説明

離型フィルム

【課題】柔軟性、離型性、耐熱性、非汚染性に優れ、特に、精密なパターンを有するプリント基板に対する埋込み性が良好で、且つ、シートの巻取りや裁断時の取扱作業性に優れる離型フィルムを提供する。
【解決手段】 表層に配された結晶性ポリエステル(A)層と、ポリエステル(B)層とを有する積層フィルムであって、(A)層の結晶融解熱量が35〜50J/g、結晶化速度指標が50℃未満であり、(B)層の結晶融解熱量が20〜40J/g、結晶化速度指標が60℃未満であることを特徴とする離型フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は離型フィルム、とりわけ、プリント基板製造時に使われる離型フィルムに関する。特に、精密なパターンを有するプリント基板の上に熱硬化性接着剤を用いてカバーレイフィルムを熱プレス接着する際に有用な離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
離型フィルムは工業的に広く使用されている。特に、プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板、多層プリント配線板等の製造工程においてプリプレグ又は耐熱フィルムを介して銅張積層板又は銅箔を熱プレスする際にプリプレグや耐熱フィルムがプレス熱板と接着するのを防止するためや、フレキシブルプリント基板の製造工程において電気回路を形成したフレキシブルプリント基板本体に熱硬化型接着剤を用いてカバーレイフィルムを熱プレス接着する際にカバーレイフィルムがプレス熱板と接着するのを防止するのに用いられる。
【0003】
これらの用途に用いられる離型フィルムとしては、フッ素系フィルム、シリコーン塗布ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリプロピレンフィルム等が用いられてきた。
【0004】
しかしながら、従来から離型フィルムとして用いられているフッ素系フィルムは、耐熱性、離型性、非汚染性には優れているが、高価である上、使用後の廃棄焼却処理において燃焼しにくく、かつ、有毒ガスを発生するという問題点があった。また、シリコーン塗布ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルペンテンフィルムは、フィルム組成にシリコーンや低分子量体が含まれており、これらの移行によって、プリント配線基板、とりわけ基板上の銅回路の汚染を引き起こし、品質を損なうおそれがあった。また、ポリプロピレンフィルムは耐熱性に劣り離型性が不充分であった。
【0005】
そこで、柔軟性、耐熱性、離型性、非汚染性に優れ、廃棄焼却可能な離型フィルムとして、ポリブチレンテレフタレートやポリプロピレンテレフタレート、さらに、ポリブチレンテレフタレートとポリエーテルのブロック共重合体を離型層とするフィルム(特許文献1)やクッション層とするフィルム(特許文献2)が開示されている。
【0006】
しかし、こうした技術においては、離型性および耐熱性と、柔軟性との両立が未だ十分ではなく、離型性と耐熱性を重視した場合は、柔軟性が犠牲となり精密なパターンを有するプリント基板に対する埋込性に劣り、一方、柔軟性を重視した場合には、離型性の低下やフィルム表面の滑り性悪化が生じるほか、弾性率が低いためにフィルムの巻取や裁断時に伸びたりシワが入るなど、総合的な取扱作業性に劣っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第05/002850号パンフレット
【特許文献2】特許第4099355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、柔軟性、離型性、耐熱性、非汚染性に優れ、特に、精密なパターンを有するプリント基板に対する埋込み性が良好であって、かつ、シートの巻取りや裁断時の取扱作業性に優れる離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の結晶性を有するポリエステルと、実質的に非晶性のポリエステルと結晶性のポリエステルを混合して結晶性を制御したポリエステルを積層し、特定の結晶状態にすることにより、優れた離型性、耐熱性、埋込性を有しつつ、取扱作業性にも優れたフィルムを提供できることを見出し本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)表層に配された結晶性ポリエステル(A)層と、ポリエステル(B)層とを有する積層フィルムであって、(A)層の結晶融解熱量が35〜50J/g、結晶化速度指標が50℃未満であり、(B)層の結晶融解熱量が20〜40J/g、結晶化速度指標が60℃未満であることを特徴とする離型フィルム。
(2)ポリエステル(B)層が、実質的に非晶性のポリエステル(I)を20〜50質量%と結晶性ポリエステル(II)を80〜50質量%含有するものである(1)記載の離型フィルム。
(3)ポリエステル(I)のガラス転移温度が30〜120℃である(2)記載の離型フィルム。
(4)結晶性ポリエステル(A)が、ポリブチレンテレフタレートである(1)〜(3)いずれかに記載の離型フィルム。
(5)(B)層の結晶性ポリエステル(II)が、ポリブチレンテレフタレートとポリエーテルのブロック共重合体である(2)〜(4)いずれかに記載の離型フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の離型フィルムは、表層に配された結晶性ポリエステル(A)層と、特定のポリエステル(B)層とを有する積層フィルムである。ポリエステル樹脂から構成されているため、各種のオレフィン系樹脂を用いたフィルムのような、アウトガスによる問題がない。
【0013】
<ポリエステル(A)層>
【0014】
ポリエステル(A)は、離型フィルムの表層に配されて離型層として機能する。ポリエステル(A)としては、結晶性芳香族ポリエステルが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)が例示されるが、耐熱性や高結晶性の観点からPBTが特に好ましい。
【0015】
上記したPET、PBT、PTTの他にも、各種の芳香族ジカルボン酸成分とジオール成分から誘導されるポリエステルを結晶性芳香族ポリエステルとして用いることができ、また、そのような結晶性芳香族ポリエステルをPET、PBT、PTTのいずれかに共重合したものでもよい。芳香族ジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、あるいはこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。ジオール成分としては、分子量300以下のジオールが好ましく、例えばエチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシ−p−タ−フェニル、4,4’−ジヒドロキシ−p−クオ−タ−フェニルなどの芳香族ジオールなどが挙げられる。これらのジカルボン酸成分およびジオール成分は、2種以上併用してもよい。
また、3官能以上の多官能カルボン酸成分、多官能オキシ酸成分および多官能ヒドロキシ成分などを5モル%以下の範囲で共重合することも可能である。
【0016】
また、後述するポリエステル系エラストマーをポリエステル(A)層に用いることができる。
【0017】
ポリエステル(A)の結晶化速度指標は50℃未満である必要がある。結晶化速度指標が50℃以上であると、すなわち、溶融後の冷却時の結晶化速度が所定よりも遅いと、シートの耐熱性を付与が困難になり、結晶化処理をロールでの直接的加熱で行う場合には剥離不良が生じたり、熱風や赤外線等の間接的加熱で行う場合にはタルミが生じたりする。結晶化速度指標が50℃未満であると、溶融押出後の冷却ロールで結晶化が可能で、しかも冷却ロールの温度や速度でシートの結晶状態の制御が可能となる。結晶化速度指標は20〜45℃が好ましく、25〜40℃が特に好ましい。
【0018】
ポリエステル(A)の結晶融解熱量は35〜50J/gである必要があり、特に40〜50J/gが好ましい。結晶融解熱量が35J/g未満であると耐熱性に劣る場合があり、一方、50J/gを越えると埋込性に劣る場合がある。
【0019】
ポリエステル(A)の融点は200℃以上であることが好ましい。融点が200℃を下回ると熱プレス時の耐熱性に劣ることがある。
【0020】
ポリエステル(A)は公知の方法で製造することができる。例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコールを触媒の存在下にエステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、あるいはジカルボン酸と過剰量のグリコールを触媒の存在下にエステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法が挙げられる。
【0021】
<ポリエステル(B)層>
【0022】
ポリエステル(B)層は、精密なパターンを有するプリント基板にカバーレイフィルムを熱プレスする際の埋込性に寄与する。このため、ポリエステル(B)層の結晶融解熱量は20〜40J/g、結晶化速度指標は60℃未満である必要がある。 結晶融解熱量が20J/g未満であると耐熱性に劣り、40J/gを越えると埋込性に劣る場合がある。結晶化速度指標が60℃以上であると、シートの耐熱性を付与が困難になる。結晶化速度指標が60℃未満であると、溶融押出後の冷却ロールで結晶化が可能で、しかも冷却ロールの温度や速度でシートの結晶状態の制御が可能となる。結晶化速度指標は20〜58℃が好ましく、25〜55℃が特に好ましい。
【0023】
ポリエステル(B)の結晶融解熱量と結晶化速度指標を上記の範囲に制御するためには、ポリエステル(B)層を実質的に非晶性のポリエステル(I)と結晶性ポリエステル(II)の混合物から構成することが好ましく、ポリエステル(I)/ポリエステル(II)が20〜5質量0/80〜50質量%の割合であることがより好ましい。ポリエステル(I)の割合が20質量%未満では埋込性改良効果が小さく、50質量%を超えると混合物の結晶性が低下する傾向にある。その場合、結晶化速度指標や結晶融解熱量が低下しやすく、結果として、シートの耐熱性が低下したり、酷い場合には、熱プレス時にシート端面から糸状に樹脂のはみ出しが発生することがある。
【0024】
ここで、ポリエステル(I)が「実質的に非晶性である」とは、示差走査型熱量計を用いて、サンプル10mgを速度10℃/minで溶融状態からガラス転移温度まで降温しした後、再度溶融状態まで昇温した際に、結晶融解ピークが認められないことを指す。
【0025】
ポリエステル(I)のガラス転移温度は30〜120℃が好ましく、50〜100℃が特に好ましい。ガラス転移温度が30℃未満であるとシートの耐熱性が劣る場合があり、120℃を超えると熱プレス温度が比較的低温の場合に埋込み性が悪化する。
【0026】
ポリエステル(II)は、ポリエステル(I)との混合物の結晶化特性が上記範囲を満足すれば特に限定されないが、結晶性であることが好ましく、その融点は200℃以上であることが好ましい。200℃未満であるとシートの耐熱性に劣ったり、また、熱プレス時にシートの端部から(B)層がはみ出す場合がある。
【0027】
ポリエステル(II)としては、ポリエステル(A)と同様の結晶性芳香族ポリエステルやその共重合体、また、ポリエステル系エラストマーなどが例示できるが、耐熱性を埋込み性のバランスからポリエステル系エラストマーが特に好ましい。
【0028】
ポリエステル系エラストマーとは、高融点結晶性セグメントと低融点セグメントのブロック共重合体からなる。高融点結晶性セグメントは主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなり、低融点セグメントは脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる。ポリエステル系エラストマー(A)における高融点結晶性セグメントと低融点セグメントの共重合比率は、特に限定されないが、ポリエステル系エラストマー(A)中に低融点セグメントが5〜50質量%とすることが適当である。
【0029】
ポリエステル系エラストマーにおける高融点結晶性セグメントを構成する結晶性芳香族ポリエステルは、前述したポリエステル(A)として用いることができる成分と同様のものを用いることができる。
【0030】
ポリエステル系エラストマーにおいて、低融点セグメントを構成する脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。また、低融点セグメントを構成する脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが挙げられる。これらの脂肪族ポリエーテルおよび/または脂肪族ポリエステルのなかでも、得られるポリエステルブロック共重合体の弾性特性から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが好ましく、特にポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールが好ましく使用される。また、これらの低融点セグメントの数平均分子量としては、共重合された状態において300〜6000程度であることが好ましい。
【0031】
上記結晶化特性を有するポリエステル系エラストマーの好ましい構成としては、ポリブチレンテレフタレートとポリエーテルのブロック共重合体が挙げられ、ポリエーテルの共重合量は、好ましくは10〜40質量%、更に好ましくは15〜30質量%である。ポリエーテルの共重合量が少ないと柔軟化効果が小さく、一方、多すぎると耐熱性や結晶性が低下し過ぎる。このような範囲であると、ポリエステル系エラストマー(A)の融点、ガラス転移温度、結晶化指標、結晶融解熱量等を調整しやすい。
【0032】
ポリエステル系エラストマーは公知の方法で製造することができる。例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール、および低融点セグメント成分を触媒の存在下にエステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、あるいはジカルボン酸と過剰量のグリコールおよび低融点セグメント成分を触媒の存在下にエステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、また、あらかじめ高融点結晶性セグメントを作っておき、これに低融点セグメント成分を添加してエステル交換反応によりランダム化せしめる方法、高融点結晶性セグメントと低融点セグメントを鎖連結剤でつなぐ方法、さらにポリ(ε−カプロラクトン)を低融点セグメントに用いる場合は、高融点結晶性セグメントにε−カプロラクトンモノマを付加反応させる方法などが挙げられ、いずれの方法をとってもよい。
【0033】
ポリエステル(A)層および (B)層には、実用性を損なわない範囲で、有機や無機の染料や顔料、艶消し剤、熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、消泡剤、整色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶造核剤、増白剤、滑剤、不純物の捕捉剤、増粘剤、表面調整材などを添加してもよい。このうち、熱安定剤や、低分子量の揮発性不純物の捕捉剤を含むことが好ましい。熱安定剤として5価または/および3価のリン化合物や、ヒンダードフェノール系化合物などが好ましく、低分子量の揮発性不純物の捕捉剤としては、ポリアミドやポリエステルアミドのポリマーやオリゴマー、アミド基やアミン基を有した低分子量化合物などが好ましい。
【0034】
本発明の離型フィルムは、ポリエステル(A)層の厚みが1〜50μm、であることが好ましい。ポリエステル(A)層の厚みが1μm未満だと均一な膜を作成することが困難で、50μmを越えると埋込み性に劣る場合がある。ポリエステル(A)層の厚みは2〜30μmがより好ましい。ここでいう(A)層の厚みとは、2種3層構成のように(A)層が2層以上含まれている場合には、その1層分の厚みである。
【0035】
本発明の離型フィルムは、全体の厚みが30μm〜500μmであることが好ましい。全体の厚みを30μm以上とすることでシートの強度・剛性が高まって取扱いが容易になり、一方、500μmを越えると熱伝導性が増し、微細なパターンを有したプリント基板製造には適さない場合がある。全体の厚みは 30μm〜400μmであることがより好ましく、40μm〜300μmであることがさらに好ましい。
【0036】
本発明の離型フィルムの好ましい構成としては、ポリエステル(A)層と(B)層を用いた、(A)/(B)/(A)の2種3層構成が挙げられるが、これらに限定されず、(A)層が表層に配されていれば、さらに他の層を有していても構わない。
【0037】
次に本発明の離型フィルムの製造方法について説明する。
【0038】
本発明の離型フィルムの製造方法としては、例えば、水冷式又は空冷式共押出インフレーション法、共押出Tダイ法で製膜する方法が挙げられる。なかでも、共押出Tダイ法で製膜する方法が各層の厚み制御に優れる点から好ましい。
【0039】
本発明の離型フィルムの製造においては、フィルムに所定の熱特性を付与し、耐熱性、離型性、寸法安定性を向上させる目的で、結晶化工程を設けることが好ましい。結晶化方法としては、加熱結晶化、配向結晶化が挙げられるが、本用途では高温での寸法安定性が必要なため、実質的に配向させることなく、加熱による結晶化することが好ましい。加熱結晶化の方法としては、Tダイから押出後に冷却と同時に結晶化する方法や、押出後に一度固化し、その後再度ロールで直接加熱したり、熱風や赤外線等で間接的に加熱する方法が挙げられる。再加熱により結晶化する方法は工程が煩雑になるばかりか、ロールでの剥離不良や熱風、赤外加熱時にフィルムが弛んでフィルム品位が劣る場合があるため、冷却と同時に結晶化する方法が好ましい。冷却と同時に結晶化する場合には、結晶化速度を考慮して冷却ロールの温度を設定する必要があり、本発明の樹脂構成であれば、30〜100℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。
【0040】
本発明の離型フィルムは、(A)層と(B)層を積層したフィルム全体としての結晶融解熱量が25〜40J/gであることが好ましく、30〜40J/gが特に好ましい。25J/g未満では耐熱性に劣ったり、製膜作業性に劣り、45J/gを越えると埋込性が低下する。結晶融解熱量は、例えば、前記した結晶化工程において、冷却ロール温度を前記範囲で適宜調整することにより、所望の値とすることができる。
【0041】
本発明の離型フィルムは180℃における熱収縮率が5%以下であることが好ましく、2%であることがより好ましい。このような熱収縮率とすることでプレス時に熱板と接触してもシワになりにくく、プリント基板を製造する際の耐熱性が良好となる。
【0042】
本発明の離型フィルムにおいて、ポリエステル(A)層の表面状態は用途に応じて設計される。平滑性であってもよいし、作業性のためにスリップ性、アンチブロッキング性が付与されていてもよい。また、熱プレス成形時の空気抜けを目的として、少なくとも片面に適度のエンボス模様が設けられてもよい。このようなエンボス加工は、冷却ロールの表面加工により付与することもできる。
【0043】
本発明の離型フィルムは、柔軟性、耐熱性、離型性、非汚染性に優れ、安全かつ容易に廃棄処理できることから、プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板、又は、多層プリント配線板等の製造工程において、プリプレグ又は耐熱フィルムを介して銅張積層板又は銅箔を熱プレスする際に、プレス熱板とプリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板、又は、多層プリント配線板等との接着を防ぐ離型フィルムとして好適に用いられる。また、フレキシブルプリント基板の製造工程において、熱プレス成形によりカバーレイフィルムを熱硬化性接着剤で接着する際に、カバーレイフィルムと熱プレス板、又は、カバーレイフィルム同士の接着を防ぐ離型フィルムとしても好適に用いられる。前記いずれの使用においても、表層に配されたポリエステル(A)層を離型面として良好に使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
実施例及び比較例におけるフィルムの原料、および、特性値の測定法は、次の通りである。
Tmは融点、Tgはガラス転移温度の意味である。
【0045】
<結晶性ポリエステル(A)および(II)>
・PBT(ポリブチレンテレフタレート);三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバデュラン5010CS、Tm223℃、Tg34℃
・HTR7277(ポリエステル系エラストマー);東レ・デュポン社製ハイトレル7277、Tm221℃、Tg12℃
・HTR6377(ポリエステル系エラストマー);東レ・デュポン社製ハイトレル6377、Tm221℃、Tg3℃
・HTR4777(ポリエステル系エラストマー);東レ・デュポン社製ハイトレル4777、Tm200℃、Tg-35℃
上記2種のポリエステル系エラストマーは、いずれもポリブチレンテレフタレートとポリエーテルのブロック共重合体である。
【0046】
<非晶性ポリエステル(I)>
・PETG(1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエステル);イーストマンケミカル社製PETG6763、Tg80℃
・IP−22(イソフタル酸22mol共重合PET);IV0.65dl/g、Tg65℃、Sb触媒100ppm含有。
Tg70℃
【0047】
<その他>
・TPX(ポリメチルペンテン);三井化学社製DX845、Tm233℃、Tg20℃
【0048】
本発明における測定法を以下に示す。
【0049】
(A)結晶化特性
示差走査型熱量計(Perkin Elmer社製 Pyris1 DSC)を用い、サンプル10mgを速度20℃/minで260℃まで昇温し、融点(Tm)、結晶融解熱量(△Hm)を測定した。さらに、260℃で3分間ホールドした後、速度20℃/minで冷却し、結晶化ピーク温度(Tc)を測定した。融点と降温時結晶化ピーク温度の差を結晶化速度指標とした。
各層単独の特性は、各層の樹脂を厚み、押出速度、冷却ロール温度が同条件となるようにして製造したフィルムサンプルを作成し、これを用いて測定した。
なお、本実施例、比較例で用いたサンプルにおいては、DSC測定の昇温時に発熱ピークが認められなかった。すなわち、このときの結晶化は見られなかった。
【0050】
(B)製膜作業性
得られたフィルムの端部をカットした後のロール巻取り性と、巻取ったロールを40℃で1日保存後の状態を以下の基準に従って評価した。
○:ロール巻取り性に問題なく、保存後も状態に変化が認められない。
×:ロール巻取り時にシワなく巻き取ることが困難であり、保存後の状態には変化が認められなかった。
【0051】
(C)熱収縮性
得られたフィルムの長手方向(MD)および巾方向(TD)の熱収縮率を、以下の手順で測定した。サンプルフィルムを10mm×150mmにカットし、これに間隔100mmとなるように2本の標線を入れた試験片を5本作成した。得られた試験片を無荷重下で180℃のオーブン中に15分間熱処理した後、試験片を取り出して室温に戻して標線間距離を測定した。熱収縮率を下式に従い求め、5本の平均値を各サンプルフィルムの熱収縮率とした。
熱収縮率(%)=(L−L´)/A×100L:熱処理前の標線間距離(mm)、L´:熱処理後の標線間距離(mm)
【0052】
(D)性能評価
両面に20μmのエポキシ系接着剤(東亜合成社製AS−60)を塗布した25μmポリイミドフィルム(デュポン社製カプトン100V)の両側に、厚さ35μmの銅箔を積層して3層タイプの銅張積層板を作成した。その片面に20μmのエポキシ系接着剤(東亜合成社製AS−60)を塗布した25μm厚のポリイミドフィルム(デュポン社製カプトン100V)カバーレイフィルムをのせ、さらに両側を離型フィルムで挟んだ。このとき、離型フィルムのキャスト面が内側になるように配置した。その後、温度140℃および180℃、圧力3MPaで5分間熱プレスした。プレス後、素早く取り出して放冷した後、離型フィルムを剥し、以下の基準に従って耐熱性、埋込性、離型性の評価を行った。その際、カバーレイフィルムには直径5mmの真円状の孔を開けて接着剤のはみ出しの評価に用いた。
【0053】
(D−1)耐熱性
○:プレス後のフィルムにシワが認められない
△:プレス後のフィルムにシワが認められる
【0054】
(D−2)埋込性
カバーレイフィルム孔部の接着剤のはみ出しを顕微鏡にて観察し、以下の基準にて評価した。
◎:接着剤のはみ出しが50μm以下
○:接着剤のはみ出しが50μmを越え70μm以下
△:接着剤のはみ出しが70μmを越え100μm以下
×:接着剤のはみ出しが100μmを越える
【0055】
(D−3)離型性
◎:抵抗なく剥せる
○:やや抵抗はあるが積層板に影響なく剥がれる
△:抵抗はあるが、積層板の変形なく剥せる
×:抵抗が強く、剥離時に積層板の変形が伴う
【0056】
(D−4)耐汚染性
熱脱着GC−MSを用い、180℃、10分間の加熱でフィルムから発生するガスを無極性キャピラリーカラムを用いて分離し、検出されたピーク総面積のヘキサン換算量をフィルム重量で規格化し、これをアウトガス発生量とした。アウトガス発生量は少ない程好ましく、200ppm以下を良好と判断とした。
【0057】
[実施例1]
2台の独立した押出機に、ノバデュラン5010CS(A層)と、ハイトレル6377/PETGを75/25(質量比)の割合でドライブレンドしたもの(B層)を供給し、各々260℃で溶融押出しし、それぞれの溶融体をTダイの出口に至る前でA/B/Aの3層状に合流積層した後、Tダイ出口より押出し、ノバデュラン5010CS(A層)側を60℃に調整した冷却ロールに密着させて冷却して、層厚みがA/B/A=20/60/20(μm)の積層フィルムを得た。冷却ロールへの密着時間は6秒であった。
【0058】
[実施例2〜6、比較例1〜5]
実施例1において、(A)層の樹脂、層厚み構成、冷却ロール温度を表1記載のように変更したほかは、実施例1と同様の操作を行ってA/B/Aの構成を有する2種3層の積層フィルムを得た。
【0059】
[比較例6]
押出機に表1に示す樹脂を供給し、280℃で溶融させてTダイ出口より押出し、表1に示す温度に調整した冷却ロールに密着させて冷却して、表1に示す厚みを有する単層フィルムを得た。冷却ロールへの密着時間は6秒であった。
【0060】
[比較例7]
押出機に表1に示す樹脂を供給し、250℃で溶融させてTダイ出口より押出し、60℃に調整した冷却ロールに6秒間密着させた。しかし、フィルムは結晶化せず、しかも冷却ロールからの剥離性に劣った。そこで、フィルムを冷却ロールから外して、冷却ロールを80℃まで上昇させ、再度フィルムを密着させた。しかし、フィルムはやや結晶化したが冷却ロールからの剥離状況が著しく悪化したため、さらに冷却ロールを100℃まで上昇させた。再度フィルムを密着させた所、結晶化は進行し、剥離状況も良化したが完全ではなかった。密着時間を30秒にまで増加したが、剥離状況は完全には良化せず、得られたフィルムは平面性に劣っていた。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例1〜6に示すように、本発明で特定した範囲にあるシートは、離型フィルムとしての要求性能を全て満足し、特に、埋込性に優れるため精密なパターンを有するプリント基板にも対応でき、かつ、アウトガスも少なく耐汚染性にも優れるものであった。
【0063】
比較例1は、(B)層に非晶性ポリエステルを含有しておらず、結晶融解熱量も高かったため、埋込性に劣っていた。
比較例2は、(B)層に非晶性ポリエステルを含有しておらず、結晶融解熱量も高かったため、埋込性に劣っていた。比較例1と比べると、表層にポリエステル系エラストマーを配置したことで、180℃プレス時の埋込性は良化していたが、一方で離型性にはやや劣っていた。
比較例3は、(B)層の非晶性ポリエステル含有量が多すぎ、結果的に(B)層の結晶性が著しく低下して結晶化速度指標が高く、結晶融解熱量が低かったため、埋込性は良好であったが、耐熱性に劣っていた。
比較例4は、(A)層の結晶融解熱量が低かったため、製膜作業性が悪く、耐熱性、離型性にも劣っていた。
比較例5は、(B)層の結晶融解熱量が低かったため、耐熱性に劣っていた。さらに、(B)層の融点が低いこともあり、180℃プレス時にシート端面から糸状に樹脂のはみ出しが認められた。
比較例6は、離型フィルムとして広く使用されているポリメチルペンテンからなるフィルムであるが、アウトガス発生量が本発明のフィルムの約10倍と著しく多く、耐汚染性に劣るものであった。
比較例7は、結晶化速度指標が50℃を超える樹脂組成物を単層でフィルム化しようと試みたが、製膜性が悪く、性能評価ができなかった。このため複層化を断念した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層に配された結晶性ポリエステル(A)層と、ポリエステル(B)層とを有する積層フィルムであって、(A)層の結晶融解熱量が35〜50J/g、結晶化速度指標が50℃未満であり、(B)層の結晶融解熱量が20〜40J/g、結晶化速度指標が60℃未満であることを特徴とする離型フィルム。
【請求項2】
ポリエステル(B)層が、実質的に非晶性のポリエステル(I)を20〜50質量%と結晶性ポリエステル(II)を80〜50質量%含有するものである請求項1記載の離型フィルム。
【請求項3】
(B)層の非晶性ポリエステル(I)のガラス転移温度が30〜120℃である請求項2に記載の離型フィルム。
【請求項4】
結晶性ポリエステル(A)が、ポリブチレンテレフタレートである請求項1〜3いずれかに記載の離型フィルム。
【請求項5】
(B)層の結晶性ポリエステル(II)が、ポリブチレンテレフタレートとポリエーテルのブロック共重合体である請求項2〜4いずれかに記載の離型フィルム。


【公開番号】特開2011−88352(P2011−88352A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243492(P2009−243492)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】