説明

難溶性化合物の水性分散物および溶液ならびにそれらの調製方法

本発明は、水難溶性化合物の即溶解性または即分散性の組成物を調製する方法、および水難溶性化合物の懸濁物または水溶液を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水不溶性ないし僅かに溶解性の化合物の水性分散物および飽和溶液、ならびにそれらを調製する方法を包含する。
【背景技術】
【0002】
人体は約80%水であり、従って、薬物の水溶液を患者に投与することは有利である。しかし、必ずしもすべての化合物または薬物が水に容易に溶解することはなく、多くの場合、これはそれらの難溶性に起因する。一部の化合物は僅かに水溶性であり、他は全く水溶性ではない。多くの場合、この溶解性の欠如は、材料の物理的性質、例えば、それらの高粘性、膠様または感熱性のせいで、溶液を形成する上でさらなる困難性を重ねることになる。水溶性でないかまたは僅かしか溶解しない化合物は、有機溶媒中に溶解させることが可能である。しかし、有機溶媒中のこれら化合物の溶液は、多様な理由により不便な場合がある。例えば、行政当局は患者に投与しようとする配合物中の有機溶媒の量を制限する場合がある。すなわち、有機溶媒は毒性である場合がある。従って、水難溶性化合物の水溶液または懸濁物の調製は薬物送達分野において重要であるが、一方で、多くの活性医薬成分は、それらが水不溶性化合物であるため、溶液として利用できない場合がある。投与前に可溶性としなければならない水難溶性薬物の例として、点眼液中に用いられるラタノプロストが挙げられる。
【0003】
これまで、分散物または溶液として配合しようとする水難溶性化合物は、溶解を増進し溶解度を上げるために水と一緒に加熱されていた。溶解しようとする化合物および水は、多くの場合混合され、次にこの混合物は溶解を促進するために加熱されていた。混合物を望ましい温度に冷却後、飽和溶液中で物質の溶液または分散物を得ることができた。飽和溶液は、あらゆる不溶解材料が除去される場合に得ることができた。しかし、この方法は、溶解しようとする化合物が高粘性および膠様または感熱性である場合に効果がない。高粘性物質は、多くの場合、それを溶解するために用いられる容器の壁に粘着するか、または冷却中に凝塊してしまうおそれがある。少なくともこれらの理由により、難溶性の化合物の溶液は、多くの場合、理論的に可能な濃度に全く到達させることができず、溶液全体で良好に分散させることが困難な場合すらある。僅かに不溶性ないし不溶性の化合物を加熱することは、また、溶解しようとする化合物が加熱すると劣化する場合に不適切である。さらに、この方法は、溶解しようとする化合物の溶解度が温度上昇によりほとんど影響を受けないか、または全く影響を受けない場合に効果がない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は従来技術の欠陥を解決する。本発明は、溶解を促進するための加熱を必要とせずに多様な化合物に適用することができる、水難溶性化合物または水不溶性化合物の懸濁物または分散物または水溶液を調製する方法を包含する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一つの実施形態は、少なくとも一つの水難溶性化合物により覆われる少なくとも一つの基体を含む、水難溶性化合物の即溶解性または即分散性の組成物を調製する方法を包含する。組成物を製造する方法は、化合物を溶解するのに有効な少なくとも一つの溶媒中で少なくとも一つの水難溶性化合物の溶液を調製すること、少なくとも一つの基体、好ましくは溶媒に不溶性であるが水溶性である基体の表面を溶液で覆ってマトリクスを形成すること、および溶媒を除去することを含む。
【0006】
本発明の別の実施形態は、上述の方法により固形マトリクスを調製すること、および固形マトリクスを十分な量の水と混合して難溶性化合物の水溶液または懸濁物を形成することを含む、水難溶性化合物の水溶液または懸濁物を調製する方法を包含する。
【0007】
本発明の別の実施形態は、化合物を溶解するのに有効な少なくとも一つの溶媒中で少なくとも一つの水難溶性化合物の溶液を調製すること、少なくとも一つの基体、好ましくは溶媒に不溶性であるが水溶性である基体の表面を溶液で覆ってマトリクスを形成すること、および溶媒を除去すること、ならびに得られるマトリクスを十分な量の水に溶解して懸濁物または水溶液を形成することを含む、水難溶性化合物の懸濁物(分散物)または水溶液を調製する方法を包含する。
【0008】
一般的に、化合物を溶解するために有効な溶媒は有機溶媒であり、好ましくは揮発性有機溶媒である。必要に応じて、本方法は、さらに、緩衝剤、着色剤、乳化剤、香料添加剤、防腐剤、可溶剤、界面活性剤、懸濁化剤、等張化剤、および粘度調節剤からなる群から選択される少なくとも一つの追加化合物を添加することを含む。溶液または分散物が点眼液として用いられようとする場合に、追加化合物は、例えば、塩化ベンザルコニウムおよび/または塩化ナトリウムとしてもよい。
【0009】
本発明の一つの実施形態は、水に導入するとすぐに溶解して、水難溶性材料の飽和溶液中で難溶性材料の水溶液または分散物となる、難溶性材料により覆われる基体のマトリクスである。
【0010】
本発明の特定実施形態は、適量の水に導入すると飽和濃度に達するラタノプロストにより覆われる1または複数の水溶性基体から構成される、ラタノプロストの即溶解性固形組成物である。この実施形態の最も好ましい形態において、1または複数の基体はまた、溶解時に得られるラタノプロスト点眼液が十分に混合されるように、点眼液用に必要とされる賦形剤成分を含む。
【0011】
一つの実施形態において、好ましい揮発性有機溶媒は、C1〜C6アルコール、アセトニトリル、C3〜C4ケトン、C1〜C3ハロゲン化溶媒、C3〜C4エステル、または低沸点炭化水素である。好ましくは、揮発性有機溶媒は、C1〜C4アルコール、アセトニトリル、アセトン、クロロホルム、酢酸エチル、またはC5〜C7低沸点炭化水素である。一つの特定実施形態において、揮発性有機溶媒はエタノールまたはアセトニトリルである。
【0012】
別の実施形態において、基体は、緩衝液の成分、生体液の塩成分、または水溶性であるが有機溶媒に不溶性である有機成分である。基体は、アスコルビン酸、ホウ酸、クエン酸、エデト酸塩、パラベンエステル、ラウリル硫酸カリウムまたはナトリウム、リン酸のカリウムまたはナトリウム塩、塩化ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、スクロース、フルクトース、ラクトース、デキストロース、または乳酸リンゲルであることが可能である。あるいは、基体は、アスコルビン酸、ホウ酸、クエン酸、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、メチルパラベン、エチルパラベン、ラウリル硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素カリウム、スクロース、フルクトース、ラクトース、デキストロース、または乳酸リンゲルであることが可能である。さらに好ましくは、基体はNaH2PO4またはNa2HPO4である。
【0013】
なお別の実施形態において、除去工程は減圧下で行われる。
【0014】
一つの特定実施形態において、水難溶性化合物は、デキサメタゾン、フルチカゾン、ヒドロコルチゾン、ラタノプロスト、モメタゾン、またはトラボプロストである。好ましくは、化合物はラタノプロストである。
【0015】
一つの特定実施形態において、溶解工程の間に添加される水の量は、マトリクス上のすべての物質を溶解するために十分でなく、飽和溶液中で懸濁物(分散物)が得られる。別の特定実施形態において、添加される水の量は飽和水溶液を形成するために十分である。
【0016】
本発明の別の実施形態は、上述の方法により調製される水難溶性化合物の飽和水溶液を包含する。
【0017】
一つの実施形態において、本発明は、少なくとも一つの難溶性化合物により覆われる少なくとも一つの基体を含む、難溶性化合物の即溶解性または即分散性の組成物を包含する。一つの特定実施形態において、基体はNaH2PO4およびNa2HPO4の混合物であり、難溶性化合物はラタノプロストである。別の特定実施形態において、基体はNaH2PO4・H2Oであり、難溶性化合物はデキサメタゾンである。
【0018】
本発明の別の実施形態は、残留有機溶媒含量が約20μg/mL未満の、上述の方法により調製されるラタノプロストの0.005%(w/v)溶液を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、水難溶性化合物の懸濁物(分散物)または飽和水溶液、およびそれらを調製する方法を包含する。特に、本発明は、水難溶性化合物の懸濁物または飽和溶液、および水難溶性化合物の懸濁物または飽和水溶液を調製するために用いられる組成物を包含する。しかし、理論に拘束される訳ではないが、水難溶性化合物の溶解速度は、化合物が水溶性マトリクスの表面に分散される場合に改善されると考えられる。結果として、一つの実施形態において、本発明は、最小量の混合により室温での化合物の溶解性を改善する。
【0020】
別に定義のない限り、本明細書において用いられる「水難溶性化合物」には、水不溶性化合物、またはそれらの溶解過程が他の原因により限定されるかまたは妨げられる化合物が包含される。例えば、水不溶性化合物は、5mg/mL以下、好ましくは2mg/mL以下、さらに好ましくは1mg/mL以下の水溶解度を有するであろう。水難溶性でありうる他の化合物として、高粘性または膠様であるものが挙げられる。本発明は、明らかに、本発明において用いられる水不溶性化合物が膠様粘性物質または加熱すると劣化する物質である場合にその有用性を最大に示す。水不溶性化合物の例として、ラタノプロスト、トラボプロスト、フルチカゾン、デキサメタゾン、またはヒドロコルチゾンが挙げられるがそれらに限定されない。
【0021】
別に定義のない限り、本明細書において用いられる用語「懸濁物」または「複数の懸濁物」は分散物も包含する。
【0022】
別に定義のない限り、本明細書において用いられる用語「水溶液」は、水溶液および飽和水溶液を包含する。
【0023】
水難溶性化合物の懸濁物または水溶液を製造する方法は、基体マトリクスの即溶解性または即分散性の組成物、および水難溶性化合物を十分な量の水に溶解して、懸濁物または飽和水溶液を形成することを含む。
【0024】
水難溶性化合物の即溶解性または即分散性の組成物を調製する方法は、化合物を溶解するのに有効な少なくとも一つの溶媒中で少なくとも一つの水難溶性化合物の溶液を調製すること、および少なくとも一つの基体の表面を溶液で覆ってマトリクスを形成することを含む。好ましくは、基体は溶媒に不溶性であるが水溶性である。
【0025】
所望の懸濁物または水溶液を製造する方法は、単純にマトリクスを最小の混合で水に溶解して、所望の懸濁物または水溶液を得ることを含む。
【0026】
懸濁物または水溶液を製造する方法は、1工程で行ってもよく、少なくとも一つの溶媒中で少なくとも一つの水難溶性化合物の懸濁物または水溶液を調製すること、少なくとも一つの基体の表面を溶液で覆ってマトリクスを形成すること、溶媒を除去して固形マトリクスにすること、およびマトリクスを最小の混合で水に溶解して、懸濁物または水溶液を得ることを含む。
【0027】
必要に応じて、本方法は、例えば以下に限定されないが、緩衝剤、等張化剤、可溶剤、防腐剤、粘度調節剤、着色剤、および香料添加剤などの、少なくとも一つの化合物を溶媒溶液に添加することをさらに含む。
【0028】
少なくとも一つの水難溶性化合物と少なくとも一つの溶媒好ましくは揮発性有機溶媒との溶液は、水難溶性化合物を十分な量の1または複数の溶媒中で混合して溶液を得ることにより調製される。当業者であれば、実験をほとんどせずにまたは全くせずに、水不溶性化合物を溶解するために必要な溶媒量を決定することができる。例えば、当業者は、量、時間、温度などの因子、および水不溶性化合物それ自体が、溶液を形成するために必要な溶媒量に影響を与えうることを理解している。好ましくは溶液は均質であるが必須ではない。わずかな量の水不溶性化合物がなお存在する場合、それらを濾過または一般的に当業者に公知である他の手段により除去することが可能である。
【0029】
好ましい揮発性有機溶媒は、水難溶性化合物が可溶である少なくとも一つの有機溶媒である。本明細書において用いられる用語「揮発性有機溶媒」には、好ましくは加熱なしで、大気圧または減圧下ですぐに蒸発する有機溶媒が包含される。減圧下で蒸発させる場合、水難溶性化合物を分解しない熱量である限り、溶媒を静かに加熱してもよい。例えば、揮発性有機溶媒は約120℃以下の沸点を有し、好ましくは、揮発性有機溶媒は約100℃以下の沸点を有し、さらに好ましくは、揮発性有機溶媒は85℃以下の沸点を有する。
【0030】
揮発性有機溶媒として、C1〜C6アルコール、アセトニトリル、C3〜C4ケトン、C1〜C3ハロゲン化溶媒、C3〜C4アルキルエステル、またはC5〜C8低沸点炭化水素が挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、揮発性有機溶媒として、C1〜C4アルコール、アセトニトリル、アセトン、クロロホルム、酢酸エチル、またはC5〜C7低沸点炭化水素が挙げられる。C1〜C3ハロゲン化溶媒として、モノ−、ジ−、および/またはトリ−ハロゲン化アルカンが挙げられるがそれらに限定されない。C1〜C6アルコールとして、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、および1−ヘキサノールが挙げられるがそれらに限定されない。C5〜C7低沸点炭化水素として、ペンタンまたはヘキサンが挙げられるがそれらに限定されない。好ましい溶媒はエタノールおよびアセトニトリルである。
【0031】
一般的に、水難溶性化合物として、約5mg/mL以下、好ましくは約2mg/mL以下、さらに好ましくは約1mg/mL以下の最大水溶解度を有する不溶性化合物、および化合物の物理的特性のせいで難溶性の化合物が挙げられる。水難溶性化合物の例として、デキサメタゾン、フルチカゾン、ヒドロコルチゾン、ラタノプロスト、モメタゾン、またはトラボプロストが挙げられるがそれらに限定されない。用語「水難溶性化合物」には、化合物のあらゆる無水物および/または水和物、および塩(塩の水和物)も包含されるとみなす。例えば、デキサメタゾンには、酢酸デキサメタゾン、デキサメタゾンリン酸ナトリウム、および水和物が包含される。別の例は、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、ヘミコハク酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾンリン酸ナトリウム、ヒドロコルチゾンコハク酸ナトリウム、吉草酸ヒドロコルチゾン、およびそれらの水和物を含むヒドロコルチゾンである。
【0032】
少なくとも一つの基体の表面を溶液により覆う工程は、一般に、基体を溶液により覆うかまたは濡らすことを含む。基体に適用される本明細書において用いられる用語「表面」には、外部表面、および/または多孔質基体におけるような存在しうるあらゆる内部表面が包含される。従って、基体表面は、完全にまたは部分的に覆うことが可能である。一般的に、溶液は、噴霧するか、基体を溶媒中に浸漬するか、溶液を基体と混合するか、または溶液を基体表面に適用するために用いられるあらゆる他の方法により適用される。溶媒溶液は基体表面上に層を形成することが可能であるか、または、部分的にのみ表面を覆うか、またはさらに言えば表面上に液滴を形成することが可能である。
【0033】
基体として適する化合物は、溶液により覆うか、または被覆することが可能である化合物を包含し、そして水溶性である。一般的に、基体は、水溶性であるが水難溶性化合物を溶解するのに用いられる溶媒には不溶性である材料である。一般的に、基体として、緩衝液の成分、生体液の塩成分、または水溶性無機塩、水溶性であるが有機溶媒に不溶性である有機成分が挙げられるがそれらに限定されない。
【0034】
緩衝液の成分として、アスコルビン酸、ホウ酸、クエン酸塩、酢酸塩、ハロゲン水素酸塩、またはリン酸塩が挙げられるがそれらに限定されない。ハロゲン水素酸塩として、ハロゲン水素酸のナトリウムおよび/またはカリウム塩が挙げられるがそれらに限定されない。リン酸塩として、無水物および水和物(一水和物、二水和物、など)の形態を含む、リン酸水素カリウムもしくはナトリウム、リン酸二水素カリウムもしくはナトリウム、リン酸カリウムもしくはナトリウム、またはさらに言えば1種より多い混合物が挙げられるがそれらに限定されない。生体液の塩成分として、エデト酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどの塩化物塩、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムもしくは塩化ベンザルコニウム、および塩化カリウム、臭化カリウムもしくはヨウ化カリウムなどのカリウム塩、またはそれらの混合物が挙げられるがそれらに限定されない。上記一覧には、それらの無水物形態、ならびに一水和物、二水和物、および三水和物などの水和物形態の塩が包含される。例えば、基体として、エデト酸カルシウム二水和物または三水和物、またはエデト酸二ナトリウム二水和物が挙げられる。
【0035】
水溶性である有機成分として、糖、乳酸塩、またはパラベンエステルが挙げられるがそれらに限定されない。糖として、マンノース、グルコース、スクロース、フルクトース、ラクトース、またはデキストロースが挙げられるがそれらに限定されない。乳酸塩として乳酸リンゲルが挙げられるがそれに限定されない。他の有機成分として、メチルパラベン、エチルパラベン、ソルビトールまたはマンニトールが挙げられる。基体には、上述成分の塩、無水物、水和物(一水和物、二水和物、など)および溶媒和物が包含されるとみなす。
【0036】
基体は、アスコルビン酸、ホウ酸、クエン酸、エデト酸塩、パラベンエステル、ラウリル硫酸カリウムまたはナトリウム、リン酸のカリウムまたはナトリウム塩、塩化ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、スクロース、フルクトース、ラクトース、デキストロース、または乳酸リンゲルの少なくとも一つであってよい。好ましい基体として、アスコルビン酸、ホウ酸、クエン酸、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、メチルパラベン、エチルパラベン、ラウリル硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、スクロース、フルクトース、ラクトース、デキストロース、または乳酸リンゲルが挙げられる。さらに好ましい基体として、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0037】
一般に、用語「基体」が単一種を指す必要はなく、いくつかの成分から構成されてもよいこと、そしてそれらの成分が上述の一つのタイプのみからなる必要はないことは、勿論明白である。
【0038】
除去工程は、溶媒をマトリクスから除去するやり方で行うことができる。好ましくは、溶媒が揮発性有機溶媒である除去工程において、十分な揮発性有機溶媒がマトリクスから除去されて、FDAにより許容される最大残留有機溶媒量に適合する。最大残留有機溶媒量のガイドラインは、参照により本明細書の一部とする、FDA Inactive Ingredient Guide, FDA (Center for Drug Evaluation and Research, Division of Drug Information Resources, Inactive Ingredient Guide, October 2005)に見出すことができる。
【0039】
一般的に、好ましくは、揮発性有機溶媒は、減圧下、例えば1気圧未満の圧力下で、または凍結乾燥により除去される。除去工程の間に加熱される場合、与える熱は水難溶性化合物を劣化させることなく揮発性有機溶媒を除去するのに十分でなければならない。好ましくは、除去工程は減圧下で加熱せずに行われる。
【0040】
溶解工程は、マトリクスを十分な量の水の中に置いて溶液または懸濁物を形成することを含む。懸濁物を作り出す場合に、水がマトリクスに添加されて基体を溶解するが、水難溶性化合物は飽和溶液中で微細固形分散物として存在する。溶液を調製する場合に、十分な水を添加して飽和溶液を形成してもよいが、必要ならば、目標濃度まで溶液を希釈するために追加の水を添加してもよい。溶解工程は、当業者に一般的に公知の方法を用いて行うことができる。当業者であれば、実験をほとんどせずにまたは全くせずに、マトリクスの量、基体のタイプ、および水難溶性化合物のタイプなどの因子を考慮に入れて、懸濁物または溶液を形成するために必要な水の量を容易に決定することができる。
【0041】
必要に応じて、本方法は、少なくとも一つの追加成分を添加することをさらに含む。追加の成分として、緩衝剤、着色剤、乳化剤、香料添加剤、防腐剤、可溶剤、界面活性剤、懸濁化剤、等張化剤、または粘度調節剤が挙げられるがそれらに限定されない。追加成分は、他の医薬成分または目標配合物の相互成分であることができる。点眼液または懸濁物用の好ましい追加成分として、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ナトリウムが挙げられる。
【0042】
以下の実施例は本発明の方法を説明する。しかし、これが単なる一つの実施例であり、本発明の限定を意図するものではないことを理解すべきである。本発明の方法は、一例として、プロスタグランジンF類似物質(プロスタグラノイド選択FP受容体作用薬)−ラタノプロスト:イソプロピル(Z)−7−{(1R,2R,3R,5S)−3,5−ジヒドロキシ−2−[3(R)−(3−ヒドロキシル−5−フェニル)ペンチル]シクロペンチル}−5−ヘプテノエートを用いて説明される。
【0043】
一般的に、ラタノプロストはエタノールと混合されて溶液を形成する。溶液はNaH2PO4およびNa2HPO4の混合物に添加されて混合物を生成する。混合物は減圧下室温で乾燥されて、表面上にラタノプロストを有する乾燥粉末を生成する。その後、乾燥粉末は水に溶解されて、約20μg/mL未満の残留有機溶媒含量でラタノプロスト0.005%(w/v)の飽和水溶液を生成する。残留有機溶媒含量は、FDAにより許容される1.4%(14mg/mL)の最大残留有機溶媒含量より非常に少ない。FDA Inactive Ingredient Guideを参照すること。
【0044】
本発明は、また、本発明の方法を用いて製造される溶液および懸濁物を包含する。
【0045】
一部の好ましい実施形態に照らして本発明を記載してきたが、他の実施形態は、本明細書を考慮すれば当業者に明らかである。本発明は、詳細に本発明の方法および組成物を記載する以下の実施例を参照することによりさらに定義される。材料および方法の両方に対する多くの変更が本発明の範囲から逸脱することなく実施可能であることは、当業者に明らかである。
【実施例】
【0046】
例1
エタノール中のラタノプロスト溶液(6.4mg/mL)1mLを、NaH2PO4・H2O(0.553g)およびNa2HPO4(0.564g)の混合物に添加した。得られた混合物を減圧下室温で乾燥して、表面上にラタノプロストを有する乾燥粉末粒子を生成した。乾燥粉末を水(120mL)に溶解して溶液を形成した。塩化ベンザルコニウムを溶液に添加した。得られた溶液は透明かつ安定であり、ラタノプロスト含量は0.005%(w/v)であった。残留エタノール含量は0.6μg/mLであると分かった。
【0047】
例2
ラタノプロスト(17.97mg)をアセトニトリル(5mL)に溶解した。この溶液1.5mLを、NaH2PO4(0.464g)およびNa2HPO4(0.469g)の混合物に添加した。得られた混合物を減圧下で乾燥して乾燥粉末を得た。水50mLを乾燥粉末に添加し、5分間攪拌した。濃度約0.01%(w/v)のラタノプロストの微細懸濁物を得た。塩化ベンザルコニウムおよび塩化ナトリウムを含有する水50mLを、この懸濁物に添加して攪拌した。得られたラタノプロスト透明溶液の濃度は、0.005%(w/v)であった。
【0048】
例3:比較例
ラタノプロスト(5.621mg)を、NaH2PO4(0.463g)を含有する水(100mL)に溶解した。混合物を120分間にわたり攪拌した。水溶液のラタノプロスト濃度は、わずかに0.00015%(w/v)、すなわち目標濃度0.005%の30%であった。
【0049】
例4:比較例
例3からの混合物を120分間にわたり攪拌しながら40℃で加熱した。濃度0.00407%(w/v、すなわち目標濃度0.005%の81.4%)のラタノプロストの溶液を得た。
【0050】
例5
デキサメタゾン(104.05mg)をアセトニトリル(5mL)中に溶解した。この溶液1mLをNaH2PO4・H2O 545mgに添加し、混合物を減圧下で15時間にわたり乾燥した。水20mLを添加し、混合物を攪拌した。デキサメタゾンの微細懸濁物(濃度約0.1%(w/v))を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの溶媒中で少なくとも一つの水難溶性化合物の溶液を調製する工程
少なくとも一つの基体の表面を前記溶液で覆ってマトリクスを形成する工程、および
前記溶媒を除去して固形マトリクスを形成する工程
を含む、水難溶性化合物の即溶解性または即分散性の組成物を調製する方法。
【請求項2】
前記溶媒が揮発性有機溶媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記揮発性有機溶媒が、C1〜C6アルコール、アセトニトリル、C3〜C4ケトン、C1〜C3ハロゲン化溶媒、C3〜C4エステル、または低沸点炭化水素である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒がエタノールまたはアセトニトリルである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記基体が水溶性基体である、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記基体が、緩衝液の成分、生体液の塩成分、または水溶性であるが有機溶媒に不溶性である有機成分、またはそれらの混合物である、請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記基体が、アスコルビン酸、ホウ酸、クエン酸、エデト酸塩、パラベンエステル、ラウリル硫酸カリウムまたはナトリウム、リン酸のカリウムまたはナトリウム塩、塩化ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、スクロース、フルクトース、ラクトース、デキストロース、または乳酸リンゲルである、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記基体が、アスコルビン酸、ホウ酸、クエン酸、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、メチルパラベン、エチルパラベン、ラウリル硫酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、スクロース、フルクトース、ラクトース、デキストロース、または乳酸リンゲルから構成される、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記基体がNaH2PO4またはNa2HPO4である、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記除去工程が減圧下で行われる、請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記水不溶性化合物が、デキサメタゾン、フルチカゾン、ヒドロコルチゾン、ラタノプロスト、モメタゾン、またはトラボプロストである、請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記水不溶性化合物がラタノプロストである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法により固形マトリクスを調製する工程、および前記固形マトリクスを十分な量の水と混合することを含む、水難溶性化合物の水溶液または懸濁物を調製する方法。
【請求項14】
水の量が水溶液を形成するために十分である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
水の量が飽和水溶液を形成するために十分である、請求項13または請求項14に記載の方法。
【請求項16】
水の量が懸濁物を形成するために十分である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
緩衝剤、着色剤、乳化剤、香料添加剤、防腐剤、可溶剤、界面活性剤、懸濁化剤、等張化剤、または粘度調節剤からなる群から選択される少なくとも一つの追加化合物を添加する工程をさらに含む、請求項1〜16のいずれか1つに記載の方法。
【請求項18】
前記追加化合物が塩化ベンザルコニウムまたは塩化ナトリウムである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記追加化合物が前記水溶液または前記懸濁物に添加される、請求項17または請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法により製造される即溶解性または即分散性の組成物。
【請求項21】
少なくとも一つの水難溶性化合物により覆われる基体を含む、水難溶性化合物の即溶解性または即分散性の組成物。
【請求項22】
前記基体がNaH2PO4およびNa2HPO4であり、前記水難溶性化合物がラタノプロストである、請求項20または請求項21に記載の即溶解性または即分散性の組成物。
【請求項23】
前記基体がNaH2PO4・H2Oであり、前記水難溶性化合物がデキサメタゾンである、請求項20または請求項21に記載の即溶解性または即分散性の組成物。

【公表番号】特表2009−518395(P2009−518395A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544314(P2008−544314)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/018550
【国際公開番号】WO2007/067208
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(501079705)テバ ファーマシューティカル インダストリーズ リミティド (283)
【Fターム(参考)】