説明

集光加熱装置

【課題】従来の反射鏡による集光加熱装置において熱エネルギーの効率が低いという問題があるので、高い効率で加熱対象物を加熱する集光加熱装置を提供することを目的とする。
【解決手段】集光加熱装置において、ハロゲンランプ或いはキセノンランプなどの点状光源から全方位に放射される光を、点状光源をほぼ覆ってしまう受光面に備えた光ファイバー束を通して、加熱対象物を設置した空間に導くことにより、加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色光を利用した、3000℃以下の高温を得るためのエネルギー効率が高い集光加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光を局所的に収束させ、物質を加熱する技術は、これまでよく知られており、反射鏡を用いた反射、レンズを用いた屈折が主に利用されてきた。光源としては、太陽やハロゲンランプ、キセノンランプなどの白色光を放射する高温の放射体や、特定の放射波長域を持つレーザーやLEDが挙げられる。
【0003】
既に完成されたと考えられている様々な技術を、現在の切り口で見直すことで、高いエネルギー効率などの付加価値が期待できるものがある。集光加熱技術に関して言えば、ハロゲンランプ、キセノンランプなどの白色光光源を、反射鏡などで集光加熱する装置が該当する。ハロゲンランプに関しては、取り扱いが容易でありながら、放射される光の輝度が強く、加熱に特化したランプを製造することが可能であり、無機材料結晶成長装置の赤外線加熱機構として、早くから商用に供されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1は、金メッキされた回転楕円面を反射面として持つ反射鏡の、楕円焦点の1方にハロゲンランプのフィラメントを、他方に加熱対象物をおき、ハロゲンランプフィラメントから放射された白色光を加熱対象物に集光するものである。ハロゲンランプのフィラメントは高い融点を持つタングステンなどの金属からなり、通電することでフィラメントの温度が3000℃以上に昇温される。数百℃以上の物質からは、プランク分布法則に従った黒体放射に準じた光が放射されるため、反射鏡によるエネルギー損失や光・熱変換の効率が十分高ければ、加熱対象物も3000℃程度まで昇温されることが期待できる。しかしながら、実際は上述の損失等もあり、加熱対象物の最高温度は、ハロゲンランプの場合、約2100℃程度であることが経験的に知られている。最高到達温度以外の集光加熱装置の性能指標であるエネルギー効率については、集光部分が加熱対象だけであることから、他の加熱方法に比較して、1桁以上の高効率で温度を上昇することが可能である。しかしながら、光源や加熱対象物の支持機構を反射鏡内部に備える必要があるため、反射面の面積が減少し、光源から放射された全ての光を利用することができないことが、エネルギー効率改善の障害となっている。また、加熱対象物への直射光と反射光の集光光路は、楕円の長軸と短軸の2つのパラメーターだけで調整する必要があるため、適切な集光光路設計が極めて困難である。例えば、加熱対象物が反射鏡の特徴的な長さに対して大きくなると、集光作用が抑制され、加熱が不要な部分にも光が照射される。これにより、安定した結晶成長を行う際に必要な、集光加熱の特徴でもある局所加熱を行うことが不可能となる。この場合、不要な反射が生じないように反射鏡を故意に汚したり、加熱対象物に不要な光が入射しないように遮蔽することで局所加熱を実現する場合もあった。つまり、点状とみなせる加熱対象物の場合にのみ、楕円の幾何光学的な集光加熱を実現できることになる。
【0005】
集光加熱装置の従来例の概念図を図4に示す。従来の反射鏡を用いた集光加熱装置は、ハロゲンランプなどの光源1が、ランプ支持機構2により反射鏡5内部に設置され、光源1から放射された光が、加熱対象物3に集光することで加熱対象物3の温度を2000℃程度まで上昇させることが可能であった。加熱対象物3は、加熱対象物支持機構4によって反射鏡内部に位置しており、ランプ支持機構2と加熱対象物支持機構4の2つの支持機構が存在するために実効的な反射面の面積が少なくなる。
【0006】
このような課題、すなわち有限の大きさの加熱対象物の高効率加熱を実現するために異方的光放射が可能なレーザーを用いた集光加熱装置も様々な分野で開発されてきた。レーザー加熱核融合の例(特許文献2)や、レーザー加熱結晶成長装置の例(特許文献3)などがある。上記のレーザーを用いた加熱技術は局所的に高効率に加熱が可能な理想的な方法であるが、装置製造及び維持にかかるコストが莫大で汎用的な用途には不向きであり、低コストで簡便な集光技術が求められてきた。
【0007】
一方、一番身近な白色光である太陽光については、日本での石油ショックの時代には太陽光を利用した太陽炉の開発が精力的に行われてきた。しかしながら、コストが十分に下げられず、原油価格が下がってしまうと、事業として成り立たないため、研究開発は下火になった。21世紀に入り、再び原油などの資源価格が高騰しているが、石油ショックの時代と違って、現在は地球温暖化防止のための二酸化炭素排出抑制が世界的に期待されている。この状況は、エネルギー源としての太陽光利用に高いインセンティブが産業界に存在することを示す。上述の集光加熱装置に利用されてきたハロゲンランプやキセノンランプから放射される光は、太陽光とほぼ同等であり、高効率集光加熱技術の光源として、太陽光も検討すべきであると言われてきた。しかしながら、太陽光だけでは、特に日本などの緯度が高い地域においては、採算が見込める集光加熱装置を実現することは困難であった(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2005/075713号
【特許文献2】特開2008−304328号公報
【特許文献3】特開2001−261478号公報
【特許文献4】国際公開2006/025449号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ハロゲンランプ或いはキセノンランプなどの点状光源から放射される白色光を利用した、反射鏡による集光加熱装置において、加熱対象物が有限の大きさを持つことから、加熱すべき部分以外にも光が照射され、その結果、投入される電気エネルギーと加熱対象物の温度上昇に使用された熱エネルギーの比で表される効率が抑制されるという問題がある。またこの損失を解決しようにも、反射鏡の形状は回転楕円面と固定されており、楕円の長軸長と短軸長以外を変更することができず、本質的な光路設計変更が不可能である。さらに、ハロゲンランプ或いはキセノンランプと同等の光源である太陽光の集光加熱装置への利用は、太陽光だけの利用だと、採算性に問題があり、非現実的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を鑑みて成されたものである。即ち、ハロゲンランプ或いはキセノンランプなどの点状光源から全方位に放射される光を、点状光源をほぼ覆う受光面に備えた光ファイバー束を通して、加熱対象物を設置した空間に導くことを特徴とする。
【0011】
本発明の集光加熱装置は、熱線を成分として含む白色光の点状光源と、当該光源を覆うように設置された受光面と、当該受光面に垂直に固定された光吸収能が少ない材料のファイバー束と、当該ファイバー束の他方が垂直に固定された放射面と、当該放射面から放射される光が集光される空間とを、備えたことを特徴とする。光ファイバーの配置を加熱対象物等に合わせて適切に設計することで、ハロゲンランプ或いはキセノンランプから放射されたほぼ全ての光を、昇温させたい部分に集光することが可能となり、前記課題を解決できる。
【0012】
本発明の集光加熱装置は、平行白色光光線を、反射鏡による反射或いはレンズによる屈折によって集光する機構を備えたことを特徴とする。このことにより、太陽光とハロゲンランプ或いはキセノンランプを光源として併用することで、太陽光だけを利用した際の採算性の低さを解決することができる。
【0013】
本発明の集光加熱装置は、物質に対する直接加熱作用が少ない、可視光線或いは紫外線の成分を、赤外線領域の波長を持つ光に変換する波長変換素子を具備することを特徴とする。このことにより、従来に比べてより高い効率で、加熱対象物を加熱することが可能となる。
【0014】
本発明の白色光を光源とする集光加熱方法は、本発明の集光加熱装置を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、白色光の点状光源を覆うように設置された受光面と、当該受光面に垂直に固定されたファイバー束とを設けることにより、白色光を加熱対象物設置空間に導き集光することができ、高温を得るためのエネルギー効率が高い集光加熱装置を実現することができる。また、放射されたほぼ全ての光を、昇温させたい部分に集光することが、光ファイバーの配置設計だけで簡単に行える効果がある。設計の自由度が高いという効果が大である。また、太陽光と点状光源とを併用することで、太陽光だけを利用した場合に比べて採算性を向上させる効果がある。さらに、光源に白色光を使用しているため、可視光線や紫外線の成分を、波長変換素子を用いて、赤外線などの加熱に有用な熱線と変換することで、従来に比べてより高い効率で加熱できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の集光加熱装置の光源部分を示す図。
【図2】本発明の集光加熱装置の放射面を含む加熱対象物側を示す図。
【図3】本発明の集光加熱装置のシステム概念図。
【図4】従来例の集光加熱装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の集光加熱装置について、図1及び図2を参照して説明する。図示において従来例と共通する機能部分には同じ番号を付した。本発明の集光加熱装置は、熱線を成分として含む白色光の点状光源1と、当該光源を覆うように設置された受光面7と、当該受光面7に垂直に固定された光吸収能が少ない材料のファイバー束6と、当該ファイバー束6の他方が垂直に固定された放射面8と、当該放射面8から放射される光が集光される空間とを、備えている。光源1はランプ支持機構2により支持され、加熱対象物3は、加熱対象物支持機構4によって支持されている。
【0018】
一方、本発明の集光装置の光源部分を図1示す。ハロゲンランプなどの光源1が、ランプ支持機構2により、受光面7の内部に位置しており、受光面7に垂直に取り付けられた石英の光ファイバー6を通して、加熱対象物がある空間に、光を伝送する。光源1は、ハロゲンランプ、キセノンランプなどの熱線を成分として含む白色光の点状光源である。また、図2では、光ファイバーが間隔をおいて受光面7に配置されているように図示されているが、これは模式的に示したものであり間隔を開ける必要はない。当該光ファイバーの断面で、受光面7の表面を全て覆うことが好ましく、全て覆うことにより光源1からの光をほぼ全て伝送することができる。受光面7は光源2を中心に同心円状に配置されている。また、光ファイバーは、光ファイバーの一端が受光面に垂直にかつその端面が受光面に沿って固定され、多数の光ファイバーが受光面を全てまたはほぼ覆うように配置されている。受光面は、少なくとも前記光ファイバーと同等かそれ以上の光透過波長帯域を持つ石英ガラスなどの材料で球殻状に作成されたものを用いる。或いは、受光面を成す球殻状部品を、紫外線と可視光線を赤外線に変換する波長変換材料で作成するとなお望ましい。この場合は、当該波長変換材料が赤外線を透過できる材料である必要がある。或いは、前記光ファイバーの断面そのものが受光面となってもよい。
【0019】
光ファイバー束を通して、加熱対象物を設置した空間に導く構造について図2を参照して説明する。光ファイバー束の他方6は、受光面と同様放射面8に垂直に固定され、当該放射面8から放射される光が、加熱対象物3に集光され、高効率に加熱対象物3の温度を上昇できる。図2では、光ファイバーが間隔をおいて受光面7に配置されているように図示されているが、これは模式的に示したものであり間隔を開けても開けなくてもよく、適宜ファイバーの数や放射面の形状に応じて設計することができる。図2に示した放射面8は半球の球殻状をしているが、放射される光が最終的に加熱対象物3にほぼ全て集光できるならば、その形状はどのようなものでも差し支えない。また前記光源1の周囲の受光面7と同様、放射面8の材料は少なくとも前記光ファイバーと同等かそれ以上の光透過波長帯域を持つ石英ガラスなどの材料で球殻状に作成されたものを用いる。或いは、受光面を成す球殻状部品を、紫外線と可視光線を赤外線に変換する波長変換材料で作成するとなお望ましい。この場合は、当該波長変換材料が赤外線を透過できる材料である必要がある。或いは、前記光ファイバーの断面そのものが放射面8となってもよい。
【0020】
図3に、本発明の装置システム概念図を示す。ハロゲンランプ或いはキセノンランプなどの点状光源から放射された光をファイバーによって、また、太陽光などの平行光線の光源から放射された光を、反射鏡、レンズ、或いはファイバーを用いて、加熱対象物が存在する空間に導き、加熱が必要な部分に選択的に光を集光する。太陽光と点状光源との併用可能な構造により、極めて高いエネルギー効率での集光加熱が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の集光加熱装置は、エネルギー効率が高く、かつ設計の自由度の高い装置であるので、結晶成長用の加熱装置や従来のレーザー加熱装置や太陽光利用加熱装置など幅広い加熱装置として有用である。
【符号の説明】
【0022】
1、 点状光源
2、 ランプ支持機構
3、 加熱対象物
4、 加熱対象物支持機構
5、 反射鏡
6、 光ファイバー
7、 受光面
8、 放射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱線を成分として含む白色光の点状光源と、当該光源を覆うように設置された受光面と、当該受光面に垂直に固定された光吸収能が少ない材料のファイバー束と、当該ファイバー束の他方が垂直に固定された放射面と、当該放射面から放射される光が集光される空間とを、備えたことを特徴とする集光加熱装置。
【請求項2】
平行白色光光線を、反射鏡による反射或いはレンズによる屈折によって集光する機構を備えたことを特徴とする請求項2記載の集光加熱装置。
【請求項3】
前記集光加熱装置において、物質の直接加熱作用が少ない、可視光線或いは紫外線の成分を、赤外線領域の波長を持つ光に変換する波長変換素子を具備することを特徴とする請求項1乃至2のいずれか1記載の集光加熱装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1記載の集光加熱装置を用いたことを特徴とする、白色光を光源とする集光加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−223442(P2010−223442A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68338(P2009−68338)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】