説明

陽イオン性抗微生物ペプチドおよびその使用方法

本明細書には、微生物によって生産および/または分泌される酵素によって分解可能である陽イオン抗微生物ペプチドとサンプルとを接触させ、そしてサンプル中の酵素の存在もしくは不在の指標として、ペプチドの分解もしくは分解の不在を検出し、それによって、サンプル中の微生物の存在もしくは不在を指示する、創傷感染ならびに微生物、例えば、サンプル中の創傷病原体を検出する方法が記述される。また本発明は、サンプル中の微生物の存在もしくは不在を検出するためのバイオセンサーを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2003年1月31日に受理された米国仮出願No.60/444,521の利益の享受を請求する。上記出願の全記述は引用によって本明細書に組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
創傷の感染は米国における保健医療支出の主要な出所である。全外科的創傷の約5%が微生物により感染されるようになり、この数字は腹部手術を受けた患者ではかなり高く(10〜20%)なる。コロニー形成率は、両保健医療従事者と患者の中でも病院環境において有意に高い。さらに、病院環境においてコロニーを形成する微生物は、抗生物質が頻繁に使用される病院環境に存在する強力な選択圧により、多くの抗微生物治療形態に対して耐性であるようである。例えば、ブドウ球菌は通常は無害な共生物として保持されるが、表皮に破れ目が与えられると、それらはヒト宿主において重篤な、生命をも脅かす感染を惹起することもできる。
【0003】
抗微生物宿主防御ペプチドは、微生物感染と戦う防御の第一線にとっての構成要素と考えられる生来の免疫系のエフェクター分子として認識されてきた。そのような抗微生物ペプチドは種を通じて広く分布している。これらのペプチドは、細菌膜の負電荷のリン脂質との相互作用を容易にする陽イオン性を特徴とする。抗微生物ペプチドは微生物の膜を透過性にすることによって殺傷することが示された。例えば、防御ペプチド分子は凝集し、そして脂質二重層に電位依存チャンネルを形成して、微生物の両内外膜の透過を可能にすることが示された(非特許文献1)。これらの分子の両親媒性は、静電誘引によって脂質二重層中への疎水性残基の挿入を促進し、一方、極性残基は膜中および膜上に突出する。
【0004】
抗微生物ペプチドに対する耐性は、有害な病原体の重要な毒性因子の1つである。病原性微生物は、数種のメカニズムを進化させ、これによって、これらのペプチドの抗微生物効果を妨げる。これらは、(i)細菌細胞のエンベロープの負電荷を低下させる陰イオン分子の共有改変(covalent modification)、(ii)プロトン駆動力依存の流出ポンプを介する抗微生物ペプチドの流出、(iii)膜流動性の変動、および(iv)タンパク質分解的切断による抗微生物ペプチドの不活性化を含む。ペプチド耐性のこれらのメカニズムは宿主における感染の確立をもたらす。
【0005】
微生物感染を防ぐもっとも一般的方法は予防抗生物質薬を投与することである。一般的に有効ではあるけれども、この戦略は細菌の耐性株を育成するという意図しない効果を有する。予防抗生物質の日常的使用は、それが耐性株の増殖を促進するという正当な理由のために阻止されねばならない。
【0006】
日常的予防を用いるよりも、良好なアプローチは、良好な創傷管理を実行すること、すなわち外科手術の前、間および後に無菌領域を維持し、そして治癒の間、感染について創傷部位を注意深くモニターすることである。普通のモニター方法は、ゆっくりした治癒について創傷部位の緻密な観察、炎症および膿の兆候、ならびに発熱の兆候に対する患者体温の測定を含む。不幸にも、多くの症候は、感染が既に確立した後にのみ明らかになる。さらにまた、患者が退院した後は、彼らは自分の健康管理をモニターする責任を負うようになるが、感染の症候は未熟な患者にとっては明白ではないであろう。
【0007】
症候が発現する前に感染の初期段階を検出できるシステムもしくはバイオセンサーは、
両患者と保健医療従事者にとって有益になるであろう。患者が退院後の創傷の状態を正確にモニターできれば、適当な抗微生物療法が、より重い感染を防ぐために十分早く開始することができる。
【非特許文献1】Lehrer,R.I.,J.Clin.Investigation.,84:553(1989)
【発明の開示】
【0008】
本発明は、特異的かつ広範なスペクトル検出アッセイ、およびサンプル中の微生物、例えば病原細菌の検出のためのバイオセンサーを包含する。陽イオン性抗微生物ペプチド(Cationic Anti−Microbial Peptides(CAMP))は、微生物、例えば細菌もしくは真菌によって分泌されるか、または微生物の細胞表面に発現される分子、例えばプロテイナーゼのような酵素によって分解または切断される分子である。本明細書に記述される1種または多種のCAMPの分解または切断(これはCAMPの不活性化をもたらす)は、サンプル、例えば創傷もしくは体液中の微生物の存在もしくは不在の検出のためのマーカーとして役立つことができる。したがって、本発明は、サンプル中に存在する酵素、例えばプロテイナーゼによる1種以上のCAMPの分解の存在もしくは不在を検出することによって、サンプル中の1種または多種の微生物の存在もしくは不在を検出する方法を特徴とする。1つの態様では、本発明は、微生物によって生産および/または分泌される酵素による分解可能なペプチドとして本明細書にまた言及される、切断によるように改変(例えば構造的に変化)される検出可能に標識された陽イオン抗微生物ペプチドとサンプルを、酵素によるCAMPの改変をもたらす条件下で接触させ;そしてCAMPの改変もしくは改変の不在を検出する段階を含んでなる、生物学的サンプルにおける1種または多種の微生物の存在もしくは不在を検出する方法を特徴とする。本明細書で使用されるように、用語改変(modification)は分解または切断を意味し、ここで、CAMPは、特徴的な長さのインタクトのペプチド(例えば、そのCAMPについては、ある数のアミノ酸残基によって定義される)から、2個以上のより小さいアミノ酸フラグメントに分解(不活性化)される。より小さいフラグメントへのCAMPの分解は検出可能なシグナルをもたらす。CAMPの改変、およびシグナルの検出は、サンプル中の1種または多種の微生物の存在を示し、そしてCAMPの分解の不在(検出可能なシグナルが生産されない)は、サンプル中の微生物の不在および/またはペプチドを切断するために特異的である酵素の不在を示す。本発明の酵素は、典型的には、プロテイナーゼ、プロテアーゼ、エラスターゼ、ゼラチナーゼおよびCAMPのタンパク質分解的分解に係わる他の酵素である。
【0009】
多数の異なる生物が同じかまたは実質的に類似のCAMPを不活性化(分解)できることに注意すべきである。かくして、本発明の特定の態様では、複数の微生物がただ1種のCAMPの分解によって検出できる広範なスペクトルアッセイが意図される。あるいはまた、2種以上のCAMPの配列を模倣し、それにより1種以上の微生物のための基質として作用する共通アミノ酸配列が決定できる。
【0010】
その他の態様では、本発明は、a)微生物によって生産および/または分泌される酵素によって分解することができる(分解可能な)1種または多種の検出可能に標識されたCAMPを患者における創傷から得られるサンプルと、酵素によるCAMPの改変をもたらす条件下で接触させ;そしてb)CAMPの改変もしくは改変の不在を検出する段階を含んでなる、患者における創傷感染の存在もしくは不在を診断する方法を特徴とする。CAMPの改変は、患者における創傷感染の存在を示し、そしてCAMPの改変の不在は、患者における感染の不在を示す。
【0011】
その他の態様では、本発明は、固形支持体および微生物によって生産および/または分泌される酵素によって分解可能である1種または多種の検出可能に標識されたCAMPを
含んでなり、この場合CAMPは固形支持体に付着されている、サンプル中の微生物の存在または不在を検出するためのバイオセンサーを特徴とする。付着は固形支持体にペプチドを付着するための当業者には既知の多数のいずれか方法によって達成できる。重要なことには、付着は、検出のために適当である配置、すなわち、検出可能なシグナルが分解において生成される配置にペプチドを常に提供しなければならない。
【0012】
なおその他の態様では、本発明は、サンプル中の微生物の存在もしくは不在を検出するためのバイオセンサー、および創傷感染の原因となる作用物である微生物の存在を検出するための1種以上の試薬を含んでなる、創傷感染を検出するためのキットを特徴とする。例えば、試薬は微生物によって分泌される酵素を検出するために使用できる。特に、試薬はバイオセンサーのCAMPの改変を検出するために使用できる。
【0013】
CAMP(陽イオン抗微生物ペプチド)は創傷において普通に存在しており、したがってこれらのペプチドを分解することができる病原微生物の存在は感染に関するマーカーとして使用できる。
【0014】
ヒトでは、3種の抗微生物ペプチドが同定されている。これらのペプチドは、陽イオン抗微生物ペプチド、またはCAMPとして本明細書に言及される。
【0015】
デフェンシン(Defensin)または「内因性抗生物質」
デフェンシンは哺乳動物細胞(好中球、腸のパネト細胞およびバリヤー上皮細胞)によって分泌される最大で最もよく研究された種類の抗微生物ペプチドである。それらは、微生物、真菌ならびにウイルス感染を阻止(Cole,A.M.,et al.,Biotechniques,4:822(2000))するので、侵入する病原体に対する防御の第一線として働く。宿主防御におけるデフェンシンの役割に加えて、それらは炎症性疾患、創傷修復、および適応免疫応答の促進において役割を演じていると考えられる(Wetering V.S.,et al.,J.Allergy Clin.Immunol.104:1131−1138(1994))。これらの陽イオンタンパク質/ポリペプチドは、アルギニンに富み、そして3個の分子内ジスルフィド架橋を形成する6個のシステイン残基を有する、デフェンシンの純正の特徴(Tang,Y.Q.,et al.,Science 286:498−502(1999)およびLenova,L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,99:1813(2001))。システイン残基の間隔およびジスルフィド架橋の整列に基づいて、3群の哺乳動物デフェンシンが今日までに同定されており、これらは、(i)α(ヒト好中球ペプチド、HNP)、(ii)β(ヒトβ−デフェンシン、hβD−2)および(iii)θ(環状、「ベータ」ミニデフェンシン)サブファミリーを含む(Tang,Y.Q.,et al.,Science 286:498−502(1999))。潜在的な治療剤としてのデフェンシンの役割は、感染した個人でHIV感染の進行を遅らせることにおいてα−デフェンシンの直接関与を示したTangらの最近の発見によって実証された。デフェンシンはまた大腸菌(E.coli)感染と戦う上で重要な役割を演じる。
【0016】
カテリシジン(Cathelicidin)
カテリシジンは哺乳動物によって専らコードされる抗微生物ペプチドの1種である。それらはN−末端のカテリン・ドメインとC−末端の抗微生物ドメインを有する両分の分子である(LL−37)。ヒトでは、カテリシジンはhCAP−18遺伝子によってコードされている。セリン・プロテアーゼ、プロテイナーゼ3は、活性ペプチドLL−37(hCAP−18の抗微生物ドメイン)の切断を促進し、これが次いで両グラム陽性とグラム陰性細菌に対する抗細菌活性を発揮する(Sorensen,O.E.,et al.,Blood,97:3951−3959(2001))。より近年の研究は、LL−37が、よく特性決定された抗微生物ペプチド、α−デフェンシンと相乗的に作用して細菌感
染を解消することを示した。宿主防御に加えて、この種類の遺伝子にコードされた抗生物質は、化学走性活性、有糸分裂誘発および脈管形成を含むさらなる機能に関与している(Lehrer,R.I.,et al.,Curr.Opin.Immunol.,14:96(2002)およびLehrer,R.I.,et al.,Curr.Opin.Hematol.,9:18−22(2002))。異なる機能におけるこれらのペプチドの関与により、彼らはまた「多機能性エフェクター分子」と読んでいる。
【0017】
トロンボシジン(Thrombocidin)(栓球殺微生物タンパク質)
トロンボシジンは、血液血小板の活性化の際に遊離されるCXCケモカインの切断バージョン(カルボキシ末端欠落)であるので、トロンボシジンと呼ばれる(Zaat。et
al.,1994)。それらはこれまでにイン・ビトロの実験モデルにおいて、ストレプトコッカス(Streptococcus)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)およびカンジダ(Candida)感染を解消することが例証されている(Dankert,J.,et al.,Infect.Immun.,63:663−671(1995))。
【0018】
病原細菌のプロテイナーゼによるCAMPの分解はかなり良く特徴付けられている。病原細菌がプロテイナーゼ、例えばエラスターゼ、システインプロテアーゼおよびアルカリプロテイナーゼを分泌し、これらがカリクレイン、凝固因子、補体、サイトカインおよび抗プロテイナーゼのような宿主の応答を改変することが既に例証されている(Travis,J.,Trends Microbiol.,3:405−407(1995))。興味あることに、創傷液の分析が上記宿主因子の多量の分解生成物を明らかにした。これらの結果は、病原体の増進した生存と増殖をもたらす宿主因子の調節におけるプロテイナーゼの直接的役割を示唆する。プロテイナーゼが微生物の毒性において主要な役割を演じるという事実は、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)およびストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)によって分泌されるプロテイナーゼが抗細菌ペプチド、特にLL−37を分解するという近年のイン・ビトロの知見によってさらに実証された(Schmidtchen,A.,et al.,Mol.Microbiol.,46:157−168(2002))。さらに、P.エルギノーサが感染した患者の慢性潰瘍からの創傷液がLL−37の完全な分解をもたらすのに対して、無菌の創傷からの液はこの効果を示さなかった(Schmidtchen,A.,et al.,Mol.Microbiol.,46:157−168(2002))。
【0019】
多数のヒト病原体がこの抗細菌ペプチドを切断できるという理解とともに、LL−37上の種々のプロテイナーゼの切断点(図1A)の知識をもって、LL−37の2種の変異体(variant)(図1BおよびC)が生成され、そして細菌検出アッセイ(例えば、S.ピオゲネスに対する)のための候補基質としてこれらが使用された。
【0020】
本発明の酵素は基質、例えばタンパク質もしくはポリペプチド(例えば、CAMP)を切断によって改変でき、そのような改変が検出されてサンプル中の病原体の存在もしくは不在を決定することができる。酵素による基質の改変を検出する1つの方法は、分子、例えば染料もしくは比色定量物質が密に近接している場合、1つの染料が、他方の蛍光を消す(蛍光共鳴エネルギー移動またはFRET)のに働く2種の異なる染料を用いて基質を標識することであり、そして蛍光によって測定される。
【0021】
FRETは距離依存の励起状態相互作用のプロセスであり、このプロセスで1つの蛍光分子の発光がその他の励起に共役される。共鳴エネルギー移動に関する典型的なアクセプターとドナーペアは、4−[[−(ジメチルアミノ)フェニル]アゾ]安息香酸(DABCYL)および5−[(2−アミノエチルアミノ]ナフタレンスルホン酸(EDANS)
からなる。EDANSは336nm光線の照明により励起され、波長490nmの光子を放出する。DABCYL部分がEDANSの20オングストローム内に位置する場合、この光子は効率的に吸収される。DABCYLおよびEDANSはペプチド基質の対する末端に付着される。基質がインタクトであれば、FRETは非常に有効になるであろう。ペプチドが酵素によって切断された場合、2種の染料はもはや密に近接しないので、FRETは無効になる。切断反応に続いて、DABCYL蛍光における減少またはEDANS蛍光における増大(消光の損失)のいずれかが観察される。
【0022】
改変されるべき基質がタンパク質、ペプチドもしくはポリペプチドである場合、基質は標準の組み換えタンパク質技術を用いて生成することができる(参照、例えば、Ausubel et al.,”Current Protocols in Molecular Biology,”John Wiley & Sons,(1998),これの全技術は本明細書に引用によって組み入れられている)。さらに、また本発明の酵素は組み換えまたは合成技術を用いて生成されてもよい。酵素またはその基質の十分な供給をとおして、改変の正確な部位が決定でき、そして所望であれば酵素のより特異的な基質が定められる。この基質はまた、病原細菌の存在についてアッセイするために使用できる。
【0023】
基質は、酵素と基質間の相互作用をモニターし、何かの基質改変、例えば、そのような相互作用から得られる基質もしくは標識の切断を検出するために使用される検出可能な標識により標識される。検出可能な標識は、基質に組み込まれる種々の染料、例えば本明細書に記述される染料、スピン標識、抗原もしくはエピトープタグ、ハプテン、酵素標識、結合団、蛍光材料、化学発光材料、生物発光材料および放射性材料を含む。適当な酵素標識の例は、西洋ワサビ・ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼおよびアセチルコリンエステラーゼを含み;適当な蛍光材料の例は、ウンベリフェロン、フルオレセイン、イソチオシアン酸フルオレセイン、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシルおよびフィコエリスリンを含み;化学発光材料の例はルミノールを含み;生物発光材料の例は、ルシフェラーゼ、ルシフェリンおよびエクオリンを含み;そして適当な放射性材料の例は、125I,131I,35SおよびHを含む。検出可能な標識の他の例は、Bodipy、Pyrene、Texas Red,EDANS、Dansyl Aziridine,IATRおよびフルオレセインを含む。これらの標識のサクシミジルエステル、イソチオシアネートおよびヨードアセトアミドもまた市販されている。検出可能な標識が使用されない場合、酵素活性が他の適当な方法、例えば電気泳動分析による基質切断の検出、または当業者に既知の他の方法によって決定されてもよい。
【0024】
検出可能な標識の1つの例は、細菌酵素による基質の加水分解のモニターを可能にする色素源染料である。そのような染料の例はパラ−ニトロフェノールである。基質分子に共役される場合、この染料は、基質が分泌酵素によって改変されるまで無色のままであり、改変された時点で黄色に転じる。酵素−基質相互作用の進行は分光光度計で415nmにおける吸光度を測定することによってモニターできる。検出可能な改変、例えば肉眼的な色の変化を生じる他の染料は当業者にとって周知である。
【0025】
細菌の存在もしくは不在が検出されるか、または創傷感染が診断されるサンプルは、例えば、創傷、体液、例えば血液、尿、喀痰もしくは創傷液(例えば、創傷部位に生じる膿)であってもよい。またサンプルは、細菌が含有されるいかなる物品であってもよく、例えば、カテーテル、尿回収バッグ、血液収集バッグ、血漿収集バッグ、ディスク、スコープ、フィルター、レンズ、泡、布、紙、縫合物、綿棒、創傷包帯剤、試験管、ミクロプレートのウェル、コンタクトレンズ、部屋もしくはビルディング、例えば、保健医療施設の試験室もしくは施術室、浴室、キッチン、または加工もしくは製造施設の領域からのすべての適当なポリマーもしくはモップである。
【0026】
また本発明は、本明細書に記述されるような1種以上のCAMPの分解によって1種以上の微生物を検出し、微生物の存在を消費者に通知するためのバイオセンサーを特徴とする。細菌汚染についてモニターされている創傷もしくは他の体液に近接する固形支持体に付着される(1種以上の)CAMPを含んでなる、感染創傷を検出するために保健医療環境における使用もしくは家庭での使用のためのバイオセンサーが提供される。好ましくは、CAMPは標識に共有結合され、その結果、基質−標識または内部の基質結合の分解により微生物の存在を指示する検出シグナルを得る。
【0027】
バイオセンサーは、検出すべき微生物の特異的な酵素特性によって分解されるCAMPを最初に決定することによって作成される。決定されたCAMPは、1種以上の、好ましくは複数の検出可能な標識、例えば色素形成もしくは蛍光性脱離基により標識される。例えば、標識基は、シグナルが基質からタンパク質分解的に脱離されるか、または基質の中間で加水分解される場合にのみ活性化される潜在的シグナルを提供する。色素形成脱離基は、例えば、パラ−ニトロアナリド基を含む。CAMPが、細菌によって創傷もしくは他の体液中に分泌されるか、または細菌細胞の表面に存在している酵素と接触すると、酵素は、そのような改変、例えば吸光度における変化の検出をもたらすように基質を改変するが、この変化は色調における変化として肉眼的に(例えば、創傷包帯剤のような固形支持体上で)、または当該技術分野では標準的な分光光度計を用いて検出できる。
【0028】
バイオセンサーは、固形支持体、例えば、創傷包帯剤(例えば包帯もしくはガーゼ)、無菌であるか、または微生物汚染のないことが必要であるすべての材料、例えば、ディスク、スコープ、フィルター、レンズ、泡、布、紙もしくは縫合物、またはサンプルを含有もしくは収集する物品(例えば、尿回収バッグ、血液もしくは血漿収集バッグ、試験管、カテーテル、綿棒またはミクロプレートのウェル)である。
【0029】
典型的には、支持体が創傷もしくはサンプルに直接接触する場合には、固形支持体は滅菌のために適当な材料から作成される。本発明の1つの態様では、バイオセンサーは創傷に直接接触できる。若干の例では、無菌のカバーもしくはレアは、そのような直接接触の際に創傷もしくは体液の汚染を防ぐために使用される。そのような無菌カバーが使用される場合、それらは滅菌のために適当なそれらを作成するが、酵素/基質相互作用を妨害しない性質を有する。好ましくは、創傷と接触するバイオセンサーの部分はまた、サンプル表面からのバイオセンサーの容易な除去を可能にするよう非粘着性である。例えば、バイオセンサーが創傷包帯剤を含有する場合、酵素基質が反応するのに十分な時間、包帯剤は創傷に接触し、次いで包帯剤は、創傷もしくは周辺組織にさらなる損傷を惹起せずに創傷から除去される。
【0030】
検出可能な標識、例えば、色素源染料で適当に標識され、センサー器具に付着されるか組み込まれたCAMPは、前述の酵素を分泌する病原細菌の存在もしくは不在の指標として働くことができる。1種以上のCAMPが利用される場合、各々は、その他からそれを区別するように(例えば、異なる検出可能な標識を用いて)標識されてもよく、そして/または各々は固形支持体上の特定領域に設置されてもよい。
【0031】
疎水性脱離基をもつCAMPは疎水性表面に非共有的に結合することができる。あるいはまた、親水性もしくは疎水性基質が、ジスルフィドまたは第1級アミン、カルボキシルもしくはヒドロキシル基によって表面にカップリングされてもよい。固形支持体に基質をカップリングする方法は当該技術分野において既知である。例えば、蛍光および色素源基質は、創傷病原体との反応に影響しない非必須の反応末端、例えばアミン、カルボン酸もしくはSH基を用いて、固形支持体にカップリングすることができる。遊離アミンは、縮合反応を促進してペプチド結合を形成するために、pH4.5に調節された蒸留水中4℃
で2時間、例えば、いずれかN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)またはN−シクロヘキシル−N’−2−(4’−メチル−モルホリニウム)エチルカルボジイミド−p−トルエンスルホン酸塩(CMC)の10倍モル過剰量を用いて基質上のカルボキシル基に結合することができる。SH基はDTTもしくはTCEPにより還元され、次いでN−e−マレイミドカプロン酸を用いて表面上のアミノ基に結合することができる(Griffith,et al.,Febs Lett.,134:261−263(1981))。
【0032】
本発明における使用のためのCAMPの例は、配列番号:1 EKIGKEFKRIVQ;配列番号:2 VQRIKDFLRNLV、および配列番号:3 LLGDFFRKSKEKIGKEFKRIVQRIKDFLRNLVPRTESのアミノ酸配列を含有するかまたは本質的にそれらからなるポリペプチド、あるいは当業者には既知の配列比較プログラムおよびパラメーターを用いて決定されるように、配列番号:1〜3と少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%もしくは99%の配列同一性を有するポリペプチドである。
【0033】
また本発明のポリペプチドは、上記ポリペプチドのフラグメントおよび配列変異体、ならびにまた配列番号:1,2もしくは3の変異体を包含する。変異体は、生物における同じ遺伝子座によってコードされている実質的に相同なポリペプチド、すなわち、対立遺伝子変異体、ならびに他の変異体を含む。変異体はまた、生物における他の遺伝子座から得られるが、配列番号:1,2もしくは3のポリペプチドと実質的な相同性を有するポリペプチドを包含する。変異体はまた、これらのポリペプチドと実質的に相同または同一であるが、その他の生物から得られるポリペプチド、すなわちオルトログを含む。変異体はまた、化学合成によって生産されるこれらのポリペプチドと実質的に相同または同一であるポリペプチドを含む。変異体はまた、組み換え法によって生産されるこれらのポリペプチドと実質的に相同または同一であるポリペプチドを含む。
【0034】
2種のアミノ酸配列の同一性パーセントは、最適な比較目的のための配列を整列させることによって決定できる(例えば、ギャップが第1配列の配列中に導入できる)。次いで、対応する位置のアミノ酸が比較され、そして2つの配列間の同一性パーセントが配列によって共有される同一位置の数の関数である(すなわち、同一性%=同一位置の#/位置の総#x100)。ある実施態様では、比較目的のために整列されたアミノ酸配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも60%、なおより好ましくは少なくとも70%、80%、90%もしくは100%である。2つの配列の実際の比較は、周知の方法によって、例えば、数学的アルゴリズムを用いて達成できる。そのような数学的アルゴリズムの好適な非限定例は、Karlin,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:5873−5877(1993)に記述されている。そのようなアルゴリズムは、Schaffer,et al.,Nucleic Acids Res.,29:2994−3005(2001)に記述されるようなBLASTプログラム(バージョン2.2)中に組み入れられている。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラムの不履行パラメーターが使用されてもよい。1つの実施態様では、検索されるデータベースは非重複(NR)データベースであり、配列比較のためのパラメーターは、フィルターなし;期待値10;ワードサイズ3;マトリックスはBLOSUM62である;およびGap CostはExistence11およびExtension1に設定できる。
【0035】
その他の実施態様では、2種のアミノ酸配列間の同一性パーセントは、GCGソフトウエア・パッケージにおけるGAPプログラム(2001年8月31日に得られたようなhttp://www.accelrys.com.において得られる)を使用し、いずれ
かBlosson63マトリックスまたはPAM250マトリックス、およびgap weight12,10,8,6もしくは4およびlength weight2,3もしくは4を用いて達成できる。なおその他の実施態様では、2種の核酸配列間の同一性パーセントは、GCGソフトウエア・パッケージにおけるGAPプログラム(http://www.cgc.com.において得られる)を使用し、gap weight50およびlength weight3を用いて達成できる。
【0036】
本発明はまた、本発明の核酸分子によってコードされているポリペプチドによって遂行される同じ機能(例えば、CAMPとして働く能力)の1つ以上を遂行するために比較的低度の同一性を有するが十分な類似性を有するポリペプチドを包含する。類似性は保存アミノ酸置換によって決定される。そのような置換は、ポリペプチド中の与えられたアミノ酸を同様の特性をもつその他のアミノ酸によって置換することである。保守的置換は表現型としては休止しているようである。典型的には、保守的置換は、脂肪族アミノ酸Ala、Val,LeuおよびIleにおいて1つのアミノ酸を他のアミノ酸への交換;ヒドロキシル残基SerおよびThrの入れ替え;酸性アミノ酸残基AspおよびGluの交換;アミド残基AsnおよびGln間の置換;塩基性残基LysおよびArgの交換;および芳香族残基PheおよびTyrにおける置換であるように見える。アミノ酸交換が表現型としては休止しているように見えることに関するガイダンスは、Bowie,et al.,Science,247:1306−1310(1990)に見いだされる。
【0037】
機能性変異体はまた、機能において無変化または無意味な変化をもたらす類似アミノ酸の置換を含有してもよい。あるいはまた、そのような置換は、ある程度まで機能にポジティブもしくはネガティブに影響を与えるかもしれない。非機能性変異体は、典型的には、1つ以上の非保守的アミノ酸の置換、欠失、挿入、逆位、または決定的な残基もしくは決定的な領域における切断または置換、挿入、逆位、または欠失を含有し、そのような重大な領域はCAMPについての切断部位を含む。
【0038】
酵素による切断およびその結果としての分解のために必須である本発明のポリペプチドにおけるアミノ酸は、当該技術分野において既知の方法、例えば部位特異的変異誘発またはアラニン・スキャニング変異誘発によって同定することができる(Cunningham,et al.,Science,244:1081−1085(1989))。後者の操作は分子中の残基の各々において単一アラニン変異を導入する(1分子当たり1変異)。
【0039】
本発明はまた、配列番号:1,2もしくは3のアミノ酸配列のポリペプチドフラグメント、またはその機能的変異体を含む。フラグメントは、それらのフラグメントが少なくとも1つの酵素反応部位(例えば、プロテイナーゼによる酵素的切断の部位)を含有する配列番号:1,2もしくは3を含むポリペプチドから誘導できる。本発明はまた、本明細書に記述されるポリペプチドの変異体のフラグメントを包含する。有用なフラグメントは、本明細書に記述されるようにCAMPを分解することができる酵素の基質として働く能力を保持するフラグメントである。フラグメントは分離していてもよく(他のアミノ酸もしくはポリペプチドに融合されてない)、または比較的大きいポリペプチド内に存在してもよい。さらに、数種のフラグメントが単一の比較的大きいポリペプチド内に含有されてもよい。1つの実施態様では、宿主での発現のために設計されたフラグメントは、ポリペプチドフラグメントのアミノ末端に融合された異種の前−および後−ポリペプチド領域ならびにフラグメントのカルボキシル末端に融合されたさらなる領域を有してもよい。
【0040】
本発明のバイオセンサーは、微生物、特に病原細菌、ウイルスおよび真菌の存在もしくは不在を検出することが望まれるすべての状況において使用することができる。例えば、保健医療施設、特に施術室における作業面上に集積する細菌は、本明細書に記述されるよ
うなバイオセンサーによって検出できる。細菌により分泌されるか、または細菌の表面に提供される酵素によって改変できる1種のCAMP、または1種以上のCAMPは、収集物基材、例えば綿棒の先端の綿糸に張り付けられるか共有結合される。1種以上のCAMPが利用される場合、各々はそれを他と区別するために標識されてもよく(例えば、異なる検出可能な標識を用いて)、そして/または各々は固形支持体上の特定領域に設置されてもよい。綿棒先端は細菌により汚染されていると疑われる表面を拭うために使用される。綿棒先端は培地中に入れられ、そして結合され標識されたCAMPに特異的な酵素が存在すれば、標識されたCAMPの改変を可能にする条件を用いて培養される。
【0041】
本発明はまた、本明細書に記述されるような創傷に特異的な細菌を検出するためのキットを特徴とする。キットは、検出可能に標識されたCAMPが結合、カップリングまたは付着される、例えば多数のウェルを有する固形支持体(例えば、ミクロタイタープレート)を含む。1種以上のバッファーを提供する手段が提供される。ネガティブの対照および/またはポジティブの対照がまた提供されてもよい。適当な対照は当業者によって容易に得ることができる。本明細書に記述される病原細菌により汚染されていると疑われるサンプルが、バッファー溶液を使用して調製される。サンプル、ネガティブ対照およびポジティブ対照の一定分量がそれぞれのウェル中に入れられ、反応させられる。基質の改変、例えば色調変化が観察されるそれらのウェルが微生物病原体を含有すると決定される。そのようなキットは被験者における創傷感染を検出するために特に有用である。
【0042】
また、バイオセンサー、例えば包装された滅菌創傷包帯剤、および検出アッセイを実施するのに必要ないずれかのさらなる試薬を含有するキットが、本発明によって包含される。
ここで、細胞により分泌されるか、または細胞の表面に存在し、そしてCAMPを分解することができる少なくとも1種の酵素を生産する病原微生物を検出するためのアッセイを展開する方法、ならびに酵素を生産する微生物を検出するためにアッセイを用いる方法は、次のとおりである:
段階1)関心のある原核微生物を特定するアミノ酸配列を定義する。あるいはまた、特定の病原体群、例えば、創傷に特異的な病原体に独特である(1種以上の)アミノ酸配列が決定されてもよい。
【0043】
関心のある微生物または微生物群(例えば、創傷に特異的な病原体)の存在を独特に特徴付けるか、または明示するアミノ酸配列、例えば、タンパク質、ペプチドもしくはポリペプチドを選択する。選択は、例えば、以下に詳述するように生物情報アプローチを利用して実施してもよい。特定の原核微生物に独特である1種以上のアミノ酸配列が決定される。
【0044】
段階2)酵素による基質の最適な改変を容易にする条件を決定するのに十分な酵素を得る。
【0045】
アッセイされる病原細菌が増殖している細胞外培地から、または細菌の細胞膜から、例えば、Ausubel(前出)に記述される標準タンパク質精製技術を用いて酵素を単離する。
【0046】
あるいはまた、酵素をコードしている遺伝子配列または酵素をコードしている遺伝子配列の位置が未知である場合は、段階1のマーカーアミノ酸をコードしている遺伝子配列を単離し、クローン化するか、あるいは遺伝子配列を最初に決定し、次いで前のように進める。
【0047】
段階3)原核生物の増殖のため、および細菌の表面に存在するか、または細胞によって分泌される酵素の生産のために条件を決定する。
【0048】
関心のある特定の原核微生物の増殖のため、およびその独特な活性酵素の培地への発現のために要求される培地を決定する。また、特定の酵素を不活性前駆体から活性型へ変換するために、第2の分子、例えば酵素が要求されるか否かを決定する。酵素が活性型で分泌されたかを決定するためには、細胞培養物のサンプルが、選ばれた潜在性基質を与えられ、そしてこれらの基質の切断が決定される。このことは、例えば、酵素を生産する細菌を適当な媒質中の基質と合体し、静かに振盪しつつ37℃でインキュベートすることによって実施できる。その時間(0.1,0.3,1.0,3.0,5.0,24および48時間)において、サンプルが遠心されて細菌が沈降され、小分量がSDS−PAGEゲルサンプルのために採取される。時間経過の終了後、サンプルは10−15%勾配SDS−PAGEミニゲル上で移動される。次いで、タンパク質が、Bio−Rad semi−day トランスブロッティング装置を用いてImmobilon Pseq(転移バッファー、10%CAPS、10%メタノール pH11.0,15V30分間)に転移される。タンパク質の転移後、ブロットがCoomassieブルーR−250(0.25%CoomassieブリリアントブルーR−250,50%メタノール,10%酢酸)により染色され、そして脱染色(5分間の高脱染色、50%メタノール,10%酢酸;完了までの低脱染色、10%メタノール,10%酢酸)され、続いてN末端から配列決定される。あるいはまた、サンプルは、Voyager Elite質量分析計(Perceptive Biosystems)を用いて、タンパク質分解的切断の部位をマップするために質量分析計にかけられる。
【0049】
段階4)活性酵素のいずれかの特異的な陽イオン抗微生物ペプチド基質を同定する。検出可能な標識、例えば本明細書に記述された検出可能な標識、または当該技術分野で既知のいずれか他の検出可能な標識を用いて、各基質を標識する。
【0050】
段階5)(場合によっては)酵素の活性または結合部位を決定し(例えば、前述のようにFRETを用いて)、次いで、活性または結合部位を生じるために有用な遺伝子配列を決定し、そして決定された遺伝子配列をクローニングして、より特異的な基質を生成することによって、酵素−基質相互作用の特異性を増大させる。
【0051】
段階6)関心のある病原細菌のプロテアーゼの検出のために、先に同定された検出可能な1種以上の標識基質を含んでなるバイオセンサーを提供する。
【0052】
基質は、固形支持体、例えば創傷包帯剤、または酵素と基質を保持する物品、例えば体液収集チューブもしくはバッグ、ミクロプレートまたは試験管に付着されてもよい。所望であれば、固形支持体は、基質にカップリングさせるために誘導された多数の結合部位、例えば、誘導されたプレート上のスクシミジルエステル標識された1級アミン部位を備えることができる(Xenobind plate,Xenopore)。
【0053】
場合によっては、固形支持体上の未占有の反応部位は、ウシ血清アルブミン、またはそれへのp26の活性ドメインをカップリングさせることによってブロックされる。p26は、非特異的なタンパク質凝集を減少させるために、この場合において使用されるα−クリスタリン型タンパク質である。食品包装の表面にカップリングさせる前後に熱変性されたクエン酸シンテターゼを再生するp26タンパク質の能力が、p26活性を決定するための対照として使用される。α−クリスタリン型タンパク質は、標準の組み換えDNA技術を用いて組み換え的に生産された(参照、Ausubel,前出)。簡単に言えば、p26のβ−シート負荷のコアドメインを含有するプラスミドが、電気受容能のあるBL21(DE3)細胞中にエレクトロポレートされる(Bio−Rad E.coli pulser)。細胞はOD0.8まで増殖され、次いで1mMIPTGにより4時間誘導される。細胞は遠心分離され、低バッファー(10mMTris,pH8.0,500mMNaCl,50mMImidizole)中で音波処理されて溶解される(Virsonic,Virtis,Gardiner,NY)。溶解液を13,000xgで10分間遠心分離し、上澄液が0.45および0.2μmで濾過される。この濾液がNi−NTAsuperoseカラム(Qiagen,Valencia,CA,cat#30410)に添加される。高バッファー(10mMTris,pH8.0,500mMNaCl,250mMImidizole)が使用されてタンパク質を溶出する。
【0054】
酵素を基質と接触させ、本明細書に記述されるように、検出可能に標識された基質における改変について反応液をモニターする。基質の改変は、細菌によって生産/分泌された酵素が反応液中に存在することを指示する。さらに、基質の改変の不在は、酵素がサンプル中に存在しないことを指示する。細菌または酵素が創傷由来であれば、基質の改変は、細菌が創傷に存在し、創傷が感染されていることを指示し、一方、基質の改変の不在は、特定の細菌が創傷に存在せず、創傷が特定の細菌により感染されていないことを指示する。
【0055】
本発明はここに、次の実施例によって具体的に説明されるが、これはいかなる点においても限定されることを意図しない。
【0056】
例1:検出アッセイ
2種のペプチド基質、LL1およびLL2を、図1A、1B&Cに示すようにLL−37の全切断部位を含むように合成した。ここに使用したペプチド基質を、蛍光プローブedans(5−((2−アミノエチル)アミノ)ナフタレン−1−スルホン酸)および消光染料分子dabcyl((4−(4−(ジメチルアミノ)フェニル)アゾ)安息香酸)により標識した。
【0057】
細菌を、5mlBHI(ブレイン・ハート・インフュージョン)培地中で、37℃で一夜、培養器において増殖させた。得られる培養液の各々を2つのサンプルに分けた。1つはそのまま使用し、そして他方は遠心分離し、上澄液を回収した。アッセイは、150mMNaClを添加した20mMトリスバッファー(pH7.4)中で実施した。反応は、総容量100μl中培養液または上澄液7μlおよびペプチド基質(5mg/水1ml)3μlを用いて37℃で実施した。反応は、励起波長355nmと発光波長485nmを用いて蛍光定量プレートリーダーにおいて追跡した。
【0058】
実験の第1セットは、アッセイ溶液中に細菌培養液(培地および細胞)を直接添加して実施した。プロテアーゼが細胞膜に付着していれば、培地中に分泌されたそれを見い出すことは期待できない。したがって、細胞の存在が必要になる。アッセイは基質としてペプチドLL1を使用し、その結果は図2に示される。
【0059】
このアッセイに使用した細菌細胞をブレイン・ハート・インフュージョン(BHI)培地において定常期まで増殖させた。簡単に言えば、細菌培養液7μlをLL1ペプチド基質3μlおよびリン酸バッファー生理食塩水(pH7.4)92μlとともにインキュベートした。反応を、励起および発光波長それぞれ355nmと538nmを用いて37℃で96穴ミクロタイタープレートリーダーにおいて追跡した。反応は、1時間モニターし、KaleidaGraphソフトウエアを用いてプロットした。
バッファー、150mMNaCLを含有する20mMトリスバッファー(pH7.4)。シュードモナスとの交差反応性はない。
【0060】
若干のプロテアーゼ活性がこのペプチドを用いて両S.ピオゲネスおよびシュードモナスについて観察された。さらにまた、少量の活性がセラチア(Serratia)について観察された。反応を細菌上澄液を用いて反復し、結果は、S.ピオゲネスについては類
似していたが、シュードモナスによる反応はアッセイからの細胞の除去により低下した。
【0061】
アッセイをペプチドLL2を用いて同一条件下で反復した。
【0062】
このアッセイで使用した細菌細胞をブレイン・ハート・インフュージョン(BHI)培地において定常期まで増殖させた。アッセイは前述のように実施した。
【0063】
LL2を用いて得た結果(図3に示す)はLL1により得た結果に類似したが、全体の反応性はやや低下したように見えた。細胞と上澄液を用いて実施したアッセイは、S.ピオゲネスについて類似曲線を与えたが、シュードモナスについての活性は、アッセイからの細胞の除去により低下した。
【0064】
例2:ブタの創傷液アッセイ
創傷における交差反応性について試験するために、アッセイを生理学的に関連する条件下で実施した。LL1およびLL2に関するアッセイを、反応バッファーの代わりにブタの創傷液抽出液を用いて試験した。
【0065】
センサー研究のための部分的肥大創傷を創造する手術直後に、ガーゼ包帯を創傷上に置いた。一定時間後に包帯を除去し、バッグに入れ、そして−80℃のフリーザー内に置いた。吸収した創傷液を10mlのバッファー(0.1%TritonX−100を含む0.1MTris−HCl,pH7.4)中でインキュベートして包帯から回収した。包帯を室温で2時間両側においてインキュベートし、そして絞り出した。得られた液を一定分量に分け、−20℃で凍結した。
【0066】
細菌を、5mlBHI(ブレイン・ハート・インフュージョン)培地中で、37℃で一夜、培養器において増殖させた。得られる培養液の各々を遠心分離し、上澄液を回収した。アッセイは、新たに融解した創傷液中で実施した。反応は、総容量100μl中培養液または上澄液7μlおよびペプチド基質(5mg/水1ml)3μlを用いて37℃で実施した。反応は、励起波長355nmと発光波長485nmを用いて蛍光定量プレートリーダーにおいて追跡した。
【0067】
プロテアーゼアッセイをS.ピオゲネスとシュードモナスについての基質として先に同定したLL2を用いて実施した。結果を図4に示す。
【0068】
このアッセイで使用した細菌細胞をブレイン・ハート・インフュージョン(BHI)培地において定常期まで増殖させた。簡単に言えば、細菌培養液5μlをLL2ペプチド基質3μlおよび無菌創傷液92μlとともにインキュベートした。反応を、励起、発光波長それぞれ355nmと538nmを用いて37℃で96穴ミクロタイタープレートリーダーにおいて追跡した。反応は、1時間モニターし、KaleidaGraphソフトウエアを用いてプロットした。
【0069】
創傷液におけるアッセイは、S.ピオゲネスについては類似の結果を与えたが、シュードモナスはバックグラウンド以上のいかなる活性ももたなかった。アッセイを細菌上澄液を用いて反復した場合にも同じ結果を得た。
【0070】
本発明は、特に、その好適な実施態様を引用して示され、記述されたが、形態と詳細における種々の変化が、添付される請求項によって包含される本発明の範囲を逸脱することなく作成できることは、当業者によって理解される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1A】LL−37ペプチド(配列番号:3)における切断点の相対的位置を示す。LL−37の推定抗微生物領域は下線を施してある(Schmidtchen A et al.,2002より)。
【図1B】アッセイで使用されるペプチド基質LL1およびLL2のアミノ酸配列(配列番号:4〜5)を示す。
【図1C】アッセイで使用されるペプチド基質LL1およびLL2のアミノ酸配列(配列番号:4〜5)を示す。
【図2】ペプチドLL1を用いるアッセイの結果を示すグラフである。
【図3】ペプチドLL2を用いるアッセイの結果を示すグラフであり、これはS.ピオゲネス(S,pyogenes)に特異的であるようにみえる。
【図4】創傷液においてペプチドLL2を用いるアッセイの結果を示すグラフである。
【図1A−C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)検出可能に標識された陽イオン性抗微生物ペプチドであって、微生物によって生産および/または分泌される酵素によって分解可能であるペプチドとサンプルとを、酵素によるペプチドの分解をもたらす条件下で接触させる段階;および
b)ペプチドの分解がサンプル中の微生物の存在を指示し、かつ基質の分解の不在が該サンプル中の微生物の不在を指示することになる、ペプチドの分解もしくは分解の不在を検出する段階:
を含んでなる、サンプルにおける1種または多種の微生物の存在もしくは不在の検出方法。
【請求項2】
該微生物が細菌、ウイルスもしくは真菌である、請求項1の方法。
【請求項3】
細菌がストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)およびプロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)からなる群から選ばれる、請求項2の方法。
【請求項4】
酵素がプロテイナーゼ、エラスターゼ、プロテアーゼおよびゼラチナーゼからなる群から選ばれる、請求項3の方法。
【請求項5】
該サンプルが被験者における創傷表面および体液からなる群から選ばれる、請求項1の方法。
【請求項6】
該基質が固形支持体上に存在する、請求項1の方法。
【請求項7】
固形支持体が微生物汚染菌を含有しないことが求められる材料を含んでなる、請求項6の方法。
【請求項8】
該固形支持体が、創傷包帯剤、体液を保持する容器、ディスク、スコープ、フィルター、レンズ、泡、布、紙、縫合物および綿棒からなる群から選ばれる、請求項6の方法。
【請求項9】
該体液を保持する容器が、尿回収バッグ、血液収集バッグ、血漿収集バッグ、試験管、カテーテルおよびミクロプレートのウェルからなる群から選ばれる、請求項8の方法。
【請求項10】
ペプチドが固形支持体に付着されている、固形支持体および検出可能に標識された陽イオン性抗微生物ペプチドを含んでなる、サンプル中の微生物の存在または不在を検出するためのバイオセンサー。
【請求項11】
固形支持体が微生物汚染菌を含有しないことが求められる材料を含んでなる、請求項10のバイオセンサー。
【請求項12】
固形支持体が、創傷包帯剤、体液を保持する容器、ディスク、スコープ、フィルター、レンズ、泡、布、紙、縫合物および綿棒からなる群から選ばれる、請求項10のバイオセンサー。
【請求項13】
体液を保持する容器が、尿回収バッグ、血液収集バッグ、血漿収集バッグ、試験管、カテーテルおよびミクロプレートのウェルからなる群から選ばれる、請求項10のバイオセンサー。
【請求項14】
細菌がストレプトコッカス・ピオゲネス、シュードモナス・エルギノーサ、エンテロコッカス・フェカリスおよびプロテウス・ミラビリスからなる群から選ばれる、請求項13のバイオセンサー。
【請求項15】
請求項10〜14のいずれか1つに記載のバイオセンサー、および感染の原因となる微生物によって生産および/または分泌される酵素を検出するための1種以上の試薬を含んでなる、創傷感染を検出するためのキット。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−513605(P2007−513605A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532275(P2006−532275)
【出願日】平成16年1月30日(2004.1.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/002636
【国際公開番号】WO2005/012556
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(591005420)エチコン・インコーポレーテツド (8)
【氏名又は名称原語表記】ETHICON INCORPORATED
【Fターム(参考)】