説明

難燃剤及び難燃性樹脂組成物

【課題】 微量添加で高い難燃性を付与することができ、樹脂の基本的な物性を何ら損なうことなく、また、ハロゲン元素、リン元素を含まないので環境や人体に悪影響を与えない安全な難燃剤及び該難燃剤を含有してなる難燃性樹脂組成物の提供。
【解決手段】 多価フェノール化合物、糖類化合物、及び脂肪酸化合物を含有することを特徴とする難燃剤である。該多価フェノール化合物が、タンニン化合物である態様、該糖類化合物が、単糖類、二糖類、オリゴ糖類及び多糖類の少なくともいずれかである態様、該脂肪酸化合物が、有機カルボン酸塩である態様、などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂に優れた難燃性を付与することができる難燃剤及び該難燃剤を含有してなる難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
家電OA製品に使用される樹脂は、米国内においては、それぞれの部品ごとにUL規格(Under Writers Laboratories Inc., standard)におけるUL−94の難燃規格によって定められた難燃性を満たすことが必要である。また、最近では米国だけではなく、日本も含めたほとんどの国においてもこのUL規格を採用するようになってきている。
【0003】
ところで、従来の難燃剤は、概ね以下の3種類の原理が考えられ、それぞれが用途や樹脂の種類に応じて使用されている。
第一は、樹脂にハロゲン系化合物を10〜20質量%添加することにより、燃焼した炎に対し負触媒として働き、燃焼速度を低下させて難燃性を付与するものである。
第二は、樹脂にシリコーン化合物を数〜十数質量%程度添加するか、又はリン酸系化合物を数〜数十質量%添加し、燃焼中に樹脂の表面にシリコーン化合物をブリードさせたり、脱水素反応を樹脂内で起こすことにより、表面にチャー(炭化層)を生成させて、断熱皮膜の形成により燃焼を止めるものである。
第三は、樹脂100質量部に対し水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物を40〜110質量部程度添加し、樹脂の燃焼によってこれらの化合物が分解するときの吸熱反応による冷却、及び生成した水の持つ蒸発潜熱で樹脂全体を冷却して、燃焼を止めるものである。
【0004】
しかし、前記第一の手法は、廃棄物として燃焼させる場合、十分な酸素量と燃焼温度が与えられないと、ハロゲン化合物によるダイオキシンの発生が問題となる。また、前記第二の手法は、燐酸エステル化合物の場合、燃焼灰に含まれるリン酸による水質汚染などが廃棄プラスチックによって引き起こされるおそれがある。また、シリコーン化合物を大量に添加すると、樹脂本来の物性を変えてしまい、強度が低下することがある。また、前記第三の手法は、金属水酸化物は多量の無機塩を添加するため、樹脂が加水分解したり機械的物性が極めて脆くなってしまうという問題がある。
【0005】
そこで、本発明者らは、先に、熱可塑性樹脂中にタンニン化合物を添加することにより、該タンニン化合物が樹脂の中に生成したラジカルを補足するため熱安定効果が高く、難燃剤として極めて有効であることを提案している(特許文献1〜4参照)。
しかし、樹脂の燃焼は該樹脂が分解することによってガスが発生し、このガスが空気中の酸素と連続反応して燃焼が継続することが知られており、前記タンニン化合物の添加による樹脂の安定性の向上だけでは、十分満足できるレベルの難燃性を付与することは困難であるのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特許第3046962号公報
【特許文献2】特許第3046963号公報
【特許文献3】特許第3046962号公報
【特許文献4】特開2003−313411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、微量添加で高い難燃性を付与することができ、樹脂の基本的な物性を何ら損なうことなく、また、ハロゲン元素、リン元素を含まないので環境や人体に悪影響を与えない安全な難燃剤及び該難燃剤を含有してなる難燃性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、多価フェノール化合物、糖類化合物、及び脂肪酸化合物を含有する難燃剤が、樹脂に対する熱安定効果が高いと共に、樹脂の燃焼時に生じる燃焼性ガスを低減でき、熱分解反応により生じる炭化水素を抑制することによって、樹脂の燃焼を効果的に抑制できることを知見した。
即ち、樹脂の燃焼は該樹脂が分解することによりガスが発生し、このガスが空気中の酸素と連続反応することによって燃焼が継続する。このとき、樹脂中に脂肪酸化合物が存在していると該脂肪酸化合物は樹脂が熱分解する際に、安息香酸等の燃えにくいガスを燃焼ガス中に放出する。また、樹脂中に糖類化合物が存在していると該糖類化合物は燃焼時の高温時に水酸基が脱水し、水を放出して冷却効果を発揮するとともに、チャー(炭化層)を生成して断熱皮膜を形成する。多価フェノール化合物は樹脂の中に生成したラジカルを補足するため熱安定効果が高いものである。これら化合物を熱可塑性樹脂中に添加することにより、UL−94の難燃規格を満たす高い難燃性を付与することができる。しかもこれら化合物は、少量添加によって十分な効果を有するので、樹脂の物性変化に悪影響がない。また、多価フェノール化合物及び糖類化合物は自然界に存在する人体に優しい化合物であり、ハロゲン元素、リン元素を含まないので安全性に優れた難燃剤が提供できることを知見した。
【0009】
本発明は、本発明者の前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 多価フェノール化合物、糖類化合物、及び脂肪酸化合物を含有することを特徴とする難燃剤である。
<2> 多価フェノール化合物が、タンニン化合物である前記<1>に記載の難燃剤である。
<3> タンニン化合物が、タンニン、タンニンの脱水縮重合物、タンニン酸、カテキン類、ロイコアントシアン類、及びクロロゲン酸類から選択される少なくとも1種である前記<2>に記載の難燃剤である。
<4> 糖類化合物が、単糖類、二糖類、オリゴ糖類及び多糖類の少なくともいずれかである前記<1>から<3>のいずれかに記載の難燃剤である。
<5> 糖類化合物が、ブドウ糖、果糖、蔗糖、及び麦芽糖から選択される少なくとも1種である前記<1>から<4>のいずれかに記載の難燃剤である。
<6> 脂肪酸化合物が、有機カルボン酸塩である前記<1>から<5>のいずれかに記載の難燃剤である。
<7> 多価フェノール化合物、糖類化合物、及び脂肪酸化合物の混合質量比(多価フェノール化合物:糖類化合物:脂肪酸化合物)が1:0.1:0.1〜1:50:10である前記<1>から<6>のいずれかに記載の難燃剤である。
<8> 熱可塑性樹脂、及び前記<1>から<7>のいずれかに記載の難燃剤を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物である。
<9> 熱可塑性樹脂が、ポリエステル系樹脂である前記<8>に記載の難燃性樹脂組成物である。
<10> ポリエステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ホリブチレンテレフタレート、及びポリカーボネートから選択される少なくとも1種である前記<9>に記載の難燃性樹脂組成物である。
<11> 難燃剤の添加量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し0.001〜5.0質量部である前記<9>から<10>のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来における諸問題を解決でき、微量添加で高い難燃性を付与することができ、樹脂の基本的な物性を何ら損なうことなく、また、ハロゲン元素、リン元素を含まないので環境や人体に悪影響を与えない安全な難燃剤及び該難燃剤を含有してなる難燃性樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(難燃剤)
本発明の難燃剤は、多価フェノール化合物、糖類化合物、及び脂肪酸化合物を含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0012】
−多価フェノール化合物−
前記多価フェノール化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、タンニン化合物が好ましい。
前記タンニン化合物としては、例えば、タンニン、タンニンの脱水縮重合物、タンニン酸等のタンニン酸類;カテキン類;ロイコアントシアン類;クロロゲン酸類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらタンニン化合物は、広く自然界の植物に含まれる。このようなタンニン化合物の分類は、「村上孝夫、岡本敏彦:天然物化学.p98(1983)廣川書店」に記載されている。なお、タンニン酸はタンニンとも呼ばれており、本発明では特に区別はしない。
【0013】
前記タンニン化合物であるタンニン酸類及びカテキン類は、加水分解型タンニンと縮合型タンニンの2種類に分けられるが、いずれも天然化合物であるため構造の異なる化合物が多数存在する。
前記加水分解型タンニンとしては、例えば、チャイナタンニン;エラグタンニン;カフェ酸、キナ酸等のデプシドからなるクロロゲン酸などが挙げられる。
前記縮合型タンニンとしては、例えば、ケプラコタンニン、ワットルタンニン、ガンビルタンニン、カッチタンニン、フラバタンニンなどが挙げられる。
【0014】
前記チャイナタンニンは、没食子酸又はその誘導体がエステル結合したものであり、代表的な加水分解型タンニンである。該チャイナタンニンは、下記構造式(1)で表される。
前記チャイナタンニンは、没食子酸基10個がブドウ糖残基の周囲に配座し、更に2つの没食子酸基を垂直方向に結合させた(構造式(1)の*の部位に配置される)ことが明らかになっている。ただし、化合物中心は必ずしもブドウ糖に限られることはなく、セルローズ型の化合物であってもよい。
また、タンニン酸の加水分解で得られる下記構造式(2)で表される没食子酸のジデプシドなども使用することができる。
このようにタンニン酸類は広く自然界の植物に含まれる化合物であるため、部分的に化学構造が異なることは容易に類推できる。
【0015】
【化1】

【化2】

【0016】
また、カテキン類は、下記構造式(3)で表される化合物である。また、ケプロタンニンは、下記構造式(4)で表される化合物である。また、トルコタンニンは、下記構造式(5)で表される化合物である。
【化3】

【化4】

【化5】

【0017】
前記脱水重縮合タンニンは、前記タンニンを70〜230℃で数分〜数時間加熱して脱水縮重合させたものである。加熱されたタンニンは、分子量が平均して1.6分子程度が脱水反応を伴いながら結合する。この結合は概ねタンニン分子間によるものもあるが、分子内のとなり合った水酸基2個より、1分子の水が脱水されると考えられる。前記タンニンは70〜230℃で加熱、脱水し、いくつかのタンニンが脱水縮重合しているものが好ましい。この場合、タンニンがある程度脱水されていることが好ましく、必ずしも縮重合化されてなくてもよい。ここで、前記「脱水縮重合タンニン」は熱処理後の名称であり、タンニンの構造型を指す「縮重合型タンニン」は分類上の名称であり、それぞれ異なる。
【0018】
なお、染料固定効果や皮の鞣し効果を持つ多価フェノール化合物を「合成タンニン」又は「シンタン」と呼んでいる。この合成タンニンも本発明において効果的に用いることができる。
タンニンは日用品として例えばインク等;医薬品として例えば止血剤等;工業用として例えば皮の鞣し剤や染色時の媒染剤等に用いられ、最近では、食品添加剤としても幅広く用いられている。
【0019】
前記多価フェノール化合物は、熱可塑性ポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET)、ホリブチレンテレフタレート(PBT)、又はポリエステル樹脂に近似的構造を持つカーボネート結合を持つポリカーボネート(PC)と良好な相溶性が認められ、これら熱可塑性ポリエステル樹脂に添加しても、十分な透明性が得られる。
【0020】
−糖類化合物−
前記糖類化合物は、自然界の植物に含まれ、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記単糖類としては、例えば、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトース、マンノースなどが挙げられる。
前記二糖類としては、例えば、マルトース(麦芽糖)、スクロース(蔗糖(砂糖))、セロビオース、ラクトースなどが挙げられる。
前記オリゴ糖類は、前記単糖類が3〜10個程度結合したいわゆる少数糖である。
前記多糖類としては、例えば、デンプン、セルロースなどが挙げられる。
これらの中でも、ブドウ糖、果糖、蔗糖、及び麦芽糖から選択される少なくとも1種が特に好ましい。
【0021】
近年、単糖類は、セルローズの硫酸触媒による加水分解等によっても得られており、このような単糖類も本発明において経済的に好ましく用いることができる。このような単糖累は、高純度に精製することができるため、樹脂の添加剤として用いる本発明には好都合である。糖は食品そのものとして、あるいは飲料水や調味料として重要な物質として存在し、各種のオリゴ糖など合成もされており、比較的安価で、重要な化合物である。本発明においては、天然植物から抽出されたものでも、合成されたものでも、更にはこれらの混合物であってもよい。
【0022】
−脂肪酸化合物−
前記脂肪酸化合物としては、有機カルボン酸塩が好適である、
前記有機カルボン酸塩における有機カルボン酸としては、例えば、蟻酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の低級脂肪酸;ステアリン酸、バルミチン酸、ラウリル酸等の高級脂肪酸、シュウ酸、マロン酸、琥珀酸等の有機ジカルボン酸;クエン酸等の有機トリカルボン酸、などが挙げられる。
前記有機カルボン酸塩における塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどが挙げられ、これらの中でも、ナトリウム、カリウムが経済性の点から特に好ましい。
前記有機カルボン酸塩としては、例えば、ラウリル酸ナトリウム、ラウリル酸カリウム、酢酸カルシウム、シュウ酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、などが挙げられる。
【0023】
前記難燃剤においては、前記多価フェノール化合物、糖類化合物、及び脂肪酸化合物の混合質量比(多価フェノール化合物:糖類化合物:脂肪酸化合物)は1:0.1:0.1〜1:50:10が好ましく、1:0.5:0.5〜1:20:5がより好ましく、1:0.5:0.2〜1:20:2がより好ましい。前記多価フェノール化合物の混合量が少なくなりすぎると、難燃効果が得られないことがあり、一方、多くなりすぎると、樹脂に添加した場合に樹脂の物性が劣化することがある。前記糖類化合物の混合量が少なくなりすぎると、同様に難燃効果が得られないことがあり、一方、多くなりすぎると、樹脂に添加した場合に成形加工性が悪くなることがある。前記脂肪酸化合物の混合量が少なくなりすぎると、同様に難燃効果が得られないことがあり、一方、多くなりすぎると、樹脂に添加した場合に、樹脂の物性低下や成形加工性の悪化が見られることがある。
【0024】
(難燃性樹脂組成物)
本発明の難燃性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、及び本発明の前記難燃剤を含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0025】
前記熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ポリエステル系樹脂が好適である。該ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ホリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、又はポリエステル樹脂に近似的構造を持つカーボネート結合を持つポリカーボネート(PC)、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記難燃剤としては、上述した本発明の難燃剤を用いる。
本発明の前記難燃剤の添加量は、前記熱可塑性樹脂100質量部に対し0.001〜5.0質量部が好ましく、0.01〜1.0質量部がより好ましい。前記添加量が少なすぎると、熱可塑性樹脂に難燃性を十分に付与することが困難となることがあり、多すぎると、熱可塑性樹脂の分子間に難燃剤が多量に存在し、熱可塑性樹脂の熱的特性や機械的強度を低下させてしまうことがある。
【0027】
前記難燃剤の熱可塑性樹脂中への添加方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、粉末状のタンニン化合物、糖類、及び脂肪酸塩を同時に混ぜて直接樹脂に加えてもよいし、あるいは対象となる樹脂に予め高濃度に混合した混合物(難燃剤)を調製しておき、該難燃剤を樹脂中に加えてもよい。
【0028】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、樹脂組成物に使用される公知の添加剤の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機繊維であるガラス繊維、カーボン繊維、又はウィスカーなどが含まれてもよく、有機繊維としてはケブラー繊維などが含まれてもよい。また、鉱物であるシリカ、タルク、マイカ、ウォラストナイト、クレー、炭酸カルシウムなどの無機粒子が含まれてもかまわない。なお、更に必要に応じて、抗菌剤などを配合することもできる。
【0029】
本発明の難燃性樹脂組成物は、難燃性及び成形性に優れ、各種形状、構造、大きさの成形体とすることができ、例えば、パソコン、プリンター、テレビ、ステレオ、コピー機、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、ステレオ、などの各種家電OA製品の部品として幅広く用いることができる。
【0030】
前記難燃性樹脂組成物の成形の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、フィルム成形、押出成形、射出成形、ブロー成形、圧縮成形、トランスファ成形、カレンダ成形、熱成形、流動成形、積層成形、などが挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
−難燃性ポリエステル樹脂組成物の調製−
多価フェノール化合物として試薬1級チャイナタンニン(ナカライテスク株式会社製)を用いた。糖類化合物として市販のカップ印、白砂糖(蔗糖)を用いた。脂肪酸化合物(有機酸塩)としてラウリル酸ナトリウム(ライオン油脂株式会社製)を用いた。これらを、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(三井化学株式会社製、三井PETJ120)100質量部に対し、表1に示す割合で添加して、ロット番号1〜7の難燃性ポリエステル樹脂組成物を調製した。
【0033】
(比較例1)
−ポリエステル樹脂組成物の調製−
実施例1において、総ての添加剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、ロット番号8のポリエステル樹脂組成物を調製した。
【0034】
(比較例2)
−ポリエステル樹脂組成物の調製−
実施例1において、多価フェノール化合物のみを0.10質量部添加した以外は、実施例1と同様にして、ロット番号9のポリエステル樹脂組成物を調製した。
【0035】
(比較例3)
−ポリエステル樹脂組成物の調製−
実施例1において、砂糖のみを0.05質量部添加した以外は、実施例1と同様にして、ロット番号10のポリエステル樹脂組成物を調製した。
【0036】
(比較例4)
−ポリエステル樹脂組成物の調製−
実施例1において、カルボン酸塩のみを0.05質量部添加した以外は、実施例1と同様にして、ロット番号11のポリエステル樹脂組成物を調製した。
【0037】
【表1】

【0038】
<燃焼試験>
次に、得られた各難燃性ポリエステル樹脂組成物及び各ポリエステル樹脂組成物について、以下のようにして、燃焼試験を行った。
まず、除湿乾燥機(株式会社松井製作所製、PO−200型)で110℃にて10時間乾燥した後、これに所定量の各樹脂組成物を加えてタンブラー(日水加工株式会社製、タンブルミキサーTM−50型、8枚羽)を用いて攪拌羽回転速度約300rpmで4分間、攪拌及び混合した。これを射出成形機(クロックナー製F−85型、型締め圧力85ton)を用いて、UL−94で示される各厚みの燃焼試験片が共取りできるように設計された金型を用いて成形し、試験片を作製した。試験片のロット番号は表1のロット番号と同じである。
得られた試験片について、UL94垂直燃焼法に基づき、燃焼試験を行った。なお、燃焼時間は試験片5片の和である。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表1及び表2の結果から、多価フェノール化合物、糖類化合物、及び脂肪酸化合物の1種をそれぞれ添加した比較例2〜4は、無添加の比較例1に比べて、燃焼時間の合計時間が約半分程度にまで減少することが認められる。
これに対し、実施例1の3種の化合物を混合してなる難燃剤を添加すると、比較例1、及び比較例2〜5に比べて、極めて優れた燃焼時間の低下効果を有し、UL−94の難燃規格を満たす高い難燃性を有することが認められる。
【0041】
(実施例2)
−難燃性ポリエステル樹脂組成物の調製−
実施例1において、多価フェノール化合物として試薬1級チャイナタンニン(ナカライテスク株式会社製)をカテキン(関東化学株式会社製、試薬一級)に代えた以外は、実施例1と同様にして、ロット番号12〜18の難燃性ポリエステル樹脂組成物を調製した。
得られた難燃性ポリエステル樹脂組成物について、実施例1と同様にして、燃焼試験を行った。結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

表3の結果から、実施例1において、多価フェノール化合物としてチャイナタンニンからカテキンに変えても、実施例1と同様の高い難燃性を有することが認められる。
【0043】
(実施例3)
−難燃性樹脂組成物の調製−
実施例1において、PETをポリカーボネート(PC)樹脂(帝人化成株式会社製、パンライトL1250Y)、及びポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(ウィンテックポリマー株式会社製、ジュラネックス2000)に代えた以外は、実施例1のロット番号1〜2同様にして、ロット番号19〜22の難燃性樹脂組成物を調製した。
得られた難燃性樹脂組成物について、実施例1と同様にして、燃焼試験を行った。また、このとき無添加の各樹脂のみの燃焼結果も併せて行った。結果を表4に示す。
【0044】
【表4】

表4の結果から、実施例1において、PETをポリカーボネート(PC)樹脂、及びポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂に代えても、実施例1と同様の燃焼時間の短縮が確認できた。
【0045】
(実施例4)
−難燃性ポリエステル樹脂組成物の調製−
実施例1において、試薬1級チャイナタンニン:蔗糖:ラウリル酸ナトリウムを質量比率で2:4:1の割合で混合した難燃剤を調製し、この難燃剤のポリエチレンテレフタレート(PET)に対する添加量を0質量%〜10質量%範囲で変えた以外は、実施例1と同様にして、各難燃性ポリエステル樹脂組成物を調製した。
得られた各難燃性ポリエステル樹脂組成物について、実施例1と同様にして、燃焼試験を行った。結果を図1に示す。
図1の結果から、難燃剤の添加により燃焼時間が明らかに短縮し、難燃剤の添加効果が顕著に認められた。
【0046】
(実施例5)
−難燃性ポリエステル樹脂組成物の調製−
実施例1において、蔗糖の代わりにブドウ糖(ナカライテスク株式会社製、試薬1級)を用いた以外は、実施例1のロット番号1と同様にして、ロット番号23の難燃性ポリエステル樹脂組成物を調製した。
得られた難燃性ポリエステル樹脂組成物について、実施例1と同様にして、燃焼時間を測定した。結果を表5に示す。
【0047】
【表5】

【0048】
(実施例6)
−難燃性ポリエステル樹脂組成物の調製−
実施例1において、ラウリル酸ナトリウムに代えてラウリル酸カリウム、酢酸カルシウム、シュウ酸ナトリウム、及びアスコルビン酸ナトリウムを用いた以外は、実施例1のロット番号2と同様にして、ロット番号24〜27の難燃性ポリエステル樹脂組成物を調製した。
得られた難燃性ポリエステル樹脂組成物について、実施例1と同様にして、燃焼時間を測定した。結果を表6に示す。
【0049】
【表6】

【0050】
表5及び表6の結果から、多価フェノール化合物、糖類化合物、及び脂肪酸化合物からなる難燃剤を樹脂に添加することにより、樹脂の燃焼性を効果的に抑制でき、UL−94の燃焼規格を満たしていることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の難燃剤は、多価フェノール化合物、糖類化合物、及び脂肪酸化合物を含有してなり、熱可塑性樹脂、特にポリエステル系樹脂に添加して優れた難燃性を付与することができる。
本発明の難燃剤を添加してなる難燃性樹脂組成物は、UL−94の燃焼規格を満たしており、各種家電OA製品の部品として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、実施例4における難燃剤の添加量と燃焼時間との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価フェノール化合物、糖類化合物、及び脂肪酸化合物を含有することを特徴とする難燃剤。
【請求項2】
多価フェノール化合物が、タンニン化合物である請求項1に記載の難燃剤。
【請求項3】
タンニン化合物が、タンニン、タンニンの脱水縮重合物、タンニン酸、カテキン類、ロイコアントシアン類、及びクロロゲン酸類から選択される少なくとも1種である請求項2に記載の難燃剤。
【請求項4】
糖類化合物が、単糖類、二糖類、オリゴ糖類及び多糖類の少なくともいずれかである請求項1から3のいずれかに記載の難燃剤。
【請求項5】
糖類化合物が、ブドウ糖、果糖、蔗糖、及び麦芽糖から選択される少なくとも1種である請求項1から4のいずれかに記載の難燃剤。
【請求項6】
脂肪酸化合物が、有機カルボン酸塩である請求項1から5のいずれかに記載の難燃剤。
【請求項7】
多価フェノール化合物、糖類化合物、及び脂肪酸化合物の混合質量比(多価フェノール化合物:糖類化合物:脂肪酸化合物)が1:0.1:0.1〜1:50:10である請求項1から6のいずれかに記載の難燃剤。
【請求項8】
熱可塑性樹脂、及び請求項1から7のいずれかに記載の難燃剤を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項9】
熱可塑性樹脂が、ポリエステル系樹脂である請求項8に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項10】
ポリエステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ホリブチレンテレフタレート、及びポリカーボネートから選択される少なくとも1種である請求項9に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項11】
難燃剤の添加量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し0.001〜5.0質量部である請求項9から10のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−77215(P2006−77215A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−265912(P2004−265912)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)
【Fターム(参考)】