説明

陶磁器板

【課題】肉厚が6mm以上の肉厚品を得る場合に、乾燥工程に長い時間をかけることなく、焼成時の爆発、割れ、クラック等が生じることなく、かつ寒冷地で利用する際にも問題にならない程度に吸水率の小さな陶磁器板を提供すること。
【解決手段】0.1mm以上0.5mm以下の骨材と、アノーサイトとを含有し、吸水率が2.5%未満の、1160℃未満の温度で焼成することにより得られる、陶磁器板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陶磁器板に関する。より好適には、肉厚が6mm以上であり、湿式成形後に焼成して得られる陶磁器板に関する。
【背景技術】
【0002】
欧州では、日本における小口タイルや二丁掛タイルの代わりに、500角以上の大型陶磁器板がよく利用されている。その方法は、一般にプレス成形法で作製されている。
【0003】
しかしながら、プレス成形法では大規模なプレス成形装置を必要とするために、イニシャルコストが嵩む。また、ニーズに合わせて多種多様なサイズやデザインを作製するのに不向きである。
【0004】
一方、大型陶磁器板の他の製法として、湿式の押出成形法も知られている。押出成形法では、大型陶磁器板を製造するにあたって、一般に針状鉱物を配合した坏土を湿式成形により円筒状に押し出し、押出し方向に沿って生地を切り開き、圧延して生成形体を形成するようになっている(例えば、特許文献1)。
【0005】
しかしながら、湿式成形では生成形体を得た後の焼成前に乾燥工程を必要とする。そして、とりわけ6mm以上の肉厚品になるとこの乾燥工程に長い時間を要するという問題があった。ここで、乾燥時間を単純に短くすると、焼成時に爆発、割れ、クラック等が生じてしまう。また、粗粒子を単純に増加させて水の抜けをよくするだけでは焼成後の吸水が大きくなり、寒冷地で使用する場合の凍害やそれに伴う割れ等の問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2998072号公報
【特許文献2】実用新案登録第3145290号公報
【特許文献3】特開2006−51689号公報
【発明の開示】
【0007】
本発明者らは、今般、湿式成形後に焼成して得られる陶磁器板において、肉厚が6mm以上の肉厚品を得る場合に、乾燥工程に長い時間をかけることなく、焼成時の爆発、割れ、クラック等が生じることなく、かつ寒冷地で利用する際にも問題にならない程度に吸水率の小さな陶磁器板を発明した。
【0008】
すなわち、本発明の目的は、肉厚が6mm以上の肉厚品を得る場合に、乾燥工程に長い時間をかけることなく、焼成時の爆発、割れ、クラック等が生じることなく、かつ寒冷地で利用する際にも問題にならない程度に吸水率の小さな陶磁器板を提供することである。
【0009】
そして、本発明による陶磁器板は、0.1mm以上0.5mm以下の骨材と、アノーサイトとを含有し、吸水率が2.5%未満であり、1160℃未満の温度で焼成することにより得られる、陶磁器板である。
【0010】
本発明によれば、肉厚が6mm以上の肉厚品の陶磁器板を得る場合に、乾燥工程に長い時間をかけることなく、焼成時の爆発、割れ、クラック等が生じることなく、かつ寒冷地で利用する際にも問題にならない程度に吸水率の小さな陶磁器板を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
大型陶磁器板
本発明による陶磁器板は、0.1mm以上0.5mm以下の骨材と、アノーサイトとを含有し、吸水率が2.5%未満であり、1160℃未満の温度で焼成することにより得られる、陶磁器板である。
この陶磁器板を、湿式成形後に焼成して得る場合、その肉厚が6mm以上でも、乾燥工程に長い時間をかけることなく、焼成時の爆発、割れ、クラック等が生じることなく、かつ寒冷地で利用する際にも問題にならない程度に吸水率を小さくできる。
本発明による大型陶磁器板の上述のような意外な効果が得られる理由は定かではないが、それは以下の通りと考えられる。しかし、以下の説明はあくまで仮説であり、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
0.1mm以上の骨材を利用することにより、乾燥時の水抜けがよくなり乾燥時間を短縮できる。さらに、0.5mm以下の骨材と1160℃未満の焼成によりアノーサイトが生成するようにCaを含有する化合物を原料とすることで吸水率が2.5%未満に低下させることができ、寒冷地で利用する際にも問題にならない程度に吸水率を小さくできる。
【0012】
本発明の好ましい形態においては、陶磁器板中のアノーサイトの生成はX線回折における2θ=22°および28°のピークの有無により確認できる。
上記骨材は陶磁器板中に10重量%以上40重量%以下存在させるのが好ましい。
ここで、本発明における吸水率は、自然吸水率(試験体を室温で水中に24時間浸漬したときの吸水率)である。
【0013】
本発明の好ましい形態においては、前記陶磁器板は、湿式成形により得られる成形品を焼成して得られる。
湿式成形の方法は特に限定されないが、押出成形法、湿式プレス成形法、鋳込み成形法等の方法が利用可能である。その中でとりわけ押出成形法が大規模なプレス成形装置を必要とすることなく、ニーズに合わせて多種多様なサイズやデザインを作製するのに適しており、好適である。
押出成形の場合、前記陶磁器板は、坏土を押出成形後に平板状に広げて圧延ローラによってローラ圧延して生成形体を形成した後に焼成して得られる
また、本発明の湿式成形に利用する坏土おける好ましい水分量は、5重量%以上40重量%以下であり、より好ましくは10重量%以上25重量%以下である。それにより、可塑性と保形性のバランスを好適に保持できる。
【0014】
本発明の好ましい形態においては、前記陶磁器板の板厚は6mm以上である。
【0015】
本発明の好ましい形態においては、前記陶磁器板は、1辺が2cm以上でかつ2500cm以上の面積を有する。
【0016】
次に、本発明の陶磁器板の製造方法につき説明する。
本発明の陶磁器板を作製する場合、まず、陶石、カオリン、セリサイト等の骨格を形成する粘土鉱物に、必要に応じて蛙目粘土等の可塑性粘土や雲母、長石等のガラス質鉱物を配合し、さらに、0.1mm以上0.5mm以下の骨材と、1160℃未満の焼成によりアノーサイトが生成するようにCaを含有する化合物とを配合して原料素地とする。
成形法は、押出成形法、湿式プレス成形法、鋳込み成形法等の湿式成形方法が好適に利用できる。
押出成形の場合は、上記原料素地に必要に応じてさらに可塑剤を添加し、水分量5重量%以上40重量%以下、より好ましくは10重量%以上25重量%以下の坏土を作製し、これを成形する。板状の生成形体は、坏土を押出成形後に平板状に広げて圧延ローラによってローラ圧延して得る。この板状の生成形体を乾燥し、その後1160℃以下の温度で焼成することにより成形体を得ることができる。
【0017】
ここで、アノーサイトが生成するようにCaを含有する化合物としては、灰長石、石灰石、珪灰石等が好適に利用できる。
その配合量は上記原料素地に対して3重量%以上20重量%以下が好ましい。
【0018】
また、骨材として利用できる材料は、例えば、シャモット、珪石等が好適に利用できる。その好ましい配合量は、上記原料素地に対して10重量%以上40重量%以下である。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
大型陶磁器板の原料坏土は、陶石、カオリン、セリサイト等の骨格を形成する粘土鉱物を20〜30重量部、蛙目粘土等の可塑性粘土を20〜40重量部、雲母、長石等のガラス質鉱物を5〜20重量部、シャモット、珪石等の骨材10〜40重量部、滑石を5〜20重量部、灰長石、石灰石、珪灰石等の1160℃未満の焼成によりアノーサイトが生成するようにCaを含有する化合物を3〜20重量部配合、混合した後、水を添加し、水分量を10重量%以上25重量%以下として可塑性の坏土を得た。
【0020】
上記可塑性の坏土を、上記押出成形機を用いて円筒状の成形体とし、それを切り開き、ローラで圧延して、幅600mm長さ900mm厚さ9mmの生地平板を作成した。
【0021】
生地平板を、30分乾燥させて乾燥体を得た。得られた乾燥体を、最高1100〜1150℃でローラーハースキルンにて焼成して焼成体を得た。
【0022】
得られた焼成体の吸水率は2%であった。また焼成体にはクラック、割れ等の外観不良は認められなかった。
また、X線回折により、アノーサイトの存在が確認された。
【0023】
(比較例1)
大型陶磁器板の原料坏土は、陶石、カオリン、セリサイト等の骨格を形成する粘土鉱物を20〜30重量部、蛙目粘土等の可塑性粘土を20〜40重量部、雲母、長石等のガラス質鉱物を5〜20重量部、シャモット、珪石等の骨材10〜40重量部、滑石を5〜20重量部配合、混合した後、水を添加し、水分量を10重量%以上25重量%以下として可塑性の坏土を得た。
【0024】
上記可塑性の坏土を、上記押出成形機を用いて円筒状の成形体とし、それを切り開き、ローラで圧延して、幅600mm長さ900mm厚さ9mmの生地平板を作成した。
【0025】
生地平板を、30分乾燥させて乾燥体を得た。得られた乾燥体を、最高1100〜1150℃でローラーハースキルンにて焼成して焼成体を得た。
【0026】
得られた焼成体の吸水率は4%であった。また焼成体にはクラック、割れ等の外観不良は認められなかった。
また、X線回折において、アノーサイトの存在は確認できなかった。
【0027】
(比較例2)
大型陶磁器板の原料坏土は、陶石、カオリン、セリサイト等の骨格を形成する粘土鉱物を20〜30重量部、蛙目粘土等の可塑性粘土を20〜40重量部、雲母、長石等のガラス質鉱物を5〜20重量部、滑石を5〜20重量部配合、混合した後、水を添加し、水分量を10重量%以上25重量%以下として可塑性の坏土を得た。
【0028】
上記可塑性の坏土を、上記押出成形機を用いて円筒状の成形体とし、それを切り開き、ローラで圧延して、幅600mm長さ900mm厚さ9mmの生地平板を作成した。
【0029】
生地平板を、30分乾燥させて乾燥体を得た。得られた乾燥体を、最高1100〜1150℃でローラーハースキルンにて焼成したところ、焼成窯の中で爆裂した。
【0030】
そこで、改めて生地平板を、90分乾燥させて乾燥体を得た。得られた乾燥体を、最高1100〜1150℃でローラーハースキルンにて焼成して焼成体を得た。
【0031】
得られた焼成体の吸水率は2%であった。また焼成体にはクラック、割れ等の外観不良は認められなかった。
また、X線回折において、アノーサイトの存在は確認できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1mm以上0.5mm以下の骨材と、アノーサイトとを含有し、吸水率が2.5%未満であり、1160℃未満の温度で焼成することにより得られる、陶磁器板。
【請求項2】
前記陶磁器板は、湿式成形により得られる成形品を焼成して得られる請求項1に記載の陶磁器板。
【請求項3】
前記陶磁器板は、坏土を押出成形後に平板状に広げて圧延ローラによってローラ圧延して生成形体を形成した後に焼成して得られることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の陶磁器板。
【請求項4】
前記陶磁器板の板厚が6mm以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の陶磁器板。
【請求項5】
前記陶磁器板は、1辺が2cm以上でかつ2500cm以上の面積を有する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の陶磁器板。

【公開番号】特開2012−188331(P2012−188331A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55264(P2011−55264)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】