説明

雄ねじの保持方法、端子ねじ付き金具、端子台装置、端子ねじ付き金具の製造方法、および端子ねじ付き金具の製造装置

【課題】比較的小さな加工力で端子ねじ等の雄ねじを金具の貫通孔から落脱しないように保持させることが可能な雄ねじの保持技術を提供する。
【解決手段】雄ねじである端子ねじ11を回転自在に保持する保持金具12には、円柱状の貫通孔12hが設けられるとともに、貫通孔12hの開口Kdの縁に沿って円環状にV字状の溝Gbが形成されている。このような保持金具12では、端子ねじ11のエンドリング114が貫通孔12hの内部を通って開口Kdから出るように端子ねじ11を貫通孔12hに挿入した後に、カシメパンチ20の尖端20aを溝Gbに差し込むことにより、溝Gbと貫通孔12hとに挟まれた部分12jを開口Kdの中央部に向かう方向Ftに傾ける加工を施す。これにより、エンドリング114が開口Kdを通過できなくなるため、比較的小さな加工力で端子ねじ11を貫通孔12hから落脱しないように保持させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子ねじ等の雄ねじを金具に設けられた貫通孔に保持する保持技術に関する。
【背景技術】
【0002】
端子台等においては、例えばL字状の形状を有した保持金具に端子ねじ(雄ねじ)が回転自在に保持された端子ねじ付き金具が使用されている。
【0003】
このような端子ねじ付き金具において保持金具の貫通孔に挿入された端子ねじを抜け落ちないように保持させるには、例えば図18に示すように貫通孔9h周辺の4箇所91〜94を金具表面に対して垂直方向にプレスし、貫通孔9h内に4つの突起部P1〜P4を形成させるカシメ加工により、端子ねじの落脱を防ぐ方法がある(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−255883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のカシメ加工においては、先端がフラットなカシメ工具で金具表面をプレスし、このプレス方向と垂直方向に金具を押し出すことにより突起部P1〜P4を形成するため、突起部P1〜P4の形成にとってプレスによる押圧力が直接作用する訳ではなく効率が悪い。このため、突起部P1〜P4において必要な突出量を確保するには、油圧や空気圧による比較的大きな押圧力(加工力)が必要となる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、比較的小さな加工力で端子ねじ等の雄ねじを金具の貫通孔から落脱しないように保持させることが可能な雄ねじの保持技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、ねじ首からねじ先端までの区間において前記ねじ首の径より大きい特定の部位を有する雄ねじを、金具に設けられた貫通孔に保持する方法であって、(a)前記金具において前記貫通孔に係る一方の開口の縁近傍に所定の溝を形成する溝形成工程と、(b)前記特定の部位が前記貫通孔内を通って前記一方の開口から出るように、前記雄ねじを前記貫通孔に挿入する挿入工程と、(c)前記挿入工程による雄ねじの挿入後に、前記所定の溝と前記貫通孔とに挟まれた金具の部分を前記一方の開口の中央部に向かう方向に傾ける加工を施す加工工程とを備え、前記加工工程による加工により、前記特定の部位が前記一方の開口を通過できなくなる。
【0008】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る雄ねじの保持方法において、前記所定の溝は、前記一方の開口の縁に沿って形成される円環状の溝である。
【0009】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明に係る雄ねじの保持方法において、前記特定の部位は、前記ねじ首とねじ山との間に設けられたエンドリングである。
【0010】
また、請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明に係る雄ねじの保持方法において、前記所定の溝は、前記貫通孔の中心軸を含んだ平面に係る断面の形状が三角形である。
【0011】
また、請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかの発明に係る雄ねじの保持方法において、前記加工工程は、(c-1)前記所定の溝に工具の尖端を差し込み前記所定の溝を前記貫通孔側に押し拡げることにより、前記加工を施す工程を有する。
【0012】
また、請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかの発明に係る雄ねじの保持方法において、前記金具は、前記貫通孔が形成された板状の部位と、前記板状の部位から前記貫通孔の中心軸に沿って伸びる部位とを有している。
【0013】
また、請求項7の発明は、ねじ首からねじ先端までの区間において前記ねじ首の径より大きい特定の部位を有する端子ねじが付いた金具であって、前記端子ねじのねじ首が挿通された貫通孔を有し、前記貫通孔に係る前記ねじ先端側の開口の縁近傍に所定の溝が形成されているとともに、当該所定の溝近傍における前記貫通孔の内壁面は、前記ねじ先端側の開口の中央部に向かう方向に傾いた形状を有しており、前記傾いた形状により、前記特定の部位が前記ねじ先端側の開口を通過できない。
【0014】
また、請求項8の発明は、請求項7の発明に係る端子ねじ付き金具を備えた端子台装置。
【0015】
また、請求項9の発明は、ねじ首からねじ先端までの区間において前記ねじ首の径より大きい特定の部位を有する端子ねじが付いた金具を製造する方法であって、(a)前記端子ねじを保持するための貫通孔に係る一方の開口の縁近傍に所定の溝が形成された金具を準備する準備工程と、(b)前記特定の部位が前記貫通孔内を通って前記一方の開口から出るように、前記端子ねじを前記貫通孔に挿入する挿入工程と、(c)前記挿入工程による端子ねじの挿入後に、前記所定の溝と前記貫通孔とに挟まれた金具の部分を前記一方の開口の中央部に向かう方向に傾ける加工を施す加工工程とを備え、前記加工工程による加工により、前記特定の部位が前記一方の開口を通過できなくなる。
【0016】
また、請求項10の発明は、ねじ首からねじ先端までの区間において前記ねじ首の径より大きい特定の部位を有する端子ねじが付いた金具を製造する装置であって、(a)前記特定の部位が前記金具に設けられた貫通孔の内部を通って前記一方の開口から出るように、前記端子ねじを前記貫通孔に挿入する挿入手段と、(b)前記挿入手段による端子ねじの挿入後に、前記貫通孔に係るねじ先端側の開口の縁近傍に形成された所定の溝と前記貫通孔とに挟まれた金具の部分を前記ねじ先端側の開口の中央部に向かう方向に傾ける加工を施す加工手段とを備え、前記加工手段による加工により、前記特定の部位が前記一方の開口を通過できなくなる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1から請求項6、請求項9および請求項10の発明によれば、ねじ首からねじ先端までの区間においてねじ首の径より大きい特定の部位を有する端子ねじ等の雄ねじを保持するための貫通孔が設けられるとともに、貫通孔に係る一方の開口の縁近傍に所定の溝が形成された金具に対して、特定の部位が貫通孔内を通って一方の開口から出るように雄ねじを貫通孔に挿入した後に、所定の溝と貫通孔とに挟まれた金具の部分を一方の開口の中央部に向かう方向に傾ける加工を施す。これにより、雄ねじにおける特定の部位が一方の開口を通過できなくなる。その結果、比較的小さな加工力で端子ねじ等の雄ねじを金具の貫通孔から落脱しないように保持させることができる。
【0018】
特に、請求項2の発明においては、所定の溝は、一方の開口の縁に沿って形成される円環状の溝であるため、雄ねじの落脱を効果的に防止できる。
【0019】
また、請求項3の発明においては、特定の部位は、ねじ首とねじ山との間に設けられたエンドリングであるため、雄ねじの落脱を効果的に防止できる。
【0020】
また、請求項4の発明においては、所定の溝は、貫通孔の中心軸を含んだ平面に係る断面の形状が三角形であるため、例えば工具の尖端等を溝に差し込むだけで、雄ねじを保持するための加工が容易に施せる。
【0021】
また、請求項5の発明においては、所定の溝に工具の尖端を差し込み所定の溝を貫通孔側に押し拡げるため、雄ねじを保持するための加工を簡易に行える。
【0022】
また、請求項6の発明においては、金具が、貫通孔が形成された板状の部位と板状の部位から貫通孔の中心軸に沿って伸びる部位とを有していても、比較的小さな加工力で雄ねじを金具の貫通孔から落脱しないように適切に保持できる。
【0023】
また、請求項7および請求項8の発明によれば、端子ねじ付きの金具は、端子ねじのねじ首が挿通された貫通孔を有し、貫通孔に係るねじ先端側の開口の縁近傍に所定の溝が形成されているとともに、当該所定の溝近傍における貫通孔の内壁面が、ねじ先端側の開口の中央部に向かう方向に傾いた形状を有しており、この傾いた形状により、ねじ首からねじ先端までの区間においてねじ首の径より大きい特定の部位がねじ先端側の開口を通過できない。上記の形状は、予め上記開口の縁近傍に設けられた溝を、貫通孔への雄ねじの挿入後に例えば工具の尖端を差し込んで貫通孔側に押し拡げる加工によって形成されるものであるため、比較的小さい加工力で端子ねじ等の雄ねじを金具の貫通孔から落脱しないように保持させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
<端子台の構成>
図1は、本発明の実施形態に係る端子台1の要部構成を示す斜視図である。また、図2は、端子台1の要部構成を示す正面図である。
【0025】
端子台1は、例えばプラスチックで成形された本体部10と、2つの端子ねじ付き金具SCと、導電性を有する金属製の接続導体13と、端子ねじ付き金具SCの下端部に接続して端子ねじ付き金具SCを上方向(+Y方向)に付勢するコイルバネ14とを備えている。このような構成の端子台1が多数整列することによって図3に示すような中継端子台100が構成されることとなる。
【0026】
2つの端子ねじ付き金具SC(SCL、SCR)は、それぞれ雄ねじである端子ねじ11と、端子ねじ11を回転自在に保持する保持金具12(12R、12L)とを備えている。なお、端子ねじ付き金具SCの構成については、後で詳述する。
【0027】
保持金具12(12L、12R)は、金属製の角座金として構成されており、本体部10の背壁10aの壁面と平行な断面についてL字状の形状を持つ断面を有している(図2参照)。
【0028】
接続導体(導体部)13には、Y軸方向に沿ってねじが切られ各端子ねじ11と螺合可能な2つのねじ孔13hが形成されており、ねじ孔13hの入口INには面取りが施されている。この接続導体13の各ねじ孔13hにおいて丸形圧着端子等を端子ねじ11で締付けるようにすれば、圧着端子(に接続するケーブル)間の電気的な接続がなされることとなる。
【0029】
以下では、端子ねじ付き金具SCの構成について詳しく説明する。
【0030】
<端子ねじ付き金具SCの構成>
図4は、端子ねじ付き金具SCの構成を示す図であり、図2の端子ねじ付き金具SCRに対応している。
【0031】
端子ねじ付き金具SCは、上述のように端子ねじ11が保持金具12に回転自在に保持されるようになっているが、以下では端子ねじ11の構成と保持金具12の構成とを順に説明する。
【0032】
図5は、端子ねじ11の構成を示す図である。
【0033】
端子ねじ11は、ドライバが差し込まれる凹部を有するねじ頭111と、複数のねじ山が形成されているねじ山部112と、ねじ頭111の下端に接続するねじ首113とを備えるとともに、ねじ首113とねじ山部112との間にはエンドリング114が設けられている。また、ねじ首113には、ばね座金119が取り付けられている。
【0034】
図6および図7は、保持金具12の構成を示す図である。ここで、図6は、図4に示す保持金具12を(+X)方向に見た側面図であり、図7は、図4に示す保持金具12を(+Y)方向に見た下面図である。
【0035】
保持金具12は、端子ねじ11を保持する円形の貫通孔12hが中央付近に形成された板状の上板部12aと、上板部12aの端部から図4に示すように貫通孔12hの中心軸Acに沿って垂直下方(−Y方向)に伸びる脚部12bとを備えており、L字状の形状を有している。この保持金具12の脚部12bの下端部には、図6に示すようにコイルバネ14(図2参照)の上端を保持するための凹部Qa、Qbが形成されている。
【0036】
以上のような端子ねじ11と保持金具12とを備えた端子ねじ付き金具SC(図4)において、保持金具12の貫通孔12hから端子ねじ11が落脱しないように保持する方法を以下で説明する。
【0037】
<端子ねじ付き金具SCにおける端子ねじ11の落脱防止>
図8は、図4のVIII−VIII位置から見た部分断面図である。また、図9は、図5中の破線部Ca付近を拡大した図である。
【0038】
端子ねじ11のエンドリング114は、その幅方向(図10に示す貫通孔12hの中心軸Acの方向)において中央が隆起した山型の形状を有しており、この山の頂点において最大の外径Deとなっている(図9)。なお、本実施形態においては、エンドリング114における最大の外径(最大径)Deが、ねじ山部112における最大の外径(最大径)Dsより小さいものとする。
【0039】
端子ねじ11のねじ首113は、円柱状の形状を有しており、その直径Dnは、エンドリング114における最大径Deより小さくなっている。換言すれば、端子ねじ11は、ねじ首113からねじ先端までの区間においてねじ首113の径より大きいエンドリング(特定の部位)114を有している。
【0040】
また、保持金具12の上板部12aに設けられた貫通孔12hに関する一方の下側の開口Kdの縁近傍には、図7のように開口Kdの縁Kdeに沿って円環状(リング状)の溝Ga(平行斜線部)が形成されており、その断面は図9に示すようにV字状の形状となっている。そして、この溝Gaと貫通孔12hとに挟まれ、後述のカシメ加工により変形された変形部12t(図9中の破線内の部分)が貫通孔12hに迫り出している。
【0041】
すなわち、ねじ首113が挿通された貫通孔12hに関するねじ先端側の開口Kdの縁付近に形成された溝Ga近傍における貫通孔12hの内壁面は、開口Kdの中央部に向かう方向に傾いた形状12hf(図9)を有している。
【0042】
変形部12tにおいて貫通孔12h側に最も突出している箇所、つまり貫通孔12hの下端では、貫通孔12hの径が最も狭くなっている。そして、この貫通孔12hの下端における最小径Dtは、ねじ首113の直径Dnより大きく、かつエンドリング114の最大径Deより小さい。このような変形部12tが貫通孔12hの全周にわたって形成されることにより、エンドリング114が貫通孔12の変形部12tを通過できなくなるため、端子ねじ11を保持金具12の貫通孔12hから落脱しないように保持できることとなる。
【0043】
上記の変形部12tは、貫通孔12hに端子ねじ11が挿入されてからカシメ加工によって形成されるが、そのカシメ加工について以下で説明する。
【0044】
図10は、図8に対応しており、端子ねじ11が貫通孔12hに挿入された直後の様子を示す部分断面図である。また、図11は、図10中の破線部Cb付近を拡大した図である。
【0045】
端子ねじ11が貫通孔12hに嵌挿された直後でカシメ加工前の保持金具(以下では「カシメ加工前の保持金具」ともいう)12では、上板部12aの下面における貫通孔12hの開口Kd周辺に、図12のように円環状の溝Gb(平行斜線部)が形成されており、その断面は図11のように頂角60°(=30°+30°)を有する正三角形の断面となっている。すなわち、貫通孔12hの中心軸Ac(図10)を含んだ平面に関する溝Gbの断面形状は、三角形となっている。
【0046】
また、カシメ加工前の保持金具12では、ねじ山部112の最大径Ds(図8参照)より大きい直径Dhを有する円柱状の貫通孔12hが形成されている。
【0047】
以上のようなカシメ加工前の保持金具12に対しては、カシメ工具であるカシメパンチ20の尖端20a(図11)を貫通孔12hの中心軸Acに平行な方向Hdに移動させてV字状の溝Gbに押し込むカシメ加工を施すことにより、溝Gbと貫通孔12hとに挟まれた部分12jが下側の開口Kdの中央部に向かう方向(剪断方向)Ftに傾くように変形し、図9に示すようにカシメパンチ20の尖端20aで押し拡げられた溝Gaの断面形状となって変形部12tが形成される。このカシメパンチ20の尖端20aの角度は、例えば80°(カシメパンチ20の尖端20aが移動する方向Hdに関して端子ねじ11に近づく方向に50°と端子ねじ11から離れる方向に30°)となっている。このようにカシメパンチ20がカシメ加工前の溝Gbの開口角度60°より大きい角度となる尖端20aを有しているため、溝Gbを貫通孔12h側に容易に押し拡げることが可能となる。
【0048】
このようなカシメ加工により、端子ねじ11が貫通孔12hから落脱せずに保持金具12で保持できることとなる。
【0049】
次に、上述したカシメ加工を行って端子ねじ付き金具SCを製造する製造装置を説明する。
【0050】
<端子ねじ付き金具SCの製造装置>
図13は、端子ねじ付き金具SCを製造する製造装置2の外観構成を示す図である。
【0051】
製造装置2は、2つのパーツフィーダ21と、ねじ挿入ユニット22と、プレスユニット23と、移送ユニット24とを備えている。
【0052】
2つのパーツフィーダー21は、カシメ加工前の保持金具12を製造装置2に供給するための金具用パーツフィーダー211と、端子ねじ11を製造装置2に供給するためのねじ用パーツフィーダー212からなっている。金具用パーツフィーダ211は、その先端に設けられた開口部(エスケープ部)211aに保持金具12を1個ずつ矢印Faに沿って送ることが可能である。同様に、ねじ用パーツフィーダ212も、その先端に設けられた開口部(エスケープ部)212aに端子ねじ11を1個ずつ矢印Fbに沿って送ることが可能である。
【0053】
ねじ挿入ユニット22は、チャック部221と、チャック部221を前後方向および上下方向に移動させる移動機構部222とを備えている。このようなねじ挿入ユニット22により、端子ねじ11を保持金具12の貫通孔12hに挿入することが可能となる。
【0054】
プレスユニット23は、図11に示す断面形状の尖端20aが図14の平行斜線部のように円環状に形成されたカシメパンチ20を有している。このようなプレスユニット23において例えば油圧や空気圧によりカシメパンチ20を上述した溝Gb(図12)に差し込むプレス動作を行うことで、貫通孔12hの全周にわたって形成された円環状の溝Gbを貫通孔12h側に押し拡げるカシメ加工(全周カシメ)が可能となる。なお、プレスユニット23は、図14に示すカシメパンチ20を1つ有しており、1回のプレス動作で1個のカシメ加工を行える。
【0055】
移送ユニット24は、その上端にチャック部241が設けられている。このチャック部241では保持金具12等を把持することが可能で、把持された保持金具12等を矢印Fcの方向に移送できる。
【0056】
以上で説明した製造装置2の各部は、製造装置2に設けられた制御部(不図示)によって統括的に制御される。これにより、パーツフィーダ21に端子ねじ11およびカシメ加工前の保持金具12を供給すれば、製造装置2で自動的に端子ねじ付き金具SCの製造が行える。
【0057】
次に、製造装置2の具体的な動作を説明する。
【0058】
<製造装置2の動作>
図15は、製造装置2の基本的な動作を示すフローチャートである。なお、以下で説明する製造装置2の動作を行う前には、カシメ加工前の保持金具12と端子ねじ11とが準備される。ここで、準備される保持金具12には、保持金具12自身を製造する過程でプレス加工等によって事前に図10に示す溝Gbが形成されている。
【0059】
まず、カシメ加工前の保持金具12と端子ねじ11(図5)とがパーツフィーダー21に供給されると、保持金具12と端子ねじ11とがエスケープ部211a、212aに移送される(ステップS1)。
【0060】
ステップS2では、エスケープ部211a、212aに送られた保持金具12と端子ねじ11とにおいて、エンドリング114が貫通孔12hの内部を通って下側の開口Kd(図7)から出るように端子ねじ11を保持金具12の貫通孔12hに挿入する。具体的には、まず、ねじ挿入ユニット22のチャック部221でエスケープ部211aの保持金具12を把持して移送ユニット24まで移動させ、そのチャック部241で保持金具12を把持させる。次に、ねじ挿入ユニット22のチャック部221でエスケープ部212aの端子ねじ11を把持して移送ユニット24まで移動させ、そのチャック部241で把持されている保持金具12の貫通孔12hに端子ねじ11を差し込む。
【0061】
ステップS3では、ステップS2で端子ねじ11が挿入された保持金具12に対して、プレスユニット23によりカシメ加工を行う。具体的には、端子ねじ11が挿入された保持金具12を移送ユニット24を用いてプレスユニット23に移送し、プレスユニット23に設けられたカシメパンチ20の尖端20aを図11のように保持金具12の溝Gbに差し込み溝Gbを貫通孔12h側に押し拡げて溝の開口領域を拡大させるプレス動作を実行する。これにより、溝Gbと貫通孔12hとに挟まれた保持金具12の部分12j(図11)を貫通孔12hの下側の開口Kdの中央部に向かう方向に傾ける加工が施されることとなる。その結果、図9に示す変形部12tが形成されるため、端子ねじ11のエンドリング114が貫通孔12hの下側の開口Kdを通過できなくなり、端子ねじ11を貫通孔12hから落脱しないように保持させることが可能となる。
【0062】
なお、ステップS3でカシメ加工されることにより製造された端子ねじ付き金具SCは、例えば移送ユニット24を用いて図13の矢印Fcの方向にプレスユニット23から排出される。
【0063】
以上のような動作を行う製造装置2では、端子ねじ11が挿入された保持金具12の溝Gbをカシメパンチ20によるプレス動作で貫通孔12h側に押し拡げることによりカシメ加工が行われるため、プレスによる押圧力が直接的にカシメ加工に反映される。その結果、比較的小さい力でカシメ加工を行えることとなり、プレス動作によって生じるばね座金119の変形も抑えられる。
【0064】
また、図18に示す4箇所91〜94でのカシメのように貫通孔の周囲における部分的なカシメ(部分カシメ)しか行えなかった従来のカシメ加工に対して、本実施形態のカシメ加工では比較的小さい加工力によるカシメが可能であるため、貫通孔12hの全周のカシメ(全周カシメ)が可能となる。この全周カシメにより、端子ねじ11の貫通孔12hからの落脱を効果的に防止できるとともに、貫通孔12hの中心軸Ac(図4)に対して端子ねじ11が傾くのを抑制できる。
【0065】
<変形例>
・上記の実施形態におけるカシメ加工前の保持金具については、図12に示すように貫通孔12hの全周において完全なリング状の溝Gbが設けられるのは必須でなく、図16(a)に示すように貫通孔12hの周囲において2つの円弧状のV溝Gc、Gd(平行斜線部)が設けられても良い。また、貫通孔12hの周囲における4箇所に溝G1〜G4(平行斜線部)が設けられるようにしても良い。このような図16(a)および図16(b)の溝Gc〜d、G1〜4によれば、全周カシメを行えないものの、カシメに必要な加工力を低減できる。
【0066】
・上記の実施形態におけるカシメ加工前の保持金具については、図11に示すような正三角形の断面を有した溝Gbが形成されるのは必須でなく、図17(a)に示す二等辺三角形の断面を有した溝Gpや、図17(b)に示す直角三角形の断面を有した溝Gq、図17(c)に示す台形状の断面を有した溝Grが形成されても良い。このような場合でも、溝の開口角度より大きい角度の尖端を有するカシメパンチにより溝Gp〜Grを貫通孔側に押し拡げることで、端子ねじを保持金具の貫通孔から落脱しないように保持させることが可能である。
【0067】
・上記の実施形態においては、プレスユニット23によってカシメ加工を行うのは必須でなく、人力によってカシメ加工を行うようにしても良い。従来のカシメ加工では比較的大きな加工力が必要であったため油圧や空気圧を利用した装置を使用しなければならなかったが、上述した本実施形態のカシメ加工においては、比較的小さな力でカシメ加工を行えるため手動によるカシメ加工が可能である。
【0068】
・本発明における端子ねじ等の雄ねじの保持方法については、端子台における端子ねじの保持に限らず、例えば押ボタンスイッチ等のスイッチや制御機器における端子ねじ等の雄ねじの保持に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態に係る端子台1の要部構成を示す斜視図である。
【図2】端子台1の要部構成を示す正面図である。
【図3】端子台1が多数整列した中継端子台100の構成を示す斜視図である。
【図4】端子ねじ付き金具SCの構成を示す図である。
【図5】端子ねじ11の構成を示す図である。
【図6】保持金具12の構成を示す図である。
【図7】保持金具12の構成を示す図である。
【図8】図4のVIII−VIII位置から見た部分断面図である。
【図9】図8中の破線部Ca付近を拡大した図である。
【図10】端子ねじ11が貫通孔12hに挿入された直後の様子を示す部分断面図である。
【図11】図10中の破線部Cb付近を拡大した図である。
【図12】カシメ加工前の保持金具12に形成された円環状の溝Gbを説明するための図である。
【図13】端子ねじ付き金具SCを製造する製造装置2の外観構成を示す図である。
【図14】カシメパンチ20における円環状の尖端20aを説明するための図である。
【図15】製造装置2の基本的な動作を示すフローチャートである。
【図16】本発明の変形例に係る貫通孔12h周辺の溝Gc、Gd、G1〜G4を示す図である。
【図17】本発明の変形例に係る溝Gp〜Grの断面形状を説明するための図である。
【図18】従来技術に係るカシメ加工を説明するための図である。
【符号の説明】
【0070】
1 端子台
2 製造装置
11 端子ねじ
12 保持金具
12a 上板部
12h 貫通孔
12t 変形部
20 カシメパンチ
20a カシメパンチの尖端
21 パーツフィーダー
22 ねじ挿入ユニット
23 プレスユニット
111 ねじ頭
112 ねじ山部
113 ねじ首
114 エンドリング
119 ばね座金
De エンドリングの最大径
Dn ねじ首の直径
Dt 貫通孔における最小径
Ga カシメ加工後の溝
Gb〜Gd、Gp〜Gr、G1〜G4 カシメ加工前の溝
SC 端子ねじ付き金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ首からねじ先端までの区間において前記ねじ首の径より大きい特定の部位を有する雄ねじを、金具に設けられた貫通孔に保持する方法であって、
(a)前記金具において前記貫通孔に係る一方の開口の縁近傍に所定の溝を形成する溝形成工程と、
(b)前記特定の部位が前記貫通孔内を通って前記一方の開口から出るように、前記雄ねじを前記貫通孔に挿入する挿入工程と、
(c)前記挿入工程による雄ねじの挿入後に、前記所定の溝と前記貫通孔とに挟まれた金具の部分を前記一方の開口の中央部に向かう方向に傾ける加工を施す加工工程と、
を備え、
前記加工工程による加工により、前記特定の部位が前記一方の開口を通過できなくなることを特徴とする雄ねじの保持方法。
【請求項2】
請求項1に記載の雄ねじの保持方法において、
前記所定の溝は、前記一方の開口の縁に沿って形成される円環状の溝であることを特徴とする雄ねじの保持方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の雄ねじの保持方法において、
前記特定の部位は、前記ねじ首とねじ山との間に設けられたエンドリングであることを特徴とする雄ねじの保持方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の雄ねじの保持方法において、
前記所定の溝は、前記貫通孔の中心軸を含んだ平面に係る断面の形状が三角形であることを特徴とする雄ねじの保持方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の雄ねじの保持方法において、
前記加工工程は、
(c-1)前記所定の溝に工具の尖端を差し込み前記所定の溝を前記貫通孔側に押し拡げることにより、前記加工を施す工程、
を有することを特徴とする雄ねじの保持方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の雄ねじの保持方法において、
前記金具は、前記貫通孔が形成された板状の部位と、前記板状の部位から前記貫通孔の中心軸に沿って伸びる部位とを有していることを特徴とする雄ねじの保持方法。
【請求項7】
ねじ首からねじ先端までの区間において前記ねじ首の径より大きい特定の部位を有する端子ねじが付いた金具であって、
前記端子ねじのねじ首が挿通された貫通孔を有し、
前記貫通孔に係る前記ねじ先端側の開口の縁近傍に所定の溝が形成されているとともに、当該所定の溝近傍における前記貫通孔の内壁面は、前記ねじ先端側の開口の中央部に向かう方向に傾いた形状を有しており、
前記傾いた形状により、前記特定の部位が前記ねじ先端側の開口を通過できないことを特徴とする端子ねじ付き金具。
【請求項8】
請求項7に記載の端子ねじ付き金具を備えた端子台装置。
【請求項9】
ねじ首からねじ先端までの区間において前記ねじ首の径より大きい特定の部位を有する端子ねじが付いた金具を製造する方法であって、
(a)前記端子ねじを保持するための貫通孔に係る一方の開口の縁近傍に所定の溝が形成された金具を準備する準備工程と、
(b)前記特定の部位が前記貫通孔内を通って前記一方の開口から出るように、前記端子ねじを前記貫通孔に挿入する挿入工程と、
(c)前記挿入工程による端子ねじの挿入後に、前記所定の溝と前記貫通孔とに挟まれた金具の部分を前記一方の開口の中央部に向かう方向に傾ける加工を施す加工工程と、
を備え、
前記加工工程による加工により、前記特定の部位が前記一方の開口を通過できなくなることを特徴とする端子ねじ付き金具の製造方法。
【請求項10】
ねじ首からねじ先端までの区間において前記ねじ首の径より大きい特定の部位を有する端子ねじが付いた金具を製造する装置であって、
(a)前記特定の部位が前記金具に設けられた貫通孔の内部を通って前記一方の開口から出るように、前記端子ねじを前記貫通孔に挿入する挿入手段と、
(b)前記挿入手段による端子ねじの挿入後に、前記貫通孔に係るねじ先端側の開口の縁近傍に形成された所定の溝と前記貫通孔とに挟まれた金具の部分を前記ねじ先端側の開口の中央部に向かう方向に傾ける加工を施す加工手段と、
を備え、
前記加工手段による加工により、前記特定の部位が前記一方の開口を通過できなくなることを特徴とする端子ねじ付き金具の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−311035(P2008−311035A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156655(P2007−156655)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000000309)IDEC株式会社 (188)
【Fターム(参考)】