説明

隔壁形成用無鉛ガラス及びプラズマディスプレイパネル

【課題】LiOを含有する場合であってもその含有量が0.5%未満である隔壁形成用無鉛ガラスの提供。
【解決手段】下記酸化物基準の質量百分率表示で、B 20〜35%、ZnO 25〜60%、SiO 0〜6%、Al 0.1〜10%、MgO+CaO+SrO+BaO 3〜38%、LiO 0〜0.3%、NaO+KO 0.1〜6%、から本質的になる隔壁形成用無鉛ガラス。ZnOが28〜58%、SiOが0.3〜5%、Alが0.5〜8%、BaOが10〜38%、NaOが1〜5%である前記隔壁形成用無鉛ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成してプラズマディスプレイパネル(以下、PDPという。)等の隔壁形成に用いられるガラス及びガラスセラミックス組成物並びにPDPに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大型の薄型平板型カラー表示装置としてPDPが注目されている。PDPは、二枚のガラス基板の間に隔壁(バリアリブ)で仕切られた多数のセル(微小放電空間)を形成し、各セル内表面に蛍光体を配し、このセル中に放電ガスを充填した構造となっている。前記セル内の電極間で放電を起させて放電ガスを励起し、その際に発生する紫外線によって基底状態にある蛍光体を発光させて画素を形成させる。このようなPDPは自己発光型のフラットディスプレイであり、軽量薄型、高視野角等の優れた特性を備えており、また大型化が可能なため最も将来性のある表示装置の一つである。
【0003】
隔壁を形成する材料に対しては焼成時におけるガラス基板の変形を防止するためにたとえば、軟化点(Ts)が450〜600℃であること、50〜350℃における平均線膨張係数(α)が60×10−7〜85×10−7/℃であること等が求められている。
従来このような材料としては、Tsを低くする成分である酸化鉛(PbO)を多量含有するガラスが使用されているが、近年、鉛を含有しない材料が求められている。そのようなものとして質量百分率表示組成がB 15〜35%、ZnO 30〜60%、SiO 3〜20%、BaO 3〜25%、LiO 0.5〜6%、LiO+NaO+KO 1〜12%である無鉛ガラスが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−326839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の無鉛ガラスは、Tsを低下させる効果が大きいとしてLiOを0.5%以上含有している。しかし、LiOを0.5%以上含有するものを隔壁形成に用いるとPDPのパネル特性が低下するなどの問題が起こることが懸念される。
本発明は、LiOを含有する場合であってもその含有量が0.5%未満である隔壁形成用無鉛ガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記酸化物基準の質量百分率表示で、B 20〜35%、ZnO 25〜60%、SiO 0〜6%、Al 0.1〜10%、MgO+CaO+SrO+BaO 3〜38%、LiO 0〜0.3%、NaO+KO 0.1〜6%、から本質的になる隔壁形成用無鉛ガラスを提供する。
【0007】
また、前記隔壁形成用無鉛ガラスの粉末と、その粉末100質量部に対して0.1〜40質量部の割合の無機酸化物粉末とを含有する隔壁形成用ガラスセラミックス組成物を提供する。
また、無機酸化物粉末が、TiO、ZnO、SiO、Al、ZrO、P、Fe、MnO、Cr及びCoからなる群から選ばれた1種以上の無機酸化物の粉末である前記隔壁形成用ガラスセラミックス組成物を提供する。
また、前記隔壁形成用無鉛ガラスの粉末又は前記隔壁形成用ガラスセラミックス組成物を用いて形成された隔壁を有するプラズマディスプレイパネルを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、LiOを含有しない又は0.3%以下含有し、しかも結晶化しにくい隔壁形成用無鉛ガラスが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の隔壁形成用無鉛ガラス(以下、単に本発明のガラスという。)は、通常、粉砕、分級されてガラス粉末として使用される。このようにして作製されたガラス粉末は通常、必要に応じてセラミックスフィラー、耐熱顔料等と混合され、さらに樹脂を有機溶剤に溶解させたビヒクルと混練してペースト又はグリーンシートとされる。サンドブラスト法を用いる場合、このペースト又はグリーンシートは下地に塗布又は貼付後サンドブラスト等によって所定のパターンの未焼成隔壁とされ、その後これを焼成して隔壁とする。なお、サンドブラスト法以外の方法としてはエッチング法などが知られており、また、前記樹脂としてはエチルセルロース、ポリアクリレート、ポリビニルブチラール、ニトロセルロース等が、前記有機溶剤としてはα−テルピネオール、ブチルカルビトールアセテート、酢酸イソペンチル等が例示され、また、セラミックスフィラーは無機酸化物粉末であり、耐熱顔料は通常は無機酸化物粉末である。
【0010】
本発明のガラスはPDP、VFD(蛍光表示管)等の隔壁の形成に用いられる。
本発明のガラスをPDPの隔壁形成に用いる場合、前記下地はガラス基板であるが、通常はその上にアドレス用のデータ電極が形成され、そのアドレス電極の上には、誤放電防止のための絶縁被覆層である誘電体層が形成される。
【0011】
前記未焼成隔壁に対して行われる焼成の最高温度は通常500〜600℃である。500℃未満では焼成後の隔壁に前記ビヒクル中の樹脂が残留し、PDP製造時にパネルを封着する際又はパネル放電が起こる際にこれら残留樹脂がガスとなって放出されるおそれがある。600℃超ではガラス基板が変形するおそれがある。
【0012】
本発明のガラスを用いたPDPの製造は、たとえば交流方式のものであれば次のようにして行われる。
パターニングされた透明電極及びバス線(典型的には銀線)をガラス基板の表面に形成し、その上に透明電極被覆用ガラスの粉末をガラスペースト法又はグリーンシート法によって塗布又は貼付後焼成してガラス層を形成し、最後に保護膜として酸化マグネシウムの層を形成して前面基板とする。
【0013】
一方、パターニングされたアドレス用電極を別のガラス基板の表面に形成し、その上に本発明のガラスの粉末又は本発明のガラスの粉末と無機酸化物粉末との混合物(ガラスセラミックス組成物)をガラスペーストとしたものを塗布・焼成してガラス層又はガラス含有層(以下、これをもガラス層ということがある。)を形成し、その上にサンドブラスト法やエッチング法等にて隔壁を形成する。
このような隔壁が形成されたガラス基板に蛍光体層を印刷・焼成して背面基板とする。なお、前記ガラス層を形成するのにガラスペーストを使用せず、グリーンシート法等を用いてもよい。
【0014】
前面基板と背面基板の周縁にシール材をディスペンサで塗布し、前記透明電極と前記アドレス用電極が対向するように組み立てた後、焼成してPDPとする。そしてPDP内部を排気して、放電空間(セル)にNeやHe−Xeなどの放電ガスを封入する。
なお、上記の例は交流方式のものであるが、本発明のガラスは直流方式のものにも適用できる。
【0015】
本発明のガラスのTsは600℃以下であることが好ましい。600℃超では、通常使用されているガラス基板(ガラス転移点:550〜620℃)が焼成時に変形するおそれがある。Tsは典型的には450〜600℃、より典型的には480〜590℃である。
【0016】
前記ガラス基板としては通常、αが80×10−7〜90×10−7/℃のものが用いられる。したがってこのようなガラス基板と膨張特性をマッチングさせ、ガラス基板のそりや強度の低下を防止するためには、本発明のガラス又は本発明のセラミックス組成物の焼成体のαは好ましくは60×10−7〜85×10−7/℃、より好ましくは65×10−7〜82×10−7/℃である。
【0017】
次に、本発明のガラスの組成について質量百分率表示を用いて説明する。
はガラスを安定化させる成分であり、必須である。20%未満ではガラスが不安定になる。好ましくは22%以上である。35%超ではTsが高くなりすぎる。好ましくは33%以下である。
ZnOはTsを低下させる成分であり、必須である。25%未満ではTsが高くなる。好ましくは28%以上である。60%超ではガラスが不安定になる。好ましくは58%以下である。典型的には40%以下である。
【0018】
SiOは必須ではないがガラスを安定化させるために6%まで含有してもよい。6%超ではTsが高くなりすぎる。好ましくは5%以下、典型的には2%以下である。SiOを含有する場合その含有量は典型的には0.3%以上である。
Alはガラスを安定化させる成分であり、必須である。0.1%未満ではガラスが不安定になる。好ましくは0.5%以上である。10%超ではかえってガラスが不安定になる。好ましくは8%以下である。
【0019】
MgO、CaO、SrO及びBaOはTsを低下させる成分であり、いずれか1種以上を含有しなければならない。これら4成分の含有量の合計が3%未満ではTsが高くなりすぎる。好ましくは10%以上、典型的には25%以上である。38%超ではαが大きくなりすぎる。
これらのうちBaOは含有することが好ましく、その場合の含有量は10〜38%であることが好ましい。より好ましくは15%以上、特に好ましくは20%以上である。また、より好ましくは35%以下、特に好ましくは33%以下である。
【0020】
LiOは必須ではないが、Tsを低下させるために0.3%まで含有してもよい。0.3%超では後述する結晶化温度(Tc)とTsの差が小さくなる、すなわち結晶化しやすくなる。
NaO及びKOはTsを低下させる成分であり、いずれか1種以上を含有しなければならない。これら2成分の含有量の合計が0.1%未満ではTsが高くなりすぎる。好ましくは1%以上である。6%超ではαが大きくなりすぎる。好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下である。
NaOを含有する場合その含有量は典型的には1〜5%、より典型的には1〜2.5%である。
【0021】
のモル百分率表示含有量bと、LiO、NaOおよびKOの各モル百分率表示含有量l、n、kの和(l+n+k)の比b/(l+n+k)は、典型的には8.1以上である。
本発明のガラスにおいては、ZnOが28〜58%、SiOが0.3〜5%、Alが0.5〜8%、BaOが10〜38%、NaOが1〜5%であることが好ましい。
【0022】
本発明のガラスは本質的に上記成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。そのような成分を含有する場合それらの含有量の合計は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。
このような成分としては次のようなものが例示される。すなわち、ガラスの着色等のために、CoO、CuO、CeO、MnO及びSnOからなる群から選ばれた1種以上の成分を合計で3%まで含有してもよい場合がある。また、Laなどの希土類酸化物(CeOを除く)、Bi、Fe、NiO、GeO、Y、MoO、Rh、AgO、In、TeO、WO、ReO、V、PdO、TiO、ZrO等が例示される。
なお、本発明のガラスはPbOを含有しない。また、Pはガラスを不安定にするおそれがあるので含有しないことが好ましい場合がある。
【実施例】
【0023】
表1、2のBからCuOまでの欄に質量百分率表示で示す組成となるように、原料を調合して混合し、1200〜1350℃の電気炉中で白金ルツボを用いて1時間溶融し、薄板状ガラスに成形した後、ボールミルで粉砕し、ガラス粉末を得た。
例1〜10は実施例、例11〜13は比較例である。なお、例10のガラス粉末は作製しなかった。
また、表3に例1〜10のガラス粉末のモル百分率表示の組成を示す。
【0024】
これらガラス粉末について、軟化点Ts(単位:℃)、結晶化温度Tc(単位:℃)、前記平均線膨張係数α(単位:10−7/℃)を次に述べるようにして測定した。結果を表に示すが、表中の「−」は測定しなかったことを示す。
Ts:800℃までの範囲で示差熱分析計を用いて測定した。なお、例7のTsは組成から計算によって求めた。
Tc:前記示差熱分析計を用いて測定したデータから最初の発熱ピークすなわち第一結晶化ピーク温度を読み取り、これをTcとした。(Tc−Ts)は30℃以上であることが好ましい。
α:ガラス粉末を加圧成形後、Tsより30℃高い温度で10分間焼成して得た焼成体を直径5mm、長さ2cmの円柱状に加工し、熱膨張計で50〜350℃の平均線膨張係数を測定した。なお、例10のTs、α及び例11のαは組成から計算によって求めた。
【0025】
また、焼結性について次のようにして評価した。すなわち、各ガラス粉末35gとエチルセルロース5%ターピネオール溶液を混合し、3本ロールミルにて混練してペースト化した。次にこのペーストを旭硝子社製ガラス基板PD200上にブレードコートし膜厚400μmの塗布膜を形成した。さらに電気炉にて560℃で10分間焼成してガラス膜を得た。このガラス膜の断面をSEMにて観察し、十分焼結し緻密化しているものを○、焼結はしているが緻密化が不十分なものを△とした。
【0026】
比較例である例11はTsが高く、例12はαが大きく、例13は(Tc−Ts)が小さく結晶化しやすいものであった。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0030】
PDPの隔壁形成に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記酸化物基準の質量百分率表示で、B 20〜35%、ZnO 25〜60%、SiO 0〜6%、Al 0.1〜10%、MgO+CaO+SrO+BaO 3〜38%、LiO 0〜0.3%、NaO+KO 0.1〜6%、から本質的になる隔壁形成用無鉛ガラス。
【請求項2】
ZnOが28〜58%、SiOが0.3〜5%、Alが0.5〜8%、BaOが10〜38%、NaOが1〜5%である請求項1の隔壁形成用無鉛ガラス。
【請求項3】
軟化点が600℃以下であり、50〜350℃における平均線膨張係数が60×10−7〜85×10−7/℃である請求項1又は2の隔壁形成用無鉛ガラス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの隔壁形成用無鉛ガラスの粉末と、その粉末100質量部に対して0.1〜40質量部の割合の無機酸化物粉末とを含有する隔壁形成用ガラスセラミックス組成物。
【請求項5】
無機酸化物粉末が、TiO、ZnO、SiO、Al、ZrO、P、Fe、MnO、Cr及びCoからなる群から選ばれた1種以上の無機酸化物の粉末を含有する請求項4の隔壁形成用ガラスセラミックス組成物。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかの隔壁形成用無鉛ガラスの粉末又は請求項4もしくは5の隔壁形成用ガラスセラミックス組成物を用いて形成された隔壁を有するプラズマディスプレイパネル。

【公開番号】特開2008−100896(P2008−100896A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151688(P2007−151688)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】