説明

階段昇降機

【課題】特に複雑な機構を用いることなく階段昇降における搭乗部の傾斜状態を維持しつつ、小型化することによって、平地走行における旋回性能を向上させることを可能にする階段昇降機を提供する。
【解決手段】車椅子を搭載可能な搭乗部を懸架するための左右一対の懸架用フレームと、クローラ駆動部の左右の両サイドに上記懸架用フレームを回動自在に支持する架台フレームとを備えた。また、搭乗部を二重フロア構造とすると共に、各フロアの相対的な位置関係を調整する調整機構を設けることにより、搭乗部の合成重心の位置を変えることを可能にし、搭乗部が架台フレームに懸架された状態で所定の傾斜を維持することを可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自足歩行が困難な者が階段昇降する際に好適な階段昇降機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来このような階段昇降機(以下、機体ともいう。)としては、例えば下記特許文献1に記載のものが知られている。この従来技術を図1を用いて説明する(同図(a)は平地移動状態、(b)は階段昇降状態を示している)。この階段昇降機100の主要構成は、車椅子搭載部102とクローラ駆動部103からなり、車椅子搭載部102の端部(搭載される車椅子Kの後方側端部)がクローラ駆動部103に対して枢支軸104で枢支され、一端が車椅子搭載部102に軸支されると共に他端がクローラ駆動部103に軸支された伸縮シリンダ105の伸縮動作によって、クローラ駆動部103に対して車椅子搭載部102を傾斜させることができる構成になっている。
【0003】
特許文献1によれば、車椅子搭載部102のクローラ駆動部103に対する傾斜角度は、階段をクローラ駆動部103が昇降する際に、車椅子搭載フロア121上に搭載された車椅子Kが水平に対して若干後傾姿勢となるように設定されている。すなわち、例えば、車椅子用階段昇降機100が昇降可能な最大の階段傾斜角度が35度である場合には、車椅子搭載部102のクローラ駆動部103に対する傾斜角度は40度に設定され、最大傾斜角度を有する階段を昇降する際においても、車椅子搭載フロア121が水平に対して5度程度傾斜するように伸縮シリンダ105の伸縮制御がなされる。これによって、車椅子搭載フロア121上に搭載されている車椅子Kは常に階段側、すなわち車椅子Kの保持ハンドル体124側に付勢する力が働くため、車椅子Kの搭載状態が安定すると共に、車椅子の搭乗者K1は、階段昇降時は常に斜め上方向に視線を向ける姿勢となるので、階段昇降時において、転倒や転落等の搭乗者の心理的な不安が緩和されることが期待できる。
【0004】
なお、階段昇降時から平地走行に移行する際には、車椅子搭載部102の傾斜角度を40度から水平状態に対して若干傾斜させた角度(例えば5度)にするべく伸縮シリンダ105を縮める方向に制御する。
【0005】
階段昇降機の他の従来技術としては、下記特許文献2に記載された車椅子用階段昇降補助台車200がある。この従来技術を図2に示す(同図は平地移動状態を示す)。この階段昇降補助台車200の主要構成部は、車椅子搭載部としてのケージ221と、このケージ221を釣鐘の様に一点で吊り下げるための吊り金具218と、この吊り金具218を支持する台枠215と、台枠215の下部の支え軸216,217と、この支え軸216,217を支点に回転揺動可能な左右一対のクローラを前後に設けたクローラ装置201とからなり、車椅子を載置したケージ221を吊り下げることにより、階段上においてもケージ221が水平状態を維持する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許2551862号公報
【特許文献2】実用新案登録第3033484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した通り、特許文献1に記載の階段昇降機100によれば、平地走行時と階段昇降時において車椅子搭載部102の傾斜角度を変えるために、伸縮シリンダ105をこれら走行状態に応じて伸縮制御する必要がある。伸縮シリンダ105は、耐荷重性に優れているものの、油圧駆動などの駆動手段によってピストンを伸縮させるため一定の応答遅れを伴う。また、制御対象の荷重が大となるほど動作の反応には遅れを生じる傾向にあるため(つまり、耐荷重性の高い伸縮シリンダを利用する制御系ほど、その帯域が狭くなり迅速な反応ができないため)、平地走行状態と階段昇降状態とに応じて傾斜角度を変えるためには、相当の時間を要することになる。例えば、階段昇降によって別の階に移動する態様としては、1)昇降前のフロアでの平地走行、2)階段昇降、3)踊り場での平地走行、4)階段昇降後のフロアでの平地走行、等の複数の走行状態の変遷を経ることになり、変遷の都度、伸縮シリンダ105の伸縮制御を伴うため、傾斜制御が煩雑になると共に傾斜状態が所望の状態になるまで一旦停止といった待機時間が発生するため階段昇降に要する時間が長くなるという問題がある。
【0008】
一方、特許文献2に記載の車椅子用階段昇降補助台車200によれば、車椅子搭載部であるケージ221を吊り下げる構造であるため、伸縮シリンダによる傾斜制御を必要としない。しかしながら、特許文献2の階段昇降機は、釣鐘を吊る様に、ケージ221を吊り金具218の一点で懸装する構造であることから、搭乗者K1並びに車椅子Kの重量を含むケージ221の荷重に十分耐え得るだけの剛性を有する台枠215が必要不可欠となる。しかも、この様な堅牢な台枠215を構成する4本の支柱を確実に支持するために、支持できるだけの剛性を備えた支え軸216,217と、それをさらに支持するためのクローラ装置201を機体の前後に一台ずつ備える構成となっており、機体の重量化並びに大型化は必定である。機体の重量化並びに大型化は、例えば階段の踊り場等における旋回性能を低下させる最も大きな要因であり、特に我が国の階段事情等を考慮すると特許文献2の車椅子用階段昇降補助台車は実用的であるとは言えない。
【0009】
また、特許文献2では、車椅子を積載したケージ221を水平に保つことを目的に考案された釣鐘構造であることから、階段昇降時において車椅子搭載部を傾斜させる工夫については全く考慮されていない。
【0010】
本願発明は、上記の課題に鑑みて成されたもので、その目的は、伸縮シリンダを利用した複雑な傾斜機構に頼ることなく、機体の走行状態に拘わらず搭乗者の搭乗状態を常に一定に維持することを可能にすると共に、小型化を可能にすることで優れた旋回性能を実現する実用的な車椅子用階段昇降機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の階段昇降機は、ベルトクローラと、当該ベルトクローラの軌道を画定する軌道フレームと、前記軌道フレームで支持される架台フレームと、をそれぞれ左右一対に有し、各ベルトクローラの駆動を行うクローラ駆動部と、左右一対の懸架用フレームが設けられた搭乗部と、を備え、左右一対の前記懸架用フレームは、左右一対の前記架台フレームに対して回動自在に支持されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の階段昇降機は、請求項1に記載の階段昇降機において、前記搭乗部は第一フロアと、当該第一フロアに対する位置を相対的に移動可能な第2フロアとを備え、左右一対の前記懸架用フレームは、前記第1フロア又は前記第2フロアのいずれか一方に固定されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の階段昇降機は、請求項1又は請求項2に記載の階段昇降機において、左右一対の前記軌道フレームは、それぞれ前記ベルトクローラを接地面に案内する前部フレームと、当該前部フレームに対して傾斜自在に配置された後部フレームとを備え、前記架台フレームは、前記前部フレームに対して回動可能に支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本願発明によれば、軌道フレームに支持された架台フレームにより、搭乗部に設けられた懸架用フレームが、左右それぞれ一点で、つまり機体の両サイドでそれぞれ進行方向の前後に回動自在に支持される構成とされている。したがって、軌道フレームの側面で架台フレームを支持する構成とすることができるので、4本の支柱を前後に設ける従来技術と比較して、全体として小型にすることが可能となる。特に奥行きが狭い階段の踊り場等において、旋回がし易くなり好ましい。
【0015】
また、本願発明によれば、搭乗部を第一フロアと、当該第一フロアに対する位置を相対的に移動可能な第二フロアとの二重フロアの構成としたので、この相対的な位置関係を変えることによって、搭乗者を含む搭乗部全体の重心(以後、合成重心と言う。)の位置を変更することができる。これによって、搭乗部は、架台フレームに懸架された際に合成重心の位置に応じた所定の傾斜状態となる。しかもこの傾斜状態は、搭乗部の合成重心の位置が常に鉛直方向に向く様に重力が作用することになるため、架台フレームを支持する機体本体の傾斜状態に拘わらず常に水平に対して一定の傾斜角度を維持できる。したがって、伸縮シリンダを利用した複雑な制御機構を用いる必要がなく消費電力の低減、機体の小型化を図ることが可能となる。搭乗部の傾斜状態を常に一定に維持できるので、機体の製造バラツキや操作者の技量などに関わらず安定した階段昇降が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来技術を示す側面図である。
【図2】他の従来技術を示す側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る階段昇降機1の側面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る階段昇降機の斜視図である。
【図5】図3に示す搭乗部2の側面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る階段昇降機1の側面図である。
【図7】本発明の階段昇降機の階段走行(下降)時の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明では、「前後左右」という相対的な方向を示す用語は、特に断りが無い限り、本願発明の階段昇降機に搭乗者が着座して正面を向いた状態を基準にした時に定まる方向を示すものとする。つまり、以下の説明における「前」とは機体に着座した搭乗者の正面方向を指し、[後]とは同搭乗者の背面方向を指し、「左」とは同搭乗者の左手方向を指し、「右」とは同搭乗者の右手方向を指すものである。
【0018】
各構成部について図3乃至図5を用いて以下に説明する。
図3(a)は、本発明の実施形態に係る階段昇降機1の側面図であり、図3(b)は図3(a)における架台フレーム4の切欠き部45を中心とする拡大図、図3(c)は図3(b)の線分A−Aにおける断面図である。また、図4(a)は左前方からみた斜視図、図4(b)は右後方から見た斜視図である。また、図5は、図3に示す搭乗部2のみの側面図である。
【0019】
本実施形態における階段昇降機1の主要構成部は、搭乗部2と、クローラ駆動部3とから成り、搭乗部2とクローラ駆動部3とは、左右一対に設けられた架台フレーム4、4とリンクロッド5,5により連結された構造となっている。
【0020】
なお、この実施形態では、搭乗部2として車椅子Kと、この車椅子Kを搭載するための車椅子搭載フロア21とを採用した例を示している。
【0021】
搭乗部2は、車椅子搭載フロア21、車止めフレーム22、左右一対の懸架用フレーム23、23と、からなる。
【0022】
車椅子搭載フロア21は、車椅子Kを載置する搭載面を備えた第1フロアとなるアッパーフロア21Uと、当該アッパーフロア21Uの左右の幅と略同じ距離だけ離間して前後方向に延伸した状態で配置される第2フロアとなる左右一対のアンダーフレーム21D、21Dとを備え、アッパーフロア21Uには、この一対のアンダーフレーム21D、21Dを軌道とする図示しないスライドレールがその左右の端部に設けられている。このスライドレールは、例えば自動車のシート位置を自動車のフロア面に平行にスライドさせるために用いられるロック機構付きの既知のスライドレールを採用することが可能である。このスライドレールによって、アッパーフロア21Uとアンダーフレーム21D,21Dとは互いに軌道方向における相対的な位置関係を調整可能であり、調整された位置関係がロック機構により維持される構造となっている。より具体的には、アンダーフレーム21Dに対してアッパーフロア21Uが可動となるように構成され、相互の相対的位置が調整可能となっている。なお、第2フロアとしては、左右一対のアンダーフレーム21D,21Dに代えて、アッパーフロア21Uと同様に面状の金属や樹脂等からなる一のフロア用部材にアッパーフロア21Uとの相対的な位置関係を調整するための上述したスライドレール等の調整機構を設ける構造としても構わない。
【0023】
車止めフレーム22は、U字状フレーム(便宜上、以下の説明では、U字状フレームを成す各辺を、図4(b)に示す通り、左の辺から順にフレーム22a,フレーム22b,フレーム22cとする。)であって、このU字状フレームの開口部を成す2つの端部(フレーム22a,フレーム22cの端部であって、フレーム22bと結合される端部とは反対側に位置する端部)は、アンダーフレーム21D、21Dの後端部でそれぞれ結合され、搭乗部2全体として一体化されたU字状フレームが形成されている。
【0024】
なお、車止めフレーム22におけるフレーム22a及びフレーム22cは、アンダーフレーム21D,21Dとの各結合部(アンダーフレーム21D,21Dの後端部)から車椅子Kが搭載される側に向けて湾曲されており、これによって、フレーム22bが、搭載を想定する標準車椅子(例えばJIS規格番号9201に準拠した車椅子)の車輪の半径以上の高さに位置するように形成されている。また、フレーム22a,22c間は、アルミ等の金属の板状の連結部材22dで連結されており、これによって車椅子Kの車輪との当接面が形成され、後述するように搭乗部2が後傾状態とされた際に、この当接面によって車椅子搭載フロア21から車椅子が落輪することが無いように、搭載された車椅子Kの車輪を受け止めることが可能となっている。
【0025】
懸架用フレーム23,23は、それぞれアルミ等からなる金属板を二等辺三角形状に象ると共に、軽量化を図るため、三角形の各辺に対して所望の強度を保つことができるだけの幅を残して中抜き加工することで形成される左右同一形状のフレーム構造を有している(図5も参照のこと)。斯かる二等辺三角形状の懸架用フレーム23の底辺が、アッパーフロア21Uの左右の両サイドでそれぞれ溶接や或いは固定用ネジ等によって固定的に連結されることで、アッパーフロア21Uと一体化されている。なお、懸架用フレーム23,23は、第2フロアとなるアンダーフレーム21D,21Dに対して固定的に連結されていても構わない。要は、いずれかのフロアに対して固定され、他のフロアに対して相対的に移動可能とされていればよい。また、懸架用フレーム23,23は、二等辺三角形の頂角に対応する頂点近傍に設けられた支点P、Pにおいて、後述する架台フレーム4,4によってそれぞれ支持される。
以上により搭乗部2が構成されている。
【0026】
次に、クローラ駆動部3の構成について説明する。
クローラ駆動部3は、左右一対の軌道フレーム30、30を有する。
各軌道フレーム30は、前部フレーム30Fと後部フレーム30Bとで2分割されたフレーム構造となっている。左右一対の前部フレーム30F、30Fは、図示しないアルミ等の金属板からなる底面フレームを介して互いに連結されており、斯かる底面フレームには、駆動モータと減速機とを一体化する減速機ケースや、バッテリ、後部フレーム30Bの傾斜制御を成すための第一伸縮シリンダCY1,この第一伸縮シリンダCY1に対して後方に配置され、後述する後輪ホイール部BWをその収納位置/装着位置の間で位置制御するための第二伸縮シリンダCY2等がそれぞれ固定的に載置されている。第一伸縮シリンダCY1と第二伸縮シリンダCY2のそれぞれにおいて伸縮されるシャフト(以下、伸縮可動軸とも言う。)は、伸縮動作時に互いに干渉することが無いように各伸縮シリンダの配置が調整されている。減速機の出力軸である左右一対の前部駆動軸33Fには、それぞれ駆動輪34が取付られている。また、前部フレーム30Fは、ベルトクローラ36の接地ガイドフレームとして機能するものであり、前部フレーム30Fの後端部において、左右フレーム間を連結する中央部連結軸33Cを備えている。この中央部連結軸33Cは左右の前部フレーム30Fをそれぞれ貫通するように配されており、その先端に左右一対の中央部遊動輪35C、35Cが取り付けられている。
【0027】
なお、前部フレーム30Fは、その接地側において、いわゆる接地ガイドフレームとして機能する接地ガイド部と、接地面に対して上方(接地面から離れる方向)に所定の傾斜角度をもって窪み、後述する走行状態の変遷時以外の常態走行(平地走行または階段昇降)時においては走行面(平地または階段の段鼻と段鼻とを結ぶ仮想の傾斜面)とは接しない側面視三角形状の屈曲部30Cとを有している。この屈曲部30Cは、図3(a)に示すように、軌道フレーム30の全長に対する略中央部に位置する様に設けられている。
【0028】
一方、後部フレーム30B、30Bは、その後端部において、左右のフレーム間を連結する後部連結軸33Bを介して連結されている。後部連結軸33Bの各先端は、後部フレーム30B、30Bをそれぞれ貫通するように配されており、その先端において後部遊動輪35B,35Bが取付られている。また、後部連結軸33Bの左右方向における略中央の位置には、後述する平地走行(ホイール走行)時にクローラに代えて車輪走行するために用いられる自在車輪BW2と、この自在車輪を支持する支持棒BW1とからなる後輪ホイール部BWが、支持棒BW1の一端が後部連結軸33Bを支点に回動自在となる様に取付けられている。
【0029】
そして、上述した、一端を前部フレーム30Fの底面フレーム上に固着された第一伸縮シリンダCY1の伸縮可動軸の先端が、後部連結軸33Bと連結されている。同様に底面フレームに固着された第二伸縮シリンダCY2の伸縮可動軸の先端が、後輪ホイール部BWの支持棒BW1と連結されている。
【0030】
以上の構成によって、前後2分割されたフレーム構造を成す前部フレーム30F,30Fと後部フレーム30B,30Bとがその相対的な傾斜状態を第一伸縮シリンダCY1を介して変化可能となる様に一体化されている。これによって、後部フレーム30B,30Bは、第一伸縮シリンダCY1の伸縮制御(伸縮可動軸の縮小方向への制御)により、例えば図4に示す様に前部フレーム30Fに対してソリ状に傾斜され、階段上昇時においてベルトクローラ36が最初の階段の段鼻をグリップするための傾斜ガイドフレームとして機能すると共に、階段昇降中においては、図3(a)に示す様に前部フレーム30Fと平行状態(伸長方向への制御により、相対的な傾斜の無い状態)とされて階段との接地長を確保するための接地ガイドフレームとして機能する。
【0031】
なお、後部フレーム30B、30Bにおける後部遊動輪35B、35Bの前方には、遊貫軸38,38が設けられており、この先端には、クローラ駆動部3に対する搭乗部2の重心位置を調整するためのリンクロッド5、5の一端が回動自在に支持されている。このリンクロッド5の機能については後述する。
【0032】
これら前部フレーム30F、30Fの前端部に設けられた左右一対の駆動輪34、34と後部フレーム30B、30Bの後端部に取り付けられた左右一対の後部遊動輪35B、35Bとの間にそれぞれベルトクローラ36、36が巻装され、各ベルトクローラ36は、前部フレーム30Fにより、接地部に案内され、屈曲部30C、中央部遊動輪35Cを介して後部フレーム30Bに案内されて無端駆動する構成とされている。
【0033】
なお、前部フレーム30Fには、その一端が中央部連結軸33Cに軸支され、図示しないばねによって常に中央部遊動輪35Cの方向に付勢された左右一対の抑えローラ37、37が設けられており、この抑えローラ37と中央部遊動輪35Cとの間にベルトクローラ36をガイドすることによって、ベルトクローラ36には常に所望のテンションが加えられた状態とされている。これによって、後部フレーム30Bの傾斜状態によらず、ベルトクローラ36は常に一定のテンションで巻装された状態を維持している。
【0034】
また、クローラ駆動部3の両サイドには、サイドホイール部SWが配されており、かかるサイドホイール部SWの自在車輪SW2を取り付けるための支持棒SW1が、中央部連結軸33Cで回動可能に軸支されている。また、このサイドホイール部SWの支持棒SW1は、後部フレーム30Bにその一端(車輪とは反対側に位置する端部)が溶接または固定ネジ等によって固着されている。この様な構成によって、サイドホイール部SWは、その車輪SW2の位置が後部フレーム30Bの前部フレーム30Fとの相対的な傾斜状態に応じてサイドホイール部SWの回動軸となる中央部連結軸33Cを中心に、接地される位置から接地されない位置まで移動自在となるようにその配置が調整されている。このサイドホイール部SWの機能については後述する。
【0035】
以上の様に構成されたクローラ駆動部3と搭乗部2とは、架台フレーム4とリンクロッド5によって以下の様に連結されている。
【0036】
架台フレーム4は、略直角台形状のフレーム構造(便宜上、この台形状フレームの各辺を上底41、高さの辺42、下底43、斜辺44とする。)を有し、直角部に対応する頂点(高さの辺42と下底43との交点)近傍に設けられた支持孔h1で上記した中央部連結軸33Cと、すなわちクローラ駆動部3に対して回動自在に連結されている。また、架台フレーム4の台形の下底43における上記支持孔h1が設けられた端部と対向する他端部(下底43と斜辺44との交点)の近傍には、上述した懸架用フレーム23を支持するための支持孔h2が設けられ、斯かる支持孔h2の中心を支点Pとして懸架用フレーム23を図示しない連結棒等で支持することにより、搭乗部2を左右の支点P,Pの2点で架台フレーム4、4を介してクローラ駆動部3が支持する構成となっている。これによって、搭乗部2は、いわゆるゆりかごのように左右の支点P,Pを中心に前後に揺動可能となる。
【0037】
また、架台フレーム4の略中央部には、後部フレーム30Bでその一端が支持された棒状のリンクロッド5の他端部を、斯かる他端部から架台フレーム4に向けられた図示しない突起部を嵌挿して支持するための長穴40が設けられている。この長穴40は、リンクロッド5の長さを半径とし、後部フレーム30Bの遊貫軸(支軸)38を中心点とする円弧状をなしている。より具体的には、後部フレーム30Bの前部フレーム30Fに対する傾斜状態に応じて、リンクロッド5が描く架台フレーム4上での軌道に沿った形状とされている。架台フレーム4は、このリンクロッド5によって後方への回動の制限を受ける。すなわち、リンクロッド5並びにこのリンクロッド5を片持支持する後部フレーム30Bとによって、搭乗部2を支持した架台フレーム4を支持しているのである。なお、円弧状の長穴40の各端部の位置の決め方については、後述する。
【0038】
また、架台フレーム4の高さの辺42における上記支持孔h1と対向する端部(上底41と高さの辺42との交点)近傍には、ロックアーム6の一端と嵌合してロックアーム6の移動方向を規制するための軌道となる切欠き部45が設けられている(図3(b)、図(c)も参照のこと)。斯かる切欠き部45は、架台フレーム4の高さの辺42が水平とされた状態で斯かる高さの辺42に対して略垂直方向に所定の長さに亘って切り欠かれている。
【0039】
ロックアーム6は、棒状の金属の一部を上述した円弧状の長穴40の曲率とほぼ同じ曲率で円弧状に屈曲された湾曲部61と直線部62とを有し、この直線部62の湾曲部61に対向する端部(直線部62のクローラ駆動部3側の端部)には、その端部から直線部の長手方向に向かって上記切欠き部45の幅W(高さの辺42の方向の長さ)よりも長い範囲に亘って、上記切欠き部45に嵌挿するための嵌挿部63が設けられている(図3(b)において二点鎖線で示されている)。この嵌挿部63の他端(直線部62と対抗する側の端部)には、高さの辺42の方向の長さが切欠き部45の幅Wよりも長い長さを有する板状の留め具64が設けられており(図3(b)において一点鎖線で示されている)、切欠き部45に嵌挿部63を嵌挿させることにより、直線部62と板状の留め具64とで架台フレーム4を挾持する形となっている。また、架台フレーム4の切欠き部45の開口側近傍の所定位置には、上記板状の留め具64と干渉してロックアーム6の移動を制限(ロックアーム6が切欠き部45の開口から抜け落ちることを防止)するための突起(ストッパ)46が設けられている。
【0040】
なお、上記嵌挿部63の長さを切欠き部45の幅よりも長くしたことにより、ロックアーム6が斯かる嵌挿部63を中心として前後方向に回動することを防止している。ロックアーム6の機能については後述する。
【0041】
また、左右一対の架台フレーム4、4は、本願発明における階段昇降機1の補助者が階段昇降機1を操作する際のハンドルとして機能する把持部7によって連結されている。この把持部7は、アルミ等の金属棒からなるU字状フレームであって、U字状の開口部に当たる各端部において左右の架台フレーム4、4と溶接または図示しないネジ等を介して結合されており、これによって、搭乗部2の後方を囲む様に取り付けられている。
【0042】
本発明の実施形態における階段昇降機1は以上の様に構成されている。なお、上記において特段触れていないが、本実施形態における階段昇降機1には、階段昇降動作を統一的に制御する図示しない制御部が設置されており、特にクローラ駆動部3の各構成部を階段昇降、平地走行等の動作に応じて必要な動作制御をする構成を備えている。
【0043】
次に、この様に構成された階段昇降機1における、特徴的な動作について、図5、図6を用いて説明する。
【0044】
まずはじめに、搭乗部2がクローラ駆動部3に対して後傾姿勢を維持するための調整方法について説明する。
これは図5に示すように、搭乗部2を水平面上に置いた状態で、支点Pからの鉛直方向に向いた線を基準線として、車椅子利用者である搭乗者K1及び車椅子Kを含む搭乗部2(車椅子搭載フロア21、車止めフレーム22を含む)の合成重心位置が支点Pに対して後方(車止めフレーム22側)に位置するように車椅子搭載フロア21におけるアッパーフロア21Uとアンダーフレーム21Dとの相対的位置を調整する。具体的には、支点Pと合成重心Qとを結ぶ直線と上記基準線との成す角度が例えば5度程度となるように調整するのである。
【0045】
本願発明者は、本実施形態に示す車椅子搭載フロア21(30Kg)に、搭載を想定する標準車椅子(JIS9201準拠の車椅子:15Kg)と搭乗者の体重の代用としてのダミーウェイトを24Kg〜135Kgの範囲で変えて、搭乗部2の合計重量の変化に対する合成重心の変動状態を実験により確認した。これによると、図5に示す黒丸の通り、ダミーウェイトが120Kg〜135Kg(合計重量が165Kg〜180Kg)の範囲において約10度傾斜する位置となることを最高として、それ以下の重量においては、ほぼ5度〜10度の範囲内に入ることが分かっている。つまり、例えば、搭乗者の体重を24Kg〜135Kgの中間的な75Kgに対応する合計重量(120Kg)に対して合成重心Qと支点Pとの成す角度が約5度となるようにアッパーフロア21Uとアンダーフレーム21Dとの相対的位置をスライドレール機構によって調整し、調整された相対位置を維持するようにロックすることにより、想定する搭乗者の全体重に亘って、常に5度乃至10度の範囲内の後傾姿勢で搭乗部2を懸架することが可能となる。なお、階段昇降機にあっては、搭乗部を水平に対して約5°上向きの傾斜状態とすることで、搭乗者が階段昇降の際に不安を感じにくくなることが、従来からある階段昇降機に対する利用者アンケートや経験則を通じて判っている。
【0046】
なお、上記のように代表的な合計重量(上記例では120Kg)で調整するのではなく、個々の搭乗者の体重に合わせて(または、搭乗者を搭乗させた状態で)、改めてアッパーフロア21Uとアンダーフレーム21Dとの相対位置を上述したスライドレール機構によって任意の(好みの)角度に調整するようにしても構わない。
【0047】
以上のように調整することによって、搭乗部2は、クローラ駆動部3の傾斜状態に関係なく、常に水平に対して所定角度(例えば約5度程度)の後傾状態を維持することになる。つまり、平地走行時であっても、階段昇降時であっても、搭乗者は常に水平に対して約5度傾斜した状態で搭乗することになる。
【0048】
次に、架台フレーム4、リンクロッド5、ロックアーム6の動作について説明する。
架台フレーム4は、クローラ駆動部3に対する支点Pの相対位置を変更する機能を有している。架台フレーム4は、上述した通り、支持孔h1で中央部連結軸33Cに軸支されており、この中央部連結軸33Cを中心に機体1の前後方向に回動可能であるが、その回動範囲は、リンクロッド5により、長穴40の範囲内に制限される。
具体的には、長穴40の後方の端部は、設計上の最大傾斜を有する階段を昇降する際に搭乗部2の合成重心Qからの鉛直方向にクローラ駆動部3が支持体として存在可能な位置である。すなわち、懸架用の支点Pとクローラ駆動部3との相対的な位置関係が固定されている場合、階段昇降に伴ってクローラ駆動部3が傾斜することで、架台フレーム4の先端(つまり、支点P)でつりさげられた搭乗部2の合成重心からの鉛直方向の位置は、クローラ駆動部3が水平状態に置かれた場合に比べてクローラ駆動部3の前方に移動することになるが、この前方への移動があっても、階段昇降に伴い傾斜しているクローラ駆動部3の水平面への投射長(つまり、クローラ駆動部3が合成重心Qの支持体として機能する長さ)に対して所定のマージンを有する位置となるように長穴40の後方端部位置は設定されている。すなわち、図3(a)に示すようにクローラ駆動部3が平行(前部フレーム30Fと後部フレーム30Bとの相対的な傾斜角度が0度)とされた状態で、かつ、水平に配置された状態において、搭乗部2の合成重心Qがクローラ駆動部3の後方であって、後部フレーム30Bが合成重心Qの支持体として機能する範囲内に位置するように、長穴40の後方端部の位置が予め調整されている。
【0049】
但し、このようにリンクロッド5が長穴40の後方端部に位置することによって、合成重心Qが後部フレーム30B上に位置する場合には、この合成重心Qによって架台フレーム4には後方に向けて回動するように力のモーメントが働く。したがって、仮にロックアームが無いものとすると、リンクロッド5が長穴40の前方端部と干渉する位置まで架台フレーム4は回動しようとするため、この回動に伴う合成重心Qの移動により機体後方への転倒の虞がある。そこで、これを避けるべく、架台フレーム4の位置を長穴40の後方端部に固定するためのロックアーム6が設けられている。
【0050】
一方、長穴40の前方の端部は、図6に示す様に、後述するホイール走行時における搭乗部2の合成重心がサイドホイール部SWの自在車輪SW2より後方に位置するように、換言すると、自在車輪SW2及び後輪である自在車輪BW2が支持体として機能せずに前方に転倒することが無い範囲となる様に規定されている。
【0051】
ロックアーム6は、上述した通り、切欠き部45に沿って可動であり、ロックアームの直線部62の下端がストッパ46と干渉して停止した時に、湾曲部61が、長穴40を覆う位置にくると共に、湾曲部61の端部がリンクロッド5の端部の幅の長さ分だけ長穴40の後方端部から空間を開けるようにロックアーム6の長さ並びにロックアーム6とストッパ46との位置関係が調整されている。この様な構成により、リンクロッド5が長穴40の後方端部に存在する場合には、ロックアーム6が自重によって、切欠き部45の軌道に沿って降下すると共に、ストッパ46によって長穴40上で湾曲部61が停止することによって、リンクロッド5を長穴40の後方端部に留置くことになる。これによって、架台フレーム4の後方への回動が禁止されるので、架台フレーム4(即ち支点P)とクローラ駆動部3との相対的な位置関係がロックされるのである。
【0052】
一方、リンクロッド5が長穴40の前方端部(正確には後方端部以外の位置)に位置する場合には、斯かるリンクロッド5とロックアーム6の湾曲部61との干渉によって、ロックアーム6の自重による降下が防止される。このため、例えば、後述するホイール走行において後部フレーム30Bの傾斜に伴いリンクロッド5が前方に移動、すなわち、架台フレーム4が後方に回動しようとするが、長穴40の前方端部によって規定される所定位置で回動が停止する。この際、リンクロッド5には後部フレーム30Bが傾斜されることによって常に前方に向けた付勢力が加えられているので、特にロック機構を設ける必要は無い。
【0053】
次に、ホイール走行に係る動作について説明する。
上述した通り、本発明の階段昇降機1は、左右一対のサイドホイール部SW、SWと後輪ホイール部BWとを備えている。これら各ホイール部は、特に平地走行時において用いられるものである。ホイール走行時においては、水平状態に置かれた機体1に対して第一伸縮シリンダCY1によって後部フレーム30Bが水平から傾斜状態にされると共に第二伸縮シリンダCY2によって自在車輪BW2を支持する支持棒BW1が自在車輪BW2が接地するまで後部フレーム30B内から押し出される。一方、第一伸縮シリンダCY1によって後部フレーム30Bが所定の傾斜状態とされることによって、後部フレーム30Bと一体的に形成されたサイドホイール部SWの自在車輪SW2、SW2が、接地される位置まで中央部連結軸33Cを中心に回動され、前部フレーム30Fの接地ガイド部が接地面から僅かに離間する状態とされる。この際、架台フレーム4は、リンクロッド5によって上述した通り、長穴40の前方端部で規定される位置で固定されることになり、搭乗部2の合成重心Qはサイドホイール部SW、SWと後輪ホイール部BWとで安定に支持される。
【0054】
この様な状態にすることで、機体1は、左右一対のサイドホイール部SW,SWと後輪ホイール部BWとの3点による車輪走行が可能となる。これによって、平地での移動を楽に行うことが出来るようになると共に、ベルトクローラ36による面状の接地状態から、車輪による点状の接地状態となるため、例えば奥行きの狭い階段の踊り場においての旋回が容易になる。
【0055】
次に、本願発明の階段昇降機1における特徴的な動作である平地から階段下降への移行動作について図7を用いて説明する。
【0056】
まず、図7(a)に示すように、踊り場から下降階段に進入するに当たって、後輪ホイール部BWを繰り出すと共に、第一伸縮シリンダCY1の伸縮可動軸を縮小せしめて後部フレーム30Bを例えば20°傾斜させる。この際、サイドホイール部の自在車輪SW2はクローラ内部に収納された状態にあり、機体1は、クローラ(前部フレーム30F)と後輪ホイール部BWとで支持されている。この状態において、階段に進入すると図7(b)に示すように、前部フレーム30Fの前方部が接地ガイドフレームとしての直線状部である間は、換言すると、前部フレーム30Fの屈曲部30Cが下降階段に向かう踊り場の段鼻(踊り場と階段との境)に面するまでの間は、前部フレーム30Fは、下降階段に向けてその先端部が突き出る状態となる。この状態において、階段の傾斜角度が、階段昇降機1の傾斜角度θ(例えば20°)よりも低い階段であれば、クローラ駆動部3の先端部が二段目(踊り場の段鼻から数えて二段目)の段鼻と接することになるため、スムーズな階段下降に移行できる。
【0057】
一方、階段の傾斜角度が、階段昇降機1の傾斜角度θ(この例では20°)よりも急な(大なる)角度である場合には、例えば、図1に示す従来の階段昇降機1のように接地長の全長に亘ってクローラ駆動部が直線状であると、このまま階段への進入動作を続けることで搭乗部2の合成重心が踊り場の段鼻を超えた位置に到来することによって、この踊り場の段鼻を支点とするシーソーの如く、クローラ駆動部の先端部が二段目の段鼻に向けて落下することになる。この落下による衝撃は、搭乗者にとっては不快で、前のめりの転落を想起させる不安感を与えるものとなる。
【0058】
本願発明においては、このような衝撃を緩和する工夫がなされている。具体的には、クローラ駆動部3の接地面側であって、図7(a)に示すような傾斜走行時における搭乗部2の合成重心のほぼ鉛直方向に屈曲部30Cを設けたことにより、階段への進入動作を続けることで、図7(c)に示す様に、前部フレーム30Fの屈曲部30Cが下降階段に向かう踊り場の段鼻に当接すると、機体1(正確にはクローラ駆動部3)は、屈曲部30Cの傾斜面(この傾斜面の角度は、機体1の傾斜角度θよりも大である)に沿って進行するため、この進行に伴って前部フレーム30Fが二段目の段鼻に向けて徐々に傾斜することになる。この際、下降を想定している最大の傾斜角度を有する階段において、合成重心が踊り場の段鼻よりも進行方向に対して後方に位置する間に屈曲部30Cによる前部フレーム30Fの傾斜が進行し、合成重心が踊り場の段鼻を越える前に前部フレームが二段目の段鼻に当接するように屈曲部の傾斜角度並びに開口長(前部フレーム30Fの屈曲部30Cにおける接地面への投影長)が決められている。
【0059】
これによって、設計上想定する全ての傾斜を有する階段に対して、平地から階段の下降への移行が緩やかに行われることになり、搭乗者にとって不快な衝撃や、不安感を低減することが可能となる。
【0060】
なお、上記下降動作において、踊り場の段鼻に屈曲部30Cが当接すると、この当接を図示しない機体1の駆動を制御する制御部が感知して、傾斜された後部フレーム30Bは前部フレーム30Fと平行状態とするべく第一伸縮シリンダCY1をして伸長制御がなされる。そして、二段目の段鼻に前部フレーム30Fが当接した後、屈曲部30Cが踊り場の段鼻から離接したことを感知すると後輪ホイール部BWの収納が行われる。
【0061】
これによって、クローラ駆動部3は、階段下降時において連続する三段以上の階段の段鼻に当接することができるようになり、安定した階段の下降を行うことが可能となる(図7(d)参照)。
【0062】
なお、屈曲部30Cへの当接/離接の状態検知は、例えば、圧力センサーを屈曲部30Cに対応する前部フレーム30F、後部フレーム30Bの位置にそれぞれ設置し、斯かる圧力センサーからの出力信号の有無によって知ることができる。
【0063】
なお、上記実施形態において、搭乗部2は、車椅子搭載フロア21に車椅子を搭載する例について説明したが、これに限定されるものではない。搭乗部2として車椅子ではなく、直接着座可能な座席を設けてもよい。この場合、座席の着座面を二重のフロアとし、各フロアの相対位置を調整し傾斜をつけることが出来るように、互いにスライド可能な構成とすればよい。これによれば、座席を搭載するだけのスペースで済むことになるため、より小型化が可能となる。
【0064】
以上、説明した通り、本願発明の階段昇降機1は、架台フレーム4により搭乗部2を左右の支点P、Pによる2点で支持する構成としたため、搭乗部2の傾斜を初期設定することにより、機体1の動作状態に拘わらず、搭乗時には常に所定の傾斜を維持することが可能となる。また、搭乗部2を両脇からの二点で支持する構造としたことにより、一点で支持する際に必要となる大掛かりな支柱構造を採用する必要がない。このため小型化が可能となるため階段の踊り場での旋回がし易くなり実用的である。
【符号の説明】
【0065】
1 階段昇降機
2 搭乗部
21 車椅子搭載フロア
21D アンダーフレーム
21U アッパーフロア
22 車止めフレーム
23 懸架用フレーム
3 クローラ駆動部
30 軌道フレーム
30B 後部フレーム
30C 屈曲部
30F 前部フレーム
33B 後部連結軸
33C 中央部連結軸
34 駆動輪
35B 後部遊動輪
35C 中央部遊動輪
36 ベルトクローラ
37 抑えローラ
38 遊貫軸
4 架台フレーム
40 長穴
45 切欠き部
46 ストッパ
5 リンクロッド
6 ロックアーム
61 湾曲部
62 直線部
7 把持部
BW 後輪ホイール部
BW1 支持棒
BW2 自在車輪
CY1 第一伸縮シリンダ
CY2 第二伸縮シリンダ
h1、h2 支持孔
K 車椅子
P 支点
Q 合成重心
SW サイドホイール部
SW1 支持棒
SW2 自在車輪


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトクローラと、当該ベルトクローラの軌道を画定する軌道フレームと、
前記軌道フレームで支持される架台フレームと、をそれぞれ左右一対に有し、各ベルトクローラの駆動を行うクローラ駆動部と、
左右一対の懸架用フレームが設けられた搭乗部と、
を備え、
左右一対の前記懸架用フレームは、左右一対の前記架台フレームに対して回動自在に支持されていることを特徴とする階段昇降機。
【請求項2】
前記搭乗部は第一フロアと、当該第一フロアに対する位置を相対的に移動可能な第2フロアとを備え、左右一対の前記懸架用フレームは、前記第1フロア又は前記第2フロアのいずれか一方に固定されている請求項1に記載の階段昇降機。
【請求項3】
左右一対の前記軌道フレームは、それぞれ前記ベルトクローラを接地面に案内する前部フレームと、当該前部フレームに対して傾斜自在に配置された後部フレームとを備え、前記架台フレームは、前記前部フレームに対して回動可能に支持されている請求項1又は請求項2に記載の階段昇降機。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−143382(P2012−143382A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3875(P2011−3875)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000106634)株式会社サンワ (6)