説明

障害物検知装置

【課題】低コストで障害物を常時監視することができるとともに障害物を正確に検知することができる障害物検知装置を提供する。
【解決手段】障害物1が軌道6上に存在しないときには、信号機2が進行信号(青信号)を現示している。土砂崩壊、落石、雪崩又は倒木などによって障害物1が軌道6に衝突すると、区間S1内のレール7R,7Lが衝撃力を受けて振動する。区間S1内のレール7R,7Lが振動すると検出部12がこの振動を検出して電気信号を判定部13に出力する。このとき、障害物1の衝突によって発生する振動が比較的短時間で瞬間的であるため、検出部12から電気信号が継続して出力する時間T2が判定基準値Tthよりも小さくなる。このため、区間S1を列車3が通過せず区間S1に障害物1が存在すると判定部13が判定して、信号機2が停止信号(赤信号)を現示するように信号機2の制御部2bを判定部13が指令する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、障害物の有無を検知する障害物検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の障害物検知装置は、落石の危険性がある線路に沿って設置されてこの線路上に岩石が落下するのを防ぐ落石防護柵と、この落石防護柵が落石の衝撃によって倒れたときに作動するスイッチと、落石の危険性がある線路の手前に設置されてスイッチと連動して点灯する通報灯などを備えている(例えば、特許文献1参照)。このような従来の障害物検知装置では、落石の衝撃によって落石防護柵が倒れると、この落石防護柵とスイッチとを連結する綱状体が引っ張られてスイッチが作動し、通報灯が通電状態になって点灯するため、線路を走行する車両の運転士に緊急事態の発生を知らせることができる。
【0003】
【特許文献1】特開2001-004413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の障害物検知装置では、落石の危険性がある線路に沿って設置した落石防護柵にスイッチを設置する必要があり、コストが高くなってしまう問題点がある。また、従来の障害物検知装置では、落石の危険性が比較的高い山間部に落石防護柵を優先的に設置しているため、落石の危険性が比較的低い沿線については土砂崩れや倒木などを常時監視することができず、災害の発見が遅れるとともに巡回労力を要するなどの問題点がある。さらに、従来の障害物検知装置では、落石防護柵とスイッチとが綱状体によって連結されているため、落石防護柵が僅かに傾いただけでスイッチが作動し、落石の危険性が少ないにもかかわらず車両の運転士に緊急事態であると誤って通報してしまう問題点がある。
【0005】
この発明の課題は、低コストで障害物を常時監視することができるとともに障害物を正確に検知することができる障害物検知装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図1、図2、図4、図5、図7及び図8に示すように、障害物(1)の有無を検知する障害物検知装置であって、前記障害物の軌道(6)への衝突を検出する検出手段(12)と、前記検出手段の検出結果に基づいて前記障害物の有無を判定する判定手段(13)とを備え、前記検出手段は、前記障害物が前記軌道に衝突したときに発生する振動を圧電効果によって電気信号に変換して出力し、前記判定手段は、前記検出手段が出力する電気信号に基づいて前記障害物の有無を判定することを特徴とする障害物検知装置(11)である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の障害物検知装置において、図4及び図5に示すように、前記検出手段は、列車(3)の車輪(4R,4L)が走行するレール(7R,7L)とこのレールを支持する支持体(8)との間に挿入されていることを特徴とする障害物検知装置である。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載の障害物検知装置において、前記検出手段は、前記振動を前記電気信号に変換する圧電軌道パッドであることを特徴とする障害物検知装置である。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の障害物検知装置において、図8に示すように、前記検出手段は、列車(3)の車輪(4R,4L)が走行するレールを支持する支持体(8)とこの支持体を支持する路盤(5)との間に挿入されていることを特徴とする障害物検知装置である。
【0010】
請求項5の発明は、請求項4に記載の障害物検知装置において、前記検出手段は、前記振動を前記電気信号に変換する圧電スラブマットであることを特徴とする障害物検知装置である。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の障害物検知装置において、前記検出手段は、ゴム中に圧電材料を分散させた圧電ゴム部(12a)を備えることを特徴とする障害物検知装置である。
【0012】
請求項7の発明は、図9及び図10に示すように、障害物(1)の有無を検知する障害物検知装置であって、前記障害物の通路(15)への衝突を検出する検出手段(17)と、前記検出手段の検出結果に基づいて前記障害物の有無を判定する判定手段(18)とを備え、前記検出手段は、前記障害物が前記通路に衝突したときに発生する振動を圧電効果によって電気信号に変換して出力し、前記判定手段は、前記検出手段が出力する電気信号に基づいて前記障害物の有無を判定することを特徴としている障害物検知装置(16)である。
【0013】
請求項8の発明は、請求項7に記載の障害物検知装置において、前記検出手段は、ゴム中に圧電材料を分散させた圧電ゴム部を備えることを特徴とする障害物検知装置である。
【発明の効果】
【0014】
この発明によると、低コストで障害物を常時監視することができるとともに障害物を正確に検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1は、この発明の第1実施形態に係る障害物検知装置の障害物の衝突前の状態を模式的に示す平面図である。図2は、この発明の第1実施形態に係る障害物検知装置の障害物の衝突後の状態を模式的に示す平面図である。図3は、図1のIII-III線で切断した状態を示す断面図である。図4は、図1のIV-IV線で切断した状態を示す断面図である。
【0016】
図1及び図2に示す区間S1は、障害物検知装置11によって障害物1の有無を検出する検出区間である。区間S1は、例えば、土砂崩壊、落石、雪崩又は倒木などの災害の発生が予測される監視区間である。障害物1は、図2に示す列車3の走行の支障となる軌道6上の物体であり、例えば土砂、落石、雪崩又は倒木などである。
【0017】
図1及び図2に示す信号機2は、信号を現示する装置である。信号機2は、例えば、列車3を緊急に防護する必要があるときに、障害物検知装置11と連動して停止信号を現示し接近する列車3に警報する発光信号機(特殊信号発光機)などである。信号機2は、例えば、正五角形に並んだ5つの赤色灯を左回りに循環移動するように点灯させて停止信号を現示する。信号機2は、電源部2aと制御部2bなどを備えている。電源部2aは、信号機2に電力を供給する信号機用電源であり制御部2bに電流を流す。制御部2bは、信号機2の種々の動作を制御する部分であり、障害物検知装置11と連動して信号機2の動作開始及び動作停止などを制御する特殊信号発光機用制御器などである。制御部2bは、図2に示すように、区間S1内に障害物1が存在するときには、信号機2を停止信号(赤信号)に現示し、図1に示すように区間S1に障害物1が存在しないときには、信号機2を進行信号(青信号)に現示する。信号機2は、図2に示すように、列車3が障害物1の手前で停止可能なように区間S1の前方に設置されている。
【0018】
図2に示す列車3は、軌道6上を運転する目的で組成された車両であり、電車又は気動車などの鉄道車両である。列車3は、1両又は複数両の車両によって編成されている。車輪4R,4Lは、車両を支持する部材であり、左右一対のレール7R,7Lとそれぞれ回転接触する。車輪4R,4Lは、図3及び図4に示すように、レール頭部7aの頭頂面7dと接触して摩擦抵抗を受ける踏面4aと、脱輪を防止するために車輪4R,4Lの外周部に連続して形成されたフランジ面4bとを備えている。
【0019】
路盤5は、軌道6を支持する基盤であり、図2に示す列車3が通過するときに発生する荷重を支持する構造物である。図3及び図4に示す路盤5は、例えば、良質な自然土などを用いて締め固められた土路盤などである。
【0020】
図1〜図4に示す軌道6は、列車3が走行する通路(線路)であり、図1及び図2に示すレール7R,7Lと、支持体8と、図3及び図4に示す道床9と、レール締結装置10などを備えている。図1〜図4に示す軌道6は、砂利又は砕石などの粒状体によって構成された道床9上にレール7R,7Lと支持体8とによって構成された軌きょうを敷設した有道床軌道である。
【0021】
図1及び図2に示すレール7R,7Lは、列車3の車輪4R,4Lを支持し案内して列車3を走行させる部材であり、図3及び図4に示すようにレール頭部7aと、レール底部(フランジ部)7bと、レール腹部(ウェブ部)7cなどを備えている。レール頭部7aは、鉄道車両の車輪4R,4Lと接触する部分であり、車輪4R,4Lを直接支持する頭頂面(頭部上面)7dなどを備えている。レール底部7bは、支持体8上に設置されて取り付けられる部分であり、レール締結装置10の締結ばね10bによって押さえ付けられる底部上面7eと、支持体8上に設置される底部下面7fと、レール底部7bの左右の側面部分を構成する底部側面7gなどを備えている。レール腹部7cは、レール頭部7aとレール底部7bとを繋ぐ部分であり、レール頭部7aに作用する輪重及び押圧をレール底部7bに伝達する。
【0022】
図1〜図4に示す支持体(支承体)8は、レール7R,7Lを支持する部材である。支持体8は、左右のレール7R,7Lを固定して軌間を正確に保持し、レール7R,7Lから伝達される列車荷重を道床9に分散させるために、図3及び図4に示すようにレール7R,7Lと道床9との間に設置されるまくらぎである。図1〜図4に示す支持体8は、レール7R,7Lに対して直角に並べて敷設される横まくらぎ(一般区間で使用される並まくらぎ)であり、例えば緊張材として使用される鋼材(Prestressing Steel(PC))によってプレストレスが与えられたプレストレスコンクリート製まくらぎ(PCまくらぎ)である。支持体8は、図1及び図2に示すように、レール7R,7Lの長さ方向に所定の間隔をあけて配置されており、レール7R,7Lを離散的に支持している。
【0023】
図3及び図4に示す道床9は、支持体8を支持し路盤5に荷重を分散し伝達する構造体である。道床9は、支持体8と路盤5との間に敷き詰められる砂利又は砕石などの粒状体からなるバラスト9aを備えており、このバラスト9aによって構成されたバラスト道床である。
【0024】
図1〜図4に示すレール締結装置10は、レール7R,7Lを支持体8に締結する装置であり、図2に示す列車3が通過する際に発生する振動を吸収する緩衝機能を有する。レール締結装置10は、図3及び図4に示すように、軌道パッド10aと、締結ばね10bと、ばね受台10cと、埋込栓10dと、締結ボルト10eと、座金10fなどを備えている。レール締結装置10は、レール底部7bと支持体8との間に軌道パッド10aを挟み込み、締結ばね10bによってレール7R,7Lを支持体8に締結する。軌道パッド10aは、レール7R,7Lと支持体8との間に挿入する弾性体である。軌道パッド10aは、列車3が通過する際に発生する衝撃荷重を緩和する機能と、レール7R,7Lが長手方向に移動するふく進に対する抵抗力を確保する機能と、レール7R,7Lと支持体8とを電気的に絶縁する機能とを有する加硫ゴム製やウレタン製の板状部材である。締結ばね10bは、レール7R,7Lを押さえ付けて締結するばねであり、底部上面7e及び底部側面7gを押さえ付ける押さえ金(ばねクリップ)として機能する。ばね受台10cは、締結ばね10bを支持する部材であり、レール7R,7Lと支持体8とを電気的に絶縁するくさび状の部材である。ばね受台10cは、支持体8と締結ばね10bとの間に挿入する挿入量を調節することによってレール7R,7Lの左右方向の位置を調節する。埋込栓10dは、締結ボルト10eを締結するために支持体8に埋め込まれる部材であり、レール7R,7Lと支持体8とを電気的に絶縁する。締結ボルト10eは、締結ばね10bを締め付ける部材であり、締結ばね10bの貫通孔を貫通して埋込栓10dの雌ねじ部にねじ込まれて固定される。座金10fは、締結ボルト10eと締結ばね10bとの間に挟み込まれる部材である。
【0025】
図1及び図2に示す障害物検知装置11は、障害物1の有無を検出する装置である。障害物検知装置11は、図1に示すように、区間S1内に障害物1が存在しないときには、信号機2が進行信号(青信号)を現示するように制御部2bに指令する。一方、障害物検知装置11は、図2に示すように、区間S1内に障害物1が存在するときには、信号機2が停止信号(赤信号)を現示するように制御部2bに指令する。障害物検知装置11は、図1及び図2に示すように、検出部12と判定部13などを備えている。
【0026】
図5は、この発明の第1実施形態に係る障害物検知装置の検出部の縦断面図である。
図1及び図2に示す検出部12は、障害物1の軌道6への衝突を検出する手段である。検出部12は、障害物1が軌道6に衝突したときに発生する振動を圧電効果によって電気信号(障害物検知信号)に変換して出力する圧電材である。検出部12は、障害物1が軌道6に衝突したときに発生する衝撃を緩和し、振動の大きさに応じた電力を発生する弾性を有する圧電素子などである。検出部12は、障害物1が軌道6に衝突したときに発生する機械的な振動を電気信号に変換する機械電気変換部として機能するとともに、障害物1の衝突によって衝撃力が作用したときに電力を発生して障害物1を検出するセンサとしても機能する。検出部12は、図4に示すように、レール7R,7Lと支持体8との間に挿入されており、振動を電気信号に変換する圧電軌道パッドである。検出部12は、図3に示すレール締結装置10の軌道パッド10aと同様にレール締結装置10の一部を構成しており、軌道パット10aと同様の機能を有するとともに圧電材としての機能も有する。検出部12は、例えば、図1及び図2に示す区間S1の入口側と区間S1の出口側との間に所定の間隔をあけて複数配置されている。検出部12は、図5に示すように、圧電ゴム部12aと、電極部12b,12cと、絶縁部12d,12eと、導電部12f,12gなどを備えている。
【0027】
図5に示す圧電ゴム部12aは、ゴム中に圧電材料を分散させた部材である。圧電ゴム部12aは、例えば、ニトリルゴムなどのゴム材とチタン酸ジルコン酸鉛(商品名PZT)などの圧電セラミック粉末とを混合する混合工程と、この混合工程後の混合物を加硫する加硫工程と、この加硫工程後の混合物の両端部に電圧を印加してこの混合物を分極させる分極工程とによって製造される。
【0028】
電極部12b,12cは、圧電ゴム部12aに電気的に接続された接点部分である。電極部12b,12cは、圧電ゴム部12aの両面にそれぞれ積層されており、圧電ゴム部12aの両面全域を被覆するように形成されている。電極部12b,12cは、例えば、金属、金属酸化物又はカーボンなどの導電性材料を蒸着、シルクスクリーン印刷又はイオンスパッタリングなどの方法によって圧電ゴム部12aの両面に形成されたり、導電性材料を含有する樹脂又は導電性高分子などの導電性樹脂を圧電ゴム部12aの両面に多層化して形成されたりする。
【0029】
絶縁部12dは、レール底部7bと電極部12bとの間を電気的に絶縁する部分であり、絶縁部12eは支持体8と電極部12cとの間を電気的に絶縁する部分である。絶縁部12d,12eは、電極部12b,12cの表面に積層されており、電極部12b,12cの表面全域を被覆するように形成されている。絶縁部12d,12eは、例えば、電極部12b,12cの表面に接着剤などによって接合された絶縁性のゴム又は合成樹脂である。
【0030】
導電部12f,12gは、圧電ゴム部12aが発生する電流が流れる部分であり、導電材の表面を絶縁材によって被覆された電線などである。導電部12f,12gは、一方の端部が電極部12b,12cにそれぞれ接続されており、他方の端部が判定部13に接続されている。
【0031】
図1及び図2に示す判定部13は、検出部12の検出結果に基づいて、障害物1の有無を判定する手段であり、検出部12が出力する電気信号に基づいて障害物1の有無を判定する。判定部13は、図1に示すように、障害物1が軌道6に衝突する前には検出部12がOFF状態であるため、区間S1内に障害物1が存在しないと判定する。判定部13は、図2に示すように、障害物1が軌道6に衝突すると検出部12がON状態になるため、区間S1内に障害物1が存在すると判定する。判定部13は、列車3が走行しているときに検出部12が出力する電気信号を、障害物1が軌道6に衝突したときに検出部12が出力する電気信号と誤判定するのを防ぐために、列車3の走行によって振動が発生したか、障害物1の衝突によって振動が発生したかを判定する。
【0032】
図6は、この発明の第1実施形態に係る障害物検知装置の判定部の判定原理を模式的に説明するための図であり、図6(A)は列車通過時に検出部が出力する出力信号を模式的に示す波形図であり、図6(B)は障害物衝突時に検出部が出力する出力信号を模式的に示す波形図である。
例えば、図6(A)に示すように、列車3が軌道6上を走行したときには比較的長い時間T1の振動が発生するため、検出部12から継続的に電気信号が出力される。一方、図6(B)に示すように、障害物1が軌道6と衝突したときには比較的短い時間T2(T2<T1)の振動が発生するため、検出部12から瞬間的に電気信号が出力される。判定部13は、検出部12が電気信号を継続して出力する時間Tを測定し、判定基準値(しきい値)Tthとこの時間Tとを比較することによって、区間S1内に障害物1が存在しないにもかかわらず、列車3の走行によって発生する振動により区間S1内に障害物1が存在すると誤判定するのを防ぐ。判定部13は、検出部12が電気信号を出力する時間Tが判定基準値Tthを超えているときには、障害物1が軌道6と衝突しておらず列車3が通過しているだけであり、障害物1が区間S1内に存在しないと判定する。一方、判定部13は、検出部12が電気信号を出力する時間Tが判定基準値Tth以下であるときには、列車3が軌道6上を走行しておらず障害物1が軌道6と衝突しており、障害物1が区間S1内に存在すると判定する。判定部13は、区間S1内に障害物1が存在すると判定したときには、図2に示すように信号機2が停止信号(赤信号)を現示するように信号機2の制御部2bに指令する。一方、判定部13は、区間S1内に障害物1が存在しないと判定したときには、図1に示すように、信号機2が進行信号(青信号)を現示するように信号機2の制御部2bに指令する。
【0033】
次に、この発明の第1実施形態に係る障害物検知装置の動作を説明する。
図1に示すように、障害物1が軌道6上に存在しないときには、信号機2が進行信号(青信号)を現示している。このため、区間S1内をD方向に列車3が走行すると、列車3の車輪4R,4Lがレール7R,7L上を転がりながら移動するため、区間S1内のレール7R,7Lが衝撃力を受けて振動する。区間S1内のレール7R,7Lが振動すると検出部12がこの振動を検出して電気信号を判定部13に出力する。このとき、図6(A)に示すように、列車3の走行によって発生する振動が比較的長時間で継続的であるため、検出部12から電気信号が継続して出力する時間T1が判定基準値Tthよりも大きくなる。このため、区間S1に障害物1が存在せず区間S1を列車3が通過しているだけであると判定部13が判定して、信号機2が進行信号(青信号)を現示するように信号機2の制御部2bに判定部13が指令する。
【0034】
図2に示すように、土砂崩壊、落石、雪崩又は倒木などによって障害物1が軌道6に衝突すると、区間S1内のレール7R,7Lが衝撃力を受けて振動する。区間S1内のレール7R,7Lが振動すると、検出部12がこの振動を検出して電気信号を判定部13に出力する。このとき、図6(B)に示すように、障害物1の衝突によって発生する振動が比較的短時間で瞬間的であるため、検出部12から電気信号が継続して出力する時間T2が判定基準値Tthよりも小さくなる。このため、区間S1を列車3が通過せず区間S1に障害物1が存在すると判定部13が判定して、信号機2が停止信号(赤信号)を現示するように信号機2の制御部2bを判定部13が指令する。
【0035】
この発明の第1実施形態に係る障害物検知装置は、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、障害物1が軌道6に衝突したときに発生する振動を圧電効果によって検出部12が電気信号に変換して出力し、検出部12が出力する電気信号に基づいて障害物1の有無を判定部13が判定する。このため、土砂崩壊、落石、雪崩又は倒木などの危険性のある線路に沿って検出部12を配置して災害の発生を常時監視することができるとともに、作業員が巡回せずに判定部13によって低コストで迅速に障害物1を検知することができる。
【0036】
(2) この第1実施形態では、列車3が走行するレール7R,7Lと支持体8との間に検出部12が挿入されている。このため、障害物1が軌道6に衝突するときに発生するレール7R,7Lの振動を検出部12によって検出して、軌道6上の障害物1の有無を簡単に検知することができる。また、従来の障害物検知装置のような落石防護柵とスイッチとを綱状体によって連結する複雑な構造を採用せずに、レール7R,7Lと支持体8との間に検出部12を挟み込むだけで簡単に取り付けることができる。
【0037】
(3) この第1実施形態では、検出部12が振動を電気信号に変換する圧電軌道パッドである。このため、障害物1が軌道6に衝突するときに発生するレール7R,7Lの機械的な振動を電気信号に圧電軌道パッドによって変換して、軌道6上に障害物1が存在するか否かを簡単に検知することができる。また、圧電軌道パッド自体が圧電性を有し電圧を発生するため、検出部12からの出力信号を増幅するためのアンプなどの増幅器を省略することができ、装置全体を安価に製造することができる。
【0038】
(4) この第1実施形態では、ゴム中に圧電材料を分散させた圧電ゴム部12aを検出部12が備えている。このため、構造が簡単で製造が容易な圧電方式の圧電ゴム部12aを利用して検出部12を簡単に取り付けることができる。また、圧電ゴム部12aに障害物1から衝撃力が作用しても、圧電ゴム部12aが弾力性と可撓性を有するため検出部12が破損することがなく、検出部12の耐久性を向上させることができる。
【0039】
(第2実施形態)
図7は、この発明の第2実施形態に係る障害物検知装置の障害物発生時の状態を模式的に示す平面図である。図8は、図7のVIII-VIII線で切断した状態を示す断面図である。以下では、図1〜図5に示す部分と同一の部分については、同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
図8に示す路盤5は、スラブ軌道区間に設置される路盤コンクリートであり、図7に示すように支持体8の水平力を支えるために所定の間隔をあけて突起(突起コンクリート)5aが形成されている。軌道6は、路盤コンクリート上に軌道スラブを敷設したスラブ軌道であり、有道床軌道の保守作業を軽減するために開発された省力化軌道の一種である。支持体8は、矩形平板状のプレキャストのコンクリート版からなるスラブ版(軌道スラブ)であり、レール7R,7Lと道床9との間に設置されている。検出部12は、列車3が走行するレール7R,7Lを支持する支持体8とこの支持体8を支持する路盤5との間に挿入されており、振動を電気信号に変換する圧電スラブマットである。検出部12は、スラブ軌道において列車3が走行したときに発生する振動及び騒音の拡散を低減するために支持体8と路盤5との間に挿入されるゴム製のスラブマットとしての機能を有するするとともに、圧電材としての機能も有する。検出部12は、図7に示す区間S1の入口側から区間S1の出口側に向かって連続して配置されている。
【0040】
この発明の第2実施形態に係る障害物検知装置には、第1実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
(1) この第2実施形態では、レール7R,7Lを支持する支持体8とこの支持体8を支持する路盤5との間に検出部12が挿入されている。その結果、支持体8と路盤5との間の広範囲にわたって検出部12が挟み込まれるため、障害物1が軌道6に衝突するときに発生するレール7R,7Lの振動を高感度で検出して、障害物1の有無を正確に検出することができる。
【0041】
(2) この第2実施形態では、検出部12が振動を電気信号に変換する圧電スラブマットである。その結果、路盤5上に支持体8を設置するときに、この路盤5上に圧電スラブマットを敷設して支持体8を設置することができるため、圧電スラブマットの敷設作業が容易になって作業時間を短縮化することができる。また、圧電スラブマットが支持体8と路盤5とに広範囲で接触するため、圧電スラブマットからの出力電圧が大きくなり検出精度を向上させることができる。
【0042】
(第3実施形態)
図9は、この発明の第3実施形態に係る障害物検知装置の障害物発生時の状態を模式的に示す平面図である。図10は、図9のX-X線で切断した状態を示す断面図である。
図9に示す区間S2は、障害物検知装置16によって障害物1の有無を検出する検出区間であり、例えば土砂崩壊、落石、雪崩又は倒木などの災害の発生が予測される監視区間である。図9及び図10に示す移動体14は、通路15上を移動する物体であり、例えば自動車又は自動二輪車などの車両である。移動体14は、通路15及び検出部17と回転接触する車輪14aなどを備えている。通路15は、移動体14が通過する道路であり、図10に示すように、アスファルト混合物の表層(路面)15aと、この表層15aから伝達される交通荷重を分散させて路床15cに伝達する路盤15bと、交通荷重を支持する路床15cなどを備えている。
【0043】
図9に示す障害物検知装置16は、障害物1の有無を検知する装置であり、図1及び図2に示す障害物検知装置11と同様の検出部17と判定部18とを備えている。検出部17は、障害物1の通路15への衝突を検出する手段であり、障害物1が通路15に衝突したときに発生する振動を圧電効果によって電気信号(障害物検知信号)に変換して出力する圧電ゴムマットである。検出部17は、障害物1が衝突したときに発生する衝撃を緩和し、振動の大きさに応じた電力を発生する弾性を有する圧電素子などの圧電材であり、表層15aの表面に接着剤などによって取り付けられている。検出部17は、図9に示す区間S2の入口側(移動体14が進入する側)からこの区間S2の出口側(移動体14が進出する側)に向かって、通路15の幅員(道幅)と略同一の幅で連続して配置されている。検出部17は、図1、図2及び図5に示す検出部12と同一構造であり詳細な説明を省略する。判定部18は、検出部17の検出結果に基づいて、障害物1の有無を判定する手段であり、検出部17が出力する電気信号に基づいて障害物1の有無を判定する。判定部18は、図1、図2及び図5に示す判定部13と同一構造であり、障害物1が存在すると判定したときには、図9及び図10に示す警告発生装置19に警告を発生するように指令する。
【0044】
警告発生装置19は、障害物検知装置16の検知結果に基づいて所定の警告を発生する装置である。警告発生装置19は、例えば、区間S2の入口に設置されており、障害物1が通路15上に存在するときには自動的に停止信号(赤信号)を指示し、障害物1が通路15上に存在しないときには自動的に進行信号(青信号)を指示する信号機などである。警告発生装置19は、障害物検知装置16と連動して信号を指示し、電源部19aと制御部19bなどを備えている。電源部19aは、警告発生装置19に電力を供給する電源であり、制御部19bに電流を流す。制御部19bは、警告発生装置19の種々の動作を制御する部分であり、障害物検知装置16と連動して警告発生装置19の動作を制御する。制御部19bは、区間S2内に障害物1が存在するときには、警告発生装置19に停止信号(赤信号)を指示させ、区間S2内に障害物1が存在しないときには、警告発生装置19に進行信号(青信号)を指示させる。警告発生装置19は、移動体14が障害物1の手前で停止可能なように区間S2の前方に設置されている。
【0045】
この発明の第3実施形態に係る移動体検知装置には、第1実施形態及び第2実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
(1) この第3実施形態では、障害物1が通路15に衝突したときに発生する振動を検出部17が圧電効果によって電気信号に変換して出力し、この検出部17が出力する電気信号に基づいて障害物1の有無を判定部18が判定する。このため、障害物1が通路15に衝突したときに発生する振動を利用して障害物1の有無を簡単に検知することができる。
【0046】
(2) この第3実施形態では、ゴム中に圧電材料を分散させた圧電ゴム部を検出部17が備えている。このため、移動体14が繰り返し通路15上を通過して検出部17に繰り返し荷重が作用しても、圧電ゴム部が可撓性と弾力性を有するため検出部17が破損するのを防ぐことができる。
【0047】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、支持体8がまくらぎ又はスラブ版である場合を例に挙げて説明したが、レール7R,7Lを長さ方向に連続して支持しレール7R,7Lの長さ方向に沿って敷設される梯子状のラダーまくらぎのような縦まくらぎについても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、レール締結装置10として締結ばね10bを使用した締結装置を例にあげて説明したが、支持体8とレール7R,7Lとの間にタイプレートを挿入した締結装置や、線ばねを使用した締結装置などについてもこの発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、障害物1として土砂、落石、雪崩又は倒木を例に挙げて説明したが、軌道6上に落下した自動車又は自動二輪車などの車両についてもこの発明を適用することができる。
【0048】
(2) この第1実施形態では、区間S1の入口側から出口側に向かって所定の間隔をあけて検出部12を配置する場合を例に挙げて説明したが、区間S1の両端部である入口側と出口側のみに検出部12を配置することもできる。また、この第2実施形態では、路盤5と支持体8との間に検出部12を挿入する場合を例に挙げて説明したが、レール7R,7Lと支持体8との間に検出部12を挿入するとともに路盤5と支持体8との間に検出部12を挿入することもできる。
【0049】
(3) この第3実施形態では、移動体14が車両である場合を例に挙げて説明したが、通路15上を通行する人間又は動物などの移動体についてもこの発明を適用することができる。また、この第3実施形態では、区間S2の入口側から出口側に向かって検出部17を連続して配置する場合を例に挙げて説明したが、区間S2に所定の間隔をあけて検出部17を配置することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明の第1実施形態に係る障害物検知装置の障害物の衝突前の状態を模式的に示す平面図である。
【図2】この発明の第1実施形態に係る障害物検知装置の障害物の衝突後の状態を模式的に示す平面図である。
【図3】図1のIII-III線で切断した状態を示す断面図である。
【図4】図1のIV-IV線で切断した状態を示す断面図である。
【図5】この発明の第1実施形態に係る障害物検知装置の検出部の縦断面図である。
【図6】この発明の第1実施形態に係る障害物検知装置の判定部の判定原理を模式的に説明するための図であり、(A)は列車通過時に検出部が出力する出力信号を模式的に示す波形図であり、(B)は障害物衝突時に検出部が出力する出力信号を模式的に示す波形図である。
【図7】この発明の第2実施形態に係る障害物検知装置の障害物発生時の状態を模式的に示す平面図である。
【図8】図7のVIII-VIII線で切断した状態を示す断面図である。
【図9】この発明の第3実施形態に係る障害物検知装置の障害物発生時の状態を模式的に示す平面図である。
【図10】図9のX-X線で切断した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 障害物
2 信号機
3 列車
4R,4L 車輪
5 路盤
6 軌道
7R,7L レール
8 支持体
9 道床
10 レール締結装置
10a 軌道パッド
11 障害物検知装置
12 検出部(検出手段)
12a 圧電ゴム部
12b,12c 電極部
12d,12e 絶縁部
12f,12g 導電部
13 判定部(判定手段)
14 移動体
14a 車輪
15 通路
16 障害物検知装置
17 検出部(検出手段)
18 判定部(判定手段)
19 警告発生装置
1,S2 区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
障害物の有無を検知する障害物検知装置であって、
前記障害物の軌道への衝突を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて前記障害物の有無を判定する判定手段とを備え、
前記検出手段は、前記障害物が前記軌道に衝突したときに発生する振動を圧電効果によって電気信号に変換して出力し、
前記判定手段は、前記検出手段が出力する電気信号に基づいて前記障害物の有無を判定すること、
を特徴とする障害物検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の障害物検知装置において、
前記検出手段は、列車の車輪が走行するレールとこのレールを支持する支持体との間に挿入されていること、
を特徴とする障害物検知装置。
【請求項3】
請求項2に記載の障害物検知装置において、
前記検出手段は、前記振動を前記電気信号に変換する圧電軌道パッドであること、
を特徴とする障害物検知装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の障害物検知装置において、
前記検出手段は、列車の車輪が走行するレールを支持する支持体とこの支持体を支持する路盤との間に挿入されていること、
を特徴とする障害物検知装置。
【請求項5】
請求項4に記載の障害物検知装置において、
前記検出手段は、前記振動を前記電気信号に変換する圧電スラブマットであること、
を特徴とする障害物検知装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の障害物検知装置において、
前記検出手段は、ゴム中に圧電材料を分散させた圧電ゴム部を備えること、
を特徴とする障害物検知装置。
【請求項7】
障害物の有無を検知する障害物検知装置であって、
前記障害物の通路への衝突を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて前記障害物の有無を判定する判定手段とを備え、
前記検出手段は、前記障害物が前記通路に衝突したときに発生する振動を圧電効果によって電気信号に変換して出力し、
前記判定手段は、前記検出手段が出力する電気信号に基づいて前記障害物の有無を判定すること、
を特徴とする障害物検知装置。
【請求項8】
請求項7に記載の障害物検知装置において、
前記検出手段は、ゴム中に圧電材料を分散させた圧電ゴム部を備えること、
を特徴とする障害物検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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