説明

離型剤の評価方法および評価装置

【課題】信頼性の高い離型性評価が可能なラボレベルの離型剤評価方法と、その評価方法を実施するための評価装置を提供する。
【解決手段】注湯室がピストン/シリンダー構造で構成され、ピストンの先端面には基端部側でピストンと同径であり先端部側にむかってテーパー状に縮径した形状を持つスペーサーを仮付けし、ピストンの先端面からはスペーサーを貫通してシリンダー室内へ突出した金属製のテストピースを設け、かつピストンには抜き抵抗値の測定手段を連結している離型剤の評価装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は離型剤の評価方法および評価装置に関する。更に詳しくは本発明は、ダイカスト成形用離型剤の離型性の評価方法であって、ダイカストの加工現場での離型剤使用との相関性が高く、かつ正確な離型性評価が可能なラボ(実験室)レベルの評価方法と、金型面から細く突出する金型部分に離型剤を適用する場合における離型剤のラボレベルの評価方法と、これらの評価方法を実施するための評価装置に関する。
【0002】
本発明において「ダイカスト成形」とは、要するに溶融金属を型内に鋳込む成型をいう。ダイカスト成形としては、限定はされないが、例えば、低圧鋳造法、高圧鋳造法、真空ダイカスト法、スクイズダイカスト法、無孔性ダイカスト法、局部加圧ダイカスト法、NI法、半溶融ダイカスト法、半凝固ダイカスト法、アンダーカット成型法、低速充填ダイカスト法、高真空ダイカスト法等を挙げることができる。
【背景技術】
【0003】
ダイカスト離型剤の離型性を評価するに当たり、実際の鋳込み装置を用いた、いわゆる実鋳込み試験を行うことも可能である。しかし、実鋳込み試験による評価では、時間と費用がかかり、場合によっては焼き付きを引き起こし、金型故障を招く恐れもある。そのため、簡易かつ迅速に評価を実行できるラボレベルの評価方法であって、しかもダイカスト加工現場での離型剤使用との相関性が高く正確な離型性評価が可能な評価方法と、これを行うための評価装置が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−53980号公報。 この特許文献1では、実際に使用される量産用金型による鋳込み確認試験(実鋳込み)の例を開示している。
【0005】
【特許文献2】特開2005−9971号公報。 この特許文献2では、離型剤のラボレベルの評価方法の例を開示している。即ち、加熱した金属ブロック(テストピース)の表面に離型剤を塗布したもとで、筒状金属体をその下端部を塞ぐようにテストピースの表面上に載置する。そして筒状金属体に溶湯を注湯し、溶湯が固化した後に、筒状金属体をテストピースの表面沿いの方向へ押出し、又は引張ることにより、筒状金属体及びその内部の鋳物がテストピースから離れる時の押出し力または引張り力を測定している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した特許文献2の評価方法では、加圧条件下での鋳込みではなく、無加圧の自然鋳造による評価を行っている。このようなラボレベルの評価方法は、近時のダイカスト加工現場の事情、即ち、アルミニウム製等のダイカスト製品の精度や鋳肌、強度向上のために、鋳造時に高加圧するという実情を反映していない。鋳造時に高加圧した場合の離型剤の評価結果は、通常の大気圧下で鋳造した場合とは異なると考えられる。
【0007】
又、特許文献2の評価方法では、加熱したテストピースに対して離型剤をスプレーしている。この場合、テストピースの加熱温度によって離型剤ごとに付着性や蒸発性が異なるため、テストピース上の離型剤の塗布膜厚が変わる。従って、離型剤の離型性能の他に付着性能や蒸発性能も混入した評価となり、離型性能のみを正確に評価することができないという不具合がある。
【0008】
更に、以上のような従来技術の問題点と併せて、あるいはこれらの問題点とは別に、ダイカスト金型において、金型のピン部のように、金型面からキャビティ内部へ細く突出する金型部分では、その内部に冷却管を通すことができないため、離型に関する特有の問題、例えば、加工直後のダイカスト製品の収縮に伴うピンへの張り付きによるカジリ(金型に溶着した金属が原因で発生するダイカスト製品の疵)が問題視されている。このような問題は、単に板状のテストピースを金型に見立てる従来のラボレベルの評価方法では全く評価することができず、金型面からの細い突出部分に適用する場合の離型剤の離型性を有効に評価できる新たなラボレベルの評価方法や、その評価装置が求められる。
【0009】
そこで本発明は、(1)ダイカスト加工現場での離型剤使用との相関性が高く、かつ正確な離型性評価が可能なラボレベルの評価方法と、(2)金型面から細く突出する金型部分に離型剤を適用する場合における離型剤のラボレベルの評価方法と、これらの評価方法を実施するための評価装置を提供することを、解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(第1発明)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、注湯室の少なくとも一部を構成する金属製のテストピースに離型剤を塗布したもとで、注湯室に溶湯を充填して固化させた後、固化物をテストピースから引離す際の抵抗を測定して離型剤の離型性を評価する方法であって、注湯室へ充填した溶湯を加圧しながら冷却固化させる、離型剤の評価方法である。
【0011】
上記の第1発明において、溶湯とはダイカスト成形の対象である溶融金属を言い、注湯とは注湯室への溶融金属の充填を言う。更に、テストピースとは金型もしくはその一部に見立てた、離型剤の評価を行うための金属部材を言う。以下の各発明においても同様である。更に、第1発明においては、加熱していないテストピースに離型剤を塗布するか、又は所定温度に加熱したテストピースに離型剤を塗布するかは、限定されない。
【0012】
第1発明によれば、(1)のように注湯室へ充填した溶湯を加圧しながら冷却固化させることにより、ダイカスト製品の精度や鋳肌、強度向上のため鋳造時に高加圧するという近時のダイカスト加工現場での離型剤使用の実情を反映した離型剤の評価が可能となる。
【0013】
従って、ダイカスト加工現場での離型剤使用との相関性が高く、かつ正確な離型性評価が可能なラボ評価方法が提供される。
【0014】
(第2発明)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係る離型剤の評価方法において、加熱していないテストピースに離型剤を塗布する、離型剤の評価方法である。
【0015】
第2発明によれば、前記第1発明の効果に加え、加熱していないテストピースに離型剤を塗布することにより、離型性能の他に付着性能や蒸発性能も混入した評価となることが防止され、離型剤の離型性能のみを正確に評価することができる。
【0016】
従って、ダイカスト加工現場での離型剤使用との相関性が一層高く、かつ更に正確な離型性評価が可能なラボ評価方法が提供される。
【0017】
(第3発明)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、金属製の棒状部材であるテストピースであって表面に離型剤を塗布したものを、注湯室に設けた孔に室外側から密に差込んだ状態において、注湯室に溶湯を充填して冷却固化させた後、固化物からテストピースを引抜く際の抵抗を測定して離型剤の離型性を評価する、離型剤の評価方法である。
【0018】
上記の第3発明において、「密に」とは、「溶湯が通過しない程に緊密に」という意味であり、より好ましくは「加圧された溶湯が通過しない程に緊密に」という意味である。以下の各発明においても同様である。
【0019】
第3発明によれば、表面に離型剤を塗布した金属製の棒状テストピースを注湯室に密に差込んだ状態において、その周囲に溶湯を充填して冷却固化させた後、テストピースを固化物から引抜く際の抵抗を測定して離型剤の離型性を評価する。そのため、実鋳込みの現場において、金型面からキャビティ内部へ細く突出する金型部分での離型に関する特有の問題、例えば、冷却不足に伴う離型剤の付着量低下等という不具合や、製品収縮に伴うピンへの張り付きによるカジリ等の問題を忠実に反映した離型剤の離型性評価を行うことが可能である。従って、金型面から細く突出する金型部分に離型剤を適用する場合における、離型剤についてのラボレベルの有効な評価方法が提供される。
【0020】
(第4発明)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、前記第3発明に係る離型剤の評価方法において、離型剤の離型性の評価を、注湯室へ充填した溶湯を加圧しながら冷却固化させるという条件下に行う、離型剤の評価方法である。
【0021】
第4発明によれば、上記の第3発明において、前記の第1発明と同じ効果を得ることができる。なお、第4発明においては、第1発明の場合と同様に、加熱していないテストピースに離型剤を塗布するか、又は所定温度に加熱したテストピースに離型剤を塗布するかは、限定されない。
【0022】
(第5発明)
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、前記第3発明又は第4発明に係る離型剤の評価方法において、離型剤の離型性の評価を、加熱していないテストピースに離型剤を塗布するという条件下に行う、離型剤の評価方法である。
【0023】
第5発明によれば、前記第3発明及び第4発明の効果に加え、前記の第2発明と同じ効果を得ることができる。なお、第5発明において、離型剤を塗布すべきテストピースは加熱しないが、注湯室は注湯時において必要な程度に加温しておくことが、「溶湯を加圧しながら冷却固化させる」という条件の実現のために好ましく、あるいは必要である。
【0024】
(第6発明)
上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、前記第3発明〜第5発明のいずれかに係る離型剤の評価方法において、ピストン/シリンダー機構におけるピストンの先端面に、ピストンと接する基端部側においてシリンダーの内径と同径であると共に先端部側にむかってテーパー状に僅かに縮径した形状を持つスペーサーを仮付けし、ピストンの先端面からはスペーサーを密に貫通してシリンダー室内方向へ突出した金属製の棒状部材であるテストピースを設けており、このテストピースの表面に離型剤を塗布した状態において、スペーサーとシリンダーによって構成された注湯室に溶湯を充填してピストンで加圧し、その加圧下に冷却固化させた後、スペーサーを固化物側に残したままで、固化物からテストピースを引抜く際の抵抗を測定して離型剤の離型性を評価する、離型剤の評価方法である。
【0025】
上記の第6発明において、「ピストンの先端面にスペーサーを仮付けし」とは、ピストンの先端面に対してスペーサーを、分離可能な程度の比較的弱い力で接合させることをいう。「仮付け」の手段としては、例えば磁力を利用したり、接着剤を用いたりすることができる。
【0026】
第6発明によれば、ダイカスト鋳造の現場に即したピストン/シリンダー機構によって鋳造時に容易に高加圧を与えることができると同時に、溶湯の冷却固化の後にはピストンの先端部を構成していたスペーサーを溶湯固化物側に残したままで、固化物からテストピースを引抜く際の抵抗を測定して、離型剤の離型性を評価することができる。従って、ピストンの先端部を構成していたスペーサーと溶湯固化物との固着力は、離型性評価から合理的に捨象される。
【0027】
又、第6発明のピストン/シリンダー機構において、実際の問題として、ピストンの先端側を構成するスペーサーをテーパー状に僅かに縮径させなければ、そのシリンダーへの進入(注湯室の加圧)が困難である。そして、シリンダーに充填された溶湯をピストンによって加圧する際、スペーサーの縮径部とシリンダー壁部の隙間に溶湯が圧入され、これが固化後のバリとなってスペーサーをシリンダー側に強く固定する。そのため、固化物からテストピースを引抜く際に、ピストンに仮付けされていたスペーサーが、確実にピストン及びテストピースから引き離されて固化物側に残る。
【0028】
なお、溶湯の固化物からテストピースを引抜く際の抵抗を測定する手段に関して、その測定手段をピンのような細い金属製の棒状部材であるテストピース自体に設定できる場合は別として、実際には、測定手段をピストンに連結し、ピストン動作に対する抵抗を測定する方法が通常であると考えられる。その場合には、得られる測定値は、溶湯の固化物からテストピースを引抜く際の抵抗値「A」と、ピストンを仮付けのスペーサーから引き離す際の抵抗値「B」との合計値である。したがって、例えば溶湯が充填されていない状態での同上のピストン動作に対する抵抗値「B」をコントロールとして予め測定しておき、実際の測定値「A+B」からコントロール値「B」を差し引けば抵抗値「A」が得られる。このような演算を測定手段と連結したコンピュータで行い、抵抗値「A」を自動的に出力するように設定することもできる。
【0029】
(第7発明)
上記課題を解決するための本願第7発明の構成は、溶湯を充填するための注湯室がピストン/シリンダー構造によって構成され、そのピストンの先端面に、ピストンと接する基端部側においてシリンダーの内径と同径であると共に先端部側にむかってテーパー状に僅かに縮径した形状を持つスペーサーを仮付けし、ピストンの先端面からはスペーサーを密に貫通してシリンダー室内方向へ突出した金属製の棒状部材であるテストピースを設け、かつピストンには抜き抵抗値の測定手段を連結している、離型剤の評価装置である。
【0030】
以上の第7発明において、「仮付け」の意味は第6発明の場合と同様である。又、「ピストンには抜き抵抗値の測定手段を連結している」とは、ピストンをシリンダーから後退する方向へ動作させる際の抵抗を測定する手段がピストンに設けてあることを意味する。このような測定手段の種類は限定されないが、例えば公知のロードセルを利用することができる。この測定手段には、好ましくは測定値を表示するディスプレー手段を付設することもできる。更に好ましくは、前記コントロール抵抗値「B」をコンピュータに記憶させておき、実際の測定値「A+B」からコントロール値「B」を差し引く演算を行って、ディスプレー手段に抵抗値「A」を表示するように設定することもできる。
【0031】
第7発明によれば、第3発明〜第6発明の離型剤の評価方法を実施でき、それらの評価方法の効果を実現できる離型剤の評価装置が提供される。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、(1)ダイカスト加工現場での離型剤使用との相関性が高く、かつ正確な離型性評価が可能なラボレベルの評価方法と、(2)金型面から細く突出する金型部分に離型剤を適用する場合における離型剤のラボレベルの評価方法と、これらの評価方法を実施するための評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例に係る離型剤評価装置の要部の作用・効果をプロセスの進行に沿って示す図であって、ピストン及びテストピースを除いては断面図で示す。
【図2】実施例に係る離型剤評価装置の全体を簡略化して示す正面図である。
【図3】図2に示す離型剤評価装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、本発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。
【0035】
〔第1発明〜第7発明に共通する実施形態〕
第1発明〜第7発明において、評価対象となる離型剤の種類は、ダイカスト成形に用いるものである限りにおいて限定されない。離型剤はテストピースにのみ塗布するが、その塗布方法は全く限定されない。塗布方法として、例えば離型剤の噴射、ハケ塗り、離型剤溜りに対するテストピースの浸漬等を例示することができる。
【0036】
なお、第3発明〜第7発明に係る棒状のテストピースに対する離型剤の塗布においては、例えばテストピースを注湯室から取り出した状態で、容易に塗布することができる。
【0037】
溶湯として用いられる金属の種類も限定されないが、アルミニウム、鉄、マグネシウム、亜鉛等、又はその合金を例示することができ、製品の精度や鋳肌、強度向上等の目的から鋳造時に高加圧されることの多いアルミニウム、マグネシウム、亜鉛等の合金を特に好ましく例示できる。注湯室に充填された溶湯に対する加圧の程度は、必要に応じて任意に設定されるものであり、限定されない。但し、ダイカストの加工現場での加圧と同程度の加圧であることが好ましく、例えば0.01〜200MPa程度の範囲内で任意に選択することができる。
【0038】
〔注湯室の構成〕
第1発明及び第2発明においては、注湯室の構成は、その少なくとも一部が金属製のテストピースによって構成されており、溶湯を充填することができ、かつ注湯室へ充填した溶湯を加圧しながら冷却固化させ得るように構成されている限りにおいて、限定されない。
【0039】
第3発明〜第5発明において、注湯室の構成は、金属製の棒状部材であるテストピースを密に差込むことができる孔を備え、かつ溶湯を充填することができるように構成されている限りにおいて、限定されない。注湯室は、注湯時において必要な程度に加温できるように、適宜な加熱手段を備えることが好ましい。加熱手段としては、ヒーター、バーナー等、実際のダイカスト成形機に用いられる加熱手段のみならず、ガスコンロまたは電気コンロ等の簡易な加熱手段を用いることも可能である。
【0040】
第6発明及び第7発明において、注湯室は、シリンダーと、ピストンの先端面に仮付けしたスペーサーによって構成される。
【0041】
〔注湯室に充填された溶湯に対する加圧の手段〕
第1発明〜第5発明において、注湯室に充填された溶湯に対する加圧の手段は限定されない。第6発明及び第7発明において、このような加圧は、ピストン/シリンダー機構におけるピストンによって、具体的にはピストンの先端面に仮付けしたスペーサーを通じて、与えられる、
〔テストピース〕
テストピースは金属製であって、その金属の種類は限定されないが、好ましくは、実際のダイカスト金型を構成する鉄、ステンレス等からなる。
【0042】
第1発明及び第2発明のテストピースは、注湯室の少なくとも一部を構成する部材であって、その形状は限定されないが、例えば注湯室の側壁部や底壁部等を構成する板状の部材等であり得る。
【0043】
第3発明〜第7発明において、テストピースは、基本的に棒状である。このテストピースの代表的な形状は、断面が円形又は角形の、いわゆるピン形状であるが、このようなテストピースを用いる本来の趣旨が「金型面からキャビティ内部へ細く突出する金型部分に見立てる」ことであるため、棒状である限りにおいて、必要に応じて、任意の断面形状のものであり得る。但し、現実問題として、「抜きテーパー」を有することが要求される。この抜きテーパーの角度は限定されないが、例えばピン形状のものにおいて、両側の抜きテーパーの合計角度が0.5〜2度程度であることが好ましい。
【0044】
更に、第6発明及び第7発明においては、棒状のテストピースがスペーサーを密に貫通するが、テストピースとスペーサーとのクリアランスは極力小さく設計し、そのクリアランスに溶湯が進入してバリを形成しないようにすることが重要である。
【0045】
〔スペーサー〕
第6発明及び第7発明において用いられるスペーサーは、注湯室を構成するピストン/シリンダー機構におけるピストンの先端面に仮付けされるもので、ピストンと接する基端部側においてはシリンダーの内径と同径であると共に、先端部側にむかってテーパー状に僅かに縮径した形状を持つ。又、ピストンの先端面から突出した上記のテストピースが、このスペーサーを貫通している。
【0046】
スペーサーの構成材料は、適宜な硬さや耐熱性を備える限りにおいて限定されない。スペーサーのテーパー形状におけるテーパーの角度は限定されないが、例えば、両側のテーパーの合計角度を0.2〜2度といった程度にすることができる。
【0047】
ピストンの先端面にスペーサーを仮付けする手段は限定されないが、例えば、両者を適宜な接着剤を用いて接着させたり、両者の一方を磁石製とし、他方を磁石に吸着される鉄等の金属製として、磁力を利用した仮付けとすることもできる。
【実施例】
【0048】
以下に本発明の実施例を比較例と共に説明する。本発明の技術的範囲は以下の実施例によって限定されない。
【0049】
(実施例1)
本発明に係る離型剤の評価方法及び評価装置の要部の作用・効果を、評価プロセスの進行に沿って、図1(a)〜図1(e)に基いて説明する。
【0050】
離型剤の評価装置の要部は、図1(a)に示すように、ピストン/シリンダー構造によって構成されている。即ち、ピストン/シリンダー構造のシリンダーによって溶湯を充填するための注湯室1が構成されており、図1(a)では、図示省略の注湯口からこの注湯室1に対して既に溶湯2が供給された状態を示している。一方、ピストン/シリンダー構造のピストン3が、この注湯室1を加圧するための手段として用いられている。図ではピストン3としてピストンヘッド部分のみを示す。
【0051】
ピストン3の先端面(図の下端面)にはスペーサー4を設けている。このスペーサー4は、例えばSKD61等の耐熱性材料からなり、その基端部側(図の上端部側)においてシリンダーの内径と同径であると共に、先端部側にむかって、0.5度の傾きをもって僅かにテーパー状に縮径した円錐状の形状である。スペーサー4は、ピストン3の先端面に対して接着剤により仮付け状態で接着されており、強い外力が作用した際には剥離するようになっている。
【0052】
更に、ピストン3の先端面のからは、その中心軸線に沿って、スペーサー4を密に貫通しシリンダーである注湯室1室内方向へ突出した金属製棒状部材であるテストピース5を設けている。テストピース5の表面には、離型性の評価対象である離型剤が予め万遍なく塗布されている。
【0053】
なお図1には示さないが、実施例2に関して後述するように、ピストン3にはテストピース5の抜き抵抗値の測定手段として、公知のロードセルを連結している。このロードセルは、ピストン3をシリンダーである注湯室1から図の上方へ後退する方向へ動作させる際の抵抗を測定するものである。
【0054】
以上のようなピストン/シリンダー構造において、まず、図示省略の適宜な加熱手段によって加熱された注湯室1に対して、図1(a)のように溶湯2が供給される。そして溶湯2の冷却固化が始まる前に図1(b)〜図1(c)のようにピストン3を徐々に下降動作させ、その先端に仮付けしたスペーサー4を注湯室1に圧入させる。これによって「加圧下の鋳造」がシミュレートされ、かつ、下降動作するピストン3に与える駆動力によって加圧の程度(MPa)を任意に調節できる。
【0055】
そして、図1(c)のようにスペーサー4が注湯室1に十分に圧入された状態に至ると、スペーサー4における僅かに縮径した先端部側の部分と、シリンダーである注湯室1の壁部との隙間にまで溶湯2が圧入される。しかし、スペーサー4とこのスペーサー4を密に貫通しているテストピース5との界面には、溶湯は圧入されない。この状態において溶湯2を冷却固化させる。この冷却固化を促進するため、上記した注湯室1に対する加熱を停止し、あるいは積極的に注湯室1を冷却させる手段を講じても良い。
【0056】
なお、図1(c)に示すように、ピストン3の下降動作時においてピストン3自体は注湯室1へ進入しないので、必ずしもピストン3の外径が注湯室1の内径と対応している必要はない。
【0057】
溶湯2が十分に冷却固化した後、図1(d)〜図1(e)のように、ピストン3を上昇動作させて注湯室1から離脱させる。その際、上記のようにスペーサー4と注湯室1の壁部との隙間に圧入された溶湯が固化してバリとなっているため、スペーサー4は注湯室1側に強く固定されている。従ってスペーサー4は、接着剤の接着力に抗してピストン3及びテストピース5から引き離され、注湯室1側に残る。
【0058】
その結果、ピストン3を上昇動作させる際の負荷を計測しているロードセルには、離型剤が塗布されたテストピース5を冷却固化した溶湯2から引抜く際に生じる抵抗値「A」と、ピストン3を仮付けのスペーサー4から引き離す際の抵抗値「B」との合計値が計測される。抵抗値「B」は、例えば溶湯2が存在しないコントロール実験系で簡単に測定できるので、実際の測定値「A+B」から、予め取得しておいたコントロール値「B」を差し引く演算によって、抵抗値「A」が得られる。ロードセルと連結させたコンピュータに「A」を未知数、「B」を既知数とする「(A+B)−B」の演算をインストールしておき、抵抗値「A」を自動的に出力・表示するように設定することもできる。
【0059】
この抵抗値「A」により、金型面から細く突出した金型部分に離型剤を塗布した際の離型性を、ラボレベルの簡単な評価系において合理的に評価できる。スペーサー4を注湯室1に圧入させる際の圧力を調整することにより、本実施例のような加圧鋳造系ではなく、無加圧鋳造系における同様な離型剤評価も可能である。
【0060】
(実施例2)
本発明に係る離型剤評価装置の全体的な構成を図2及び図3に基いて説明する。
【0061】
図2に示す離型剤評価装置6は、全体としてピストン/シリンダー構造体を構成しており、そのほぼ中央部に、実施例1に述べたピストン3、スペーサー4及びテストピース5を備えている。又、それらの下方には注湯室1を備えている。
【0062】
ピストン3は、ロードセル7を介して、上方のエアシリンダー8により支持されており、このエアシリンダー8は、ピストン3の上昇動作時用のスピードコントローラー9と、ピストン3の下降動作時用のスピードコントローラー10によってコントロールを受けるようになっている。又、下降動作時用のスピードコントローラーとしては、手動運転時のコントローラー11も備えている。前記エアシリンダー8は、これらのコントローラーの介在のもとに、図3において矢印12で示す方向からコンプレッサーと連絡されている。なお、配電盤13にはピストン3を前記図1(c)の状態に維持する時間を調整するためのプレス時間調整ボタンを備えている。14は装置の操作ボタン盤であり、15は安全装置である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によって、(1)ダイカスト加工現場での離型剤使用との相関性が高く正確な離型性評価が可能なラボレベルの評価方法と、(2)金型面から細く突出する金型部分に離型剤を適用する場合における離型剤のラボレベルの評価方法と、これらの評価方法を実施するための評価装置が提供される。
【符号の説明】
【0064】
1 注湯室
2 溶湯
3 ピストン
4 スペーサー
5 テストピース
6 離型剤評価装置
7 ロードセル
8 エアシリンダー
9 スピードコントローラー
10 スピードコントローラー
11 コントローラー
12 矢印
13 配電盤
14 操作ボタン盤
15 安全装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注湯室の少なくとも一部を構成する金属製のテストピースに離型剤を塗布したもとで、注湯室に溶湯を充填して固化させた後、固化物をテストピースから引離す際の抵抗を測定して離型剤の離型性を評価する方法であって、注湯室へ充填した溶湯を加圧しながら冷却固化させることを特徴とする離型剤の評価方法。
【請求項2】
前記離型剤の評価方法において、加熱していないテストピースに離型剤を塗布することを特徴とする請求項1に記載の離型剤の評価方法。
【請求項3】
金属製の棒状部材であるテストピースであって表面に離型剤を塗布したものを、注湯室に設けた孔に室外側から密に差込んだ状態において、注湯室に溶湯を充填して冷却固化させた後、固化物からテストピースを引抜く際の抵抗を測定して離型剤の離型性を評価することを特徴とする離型剤の評価方法。
【請求項4】
前記離型剤の評価方法において、離型剤の離型性の評価を、注湯室へ充填した溶湯を加圧しながら冷却固化させるという条件下に行うことを特徴とする請求項3に記載の離型剤の評価方法。
【請求項5】
前記離型剤の評価方法において、離型剤の離型性の評価を、加熱していないテストピースに離型剤を塗布するという条件下に行うことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の離型剤の評価方法。
【請求項6】
前記離型剤の評価方法において、ピストン/シリンダー機構におけるピストンの先端面に、ピストンと接する基端部側においてシリンダーの内径と同径であると共に先端部側にむかってテーパー状に僅かに縮径した形状を持つスペーサーを仮付けし、ピストンの先端面からはスペーサーを密に貫通してシリンダー室内方向へ突出した金属製の棒状部材であるテストピースを設けており、このテストピースの表面に離型剤を塗布した状態において、スペーサーとシリンダーによって構成された注湯室に溶湯を充填してピストンで加圧し、その加圧下に冷却固化させた後、スペーサーを固化物側に残したままで、固化物からテストピースを引抜く際の抵抗を測定して離型剤の離型性を評価することを特徴とする請求項3〜請求項5のいずれかに記載の離型剤の評価方法。
【請求項7】
溶湯を充填するための注湯室がピストン/シリンダー構造によって構成され、そのピストンの先端面に、ピストンと接する基端部側においてシリンダーの内径と同径であると共に先端部側にむかってテーパー状に僅かに縮径した形状を持つスペーサーを仮付けし、ピストンの先端面からはスペーサーを密に貫通してシリンダー室内方向へ突出した金属製の棒状部材であるテストピースを設け、かつピストンには抜き抵抗値の測定手段を連結していることを特徴とする離型剤の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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