説明

階層的クロモニック構造

(a)(i)連続する水溶性ポリマー相と(ii)クロモニック材料を含む不連続クロモニック相とを含む第1の水性混合物を調製し、クロモニックナノ粒子を形成する工程;(b)得られたクロモニックナノ粒子を多価カチオン塩と非共有架橋する工程;(c)得られた架橋クロモニックナノ粒子を水溶性ポリマー相へ分散して、クロモニックナノ粒子分散液を形成する工程;及び(d)(i)前記クロモニックナノ粒子分散液と(ii)クロモニック材料を含む連続クロモニック相とを含む第2の水性混合物を調製する工程を含む、クロモニック構造を作製する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば封入及び制御放出に有用な階層的クロモニック構造に関し、そして、別の態様では、該構造の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質又は材料の封入及び制御放出は、多数の方法によって達成されてもよい。一般的には、物質を包囲するか又は物質との混合物を形成するために、ポリマーコーティングが使用されてもよい。別の一般的な方法は、物質を放出できる開口部又は膜を有する巨視的構造を使用する。封入及び制御放出は、広範な有用性を見出すが、特に制御放出薬物送達の分野で有用である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
PCT国際公開特許WO2005/012488は、ゲスト分子(例えば、薬物)を後で放出できるようにクロモニックマトリックスに封入することを記載している。前記クロモニックマトリックスは、特定の環境条件から薬物を選択的に保護し、次いで他の環境条件下で薬物を制御して送達できる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
簡単に述べると、本発明はクロモニック構造の作製方法を提供する。前記方法は、(a)(i)連続する水溶性ポリマー相と(ii)クロモニック材料を含む不連続クロモニック相とを含む第1の水性混合物を調製し、クロモニックナノ粒子を形成する工程;(b)得られたクロモニックナノ粒子と多価カチオン塩とを非共有架橋する工程;(c)得られた架橋クロモニックナノ粒子を水溶性ポリマー相へ分散して、クロモニックナノ粒子分散液を形成する工程;及び(d)(i)前記クロモニックナノ粒子分散液と(ii)クロモニック材料を含む連続クロモニック相とを含む第2の水性混合物を調製する工程を含む。
【0005】
本明細書で使用するとき、「ナノ粒子」は、約1,000nm未満の粒子を指す。
【0006】
本明細書で使用するとき、「クロモニック材料」(又は「クロモニック化合物」)は、通常、種々の疎水性基によって囲まれた疎水性コアの存在によって特徴付けられる大きな多環分子を指す(例えば、アトウッドT.K.(Attwood, T.K.)及びライドンJ.E.(Lydon, J.E.)、Molec.Crystals Liq.Crystals,108,349(1984)を参照のこと)。疎水性コアは、芳香族及び/又は非芳香族環を含有できる。溶液中にある場合、これらのクロモニック材料は、長距離秩序によって特徴付けられるネマチック秩序化状態に凝集する傾向がある。
【0007】
本明細書で使用するとき、「分散液」とは、液体連続相内に分配又は懸濁された固体のクロモニックナノ粒子を意味し、それは有用な期間、例えば数分、数時間又は数日にわたって分離しない。
【0008】
別の態様において、本発明はクロモニックナノ粒子を含有するポリマードメインを含む連続クロモニック相を含む、クロモニック構造を提供する。
【0009】
本発明は、階層的クロモニック構造を有利に提供する。階層的クロモニック構造は、多数の用途で有用である。
【0010】
例えば、階層的クロモニック構造は、優先的収着用途で有用となりうる。連続クロモニック相は、例えば、特定の化合物を吸収するクロモニック材料を含むことができ、同時にクロモニックナノ粒子は、異なる化合物を吸収するか又は同じ化合物を異なる速度で吸収する異なるクロモニック材料を含む。クロモニック材料は、例えば、染料、小さな薬物分子などを吸収するために使用できる。
【0011】
階層的クロモニック構造は、ゲスト化合物(例えば、薬物)の封入及び制御放出に特に有用となりうる。薬物は、連続クロモニック相若しくはクロモニック粒子、又はその両方に封入されることができる。クロモニック類は、薬物を特定の環境条件から保護し、その後別の環境条件下で薬物を制御可能に放出することができる。本発明で提供される階層構造は、薬物の制御放出に対して増大された柔軟性を提供する。
【0012】
例えば、薬物の即時放出と持続放出との組み合わせが望まれるとき(例えば、1回用量が、特定の症状を素早く緩和するために初期に爆発的放出を提供し、その後症状の長期治療を提供するために持続的送達を提供する場合)、連続クロモニック相が即時放出を提供し、クロモニックナノ粒子が持続放出を提供するように処方できる。
【0013】
連続クロモニック相は、クロモニックナノ粒子のみへの封入によって提供される保護と比べて、増大された環境条件からの保護も提供できる。連続クロモニック相は、例えば、クロモニックナノ粒子とは異なる環境条件から保護することができ、又はクロモニックナノ粒子と同じ環境条件に対して追加の保護層を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
いかなるクロモニック材料も、本発明の方法及び構造に有用であることができる。クロモニック相を形成する化合物は、当該技術分野において既知であり、それらとしては、例えばキサントース(xanthose)類(例えば、アゾ染料及びシアニン染料)及びペリレン類(例えば、カワサキ(Kawasaki)ら、ラングミュア(Langmuir)16,5409(2000)、又はリドンJ.(Lydon, J.),コロイド・アンド・インターフェース・サイエンス(Colloid and Interface Science),8,480(2004)を参照のこと)が挙げられる。有用なクロモニック材料の代表的な例としては、ジ−及びモノ−パラジウムオルガニル類、スルファモイル置換銅フタロシアニン類、及びヘキサアリールトリフェニレン(hexaaryltryphenylene)が挙げられる。
【0015】
好ましいクロモニック材料としては、次の一般式の1つ以上から選択されるものが挙げられる:
【0016】
【化1】

【0017】
式中、
各Rは独立に、電子供与性基、電子求引性基、及び電子中性基から成る群から選択され、
は、置換及び非置換へテロ芳香族環並びに置換及び非置換複素環から成る群から選択され、この環がRの環内の窒素原子を通してトリアジン基と連結する。
【0018】
上記で示したように、クロモニック化合物は中性であるが、双性イオン又はプロトン互変異性体(例えば、水素原子がカルボキシル基の1つから解離して、トリアジン環の窒素原子の1つと会合する)のような代替形態にて存在できる。クロモニック化合物もまた、例えばカルボキシレート塩のような塩であることができる。
【0019】
上記の一般構造は、カルボキシル基が化合物のトリアジン骨格につながるアミノ連結に対してパラである配向(式I)及びカルボニル基がトリアジン骨格につながるアミノ連結に対してメタである配向(式II)を示す。カルボニル基はまた、パラ及びメタ配向の組み合わせ(図示せず)であることができる。好ましくは、配向はパラである。
【0020】
好ましくは、各Rは水素又は置換若しくは非置換アルキル基である。より好ましくは、Rは独立に、水素、非置換アルキル基、ヒドロキシ又はハライド官能基で置換されたアルキル基、及びエーテル、エステル、又はスルホニルを含むアルキル基から成る群から選択される。最も好ましくは、Rは水素である。
【0021】
は、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、イミダゾール、オキサゾール、イソオキサゾールチアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、ピラゾール、トリアゾール、トリアジン、キノリン、及びイソキノリンから誘導されるヘテロ芳香族環であることができるが、これらに限定されない。好ましくは、Rはピリジン又はイミダゾールから誘導されるヘテロ芳香族環を含む。ヘテロ芳香族環Rの置換基は、置換及び非置換アルキル、カルボキシ、アミノ、アルコキシ、チオ、シアノ、アミド、スルホニル、ヒドロキシ、ハライド、ペルフルオロアルキル、アリール、エーテル、及びエステル基から成る群から選択できるが、これらに限定されない。好ましくは、Rのための置換基は、アルキル、スルホニル、カルボキシ、ハライド、ペルフルオロアルキル、アリール、エーテル、及びヒドロキシ、スルホニル、カルボキシ、ハライド、ペルフルオロアルキル、アリール、又はエーテルで置換されたアルキルから成る群から選択される。Rが置換ピリジンである場合、置換基は好ましくは4位に位置する。Rが置換イミダゾールである場合、置換基は好ましくは3位に位置する。
【0022】
の代表的な例としては、下に示す4−(ジメチルアミノ)ピリジニウム−1−イル、3−メチルイミダゾリウム−1−イル、4−(ピロリジン−1−イル)ピリジニウム−1−イル、4−イソプロピルピリジニウム−1−イル、4−[(2−ヒドロキシエチル)メチルアミノ]ピリジニウム−1−イル、4−(3−ヒドロキシプロピル)ピリジニウム−1−イル、4−メチルピリジニウム−1−イル、キノリニウム−1−イル、4−tert−ブチルピリジニウム−1−イル、及び4−(2−スルホエチル)ピリジニウム−1−イルが挙げられる。
【0023】
【化2】

【0024】
はまた、次の一般構造によって表すこともできる:
【0025】
【化3】

【0026】
式中、Rは水素又は置換若しくは非置換アルキル基である。より好ましくは、Rは、水素、非置換アルキル基、及びヒドロキシ、エーテル、エステル、スルホネート、又はハライド官能基で置換されたアルキル基から成る群から選択される。最も好ましくは、Rは、プロピルスルホン酸、メチル、及びオレイルから成る群から選択される。
【0027】
はまた、例えばモルホリン、ピロリジン、ピペリジン、及びピペラジンのような複素環からも選択できる。
【0028】
本発明の方法に使用するために好ましいクロモニック化合物は、次の式の1つによって表すことができる。
【0029】
【化4】

【0030】
(式中、Xは対イオンである)。好ましくは、Xは、HSO、Cl、CHCOO、及びCFCOOから成る群から選択される。
【0031】
式IIIは、その双性イオン性形態での化合物を示す。そのため、イミダゾール窒素は正電荷を有し、カルボキシ官能基の1つは負電荷(COO)を有する。
【0032】
化合物はまた、他の互変異性形態で存在することもでき、そこでは例えば両方のカルボキシ官能基は負電荷を有し、正電荷はトリアジン基の窒素及びイミダゾール基上の窒素の1つによって保有される。
【0033】
米国特許第5,948,487号(サホウアニ(Sahouani)ら)に記載されるように、式Iのトリジアン誘導体は、水溶液として調製できる。上記式Iに示されるトリアジン分子の通常の合成ルートは、2工程プロセスを含む。塩化シアヌルを4−アミノ安息香酸で処理して4−{[4−(4−カルボキシアニリノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン−2−イル]アミノ}安息香酸を得る。この中間体を置換又は非置換窒素含有複素環で処理する。複素環の窒素原子がトリアジン上の塩素原子で置き換わり、対応する塩化物塩を形成する。上記式IIIに示されるような双性イオン性誘導体は、その塩化物塩を水酸化アンモニウムに溶解させ、陰イオン交換カラムに通して塩化物を水酸化物で置き換え、その後溶媒を除去することによって調製される。上記式IIで示されるような代替構造は、4−アミノ安息香酸の代わりに、3−アミノ安息香酸を用いることによって得てもよい。
【0034】
クロモニック材料は、水溶液(好ましくは、アルカリ性水溶液)中に溶解させた場合にクロモニック相又は集合体を形成できる。クロモニック相又は集合体は当該技術分野において既知であり(例えば、液晶ハンドブック(Handbook of Liquid Crystals),2B巻,XVIII章,クロモニックス(Chromonics),ジョン・ライドン(John Lydon),p.981〜1007,1998年を参照のこと)、平坦な多環芳香族分子の積層体から成る。分子は、親水性基によって囲まれた疎水性コアから成る。積層は多数のモルホロジーをとることができるが、通常、層の積層体によって生じる円柱を形成する傾向によって特徴付けられる。濃度の増大に伴って成長する分子の秩序化した積層体が形成される。
【0035】
好ましくは、クロモニック材料は、1つ以上のpH調節化合物及び任意に界面活性剤の存在下で水溶液中に置かれる。pH調節化合物の添加により、クロモニック材料を、水溶液中により溶けやすくすることができる。好適なpH調節化合物としては、例えば水酸化アンモニウム又は種々のアミン類のようないずれかの既知の塩基を含む。界面活性剤を、例えばクロモニックナノ粒子のクロモニックマトリックスへの薬物の組み込みを促進するために、水溶液に添加することができる。本明細書で使用する時、「クロモニックマトリックス」とは、ネマチック秩序化状態に凝集したクロモニック材料を指す。
【0036】
好適な界面活性剤としては、イオン性及び非イオン性界面活性剤(好ましくは非イオン性)が挙げられる。任意の添加剤、例えば粘度調整剤(例えば、ポリエチレングリコール)及び/又は結合剤(例えば、低分子量加水分解デンプン類)も添加できる。
【0037】
通常、クロモニック材料は、約40℃未満の温度(より典型的には、室温)にて水溶液中に溶解され、塩基の添加によってpH6〜8に中和される。中和されたクロモニック材料は、次いで水溶性ポリマーの溶液と合わせてもよい。しかし、当業者は、得られたナノ粒子の形状及び大きさは、温度を変更することによってある程度制御できることを認識するであろう。
【0038】
クロモニック材料を含む水性組成物は、水溶性ポリマーを含む連続相と混合されて、第1の水性混合物を形成できる。
【0039】
好ましくは、水溶性ポリマーは約20,000未満の分子量を有する。有用な水溶性ポリマーとしては、例えば、ビニルアルコールポリマー類、アスパラギン酸ポリマー類、アクリル酸ポリマー類、メタクリル酸ポリマー類、アクリルアミドポリマー類、ビニルピロリドンポリマー類、ポリ(アルキレンオキシド)類、ビニルメチルエーテルポリマー類、スルホン化ポリエステル類、複合糖質類、グアーガム、アラビアゴム、トラガカントゴム、カラマツゴム、カラヤゴム、イナゴマメゴム、寒天、アルギン酸塩、カラギーナン、ペクチン、セルロース及びセルロース誘導体、デンプン及び加工デンプン、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。コポリマー類、例えばブロック又はランダムコポリマー類も有用であることができる。好ましい水溶性ポリマー類としては、例えばセルロース類、デンプン類(加工デンプン類、例えばホスホン化又はスルホン化デンプン類を含む)ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレングリコール)−co−(プロピレングリコール)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0040】
特定の水溶性ポリマーは、ナノ粒子の形状に影響する場合がある。大抵の場合、球状のナノ粒子が得られる。別の実施形態では、針状(ニードル様)金属性ナノ粒子は、加工デンプンの使用から得られた。ナノ粒子の縦横比は、一般に、1:4〜1:10の範囲であり、初期寸法は約300nm〜約10μmである。さらに別の実施形態において、偏球又はトロイダル形状が得られる場合がある。
【0041】
第1の水性混合物中の各構成成分の相対濃度は、得られるナノ粒子の所望の大きさ及びそれらの意図する用途によって変わるであろう。しかし一般には、クロモニック材料は、クロモニック相が不連続であり、水溶性ポリマー相が連続となるのに十分な量で水溶性ポリマーの溶液に添加されるであろう。水溶性ポリマー及びクロモニック材料の量は、一般に、乾燥重量基準にて比が少なくとも約5:1であり、約99:1未満、及び好ましくは3:1〜15:1となるように選択される。一般に、水溶性ポリマーは、約15〜約25重量%の水性混合物を含む。一般に、クロモニック材料の濃度は、第1の水性混合物の約0.25〜約7重量%である。
【0042】
任意に、表面張力を増大させる、又はコーティングを促進する界面活性剤及びその他の添加剤(例えば、エタノールのような短鎖アルコール類)が添加できる。
【0043】
第1の水性混合物から形成されるクロモニックナノ粒子は、多価カチオンによって非共有架橋される。この架橋は、ナノ粒子を水に不溶性にする。非共有とは、架橋が永久的に形成される共有(又は化学)結合を含まないことを意味する。すなわち、架橋は、新規な、より大きい分子を導く化学反応から生じるのではなく、化学反応を行うことなくそれらを共に保持するのに十分強いホスト分子とカチオンとの静電気的及び/又は配位会合から生じる。こうした相互作用は通常はイオン性であり、ホスト分子上の見掛けの負電荷と多価カチオンの見掛けの正電荷との相互作用から生じ得る。多価カチオンは少なくとも2つの正電荷を有するので、2つ以上のクロモニック分子とイオン結合を形成できる、すなわち2つ以上のクロモニック分子間に架橋を形成できる。二価及び/又は三価カチオンが好ましい。大多数の多価カチオンが二価であるのがより好ましい。好適なカチオンとしては、いずれの二価又は三価カチオンも挙げられ、バリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、及び鉄が特に好ましい。
【0044】
一般に、クロモニック材料は、水溶性ポリマーの連続相及びクロモニック材料の不連続相を含む分散液の形成後に架橋される。通常、分散液は、過剰の多価カチオン塩の溶液に添加される。
【0045】
非共有結合架橋の後、ナノ粒子表面を表面改質剤で改質させて、粒子をより親水性、疎水性、生体適合性、又は生理活性にすることができる。表面基は、凝集せずに連続相にて後で分散させることができる表面改質クロモニックナノ粒子を提供するのに十分な量で粒子の表面上に存在する。表面基は、好ましくは、クロモニックナノ粒子の表面上に単一層、好ましくは連続単一層を形成するのに十分な量で存在する。一般に、架橋されたクロモニックナノ粒子はまず水溶性ポリマー分散液から単離され、次いで表面改質剤の溶液に再懸濁される。
【0046】
表面改質基は表面改質剤から誘導されてもよい。概略的に、表面改質剤は式A−Bによって表すことが可能であり、ここでA基はクロモニックナノ粒子の表面に結合することが可能であり、B基は所望の親水性、疎水性又は生体適合性を与える適合化基である。適合化基は、粒子を比較的より極性に、比較的極性を低く又は比較的非極性にするように選択することが可能である。
【0047】
好適な部類の表面改質剤としては、炭素、硫黄及びリンの有機オキシ酸類、例えばアルキルカルボキシレート類、アルキルサルフェート類、アルキルスルホネート類、アルキルホスフェート類及びアルキルホスホネート類、グリコシドホスホネート類及びこれらの組み合わせが挙げられる。トゥイーンズ(Tweens)(商標)及びスパンズ(Spans)(商標)の商標名で入手可能な表面改質剤も有用である。
【0048】
カルボン酸官能性を有する極性表面改質剤の代表的な例としては、酸又は塩形態のいずれかでの、化学構造CHO(CHCHO)CHCOOH(n=2〜50)を有するポリ(エチレングリコール)モノカルボン酸及び化学構造CHOCHCHOCHCOOHを有する2−(2−メトキシエトキシ)酢酸が挙げられる。
【0049】
カルボン酸官能性を有する非極性表面改質剤の代表的な例としては、酸又は塩形態のいずれかでの、オクタン酸、ドデカン酸及びオレイン酸が挙げられる。オレフィン性不飽和を含有するカルボン酸、例えばオレイン酸の場合、炭素−炭素二重結合は、Z又はE立体異性体又はこれらの混合物のいずれかとして存在してもよい。
【0050】
好適なリン含有酸類の例としては、酸又は塩形態のいずれかにて、例えばオクチルホスホン酸、デシルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、オレイルホスホン酸を包含するアルキルホスホン酸類及び化学構造CHO(CHCHO)CHCHPO(n=2〜50)を有するポリ(エチレングリコール)モノホスホン酸が挙げられる。オレフィン性不飽和を含有するホスホン酸、例えばオレイルホスホン酸の場合、炭素−炭素二重結合は、Z又はE立体異性体又はこれらの混合物のいずれかとして存在してもよい。
【0051】
好適なリン含有酸類の追加の例としては、例えばオクチルホスフェート、ドデシルホスフェート、オレイルホスフェート、ジオレイルホスフェート、オレイルメチルホスフェートを包含するリン酸モノ−及びジエステル類のようなアルキルホスフェート類及び化学構造CHO(CHCHO)CHCHOPO(n=2〜50)を有するポリ(エチレングリコール)モノリン酸が挙げられる。
【0052】
一部の変更において、表面改質剤A−BのB基はまた、クロモニックナノ粒子の親水性、疎水性又は生体適合性をさらに調節するために追加の特定官能基(類)を含有できる。好適な官能基としては、ヒドロキシル、カルボニル、エステル、アミド、エーテル、アミノ、及び四級アンモニウム官能基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
別の好適な表面改質剤は、高分子性の界面活性剤である。
【0054】
生体適合性が所望される場合、クロモニックナノ粒子は、グリコシドホスホネート類、例えばホスホン酸のグルコシド類、マンノシド類、及びガラクトシド類で表面改質されてもよい。
【0055】
いくつかの実施形態において、第1の水性組成物は、溶液中の貴金属塩と混合されて、金属性クロモニックナノ粒子を生成できる。次に、前記混合物を、多価カチオン塩と接触させて、クロモニック材料を非共有結合架橋し、貴金属塩を取り込むことができる。
【0056】
好ましい貴金属塩類としては、銀塩類(例えば、硝酸銀、酢酸銀など)、金塩類(例えば、金チオリンゴ酸ナトリウム、塩化金など)、白金塩類(例えば、硝酸白金、塩化白金など)及びこれらの混合物が挙げられる。その他の遷移金属も使用できる。特に、一価の遷移金属カチオンの塩類が使用できる。
【0057】
金属塩は還元されて、架橋クロモニックナノ粒子に含有される元素貴金属ナノ粒子の懸濁液を形成できる。これは、当該技術分野において既知の還元方法によって達成できる。例えば、還元は、還元剤(例えば、トリス(ジメチルアミノ)ボラン、ホウ化水素ナトリウム、ホウ化水素カリウム、又はホウ化水素アンモニウム)、電子ビーム(e−ビーム)処理、又は紫外線(UV)光を用いて達成できる。
【0058】
金属ナノ粒子は、例えば、標識(タグ)として機能できる。これらは、医用画像、光スイッチング装置、光コミュニケーションシステム、赤外線検出器、赤外線遮蔽装置、化学センサ、受動太陽放射収集又は偏向装置(passive solar radiation collection or deflecting devices)などといった多数の用途で有用となりうる。
【0059】
第1の水性混合物から形成される架橋クロモニックナノ粒子を、水溶性ポリマー相に分散することができる。続いて、前記分散液とクロモニック材料を含む連続クロモニック相とを含む第2の水性混合物を作製できる。
【0060】
上記のクロモニック材料のいずれも、第2の水性混合物の連続クロモニック相に使用できる。第2の水性混合物に使用されるクロモニック材料は、第1の水性混合物に使用されるものと同じクロモニック材料であることも異なるクロモニック材料であることもできる。例えば、いくつかの用途では、低pH条件で異なる吸収性又は異なる安定性を有する2つの異なるクロモニック材料を使用することが有利となることができる。
【0061】
上記の水溶性ポリマーのいずれも、クロモニックナノ粒子分散液の水溶液ポリマー相に使用できる。クロモニックナノ粒子分散液に使用される水溶性ポリマーは、第1の水性混合物に使用されるものと同じ水溶性ポリマーであることも異なる水溶性ポリマーであることもできる。
【0062】
第2の水性混合物は、構成成分の濃度が異なるであろうことを除いて、第1の水性混合物の作製について記載されたものと本質的に同じ手順を用いて作製できる。
【0063】
第2の水性混合物について、クロモニック材料を水溶液に溶解することができる。一般に、クロモニック材料は、前記溶液の約4〜約30(好ましくは、約4〜約20)重量%の範囲の濃度を達成するために前記溶液に添加されるであろう。クロモニック材料を含むこの水溶液を、続いて、クロモニックナノ粒子分散液と混合することができる。一般に、水溶性ポリマー及びクロモニック材料の量は、乾燥重量基準にて比が少なくとも約0.01:1であり、約1:1未満(好ましくは0.2:1未満)となるように選択される。
【0064】
連続クロモニック相は、非イオン性界面活性剤も含むことができる。好ましくは、非イオン性界面活性剤は、アルキルグルコシド界面活性剤である。非イオン性界面活性剤対クロモニック材料の重量比は、一般に、少なくとも約0.01:1、及び約0.3:1未満(好ましくは約0.03:1未満)であることができる。
【0065】
任意に、表面張力を増大させる、又はコーティングを促進するその他の添加剤(例えば、エタノールのような短鎖アルコール類)を添加できる。第2の水性組成物を、任意に、溶液中の貴金属塩と混合できる。続いて、金属塩は還元されて、連続クロモニック相に含有される元素貴金属ナノ粒子の懸濁液を形成できる。
【0066】
得られた混合物は、基材の表面に適用できる。好適な基材としては、混合物の適用を許容するいずれかの固体材料(例えば、ガラス又はポリマーフィルム)が挙げられる。
【0067】
混合物は、例えば巻線型コーティングロッドのようなコーティング技術又は押出成形ダイ法のような、クロモニック材料の秩序だった配置を提供するいかなる有用な手段によっても、適用できる。好ましくは、適用中又は適用後に剪断配向若しくは磁性配向を混合物に適用する。混合物に剪断力又は磁力を適用することにより、乾燥時に、配向した構造又はマトリックスが得られるようにクロモニック材料の整列を促進するのを助けることができる。連続クロモニック相は、ポリマードメインを含むであろう。ポリマードメインは、球状、偏球状、円柱状、又は層状の形状であることができ、一般的にはナノメートルスケールからミリメートルスケールの寸法範囲であることができる。例えば、いくつかの実施形態において、ポリマードメインは約500nm〜約5mmの初期寸法を有することができる。ポリマードメインの形状及び寸法は、使用するポリマーの性質によって、ポリマーの濃度によって、及び/又は添加剤によって影響を受ける可能性がある。クロモニックナノ粒子は、ポリマードメイン内に含有される。
【0068】
コーティングされた層の乾燥は、水性コーティングを乾燥させるために好適ないずれかの手段を用いて達成できる。有用な乾燥方法は、コーティングを損傷せず、又はコーティング若しくは適用中に付与されるコーティングされた層の配向を顕著に崩壊させない。
【0069】
任意に、得られるクロモニック表面(すなわち、連続クロモニック相)は、多価カチオンによって非共有架橋することができる。一般に、クロモニック材料は、不連続水溶性ポリマー相とクロモニック材料を含む連続クロモニック相とを含む分散液の形成後に架橋される。通常、分散液は、過剰の多価カチオン塩の溶液に添加される。
【0070】
非共有架橋に続いて、連続クロモニック相を表面改質剤と上記のように接触させ、マトリックスをより親水性、疎水性、生体適合性、又は生理活性にすることができる。
【0071】
いくつかの実施形態において、本発明は、1つ以上のゲスト化合物の封入及び制御放出のために使用できる。本発明は、クロモニックナノ粒子を含有する水溶性ポリマードメインを含む連続クロモニック相を提供する。ゲスト化合物は、クロモニックナノ粒子及び/又は連続クロモニック相に封入されることができる。ゲスト化合物がクロモニックナノ粒子と連続クロモニック相の両方に封入されるとき、それらは同じゲスト化合物であっても異なるゲスト化合物であってもよい。1種類を超えるゲスト化合物がクロモニックナノ粒子及び/又は連続クロモニック相に封入されることもできる。さらに、異なるゲスト化合物を含有するクロモニックナノ粒子がポリマードメイン内に含有されることができる(すなわち、第1の封入されたゲスト化合物を含有するクロモニックナノ粒子と第2の封入されたゲスト化合物を含むクロモニックナノ粒子とがポリマードメイン内に含有されることができる)。
【0072】
例えば、通常は水に可溶であるゲスト分子が、非水溶性クロモニックナノ粒子又は連続クロモニック相に封入されているために、水への溶解を妨げられてもよい。同様に、クロモニックナノ粒子又は連続クロモニック相が、酸の存在下で不安定なゲスト分子を有効に隔離してもよい。このようにして、ゲスト分子はナノ粒子又はマトリックス内に封入されている間分解しないであろう。クロモニックナノ粒子又は連続クロモニック相は、反応物質を、その反応を防止するために分離するためにも使用できる。
【0073】
有用なゲスト化合物の例としては、染料、美容剤、芳香剤、着香剤、並びに薬物、除草剤、殺虫剤、フェロモン、及び抗菌剤(例えば、抗細菌剤、抗真菌剤など)のような生理活性化合物が挙げられる。生理活性化合物は、疾患の診断、治療、緩和、処置、又は予防に使用することを意図した化合物、又は生体の構造若しくは機能に影響する化合物として本明細書にて定義される。生物に対して治療効果をもたらすことを意図する薬物(すなわち、薬学的に活性な成分)は、特に有用なゲスト化合物である。或いは、除草剤及び殺虫剤は生体、例えば植物又は害虫に対して負の効果をもたらすことを意図する生理活性化合物の例である。いかなる種類の薬物も本発明に使用することができるが、特に好適な薬物としては、固体剤形として処方される場合に比較的不安定なもの、胃の低pH条件によって悪影響を受けるもの、胃腸管中の酵素に曝されて悪影響を受けるもの、及び持続性又は制御された放出を介して患者に提供されることが望ましいものが挙げられる。
【0074】
連続クロモニック相及びクロモニックナノ粒子は、薬物を特定の環境条件から選択的に保護し、その後該薬物を他の環境条件下で制御可能に放出するであろう。例えば、クロモニック材料は、動物に投与される場合、胃の酸性環境において安定であることができ、腸の非酸性環境を通過するときに、pHの変化の結果として溶解するであろう。クロモニック材料は、薬物を酵素分解から保護することもできる。
【0075】
本発明はまた、粒子にて薬物分子を有効に隔離するためにも使用でき、その結果混合剤形における異なる薬物間での所望でない相互作用(例えば、化学反応)、単一薬物構成成分での所望でない変化(例えば、オストワルド熟成又は粒子成長、結晶形態における変化)、及び/又は薬物と1つ以上の賦形剤との間の所望でない相互作用を回避できるようにする。例えば、本発明により、通常は互いの存在下で不安定な2つの薬物(又は化学反応物質)を、その両方をクロモニックナノ粒子に封入することによって、又は一方をクロモニックナノ粒子に封入し他方を連続クロモニック相に封入することによって、安定な剤形に処方することができる。
【0076】
ゲスト化合物は、ゲスト化合物をクロモニック材料の第1の水溶液に添加することによって、クロモニックナノ粒子に含有又は挿入されることができる。あるいは、ゲスト化合物は、クロモニック材料又は多価カチオン溶液と混合する前に、油又は噴射剤のような別の賦形剤又はビヒクルに分散又は溶解することができる。ナノ粒子は、例えば、濾過、噴霧、又は他の手段によって回収し、そして水性キャリアを除去するために乾燥することができる。
【0077】
薬物のようなゲスト化合物は、クロモニック材料の導入の前に、水性分散剤含有溶液に溶解されることができる。好適な分散剤としては、アルキルホスフェート類、ホスホネート類、スルホネート類、スルフェート類、又はカルボキシレート類が挙げられ、それらには長鎖飽和脂肪酸類又はアルコール類及びモノ又はポリ不飽和脂肪酸類若しくはアルコール類を含む。オレイルホスホン酸は、好適な分散剤の例である。いずれかの特定理論に束縛されるものではないが、分散剤は、ゲスト化合物が良好に封入できるようにゲスト分子を分散させるのに役立つと考えられる。
【0078】
アルカリ性化合物は、クロモニック材料の導入前にゲスト化合物溶液に添加されることができる。或いは、アルカリ性化合物は、ゲスト化合物とクロモニック材料溶液とを混合する前にクロモニック材料溶液に添加されることができる。好適なアルカリ性化合物の例としては、エタノールアミン、水酸化ナトリウム若しくはリチウム、又はアミン類、例えばモノ、ジ、トリアミン類又はポリアミン類が挙げられる。理論に束縛されるものではないが、アルカリ性化合物は、ホスト化合物が上記の式I及びIIに記載されるもののようなトリアジン化合物である場合は特に、ホスト化合物を溶解させるのに役立つと考えられる。
【0079】
大きい粒子(例えば、直径が数ミリメートル程度)が調製されてもよいが、本発明の粒子の質量メジアン(mass median)直径は、一般的には大きさが1000nm未満、大きさが普通は500nm未満、及び場合によっては大きさが100nm未満である。特定の場合、大きさが1μmを超える粒子が望ましい場合もある。特に、これらの粒径は、特定酵素の存在によって腸内で不安定な薬物の経口送達に望ましい場合がある。こうした薬物の例としては、タンパク質、ペプチド類、抗体、及び体内の酵素プロセスに特に感応性であり得るその他の生物学的分子が挙げられる。こうした場合、これらの小さい粒子は、腸壁に直接取り込まれる可能性があり、粒子は主に腸障壁を通過後に溶解するようにして、腸環境に曝される感応性薬物の量を最小限にする。
【0080】
ゲスト化合物は、該ゲスト化合物をクロモニック材料の第2の水溶液に添加することによって、又は連続クロモニック相が非共有架橋されている場合には沈殿前に多価カチオン水溶液に添加することによって、連続クロモニック相に含有又は挿入することができる。上記のように、ゲスト化合物は、クロモニック材料又は多価カチオン溶液と混合する前に、油又は噴射剤のような別の賦形剤又はビヒクルに分散又は溶解することができる。
【0081】
クロモニックナノ粒子及び連続クロモニック相は、一価カチオン又は界面活性剤のようなその他の非イオン性化合物の水溶液に可溶である。通常の一価カチオンとしては、ナトリウム及びカリウムが挙げられる。クロモニックナノ粒子及び連続クロモニック相を溶解するのに必要な一価カチオンの濃度は、ナノ粒子及びマトリックス内のクロモニック分子の種類及び量に依存するであろう。したがって、ナノ粒子と連続相とについて、異なるクロモニック材料を、それらが異なる濃度で溶解するように選択することができる。ただし、一般に、完全な溶解のためには、少なくともマトリックス中のカルボキシル基のモル量と等しいモル量の一価カチオンが存在する必要がある。このようにして、各カルボキシル基と会合する少なくとも1つの一価カチオンが存在する。
【0082】
クロモニックナノ粒子又は連続クロモニック相が溶解する速度は、架橋に使用する多価カチオンの種類及び量を調節することによって調節できる。連続クロモニック相内でのゲスト化合物の素早い放出が望ましい場合、連続クロモニック相は架橋されなくてもよい。
【0083】
二価カチオンは、クロモニックナノ粒子及び連続クロモニック相を架橋するのに十分であろうが、より高い価数のカチオンは、追加の架橋を提供し、より低速の溶解速度につながるであろう。価数に加えて、溶解速度も特定のカチオン種類に依存するであろう。したがって、ナノ粒子と連続相とについて、異なる価数及び/又はカチオンの種類を、それらが異なる濃度で溶解するように選択することができる。例えば、マグネシウムのような弱く配位した二価カチオンは一般に、遊離電子対との配位結合を形成できる空の電子軌道を有する強く配位した二価カチオン、例えばカルシウム又は亜鉛よりも溶解を速めるであろう。
【0084】
整数でない平均カチオン価数を与えるように異なるカチオン種類を混合することができる。特に、二価及び三価のカチオンの混合物は、一般にカチオンの全てが二価である場合よりも溶解速度を遅くするであろう。1つの態様において、ゲスト化合物の全ては時間の経過とともに放出されるが、特定の用途においては、ゲスト化合物の一部だけが放出されることが望ましい場合もある。例えば、クロモニック材料及び多価カチオンの種類又は量は、放出されるゲスト化合物の総量がそれらの置かれる環境に応じて変化するように調節されることができる。1つの実施形態において、クロモニックナノ粒子(又は連続クロモニック相)は酸性溶液内で溶解せず、それゆえ酸に敏感なゲスト化合物を分解から保護する。別の実施形態において、クロモニックナノ粒子(又は連続クロモニック相)は一価カチオンを含有する酸性溶液内で溶解せず、それゆえ酸に敏感なゲスト化合物を分解から保護する。
【0085】
ゲスト化合物が薬物である特定の場合、望ましい全般的放出プロファイルの2つの一般的な種類は即時性又は持続性である。即時放出用途のためには、薬物の大部分は、約4時間未満、一般に約1時間未満、多くの場合約30分未満、さらに特定の場合は約10分未満の期間で放出されるのが一般に望ましい。場合によっては、薬物の放出はほぼ瞬間的なものである、すなわち数秒で生じるのが望ましい。持続性(又は制御された)放出用途のためには、薬物の大部分は約4時間以上の期間で放出されるのが通常は望ましい。例えば種々の埋め込み可能用途においては1ヶ月以上の期間が望ましい場合もある。経口持続性放出調剤は、一般に約4時間〜約14日、場合によっては約12時間〜約7日の期間で大部分の薬物を放出する。態様の1つでは、薬物の大部分を約24〜約48時間の期間で放出するのが望ましい場合もある。
【0086】
即時性と持続性の組み合わせも望ましい場合があり、それは例えば調剤が初期に一気に放出され、特定の症状を素早く緩和し、その後持続性送達によって症状を長期間治療する場合である。このような場合、連続クロモニック相が素早い放出を提供し、クロモニックナノ粒子が持続的送達を提供するように処方することができる。
【0087】
場合によっては、薬物のパルス又は多峰性放出が望ましい場合があり、それによって放出速度は時間の経過により変化し、生物の概日リズム・サーカディアンリズムに合わせて増大及び減少する。同様に、薬物の遅延放出を提供するのが望ましい場合があり、それによって調剤は都合の良い時間、例えば就寝直前に投与されてもよく、しかしながら薬物の放出を、起床直前のような薬物がより有効となり得る後の時間まで防ぐこともできる。パルス放出、多峰性放出、又は遅延放出プロファイルを達成するための1つの手法は、異なる薬物放出特性を有する2以上の種類のナノ粒子を混合することであってもよい。或いは、粒子及び連続相は、異なる薬物放出特性を有して形成されてもよい。
【0088】
本発明は、経口剤形送達に使用するための薬物の封入に特に有用である。通常の経口剤形としては、固体調剤、例えば錠剤及びカプセルが挙げられるが、経口投与される他の調剤、例えば液体懸濁液及びシロップ剤も挙げることができる。本発明の連続クロモニック相及び/又はクロモニックナノ粒子は、動物に投与される場合、胃の酸性環境において安定であることができ、腸の非酸性環境を通過するときに溶解するであろう。連続クロモニック相及び/又はナノ粒子が酸性溶液中で安定である場合、粒子は、一般に1時間より長い、場合によっては12時間より長い期間で安定であることができ、さらに7.0未満のpH、例えば約5.0未満のpH)、場合によっては約3.0未満のpHを有する酸性環境に存在する場合は、24時間を超えてなお安定であってもよい。
【実施例】
【0089】
本発明の目的及び利点は、下記の実施例によってさらに例示されるが、これらの実施例において列挙された特定の材料及びその量は、他の諸条件及び詳細と同様に本発明を過度に制限するものと解釈すべきではない。
【0090】
別途注記のない限り、試薬及び化合物は全て、ミズーリ州セントルイス(St. Louis)のシグマ・アルドリッチケミカル(Sigma-Aldrich Chemical Co.)から得たか又は得ることができる。本明細書で使用するとき、「精製水」は、ニュージャージー州ギブスタウン(Gibbstown)のEMDケミカルズ(EMD Chemicals, Inc.)から商標名「オムニソルブ(OMNISOLVE)」で入手できる水を指す。
【0091】
超音波処理装置は、コネチカット州ニュートン(Newtown)のソニックス・アンド・マテリアルズ(Sonics and Materials)から入手可能なウルトラソニックプロセッサ(Ultrasonic Processor)モデルVCX−13を6mmマイクロチップと共に使用した。光学顕微鏡は、ライカ・マイクロシステムズ(Leica Microsystems, Inc.)(イリノイ州バノックバーン(Bannockburn))から入手可能な顕微鏡モデルUCTをFC6サイロ(cyro)アタッチメントと共に使用し、動的光錯乱法を用いた測定は、モルヴァンカンパニー(英国ウスターシア州)からのモルヴァン・ゼン(Malvern Zen)3600で行った。
【0092】
クロモニック混合物(クロモニック混合物)の調製
式IVのクロモニック化合物を精製水中に含有する(30重量%)混合物を、フラスコ内で約45分磁気的に攪拌し、白色のペーストを作製した。新しく調製した水酸化ナトリウム溶液(精製水中50重量%)を、前記白色ペーストを含有するフラスコに、その外観がクリーム状の液晶溶液に変わるまで滴下した。この混合物のpHは、この添加プロセスの間、水酸化ナトリウム溶液の添加を制御することによって7.5以下に維持された。得られたクリーム状の液晶溶液を、必要に応じて使用した。
【0093】
蛍光ウシ血清アルブミン溶液(fBSA)の調製
精製水(5mL)を、フルオロレセインイソチオシアネート結合アルブミン(fBSA、250mg)に添加し、続いて15分間磁気的に攪拌して、50mgfBSA/mlの溶液を作製した。この溶液を、必要に応じて使用した。
【0094】
(実施例1)
fBSA(3mL)をクロモニック混合物(10mL)と15分間混合して、約23%のクロモニック混合物と50mgfBSA/gの式IVのクロモニック化合物とを含有するクロモニック混合物−fBSA(13mL)の溶液を提供することによって、クロモニック混合物−fBSA溶液を調製した。この溶液を、必要に応じて使用した。
【0095】
前記クロモニック混合物−fBSAの一部を、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC,精製水中25%;クロモニック混合物対HMPC溶液の比は重量で1:20)を含有する溶液に、室温で30分間攪拌することによって、分散した。
【0096】
続いて、この乳濁液(0.6g)を、塩化カルシウム及び塩化亜鉛(各5%)を含有する水溶液(10mL)に添加した。この溶液を室温で30分間振盪し、3500rpmで20分間遠心分離した。続いて、得られた上澄みを廃棄した。残った残留物を精製水(10mL)で洗浄し、再度3500rpmで20分間遠心分離した。得られた残留物の試料は、光学顕微鏡で見たときに緑色の蛍光を発し、動的光錯乱法を用いた測定で、これが500nmの範囲の粒子を含有することが示された。
【0097】
洗浄工程の後で単離された残留物試料(0.6g)を、HPMCを含有する溶液(2.0mL、精製水中25%)に、最初に30秒間超音波処理し、その後室温で20分間攪拌することによって分散した。この乳濁液を、続いて、クロモニック混合物(10mL)に添加し、内容物をさらに30分間混合した。この得られた混合物の試料は、光学顕微鏡を用いて観察したときに、第2のクロモニック混合物に囲まれた暗いHPMCドメイン中に黄色(fBSA)及び青(塩化亜鉛)の蛍光粒子の存在を示した。分散されたクロモニック混合物には黄色の蛍光は観察されなかった。図1は、100xの倍率で、反射明視野モードで偏光子を通して見た試料の光学顕微鏡画像である。粒子上のマルタ十字は、それが複屈折であることを示す。前記画像は、粒子がポリマードメイン(暗領域)に分散されていることを示す。ポリマードメインは、クロモニックマトリックス内に含有される。
【0098】
本発明の範囲及び趣旨を逸脱しない本発明の様々な変更や改変は、当業者には明らかとなるであろう。本発明は、本明細書で述べる例示的な実施形態及び実施例によって不当に限定されるものではないこと、また、こうした実施例及び実施形態は、本明細書において以下に記述する特許請求の範囲によってのみ限定されることを意図する、本発明の範囲に関する例示のためにのみ提示されることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】実施例1に記載された本発明のクロモニック構造の光学顕微鏡画像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロモニック構造を作製する方法であって:
(a)(i)連続する水溶性ポリマー相と(ii)クロモニック材料を含む不連続クロモニック相とを含む第1の水性混合物を調製し、クロモニックナノ粒子を形成する工程;
(b)得られたクロモニックナノ粒子を多価カチオン塩と非共有架橋する工程;
(c)得られた架橋クロモニックナノ粒子を水溶性ポリマー相へ分散して、クロモニックナノ粒子分散液を形成する工程;及び
(d)(i)前記クロモニックナノ粒子分散液と(ii)クロモニック材料を含む連続クロモニック相とを含む第2の水性混合物を調製する工程を含む前記方法。
【請求項2】
前記不連続クロモニック相又は前記連続クロモニック相が、ゲスト化合物をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ゲスト化合物が生理活性化合物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記生理活性化合物が、薬物、除草剤、殺虫剤、フェロモン、及び抗菌剤から成る群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記生理活性化合物が薬物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記不連続クロモニック相がゲスト化合物を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
(i)連続する水溶性ポリマー相と(ii)クロモニック材料と第2のゲスト化合物とを含む不連続クロモニック相とを含む第3の水性混合物を調製して、第2のゲスト化合物を含むクロモニックナノ粒子を形成する工程;
得られた第2のゲスト化合物を含むクロモニックナノ粒子を多価カチオン塩と非共有架橋する工程;
得られた第2のゲスト化合物を含む架橋クロモニックナノ粒子を工程(c)の水溶性ポリマー相に分散する工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記連続クロモニック相がゲスト化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記不連続クロモニック相及び前記連続クロモニック相が各々独立して選択されたゲスト化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記不連続クロモニック相のゲスト化合物が前記連続クロモニック相のゲスト化合物と反応性である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ゲスト化合物の少なくとも1つが生理活性化合物である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ゲスト化合物の少なくとも1つが、薬物、除草剤、殺虫剤、フェロモン、及び抗菌剤から成る群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ゲスト化合物の少なくとも1つが薬物である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記連続クロモニック相が非イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
得られたナノ構造表面の非共有架橋をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記多価カチオン塩の多価カチオンが、Ba2+、Ca2+、Fe2+、Fe3+、Zn2+、Mg2+、及びAl3+から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の水性混合物の水溶性ポリマーと工程(c)のクロモニックナノ粒子分散液の水溶性ポリマーとが、ビニルアルコールポリマー類、アスパラギン酸ポリマー類、アクリル酸ポリマー類、メタクリル酸ポリマー類、アクリルアミドポリマー類、ビニルピロリドンポリマー類、ポリ(アルキレンオキシド)類、ビニルメチルエーテルポリマー類、スルホン酸ポリマー類、複合糖質類、グアーガム、アラビアゴム、トラガカントゴム、カラマツゴム、カラヤゴム、イナゴマメゴム、寒天、アルギネート類、カラギーナン、ペクチン類、セルロース及びセスロース誘導体、デンプン及び加工デンプン、並びにこれらの組み合わせから成る群から独立して選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の水性混合物のクロモニック材料及び前記第2の水性混合物のクロモニック材料が、次の一般式:
【化1】

(式中、
各Rは独立に、電子供与性基、電子求引性基、及び電子中性基から成る群から選択され、
は、置換及び非置換へテロ芳香族環並びに置換及び非置換複素環から成る群から選択され、前記環がRの前記環内の窒素原子を通して前記トリアジン基と連結する)、
並びにそれらの双性イオン、プロトン互変異性体及び塩類の1つ以上から独立に選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
第1の水性混合物のクロモニック材料と第2の水性混合物のクロモニック材料とが次の一般式:
【化2】

及び
【化3】

(式中、Xは対イオンである。)
の1つ以上から独立して選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の水性組成物が貴金属塩をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
架橋クロモニックナノ粒子に含有される元素貴金属ナノ粒子の懸濁液を作製するための貴金属塩の還元をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第2の水性組成物がさらに貴金属塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
連続クロモニック相マトリックスに含有される元素貴金属ナノ粒子の懸濁液を作製するための貴金属塩の還元をさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
クロモニックナノ粒子を含有する水溶性ポリマードメインを含む連続クロモニック相を含む、クロモニック構造。
【請求項25】
前記クロモニックナノ粒子がゲスト化合物をさらに含む、請求項24のクロモニック構造。
【請求項26】
前記連続クロモニック相がゲスト化合物をさらに含む、請求項24のクロモニック構造。
【請求項27】
前記クロモニックナノ粒子及び前記連続クロモニック相が各々独立して選択されたゲスト化合物さらにを含む、請求項24に記載のクロモニック構造。
【請求項28】
前記水溶性ポリマードメインが、約500nm〜約5mmの初期寸法を有する、請求項24に記載のクロモニック構造。
【請求項29】
前記クロモニックナノ粒子が、約300nm〜約10μmの初期寸法を有する、請求項24に記載のクロモニック構造。

【図1】
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【公表番号】特表2009−520026(P2009−520026A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547270(P2008−547270)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/046563
【国際公開番号】WO2007/075282
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】