説明

集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置及び局所領域の温度計測方法

【課題】本発明は、観察視野近傍の微小領域の正確な温度計測が可能な集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置及び温度計測方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば、ビームアシストデポジション機能を有する集束イオンビーム装置に着脱可能であり、局所領域温度計測装置のホルダー先端部に設けられる接触型温度計測部と、接触型温度計測部を保護する絶縁ガイドと、接触型温度計測部を絶縁ガイドから露出させる微動駆動制御部と、を少なくとも備えることを特徴とする集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置、及び、これを用いた局所領域の温度計測方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細組織の観察並びに微細加工を目的とする集束イオンビーム装置に取り付けることにより、加熱ステージを用いて高温での組織変化を観察する際の観察部位の実質的な温度計測を可能とし、また、試料を集束イオンビーム微細加工する際には、イオンビーム照射により発生する局所的な温度変化を計測する装置と、この装置を用いた温度計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
集束イオンビーム法を用いた微細加工技術は、最近のマイクロマシンニング(MEMS)技術と連動して、数十μmの小型コイルやばね、モーター等に代表されるような超小型機械部品の製造技術として期待されている。また、透過電子顕微鏡用の試料作製技術としての地位が不動のものとなり、金属から半導体、さらには、絶縁体や有機材料まで、幅広く集束イオンビーム加工法が適用されるようになってきた。特に、透過電子顕微鏡用の薄片試料の作製技術はますます進歩し、一例として、特許文献1に開示されているように、まず、数mmサイズの試験片から薄片化したい試料部位を、組織を観察しながら特定し、マニピュレータを集束イオンビーム装置内に導入し、十数μm以下の幅を持つ板形状の微小領域をイオンビーム加工とマニピュレータへの接着技術を活用して取り出し、その後、別に用意した電子顕微鏡用の3mmφの半月形状試料台に載せ、さらにその板形状の微小試料を電子線が試料を通過できるような薄さまで、同じくイオンビーム加工技術で薄片化する技術手法が開示されている。
【0003】
ところで、この加工法の原理は、ガリウム(Ga)イオンを数万Vの加速電圧で加速して試料に照射し、イオンスパッタリングの原理で原子をはじき飛ばしながら、微細加工していく方法であり、必然的に、イオンビームで加工中の材料の局所的な温度上昇が懸念される。
【0004】
また、試料を加熱した時の組織変化をその場観察する技術がよく知られているが、一般には、加熱ステージに取り付けられた熱電対による間接的な温度計測手法に止まっている。
【0005】
例えば、特許文献2では、極小の熱電対を用いて、局所領域の温度を計測する技術が開示された。ここでは、熱電対接点部と局所領域の測定部との熱的な点接触を避けるために、集束イオンビーム加工装置にイオンビームデポジション機能部をつけて、熱電対接点部と測定部を蒸着技術により一体化する技術が示されている。また古くは、半導体回路等の局所的な温度上昇部の検査が目的で、走査電子顕微鏡内で局所領域の温度計測を試みる技術が、特許文献3に開示されている。しかしながら、当時はイオンビーム加工やマニュピレータ技術もなく、外部から温度計測部を手動で操作する等、現在の微細加工技術に対応した温度計測技術の具体的技術は示されていなかった。
【0006】
次に、小型熱電対の技術をみると、半導体分野等の微小領域の温度測定に使われている極細熱電対線は12.5〜50μmの太さであるが、細く弱いために、取り扱い時にすぐに切れ易いという問題がある。そのため、元線として強度の高い100〜300μm被覆熱電対線を用い、その一旦に同材質で太さ12.5〜100μmの極細熱電対線を接合し、この先端を球状接合するか、或いは球状接合後圧延し、円盤状の接点部を作る技術が、特許文献4に開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平5−180739号公報
【特許文献2】特開2002−25494号公報
【特許文献3】特開昭51−25960号公報
【特許文献4】特開2003−344178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
集束イオンビーム装置内での微細加工時の十数μm領域での温度上昇や周辺の温度分布を計測しようとした場合、従来の極細熱電対を用いても、その先端部は12.5μmの二本の素線先端を球状接合したり圧延したりしたものでは、その接点部径は25μm程度となり、測定対象領域と同程度か、或いは測定対象領域の方が小さい場合が多く、熱の逆流現象も起こり、正確な温度計測ができないことが判った。そこで、観察視野近傍の微小領域の正確な温度計測においては、極小の熱電対を蒸着技術により一体化させることは必須であることが再確認された。
【0009】
ところが、集束イオンビーム装置内に極小の熱電対線を挿入しただけでは、ビームアシストデポジションによって、該対象試料のμmオーダーの観察領域或いは加工領域の近傍に接着するためのガスを放出するノズルと熱電対細線がしばしば絡み合うことがあり、必ずしも作業性に優れた温度計測方法とならなかった。さらに、温度計測対象の表面が平滑ではなく、粒子の集合体のように凹凸が激しい場合、目的の粒子近傍の温度計測は必ずしも容易ではなかった。
【0010】
また、試料を加熱した際の組織変化を動的にその場観察する機会が増えると、数百℃の比較的低温な温度域だけではなく、1000℃以上の高温での組織変化の計測ニーズも増え、極小の熱電対の種類を容易に変えられるような構造が要求されるようになった。
【0011】
さらに、加熱ステージに取り付けられた熱電対で間接的に温度を計測するのではなく、観察視野部に直接、極小の熱電対を取り付け直接的な観察部の温度計測をする際にも、目的の箇所に正確に熱電対先端部を接続させるための微動動作作業の向上が望まれていた。
【0012】
そこで、本発明は、上記の問題点を解決し、観察視野近傍の微小領域の正確な温度計測が可能な集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置及び局所領域の温度計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者は、上記の目的を達成するために、集束イオンビーム加工装置内等に取り付ける極小の熱電対先端部の形態や構成について鋭意検討した結果、以下のような新しい集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置の開発に至った。
【0014】
(1) ビームアシストデポジション機能を有する集束イオンビーム装置に着脱可能な局所領域温度計測装置であって、前記局所領域温度計測装置のホルダー先端部に設けられる接触型温度計測部と、前記接触型温度計測部を保護する絶縁ガイドと、前記接触型温度計測部を前記絶縁ガイドから露出させる微動駆動制御部と、を少なくとも備えることを特徴とする、集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置。
(2) 前記絶縁ガイド及び前記接触型温度計測部が、集束イオンビーム装置のビームアシストデポジション用ガス放出ノズルと接触しない位置にある(1)記載の集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置。
(3) 前記絶縁ガイドがホルダー軸と45°以上の勾配を有すると共に、前記接触型温度計測部が前記絶縁ガイドに沿って移動して露出する、(1)又は(2)に記載の集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置。
(4) 前記接触型温度計測部が、熱電対からなる、(1)〜(3)のいずれかに記載の集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置。
(5) 前記熱電対の熱接点部分が棒形状である、(4)に記載の集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置。
(6) 前記熱接点部分の棒形状の直径が50μm以下である、(5)記載の集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置。
(7) 前記接触型温度計測部が、前記ホルダー先端部と差込方式で着脱可能な構造である、(1)〜(6)のいずれかに記載の集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置。
(8) 前記(1)〜(7)のいずれかに記載の局所領域温度計測装置を設置したビームアシストデポジション機能を有する集束イオンビーム装置で加工時の温度計測対象物の温度を計測する集束イオンビーム装置内での局所領域の温度計測方法であって、接触型温度計測部を微動駆動制御部により絶縁ガイドから移動、露出させ、前記温度計測対象物の観察領域の近傍で、前記ビームアシストデポジション機能により前記温度計測対象物と前記接触型温度計測部とを接着した後に、前記温度計測対象物を通じてアースを取ると共に、前記温度計測対象物の温度を計測しながら、前記温度計測対象物の観察領域を集束イオンビーム加工法により所定の形状に加工し、該加工終了後、前記温度計測対象物と前記接触型温度計測部との接着部を集束イオンビーム加工法により切り離すことを特徴とする集束イオンビーム装置内での局所領域の温度計測方法。
(9) 前記(1)〜(7)のいずれかに記載の局所領域温度計測装置を設置したビームアシストデポジション機能を有する集束イオンビーム装置で、加熱時の温度計測対象物の温度を計測する集束イオンビーム装置内での局所領域の温度計測方法であって、前記温度計測対象物を通じてアースを取った後に前記温度計測対象物を所定の温度に加熱・冷却しながら観察領域の状態変化を観察し、任意の温度で、接触型温度計測部を微動駆動制御部により絶縁ガイドから移動、露出させ、前記温度計測対象物の観察領域の近傍で、ビームアシストデポジション機能により前記温度計測対象物と前記接触型温度計測部とを接着した上で、前記温度計測対象物の温度を計測し、温度計測終了後、前記温度計測対象物と前記接触型温度計測部との接着部を集束イオンビーム加工法により切り離すことを特徴とする集束イオンビーム装置内での試料加熱時の局所領域の温度計測方法。
(10) 前記接触型温度計測部を接着する位置が、観察領域から0.01〜50μmの範囲である、(8)又は(9)に記載の局所領域の温度計測方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、集束イオンビーム装置内で試料をイオンビーム加工している際の局所的な温度上昇量を計測することができる。また、加熱ステージを用いての加熱その場観察実験の際にも、観察用のイオンビームが照射されている環境下で、観察視野部分の直接的な測温が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
本装置を適用するビームアシストデポジション機能を有する集束イオンビーム装置であるが、これは、3万〜4万Vに加速させたイオンビームを放射するイオン銃部分と、この放射されたイオンビームを集束するレンズ系と、そのイオンビームを照射しながら微細加工や組織観察を行う対象とする試料を設置するための試料室と、イオンビームと反応させるデポジションガスを試料室に噴出するためのガスノズル導入機構と、を主に備える。何れも真空系であり、イオンビーム源としては、一般にはGaイオンが用いられるが、時にはヘリウムイオン源も用いられる。デポジションガスとしては、タングステン(W)、炭素、白金等を蒸着するための様々なガス種が用いられる。
【0018】
ところで、イオンビームが対象試料に照射した際に発生する二次電子を検出する二次電子検出機器を有し、走査するイオンビームと同期させて、その二次電子強度をブラウン管に映し出せば、走査イオン顕微鏡像を得ることができる。例えば、走査するGaイオンビームは、直径十数nmまでにも絞ることができるので、数万倍の高倍率での走査イオン顕微鏡組織観察が同時に可能である。結果として、μmオーダーの微細組織を特定して温度計測する目的のためには、局所領域の温度計測装置に対しても、μmオーダー、或いはより高精度での熱電対先端部の移動操作が必要になる。
【0019】
本集束イオンビーム装置には、先に述べたように、ビームアシストデポジション機能によって、該対象試料のμmオーダーの観察領域或いは加工領域の近傍に熱電対先端部を接着するためのガスを放出するノズル導入機構が取り付けられていることを必須とする。極小の領域の温度計測においては、熱電対先端部と試料とが点接触であると、その熱抵抗が大きな障害となるため、導電性のあるタングステンやカーボン、白金を用いた蒸着技術により、試料と熱電対先端部とを一体化する必要がある。
【0020】
例えば、タングステンを蒸着する場合は、ガス源としてヘキサカルボキシルタングステンの結晶粉末を用い、これを70℃程度に加熱することでガス化し、試料室の試料部近傍に吹き付ける。そこにGaイオンビームを走査することで、Gaイオンが照射された部分のみ化学反応が起こり、非晶質のタングステン膜が形成される。この機構により、Gaイオンビームを走査するμmサイズの領域に、自在に非晶質のタングステン蒸着膜を形成させることができる。
【0021】
第一図に、本装置の構成の一例について、本温度計測装置が集束イオンビーム装置に取り付けられた状態の断面図を示すことで説明する。イオンビームアシスト用ガス放出ノズルは、衝突を避ける位置に設置されるので、この図には記載されない。集束イオンビーム筐体壁1に取り付けられたチャンバー2を介して、本局所領域温度計測装置のホルダー3は、真空系の筐体内へ挿入される。なお、このチャンバー2の部分には、温度計測装置ホルダーを真空系に挿入する前の予備排気機構4が取り付けられる。もし装置制約上、常に筐体の中に挿入した状態で使うのであれば必要ないが、使用時のみ温度計測装置を挿入することの方が利便性は高い。
【0022】
本局所領域温度計測装置のホルダー先端の接触型温度計測部5が、集束イオンビーム装置内で目的とする材料組織を観察しながらμmオーダーで、筐体軸に対してx、y、zの三軸方向に自在に動くように、本温度計測装置ホルダー3は、微細駆動装置6とその駆動制御をする部分(微細駆動制御部)7とを有する。駆動の一例としては、例えば、ホルダー3に対し、3軸方向から圧電素子で動かせるような機構が適用でき、これらはリモートコントロールされる。
【0023】
次に、本局所領域温度計測装置のホルダー3は、前後に移動可能な内菅構造11を有し、その中は絶縁された導線8が通されているが、温度計測精度を向上させるために、この導線には温度補償導線が用いられる。そして、その外部端子9は、温度計測部10とやはり導線で接続される。接触型温度計測部に熱電対をつける場合は、ここでその起電力を計測することになる。いずれの場合も、温度補償導線が用いられることが好ましい。
【0024】
本局所領域温度計測装置のホルダー3の構造であるが、ホルダー軸部自身は、チャンバー2を介して筐体内部へと移動するが、さらにその内部構造として、前後に移動可能な内菅構造11を持つことを先に説明した。この試料側先端部に、接触型温度計測部が取り付けられる。一例として、第一図では、極小の熱電対からの接続端子12が取り付けられる。該極小の熱電対の先端構造は、熱電対先端側の接続口14と熱電対素線15、さらにはそれらを接合した熱接点16からなり、それらは、内菅11を通じて、導線(補償導線)8により外部と接続されている。なお、該内菅11は、局所領域温度計測装置のホルダー3の中を前後に動く。即ち、駆動動作部(微細駆動装置)6との間で真空を確保しながらスライド動作が可能なベローズ機構を有する部分13を保有する。なお第一図では、接続端子12、熱電対接続口14、熱電対素線15、熱接点16からなる部分が、先端部の接触型温度計測部に対応する。本局所領域温度計測装置は、ホルダー先端部に、この接触型温度計測部と、この接触型温度計測部を集束イオンビーム装置に出し入れする際に保護する絶縁ガイド17と、を有している。
【0025】
次に、本温度計測装置の発明において重要な先端部の接触型温度計測部について、第二図を用いて、より詳細に説明する。極細線の熱電対素線並びに極小の熱電対先端部を装着する場合、その局所領域温度計測装置のホルダーの出し入れ、また、観察視野近傍での極小の熱電対先端部のx、y、z方向への移動において、ビームアシストデポジションノズル等との狭い試料室内での場所の衝突がしばしば発生する。そこで、該温度計測ホルダー先端部に絶縁体のガイド17を取り付けて、温度計測ホルダーの筐体への出し入れ時は、第二図(a)のように、格納型として極小の熱電対先端部を保護し、その後、観察しながら試料の温度計測対象部分へ近づけるためには、第二図(b)に示したように、ガイド17に沿うように、極小の熱電対先端部を試料の特定部位へ移動する。この時、ガイドが試料ホルダーと平行であっては、挿入時にガスデポジョンとぶつかるケースが増えるため、試料ホルダー軸から45°程度、可能であれば45°以上に下向きに極小の熱電対が移動できるようなガイド角度を有していることが好ましい。一般に、イオンビームデポジション銃の角度は80°程度で固定であるので、この絶縁ガイドの傾斜角を変化させた時の、操作時における試料室内での熱電対先端部の衝突具合を、表1にまとめた。このガイド角度が大きいほど、試料の凹部の温度計測をしたい場合等にも有利である。
【0026】
【表1】

【0027】
第三図に局所領域温度計測装置の接触型温度計測部とイオンビームでポジション銃からのノズル先端部の観察試料に対する幾何学的配置の模式図を示した。
【0028】
次に、接触型温度計測部が熱電対からなる場合、該熱電対の熱接点部分についての詳細な説明をする。
【0029】
温度計測においては、測定対象より接触型温度計測部の熱接点、即ち、温度検知子部分の方が十分に小さくないと、正確な温度測定ができない。本発明における主な測定対象物のサイズは、数十μmと微細な場合がある。即ち、集束イオンビーム加工装置内で温度上昇が問題となるようなケースは、数mmの大きな試料サイズの極一部から、数十μm単位の微小切片を切り出す時であり、汎用の熱電対の熱接点の大きさが100μmもあるような熱電対では、熱接点を介して十分に熱電対先端部に温度が伝わらない。そこで、熱接点部分を直径が20μm程度、或いはそれ以下の棒形状に加工して、それを目的とする試料測定温度部位に接着する必要がある。このサイズになると、単なる接触では、熱抵抗が大きくなり過ぎて、温度計測ができないので、多くの汎用的な集束イオンビーム装置が保有するガスデポジション機能を用いて、棒形状の熱電対先端部を試料に接着する方法が必要である。熱電対先端部の加工は、集束イオンビーム加工技術により可能であるので、測定対象の試料サイズが10μmの場合は、熱電対の先端直径部分も10μm以下に加工することが望ましい。但し、サイズよりも、ビームアシストデポジションにより熱電対接点部と測定対象物とを一体化させることが重要で、これにより、熱抵抗をほぼ零にすることができ、このような微小領域の正確な温度計測が可能になる。なお、棒形状にするもう一つの理由は、温度計測が終了して熱電対を試料から外したい時に、その棒形状部分を集束イオンビーム加工法により切断加工して切り離すことが容易だからである。
【0030】
実際に極小の熱電対とは言え、さらに小さな温度測定対象物を測定する際の上記の課題は、第四図に示した実際の写真からも明らかである。第四図(a)は、熱電対接点部と測定対象物が点接触している状態であり、このような点接触の場合の熱抵抗は大きく、ビームアシストデポジション機能により接着領域を増やすことが必要であった。また、第四図(b)は、直径70μmの熱電対接点部に比べて温度測定対象物が20μm以下と小さな場合であり、このようなケースでは、温度の流れが逆転していることも考えられ、現実的には安定した温度計測ができなかった。
【0031】
なお、接触型温度計測部を接着する位置は、観察部温度計測位置から例えば0.01〜50μmの範囲であることが好ましい。0.01μmより近いと、観察領域を温度計測部が覆い隠すおそれがあり、また、50μmより離れると、観察領域の温度変化に対する温度計測部の追従性に問題が出るおそれがある。なお、室温で局所領域の温度計測をする際には、観察部の温度計測位置から10μm以内の方が精度として好ましい。
【0032】
次に、熱電対の材質に関して記述する。上述したように、熱電対先端部の固定を接着法で複数回使用することを考えると、シース型の熱電対は使い難い。また、市販のもので最小径のシース型熱電対は、直径100μm程度であり、本発明が対象とする十数μmの領域の温度計測には、大き過ぎて使うことができない。そこで、再加工も容易なむき出し型の極細線熱電対を利用することが好ましい。この際、極細線熱電対の線径も重要であり、通常は例えば30μm以下の極細線を用いるが、特に先端部分を棒形状に極細化した場合は、例えば20μm以下の極細線が好ましい。極細線熱電対の種類としては、例えばアルメル−クロメル型のものが常温から数百℃の温度範囲で安定して使用可能である。さらに低温では、例えばCu−コンスタンタン型のもの、また、高温では、例えば白金−白金・ロジウム型のもの等が選ばれるが、いずれも抵抗値の小さな優れた極細線熱電対を選択する必要がある。なお、市販の熱電対の先端は、一般には球状接点であり、これでは測定対象物が小さい場合、点接触時の熱抵抗が大きくなるため、使用することが困難である。そこで、球状接点を集束イオンビームで加工して、その先端部を棒形状とすることが好ましい。但し、球状でもイオンビームアシストデポジションにより目的対象物と十分に熱接触を得ることができれば問題はない。
【0033】
また、既に述べたように、微小部の正確な温度計測のためには、極小の熱電対の先端棒状部分を測定時に目的対象物に接着する必要があり、測定後は切断され、徐々に短くなっていく。このために、極小の熱電対先端部分はしばしば交換する必要があり、第二図に示したように、熱電対接続口14の一例である電気端子ピンから先の極小の先端部が、試料ホルダー側の熱電対接続口18を介して、差込方式等で容易に取り外し交換ができるように工夫されている。
【0034】
次に、実際の温度計測方法について、再び,第三図を用いて説明する。
【0035】
本発明の目的とする温度測定対象物は、集束イオンビーム加工装置の中で、微細加工されたり、抽出されたりする数十μmサイズの小さな領域や、加熱ステージを用いて高温観察をする際に、集束イオンビーム装置の走査イオン顕微鏡像で観察される領域、即ち、数十μm〜百数十μmの領域の場合が多い。そのような小さな対象物に対して、第三図に示すように、極小の熱電対先端部の棒状部分16(熱接点16に相当)を、ビームアシストデポジションノズル19から噴出されるガス、例えば、W(CO)ガスを試料観察部位に噴出し(図ではガス噴出領域を20で示す。)、このガス噴出領域20に、Gaイオンビームを照射することで、一種の化学気相反応を生じさせて、非晶質のW膜を、試料と棒状熱電対先端部の間に形成させることで接着する。第三図では、この接着領域を21で示す。この状態で、温度測定対象物23と極小の熱電対が接着するので、その棒状接点部16の感じる温度が、二本の熱電対線15間の電圧差として、熱電対接続口14及び電気端子ピン12を介して、外部の起電力測定用の電圧測定計へと接続する。
【0036】
この時、通常の熱電対を利用した温度計測方法と大きく異なる点は、温度計測時にGaイオンが温度測定対象部位に照射されていることである。測定条件により発生する起電力値が揺らぐため、色々な視点で調査した結果、Gaイオン照射からくるイオン電流、並びに、その際に発生する二次電子による電流等が熱電対補償線を通して検出されるケースがあることが判明した。これを抜本的に防ぐために、第三図の符号22で示したように、温度計測対象物を電気的にアースする必要があることが判明した。このため、本発明の方法で正確に温度計測できる対象物は、導体に制限される。そして、極小の熱電対先端部分と温度測定対象物が電気的には電位ゼロであることが必要とされる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0038】
(実施例1)
本発明の実施例として、微小領域をイオンビーム加工している時の加工部近傍の温度上昇量の計測が可能になった。第五図に示すような測定条件において、照射するGaイオンビームの照射電力を徐々に増加させた時の加工領域から0.01μm離れた地点での温度計測を行った。試料は、導通のある試料台上にアース接地させた。その結果、イオンビーム電流量を順次変化させた時の温度変化を、入力電力に換算した形で第六図に示す。汎用のビーム加工時の照射電力の最大値においても、温度上昇量は、高々60℃であることが判った。一般の加工に使うイオンビームでは、40℃以上の上昇がないことも判った。これは、導電性の金属の場合であり、イオンビーム加工時の温度上昇の有無が従来大きな問題であったが、この実験により、殆ど無視できる量であるとの結論に達することができた。勿論、絶縁材料の場合の結果は異なる。なお、この時、極小の熱電対接点部がビームアシストデポジション装置と衝突しないように、絶縁ガイドの角度は45°を採用した。また、熱電対接点部は直径30μmの棒形状である。さらに、この実施例において、熱電対の接点部を点接触とさせた場合や、試料をアースさせなかった場合には、ある一定の余分な起電力が発生し、温度上昇が生じているとの誤解を招く結果が得られた。本発明の温度計測方法の条件を全て満足させた時に始めて、このような局所領域の温度計測が可能になった。
【0039】
(実施例2)
集束イオンビーム加工装置の組織観察装置としての利点の一つに、試料の微細な凹凸コントラストや方位変化に依存したコントラストが得られ易い点が上げられる。また、高温で試料表面からイオンビーム加工して、その内部組織を観察することもできる。このため、焼結過程の観察に際して、実際の試料温度を計測するために、本発明の装置を活用した。実験の様子を第七図(a)に模式的に示す。図に示したように、集束イオンビーム装置内に小型の加熱ステージを装着し、その試料台に粉体試料を充填した。この時凹凸が激しいので、極小の温度計測装置においても80°近い角度を持つ絶縁ガイドを用いて、粉体内部に熱電対接点部を押し込むように装着できるように準備した。
【0040】
次に、アルメル−クロメル型の極小の熱電対を用いて、加熱電流値を250mAとしたまま、熱電対の温度が一定になるまで10分間、保持した。これは、事前の繰り返し実験により、この極小の熱電対を用い、ヒーターの加熱電流値を250mAで保持することで、加熱ステージと試料全体の温度上昇が均一になることを確認していたためである。本実験では、この状態で直径20μmの棒形状の熱電対接点部を粉体の中に押し込み、ビームアシストデポジション装置を用いて、試料と接着して一体化させた。観察視野中心部からは、50μm離れた位置である。そして、加熱電流値を徐々に増加させ、その時の発生起電力から試料部分の温度を計測した。その結果を、第七図(b)に示す。なお、第七図(b)において、ひし形のプロットが各加熱電流値における温度を示しており、正方形のプロットが各加熱電流値における発生起電力を示している。これより、1150℃程度まで、第七図(b)に示したような温度上昇変化で昇温されていることが判った。このグラフから明らかなように、本発明の局所領域温度計測装置を用いて、単純な比例ではない観察組織の温度上昇変化を正確に調べることができた。この結果は、焼結初期過程等の組織変化を観察することに応用された。これにより、高温その場観察実験技術が飛躍的に向上したことが明らかとなった。
【0041】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る温度計測装置が集束イオンビーム装置に取り付けられた状態の断面模式図である。
【図2】同実施形態に係る局所領域温度計測装置のホルダー先端部の詳細を説明するための模式図である。
【図3】集束イオンビーム装置内の計測対象物とガスデポジションノズル及び接触型温度計測部の位置関係を示す説明図である。
【図4】測定対象物と熱電対の位置関係を示す写真である。
【図5】実施例1での接触型温度計測部の測定対象物への接着状況を説明するための模式図である。
【図6】実施例1におけるイオンビーム電流量と計測温度の関係を示すグラフ図である
【図7】実施例2おける(a)測定状況と、(b)測定結果とを示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 集束イオンビーム筐体壁
2 チャンバー
3 ホルダー
4 予備排気機構
5 接触型温度計測部
6 微動駆動装置
7 微細駆動制御部
8 導線
9 外部端子
10 温度計測部
11 内管構造
12 接続端子
13 ベローズ機構
14 熱電対接続口
15 熱電対素線
16 熱接点
17 絶縁ガイド
18 熱電対接続口
19 ビームアシストデポジションノズル
20 ガス噴出領域
21 接着領域
22 アース
23 温度測定対象物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビームアシストデポジション機能を有する集束イオンビーム装置に着脱可能な局所領域温度計測装置であって、
前記局所領域温度計測装置のホルダー先端部に設けられる接触型温度計測部と、
前記接触型温度計測部を保護する絶縁ガイドと、
前記接触型温度計測部を前記絶縁ガイドから露出させる微動駆動制御部と、
を少なくとも備えることを特徴とする、集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置。
【請求項2】
前記絶縁ガイド及び前記接触型温度計測部が、集束イオンビーム装置のビームアシストデポジション用ガス放出ノズルと接触しない位置にあることを特徴とする、請求項1記載の集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置。
【請求項3】
前記絶縁ガイドがホルダー軸に対して45°以上の勾配を有し、
前記接触型温度計測部が、前記絶縁ガイドに沿って移動して露出することを特徴とする、請求項1又は2に記載の集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置。
【請求項4】
前記接触型温度計測部が、熱電対からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置。
【請求項5】
前記熱電対の熱接点部分が、棒形状であることを特徴とする、請求項4に記載の集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置。
【請求項6】
前記熱接点部分の棒形状の直径が、50μm以下であることを特徴とする、請求項5記載の集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置。
【請求項7】
前記接触型温度計測部が、前記ホルダー先端部と差込方式で着脱可能な構造であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の集束イオンビーム装置用の局所領域温度計測装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の局所領域温度計測装置を設置したビームアシストデポジション機能を有する集束イオンビーム装置で、加工時の温度計測対象物の温度を計測する集束イオンビーム装置内での局所領域の温度計測方法であって、
接触型温度計測部を微動駆動制御部により絶縁ガイドから移動、露出させ、前記温度計測対象物の観察領域の近傍で、前記ビームアシストデポジション機能により前記温度計測対象物と前記接触型温度計測部とを接着した後に、前記温度計測対象物を通じてアースを取ると共に、前記温度計測対象物の温度を計測しながら、前記温度計測対象物の観察領域を集束イオンビーム加工法により所定の形状に加工し、該加工終了後、前記温度計測対象物と前記接触型温度計測部との接着部を集束イオンビーム加工法により切り離すことを特徴とする、集束イオンビーム装置内での局所領域の温度計測方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の局所領域温度計測装置を設置したビームアシストデポジション機能を有する集束イオンビーム装置で、加熱時の温度計測対象物の温度を計測する集束イオンビーム装置内での局所領域の温度計測方法であって、
前記温度計測対象物を通じてアースを取った後に前記温度計測対象物を所定の温度に加熱・冷却しながら観察領域の状態変化を観察し、任意の温度で、接触型温度計測部を微動駆動制御部により絶縁ガイドから移動、露出させ、前記温度計測対象物の観察領域の近傍で、ビームアシストデポジション機能により前記温度計測対象物と前記接触型温度計測部とを接着した上で、前記温度計測対象物の温度を計測し、温度計測終了後、前記温度計測対象物と前記接触型温度計測部との接着部を集束イオンビーム加工法により切り離すことを特徴とする、集束イオンビーム装置内での試料加熱時の局所領域の温度計測方法。
【請求項10】
前記接触型温度計測部を接着する位置が、前記観察領域から0.01〜50μmの範囲であることを特徴とする、請求項8又は9に記載の局所領域の温度計測方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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