説明

除電装置

【課題】イオンバランスの調整精度を向上させることができる除電装置を提供する。
【解決手段】イオンバランスの調整に際して、正負のデューティ比D1,D2を交互に1段階ずつ増減させる。このため、正負のデューティ比D1,D2の合計が100%となるように正負のデューティ比D1,D2を同時に調整する場合と比べて、イオンバランスの最小調整値(分解能)は1/2となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気を除去する除電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正極性のイオンと負極性のイオンとを交互に発生させる除電装置として、たとえば特許文献1に記載される構成が知られている。この除電装置は、直流電源に第1および第2のスイッチを介してそれぞれ接続される第1および第2の高電圧発生回路を備えてなる。第1の高電圧発生回路は直流電源の直流電圧を昇圧して正極性の高電圧を、第2の高電圧発回路は同じく負極性の高電圧を生成する。第1および第2の高電圧発生回路の出力端子の間には、等価な2つの抵抗が直列に接続され、さらにこれら抵抗の接続点には放電針が接続されている。除電装置の制御装置による第1および第2のスイッチの開閉制御を通じて、放電針に対して正極性および負極性のパルス状の高電圧が交互に印加される。すなわち、正負の極性が周期的に反転する交流パルス電圧が放電針に印加されることにより、当該放電針の先端の周囲にはコロナ放電による正極性および負極性のイオンが交互に生成される。
【0003】
除電装置では、生成される正極性のイオンおよび負極性のイオンの均衡(以下、「イオンバランス」という。)が0Vに近いほど精度の高い除電を行うことができる。イオンバランスが崩れると、除電対象を逆に帯電させてしまう逆帯電が発生したり、完全な除電ができなかったりするなど、安定した除電が困難となる。この点、特許文献1では、第1および第2のスイッチの開閉時間の制御を通じて正極性および負極性の電圧印加時間、すなわち正極性および負極性の電圧のパルス幅を調整することにより、イオンバランスを調整することが可能とされている。この際、第1および第2のスイッチの開閉時間の比率は、正のデューティ比D1、および負のデューティ比D2の合計が100%になるように調整される。ここで、正のデューティ比D1とは、交流パルス電圧の1周期に対する正極性パルス幅の比をいう。負のデューティ比D2とは、交流パルス電圧の1周期に対する負極性パルス幅の比をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−58290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、図4(a)に示すように、正極性パルス幅(=時間T1)と負極性パルス幅(=時間T2)とが等しい場合、すなわち正のデューティ比D1および負のデューティ比D2がそれぞれ50%である場合であれ、正極性のイオンおよび負極性のイオンの発生量に差が生じることが考えられる。この場合、イオンバランスが悪くなるので、当該イオンバランスの調整を行う必要がある。
【0006】
ここで、図5(a)に示されるように、正のデューティ比D1および負のデューティ比D2がそれぞれ50%である場合のイオンバランスが−10Vであるときを想定する。このときイオンバランスをとるためには、正極性のイオンを増大させる必要がある。たとえば、放電針に印加される交流パルス電圧の周波数を100Hz、制御装置の割り込み周期を20μsとした場合、図4(b)に矢印で示されるように、正のデューティ比D1を1段階(ここでは、0.2%)だけ増大させるとともに負のデューティ比D2を1段階だけ減少させる。これらデューティ比D1,D2の調整結果は、つぎの(X)式のようになる。
【0007】
D1:D2=50.20%:49.80% ・・・(X)
当該調整により、正極性のパルス電圧の印加時間が増大することにより、生成される正極性のイオンの量は増大する。逆に、負極性のパルス電圧の印加時間が減少することにより、生成される負極性のイオンの量は減少する。その結果、発生するイオン全体における正極性のイオンが占める割合が一気に増大する。
【0008】
図5(b)に示されるように、当該調整後のイオンバランスを、実際に製品モデルを使用して測定したところ、当該イオンバランスは、約+10Vとなった。すなわち、調整前のイオンバランスが−10Vであったのに対して調整後のイオンバランスは+10Vとなることから、イオンバランスの最小調整値(分解能)は、約20Vであることが分かる。
【0009】
前述したように、イオンバランスは0Vに近いほど好ましい。しかし、最小調整値が20Vである場合、イオンバランスを要求レベルに調整することが困難となるおそれがある。たとえば、イオンバランスを0Vに近似させる場合、今後は先程とは反対に、負極性のイオンを増大させる必要がある。この場合、正のデューティ比D1を1段階だけ減少させるとともに、負のデューティ比D2を1段階だけ増大させる。すると、正負のデューティ比D1,D2は、結局、前記(X)で示される元の関係となる。イオンバランスは、+10Vから元の−10Vに近似する値へ変化する。
【0010】
このように、イオンバランスの調整に際して、正負のデューティ比D1,D2を同時に調整する方法では、イオンバランスが全体として大きく変動しすぎる場合が懸念される。また、イオンバランスの微調整が要求される状況に対応できない場合には、ユーザにとって除電装置が扱いにくいものとなるおそれがある。
【0011】
なお、正負のデューティ比D1,D2の1段階分の増減値、すなわちイオンバランスの最小調整値は、交流パルス電圧の周波数によって異なる。しかし、程度の差はあれども、前述と同様の問題を生じ得る。
【0012】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、イオンバランスの調整精度を向上させることができる除電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、特定の周期で正負の極性が反転する交流パルス電圧を単一の放電針に印加して、当該交流パルス電圧の正負のパルス幅に応じた量の正負のイオンを交互に生成する除電装置において、前記交流パルス電圧の1周期に対する正負のパルス幅の比である正負のデューティ比の少なくとも一方のみを増減させることにより正負のイオンの生成量を制御する制御回路を備えてなることをその要旨とする。
【0014】
本発明によれば、正負のデューティ比をこれらの合計が100%となるように同時に調整する場合と比較して、イオンバランスの最小調整値(分解能)は小さくなる。これは、正負のデューティ比を片側ずつ増減させることにより、正負のイオンの生成量の変化量が小さくなるからである。したがって、イオンバランスの調整精度を向上させることができる。
【0015】
また、請求項2に記載するように、前記正負のデューティ比は、調整可能とされる最小単位ずつ増減させることが好ましい。このようにすれば、正負のイオンの発生量を、より細かく制御することが可能になる。
【0016】
また、除電装置としては、たとえば請求項3に記載される構成が採用される。すなわち、除電装置は、電源電圧を昇圧して正極性の高電圧を放電針に印加する第1の給電経路を開閉する第1のスイッチと、同じく負極性の高電圧を前記放電針に印加する第2の給電経路を開閉する第2のスイッチと、を備えている。そして、前記制御回路は、前記第1および第2のスイッチを交互にオンオフさせることにより前記交流パルス電圧を生成する。また、前記制御回路は、前記正負のデューティ比に応じて前記第1および第2のスイッチのオンオフ時間を制御する。
【0017】
また、請求項4に記載されるように、正負のデューティ比を増大または減少させる旨の指令が入力される入力装置を除電装置に備えてもよい。この場合、前記制御回路は、前記入力装置を通じて入力される指令に基づき前記正負のデューティ比を増減させる。この構成によれば、入力装置を介して、正負のイオンバランスを適宜調整することができる。
【0018】
さらに、請求項5に記載されるように、正負のイオンの多少に応じて前記放電針とグランドとの間に生ずるイオン電流を検出する検出回路を除電装置に設けることも可能である。そして、前記制御回路は、前記検出回路の検出結果に基づき前記正負のデューティ比を増減させる。すなわち、この構成によれば、正負のイオンバランスが、その時々で検出される実際のイオンバランスに応じて、自動的に調整される。このため、除電装置の使い勝手が向上する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、正負のデューティ比を交互に増減させることにより、イオンバランスの調整精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】除電装置の回路図。
【図2】(a)〜(d)は、放電針に印加される交流パルス電圧の波形図。
【図3】(a)〜(d)は、イオンバランスの変化を示す波形図。
【図4】(a),(b)は、従来の交流パルス電圧の波形図。
【図5】(a),(b)は、従来のイオンバランスの変化を示す波形図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図1〜図3に基づいて説明する。
図1に示すように、除電装置11は、直流電源12のプラス端子とマイナス端子との間にそれぞれ接続される第1および第2の高電圧発生回路13,14を備えてなる。第1の高電圧発生回路13は、直流電源12の直流電圧(電源電圧)を昇圧することにより正極性の直流高電圧を生成する。第2の高電圧発生回路14は、直流電源12の直流電圧を昇圧することにより負極性の直流高電圧を生成する。
【0022】
直流電源12のプラス端子と第1の高電圧発生回路13との間には第1のスイッチ15が、直流電源12のプラス端子と第2の高電圧発生回路14との間には第2のスイッチ16が設けられている。第1および第2のスイッチ15,16としては、たとえば電界効果トランジスタ(FET)などの電子的なスイッチング素子が採用される。
【0023】
第1の高電圧発生回路13の出力端子と、第2の高電圧発生回路14の出力端子との接続点17には、放電針18が接続されている。
除電装置11の制御回路19は、第1および第2のスイッチ15,16のオンオフ制御を通じて正極性のイオンおよび負極性のイオンの生成を制御する。
【0024】
第1のスイッチ15がオン状態に、第2のスイッチ16がオフ状態に維持されているとき、放電針18には第1の高電圧発生回路13において生成される正極性の直流高電圧が印加される。その結果、放電針18の先端の周囲には、コロナ放電による正極性のイオンが生成される。
【0025】
第1のスイッチ15がオフ状態に、第2のスイッチ16がオン状態に維持されているとき、放電針18には第2の高電圧発生回路14において生成される負極性の直流高電圧が印加される。その結果、放電針18の先端の周囲には、コロナ放電による負極性のイオンが生成される。
【0026】
図2(a)に示すように、制御回路19は、時間T1だけ第1のスイッチ15をオンに、第2のスイッチ16をオフにして正極性のパルス電圧を放電針18に印加した後、時間T2だけ第1のスイッチ15をオフに、第2のスイッチ16をオンにして負極性のパルス電圧を放電針18に印加する。この後、制御回路19は、ふたたび第1のスイッチ15をオンに、第2のスイッチ16をオフにして放電針18に正極性のパルス電圧を印加する。以降、前述と同様にして、制御回路19は、第1および第2のスイッチ15,16を交互にオンオフすることにより、周期T(T=T1+T2)で正負の極性が反転する交流パルス電圧を放電針18に印加する。その結果、放電針18の先端の周囲には、コロナ放電による正極性および負極性のイオンが交互に生成される。この生成されるイオンは除電対象に供給される。
【0027】
放電針18に印加される交流パルス電圧の周波数は、放電針18と除電対象との距離に応じて設定される。制御回路19は、定められた周波数に応じて、第1および第2のスイッチ15,16のオンオフを制御する。交流パルス電圧の周波数は、単位時間(たとえば1秒間)当たりの周期Tの繰り返し回数により決まる。放電針18には、定められた周波数の交流パルス電圧が印加される。
【0028】
制御回路19には、入力装置20が接続されている。この入力装置20は、たとえば2つのロータリスイッチを有してなる。これらロータリスイッチは、それぞれ正極性および負極性に対応して設けられている。この入力装置20(正確には、2つのロータリスイッチ)の操作を通じて、正極性のイオンおよび負極性のイオンの均衡、すなわちイオンバランスの調整が可能とされている。具体的には、入力装置20の操作により、交流パルス電圧の1周期における正のデューティ比D1、および負のデューティ比D2の値を、定められる最小単位ずつ個別に調節可能とされている。ここで、正のデューティ比D1とは、放電針18に印加される交流パルス電圧の1周期(=T)に対する正極性パルス幅(=時間T1)の比をいう。負のデューティ比D2とは、放電針18に印加される交流パルス電圧の1周期に対する負極性パルス幅(=時間T2)の比をいう。制御回路19は、入力装置20において生成される正負のデューティ比D1,D2を増減させる旨の指令に基づき、正負のデューティ比D1,D2を調整可能とされる最小単位ずつ増大あるいは減少させる。
【0029】
制御回路19は、正負のデューティ比D1,D2を変更したとき、当該変更後の正負のデューティ比D1,D2に基づき、交流パルス電圧の1周期における第1および第2のスイッチ15,16のオンオフ時間、すなわち正極性および負極性の電圧のパルス幅を制御する。放電針18に印加される正極性または負極性の電圧のパルス幅に応じて、生成される正極性および負極性のイオンの生成量が決まるので、入力装置20を介した正負のデューティ比D1,D2の調節を通じて、イオンバランスを調整することが可能となる。
【0030】
除電装置11には、帯電モニタ21が付属されている。帯電モニタ21は、除電対象の帯電量を検出する。また、帯電モニタ21は、当該帯電量の検出結果を図示しないインジケータを通じて表示する。当該表示される帯電量に基づき、イオンバランスが正極性側、あるいは負極性側に傾いている旨認識して、正負のデューティ比D1,D2を調節することも可能である。
【0031】
また、除電装置11は、環状の対向電極22を備えてなる。対向電極22は、放電針18の先端近傍に設けられている。また、対向電極22は抵抗23を介してグランド24に接続されている。対向電極22と抵抗23との接続点25には、検出回路26を介して制御回路19が接続されている。検出回路26は、対向電極22を介してグランド24へ流れるイオン電流を検出する。当該イオン電流は、正極性および負極性のイオンの生成量の多少に応じて、放電針18と大地(ここでは、グランド24)との間に生じる電流である。制御回路19は、検出回路26の検出結果に基づきイオンバランス(電圧値)を検出する。制御回路19は、図示しない表示装置を通じて、イオンバランスの検出結果を表示する。当該表示装置を通じて、その時々のイオンバランスを確認しつつ、正負のデューティ比D1,D2を調節することも可能である。
【0032】
<イオンバランスの調整方法>
つぎに、イオンバランスの調整方法について説明する。本例では、正のデューティ比D1、および負のデューティ比D2を交互に1段階ずつ増減させることにより、イオンバランスを調整する。
【0033】
ここでは、図2(a)に示されるように、正負のデューティ比D1,D2がそれぞれ50%である場合に、イオンバランスが図3(a)に示されるように、負極性側に−30Vだけ傾いている場合を想定する。また、放電針18に印加される交流パルス電圧の周波数を100Hz、制御回路19の割り込み周期を20μsとする。このとき、入力装置20の操作を通じて正負のデューティ比D1,D2を1段階だけ増減させたときの当該正負のデューティ比D1,D2の変化量、すなわち正負のデューティ比の調整の最小単位は、0.2%となる。また、イオンバランスの要求レベルは±5Vとする。
【0034】
さて、ここではイオンバランスが負極性に傾いていることから、入力装置20の操作を通じて、図2(b)に示されるように、負のデューティ比D2のみを1段階だけ減少させる。このとき、正負のデューティ比D1,D2の調整結果は、つぎの(A)式のようになる。
【0035】
なお、正負のデューティ比D1,D2の合計が100%に満たない場合、すなわち正負のパルス幅の合計が周期に満たない場合(T>T1+T2)、制御回路19は、正負のパルス幅の合計値を周期Tから差し引いた時間だけ、第1および第2のスイッチ15,16の両方をオフ状態に維持する。
【0036】
D1:D2=50.00:49.80 ・・・(A)
負のデューティ比D2が減少した分だけ、周期Tにおける第2のスイッチ16のオン時間が短くなる。このため、生成される負極性のイオンの量は減少する。正のデューティ比D1は、当該調整前の値と同じであるので、発生するイオン全体における負極性のイオンが占める割合は減少する。この結果、図3(b)に示されるように、イオンバランスは当該調整前の−30Vから+10Vだけ増大して、−20Vとなる。この段階では、依然としてイオンバランスは負極性に傾いているので、当該イオンバランスをさらに正極性側へ変化させる。
【0037】
今度は、入力装置20の操作を通じて、負のデューティ比D2を減少させるのではなく、図2(c)に示されるように、正のデューティ比D1のみを1段階だけ増大させる。この場合、正負のデューティ比D1,D2の調整結果は、つぎの(B)式のようになる。
【0038】
D1:D2=50.20:49.80 ・・・(B)
正のデューティ比D1が増大した分だけ、周期Tにおける第1のスイッチ15のオン時間が長くなる。このため、生成される正極性のイオンの量は増大する。これに伴い、発生するイオン全体における正極性のイオンが占める割合は増大する。この結果、図3(c)に示されるように、当該調整後のイオンバランスは、当該調整前の−20Vから+10Vだけ増大して、−10Vとなる。この段階においても、イオンバランスは負極性に大きく傾いているので、当該イオンバランスをさらに正極性側へ変化させる。
【0039】
今度は、正のデューティ比D1を増大させるのではなく、入力装置20の操作を通じて、図2(d)に示されるように、負のデューティ比D2のみを1段階だけ減少させる。この場合、正負のデューティ比D1,D2の調整結果は、つぎの(C)式のようになる。
【0040】
D1:D2=50.20:49.60 ・・・(C)
負のデューティ比D2が減少した分だけ、周期Tにおける第2のスイッチ16のオン時間がさらに短くなる。このため、生成される負極性のイオンの量は減少する。これに伴い、発生するイオン全体における負極性のイオンが占める割合は減少する。この結果、図3(d)に示されるように、当該調整後のイオンバランスは、当該調整前の−10Vから+10Vだけ増大して、0Vとなる。すなわち、イオンバランスは要求される±5Vの範囲内の値となる。
【0041】
以上で、イオンバランスの調整作業は完了となる。
なお、イオンバランスが、正極性側に大きく傾いている場合についても、前述と同様に、正負のデューティ比D1,D2を交互に1段階ずつ増減させることにより、イオンバランスを10V単位で調整することができる。
【0042】
このように、正負のデューティ比D1,D2を交互に1段階ずつ増大あるいは減少させることにより、イオンバランスの最小調整値(分解能)は、約10Vとなる。当該最小調整値は、正負のデューティ比D1,D2を、これらの合計が100%となるように同時に調整する場合の最小調整値である約20Vと比較して、1/2の値となる。
【0043】
また、正負のデューティ比D1,D2の1段階分の増減値、すなわちイオンバランスの最小調整値は、交流パルス電圧の周波数によって異なる。しかし、正負のデューティ比D1,D2をこれらの合計が100%となるように同時に調整する場合に比べて、最小調整値が1/2となる点については、前述した交流パルス電圧の周波数を100Hzとした場合と同様である。たとえば、交流パルス電圧の周波数が10Hzの場合、最小調整値は、従来の調整方法によれば約1Vであるのに対し、本例の調整方法によれば0.5Vとなる。また、交流パルス電圧の周波数が50Hzの場合、最小調整値は、従来の調整方法によれば約8Vであるのに対し、本例の調整方法によれば4Vとなる。
【0044】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)イオンバランスの調整に際して、正負のデューティ比D1,D2を交互に1段階ずつ増減させるようにした。このため、正負のデューティ比D1,D2の合計が100%となるように正負のデューティ比D1,D2を同時に調整する場合と比べて、イオンバランスの最小調整値(分解能)は1/2となる。したがって、イオンバランスの調整精度を向上させることができる。除電装置11の使い勝手も向上する。なお、イオンバランスの片寄りがわずかである場合には、正負のデューティ比D1,D2のいずれか一方のみを1段階だけ増大あるいは減少させることにより、イオンバランスの調整が完了となる場合も想定される。正負のデューティ比D1,D2を複数段階にわたって調整する場合には、本例のように正負のデューティ比D1,D2を交互に片側ずつ増減させることが好ましい。
【0045】
(2)また、イオンバランスの調整に際して、正負のデューティ比D1,D2は、定められた最小単位(本例では、0.2%)ずつ増減される。このため、正負のイオンの生成量を、より細かく制御することが可能になる。
【0046】
(3)正負のデューティ比を増大または減少させる旨の指令が入力される入力装置20を設けた。このため、入力装置20を介して、正負のイオンバランスを適宜調整することができる。
【0047】
<他の実施の形態>
なお、前記実施の形態は、次のように変更して実施してもよい。
・本例において、入力装置20は、除電装置11に対して一体的に設けてもよいし、着脱可能に設けてもよい。
【0048】
・本例では、入力装置20の操作を通じて、正負のデューティ比D1,D2を調整することにより、イオンバランスの調整を行うようにしたが、つぎのようにしてもよい。すなわち、検出回路26の検出結果に基づきイオンバランスを検出し、その検出結果に基づき、正負のデューティ比D1,D2を自動調整する。この場合も、正負のデューティ比D1,D2を交互に1段階ずつ調整することが好ましい。この構成によれば、正負のイオンバランスが、その時々で検出される実際のイオンバランスに応じて、自動的に調整される。このため、除電装置11の使い勝手が向上する。また、イオンバランスの自動調整機能を除電装置11に持たせる場合には、入力装置20を省略することも可能である。
【0049】
・本例では、イオンバランスの調整に際して、正負のデューティ比D1,D2を1段階ずつ、すなわち調整可能とされる最小単位ずつ交互に増減させるようにしたが、必ずしも1段階ずつとしなくてもよい。たとえば、交流パルス電圧の周波数を10Hz、あるいは50Hzとする場合などには、正負のデューティ比D1,D2を複数段階ずつ、すなわち複数単位ずつ増大あるいは減少させてもよい。
【0050】
<他の技術的思想>
次に、前記実施の形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)電源電圧を昇圧して正極性の高電圧を放電針に印加する第1の給電経路を開閉する第1のスイッチと、同じく負極性の高電圧を前記放電針に印加する第2の給電経路を開閉する第2のスイッチと、前記第1および第2のスイッチのオンオフを制御する制御回路と、を備え、前記制御回路は、前記第1および第2のスイッチを交互にオンオフさせることにより特定の周期で正負の極性が反転する交流パルス電圧を前記放電針に印加して、当該交流パルス電圧の正負のパルス幅に応じた量の正負のイオンを交互に生成する除電装置において、前記制御回路は、前記交流パルス電圧の1周期に対する正負のパルス幅の比である正負のデューティ比を、交互に増減させることにより正負のイオンの発生量を制御する除電装置。当該方法によれば、請求項1に記載の発明と同様の効果を得ることができる。
【0051】
(ロ)特定の周期で正負の極性が反転する交流パルス電圧を単一の放電針に印加することにより当該交流パルス電圧の正負のパルス幅に応じた量の正負のイオンを交互に生成する除電装置におけるイオンバランス調整方法において、前記交流パルス電圧の1周期に対する正負のパルス幅の比である正負のデューティ比を交互に増減させることにより正負のイオンの生成量を調整するイオンバランス調整方法。当該方法によれば、請求項1に記載の発明と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0052】
11…除電装置、15…第1のスイッチ、16…第2のスイッチ、18…放電針、19…制御回路、20…入力装置、26…検出回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の周期で正負の極性が反転する交流パルス電圧を単一の放電針に印加して、当該交流パルス電圧の正負のパルス幅に応じた量の正負のイオンを交互に生成する除電装置において、
前記交流パルス電圧の1周期に対する正負のパルス幅の比である正負のデューティ比の少なくとも一方のみを増減させることにより、正負のイオンの生成量を制御する制御回路を備えてなる除電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の除電装置において、
前記制御回路は、前記正負のデューティ比を、調整可能とされる最小単位ずつ増減させることにより正負のイオンの発生量を制御する除電装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の除電装置において、
電源電圧を昇圧して正極性の高電圧を放電針に印加する第1の給電経路を開閉する第1のスイッチと、同じく負極性の高電圧を前記放電針に印加する第2の給電経路を開閉する第2のスイッチと、を備え、
前記制御回路は、前記第1および第2のスイッチを交互にオンオフさせることにより前記交流パルス電圧を生成するとともに、前記正負のデューティ比に応じて前記第1および第2のスイッチのオンオフ時間を制御する除電装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の除電装置において、
前記正負のデューティ比を増大または減少させる旨の指令が入力される入力装置を備え、
前記制御回路は、前記入力装置を通じて入力される前記指令に基づき前記正負のデューティ比を増減させる除電装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載の除電装置において、
前記正負のイオンの多少に応じて前記放電針とグランドとの間に生ずるイオン電流を検出する検出回路を備え、
前記制御回路は、前記検出回路の検出結果に基づき前記正負のデューティ比を増減させる除電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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