説明

離型フィルム

本発明の目的は、高温での柔軟性、凹凸への追従性、耐熱性、離型性、非汚染性に優れ、かつ、使用後の廃棄が容易な離型フィルムを提供することである。 本発明は、プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板又は多層プリント配線板の製造工程において用いる離型フィルムであって、少なくとも一方の表面に、極性基を主鎖中に有する樹脂をマトリックスとし、かつ、ハロゲンの含有率が5重量%以下である樹脂組成物からなる層を有する離型フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板、多層プリント配線板等の製造工程において、プリプレグ又は耐熱フィルムを介して銅張積層板又は銅箔を熱プレスする際に離型フィルムが使用されている。また、フレキシブルプリント基板の製造工程において、電気回路を形成したフレキシブルプリント基板本体に、熱硬化型接着剤又は熱硬化性接着シートによってカバーレイフィルム又は補強板を熱プレス接着する際に、カバーレイフィルムとプレス熱板とが接着するのを防止するために、離型フィルムを用いる方法が広く行われている。
これらの用途に用いられる離型フィルムとしては、特開平2−175247号公報や特開平5−283862号公報に開示されているような、フッ素系フィルム、シリコン塗布ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリプロピレンフィルム等が用いられてきた。
近年、環境問題や安全性に対する社会的要請の高まりから、これらの離型フィルムに対しては、熱プレス成形に耐える耐熱性、プリント配線基板や熱プレス板に対する離型性といった機能に加えて、廃棄処理の容易性が求められるようになってきた。更に、熱プレス成形時の製品歩留まり向上のため、銅回路に対する非汚染性も重要となってきている。
しかしながら、従来から離型フィルムとして用いられているフッ素系フィルムは、耐熱性、離型性、非汚染性には優れているが、高価である上、使用後の廃棄焼却処理において燃焼しにくく、かつ、有毒ガスを発生するという問題点があった。また、シリコン塗布ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルペンテンフィルムは、シリコンや構成成分に含まれる低分子量体の移行によってプリント配線基板、とりわけ銅回路の汚染を引き起こし、品質を損なうおそれがあった。また、ポリプロピレンフィルムは耐熱性に劣り離型性が不充分であった。
また、特開2003−313313号公報には、少なくとも1種の熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂からなる樹脂100重量部、層状珪酸塩0.1〜100重量部を含有する樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する離型フィルムが記載されている。この離型フィルムは、フッ素系フィルムのように有毒ガスを発生することがなく、シリコン塗布ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルペンテンフィルムのように低分子量体の移行による汚染を引き起こすこともなく、しかも、耐熱性、離型性に極めて優れている。しかしながら、凹凸に対する追従性の点では不充分であり、熱プレス時に、複雑な電気回路が形成され表面に凹凸を有するプリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板、多層プリント配線板、フレキシブルプリント基板に対して充分には追従できないことがあるという問題があった。また、層状珪酸塩にはアウトガスの原因となる低分子量物質が必然的に付着していることから、この低分子量物質に起因するアウトガスがわずかながらも発生し、基板を汚染することがあるという問題もあった。
発明の要約
本発明は、高温での柔軟性、凹凸への追従性、耐熱性、離型性、非汚染性に優れ、かつ、使用後の廃棄が容易な離型フィルムを提供することを目的とする。
本発明は、プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板又は多層プリント配線板の製造工程において用いる離型フィルムであって、少なくとも一方の表面に、極性基を主鎖中に有する樹脂をマトリックスとし、かつ、ハロゲンの含有率が5重量%以下である樹脂組成物からなる層を有する離型フィルムである。
上記極性基を主鎖中に有する樹脂は、結晶性芳香族ポリエステルであることが好ましく、上記結晶性芳香族ポリエステルは、結晶成分としてブチレンテレフタレートを少なくとも含むことがより好ましい。このとき、上記結晶性芳香族ポリエステルは、結晶融解熱量が40J/g以上であることが好ましい。上記結晶性芳香族ポリエステルは、ガラス転移温度が0〜100℃であることが好ましい。
本発明の離型フィルムは、170℃、10分間加熱した場合のアウトガス発生量が200ppm以下であることが好ましい。
発明の詳細な開示
以下に本発明を詳述する。
なお、本明細書においてフィルムとは、フィルムばかりではなく、シートをも意味する。
本発明の離型フィルムは、プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板又は多層プリント配線板の製造工程において用いる離型フィルムである。即ち、本発明の離型フィルムは、例えば、プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板又は多層プリント配線板の製造工程において、プリプレグ又は耐熱フィルムを介して銅張積層板又は銅箔を熱プレス成形する際に用いることができる。また、本発明の離型フィルムは、例えば、フレキシブルプリント基板の製造工程において、熱プレス成形によりカバーレイフィルム又は補強板を熱硬化性接着剤又は熱硬化性接着シートで接着する際に用いることができる。
本発明の離型フィルムは、極性基を主鎖中に有する樹脂をマトリックスとし、かつ、ハロゲンの含有率が5重量%以下である樹脂組成物からなる層(以下、離型層ともいう)を有する。
上記離型層を構成する樹脂組成物は、ハロゲンの含有率が5重量%以下である。このような樹脂組成物からなる離型層を有する本発明の離型フィルムは、焼却してもハロゲンを含む有害な物質をほとんど生成することがない。好ましくは3重量%以下であり、より好ましくは1重量%以下である。1重量%未満であると、欧州での実質的なノンハロゲン物質認定が得られる。なお、ハロゲンの含有率は、通常のハロゲン分析計を用いることにより測定できる。
上記離型層を構成する樹脂組成物は、極性基を主鎖中に有する樹脂をマトリックスとする。このような樹脂をマトリックスとすることにより、本発明の離型フィルムは、優れた機械的性能、とりわけ、通常熱プレスを行う170℃程度の温度域において優れた機械的性能を発現することができる。
上記極性基を主鎖中に有する樹脂における極性基としては特に限定されないが、例えば、エステル基、アミド基、イミド基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等が挙げられる。
上記極性基を主鎖中に有する樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリエステル化合物、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド化合物、ポリイミド化合物等が挙げられる。これらの極性基を主鎖中に有する樹脂は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、ヘテロ原子を分子中に含まないため焼却処理時の環境負荷が軽減され、経済的にも有利であることから以下に述べる結晶性芳香族ポリエステルが好適である。
上記結晶性芳香族ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、低分子量脂肪族ジオールとを反応させることにより得ることができる。また、上記結晶性芳香族ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、低分子量ジオール及び高分子量ジオールとを反応させることによっても得ることができる(このようにして得られた結晶性芳香族ポリエステルを、以下、ポリエーテル骨格を主鎖中に有する結晶性芳香族ポリエステルともいう)。更に、上記結晶性芳香族ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、低分子量脂肪族ジオールとを反応させることによって得られる結晶性芳香族ポリエステルをカプロラクトンモノマーに溶解させた後、カプロラクトンを開環重合させることによっても得ることができる(このようにして得られた結晶性芳香族ポリエステルを、以下、ポリカプロラクトン骨格を主鎖中に有する結晶性芳香族ポリエステルともいう)。なかでも、ポリエーテル骨格を主鎖中に有する結晶性芳香族ポリエステル及び/又はポリカプロラクトン骨格を主鎖中に有する結晶性芳香族ポリエステルからなる離型フィルムは、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、低分子量脂肪族ジオールを反応させることにより得ることができる結晶性芳香族ポリエステルをからなる離型フィルムに比べて、耐熱性を維持しながら、柔軟性及び離型性が優れたものとなる。
上記芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、オルトフタル酸ジメチル、ナフタリンジカルボン酸ジメチル、パラフェニレンジカルボン酸ジメチル等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
上記低分子量脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
上記高分子量ジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
上記構成成分からなる結晶性芳香族ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、テレフタル酸ブタンジオールポリテトラメチレングリコール共重合体、テレフタル酸ブタンジオール−ポリカプロラクトン共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
上記結晶性芳香族ポリエステルは、結晶成分としてブチレンテレフタレートを少なくとも含むことが好ましい。ブチレンテレフタレート成分が含まれることにより、上記結晶性芳香族ポリエステルは、非汚染性及び結晶性に特に優れたものとなる。
上記結晶性芳香族ポリエステルがブチレンテレフタレート成分を結晶成分として含む場合には、本発明の離型フィルムは、結晶融解熱量が40J/g以上であることが好ましい。40J/g未満であると、熱プレス成形に耐え得る耐熱性を発現することができないことがあり、また、170℃における寸法変化率も大きくなり、熱プレス成形時に回路パターンを損なうおそれがある。より好ましくは50J/g以上である。結晶性を向上させ高い結晶融解熱量とするためには、結晶核剤等の結晶化を促進する添加剤を上記樹脂組成物に加えても良く、更に本発明の離型フィルムを製造する際に、溶融成形時の冷却温度を、上記芳香族ポリエステルのガラス転移温度以上に設定するのが好ましく、70〜150℃に設定することが更に好ましい。なお、上記結晶融解熱量は、示差走査熱量測定により測定することができる。
上記結晶性芳香族ポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と低分子量脂肪族ジオールとを反応させて得られる結晶性芳香族ポリエステルに、ポリエーテル骨格を主鎖中に有する結晶性芳香族ポリエステル及び/又はポリカプロラクトン骨格を主鎖中に有する結晶性芳香族ポリエステルを混合した混合樹脂であることが好ましい。このような混合樹脂は、ポリエーテル骨格及び/又はポリカプロラクトン骨格を主鎖中に含有しない結晶性芳香族ポリエステルからなるマトリックス中に、ポリエーテル骨格及び/又はポリカプロラクトン骨格を主鎖中に含有する結晶性芳香族ポリエステルが微小に分散することにより、耐熱性を維持しながら、優れた柔軟性を得ることができる。この混合樹脂からなる本発明の離型フィルムは、耐熱性及び離型性と、回路パターンやスルーホール等の基板上の凹凸形状への追従性とのバランスが非常に優れるものとなる。
上記結晶性芳香族ポリエステルとしては、ガラス転移温度が0〜100℃であることが好ましい。100℃を超えるとと、熱プレス成形時に要求される離型性が低下するとともに、柔軟性を発現することができず、回路パターンやスルーホール等の基板上の凹凸形状への追従性が低下することがあり、0℃未満であると、熱プレス成形時の離型性が低下するとともに、離型フィルムの取り扱い性が低下することがある。なお、本明細書においてガラス転移温度とは、動的粘弾性測定で得られる損失正接(tanδ)の極大のうちミクロブラウン運動に起因する極大が現れる温度を意味する。上記ガラス転移温度は、粘弾性スペクトロメーター等を用いた従来公知の方法により測定することができる。
本発明の離型フィルムは、170℃、10分間加熱した場合のアウトガス発生量が200ppm以下であることが好ましい。上記離型層を有することにより、本発明の離型フィルムは、離型フィルムとして要求される高温での柔軟性、凹凸への追従性、耐熱性、離型性等を満たしたうえで、アウトガスの発生を最小限に抑え、高い非汚染性を実現することができる。なお、上記アウトガス発生量は、ダイナミックヘッドスペース法ガスクロマトグラフィー分析等の従来公知の方法により測定することができる。
上記離型層を構成する樹脂組成物は、安定剤を含有してもよい。上記安定剤としては特に限定されず、例えば、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9−ビス{2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニロキシ〕−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等のヒンダードフェノール系酸化防止剤;トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル) ホスファイト、トリラウリルホスファイト、2−t−ブチル−α−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−p−クメニルビス(p−ノニルフェニル) ホスファイト、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスチリルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジトリデシル3,3’−チオジプロピオネート等の熱安定剤等が挙げられる。
上記離型層を構成する樹脂組成物は、実用性を損なわない範囲で、繊維、無機充填剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、無機物、高級脂肪酸塩等の添加剤を含有してもよい。
上記繊維としては特に限定されず、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、アモルファス繊維、シリコン・チタン・炭素系繊維等の無機繊維;アラミド繊維等の有機繊維等が挙げられる。
上記無機充填剤としては特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、マイカ、タルク等が挙げられる。
上記難燃剤としては特に限定されず、例えば、ヘキサブロモシクロドデカン、トリス−(2,3−ジクロロプロピル) ホスフェート、ペンタブロモフェニルアリルエーテル等が挙げられる。
上記紫外線吸収剤としては特に限定されず、例えば、p−t−ブチルフェニルサリシレート、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノン等が挙げられる。
上記帯電防止剤としては特に限定されず、例えば、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アルキルアミン、アルキルアリルスルホネート、アルキルスルファネート等が挙げられる。
上記無機物としては、例えば、硫酸バリウム、アルミナ、酸化珪素等が挙げられる。
上記高級脂肪酸塩としては、例えば、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸バリウム、パルミチン酸ナトリウム等が挙げられる。
上記離型層は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。上記離型層が多層構造である場合、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と低分子量脂肪族ジオールとを反応させて得られる結晶性芳香族ポリエステルを表層とし、高温での柔軟性に優れかつ上記結晶性芳香族ポリエステルとの界面接着性に優れた樹脂組成物、例えば、テレフタル酸ブタンジオールポリテトラメチレングリコール共重合体、ポリエチレン−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート等の非晶性ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド−ポリテトラメチレングリコール共重合体、又は、スチレン系熱可塑性エラストマーを中層とすることにより、プレス成形時の離型性を維持しながら柔軟性を付与することができ、離型性と、回路パターンやスルーホール等の基板上の凹凸形状への追従性とのバランスが非常に優れた離型フィルムを得ることができる。
上記離型層が2層構造である場合には、一方の層の170℃における貯蔵弾性率が他方の層の170℃における貯蔵弾性率よりも低いことが好ましい。また、上記離型層が3層以上の多層構造である場合には、中間層のうち少なくとも1層の170℃における貯蔵弾性率が表面層の170℃における貯蔵弾性率よりも低いことが好ましい。このような構造をとることにより、プレス成形時の離型性を維持しながら柔軟性を付与することができ、離型性と回路パターンやスルーホール等の基板上の凹凸形状への追従性とのバランスが非常に優れた離型フィルムとして用いることができる。
上記離型層の表面は、平滑性を有することが好ましいが、ハンドリングに必要なスリップ性、アンチブロッキング性等が付与されていてもよく、また、熱プレス成形時の空気抜けを目的として、少なくとも片面に適度のエンボス模様が設けられてもよい。
上記離型層は、耐熱性、離型性、寸法安定性を向上させるために、熱処理が施されてもよい。熱処理温度は上記離型層を構成する樹脂組成物の融点よりも低い温度であれば高温であるほど効果的であり、170℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。上記離型層の耐熱性、離型性、寸法安定性を向上させる他の方法としては、例えば、1軸又は2軸方向に延伸する方法、表面を固体により摩擦処理する方法等が挙げられる。
本発明の離型層の厚さの好ましい下限は5μm、上限は200μmである。5μm未満であると、強度が不足することがあり、200μmを超えると熱プレス成型時の熱伝導率が悪くなることがある。より好ましい下限は10μm、上限は100μmである。
上記離型層は、溶融成形法により作製することができる。上記溶融成形法としては特に限定されず、例えば、空冷又は水冷インフレーション押出法、Tダイ押出法等の従来公知の熱可塑性樹脂フィルムの成膜方法があげられる。また、上記離型層が多層構造を有する場合には、例えば、共押出Tダイ法等により製造することができる。
上記離型層は、上述の構成からなることにより、極めて優れた機械的性能を発揮することができる。即ち、上記離型層は、通常熱プレスを行う170℃において、貯蔵弾性率が20〜200MPaであり、100%伸び荷重が49〜490mN/mmであり、引張破断伸びが500%以上であり、かつ、170℃において荷重3MPaで60分間加圧した場合の寸法変化率が1.5%以下である。このような機械的性能を発揮できることにより、本発明の離型フィルムは、プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板又は多層プリント配線板の製造工程において用いる離型フィルムとして極めて好適である。
170℃における貯蔵弾性率が20MPa未満であると、熱プレス成形に耐え得る耐熱性を発現することができないことがあり、200MPaを超えると、熱プレス成形時にシートが充分変形しないため、回路パターン、スルーホール等基板上の凹凸形状への追従性が低下し、例えばフレキシブルプリント基板におけるカバーレイフィルムの回路パターンへの均一な密着性が低下することがある。より好ましい上限は150MPa、更に好ましい上限は100MPaである。なお、上記貯蔵弾性率は、通常行われる動的粘弾性測定により測定でき、粘弾性スペクトロメーターによって測定することができる。
170℃における100%伸び荷重が49mN/mm未満であると、離型フィルムとして用いた場合に、熱プレス成形に耐えうる耐熱性を発現することができないことがあり、490mN/mmを超えると、熱プレス成形時に充分に変形しないため、回路パターンやスルーホール等基板上の凹凸形状への追従性が低下し、例えば、フレキシブルプリント基板におけるカバーレイフィルムの回路パターンへの均一な密着性が低下する。なお、上記100%伸び荷重とは、一般的な引張試験においてひずみが100%に達したときの荷重であり、JIS K 7127に準拠した方法により測定することができる。
170℃における引張破断伸びが500%未満であると、熱プレス成形時に基板上の凹凸形状への追従時に裂けてしまうことがあり、基板を汚染する恐れがある。より好ましくは800%以上である。なお、本発明における破断伸びはJIS K 7127に準拠した方法により測定することができる。
170℃において荷重3MPaで60分間加圧した場合の寸法変化率が1.5%を超えると、熱プレス成形時に回路パターンを損なう恐れがある。より好ましくは1.0%以下である。
上記離型層は、ポリイミド及び/又は金属箔と重ね合わせて、170℃において3MPaで60分間加圧されたときに、上記ポリイミド及び/又は金属箔に対して高い離型性を有する。なお、上記離型性を有するとは、加圧処理後にポリイミド及び/又は金属箔とシート又はフィルムとの間に発生する剥離力が低く、引き剥がし時にポリイミド及び/又は金属箔やシート又はフィルムが破損しないことを意味する。
上記離型層は、更に、23℃程度の室温域においても極めて優れた機械的性能を発揮する。即ち、上記離型層は、通常の作業を行う23℃において、貯蔵弾性率が1000〜5000MPaであり、引裂強度が98N/mm以上である。このような機械的性能を発揮できることにより、本発明の離型フィルムは、取り扱い性に極めて優れ、プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板又は多層プリント配線板の製造工程において熱プレス成形する際に用いる離型フィルムや、フレキシブルプリント基板の製造工程において、熱プレス成形によりカバーレイフィルム又は補強板を熱硬化性接着剤又は熱硬化性接着シートで接着する際に用いる離型フィルムとして極めて好適である。
23℃における貯蔵弾性率が1000MPa未満であると、室温での機械強度が低下するため、プレス成形後の引き剥がし工程において強度が不足し、室温でのシート又はフィルムのハンドリング性も低下することがあり、5000MPaを超えると、プレス成形時の凹凸形状への追従性に悪影響を与える。
23℃における引裂強度が98N/mm未満であると、離型フィルムとして用いた場合に、プレス成形後の引き剥がし工程において強度が不足し、回路への樹脂付着が発生することがある。このような回路への樹脂付着は導電性を著しく損ない、プリント基板全体が不良品となってしまう。なお上記引裂強度は、JIS K 7128 C法(直角形引裂法)に準拠する方法により測定することができる。
本発明の離型フィルムは、上記離型層のみからなるものであってもよいし、上記離型層の他に、樹脂フィルム層を有していてもよい。上記離型層が樹脂フィルム層の少なくとも片面に積層された本発明の離型フィルムは、熱プレス成形の際に圧力を均一にかけるためのクッション性や強度を有する。
上記樹脂フィルム層を構成する樹脂としては特に限定されないが、使用後の廃棄の容易さから、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のオレフィン系樹脂が好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。また、上記離型層との接着性を向上させるために、酸変性ポリオレフィン、グリシジル変性ポリオレフィン等の変性ポリオレフィンや、上記離型層を構成する樹脂等を含有してもよい。また、上記樹脂フィルム層を構成する樹脂の融点は、プリプレグや熱硬化性接着剤のスルーホールへのしみだしを抑制し、回路パターンへの均一な密着性を得るため、50〜130℃であることが好ましい。更に、上記樹脂フィルム層を構成する樹脂の170℃における複素粘性率は、回路パターンへの均一な密着性を得るため、100〜10000Pa・sであることが好ましい。
上記樹脂フィルム層を有する本発明の離型フィルムは、全体としての軟化温度が40〜120℃であることが好ましい。この範囲内であると、プリプレグや熱硬化性接着剤のスルーホールへのしみだしを抑制し、回路パターンへの均一な密着性を得ることができる。なお、上記軟化温度の測定はJIS K7196に準拠して行うことができる。
上記樹脂フィルム層を有する本発明の離型フィルムを製造する方法としては特に限定されず、例えば、水冷式又は空冷式共押出インフレーション法;共押出Tダイ法で製膜する方法;予め作製した上記離型層上に樹脂フィルム層を構成する樹脂組成物を押出ラミネーション法にて積層する方法;予め別々に作製した上記離型層と樹脂フィルム層等とをドライラミネーションする方法等が挙げられる。なかでも、共押出Tダイ法で製膜する方法が各層の厚み制御に優れる点から好ましい。
本発明の離型フィルムは、高温での柔軟性、耐熱性、離型性、非汚染性に優れ、安全かつ容易に廃棄処理できることから、プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板又は多層プリント配線板の製造工程において用いる離型フィルムとして極めて好適である。即ち、本発明の離型フィルムは、例えば、プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板又は多層プリント配線板の製造工程において、プリプレグ又は耐熱フィルムを介して銅張積層板又は銅箔を熱プレス成形する際に用いることができる。また、本発明の離型フィルムは、例えば、フレキシブルプリント基板の製造工程において、熱プレス成形によりカバーレイフィルム又は補強板を熱硬化性接着剤又は熱硬化性接着シートで接着する際に用いることができる。
本発明の離型フィルムは、更に、ガラスクロス、炭素繊維、又は、アラミド繊維とエポキシ樹脂とからなるプリプレグをオートクレーブ中で硬化させて製造される釣竿、ゴルフクラブ・シャフト等のスポーツ用品や航空機の部品を製造する際の離型フィルム、ポリウレタンフォーム、セラミックシート、電気絶縁板等を製造する際の離型フィルムとしても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
(1)離型フィルムの作製
樹脂組成物としてハイトレル2751(東レ・デュポン社製)を用い、押出機を用いて250℃で溶融可塑化し、Tダイスより押出成形して厚さ50μmの離型フィルムを得た。
(2)樹脂フィルムの作製
低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリケム社製:ノバテックLD LE425)を押出機で230℃に加熱して溶融可塑化し、Tダイスより押出成形して、厚さ100μmの樹脂フィルムを得た。
(3)銅張り積層板の作製
厚さ25μmのポリイミドフィルム(デュポン製:カプトン)をベースフィルムとし、ベースフィルム上に厚さ35μm、厚さ50μmの銅箔が厚さ20μmのエポキシ系接着剤層で接着された銅張り積層板を得た。
(4)カバーレイフィルムの作製
厚さ25μmのポリイミドフィルム(デュポン社製:カプトン)上に、流動開始温度80℃のエポキシ系接着剤を厚さ20μmで塗布してカバーレイフィルムを得た。
(5)フレキシブルプリント基板の作製
得られた離型フィルム、銅張り積層板、カバーレイフィルム、離型フィルム、及び、樹脂フィルムをこの順に重ね合わせたものを1セットとして、32セットを熱プレスに載置し、プレス温度170℃、プレス圧3MPa、プレス時間45分間の条件で熱プレス成形した後、プレス圧を開放し、樹脂フィルムを取り除き、離型フィルムを引き剥がして、フレキシブルプリント基板を得た。
得られたフレキシブルプリント基板のカバーレイフィルムは、基板本体と完全に密着しており、空気の残存部分は認められなかった。カバーレイフィルムのない部分の銅箔からなる電極部分からも離型フィルムは完全に剥離しており、電極部分は銅箔が完全に露出していた。また、電極部分の導電性は充分であった。更に、カバーレイフィルムのない部分での銅箔表面への接着剤の流れ出しは、カバーレイフィルム端部より0.1mm以下であり、接着剤の流れ出し防止効果も充分であった。また、回路の変形も全く見られなかった。
【実施例2】
樹脂組成物としてハイトレル5557(東レ・デュポン社製)を用いて押出機で250℃で溶融可塑化し、Tダイスより押出成形して厚さ50μmの離型フィルムを作製し、これを用いた以外は実施例1と同様の方法によりフレキシブルプリント基板の作製を行った。
【実施例3】
樹脂組成物としてペルプレンS9001(東洋紡績製)を用いて押出機で250℃で溶融可塑化し、Tダイスより押出成形して厚さ50μmの離型フィルムを作製し、これを用いた以外は実施例1と同様の方法によりフレキシブルプリント基板の作製を行った。
【実施例4】
樹脂組成物としてペルプレンS3001(東洋紡績製)を用いて押出機で250℃で溶融可塑化し、Tダイスより押出成形して厚さ50μmの離型フィルムを作製し、これを用いた以外は実施例1と同様の方法によりフレキシブルプリント基板の作製を行った。
【実施例5】
樹脂組成物としてノバデュラン5040ZS(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)を用いて押出機で250℃で溶融可塑化し、Tダイスより押出成形して厚さ50μmの離型フィルムを作製し、これを用いた以外は実施例1と同様の方法によりフレキシブルプリント基板の作製を行った。
【実施例6】
樹脂組成物としてノバデュラン5040ZS(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)70重量部とハイトレル7247(東レ・デュポン社製)30重量部とを混合したものを用い、押出機で250℃で溶融可塑化し、Tダイスより押出成形して厚さ50μmの離型フィルムを作製し、これを用いた以外は実施例1と同様の方法によりフレキシブルプリント基板の作製を行った。
【実施例7】
樹脂組成物としてノバデュラン5040ZS(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)70重量部とペルプレンS6001(東洋紡績社製)30重量部とを混合したものを用い、押出機で250℃で溶融可塑化し、Tダイスより押出成形して厚さ50μmの離型フィルムを作製し、これを用いた以外は実施例1と同様の方法によりフレキシブルプリント基板の作製を行った。
【実施例8】
樹脂組成物としてシーラーPT7001(デュポン製)を用い、押出機で290℃で溶融可塑化し、Tダイスにより押出成形した後、これを2倍に縦延伸し、230℃でアニールすることにより50μmの離型フィルムを作製し、これを用いた以外は実施例1と同様の方法によりフレキシブルプリント基板の作製を行った。
【実施例9】
3層共押出機を用いて、ノバデュラン5040ZS(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)からなる厚さ10μmの層と、ハイトレル7247(東レ・デュポン社製)からなる厚さ30μmの層と、ノバデュラン5040ZS(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)からなる厚さ10μmの層とがこの順に重なった3層構造の離型フィルムを作製し、これを用いた以外は実施例1と同様の方法によりフレキシブルプリント基板の作製を行った。
(比較例1)
樹脂組成物としてノバテックPP FB3GT(日本ポリケム社製)を用い、押出機で250℃で溶融可塑化し、Tダイスより押出成形して厚さ50μmの離型フィルムを作製し、これを用いた以外は実施例1と同様の方法によりフレキシブルプリント基板の作製を行った。
(比較例2)
離型フィルムとしで、厚み50μmのポリメチルペンテンからなるオピュランX−88B(三井化学製)を用いたこと以外、実施例1と同様の方法によりフレキシブルプリント基板の作製を行った。
(比較例3)
熱可塑性樹脂としてハイトレル5557(東レ・デュポン社製)100重量部、ジステアリルジメチル4級アンモニウム塩で有機化処理が施された天然モンモリロナイト(豊順洋行社製、New S−Ben D)7.7重量部を押出機に投入し、230℃で溶融可塑化しTダイスより押出成形して厚さ50μmのフィルムを作製し、これを用いた以外は実施例1と同様の方法によりフレキシブルプリント基板の作製を行った。
実施例1〜9及び比較例1〜3で作製した離型フィルムについて、下記の方法により結晶融解熱量、貯蔵弾性率、ガラス転移温度、引張破断伸び、寸法変化率及びアウトガス発生量を測定した。
また、これらの離型フィルムを用いたフレキシブルプリント基板の作製において、剥離性、密着性と、作製後のフレキシブルプリント基板の電極汚染、回路変形を目視により評価した。
これらの結果及び各離型フィルムの原料及び構成を表1〜4に示した。
(結晶融解熱量の測定)
示差走査熱量計(TAインスツルメント製DSC 2920)を用い、昇温速度5℃毎分で測定を行った。
(貯蔵弾性率の測定)
粘弾性スペクトロメーター(レオメトリックサイエンティフィックエフイー社製、RSA−11)を用い、昇温速度5℃/分、周波数10Hz、ひずみ0.05%で測定を行い、23℃及び170℃における貯蔵弾性率を測定した。
(ガラス転移温度の測定)
粘弾性スペクトロメーター(レオメトリックサイエンティフィックエフイー社製、RSA−11)を用い、昇温速度5℃/分、周波数10Hz、ひずみ0.05%で測定を行い、得られる損失正接(tanδ)の極大が現れる温度をガラス転移温度とした。
(引張破断伸びの測定)
JIS K 7127に準拠し、2号型の打ち抜き試験片について、170℃、試験速度500mm毎分で測定を行った。
(引裂強度の測定)
JIS K 7128 C法に準拠し、直角形引裂試験打ち抜き片について、23℃、試験速度500mm毎分で測定を行った。
(100%伸び荷重の測定)
JIS K 7127に準拠し、2号型の打ち抜き試験片について、170℃、試験速度500mm毎分で測定を行った。
(寸法変化率の測定)
離型フィルムの表面に、押出成形の方向(MD方向)及びそれに対して直角方向(TD方向)に100mm間隔の標線をそれぞれ記入した。離型フィルムを170℃、荷重3MPaで60分間プレスを行った後、標線間距離の測定を行い、32セットの平均値をLMD、LTDとした。下記式により各方向における寸法変化率を算出した。
MD方向の寸法変化率(%)=(LMD−100)/100×100
TD方向の寸法変化率(%)=(LTD−100)/100×100
(アウトガス発生量の測定)
熱脱着装置としてパーキンエルマー社製ATD−400を用い、ダイナミックヘッドスペース法により25mL毎分の不活性ガス気流下、170℃、10分間の加熱でフィルムから発生するガスを補集した。これを、無極性キャピラリーカラムを接続した日本電子製AutomassII−15を用いて分離し、検出されたピーク総面積のトルエン換算量をフィルム重量で規格化し、これをアウトガス発生量とした。




【産業上の利用可能性】
本発明によれば、高温での柔軟性、凹凸への追従性、耐熱性、離型性、非汚染性に優れ、かつ、使用後の廃棄が容易な離型フィルムを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板又は多層プリント配線板の製造工程において用いる離型フィルムであって、
少なくとも一方の表面に、極性基を主鎖中に有する樹脂をマトリックスとし、かつ、ハロゲンの含有率が5重量%以下である樹脂組成物からなる層を有することを特徴とする離型フィルム。
【請求項2】
極性基を主鎖中に有する樹脂は、結晶性芳香族ポリエステルであることを特徴とする請求の範囲第1項記載の離型フィルム。
【請求項3】
結晶性芳香族ポリエステルは、結晶成分としてブチレンテレフタレートを少なくとも含むことを特徴とする請求の範囲第2項記載の離型フィルム。
【請求項4】
結晶融解熱量が40J/g以上であることを特徴とする請求の範囲第3項記載の離型フィルム。
【請求項5】
結晶性芳香族ポリエステルは、ガラス転移温度が0〜100℃であることを特徴とする請求の範囲第2、3又は4項記載の離型フィルム。
【請求項6】
170℃、10分間加熱した場合のアウトガス発生量が200ppm以下であることを特徴とする請求の範囲第1、2、3、4又は5項記載の離型フィルム。

【国際公開番号】WO2005/066246
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【発行日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513096(P2005−513096)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016905
【国際出願日】平成15年12月26日(2003.12.26)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】