説明

難変色性の軟質ポリウレタン発泡体

【課題】紫外線及び大気中の酸化窒素に基づく変色を抑制することができると共に、機械的物性を向上させることができる難変色性の軟質ポリウレタン発泡体を提供する。
【解決手段】難変色性の軟質ポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有する発泡体原料を反応及び発泡させてなるものである。この場合、ポリオール類は質量平均分子量が600〜1500のポリエーテルポリオールを含み、そのポリエーテルポリオールの含有量がポリオール類100質量部当たり50〜100質量部であると共に、ポリイソシアネート類はトリレンジイソシアネートであって、そのイソシアネート指数が90〜120である。前記ポリエーテルポリオールはアルキレンオキシド単位を有し、該アルキレンオキシド単位がプロピレンオキシド単位で構成されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばドレス、ブラウス等の肩パッド、ブラジャー等のパッドなどに好適に使用される難変色性の軟質ポリウレタン発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ドレス、ブラウス等の衣料用途に使用されるパッドは軟質ポリウレタン発泡体により形成されているが、紫外線や大気中の酸化窒素(NOx)、酸化硫黄(SOx)等の汚染ガスの影響を受けて次第に変色する。そのような変色を防止するため、軟質ポリウレタン発泡体には紫外線吸収剤や酸化防止剤が配合されている。
【0003】
係る耐紫外線変色性、耐酸化窒素変色性を示す軟質ポリウレタン発泡体としては、ポリオール成分が分子量の異なる2種以上のポリオール及びモノオールを含み、ポリイソシアネートの含有量がポリオール、モノオール及び水に対する反応当量の0.95〜1.15倍である軟質ポリウレタン発泡体が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
係る軟質ポリウレタン発泡体として具体的には、その実施例1(特許文献1の第9頁)に記載されている。すなわち、ポリオールとして分子量3000のポリエーテルポリオール80質量部、分子量700のポリエーテルポリオール20質量部及びエタノール5質量部を用い、ポリイソシアネートとしてトリレンジイソシアネートをイソシアネートインデックスが100となるように配合して得られる軟質ポリウレタン発泡体が記載されている。
【特許文献1】特開2006−282936号公報(第2頁、第3頁及び第9頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の軟質ポリウレタン発泡体においては、分子量700のポリエーテルポリオールの配合量が20質量部という少量であり、分子量3000のポリエーテルポリオールの配合量が80質量部という多量に設定されている。ところで、複数の水酸基を有するポリオールが低分子量である場合には発泡体に架橋構造が形成されやすく、架橋密度が高くなるのに比べて、ポリオールが高分子量である場合には架橋分子間の鎖長が長くなって架橋構造が形成されにくく、架橋密度が低くなる。
【0006】
このため、ポリオールの分子量が高い場合には、ポリオールの分子量が低い場合に比較して紫外線の照射を受けたときに発泡体が分解しやすく、その分解物により変色(着色)が起きる傾向が強く、また発泡体が酸化窒素の雰囲気に晒されたとき酸化窒素を吸収して発泡体が変質し、その変質物により変色が起きやすくなる。そのため、軟質ポリウレタン発泡体は、紫外線によって経時的に変色すると共に、大気中に存在する酸化窒素によっても経時的に変色するという問題があった。
【0007】
さらに、ポリオールの分子量が高い場合には、ポリオールの分子量が低い場合に比べて発泡体の架橋密度が低くなることから、得られる発泡体の機械的物性が低下するという問題があった。
【0008】
そこで本発明の目的とするところは、紫外線及び大気中の酸化窒素に基づく変色を抑制することができると共に、機械的物性を向上させることができる難変色性の軟質ポリウレタン発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の難変色性の軟質ポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有する発泡体原料を反応及び発泡させてなるものである。そして、前記ポリオール類は質量平均分子量が600〜1500のポリエーテルポリオールを含み、そのポリエーテルポリオールの含有量がポリオール類100質量部当たり50〜100質量部であると共に、ポリイソシアネート類はトリレンジイソシアネートであって、そのイソシアネート指数が90〜120であることを特徴とする。
【0010】
請求項2の難変色性の軟質ポリウレタン発泡体では、請求項1に係る発明において、前記ポリエーテルポリオールはアルキレンオキシド単位を有し、該アルキレンオキシド単位がプロピレンオキシド単位で構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3の難変色性の軟質ポリウレタン発泡体では、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記ポリエーテルポリオールの水酸基価は100〜300mgKOH/gであることを特徴とする。
【0012】
請求項4の難変色性の軟質ポリウレタン発泡体では、請求項1から請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記ポリエーテルポリオールの1分子中における水酸基数は2〜4であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に係る難変色性の軟質ポリウレタン発泡体では、ポリオール類は質量平均分子量が600〜1500のポリエーテルポリオールを含み、そのポリエーテルポリオールの含有量がポリオール類100質量部当たり50〜100質量部である。このため、ポリオール類は比較的低分子量(中分子量)であって、発泡体の架橋密度が高くなり、紫外線照射により発泡体が分解しにくくなると同時に、発泡体が酸化窒素に曝露されたとき酸化窒素を吸収しにくくなる。上記ポリオール類の構成に加えて、ポリイソシアネート類はトリレンジイソシアネートであって、そのイソシアネート指数が90〜120に設定されていることから、樹脂化反応や泡化反応の反応性が良く、良好な発泡体が得られる。従って、紫外線及び大気中の酸化窒素に基づく変色を抑制することができると共に、機械的物性を向上させることができる。
【0014】
請求項2の難変色性の軟質ポリウレタン発泡体では、ポリエーテルポリオールはアルキレンオキシド単位を有し、該アルキレンオキシド単位がプロピレンオキシド単位で構成されている。従って、請求項1に係る発明の効果に加え、エチレンオキシド単位に比べて酸化窒素を水分と共に吸収しにくく、酸化窒素による変色を一層抑制することができると共に、エチレンオキシド単位に比べてプロピレンオキシド単位の部分で回転が抑えられ、発泡体の硬さを高めることができる。
【0015】
請求項3の難変色性の軟質ポリウレタン発泡体では、ポリエーテルポリオールの水酸基価は100〜300mgKOH/gである。このため、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加え、ポリエーテルポリオールとポリイソシアネート類との反応を十分に促進することができ、軟質ポリウレタン発泡体の架橋密度を向上させることができ、変色の抑制と機械的物性の向上を図ることができる。
【0016】
請求項4の難変色性の軟質ポリウレタン発泡体では、ポリエーテルポリオールの1分子中における水酸基数は2〜4である。このため、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、軟質ポリウレタン発泡体の架橋密度を高めることができ、変色の抑制と機械的物性の向上を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の難変色性(難着色性又は難黄変性)の軟質ポリウレタン発泡体(以下、単に軟質ポリウレタン発泡体、ポリウレタン発泡体又は発泡体とも称する)は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有する発泡体原料を反応及び発泡させてなるものである。この場合、ポリオール類は質量平均分子量が600〜1500のポリエーテルポリオールを含み、そのポリエーテルポリオールの含有量がポリオール類100質量部当たり50〜100質量部に設定される。また、ポリイソシアネート類はトリレンジイソシアネートであって、そのイソシアネート指数が90〜120に設定される。ここで、軟質ポリウレタン発泡体は軽量で、一般にセルが連通する連続気泡構造を有し、柔軟性があって、かつ復元性を有するものをいう。以下に、発泡体原料について順に説明する。
【0018】
まず、ポリオール類としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール又はポリエーテルポリエステルポリオールが用いられるが、質量平均分子量が600〜1500のポリエーテルポリオールが必須成分として含まれる。このような低分子量(中分子量)のポリエーテルポリオールを用いることにより、得られる発泡体の架橋密度を高めることができ、紫外線照射による分解を抑えることができると同時に、酸化窒素(NOx)の吸収を抑制することができ、発泡体の変色を低減させることができる。なお、酸化窒素(NOx)には、一酸化窒素(NO)及び二酸化窒素(NO)が含まれる。しかも、発泡体の架橋密度が高くなることで機械的物性を向上させることができる。
【0019】
該ポリエーテルポリオールの質量平均分子量が600未満の場合、質量平均分子量が低くなり過ぎて発泡体の架橋密度が過度に上がり、発泡体に収縮現象が生じたりして良好な発泡体が得られなくなる。その一方、質量平均分子量が1500を超える場合、発泡体に形成される架橋構造が不足し、また架橋分子間の鎖長が長くなり、前述したポリエーテルポリオールの機能を発揮することができなくなる。
【0020】
また、ポリエーテルポリオールの水酸基価は、発泡体の変色抑制と機械的物性の向上を図るために100〜300mgKOH/gであることが好ましい。この水酸基価が100mgKOH/g未満の場合には、ポリエーテルポリオールとポリイソシアネート類との反応が不足する傾向を示し、発泡体の架橋密度が低下し、発泡体の変色抑制と機械的物性の向上を図ることが難しくなる。一方、水酸基価が300mgKOH/gを超える場合には、ポリエーテルポリオールの水酸基がポリイソシアネート類のイソシアネート基に対して過剰になると共に、発泡体の架橋密度が高くなり過ぎ、弾力性に富む軟質ポリウレタン発泡体としての物性が低下する傾向を示す。
【0021】
さらに、ポリエーテルポリオールの1分子中における水酸基数は、発泡体の変色抑制と機械的物性の向上を図るために2〜4であることが好ましい。係るポリエーテルポリオールは、1分子中の水酸基数が2〜4のポリオールにアルキレンオキシドを付加反応させることにより得られる。前記水酸基数が1では発泡体に架橋構造を形成することができず、架橋構造に基づく発泡体の変色抑制と機械的物性の向上を果たすことが難しくなる。一方、水酸基数が3を超えると発泡体の架橋構造が密になり過ぎて、軟質ポリウレタン発泡体としての弾力性が得られ難くなる。
【0022】
係るポリエーテルポリオールの含有量は、ポリオール類100質量部当たり50〜100質量部であり、このポリエーテルポリオールがポリオール類の主成分となる。該ポリエーテルポリオールの含有量が50質量部より少ない場合には、前述したポリエーテルポリオールの機能発現が不足し、発泡体の変色を抑えることができなくなって不適当である。
【0023】
ポリエーテルポリオールとして具体的には、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等のポリオールにプロピレンオキシド、エチレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加した化合物が挙げられる。この場合、アルキレンオキシドにより形成されるアルキレンオキシド単位(残基)は、プロピレンオキシドにより形成されるプロピレンオキシド単位のみで構成されていることが好ましい。プロピレンオキシド単位は、エチレンオキシド単位に比べて親水性が低いため水分と共に酸化窒素などを吸収し難く、また分子鎖が回転し難いため過度の柔軟性を抑えて十分な硬さを発現することができる。
【0024】
ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオールが挙げられる。
【0025】
ポリエーテルポリエステルポリオールとしては、例えばエチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等のポリオールに、プロピレンオキシド、エチレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加した化合物に、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を反応させたものが用いられる。このポリオール類は、原料成分の種類、分子量、縮合度等を調整することによって、水酸基数や水酸基価を変えることができる。
【0026】
また、ポリオール類の一部として架橋剤を配合することができる。この架橋剤としては、例えばポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等のポリオール(多官能アルコール)が挙げられる。架橋剤を含有することにより、軟質ポリウレタン発泡体の架橋密度を一層高めることができ、発泡体の機械的物性を向上させることができる。
【0027】
次に、ポリオール類と反応させるポリイソシアネート類はイソシアネート基を複数有する化合物であって、具体的にはトリレンジイソシアネート(TDI)が用いられる。トリレンジイソシアネート(トルエンジイソシアネート)は、ポリオール類や発泡剤としての水との樹脂化反応や泡化反応の反応性に優れ、低密度(軽比重)のポリウレタン発泡体を製造するのに好ましい。トリレンジイソシアネートには、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート等の異性体が存在し、それらのいずれも単独又は混合物として使用することができる。
【0028】
特に、2,4−トリレンジイソシアネートは、異性体である2,6−トリレンジイソシアネートに比べてそれらの反応性、殊に泡化反応の反応性に優れている。そのため、2,4−トリレンジイソシアネートを65〜80質量%含有することが好ましい。2,4−トリレンジイソシアネートの含有量が65質量%より少ない場合には、ポリオール類や水との反応性が不足し、所望の機械的物性を有する発泡体を得ることが難しくなる。一方、2,4−トリレンジイソシアネートの含有量が80質量%より多い場合には、ポリオール類や水との反応性が高くなり過ぎて、泡化反応が過度に進行したり、架橋反応が過度に進行したりして、目的とする発泡体が得られなくなる。
【0029】
具体的には2,4−トリレンジイソシアネート80質量%と2,6−トリレンジイソシアネート20質量%との混合物、2,4−トリレンジイソシアネート65質量%と2,6−トリレンジイソシアネート35質量%との混合物等が使用される。なお、トリレンジイソシアネートの変性体を用いることもでき、そのような変性体としてはウレタン変性体、2量体、3量体、カルボジイミド変性体、アロファネート変性体、ビューレット変性体、ウレア変性体又はプレポリマー等が挙げられる。
【0030】
ポリイソシアネート類のイソシアネート指数(イソシアネートインデックス)は、90〜120である。イソシアネート指数を90〜120に設定することにより、発泡体の変色を抑制することができると共に、発泡体の架橋密度を高めて発泡体の機械的物性の向上に資することができる。
【0031】
ここで、イソシアネート指数は、ポリオール類の水酸基、架橋剤であるポリオールの水酸基及び発泡剤(水)等の活性水素基に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものである。イソシアネート指数が100を超えるということは、イソシアネート基が活性水素基より過剰であることを意味する。イソシアネート指数が90未満の場合には、ポリオール類などに対するポリイソシアネート類の反応が不足し、発泡体の破裂、崩壊が起きやすくなると共に、得られる発泡体の架橋密度が低下し、発泡体が軟らかくなって機械的物性が低下する。その一方、イソシアネート指数が120を超える場合には、発泡体の架橋密度が高くなってセルの連通性が悪くなると共に、ひずみ(歪)特性も低下する傾向を示す。
【0032】
続いて、触媒はポリオール類とポリイソシアネート類との樹脂化反応(ウレタン化反応)を促進すると共に、ポリイソシアネート類と発泡剤としての水との泡化反応などを促進するためのものである。樹脂化反応を選択的に促進する触媒としては特に金属触媒が用いられ、泡化反応を促進するための触媒としては特にアミン触媒が用いられる。金属触媒として具体的には、オクチル酸スズ(スズオクトエート)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルジ酢酸スズ、ジ(2−エチルヘキシル)ジラウリン酸スズ、ジ(2−エチルヘキサン酸)スズ、ジオクチルスズジラウレート等のスズ化合物やジ(2−エチルヘキサン酸)鉛等が挙げられる。アミン触媒として具体的には、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン等の第3級アミンが挙げられる。
【0033】
この金属触媒の含有量は、ポリオール類100質量部当たり0.7質量部未満であることが好ましい。金属触媒はポリウレタン発泡体中に残存し、変色を悪化させる傾向があるため、より少ない含有量又は含有しないように設定することが好ましい。また、アミン触媒の含有量は、ポリオール類100質量部当たり0.1〜7.0質量部であることが好ましい。アミン触媒の含有量が0.1質量部より少ない場合には、泡化反応の進行が十分ではなく、得られる発泡体のセルの連通性が低下し、通気性が損なわれる傾向となる。その一方、7.0質量部より多い場合には、泡化反応の進行が過剰になり、発泡体の機械的物性が低下する。
【0034】
次いで、発泡剤は、ポリウレタンを発泡させてポリウレタン発泡体とするためのものである。この発泡剤としては、軟質ポリウレタン発泡体の製造で一般的に使用される水(ポリイソシアネート類と反応して炭酸ガスを発生する)、水と補助発泡剤としてのハロゲン化脂肪族炭化水素、例えばメチレンクロライド、トリクロロエタン、炭酸ガス等との併用、酸アミドとの併用が好適である。これらの発泡剤のうち、泡化反応の反応性に優れ、取扱性の良好な水が好ましいが、軽量な発泡体を求める場合には水のみではなく、補助発泡剤であるハロゲン化炭化水素、炭酸ガス等との併用が好ましい。
【0035】
発泡剤の含有量は、水の場合にはポリオール類100質量部当たり1.5〜5.0質量部であることが好ましい。この発泡剤の含有量が1.5質量部より少ない場合には泡化反応が不十分となり、発泡体を安定した状態で得ることができなくなる。その一方、発泡剤の含有量が5.0質量部より多い場合には、水とポリイソシアネート類との反応による過剰な発熱の問題が生じたり、発泡体の連続気泡構造が十分に形成されなくなったりして好ましくない。補助発泡剤の含有量は、発泡体の見掛け密度を調整するために適宜決定されるが、ポリオール類100質量部当たり1.0〜10質量部であることが好ましい。補助発泡剤の含有量が1.0質量部より少ない場合には、補助発泡剤の気化量が少なく、補助発泡剤としての効果が低下する傾向を示す。一方、10質量部より多い場合には、発熱による十分な気化がなされず、補助発泡剤として満足できる効果が得られなくなる。
【0036】
続いて、整泡剤は、発泡剤によって行われる発泡を円滑に進行させるために必要に応じて用いられる。そのような整泡剤としては、軟質ポリウレタン発泡体を製造する際に通常使用されるものを用いることができる。整泡剤として具体的には、シリコーン化合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、ポリエーテルシロキサン、フェノール系化合物等が用いられる。この整泡剤の含有量は常法に従って設定される。発泡体原料には、前記各原料のほか、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、撥水剤、破泡剤(充填剤)等を常法に従って配合することができる。
【0037】
前述したポリオール類とポリイソシアネート類との反応は常法に従って行われるが、ワンショット法又はプレポリマー法が採用される。ワンショット法は、ポリオール類とポリイソシアネート類とを直接反応させる方法である。プレポリマー法は、ポリオール類とポリイソシアネート類との各一部を事前に反応させて末端にイソシアネート基又は水酸基を有するプレポリマーを得、それにポリオール類又はポリイソシアネート類を反応させる方法である。また、軟質ポリウレタン発泡体としては、スラブ発泡法により得られる軟質スラブポリウレタン発泡体が好ましい。スラブ発泡法は、上記ワンショット法により混合攪拌された反応原料(反応混合液)をベルトコンベア上に吐出し、該ベルトコンベアが移動する間に反応原料が常温、大気圧下で反応し、自然発泡することで得られる。その後、乾燥炉内で硬化(キュア)し、所定形状に裁断される。その他、モールド成形法、現場施工スプレー成形法等によって軟質ポリウレタン発泡体を得ることもできる。
【0038】
このようにして得られる軟質ポリウレタン発泡体は、例えば見掛け密度が好ましくは20〜80kg/m、より好ましくは30〜60kg/mのものである。ここで、見掛け密度はJIS K 7222:1999に準拠して測定される値である。この見掛け密度が20kg/mより低い場合、発泡体中のセルの割合が増え、発泡体の機械的物性が低下する。その一方、見掛け密度が80kg/mより高い場合、物性的なデメリットは少ないが、非常に軽量に設計できるという大きなメリットが得られ難くなる。
【0039】
また、発泡体は、紫外線照射による変色性及び酸化窒素による変色性が抑制される。具体的には、紫外線照射による変色性の場合には、例えばフェードメータ試験機により所定の紫外線の照射を行い、照射前後の黄色度(イエローインデックス)YIを色差計により測定した。同黄色度の差(色差)ΔYIは70以下に抑えられる。さらに、酸化窒素による変色性の場合には、例えば濃度600ppmの酸化窒素ガス雰囲気中に曝露する前後の黄色度YIの差を示す色差ΔYIが65以下に抑えられる。
【0040】
発泡体の硬さは、JIS K 6400−2(2004)に準拠して測定される値として40〜200Nであることが好ましい。この硬さが40Nより低いときには、発泡体を肩パッドなどとして使用する場合に硬さが不十分で、形状保持が十分にできないなど好ましくない。一方、硬さが200Nより高いときには、発泡体が硬くなり過ぎて、軟質ポリウレタン発泡体としての弾力性に欠けるようになって好ましくない。
【0041】
以上の実施形態により発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態の難変色性の軟質ポリウレタン発泡体では、ポリオール類は質量平均分子量が600〜1500のポリエーテルポリオールを含み、そのポリエーテルポリオールの含有量がポリオール類100質量部当たり50〜100質量部である。このため、ポリオール類は比較的低分子量であって、発泡体の架橋密度が高くなり、紫外線照射により発泡体が分解しにくくなると同時に、発泡体が酸化窒素に曝露されたとき酸化窒素を吸収しにくくなる。上記ポリオール類の構成に加えて、ポリイソシアネート類はトリレンジイソシアネートであって、そのイソシアネート指数が90〜120に設定されていることから、樹脂化反応や泡化反応の反応性が良く、良好な発泡体が得られる。従って、紫外線及び大気中の酸化窒素に基づく変色を抑制することができると共に、硬さ、ひずみなどの機械的物性を向上させることができる。よって、この発泡体をドレス、ブラウス等の肩パッド、ブラジャー等のパッドなどに好適に使用することができる。
【0042】
・ 前記ポリエーテルポリオールはアルキレンオキシド単位を有し、該アルキレンオキシド単位がプロピレンオキシド単位で構成されることにより、エチレンオキシド単位に比べて酸化窒素を水分と共に吸収しにくく、酸化窒素による変色を一層抑制することができる。その上、エチレンオキシド単位に比べてプロピレンオキシド単位の部分で回転が抑えられ、発泡体の硬さを高めることができる。
【0043】
・ ポリエーテルポリオールの水酸基価は100〜300mgKOH/gであることにより、ポリエーテルポリオールとポリイソシアネート類との反応を十分に促進することができ、軟質ポリウレタン発泡体の架橋密度を向上させることができ、変色の抑制と機械的物性の向上を図ることができる。
【0044】
・ ポリエーテルポリオールの1分子中における水酸基数は2〜4であることにより、軟質ポリウレタン発泡体の架橋密度を高めることができ、変色の抑制と機械的物性の向上を達成することができる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はそれら実施例の範囲に限定されるものではない。
(実施例1〜20及び比較例1〜8)
ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、整泡剤、触媒及び整泡剤を含有する軟質ポリウレタン発泡体の発泡体原料を、表1及び表2に示す組成にて調製した。表1及び表2における発泡体原料の数値は質量部を表す。そして、発泡体原料を常温で混合し、常法に従って反応及び発泡(スラブ発泡)させることにより、縦400mm、横400mm及び厚さ300mm程度の軟質ポリウレタン発泡体(ブロック体)を製造した。各物性の測定は、前記ブロック体を裁断加工することにより得られるサンプルについて行った。
【0046】
ここで比較例1では、発泡体原料のポリオールとして質量平均分子量が低分子量の400であるポリエーテルポリオールのみを使用した例を示す。比較例2、4及び5ではトリレンジイソシアネートのイソシアネート指数が本発明の下限を下回る80である例及び比較例3ではトリレンジイソシアネートのイソシアネート指数が本発明の上限を上回る125である例を示す。比較例6及び7では質量平均分子量600〜1500のポリエーテルポリオールの含有量が本発明の下限を下回る例を示す。比較例8では、ポリオールの質量平均分子量が高分子量の3000であるポリエーテルポリオールのみを使用した例を示す。
【0047】
表1及び表2に示す発泡体原料について以下に説明する。
ポリオールGP400:ポリエーテルポリオール、質量平均分子量400、水酸基価421mgKOH/g、1分子中の水酸基数3、アルキレンオキシド単位はプロピレンオキシドのみで構成されたもの、三洋化成工業(株)製、GP400
ポリオールGP600:ポリエーテルポリオール、質量平均分子量600、水酸基価280mgKOH/g、1分子中の水酸基数3、アルキレンオキシド単位はプロピレンオキシドのみで構成されたもの、三洋化成工業(株)製、GP600
ポリオールG700:ポリエーテルポリオール、質量平均分子量700、水酸基価225mgKOH/g、1分子中の水酸基数3、アルキレンオキシド単位はプロピレンオキシドのみで構成されたもの、旭電化工業(株)製、G700
ポリオールGP1000:ポリエーテルポリオール、質量平均分子量1000、水酸基価168mgKOH/g、1分子中の水酸基数3、アルキレンオキシド単位はプロピレンオキシドのみで構成されたもの、三洋化成工業(株)製、GP1000
ポリオールG1500:ポリエーテルポリオール、質量平均分子量1500、水酸基価112mgKOH/g、1分子中の水酸基数3、アルキレンオキシド単位はプロピレンオキシドのみで構成されたもの、旭電化工業(株)製、G1500
ポリオールGP3000:ポリエーテルポリオール、質量平均分子量3000、水酸基価56mgKOH/g、1分子中の水酸基数3、アルキレンオキシド単位はプロピレンオキシドのみで構成されたもの、三洋化成工業(株)製、GP3000
ポリオールGEP2800:ポリエーテルポリオール、質量平均分子量3000、水酸基価65mgKOH/g、1分子中の水酸基数3、アルキレンオキシド単位はプロピレンオキシド50質量%及びエチレンオキシド50質量%で構成されたもの、三洋化成工業(株)製、GEP2800
アミン触媒33LV:トリエチレンジアミン、日本乳化剤(株)製、33LV
整泡剤L626:シリコーン整泡剤、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、L626
ポリイソシアネートT65:2,4−トリレンジイソシアネート65質量%と2,6−トリレンジイソシアネート35質量%との混合物、日本ポリウレタン工業(株)製、コロネートT65
得られた軟質ポリウレタン発泡体のサンプルについて、見掛け密度、硬さ及び変色性を下記に示す方法で測定した。変色性については、初期及び紫外線(UV)照射後、酸化窒素(NOx)暴露後の黄色度(YI)を測定し、初期値との差を色差(ΔYI)として算出した。
【0048】
見掛け密度(kg/m):JIS K 7222(1999)に準拠して測定した値である。
硬さ(N):JIS K 6400−2(2004)に準拠して測定した値である。
【0049】
紫外線照射による変色性:フェードメータ試験機に発泡体のサンプルを取付け、紫外線を20時間照射(ブラックパネル63℃)後、取り出して黄色度(イエローインデックス)YIを色差計により測定した。そして、紫外線照射後の黄色度YIと初期の黄色度YIとの差を色差ΔYIとして求めた。
【0050】
酸化窒素(NOx)による変色性:発泡体のサンプルを濃度600ppmの酸化窒素ガス雰囲気中に4時間曝露した後、取り出してフェードメータ試験機で黄色度YIを測定した。そして、酸化窒素曝露後の黄色度YIと初期の黄色度YIとの差を色差ΔYIとして求めた。それらの結果を表1及び表2に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

表1及び表2に示した結果より、実施例1〜20では質量平均分子量が600〜1500のポリエーテルポリオールをポリオール類100質量部当たり50〜100質量部使用すると共に、トリレンジイソシアネートのイソシアネート指数を90〜120に設定した。そのため、紫外線及び酸化窒素による変色を色差ΔYIとしてそれぞれ65以下及び70以下に抑制することができた。また、ポリエーテルポリオールとしてプロピレンオキシド単位にエチレンオキシド単位(50質量%)を含む場合(実施例7)には、プロピレンオキシド単位のみの場合(実施例6)に比べて紫外線及び酸化窒素による色差ΔYIが悪くなる傾向を示した。従って、ポリエーテルポリオールとしては、そのアルキレンオキシド単位がプロピレンオキシドのみによって形成されていることが望ましいことが明らかになった。加えて、実施例1〜20では発泡体の硬さを53〜185Nに維持することができた。
【0053】
一方、比較例1では発泡体原料のポリオールとして質量平均分子量が低分子量の400であるポリエーテルポリオールのみを使用したため、発泡体が収縮し、良好な発泡体が得られなかった。比較例2、4及び5ではトリレンジイソシアネートのイソシアネート指数が本発明の下限を下回る80であることから、発泡体には十分な架橋構造が形成されず、酸化窒素が吸収されやすくなったり、紫外線によって分解されやすくなったりして紫外線及び酸化窒素による発泡体の色差ΔYIが悪化した。比較例3ではトリレンジイソシアネートのイソシアネート指数が本発明の上限を上回る125であったため、樹脂化反応と泡化反応とのバランスが悪くなり、発泡体は収縮して良好なものが得られなかった。
【0054】
比較例6及び7では質量平均分子量600〜1500のポリオールの含有量が本発明の下限を大きく下回ったため、発泡体の架橋構造が不足し、紫外線及び酸化窒素による色差ΔYIが悪化した。比較例8では、ポリオールの質量平均分子量が高分子量の3000であるポリエーテルポリオールのみを使用したことから、発泡体のポリオール残部が長鎖構造をとり、紫外線によって分解しやすく、また酸化窒素の吸収も大きく、紫外線及び酸化窒素による色差ΔYIが悪くなった。
【0055】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ ポリオール類として、質量平均分子量が600〜1500のポリエーテルポリオールを複数組合せ、ポリオール類全体の質量平均分子量、水酸基価、水酸基数などを調整して使用することもできる。
【0056】
・ ポリイソシアネート類として、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの含有量が前記実施例とは異なるものを少なくとも1種使用し、ポリオール類との反応性を変えたり、イソシアネート指数を変更したりすることもできる。
【0057】
・ ポリエーテルポリオールとして、アルキレンオキシド単位がプロピレンオキシド単位に少量のエチレンオキシド単位を含むものを使用することも可能である。
・ 本発明の軟質ポリウレタン発泡体では、酸化硫黄(SOx)などの大気中の汚染ガスを吸収することができ、それによる変色を抑制することができる。
【0058】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 色差計により測定された、紫外線照射前後及び酸化窒素曝露前後における変色性を示す色差ΔYIが70以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の難変色性の軟質ポリウレタン発泡体。このように構成した場合、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加えて、紫外線及び大気中の酸化窒素による変色を十分に抑制することができる。
【0059】
・ 前記軟質ポリウレタン発泡体は、スラブ発泡法により得られるものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の難変色性の軟質ポリウレタン発泡体。このように構成した場合、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加えて、発泡体を簡単な操作で容易に得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有する発泡体原料を反応及び発泡させてなる軟質ポリウレタン発泡体であって、
前記ポリオール類は質量平均分子量が600〜1500のポリエーテルポリオールを含み、そのポリエーテルポリオールの含有量がポリオール類100質量部当たり50〜100質量部であると共に、ポリイソシアネート類はトリレンジイソシアネートであって、そのイソシアネート指数が90〜120であることを特徴とする難変色性の軟質ポリウレタン発泡体。
【請求項2】
前記ポリエーテルポリオールはアルキレンオキシド単位を有し、該アルキレンオキシド単位がプロピレンオキシド単位で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の難変色性の軟質ポリウレタン発泡体。
【請求項3】
前記ポリエーテルポリオールの水酸基価は100〜300mgKOH/gであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の難変色性の軟質ポリウレタン発泡体。
【請求項4】
前記ポリエーテルポリオールの1分子中における水酸基数は2〜4であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の難変色性の軟質ポリウレタン発泡体。

【公開番号】特開2009−167298(P2009−167298A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7125(P2008−7125)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】