説明

隠蔽性複合粒子及びそれを用いた筆記具用インキ組成物

【課題】 経時安定性に優れると共に、隠蔽性が高く鮮明な筆跡を長期に亘り維持することができる隠蔽性複合粒子及びそれを用いた筆記具用インキ組成物を提供する。
【解決手段】 酸化ワックス、または、酸化ワックスと真密度が1.0g/cm以下のポリオレフィンの混合物を少なくとも含有することを特徴とする隠蔽性複合粒子。
上記隠蔽性複合粒子には、隠蔽性顔料が含有されることが好ましく、また、酸化ワックスは、分子内に、ウレタン基、水酸基、カルボン酸、カルボン酸塩基、エステル基、炭素間の不飽和結合、アミノ基、アミド基、ニトロ基、エーテル結合、ハロゲン基、エポキシ基、酸無水物基の少なくとも1種の官能基を有するものであることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隠蔽性が高く鮮明な筆跡を長期に亘り維持することができる隠蔽性複合粒子及びそれを用いた筆記具用インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、酸化チタンは、その優れた光散乱効果により、白色度、隠蔽度を付与することができる顔料であり、白色顔料及び隠蔽型修正液として使用されている。その使用方法としては、酸化チタンそのものを水や有機溶媒からなる液体媒体中に分散させた水性又は油性などのインキ組成物を調製し、修正液や筆記具用インキなどとして使用されている。
しかしながら、酸化チタン自身の比重は、3.8〜4.1と非常に大きく、分散体中の粒子径を小さくしても沈降及び分離現象が発生する大きな欠点を有している。
【0003】
このような欠点を解消するものとして、筆記具用インキでは、例えば、酸化チタンとサクシノグルカンからなる高分子多糖類と水とより少なくともなる水性インキ組成物(例えば、特許文献1参照)や、酸化チタンとオレイン酸を必須成分として含むボールペン用水性インキ(例えば、特許文献2参照)、また、必須成分として酸化チタンを内包したマイクロカプセル顔料と、水と、水溶性有機溶剤とから少なくともなるボールペン用水性インキ組成物(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載される水性インキ組成物では、当初は酸化チタンの沈降分離が若干抑制されるが、時間がたつにつれ沈降及び分離現象が生じるなどの点に未だ課題があるものである。また、上記特許文献3に記載される水性インキ組成物は、沈降及び分離現象は幾分解消されるものであるが、マイクロカプセル顔料製造時の隠蔽性粒子の脱落があったり、隠蔽性粒子の粒子径の均一化が難しく、更に、マイクロカプセルの粒子径の均一化及びマイクロカプセル内の粒子数の均一化が難しく、安定な品質を有するマイクロカプセル顔料を得ることが難しい点に未だ課題があるものである。
【特許文献1】特開平8−113752号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開平10−251588号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開2000−265105号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑み、これを解消しようとするものであり、従来の白色顔料である酸化チタン粒子より比重が小さく、また、分散媒のぬれが比較的良い特定成分を用いることにより、隠蔽性が高く鮮明な筆跡を長期に亘り維持することができる隠蔽性複合粒子及びそれを用いた筆記具用インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記従来の課題等を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、酸化チタン粒子より比重が小さく、また、分散媒のぬれ性がパラフィンよりも良好な酸化ワックス中に隠蔽性粒子が分散されている複合粒子とすることにより、また、この複合粒子を筆記具用インキ組成物に含有せしめることにより、上記目的の隠蔽性複合粒子及びそれを用いた筆記具用インキ組成物が得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0007】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(10)に存する。
(1) 酸化ワックス、または、酸化ワックスと真密度が1.0g/cm未満のポリオレフィンの混合物を少なくとも含有することを特徴とする隠蔽性複合粒子。
(2) 隠蔽性複合粒子には、更に、隠蔽性顔料が含有されている上記(1)に記載の隠蔽性複合粒子。
(3) 酸化ワックスは、分子内に、ウレタン基、水酸基、カルボン酸、カルボン酸塩基、エステル基、炭素間の不飽和結合、アミノ基、アミド基、ニトロ基、エーテル結合、ハロゲン基、エポキシ基、酸無水物基の少なくとも1種の官能基を有する酸化ワックスから選ばれる上記(1)又は(2)に記載の隠蔽性複合粒子。
(4) ポリオレフィンが、パラフィンロウ、ポリエチレン、ポリプロピレンの中から選ばれる少なくとも1種である上記(1)〜(3)の何れか一つに記載の隠蔽性複合粒子。
(5) 隠蔽性顔料が酸化チタン、酸化亜鉛の中から選ばれる少なくとも1種である上記(2)に記載の隠蔽性複合粒子。
(6) 隠蔽性複合粒子には、染料、顔料の着色性を有する色材の中から選ばれる少なくとも1種を含有する上記(1)〜(5)の何れか一つに記載の隠蔽性複合粒子。
(7) 隠蔽性複合粒子の粒径が1〜200μmである上記(1)〜(6)の何れか一つに記載の隠蔽性複合粒子。
(8) 上記(1)〜(7)の何れか一つに記載の隠蔽性複合粒子を含有してなることを特徴とする筆記具用インキ組成物。
(9) ELD粘度計における25℃、50rpmの筆記具用インキ組成物の粘度が、3〜50mPa・sである上記(8)に記載の筆記具用インキ組成物。
(10) 筆記具用インキ組成物がサインペン用インキ組成物である上記(8)又は(9)に記載の筆記具用インキ組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、経時安定性に優れると共に、隠蔽性が高く鮮明な筆跡を長期に亘り維持することができる隠蔽性複合粒子及びそれを用いた筆記具用インキ組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態を発明ごとに詳しく説明する。
本発明の隠蔽性複合粒子は、酸化ワックス、または、酸化ワックスと真密度が1.0g/cm未満のポリオレフィンの混合物を少なくとも含有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明に用いる酸化ワックスは、パラフィンに極性を有する官能基が含まれているものであれば特に限定されるものでないが、隠蔽性複合粒子が気候条件により融解するのを避けるために、好ましくは、融点が50℃以上であるものが望ましい。
好ましい酸化ワックスとしては、分子内に、ウレタン基、水酸基、カルボン酸、カルボン酸塩基、エステル基、炭素間の不飽和結合、アミノ基、アミド基、ニトロ基、エーテル結合、ハロゲン基、エポキシ基、酸無水物基の少なくとも1種の官能基を有する酸化ワックスが挙げられる。
具体的には、市販のOX−0153、OX−261BN(以上、酸化ペトロラタム)、OX−0851、OX−0550、OX−0750B(以上、酸化ペトロラタム金属塩)、NPS−6010、HAD−5090(以上、ウレタン型ワックス)、NPS−9210、NPS−9125、OX−1949、OX−020T(以上、アルコール型ワックス)、WEISSENシリーズ(重付加型ワックス)、JPシリーズ(ペトロラタムワックス)〔以上、日本精蝋社製〕;、ネオワックスシリーズ(以上、酸化ポリエチレンワックス)〔以上、ヤスハラケミカル社製〕;、NIKKOL Trifat P−52、NIKKOLホホバワックス(以上、植物由来ワックス)、NIKKOL 脱臭セタノール50、NIKKOLベヘニルアルコール65、Performacid 350 Acid、Performacolシリーズ(以上、高級アルコール系ワックス)〔以上、日光ケミカルズ社製〕;、ユニシッドシリーズ(カルボン酸型ワックス)、セラマーシリーズ(無水マレイン酸誘導体)〔以上、東洋ペトロライト社製〕などの少なくとも1種(各単独又は2種以上)を用いることができる。
【0011】
これらの酸化ワックスの含有量は、複合粒子全量に対して、好ましくは、0.5〜80重量%(以下、単に「%」という)、更に好ましくは、2〜40%とすることが望ましい。
この酸化ワックスの含有量が0.5%未満であると、分散媒のぬれが不十分となり、一方、80%を超えると、隠蔽性が低下したり、比重が大きくなったりして好ましくない。
【0012】
また、本発明において酸化ワックスと併用する場合のポリオレフィンは、真密度が1g/cm未満であれば、特に限定されるものではないが、隠蔽性複合粒子が気候条件により融解するのを避けるために、融点が50℃以上であるものが望ましい。
具体的には、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、合成ワックスFTシリーズ(真密度0.90〜0.94g/cm)〔以上、日本精蝋社製〕、ネオワックスL、LS、LSCL、ACL(真密度0.91〜0.98g/cm)(以上、ポリエチレンワックス)〔以上、ヤスハラケミカル社製〕、低密度ポリエチレン(モアテック0218、真密度0.916g/cm)、高密度ポリエチレン(HD110J、真密度0.962g/cm)〔以上、出光石油化学社製〕、低密度ポリプロピレン(J707G、真密度0.910g/cm)、高密度ポリプロピレン(J105G、真密度0.910g/cm)〔以上、三井化学社製〕などの少なくとも1種(各単独又は2種以上)を用いることができる。
この真密度が1.0g/cm以上のポリオレフィンでは、複合粒子としたときの比重が大きくなり、沈降しやすくなり、好ましくない。
これらの真密度が1.0g/cm未満のポリオレフィンを併用する場合の含有量は、複合粒子全量に対して、好ましくは、10〜90%、更に好ましくは、20〜80%とすることが望ましい。
【0013】
本発明において、更に隠蔽性を向上させる点から、隠蔽性顔料を複合粒子に含有せしめることが望ましい。
用いることができる隠蔽性顔料としては、隠蔽性及び白色性を発揮せしめる粒子であれば特に限定されるものでないが、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛の中から選ばれる少なくとも1種または2種が挙げられる。これらの粒子は、粒子表面が親油性表面処理されている隠蔽性顔料であってよいものである。
また、酸化ワックスに内包できるという点から、用いる隠蔽性顔料は、平均粒径が0.05〜20μmの使用が好ましく、特に好ましくは、平均粒径が0.1〜10μmの使用が望ましい。
【0014】
具体的に用いることができる隠蔽性顔料として、酸化チタンとしてはルチル型、アナターゼ型等の酸化チタンが使用でき、例えば、KR−380(チタン工業社製、平均粒径0.5μm、親油性処理TiO)、ITT−2 CR−50(日光ケミカルズ社製、平均粒径0.3μm、有機チタネート処理TiO)、ITT−7 TTO−S−3(日光ケミカルズ社製、平均粒径0.05μm、有機チタネート処理)などが挙げられる。
酸化亜鉛としては、例えばNANOFINE P−2(堺化学工業社製、平均粒径0.05μm)が挙げられる。
これらの隠蔽性顔料の形状は、特に限定されず、例えば、球状、楕円状、針状などが挙げられる。
これらの隠蔽性顔料の含有量は、複合粒子全量に対して、好ましくは、1〜50%、更に好ましくは、2〜40%とすることが望ましい。
【0015】
また、本発明において、隠蔽性複合粒子中には、染料、顔料の着色性を有する色材を含有せしめてもよいものである。用いることができる顔料としては、例えば、アゾ系顔料、縮合ポリアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、金属錯塩顔料、チオインジゴ顔料、染料レーキ顔料、蛍光顔料等の有機顔料及びカーボンブラック、酸化チタン等の無機顔料が挙げられ、更に、表面を樹脂コーティングで加工した加工顔料、例えば、マイクロリスAタイプ各種、ASブラック、ASブルー、IKレッド等の少なくとも1種が挙げられ、また、染料としては、例えば、油溶性染料、スピリットソルブル染料等のソルベント染料、ロイコ染料などの少なくとも1種を挙げることができる。
これらの色材の含有量は、複合粒子粒子全量に対して、好ましくは、0〜30%、更に好ましくは、0〜20%とすることが望ましい。
これらの色材を含有せした隠蔽性複合粒子を筆記具用インキに用いると、更に、被筆記体の色相を隠蔽し良好に発色するマーキング性能を有した筆記具用インキ組成物を提供することができるものとなる。
【0016】
本発明の隠蔽性複合粒子は、酸化ワックス、または、酸化ワックスと真密度が1.0g/cm未満のポリオレフィン及び/又は隠蔽性顔料、必要に応じて好ましくは含有することができる上記色材をケミカル粉砕法などを用いて、微粒子状に調製することにより、酸化チタン粒子より比重が小さく、また、分散媒のぬれ性がパラフィンよりも良好な酸化ワックス中に真密度が1.0g/cm未満のポリオレフィン及び/又は隠蔽性顔料などの隠蔽性粒子が分散されているものが得られるものとなる。
ケミカル粉砕法は、湿式プロセスによる粉砕法であり、酸化ワックスと、真密度が1.0g/cm未満のポリオレフィン及び/又は隠蔽性顔料等とをキシレンやトルエン又はジクロロメタン等の溶媒に溶解または分散させた後、該ポリオレフィンの溶解度変化(温度、圧力変化や溶媒の添加等の操作を伴なう)を利用した後、脱溶媒し複合粒子を形成させ、更に必要に応じて解砕、分級処理して目的の複合粒子を作製する方法である。
【0017】
上記酸化ワックスと、真密度が1.0g/cm未満のポリオレフィン及び/又は隠蔽性顔料との使用量は、上記各範囲に設定されることが好ましいものであると共に、その配合比としては、好ましくは、重量比で、10:90〜90:10、更に好ましくは、20:80〜80:20とすることが望ましい。
この配合比が10:90未満であると、複合粒子の比重が大きくなって沈降しやすくなり、一方、90:10を超えると、複合粒子の比重が小さくなって、浮遊しやすくなり、また、隠蔽性が低下して、好ましくない。
【0018】
本発明において、隠蔽性複合粒子の平均粒径は、隠蔽性や筆記具用インキとして用いる場合の流出性の点から、好ましくは、1〜200μm、更に好ましくは、10〜100μmとすることが望ましい。
この複合粒子の平均粒径が1μm未満であると、内包できる隠蔽性粒子が少なくなり、結果として複合粒子としての隠蔽性が低下し、また、この平均粒径が200μmを超えると、粒子間の隙間が大きくなり、結果として隠蔽性が低下し、好ましくない。
なお、上記好適な範囲となる複合粒子の平均粒径は、分砕、分級等を調整することにより容易に得ることができる。
【0019】
このように構成される本発明の隠蔽性複合粒子は、酸化チタンよりも比重が小さいので、経時安定性に優れると共に、隠蔽性が高いものとなるので、隠蔽性材料として酸化チタンの代替えとして好適に使用することができ、特に、筆記具用インキ組成物、修正液に好適に用いることができる。
【0020】
本発明の筆記具用インキ組成物は、上記隠蔽性複合粒子を含有するものであり、当該必須成分の他、インキ種(水性、油性、ゲルインキ)により、各種の筆記具用インキの各成分を含有することができるものである。
この隠蔽性複合粒子の含有量は、インキ種(水性、油性、ゲルインキ)、用途(ボールペン用、サインペン用等)により変動するものであるが、筆記具用インキ組成物全量に対して、1〜50%含有せしめることが好ましく、更に好ましくは、5〜30%とすることが望ましい。
この隠蔽性複合粒子の含有量が1%未満であると、所定の白色度や隠蔽性が得られず、一方、50%を超えて含有されると、インキ組成物の経時的な安定性が低下し、凝集及び沈降が起こることがあり、好ましくない。
【0021】
本発明の筆記具用インキ組成物では、好ましくは、上記隠蔽性複合粒子の分散性を向上させて本発明の効果を更に発揮せしめる点から、分散剤、粘性調整剤を更に含有せしめることが望ましい。
用いることができる分散剤としては、高級脂肪酸、水溶性高分子、界面活性剤や高分子界面活性剤、例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性系界面活性剤、高分子型界面活性剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらの分散剤の含有量としては、用いる複合粒子や溶媒種によって適宜決定されるが、分散安定性やインキ粘度の点から、インキ組成物全量に対して、好ましくは、0.1〜30%、更に好ましくは、0.5〜20%とすることが望ましい。
【0022】
また、本発明の筆記具用インキ組成物には、粘性調整剤を含有することができる。
用いることができる粘性調整剤は、水に分散又は溶解して使用するものであり、例えば、スメクタイト、変性スメクタイト、ヒドロキシエチルセルロースや、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどの少なくとも1種が挙げられる。
具体的に用いることができる粘性調整剤としては、ルーセンタイトSWN(合成スメクタイト、コープケミカル社製)、ゴーセノール GL−05(日本合成化学工業社製、ポリビニルアルコール)、ゼオラスクリーム(旭化成社製、結晶セルロース分散品)などが挙げられる。
これらの粘性調整剤の含有量は、沈降防止、インキ粘度の点から、インキ組成物全量に対して、好ましくは、0.1〜10%、更に好ましくは、0.1〜5%とすることが望ましい。
【0023】
本発明の筆記具用インキ組成物は、上記隠蔽性複合粒子、分散剤、粘性調整剤の他、インキ種(水性、油性、ゲルインキ)により、好適な溶媒、例えば、水性では、水を含む水溶性溶剤、油性では有機溶剤を含有せしめることができ、更にインキ種により顔料、水溶性染料、油溶性染料等を含有せしめることができ、更にまた、本発明の効果を損なわない範囲で、任意成分(添加剤)、例えば、アニオン系、ノニオン系、カチオン系などの界面活性剤、乾燥防止剤、防錆剤、防黴剤、沈降抑制剤、染料や顔料等の色材などを適宜必要に応じて含有することができる。
【0024】
本発明の筆記具用インキ組成物は、上記特性の隠蔽誠意複合粒子、分散剤、粘性調整剤、各インキ成分(溶剤、樹脂、色材、添加剤)等を用いて従来公知の筆記具用インキ組成物の製造方法を適用して製造することができる。すなわち、隠蔽性複合粒子、分散剤、粘性調整剤、色材、樹脂、溶剤、添加剤を分散混合機、撹拌機を用いて、混合することによって目的の筆記具用の水性インキ、油性インキ、ゲルインキ組成物等を得ることができる。
なお、製造時、有機顔料などの粗大粒子を除去するためにフィルター、遠心分離機等を用いることなど必要に応じて使用できる。
【0025】
本発明の筆記具用インキ組成物の粘度は、好ましくは、流出量やインキ安定性の点から、ELD粘度計における25℃、50rpmの粘度が、3〜50mPa・s、更に好ましくは、3〜30mPa・sとすることが望ましい。
この粘度が50mPa・sを越えて粘度が高くなると、筆感が重くなり、滑らかに書きづらくなり、逆に、3mPa・s未満であると、著しいペン先での顔料沈降、滲み等があり、好ましくない。
【0026】
本発明において、筆記具用インキ組成物は、ボールペン用、サインペン用、筆ペン用の水性インキ、油性インキ、ゲルインキ等に好適に用いることができるものであり、本発明の筆記具用インキ組成物を充填する筆記具の構造としては、上記筆記具用インキ組成物が充填され本発明の効果が発揮できるように筆記できるものであれば、その構造は特に限定されるものではない。
好ましくは、低粘度であり、隠蔽性を有する複合粒子を長期間安定に分散せしめるインキという点から、本発明の筆記具用インキ組成物を吸蔵するインキ吸蔵体を収容した中綿式筆記具用のサインペン用インキとして好適に用いることができる。
【0027】
このように構成される本発明の筆記具用インキ組成物が、何故これまでの発明と比較して優れているという理由としては、以下のように推察される。
従来、酸化チタン顔料を使用した筆記具用インキ組成物は、その比重の大きさのため、インキ組成物中に長期的安定に分散させることができなかった。これに対して、本発明の隠蔽性複合粒子は、比重が小さく、隠蔽性、白色性に優れ、しかも、水性筆記具用インキに含有せしめた場合には、酸化ワックスを含有しているので、分散媒とのぬれ性が良好であり、長期に安定で沈降しない白色性、隠蔽性が高く鮮明な筆跡を長期に亘り維持することができる筆記具用インキ組成物を提供することができるものとなる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0029】
〔実施例1〜5及び比較例1〜4〕
下記表1に示す各配合組成(隠蔽性複合粒子、隠蔽性顔料、分散剤、粘性調整剤、溶媒)をガラスビーズを用いてペイントシェーカーで60分間分散し、筆記具用インキ組成物を調製した。
用いた隠蔽性複合粒子1〜4、隠蔽性顔料1〜2、分散剤1〜2、粘性調整剤1〜2は、下記の材料を用いた。
【0030】
隠蔽性複合粒子1:
NPS−9125(アルコール型ワックス、融点63℃、日本精蝋社製)、低密度ポリプロピレン(真比重0.91g/cm、融点170℃、三井化学社製)〔重量比50:50〕の複合粒子、平均粒径11μm
隠蔽性複合粒子2:
NPS−9125(アルコール型ワックス、融点63℃、日本精蝋社製)、ITT−2 CR−50(有機チタネート処理酸化チタン、日光ケミカルズ社製)〔重量比70:30〕の複合粒子、平均粒径13μm
隠蔽性複合粒子3:
NPS−9125(アルコール型ワックス、融点63℃、日本精蝋社製)、低密度ポリプロピレン(真比重0.91g/cm、融点170℃、三井化学社製)、ITT−2 CR−50(有機チタネート処理酸化チタン、日光ケミカルズ社製)〔重量比40:30:30〕の複合粒子、平均粒径11μm
隠蔽性複合粒子4:
ユニシッド550(カルボン酸型ワックス、融点101℃、東洋ペトロライト社製)、低密度ポリプロピレン(真比重0.91g/cm、融点170℃、三井化学社製)、ITT−2 CR−50(有機チタネート処理酸化チタン、日光ケミカルズ社製)〔重量比40:30:30〕の複合粒子、平均粒径13μm
【0031】
上記隠蔽性複合粒子1〜4は、上記各構成の酸化ワックス、真密度のポリオレフィンと隠蔽性顔料をキシレンに溶解または分散させた後、該ポリオレフィンの溶解度変化、温度、圧力変化や溶媒の添加等の操作を伴なう方法等を利用して、脱溶媒、解砕、分級して各複合粒子を作製した。
【0032】
隠蔽性顔料1:
平均粒径0.3μmの酸化チタン(ITT−2 CR−50、日光ケミカルズ社製、有機チタネート処理)
隠蔽性顔料2:
平均粒径0.05μmの酸化チタン(ITT−7 TTO−S−3、日光ケミカルズ社製、有機チタネート処理)
分散剤1:不均化ロジン酸エステル(バンディス G−25K、ハリマ化成社製)
分散剤2:ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム
(エレミノール ES−12、三洋化成工業社製)
粘性調整剤1:結晶セルロース分散品(ゼオラスクリーム、旭化成社製)
粘性調整剤2:合成スメクタイト(ルーセンタイトSWN、コープケミカル社製)
【0033】
得られた各筆記具用インキ組成物の粘度、沈降性、隠蔽性、経時保存後の隠蔽性、筆記性を下記評価方法で評価した。
これらの結果を下記表1に示す。
【0034】
(粘度の測定方法)
得られた各実施例及び比較例の水性インキ組成物の25℃条件下におけるELD型粘度計〔TV−20(トキメック社製)〕で50rpmの粘度を測定した。
【0035】
(沈降性の評価方法)
得られた各実施例及び比較例の筆記具用インキ組成物を、直径2cm、長さ20cmの沈降管に充填し、室温(25℃)下で1ヶ月放置し、沈降性を目視で下記の評価基準で評価した。
評価基準
○:分離、凝集はなく、沈降は認められない。
△:上層部に若干の濃淡の変化が認められる。
×:分離又は凝集があり、沈降が明確に認められる。
【0036】
(隠蔽性の評価方法)
得られた各インキを黒画用紙に100μmのバーコーターで塗布し、白色度を目視で下記の評価基準で評価した。
評価基準:
○:白色である。
△:やや黒味を帯びた白色である。
×:隠蔽が弱く黒味を強く感じる。
【0037】
(経時保存後の隠蔽性の評価方法)
得られた各インキ組成物を三菱鉛筆社製PWB−7M(中綿式タイプマーキングペン)軸に6g充填し、ペン先を上向きの状態で25℃下で1ヵ月保存した後の黒画用紙への筆記描線の隠蔽性を目視で下記の評価基準で評価した。
評価基準:
○:白色である。
△:やや黒味を帯びた白色である。
×:隠蔽が弱く黒味を強く感じる。
【0038】
(筆記性の評価方法)
得られた各インキ組成物を三菱鉛筆社製PWB−7M(中綿式タイプマーキングペン)軸に6g充填し、下記評価基準で筆記性を評価した。
評価基準:
○:良好に筆記できる。
△:ややカスレを感じる。
×:筆記できない、あるいは、著しくカスレを感じる。
【0039】
【表1】

【0040】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の範囲となる実施例1〜5は、本発明の範囲外となる比較例1〜4に比べて、沈降もなく、筆記性、隠蔽性に優れ、加えて経時安定性にも優れたものであることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ワックス、または、酸化ワックスと真密度が1.0g/cm未満のポリオレフィンの混合物を少なくとも含有することを特徴とする隠蔽性複合粒子。
【請求項2】
隠蔽性複合粒子には、更に、隠蔽性顔料が含有されている請求項1に記載の隠蔽性複合粒子。
【請求項3】
酸化ワックスは、分子内に、ウレタン基、水酸基、カルボン酸、カルボン酸塩基、エステル基、炭素間の不飽和結合、アミノ基、アミド基、ニトロ基、エーテル結合、ハロゲン基、エポキシ基、酸無水物基の少なくとも1種の官能基を有する酸化ワックスから選ばれる請求項1又は2に記載の隠蔽性複合粒子。
【請求項4】
ポリオレフィンが、パラフィンロウ、ポリエチレン、ポリプロピレンの中から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3の何れか一つに記載の隠蔽性複合粒子。
【請求項5】
隠蔽性顔料が酸化チタン、酸化亜鉛の中から選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の隠蔽性複合粒子。
【請求項6】
隠蔽性複合粒子には、染料、顔料の着色性を有する色材の中から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1〜5の何れか一つに記載の隠蔽性複合粒子。
【請求項7】
隠蔽性複合粒子の粒径が1〜200μmである請求項1〜6の何れか一つに記載の隠蔽性複合粒子。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一つに記載の隠蔽性複合粒子を含有してなることを特徴とする筆記具用インキ組成物。
【請求項9】
ELD粘度計における25℃、50rpmの筆記具用インキ組成物の粘度が、3〜50mPa・sである請求項8に記載の筆記具用インキ組成物。
【請求項10】
筆記具用インキ組成物がサインペン用インキ組成物である請求項8又は9に記載の筆記具用インキ組成物。

【公開番号】特開2006−96943(P2006−96943A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287225(P2004−287225)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】