全部ではなく、一部のみを受けるという意味、つまり、ノズルからの放水量のうち、降雨として与えられる分量は必ず存在するという意味である。従って、キャッチトレイがノズルからの放水を全く受けない設定状態(ノズルからの放水の全部が、降雨として与えられる設定状態)があることを妨げるものではない。
【0013】
このような本発明においては、動力伝達手段が、梃子クランク機構のクランクの長さを変更自在な構成とされているので、ノズルの揺動範囲(往復角運動の最大振れ角)を自在に変更することが可能となる。従って、ノズルからの放水量のうち、降雨として与えられる分量と、キャッチトレイで捕捉される分量との比率を自在に調整することが可能となる。すなわち、キャッチトレイが、ノズルの揺動範囲の中心位置を外す位置に設けられているので、ノズルの揺動範囲(首振りの角度)が大きくなれば、ノズルからの放水量のうち、降雨として与えられる分量が少なくなり、キャッチトレイで捕捉される分量が多くなる。換言すれば、ノズルの揺動範囲が大きくなれば、ノズルからの放水を行っている時間のうち、降雨を与えている時間が少なくなり、キャッチトレイで捕捉されている時間が長くなる。このため、降雨強度を自在に調整することが可能となる。
【0014】
一方、上記の如く、ノズルの揺動範囲は使用者の調整によって変化し、これにより降雨強度が変化し、降雨強度の幅広い設定が可能となるが、ノズルの流量や口径や吐出圧は変える必要はないので、降雨強度の大小にかかわらず、雨滴衝撃力を安定して与えることが可能となる。従って、前述した非特許文献1に記載された低傾斜地の浸透能測定用の可変強度式人工降雨装置の場合とは異なり、降雨強度を調整するにあたり、ノズルを交換する必要はないので、単位面積当たりに与えられる降雨エネルギ(J/mm/m2)を変えることなく、降雨強度を自在に調整可能な降雨装置が実現される。このため、例えば、浸透能の測定試験を行う場合には、前述した如く浸透能と雨滴衝撃力との関係があることがわかってきているが、このような関係がある中で、本発明により、雨滴衝撃力を安定させた状態で、降雨強度を変化させることが可能となるので、より効果的な測定試験を行うことができるようになる。
【0015】
また、本発明では、梃子クランク機構のクランクの長さの変更によりノズルの揺動範囲(往復角運動の最大振れ角)を変更することで降雨強度の自在な調整を実現するので、前述した特許文献1に記載された人工降雨装置の場合のような水槽を用いた構成とする必要はなく、また、前述した特許文献2に記載された降雨システムの場合のような多数のノズルユニットを備えた構成とする必要もないので、装置の小型化が可能となり、これらにより前記目的が達成される。
【0016】
また、前述した降雨装置において、動力伝達手段は、中心から異なる距離に配置された複数の孔を有する円盤状部材からなる梃子クランク機構のクランクを構成するクランク構成部材と、このクランク構成部材に設けられた複数の孔のいずれかに回転自在に係合された梃子クランク機構の連接棒を構成する連接棒構成部材と、ノズルと一体的に揺動する梃子クランク機構の梃子を構成する梃子構成部材とを備えた構成とすることが望ましい。
【0017】
このように複数の孔を有する円盤状部材により梃子クランク機構のクランクの長さを変更可能なクランク構成部材を構成した場合には、長さの異なる複数のクランク構成部材を用意するのではなく、1つの円盤状部材により、複数の長さのクランクを予め用意したのと同じ効果が得られるので、装置構成の簡易化や装置の部品点数の削減が図られる。また、持ち運びにも、より一層便利な降雨装置が実現され、山地のような急傾斜地での浸透能の測定試験に用いるのに、より適した構成の装置となる。
【0018】
さらに、以上に述べた降雨装置において、ノズル、回転駆動手段、動力伝達手段、およびキャッチトレイを備えて構成された本体を支持する3本の脚部を備え、これらの脚部の各々は、接地用の棒状部材からなる下側脚部と、この下側脚部と本体とを繋ぐ上側脚部と、この上側脚部を本体に対し上下方向に回動可能に接続するとともに自在な角度で固定可能な関節部と、上側脚部の端部に設けられて下側脚部を摺動自在に把持する把持部とを備えた構成とすることが望ましい。
【0019】
このように3本の脚部を備えた構成とした場合には、脚部の本数が少ないことから装置の軽量化が図られ、持ち運びも可能となるので、山地のような急傾斜地での浸透能の測定試験への対応が、より一層容易になる。また、山地のような急傾斜地では、4本足にすると、斜面の形状によっては、位置決め作業や、装置の本体の水平を出す作業を行うことが非常に困難になる場合があるが、3本の脚部とすることにより、4本足の場合に比べ、これらの作業を容易に行うことが可能となり、装置の設置作業上、有利となる。
【発明の効果】
【0020】
以上に述べたように本発明によれば、梃子クランク機構のクランクの長さを変更自在な構成とされた動力伝達手段を備えているので、安定した雨滴衝撃力を与えつつ降雨強度を自在に調整することができるとともに、急傾斜地への設置や持ち運びが容易な降雨装置を実現することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1には、本実施形態の降雨装置10の全体構成が斜視図で示されている。また、図2は、降雨装置10の正面図であり、図3は、降雨装置10の要部の拡大正面図であり、図4は、降雨装置10の側面図である。さらに、図5は、降雨装置10の要部の動作の説明図である。
【0022】
図1において、降雨装置10は、本体20と、この本体20に接続された3本の脚部120と、本体20を構成する回転駆動手段であるモータ22の回転数を制御するコントローラ40とを備えて構成されている。
【0023】
本体20は、装置使用時には水平または略水平に配置される板状の基礎部材21と、この基礎部材21の上面に固定された回転駆動手段であるモータ22と、基礎部材21の上面にモータ22の上方を覆うように設けられた下向き略コの字断面状のカバー23と、このカバー23の上面に立設されてクランク構成部材70の回転軸24を図示されないベアリングで回転可能に支持するクランク軸支持部25,26とを備えている。
【0024】
また、図4に示すように、本体20は、モータ22の回転軸27の端部に設けられたプーリ28と、クランク構成部材70の回転軸24の端部に設けられたプーリ29と、これらのプーリ28,29間に掛け渡されたベルト30とを備えている。従って、モータ22の回転軸27が回転すると、この回転は、プーリ28、ベルト30、プーリ29、クランク構成部材70の回転軸24の順に伝達され、クランク構成部材70が回転するようになっている。また、モータ22には、ケーブル31を介してコントローラ40(図1参照)が接続されている。
【0025】
さらに、図4に示すように、本体20は、基礎部材21の下側に設けられて揺動運動(首振り運動、往復角運動)を行う放水用のノズル50と、このノズル50に接続されてノズル50と一体的に揺動運動を行うエルボウ51と、このエルボウ51に接続されたホース52と、基礎部材21の下面から下方に突出するように設けられてノズル50およびエルボウ51の揺動軸53を図示されないベアリングで回転可能に支持する揺動軸支持部54と、ホース52の端部を固定するホース端固定部55とを備えている。そして、ホース52から供給された水(矢印D1)は、エルボウ51を通って流れ方向を略90度変えられてノズル50から噴射される(矢印D2)ようになっている。また、揺動運動を行うエルボウ51は、固定されたホース52の端部に対し、相対的に回転することになるが、水漏れすることなく、ホース52からの水を受け取り、ノズル50へ送ることができるようになっている。
【0026】
また、図3に示すように、本体20は、モータ22の回転(従って、クランク構成部材70の回転軸24の回転)をノズル50の揺動運動(首振り運動、往復角運動)に変換する四節回転連鎖の梃子クランク機構により構成された動力伝達手段60を備えている。この動力伝達手段60は、梃子クランク機構のクランク、連接棒、梃子(てこ)をそれぞれ構成するクランク構成部材70、連接棒構成部材80、梃子構成部材90を備えて構成されている。なお、本願明細書に記載された「四節回転連鎖」、「梃子クランク機構」、「クランク」、「連接棒」、「梃子(てこ)」の用語は、それぞれ一般的な機構学の文献(例えば、稲田、森田著、“大学課程 機構学”、オーム社、昭和41年2月20日初版)に記載されているものと同じである。
【0027】
クランク構成部材70は、本実施形態では、一例として、中心から異なる距離に配置された複数(例えば9個)の孔71,72,73,74,75,76,77,78,79を有する円盤状部材により形成されている。クランク構成部材70の中心位置C1(クランク構成部材70の回転軸24の中心位置)から、各孔71〜79の中心位置までの距離は、例えば、17.2mm〜29.0mmの間で段階的に増えていく。そして、各孔71〜79のうち、いずれか1つ選択された孔と、連接棒構成部材80の上側端部81に設けられた孔とに、ボルト61を貫通させることにより、連接棒構成部材80をクランク構成部材70の各孔71〜79のいずれか1つに回転可能に係合させるようになっている。これにより、梃子クランク機構のクランクの長さを段階的(例えば9段階)に変化させることができ、クランク構成部材70の中心位置C1と各孔71〜79の中心位置とを結んだ長さを有する複数(例えば9個)のクランクが予め用意されている状態と同じとなる。また、各孔71〜79を選択すると、本実施形態では、一例として、ノズル50の揺動範囲(左右の振れ角を合わせた最大振れ角)が70度、80度、90度、100度、110度、120度、130度、140度、150度と変化するようになっている。
【0028】
なお、クランク構成部材70に設ける孔の個数は、9個に限定されるものではなく、複数であれば任意である。また、本実施形態では、クランク構成部材70は、円盤状部材により形成されているが、クランク構成部材は、円盤状部材に限らず、例えば、多角形、楕円形、星形の板状部材等で形成してもよく、正面形状は任意であり、要するに、中心から異なる距離に配置された複数の孔を形成することができればよい。さらに、このように1つの部材に、複数の孔を設けるのではなく、長さの異なる複数のクランク構成部材(例えば、棒状部材や細長い長方形の板状部材でよい。)を予め用意しておいてもよい。しかし、持ち運びの容易性や回転の安定性という観点からは、クランク構成部材は、円盤状部材とすることが好ましく、また、装置構成の簡易化や装置の部品点数の削減という観点からは、長さの異なる複数のクランク構成部材を用意するのではなく、1つのクランク構成部材に複数の孔を設ける構成とすることが好ましい。
【0029】
連接棒構成部材80は、本実施形態では、一例として、細長く伸びたコの字状の正面形状を有する板状部材により形成されている。この連接棒構成部材80は、梃子構成部材90の端部に設けられた孔と、連接棒構成部材80に設けられた下側端部82に設けられた孔とに、ボルト62を貫通させることにより、梃子構成部材90に回転可能に係合されている。なお、連接棒構成部材の正面形状は、コの字状に限定されるものではなく任意であり、要するに、クランク構成部材70と、梃子構成部材90との間を繋ぐいわゆる連接棒の機能を発揮することができる部材であればよい。
【0030】
梃子構成部材90は、本実施形態では、一例として、長方形の板状部材により形成されている。この梃子構成部材90は、ノズル50およびエルボウ51の揺動軸53(図4参照)にボルト63により固定され、これにより、ノズル50およびエルボウ51は、梃子構成部材90と一体化されて揺動(首振り運動、往復角運動)するようになっている。従って、梃子構成部材90の回転軸は、ノズル50およびエルボウ51の揺動軸53と一致している。また、梃子構成部材90の長さは、梃子構成部材90の回転中心の位置C2、すなわちノズル50およびエルボウ51の揺動軸53の中心位置から、連接棒構成部材80との係合位置(ボルト62の中心位置)まで、例えば30mmであり、クランク構成部材70の中心位置C1から各孔71〜79の中心位置までの距離(例えば、17.2mm〜29.0mm)のうち最大の距離(例えば29.0mm)よりも大きくなっており、これにより、四節回転連鎖の梃子クランク機構が成立している。
【0031】
また、本実施形態では、梃子構成部材90の延びる方向E1(梃子構成部材90の回転中心の位置C2と連接棒構成部材80との係合位置とを結んだ方向)と、ノズル50の噴射中心の方向E2とのなす角度θを、クランク構成部材70の各孔71〜79の選択に応じ、複数種類(例えば3種類)の角度で調整した状態で、梃子構成部材90を、ノズル50およびエルボウ51の揺動軸53(図4参照)にボルト63により固定するようになっている。例えば、クランク構成部材70の孔71,72,73を選択すると、ノズル50の揺動範囲(左右の振れ角を合わせた最大振れ角)が70度、80度、90度となるが、これらの3つの孔71,72,73を選択した場合(クランクの長さを、これらの3つの孔71,72,73のいずれかを選択して定めた場合)には、方向E1,E2のなす角度θを、例えば、95.0度に固定する。また、クランク構成部材70の孔74,75,76を選択すると、ノズル50の揺動範囲(左右の振れ角を合わせた最大振れ角)が100度、110度、120度となるが、これらの3つの孔74,75,76を選択した場合(クランクの長さを、これらの3つの孔74,75,76のいずれかを選択して定めた場合)には、方向E1,E2のなす角度θを、例えば、93.5度に固定する。さらに、クランク構成部材70の孔77,78,79を選択すると、ノズル50の揺動範囲(左右の振れ角を合わせた最大振れ角)が130度、140度、150度となるが、これらの3つの孔77,78,79を選択した場合(クランクの長さを、これらの3つの孔77,78,79のいずれかを選択して定めた場合)には、方向E1,E2のなす角度θを、例えば、92.0度に固定する。このように方向E1,E2のなす角度θを、クランク構成部材70の各孔71〜79の選択に応じ、複数種類(例えば3種類)の角度で調整することにより、ノズル50の揺動範囲(往復角運動の最大振れ角)の中心の向きを所望の向きに設定することができ、例えば、可変長のクランクをいずれの長さに設定しても、常にノズル50の揺動範囲の中心の向きが、真下または略真下を向く設定を実現することができる。
【0032】
さらに、図1および図2に示すように、本体20は、ノズル50からの放水の一部を受けるためにノズル50の下方に設けられたキャッチトレイ100を備えている。このキャッチトレイ100は、例えば、アクリル板等により形成され、ノズル50からの放水により降雨を与える範囲(角度の幅)とノズル50からの放水を捕捉する範囲(角度の幅)とを区画する図2中の左右方向の2カ所に配置された区画部101と、これらの外側にそれぞれ配置された外面部102と、各区画部101と各外面部102との間の空間108の下方を塞ぐ底面部103と、図2中の手前側および奥側の2カ所に配置されて各区画部101と各外面部102との間の空間108の側方を塞ぐ略台形状の側面部104(図1参照)とを備えて構成されている。各外面部102は、各区画部101と略平行に配置される斜面部105と、鉛直面部106とを備えて構成されている。さらに、側面部104の下部には、キャッチトレイ100の空間108に貯まった水を排水するための排水口107が設けられている。
【0033】
また、キャッチトレイ100の各区画部101は、傾斜角度が鉛直面に対して、例えば35度とされ、従って、各区画部101同士がなす角度αは、例えば、70度とされている。この70度という角度αは、本実施形態では、クランク構成部材70の各孔71〜79のうちクランク構成部材70の中心位置C1に最も近い位置に配置された孔71を選択したときのノズル50の揺動範囲(左右の振れ角を合わせた最大振れ角)と一致している。従って、両側の区画部101のなす角度αは、ノズル50の揺動範囲(左右の振れ角を合わせた最大振れ角)を最小に設定した場合の角度と一致している。そして、この状態で、すなわち、クランク構成部材70の孔71を選択した状態で、モータ22を回転させ、ノズル50を揺動(首振り運動)させると、ノズル50からの放水は、すべて両側の区画部101のなす角度αの範囲内で行われることになるため、すべての放水量が降雨として与えられ、キャッチトレイ100で捕捉される分量は無くなる。このため、クランク構成部材70の孔71を選択した場合には、降雨強度が最大になる。
【0034】
一方、クランク構成部材70のその他の孔72〜79を選択した状態で、モータ22を回転させ、ノズル50を揺動(首振り運動)させると、ノズル50の揺動範囲(左右の振れ角を合わせた最大振れ角)は、角度αよりも大きくなる。従って、ノズル50からの放水の一部が、キャッチトレイ100で捕捉される。このため、クランク構成部材70の孔72〜79を選択した場合には、クランク構成部材70の孔71を選択した場合に比べ、降雨強度が小さくなる。そして、クランク構成部材70の中心位置C1から離れて配置された孔を選択する程、ノズル50の揺動範囲(左右の振れ角を合わせた最大振れ角)が大きくなるので、キャッチトレイ100で捕捉される分量が多くなり、降雨として与えられる分量が少なくなるため、降雨強度が小さくなっていく。各区画部101同士がなす角度αは、変化しないが、全体時間に対し、ノズル50の放水の中心方向が角度αの範囲を通過している時間の割合が小さくなるからである。このため、クランク構成部材70の中心位置C1から最も離れて配置された孔79を選択すると、ノズル50の揺動範囲(左右の振れ角を合わせた最大振れ角)は、最大の角度β(例えば150度)となり、降雨強度が最小になる。
【0035】
図1および図2において、脚部120は、本体20を構成する基礎部材21の周縁部の3箇所に、互いに略120度をなすように設けられている。各脚部120は、接地用の棒状部材からなる下側脚部121と、この下側脚部121と本体20とを繋ぐ上側脚部122と、この上側脚部122を本体20に対し上下方向に回動可能に接続するとともに自在な角度で固定可能な関節部123と、上側脚部122の端部(関節部123と接続された端部とは反対側の端部)に設けられて下側脚部121を摺動自在に把持する把持部124とを備えて構成されている。
【0036】
関節部123は、ボルト125で本体20の基礎部材21に固定されている。関節部123は、二股部を有し、この二股部の間に上側脚部122の端部を挟み込んだ状態で、二股部および上側脚部122の端部を貫通するボルト126を締め込むことにより、本体20に対する上側脚部122の姿勢が固定されるようになっている。また、把持部124は、二股状のクリップ構造を有し、この二股状のクリップで下側脚部121を挟み込んだ状態で、クリップの先端をボルト127で締め込むことにより、上側脚部122に対する下側脚部121の姿勢が固定されるようになっている。さらに、下側脚部121としては、例えば、様々な長さのパイプ等を用いることができる。
【0037】
このような本実施形態においては、図5に示すようにして降雨装置10が動作し、ノズル50の首振りにより降雨が与えられる。図5の例では、クランク構成部材70の中心位置C1から最も離れて配置された孔79に、連接棒構成部材80が係合されている。
【0038】
図5(A)では、クランク構成部材70のクランクの向き、すなわちクランク構成部材70の中心位置C1から孔79へ延ばした直線の向きが、水平右向き(3時の向き)となっている。この際、ノズル50は、下方(6時の向き)を向いている。
【0039】
そして、図5(A)の状態から、モータ22を回転させ、クランク構成部材70をC1を中心に反時計回りに90度回転させ、クランクの向きを垂直上向き(12時の向き)にすると、連接棒構成部材80により梃子構成部材90の端部が上方に引っ張られ、梃子構成部材90がC2を中心に反時計回りに回動する。すると、この梃子構成部材90の回動に伴って、図5(B)に示すように、梃子構成部材90と一体化されたノズル50が右方向に首を振る。
【0040】
続いて、図5(B)の状態から、モータ22を回転させ、クランク構成部材70をC1を中心に反時計回りにさらに90度回転させ、クランクの向きを水平左向き(9時の向き)にすると、連接棒構成部材80により梃子構成部材90の端部が下方に押され、梃子構成部材90がC2を中心に時計回りに回動する。すると、この梃子構成部材90の回動に伴って、図5(C)に示すように、梃子構成部材90と一体化されたノズル50が左方向に首を振る。
【0041】
その後、図5(C)の状態から、モータ22を回転させ、クランク構成部材70をC1を中心に反時計回りにさらに90度回転させ、クランクの向きを垂直下向き(6時の向き)にすると、連接棒構成部材80により梃子構成部材90の端部がさらに下方に押され、梃子構成部材90がC2を中心に時計回りにさらに回動する。すると、この梃子構成部材90の回動に伴って、図5(D)に示すように、梃子構成部材90と一体化されたノズル50がさらに左方向に首を振る。
【0042】
続いて、図5(D)の状態から、モータ22を回転させ、クランク構成部材70をC1を中心に反時計回りにさらに90度回転させ、クランクの向きを水平右向き(3時の向き)に戻すと、連接棒構成部材80により梃子構成部材90の端部が上方に引っ張られ、梃子構成部材90がC2を中心に反時計回りに回動する。すると、この梃子構成部材90の回動に伴って、図5(A)に示すように、梃子構成部材90と一体化されたノズル50が右方向に首を振って元の位置に戻る。
【0043】
そして、以上のような図5(A)〜図5(D)の動作を繰り返すことにより、ノズル50の揺動運動(首振り運動)が実現され、ノズル50からの放水のうちキャッチトレイ100で捕捉されない分が、本体20の下方の地面に対し、降雨として与えられる。
【0044】
このような本実施形態によれば、次のような効果がある。すなわち、降雨装置10の動力伝達手段60は、梃子クランク機構のクランクの長さ(いわゆるクランクとして機能する部分の長さ)を変更自在な構成とされたクランク構成部材70を備えているので、ノズル50の揺動範囲(往復角運動の最大振れ角)を自在に変更することができる。従って、ノズル50からの放水量のうち、降雨として与えられる分量と、キャッチトレイ100で捕捉される分量との比率を自在に調整することができる。すなわち、キャッチトレイ100が、ノズル50の揺動範囲の中心位置を外す位置に設けられているので、ノズル50の揺動範囲(首振りの角度)が大きくなれば、ノズル50からの放水量のうち、降雨として与えられる分量が少なくなり、キャッチトレイ100で捕捉される分量が多くなる。換言すれば、ノズル50の揺動範囲が大きくなれば、ノズル50からの放水を行っている時間のうち、降雨を与えている時間が少なくなり、キャッチトレイ100で捕捉されている時間が長くなる。このため、降雨強度を自在に調整することができる。
【0045】
一方、上記の如く、ノズル50の揺動範囲は使用者の調整によって変化し、これにより降雨強度が変化し、降雨強度の幅広い設定を行うことができるが、ノズル50の流量や口径や吐出圧は変える必要はないので、降雨強度の大小にかかわらず、雨滴衝撃力を安定して与えることができる。従って、前述した非特許文献1に記載された低傾斜地の浸透能測定用の可変強度式人工降雨装置の場合とは異なり、降雨強度を調整するにあたり、ノズルを交換する必要はないので、単位面積当たりに与えられる降雨エネルギ(J/mm/m2)を変えることなく、降雨強度を自在に調整可能な降雨装置10を実現することができる。
【0046】
このため、例えば、浸透能の測定試験を行う場合には、前述した如く、近年、浸透能と雨滴衝撃力との関係があることがわかってきているが、このような関係がある中で、本降雨装置10により、雨滴衝撃力を安定させた状態で、降雨強度を変化させることができるので、より効果的な測定試験を行うことができる。具体的には、本降雨装置10によれば、例えば、雨滴衝撃力15J/mm/m2を安定して与えつつ、降雨強度を、例えば、100mm/h〜280mm/hの間で変更することができる。
【0047】
また、降雨装置10は、クランク構成部材70における梃子クランク機構のクランクの長さの変更(各孔71〜79の選択)により、ノズル50の揺動範囲(往復角運動の最大振れ角)を変更することで降雨強度の自在な調整を実現するので、前述した特許文献1に記載された人工降雨装置の場合のような水槽を用いた構成とする必要はなく、また、前述した特許文献2に記載された降雨システムの場合のような多数のノズルユニットを備えた構成とする必要もないため、装置の小型化、軽量化を図ることができる。従って、降雨装置10は、持ち運びが可能となり、取り扱いも容易となるので、山地のような急傾斜地への運搬、設置等にも対応することができ、従来の大掛かりな装置では困難であった、山地等の急傾斜地の浸透能の測定試験を行うことができる。しかも、前述したように、降雨装置10は、雨滴衝撃力を安定させた状態で、降雨強度を変化させることができるので、山地斜面等の急傾斜面に、自然の降雨エネルギと同等な降雨エネルギを与え、山地等の急傾斜地の浸透能について正確に測定、評価することができる。このため、従来、明確ではなかった森林の水土保全効果および森林施業の水土保全効果について正確に判定することができる。
【0048】
さらに、降雨装置10は、複数の孔71〜79を有する円盤状部材により、梃子クランク機構のクランクの長さを変更可能なクランク構成部材70を構成しているので、長さの異なる複数のクランク構成部材を用意するのではなく、1つの円盤状部材により、複数の長さのクランクを予め用意したのと同じ効果を得ることができる。このため、装置構成の簡易化や装置の部品点数の削減を図ることができる。従って、この点でも、持ち運びに、より一層便利な降雨装置10を実現することができ、山地のような急傾斜地での浸透能の測定試験に用いるのに、より適した構成の装置を実現することができる。
【0049】
そして、降雨装置10は、3本の脚部120を備えているので、脚部120の本数が少ないことから装置の軽量化を図ることができ、持ち運びも容易にできるため、この点でも、山地のような急傾斜地の浸透能の測定試験に用いるのに、より一層適した装置を実現することができる。また、山地のような急傾斜地では、4本足にすると、斜面の形状によっては、位置決め作業や、本体20の水平を出す作業を行うことが非常に困難になる場合があるが、3本の脚部120とすることにより、4本足の場合に比べ、これらの作業を容易に行うことができる。
【0050】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲内での変形等は本発明に含まれるものである。
【0051】
例えば、前記実施形態では、降雨装置10は、3本の脚部120を備えた構成とされていたが、脚部の本数は、3本に限定されるものではなく、4本以上としてもよい。但し、装置の軽量化、部品点数の削減、持ち運びや取り扱いの容易性、さらには、山地等の急傾斜地での位置決め作業や水平出し作業の容易性等の観点から、前記実施形態のように3本の脚部120を備えた構成とすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明の降雨装置は、例えば、急傾斜地や山地の浸透能を測定する場合等に用いるのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態の降雨装置の全体構成を示す斜視図。
【図2】前記実施形態の降雨装置の正面図。
【図3】前記実施形態の降雨装置の要部の拡大正面図。
【図4】前記実施形態の降雨装置の側面図。
【図5】前記実施形態の降雨装置の要部の動作の説明図。
【符号の説明】
【0054】
10 降雨装置
22 回転駆動手段であるモータ
50 ノズル
60 動力伝達手段
70 クランク構成部材
71〜79 孔
80 連接棒構成部材
90 梃子構成部材
100 キャッチトレイ
120 脚部
121 下側脚部
122 上側脚部
123 関節
124 把持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルからの放水により人工的に降雨を与える降雨装置であって、
回転駆動手段と、この回転駆動手段の回転を前記ノズルの揺動運動に変換する四節回転連鎖の梃子クランク機構により構成された動力伝達手段と、前記ノズルの揺動範囲の中心位置を外す位置に設けられて前記ノズルからの放水の一部を受けるキャッチトレイとを備え、
前記動力伝達手段は、前記梃子クランク機構のクランクの長さを変更自在とされていることを特徴とする降雨装置。
【請求項2】
前記動力伝達手段は、
中心から異なる距離に配置された複数の孔を有する円盤状部材からなる前記梃子クランク機構の前記クランクを構成するクランク構成部材と、
このクランク構成部材に設けられた前記複数の孔のいずれかに回転自在に係合された前記梃子クランク機構の連接棒を構成する連接棒構成部材と、
前記ノズルと一体的に揺動する前記梃子クランク機構の梃子を構成する梃子構成部材と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の降雨装置。
【請求項3】
前記ノズル、前記回転駆動手段、前記動力伝達手段、および前記キャッチトレイを備えて構成された本体を支持する3本の脚部を備え、
これらの脚部の各々は、接地用の棒状部材からなる下側脚部と、この下側脚部と前記本体とを繋ぐ上側脚部と、この上側脚部を前記本体に対し上下方向に回動可能に接続するとともに自在な角度で固定可能な関節部と、前記上側脚部の端部に設けられて前記下側脚部を摺動自在に把持する把持部とを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の降雨装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−136714(P2009−136714A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312784(P2007−312784)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業に関する委託研究、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(390026309)共和技術株式会社 (1)
【Fターム(参考)】