説明

難分解性有機化合物による汚染土壌地下水の浄化方法

【課題】 従来の酸化剤として過酸化水素を用いる土壌地下水浄化に要する時間を大きく短縮し、短期間で浄化可能であり、高濃度汚染に対しても浄化可能な土壌地下水浄化方法を提供する。
【解決手段】 難分解性有機化合物による汚染土壌地下水を、過酸化水素分解能を有する活性炭の存在下で過酸化水素により分解浄化する方法において、活性炭が温度27℃、過酸化水素濃度0.5重量%の水溶液に活性炭を0.5重量%添加したときの60分後の過酸化水素分解率が30%以上の性能を有するものであることを特徴とする土壌地下水の分解浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来の酸化剤として過酸化水素を用いる土壌地下水浄化に要する時間を大きく短縮し、短期間で浄化可能であり、高濃度汚染に対しても浄化可能な土壌地下水浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌地下水中の有機物汚染が環境に大きく影響を与えることが明らかとなり、様々な規制が整備されてくるとともに、これまで蓄積、放置されていた汚染の浄化が必要となっている。ここでの有機物とは、主に生物による分解が困難な難分解性有機物をいい、農薬、防腐剤、石油及びその留分に含まれる芳香族化合物、塩素化有機物などが該当する。この有機物汚染に対し、物理的、化学的、生物的な様々な浄化方法が試みられている。物理的な浄化方法では、汚染場所の浄化は可能であるが、除去された汚染物質の2次的な処理が必要となるという欠点がある。生物的な浄化方法では周辺環境に影響の少ない方法であるが、高濃度の汚染に対して適用が難しいという欠点がある。これらに対し化学的な浄化方法は対象汚染物質を分解する為、2次的な処理の必要が無く、高濃度の汚染に対しても、適用が可能であるという特徴をもつ。
【0003】
過酸化水素と、触媒として鉄イオンを供給可能な化合物(例:硫酸第一鉄・七水和物等)として添加することによって、ヒドロキシラジカルを発生させ、このラジカルと有機物を反応させることによって、有機物を酸化分解するFenton法が知られている。このFenton法を応用し、難分解性有機化合物で汚染された土壌を浄化することが試みられている(特許文献1参照)。触媒となる鉄イオン濃度は酸化分解反応に大きく寄与する事が知られており、反応速度の向上のために、鉄イオンを添加する方法が提案されている。また過酸化水素分解反応に対して触媒作用のある金属(鉄や銅など)をゼオライトや粘土鉱物に担持させたものに汚染水を接触させる方法も提案されている(特許文献2参照)。他にも、吸着剤を用い、その表面において有機物を濃縮し、酸化剤を用いて酸化分解する方法も考案されている(特許文献3参照)。
【0004】
現在の土壌汚染は様々な形態で存在しており、浄化を行う場合もそれにより、様々な条件下で実施せざるを得ない。たとえば、建屋直下や稼働中の設備の敷地内やその周辺地域における汚染土壌の処理は、当該汚染土壌をそれが存在する地中の領域から移動することが不可能であり、このような場合、原位置処理を行いたいという要請が存在するのである。
【0005】
原位置浄化を行う場合、上記記載の触媒作用のある金属を土壌地下水に添加する方法では地下水流下流側での金属成分の流出などが問題となる可能性がある。また、吸着剤を用いて濃縮、分解浄化を行う場合、実施方法としては反応障壁として使用するため、施工において使用不可能な条件が発生する可能性がある。
【特許文献1】特開平7−75772号公報
【特許文献2】特開平11−262780号公報
【特許文献3】特表2002−514498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した様な従来技術の各種問題点に鑑みて提案されたもので、汚染土壌を環境その他に悪影響を与えること無く、原位置における浄化処理に簡便に応用でき、しかも安全に且つ効果的に短期間で、高濃度汚染に対しても浄化処理することが可能な土壌浄化方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、種々研究の結果、過酸化水素の汚染場所への注入を行えば、土壌地下水中に存在する鉄により、ヒドロキシラジカルが発生し、汚染物質が分解無害化されることを確認し、さらに過酸化水素分解能を持つ活性炭を同時に存在させた場合、その化学反応速度が著しく増加することを見いだし、発明に至った。すなわち本発明は、難分解性有機化合物による汚染土壌地下水を、過酸化水素分解能を有する活性炭の存在下で過酸化水素により浄化する方法において、活性炭が温度27℃、過酸化水素濃度0.5重量%の水溶液に活性炭を0.5重量%添加したときの60分後の過酸化水素分解率が30%以上の性能を有するものであることを特徴とする土壌地下水の浄化方法に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の作用効果を以下に列挙する。
(1) 土壌中の汚染化合物を原位置にて迅速に処理することが出来る。
(2) 土壌の汚染が上述した様な稼働中の各種施設において生じた場合にも、当該施設の稼働に影響を及ぼすこと無く、急速に浄化することが出来る。
(3) 汚染土壌を地上にまで取り出して処理する必要が無く、汚染土壌を掘削することによる揮発性汚染化合物の大気への蒸散、汚染土壌の運搬による汚染物質の飛散、その他による2次的な汚染が防止される。
(4) 処理に際して、更に有害な化合物を発生することが無い。
(5) 一度処理が行われれば安全性が永続するので、汚染物質の流出或いは漏洩を経時的に監視する必要も無い。
(6) 洗浄後の排水処理を行う必要が無い。
(7) 多種類の汚染物質を大量に処理することが出来る。
(8) 生態系の変化という問題が防止される。
(9) 修復期間を短くできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では過酸化水素、活性炭および触媒を用いる。触媒となるFeは、地下水土壌中に存在している為添加する必要は無いが、浄化期間によっては添加することにより、効果を向上させ、短期間にすることも可能である。鉄塩としては例えば硫酸第一鉄、塩化第一鉄などが挙げられるが、価格、汎用性の点から硫酸第一鉄が好ましい。過酸化水素、鉄塩の使用量には特に制限はなく、必要とされる廃液の処理レベルにより適宜選択される。一般的には、過酸化水素は、地下水流量に対して0.5〜6重量%、鉄塩は硫酸第一鉄に換算して、地下水流量に対して0〜0.1重量%である。
【0010】
本発明で使用する活性炭は、過酸化水素分解能力を有するものであればよく、その由来は特に限定されないが、通常、木材、セルロース、のこくず、木炭、ヤシガラ炭、パーム核炭、素灰などの植物質を原料としたもの、泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭などの石炭系鉱物質を原料としたもの、石油残渣、硫酸スラッジ、オイルカーボンなどの石油系鉱物質を原料としたもの。蛋白質を原料としたもの、蛋白質を含有する汚泥もしくは廃棄物を出発原料としたもの、発酵生産の廃菌体を原料としたもの、ポリアクリロニトリル(PAN)を原料としたもの、などが好適に使用される。また、これら活性炭に処理を加えることにより、過酸化水素分解能力を付与する、或いは向上させて使用することもできる。
【0011】
本発明に使用する活性炭の過酸化水素分解能力は、温度27℃、過酸化水素濃度0.5重量%の水溶液において、活性炭を0.5重量%添加し、60分間放置後、残存過酸化水素濃度を測定し、下式(1)で算出される過酸化水素分解率で表される。
過酸化水素分解能力=(0.5−残存過酸化水素濃度(%))/0.5 × 100 (1)
【0012】
本発明においては、上記過酸化水素分解率が5%以上、好ましくは20%以上の活性炭を用いる。過酸化水素分解活性が高いほど、廃液中有機物の分解が効率的に進み、活性炭使用量を少なく、処理時間を短くでき有利である。過酸化水素分解率5%以下では大量の活性炭が必要とされる或いは非常に長い処理時間が必要となり、本発明の目的を達することができない。
【0013】
また、使用する活性炭は微粉末であるほどその効果が大きく、100μm以下の微粉末を使用することで、その効果を高めることができる。これは微粉末とすることにより拡散性が良くなり、もって過酸化水素分解率が上がることに由来すると考えられる。粒径が100μm以上であっても、過酸化水素分解能力があれば本発明の目的は達することができるが、使用量が多くなり、或いは処理時間を長くする必要がある。活性炭の添加量は、添加する過酸化水素に対して0.01〜10重量%である。
【0014】
活性炭は、通常水分吸着などによりその吸着能力を減ずるが、本発明においては、活性炭を水などの分散媒中に懸濁して使用することができる。廃液への活性炭の供給方法には特に制限は無く、固体の活性炭をそのまま供給してもよいが、懸濁液をポンプなどで供給しても良い。工業的には、粉塵発生抑制、操作性の点で懸濁液としての供給の方が有利であり、懸濁液の流動性、操作性の点から、100μm以下の粉末の懸濁液として供給することが好ましい。
【実施例】
【0015】
実施例1
難分解性有機化合物としてトリクロロエチレン(TCE)を使用し、TCE濃度49 mg/Lの模擬汚染水の浄化試験を行った。その際、全ての試料に過酸化水素2000mg/L、触媒として15mg-Fe/LのFeSO4・7H2Oを添加した。使用した活性炭は微粉末(粒径:2μm程度)にしたものを16wt%水スラリーとしたものである。経過時間ごとにこれらの試料のTCE濃度を測定し、その結果を下記表1に示した。
【0016】
【表1】

【0017】
過酸化水素と鉄イオンの存在下では、活性炭を添加しない比較例1に比べ、活性炭を添加した本発明例(実施例1)の試料ではヒドロキシラジカル等の活性なラジカルの発生が促進され、TCE分解が迅速に進行し、TCE濃度低下が顕著であることが示された。
【0018】
実施例2
揮発性有機化合物としてトリクロロエチレン(TCE)を使用して、TCE濃度84mg/Lの模擬汚染水の浄化試験を行った。その際、全ての試料に過酸化水素2000mg/L、触媒として15mg-Fe/LのFeSO4・7H2Oを添加した。活性炭は74mg/Lとなるよう添加した。活性炭の過酸化水素分解能による効果を確認した。(過酸化水素分解能は請求項に示す性能を有するものである。)経過時間においてこれらの試料のTCE濃度を測定し、その結果を下記表2に示した。
【0019】
【表2】

【0020】
活性炭の過酸化水素分解能によりTCEの分解能が大きく異なり、過酸化水素分解能が高い活性炭の場合にTCE濃度の低下が顕著であることが示された。
【0021】
実施例3
揮発性有機化合物としてトリクロロエチレン(TCE)を使用して、TCE濃度83mg/Lの模擬汚染水の浄化試験を行った。その際、全ての試料に過酸化水素2000mg/L、触媒として15mg-Fe/LのFeSO4・7H2Oを添加した。使用した活性炭は微粉末(粒径:2μm程度)にしたものを16wt%水スラリーとしたものであり、その添加濃度の効果を確認した。経過時間ごとにこれらの試料のTCE濃度を測定し、その結果を下記表3に示した。
【0022】
【表3】

【0023】
TCEの減少量は添加する活性炭添加量に依存しており、活性炭添加量の増加によりTCE濃度低下が顕著であることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難分解性有機化合物による汚染土壌地下水を、過酸化水素分解能を有する活性炭の存在下で過酸化水素により浄化する方法において、活性炭が温度27℃、過酸化水素濃度0.5重量%の水溶液に活性炭を0.5重量%添加したときの60分後の過酸化水素分解率が30%以上の性能を有するものであることを特徴とする土壌地下水の浄化方法。
【請求項2】
活性炭が100μm以下の微粉末であることを特徴とする請求項1記載の土壌地下水の浄化方法。
【請求項3】
活性炭が100μm以下の微粉末の懸濁液であることを特徴とする請求項1記載の土壌地下水の浄化方法。

【公開番号】特開2006−75773(P2006−75773A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−264460(P2004−264460)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】