説明

難燃加工剤および難燃性脂肪族ポリエステル繊維構造物の製造方法

【課題】脂肪族ポリエステル繊維構造物に対し、耐加水分解性と難燃性を付与する。
【解決手段】芳香族リン系難燃剤およびカルボジイミド末端封鎖剤を水に分散又は乳化させてなる脂肪族ポリエステル繊維構造物を難燃加工するための難燃加工剤であって、芳香族リン系難燃剤が特定のモノホスフェートおよび特定のポリホスフェートの両方を含むことを特徴とする難燃加工剤、並びに上記難燃加工剤を含有する処理液中に脂肪族ポリエステル繊維構造物を投入する投入工程、処理液を循環させながら浴中加工する浴中加工工程、洗浄工程、脱水工程および乾燥工程を有することを特徴とする難燃性脂肪族ポリエステル繊維構造物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃加工剤および難燃性脂肪族ポリエステル繊維構造物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今の環境問題への関心の高まりから、循環型社会システムの構築が望まれている。循環型社会システムを構築するにあたっては、環境配慮型商品の供給に加えて、それらの需要を高めることが重要である。そのような観点のもと、環境配慮型商品の需要を促進するための枠組みとして、グリーン購入法が制定されている。公的機関においては、グリーン購入法の基準をクリアした環境負荷の低い商品を積極的に導入している。
【0003】
天然資源から作られる生分解性プラスチックは環境負荷が小さく、グリーン購入法に適合する素材であるといえる。そのような中、特にポリ乳酸が注目されており、ポリ乳酸の用途拡大をいかにして図っていくかが重要である。
【0004】
ポリ乳酸は高度の難燃性は有していないものの、大気中で継続燃焼しにくい自己消火性素材であると言われており、難燃剤を付与しないポリ乳酸繊維織物の酸素指数は24であることが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。そこで、その特性を活かして、グリーン購入法に適合したブラインドカーテン、ロールカーテン、間仕切りカーテン、アコーディオンカーテン等のカーテンや、壁紙、障子紙等のインテリア製品に展開することが好ましい。
【0005】
ただし、ポリ乳酸の欠点としては、室温や高温の水中における加水分解性が非常に高く、さらには空気中の水分によっても分解されるという点であり、保管環境や使用環境によっては、製品の倉庫での保管、コンテナでの移送、実使用による劣化が懸念される。
【0006】
ところで、このようなインテリア繊維製品においては、誤って煙草等の火が付いた際の安全性から、難燃性が必要とされる。
【0007】
以上の点から、優れた湿熱耐久性を有し、かつ優れた難燃性を有するポリ乳酸繊維構造物を提供できれば、グリーン購入法に適合した環境負荷の小さいインテリア製品に適用することが可能となる。
【0008】
ポリ乳酸の加水分解を抑制する手段としては、末端封鎖剤を添加することより末端カルボキシル基濃度を低下させる方法考えられる。特許文献1および特許文献2には末端封鎖剤を紡糸時に練り込む方法が例示されており、さらには、特許文献3および特許文献4には末端封鎖剤および難燃剤を練り込む方法が例示されている。しかしながら、これらの方法は紡糸前にポリマーチップに混練・添加するため、紡糸時の高温により、末端封鎖剤が蒸発や分解による発煙を起こし、悪臭や有毒なガスを発生するという問題がある。また、このために末端封鎖剤を過剰に添加しなければならないという問題もある。さらに紡糸性が悪化し生産性も低下する。また、染色時の浴中処理による加水分解を抑制できないという問題点もある。
【0009】
別の解決する方法としては、末端封鎖剤を溶媒を用いて溶解あるいは乳化剤にてエマルジョン化したものを被処理物に直接接触させて、被処理物の表面に末端封鎖を付加する方法が特許文献5で開示されている。しかしながら、この方法は処理物表面近傍にのみ末端封鎖剤が存在するため、末端封鎖剤の付与量が十分なものではなく、長期間の湿熱に対する耐加水分解性は不十分なものである。
【0010】
長期間にわたる湿熱に対する耐加水分解性を向上させる方法としては、湿熱が直接接触する構造物の表面に高濃度で末端封鎖剤を付与し、かつ構造物の内部にも一定の濃度で末端封鎖剤を付与することが望ましい。構造物の表面近傍に高濃度で末端封鎖剤を付加し、かつ構造物内部にも末端封鎖剤を一定以上の濃度で付加する方法が特許文献6で開示されている。しかしながら、末端封鎖剤の被処理物への吸尽効率が低いため、使用濃度が高く、末端封鎖剤に係るコストが高くなるという問題がある。
【0011】
繊維構造物に難燃性を付与する方法としては、織編物や不織布に難燃剤を付与する方法が考えられる。難燃剤としては、ハロゲン系あるいはノンハロゲン系等の難燃剤が挙げられるが、火災時の発生ガスによる人体への悪影響などの点から、ノンハロゲン系の難燃剤が望ましい。
【0012】
ところで、ノンハロゲン系難燃剤の中には、難燃剤自身が湿熱により加水分解を起こし、そこから発生した副生成物が基布であるポリエステルの加水分解を促進してしまう場合もある。その場合には、末端封鎖剤によるポリ乳酸繊維構造物の湿熱耐久性向上性を相殺してしまうことになるため、ノンハロゲン系難燃剤を適切なものに限定する必要がある。
【0013】
ノンハロゲン系難燃剤として、特許文献7に本発明で用いられているリン系難燃剤が例示されており、段落[0019]には脂肪族ポリエステルの例としてポリ乳酸が記載されているが、実施例は芳香族ポリエステルであるポリエチレンテレフタレートのみであり、ポリ乳酸を含有する繊維構造物に対しても同等の難燃性能が得られることは一切例示されていないうえに、当該特許文献に記載の難燃剤がポリ乳酸の末端封鎖効果を阻害しないという点も一切示唆されていない。
【0014】
以上のことから、本発明が従来の技術の組み合わせから容易に達成できるものではないといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2001−261797号公報
【特許文献2】特開2002−030208号公報
【特許文献3】特開2010−254899号公報
【特許文献4】特開2008−156616号公報
【特許文献5】特開2009−249450号公報
【特許文献6】特開2009−263840号公報
【特許文献7】特開2007−051385号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】久保川、他2名、「ポリ乳酸繊維織物の難燃化」、繊維学会誌、社団法人繊維学会、1999年、vol.55、No.7、p.290−297
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、かかる従来の背景に鑑み、優れた湿熱耐久性を有し、かつ難燃性に優れた脂肪族ポリエステル繊維構造物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記目的を達成するために下記の構成を有する。
【0019】
(1)芳香族リン系難燃剤およびカルボジイミド末端封鎖剤を水に分散または乳化させてなる、脂肪族ポリエステル繊維構造物を難燃加工するための難燃加工剤であって、前記芳香族リン系難燃剤が、下記一般式(I)または(II)で表わされるモノホスフェートと、下記一般式(III)または(IV)で表わされるポリホスフェートとを含むことを特徴とする難燃加工剤。
【0020】
【化1】

【0021】
(上記一般式(I)中、ArおよびArはそれぞれアリール基を示し、RおよびRはそれぞれ水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基、アラルキル基のいずれかを示しているか、あるいはRおよびRは相互に結合してリン原子に結合している窒素原子と共に環を形成している。)
【0022】
【化2】

【0023】
(上記一般式(II)中、Ar、ArおよびArは、同一のアリール基を示す。)
【0024】
【化3】

【0025】
(上記一般式(III)中、R、R、RおよびRは水素原子を示し、Yは−CH−基、−C(CH−基、−S−基、−SO−基、−O−基、−C=O−基、−N=N−基のいずれかであり、nは0以上の整数を示す。mは0〜4の整数を示す。なお、上記一般式(III)において、ベンゼン核と線で結ばれたRの表記は、R、RおよびRのそれぞれが前記ベンゼン核内の異なる炭素原子と結合していることを意味する。)
【0026】
【化4】

【0027】
(上記一般式(IV)中、R、R、RおよびRはいずれもフェニル基、クレジル基、キシレニル基のいずれかを示し、Ryは下記一般式(V)で表される基のいずれかを示す。)
【0028】
【化5】

【0029】
(上記一般式(V)中、Aは下記化学式(VI)で表される基のいずれかを示し、nは1〜20の整数である。)
【0030】
【化6】

【0031】
(2)前記カルボジイミド末端封鎖剤が、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミドおよびN,N′−ジイソプロピルカルボジイミドからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物からなる、(1)の難燃加工剤。
【0032】
(3)N−アルキルフタルイミドおよび安息香酸エステルを含む、(1)の難燃加工剤。
【0033】
(4)(1)の難燃加工剤を含有する処理液中に脂肪族ポリエステル繊維構造物を投入する投入工程と、該脂肪族ポリエステル繊維構造物が投入された前記処理液を循環させながら浴中加工する浴中加工工程と、浴中加工された前記脂肪族ポリエステル繊維構造物を洗浄する洗浄工程と、洗浄された前記脂肪族ポリエステル繊維構造物を脱水する脱水工程と、脱水された前記脂肪族ポリエステル繊維構造物を乾燥する乾燥工程とを有することを特徴とする難燃性脂肪族ポリエステル繊維構造物の製造方法。
【0034】
(5)前記浴中加工工程における浴中加工温度が80〜140℃である、(4)の難燃性脂肪族ポリエステル繊維構造物の製造方法。
【0035】
(6)前記投入工程の前段に、前記処理液中に染料を混合させる混合工程を有する、(4)の難燃性脂肪族ポリエステル繊維構造物の製造方法。
【0036】
(7)前記脂肪族ポリエステル繊維構造物がポリ乳酸繊維を含む、(4)の難燃性脂肪族ポリエステル繊維構造物の製造方法。
【0037】
(8)前記脂肪族ポリエステル繊維構造物が、芯部がポリ乳酸からなり、鞘部が芳香族ポリエステルからなる芯鞘複合繊維を含む、(4)の難燃性脂肪族ポリエステル繊維構造物の製造方法。
【0038】
(9)前記芯鞘複合繊維の前記鞘部がポリトリメチレンテレフタレートからなる、(8)の難燃性脂肪族ポリエステル繊維構造物の製造方法。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、末端封鎖剤の性能に悪影響を与えない難燃剤を、末端封鎖剤と共に脂肪族ポリエステル繊維構造物に対して効率的に吸尽させることで、優れた耐加水分解性を有し、かつ優れた難燃性能を有する脂肪族ポリエステル繊維構造物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、発明の望ましい実施の形態について説明する。
【0041】
(被処理繊維物について)
本発明における脂肪族ポリエステル繊維構造物とは、ポリエステル主鎖が脂肪族であるポリエステルを繊維構造物の少なくとも一部に含有するもののことをいい、汎用性の点から、ポリ乳酸が好ましく用いられる。
【0042】
ポリ乳酸は、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを縮合して得られたものや、ポリ(D−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、DL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体から選ばれる重合体、あるいはこれらのブレンド体などが挙げられる。このポリ乳酸は、紡糸時に末端封鎖剤が添加されることにより、末端カルボキシル基の一部が封鎖されていてもよい。
【0043】
かかるポリ乳酸の製造方法としては、乳酸を原料としていったん環状二量体であるラクチドを生成せしめ、その後開環重合を行なう二段階のラクチド法と、乳酸を原料として溶媒中で直接脱水縮合を行なう一段階の直接重合法が知られている。本発明で用いられるポリ乳酸は、いずれの製法によって得られたものであってもよい。
【0044】
上記脂肪族ポリエステル繊維構造物は、ポリ乳酸以外の繊維を含んでいてもよく、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどの芳香族ポリエステルを含んでいてもよい。また、これらの芳香族ポリエステルは他の共重合成分を含んでいても良く、上記ポリエステルに制限されるものではない。
【0045】
上記脂肪族ポリエステル繊維構造物を形成する脂肪族ポリエステル繊維の形態としては、通常のフラットヤーン以外に、仮撚り加工糸、強撚糸、タスラン加工糸、太細糸、混繊糸などのフィラメントヤーンであってもよく、ステープルファイバーやトウ、紡績糸、あるいは布帛など各種形態の繊維構造物であってもよい。
【0046】
上記脂肪族ポリエステル繊維は、ポリアミドなど他のポリマーとアロイを形成したり、他ポリマーと芯鞘構造を形成していてもよい。
【0047】
上記脂肪族ポリエステル繊維には、難燃性能を阻害しない範囲で天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維などを混用してもよい。複合の形態としては、混紡、交織、交編等いかなる形態でも良い。繊維構造物の形態としては、フィラメント、紡績糸、そしてそれらより得られる織物、編物、不織布、製品などの繊維構造物が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0048】
上記天然繊維としては、例えば、綿、カポック、麻、亜麻、大麻、苧麻、羊毛、アルパカ、カシミヤ、モヘヤ、シルクなどが挙げられる。上記再生繊維としては、例えば、ビスコース、キュプラ、ポリノジック、ハイウエットモジュラスレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維などが挙げられる。上記半合成繊維としては、例えば、アセテート、ジアセテート、トリアセテートなどが挙げられる。上記合成繊維としては、例えば、ポリアミド、アクリル、ビニロン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、プロミックスなどが挙げられる。
【0049】
上記脂肪族ポリエステル繊維と他の繊維を任意の手法で混用しても良いが、脂肪族ポリエステル繊維の混率が小さいと本発明の効果が小さくなるため、脂肪族ポリエステル繊維の混率は30重量%以上が好ましく、50重量%以上がさらに好ましい。
【0050】
(処理方法について)
界面活性剤を用いて難燃剤および末端封鎖剤を水または溶剤中に乳化または分散させた処理液にて、脂肪族ポリエステル繊維構造物の処理をおこなう。
【0051】
上記処理液を循環させながら浴中加工を行う際、被処理物である脂肪族ポリエステル繊維構造物の形態としては、布帛、糸、製品、トウ、ワタ等を例示できるが、それらに限定されるものではない。浴中加工の処理装置としては、ウインス染色機、ジッガー染色機、パドル染色機、ドラム型染色機、液流染色機、気流染色機、ビーム染色機、チーズ染色機、オーバーマイヤー等の装置が利用できるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
上記処理液に布帛を浸し、常圧または加圧の下、80〜140℃で20〜60分間処理することが好ましい。このときに難燃剤および末端封鎖剤が繊維に付着し、繊維内部に吸尽・拡散する。処理時間が短い場合には、末端封鎖剤および難燃剤の繊維内部への吸尽・拡散が十分ではなく、満足できる耐加水分解性および難燃性を得ることができない。また、処理時間が長すぎる場合は、処理中にポリ乳酸の加水分解が進行してしまう。
【0053】
かかる方法において液中処理した後、脱水、乾燥を行う。乾燥時の条件は90〜130℃で30秒〜5分が望ましい。乾燥後は、90〜130℃で30秒〜5分間の熱処理を行うことが好ましい。熱処理装置としては、テンター、ショートループ、シュリンクサーファー、スチーマー、シリンダー乾燥機等が利用できるが、当該繊維に均一に熱を付与できる装置であればこれらに限定されるものではない。
【0054】
末端封鎖剤および難燃剤を含有する処理液に分散染料に代表される疎水性染料を混合すると、末端封鎖処理とともに染色を行うことができる。末端封鎖処理および難燃処理を染色と同時に行うことで湿熱処理工程を通る回数が減るため、脂肪族ポリエステルの加水分解が抑制される。疎水性染料としては、バット染料、インジゴ染料、ナフトール染料等も用いることができる。
【0055】
(末端封鎖剤について)
上記末端封鎖剤として用いられるカルボジイミド化合物としては、少なくとも1つのカルボジイミド基を有している化合物、例えば、N,N´−ジ−o−トリルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert.−ブチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トリルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド,N,N′−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N′−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−トリルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジイソプロピルカルボジイミドなどが挙げられる。さらには、これらのカルボジイミド化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択してポリエステルのカルボキシル末端を封鎖してもよい。
【0056】
工業的に入手可能なカルボジイミド化合物として、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(TIC)、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N′−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)が挙げられ、これらは好適に使用できる。さらに、TICにおいては、ラインケミージャパン株式会社より「スタバクゾール」の商品名で販売されている、「スタバクゾール」I、「スタバクゾール」I−LF、「スタバクゾール」P、「スタバクゾール」P−100が好適に例示される。
【0057】
上記末端封鎖剤を、界面活性剤を用いて水または溶剤中に乳化または分散させる方法としては、公知の方法を用いても良い。末端封鎖剤を、界面活性剤を用いて水または溶剤中に乳化または分散させる場合には、末端封鎖剤と相溶し、かつポリエステルに対しても親和性を有する化合物を、末端封鎖剤の溶解剤として用いることが望ましい。
【0058】
上記溶解剤としてキャリヤ剤を用いた場合には、ポリエステルの分子鎖を膨潤させる効果が期待でき、100℃以下の低温から染料や末端封鎖剤や難燃剤をポリエステル繊維に吸尽させることができるため、浴中処理温度を低くすることができる。それにより、浴中処理による脂肪族ポリエステルの加水分解を抑制することができる。ただし、キャリヤ成分が残存した場合には、難燃性不良や染料濃度によっては堅牢度不良を引き起こす場合がある。
【0059】
上記キャリヤ成分としては、トリクロロベンゼンやメチルナフタレンなどが従来から用いたれてきたが、臭気も強く、キャリヤスポットを発生しやすいため、作業環境の悪化とともに最終製品の臭気や品質が懸念される。かかる問題を解決するためには、キャリヤ剤としてフタルイミド化合物と安息香酸化合物を用いることが望ましい。
【0060】
上記フタルイミド化合物とは、フタルイミド基を有する化合物のことであり、フタルイミドのN基に脂肪族もしくは芳香族アルキル基などを有するN置換フタルイミドが好ましい。置換基の例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ベンジル基、ナフタル基などが挙げられるが、加工製品への残存量、臭気、安全性、取り扱い作業性などの点から、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基などの低分子量脂肪族アルキル基を有するN−アルキルフタルイミドがより好ましい。中でも、カルボジイミド化合物との相溶性に優れる点から、N−ブチルフタルイミドが好ましく用いられる。
【0061】
上記安息香酸化合物とは、安息香酸誘導体をさすが、安息香酸と脂肪族もしくは芳香族アルコールによる安息香酸エステルが好ましい。安息香酸エステルの例としては、安息香酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸ベンジル、安息香酸フェニルなどが挙げられるが、カルボジイミド化合物との相溶性やポリエステル鎖の膨潤効果などの点から、安息香酸ベンジル、安息香酸フェニルなどがより好ましい。中でも、末端封鎖剤であるTICに近い分子量を有しており、安価に入手可能な安息香酸ベンジルが好ましく用いられる。
【0062】
フタルイミド化合物と安息香酸化合物の混合比率は、フタルイミド化合物50重量部に対して、安息香酸化合物10重量部〜50重量部が好ましく、安息香酸化合物15重量部〜40重量部がより好ましく、安息香酸化合物20重量部〜30重量部がさらに好ましい。さらに、2種類以上のフタルイミド化合物および2種類以上の安息香酸化合物を用いてもよい。
【0063】
一方、溶解剤として脂肪族炭化水素系溶媒を用いた場合には、上記キャリヤ剤に比較するとポリエステル鎖の膨潤効果は劣るため、浴中処理温度は110〜140℃と高温になるものの、良好な堅牢度を保持させることができる。
【0064】
上記脂肪族炭化水素系相溶化剤としては、例えば、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、流動パラフィン、ナフテン等が挙げられる。さらには、これらの脂肪族炭化水素系相溶化剤の中から1種または2種類以上の相溶化剤を混合して用いてもよい。
【0065】
ノルマルパラフィンとしては、例えば、日本石油化学社製の「ノルマルパラフィンSL,L,M,H」などが利用可能である。イソパラフィンとしては、例えば、エクソンモービル社製の「アイソパーG,H,L,M」、出光石油化学社製の「IPソルベント1620,2028」などが利用可能である。流動パラフィンとしては、例えば、松村石油研究所製の「モレスコホワイト」、「モスコバイオレス」などが利用可能である。また、ナフテンとしては、例えば、エクソンモービル社製の「エクソールD110,D130」などが利用可能である。
【0066】
上記脂肪族炭化水素系相溶化剤の添加量は、カルボジイミド化合物10重量部に対し、通常1.0〜15.0重量部、好ましくは1.5〜10.0重量部、更に好ましくは、3.0〜8.0重量部である。
【0067】
(難燃剤について)
難燃剤の1つとして、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)のような液状のリン酸エステルが知られているが、その難燃性は耐ドライクリーニング性が十分でないうえに、染色堅牢度不良を引き起こしやすい。また、それ自身が加水分解し易く、プロトンやフェノールなどのポリエステルを劣化させる化学種を発生しやすいものは末端封鎖剤の効果を相殺してしまうという問題がある。
【0068】
かかる問題を解決すべく鋭意検討をおこなった結果、以下の難燃剤を用いることで湿熱耐久性に優れ、かつ優れた難燃性を有する脂肪族ポリエステル繊維構造物を製造するに至った。
【0069】
すなわち、下記一般式(I)または(II)で表わされるモノホスフェートと下記一般式(III)または(IV)で表わされるポリホスフェートとを含む難燃剤を、末端封鎖剤と併用することである。
【0070】
【化7】

【0071】
(上記一般式(I)中、ArおよびAr2はそれぞれアリール基を示し、RおよびRはそれぞれ水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基、アラルキル基のいずれかを示しているか、あるいはRおよびRは相互に結合してリン原子に結合している窒素原子と共に環を形成している。)
【0072】
【化8】


(上記一般式(II)中、Ar、ArおよびArは、同一のアリール基を示す。)
【0073】
【化9】

【0074】
(上記一般式(III)中、R、R、RおよびRは水素原子を示し、Yは−CH−基、−C(CH−基、−S−基、−SO−基、−O−基、−C=O−基、−N=N−基のいずれかであり、nは0以上の整数を示す。mは0〜4の整数を示す。なお、上記一般式(III)において、ベンゼン核と線で結ばれたRの表記は、R、RおよびRのそれぞれが前記ベンゼン核内の異なる炭素原子と結合していることを意味する。)
【0075】
【化10】

【0076】
(上記一般式(IV)中、R、R、RおよびRはいずれもフェニル基、クレジル基、キシレニル基のいずれかを示し、Ryは下記一般式(V)で表されるいずれかの基を示す。)
【0077】
【化11】

【0078】
(上記一般式(V)中、Aは下記化学式(VI)で表されるいずれかの基であり、nは1〜20の整数である。)
【0079】
【化12】

【0080】
上記一般式(I)で示される化合物として、具体例として、例えば、アミノジフェニルホスフェート、メチルアミノジフェニルホスフェート、ジメチルアミノジフェニルホスフェート、エチルアミノジフェニルホスフェート、ジエチルアミノジフェニルホスフェート、プロピルアミノジフェニルホスフェート、ジプロピルアミノジフェニルホスフェート、オクチルアミノジフェニルホスフェート、ジフェニルウンデシルアミノホスフェート、シクロヘキシルアミノジフェニルホスフェート、ジシクロヘキシルアミノジフェニルホスフェート、アリルアミノジフェニルホスフェート、アニリノジフェニルホスフェート、ジ-o-クレジルフェニルアミノホスフェート、ジフェニル(メチルフェニルアミノ)ホスフェート、ジフェニル(エチルフェニルアミノ)ホスフェート、ベンジルアミノジフェニルホスフェート、モルホリノジフェニルホスフェート等を挙げることができる。
【0081】
上記一般式(II)で示される化合物として、具体例として、リン酸トリ−o−クレジル、リン酸トリ−m−クレジル、リン酸トリ−p−クレジル、リン酸トリキシリル、リン酸トリナフチル等を挙げることができる。
【0082】
上記一般式(III)で示される化合物として、具体例として、例えば、テトラ(2,6−ジメチルフェニル)−m−フェニレンホスフェート、テトラ(2,6−ジメチルフェニル)−p−フェニレンホスフェート、ビスフェノールAビス〔ジ(2,6−ジメチルフェニル)〕ホスフェート、ビスフェノールSビス〔ジ(2,6−ジメチルフェニル)〕ホスフェート、ビフェニルビス〔ジ(2,6−ジメチルフェニル)〕ホスフェート、ジフェニルエーテルビス〔ジ(2,6−ジメチルフェニル)〕ホスフェート等を挙げることができる。これらのなかでも、特に、テトラ(2,6−ジメチルフェニル)−m−フェニレンホスフェート、テトラ(2,6−ジメチルフェニル)−p−フェニレンホスフェートまたはビスフェノールAビス〔ジ(2,6−ジメチルフェニル)〕ホスフェートが好ましく用いられる。
【0083】
上記一般式(IV)で示される化合物として、具体例として、例えば、テトラフェニル−m−フェニレンホスフェート、テトラフェニル−p−フェニレンホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールSビス(ジフェニルホスフェート)、テトラクレジル−m−フェニレンホスフェート、テトラクレジル−p−フェニレンホスフェート、ビスフェノールAビス(ジクレジルホスフェート)、ビスフェノールSビス(ジクレジルホスフェート)、テトラキシレニル−m−フェニレンホスフェート、テトラキシレニル−p−フェニレンホスフェート、ビスフェノールAビス(ジキシレニル)ホスフェート、ビスフェノールSビス(ジキシレニル)ホスフェート、フェニルレゾルシンポリホスフェート、ビスフェノールAポリフェニルホスフェート等の正リン酸エステルおよび同オリゴマー等の化合物が挙げられる。
【0084】
上記一般式(I)で示されるリン酸アミドは、特開2000−154277号公報に記載されているように、有機溶剤中、アミン触媒の存在下でジアリールホスホロクロリデートに有機アミン化合物を反応させることによって得ることができる。特に、本発明によれば、上記一般式(I)で示されるリン酸アミドにおいて、ArおよびArは好ましくはフェニルまたはトリル基であり、RおよびRは好ましくは一方が水素原子であり、他方がフェニルまたはシクロヘキシル基である。このようなリン酸アミドとして、例えば、アニリノジフェニルホスフェート、ジ-o-クレジルフェニルアミノホスフェートまたはシクロヘキシルアミノジフェニルホスフェートを挙げることができる。
【0085】
上記一般式(II)で示されるリン酸エステルは市販品として入手することができる。
【0086】
上記一般式(III)で示される芳香族ポリホスフェートは、例えば、特開昭63−227632号公報に記載されており、また、市販品として入手することができる。
【0087】
上記一般式(IV)に示される芳香族ポリホスフェートは、結晶性の粉末であって、例えば、特開平5−1079号公報に記載されており、また、市販品として入手することができる。
【0088】
上記難燃剤は、末端封鎖剤と同様に、界面活性剤を用いて、水または溶剤中に乳化または分散させて用いる。水または溶剤中に乳化または分散させる方法としては公知の方法を用いても良い。
【0089】
末端封鎖剤および難燃剤を水または溶剤中に乳化または分散させる際に用いる乳化剤としては、ノニオン系界面活性剤またはアニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤が併用されることが好ましい。上記ノニオン系界面活性剤としては、例えば、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アルキレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪族エステルアルキレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドアルキレンオキサイド付加物等のポリオキシアルキレン型非イオン系界面活性剤や、アルキルグリコキシド、ショ糖脂肪酸エステル等の多価アルコール型非イオン系界面活性剤を挙げることができる。これらのノニオン系界面活性剤は、単独で用いてもよく、また、必要に応じて、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
他方、上記アニオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸等のカルボン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルポリアルキレングリコールエーテル硫酸エステル塩、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化脂肪酸、硫酸化オレフィン等の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸等のホルマリン縮合物、α−オレフィンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、スルホ琥珀酸ジエステル塩等のスルホン酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩等を挙げることができる。これらのアニオン系界面活性剤は、単独で用いてもよく、また、必要に応じて、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、必要に応じて、ノニオン系界面活性剤とアニオン系界面活性剤を組み合わせても良い。
【0091】
難燃剤を乳化させる際に用いる溶剤としては、トルエン、キシレン、アルキルナフタレンなどの芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジオキサン、エチルセロソルブなどのエーテル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類およびこれらの二種以上の混合物が挙げられる。
【0092】
末端封鎖剤の使用量は、対象となる脂肪族ポリエステル繊維構造物の末端カルボキシル基の量にあわせて決定すればよいが、脂肪族ポリエステル繊維構造物100重量部に対して0.5〜5.0重量部であることが好ましく、より好ましくは1.0〜3.0重量部である。
【0093】
上記一般式(I)または(II)で表されるモノホスフェートおよび上記一般式(III)または(IV)で表されるポリホスフェートの配合比は重量比で1:0.25〜1:1であることが好ましく、より好ましくは1:0.25〜1:0.75である。
【0094】
難燃剤の含有量は、上記一般式(I)または(II)で表されるモノホスフェートと上記一般式(III)または(IV)で表されるポリホスフェートの合計が、加工前の繊維構造物の重量100重量部に対して0.5重量部以上、好ましくは2重量部以上、更に好ましくは3〜20重量部である。
【0095】
本発明により得られた脂肪族ポリエステル繊維構造物は、耐加水分解性に優れ、かつ良好な難燃性能を有することから、ブラインドカーテン、ロールカーテン、間仕切りカーテン、アコーディオンカーテン等のカーテンや、壁紙、障子紙等のインテリア製品に好ましく用いられる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。本発明で用いた布帛および実施例中の物性測定方法は以下のとおりである。
【0097】
(ポリ乳酸布帛の作製)
融点166℃のL−ポリ乳酸(PLA)チップを105℃に設定した真空乾燥機で12時間乾燥した。乾燥したチップを溶融紡糸機に投入し、溶融温度210℃にて溶融紡糸し紡糸温度220℃、紡糸速度4500m/分で品種100dtex−26フィラメントの未延伸糸を得た。この未延伸糸を予熱温度100℃、熱セット温度130℃にて延伸倍率1.2倍で延伸し、84dtex−26フィラメントの延伸糸を得た。得られた延伸糸でタフタを製織し、80℃で精練した後、130℃で1分間乾熱セットを行い、PLA織物を得た。
【0098】
(ポリ乳酸/ポリトリメチレンテレフタレート芯鞘糸の布帛の作製)
重量平均分子量16.5万、融点170℃、残留ラクチド量0.085重量%のポリL乳酸(光学純度97%L乳酸)(PLA)を芯部Aとし、平均2次粒子径が0.4μmの酸化チタンを0.3重量%含有したポリトリメチレンテレフタレート(PTT)(融点228℃)を鞘部として、それぞれ別々に溶融し、紡糸温度250℃で芯鞘複合比(重量%)70:30、紡糸速度3000m/分で110デシテックス、36フィラメントの芯鞘複合構造の未延伸糸を得た。さらに該未延伸糸を延伸速度800m/分、延伸倍率1.3倍、延伸温度90℃、熱セット温度130℃で延伸し、84デシテックス、48フィラメントの延伸糸を得た。得られた延伸糸を用い、タフタを製織し、80℃、20分で精練した後、130℃で2分間乾熱セットを行い、PLA/PTT織物を得た。
【0099】
(各種物性の測定)
(1)耐加水分解性
加工後の布帛を構成する糸の強度をA、(株)東洋製作所製恒温恒湿試験機THN064PBを用い、70℃、90%RHの条件下で7日間布帛を加水分解処理した後の糸の強度をBとしたとき、以下の式から求められる糸の強度保持率を耐加水分解性とした。糸の強度は、島津オートグラフAG−1Sを用い、試料長20cm、引張り速度20cm/分の条件で測定した。
強度保持率(%)={(加水分解処理後の強度A)/(末端封鎖処理後の強度B)}×100
【0100】
(2)難燃性能
難燃加工した布帛と、これを以下の条件(i)で5回水洗濯または条件(ii)で5回ドライクリーニングしたものについて、JIS L 1091D法(コイル法)およびJIS L 1091A−1法(45°ミクロバーナー法)にて難燃性能を評価した。コイル法は、カーテン用途で定める(イ)ラベルをクリアする接炎回数3回以上を合格とし、45°ミクロバーナー法は着炎時間3秒以内、延焼面積40cm2以内と合格とした。
【0101】
(i)水洗濯
JIS K 3371に従って、弱アルカリ性第1種洗剤を1g/Lの割合で用い、浴比1:40として、60℃±2℃で15分間水洗濯した後、40℃±2℃で5分間のすすぎを3回行ない、遠心脱水を2分間行ない、その後、60℃±5℃で熱風乾燥する1サイクルを5サイクル行った。
【0102】
(ii)ドライクリーニング
試料1gにつき、テトラクロロエチレン12.6mL、チャージソープ0.265g(チャージソープの重量組成は、ノニオン系界面活性剤(ノニルフェニルエーテルのエチレンオキシド10モル付加物)/アニオン系界面活性剤(ジオクチル琥珀酸ナトリウム塩)/水=10/10/1)を用いて、30℃±2℃で15分間の処理を1サイクルとし、これを5サイクル行った。
【0103】
(3)堅牢度
各種堅牢度については、以下に示すとおり、JISに基づいて試験をおこなった。
(i)洗濯堅牢度:JIS L 0860A−1法(ドライクリーニング)およびJIS L 0844A−2法(水洗濯)に基づき試験をおこなった。
(ii)耐光堅牢度:JIS L 0842法に基づき、4級照射をおこない、ブルースケールにて判定をおこなった。
(iii)摩擦堅牢度:JIS L 0846法に基づき、難燃加工した布帛を染色堅牢度試験法B法によって試験を行い、汚染用グレースケールで測定した。摩擦試験機は学振形を用いた。
【0104】
また、末端封鎖剤および難燃剤は以下の方法で乳化または分散させて本発明に用いた。
【0105】
(末端封鎖剤1の調製)
ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド(スタバクゾールI−LF;ラインケミージャパン株式会社)20.0重量部、安息香酸ベンジル5.0重量部(ナカライテスク株式会社)、N−ブチルフタルイミド(ナカライテスク株式会社)10.0重量部、硫酸化ひまし油(ロート油;ミヨシ油脂株式会社)2.0重量部、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル(EO付加モル数4)2.5重量部、水47.5重量部を含有する乳化物を末端封鎖剤1として用いた。
【0106】
(末端封鎖剤2の調製)
ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド15.0重量部、流動パラフィン{モレスコホワイトP−350P(松村石油)}10.0重量部、ステアリルアルコールエチレンオキサイド7モル付加物1.8重量部、ソルビタンモノステアレートエチレンオキサイド20モル付加体0.4重量部、70℃の水72.8重量部を含む乳化物を末端封鎖剤2として用いた。
【0107】
(難燃剤1の調製)
下記化学式(1)に示す化合物(アニリノジフェニルホスフェート)を40重量%の濃度で含有する水分散液を難燃剤1として使用した。
【0108】
【化13】

【0109】
(難燃剤2の調製)
下記一般式(2)に示す化合物(モノホスフェート)を50重量%の濃度で含有する水分散液を難燃剤2として使用した。
【0110】
【化14】

【0111】
(難燃剤3の調製)
下記化学式(3)に示す化合物(モノホスフェート)を50重量%の濃度で含有する水分散液を難燃剤3として使用した。
【0112】
【化15】

【0113】
(難燃剤4の調製)
下記化学式(4)に示す化合物(ビスホスフェート)を40重量%の濃度で含有する水分散液を難燃剤4として使用した。
【0114】
【化16】

【0115】
(難燃剤5の調製)
下記化学式(5)に示す化合物(ビスホスフェート)を40重量%の濃度で含有する水分散液を難燃剤5として使用した。
【0116】
【化17】

【0117】
(難燃剤6の調製)
下記化学式(6)に示す化合物(ビスホスフェート)を45重量%の濃度で含有する水分散液を難燃剤6として使用した。
【0118】
【化18】

【0119】
(難燃剤7の調製)
下記化学式(7)に示す化合物(ビスホスフェート)を37重量%の濃度で含有する水分散液を難燃剤7として使用した。
【0120】
【化19】

【0121】
(難燃剤8の調製)
下記化学式(8)に示す化合物(ビスホスフェート)を37重量%の濃度で含有する水分散液を難燃剤8として使用した。
【0122】
【化20】

【0123】
(難燃剤9の調製)
下記化学式(9)に示す化合物(ホスフィンオキシド)を40重量%の濃度で含有する水分散液を難燃剤9として使用した。
【0124】
【化21】

【0125】
(難燃剤10の調製)
下記化学式(10)に示す化合物(ホスファフェナンスレン)を40重量%の濃度で含有する水分散液を難燃剤10として使用した。
【0126】
【化22】

【0127】
(難燃剤11の調製)
下記化学式(11)に示す化合物(モノホスフェート)を40重量%の濃度で含有する水分散液を難燃剤11として使用した。
【0128】
【化23】

【0129】
(実施例1)
PLA布帛を、高圧染色試験機を用い、末端封鎖剤1を末端封鎖剤の固形分として2%owf、難燃剤1を難燃剤の固形分として5.6%owf、難燃剤4を難燃剤の固形分として2.4%owf、染料としてはkiwalon Polyester Blue AP−696を0.01%owf、kiwalon Polyester Redを0.02%owf、kiwalon Polyester Yellow YL−SEを0.1%owf用いてベージュ色とし、浴比1:20とした処理液中に浸し、UR・MINI−COLOR(赤外線ミニカラー(テクサム技研製))を用い、110℃、30分の条件で処理液を循環させながら加工を行った。さらに、ノニオン系界面活性剤グランアップUS−20(三洋化成工業株式会社)0.5g/L、ソーダ灰1.5g/L、ハイドロサルファイト2.0g/Lを用い、浴比1:20にて、60℃、20分の条件で還元洗浄をおこなった。遠心脱水後、110℃に設定したピンテンター中にて乾燥をおこない、その度130℃に設定したピンテンター中で仕上げセットをおこなった。仕上げセット後の試料を(株)東洋製作所製恒温恒湿試験機THN064PBを用い、70℃、90%RHの条件下で7日間加水分解処理をおこない、加水分解処理前後での各種物性を測定した。
【0130】
(実施例2)
難燃剤4を難燃剤6に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0131】
(実施例3)
難燃剤4を難燃剤7に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0132】
(実施例4)
難燃剤4を難燃剤8に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0133】
(実施例5)
難燃剤の種類および濃度に関する条件を、難燃剤11を難燃剤の固形分として7.0%owf、難燃剤4を難燃剤の固形分として3.0%owf用いるという条件に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0134】
(実施例6)
難燃剤の種類および濃度に関する条件を、難燃剤11を難燃剤の固形分として7.0%owf、難燃剤6を難燃剤の固形分として3.0%owf用いるという条件に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0135】
(実施例7)
難燃剤の種類および濃度に関する条件を、難燃剤11を難燃剤の固形分として7.0%owf、難燃剤7を難燃剤の固形分として3.0%owf用いるという条件に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0136】
(実施例8)
難燃剤の種類および濃度に関する条件を、難燃剤11を難燃剤の固形分として7.0%owf、難燃剤8を難燃剤の固形分として3.0%owf用いるという条件に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0137】
(実施例9)
末端封鎖剤1を末端封鎖剤2に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0138】
(実施例10)
末端封鎖剤1を末端封鎖剤2に変更し、かつ、難燃剤の種類および濃度に関する条件を、難燃剤11を難燃剤の固形分として7.0%owf、難燃剤4を難燃剤の固形分として3.0%owf用いるという条件に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0139】
(比較例1)
難燃剤の種類および濃度に関する条件を、難燃剤1を難燃剤の固形分として8.0%owf用いるという条件に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0140】
(比較例2)
難燃剤の種類および濃度に関する条件を、難燃剤2を難燃剤の固形分として8.0%owf用いるという条件に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0141】
(比較例3)
難燃剤の種類および濃度に関する条件を、難燃剤3を難燃剤の固形分として8.0%owf用いるという条件に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0142】
(比較例4)
難燃剤の種類および濃度に関する条件を、難燃剤4を難燃剤の固形分として8.0%owf用いるという条件に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0143】
(比較例5)
難燃剤の種類および濃度に関する条件を、難燃剤5を難燃剤の固形分として8.0%owf用いるという条件に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0144】
(比較例6)
難燃剤の種類および濃度に関する条件を、難燃剤6を難燃剤の固形分として8.0%owf用いるという条件に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0145】
(比較例7)
難燃剤の種類および濃度に関する条件を、難燃剤7を難燃剤の固形分として8.0%owf用いるという条件に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0146】
(比較例8)
難燃剤の種類および濃度に関する条件を、難燃剤8を難燃剤の固形分として8.0%owf用いるという条件に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0147】
(比較例9)
難燃剤の種類および濃度に関する条件を、難燃剤9を難燃剤の固形分として8.0%owf用いるという条件に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0148】
(比較例10)
難燃剤の種類および濃度に関する条件を、難燃剤10を難燃剤の固形分として8.0%owf用いるという条件に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0149】
(比較例11)
難燃剤の種類および濃度に関する条件を、難燃剤11を難燃剤の固形分として8.0%owf用いるという条件に変更した以外は、実施例1と同様の処理をおこなった。
【0150】
(比較例12)
難燃剤4を難燃剤2に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0151】
(比較例13)
難燃剤4を難燃剤3に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0152】
(比較例14)
難燃剤4を難燃剤5に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0153】
(比較例15)
難燃剤4を難燃剤9に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0154】
(比較例16)
難燃剤4を難燃剤10に変更した以外は、実施例1と同様の処理および測定をおこなった。
【0155】
【表1】

【0156】
【表2】

【0157】
【表3】

【0158】
実施例1〜8に示すように、末端封鎖剤1と用い、かつ、難燃剤として一般式(I)または(II)で表されるモノホスフェートと一般式(III)または(IV)で表されるポリホスフェートの両方を含有することによって、良好な難燃性能と優れた湿熱耐久性の両方を付与できることが分かる(表1)。
【0159】
また、実施例9および10に示すように、末端封鎖剤1を末端封鎖剤2に変更しても、実施例1〜8と同様に、良好な難燃性能と優れた湿熱耐久性の両方を付与できることが分かる(表1)。
【0160】
一方で、比較例1、4、6、7、8、11に示すように、難燃剤として、一般式(I)または(II)で表されるモノホスフェートか、一般式(III)または(IV)で表されるポリホスフェートのどちらか一方のみしか含有しない場合には難燃性能に不足があるか、または湿熱耐久性が低下してしまう(表2)。
【0161】
また、比較例2、3、5、9、10に示すように、難燃剤として、一般式(I)から(IV)のいずれにも属さない難燃剤を単独で用いた場合にも、難燃性能に不足があるか、または湿熱耐久性が低下してしまう(表2)。
【0162】
さらには、比較例12〜16に示すように、一般式(I)または(II)で表されるモノホスフェートは含むものの、一般式(III)または(IV)で表されるポリホスフェートを含まない場合にも、難燃性能に不足があるか、または湿熱耐久性が低下してしまう(表3)。さらに、比較例12,13に示すように、モノホスフェートとして式(II)に該当しないもの、すなわち、式(II)におけるAr、Ar、Arのそれぞれが異なる場合には、難燃性能に不足があるか、または湿熱耐久性が低下してしまう(表3)。
【0163】
以上の結果から、末端封鎖剤を含み、かつ、難燃剤として、一般式(I)または(II)で表されるモノホスフェートと一般式(III)または(IV)で表されるポリホスフェートの両方を含有することによって、湿熱耐久性に優れた難燃性ポリ乳酸繊維構造物を製造することができるものであり、本発明の進歩性を示すものである。
【0164】
(実施例11)
実施例1において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0165】
(実施例12)
実施例2において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0166】
(実施例13)
実施例3において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0167】
(実施例14)
実施例4において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0168】
(実施例15)
実施例5において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0169】
(実施例16)
実施例6において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0170】
(実施例17)
実施例7において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0171】
(実施例18)
実施例8において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0172】
(実施例19)
実施例9において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0173】
(実施例20)
実施例10において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0174】
(比較例17)
比較例1において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0175】
(比較例18)
比較例2において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0176】
(比較例19)
比較例3において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0177】
(比較例20)
比較例4において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0178】
(比較例21)
比較例5において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0179】
(比較例22)
比較例6において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0180】
(比較例23)
比較例7において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0181】
(比較例24)
比較例8において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0182】
(比較例25)
比較例9において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0183】
(比較例26)
比較例10において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0184】
(比較例27)
比較例11において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0185】
(比較例28)
比較例12において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0186】
(比較例29)
比較例13において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0187】
(比較例30)
比較例14において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0188】
(比較例31)
比較例15において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0189】
(比較例32)
比較例16において、被処理繊維構造物をPLA布帛からPLA/PTT布帛に変更し、同様の処理および測定をおこなった。
【0190】
【表4】

【0191】
【表5】

【0192】
【表6】

【0193】
実施例11〜20および比較例17〜32の結果も、実施例1〜10および比較例1〜16に示したPLA布帛の場合と全く同様の傾向である(表4〜表6)。
【0194】
すなわち、PLA/PTT布帛においても、末端封鎖剤を含み、かつ、難燃剤として、一般式(I)または(II)で表されるモノホスフェートと一般式(III)または(IV)で表されるポリホスフェートの両方を含有することによって、優れた湿熱耐久性難燃性と良好な難燃性能を付与できるものであり、本発明の効果を示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0195】
本発明によれば、耐加水分解性に優れ、かつ良好な難燃性能を有する脂肪族ポリエステル繊維構造物を提供することができる。このような難燃性脂肪族ポリエステル繊維構造物はあらゆる用途に用いることができ、とくに、湿熱耐久性、難燃性および環境負荷低減の要求が厳しいインテリア製品に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族リン系難燃剤およびカルボジイミド末端封鎖剤を水に分散または乳化させてなる、脂肪族ポリエステル繊維構造物を難燃加工するための難燃加工剤であって、前記芳香族リン系難燃剤が、下記一般式(I)または(II)で表されるモノホスフェートと、下記一般式(III)または(IV)で表わされるポリホスフェートとを含むことを特徴とする難燃加工剤。
【化1】

(上記一般式(I)中、ArおよびArはそれぞれアリール基を示し、RおよびRはそれぞれ水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基、アラルキル基のいずれかを示しているか、あるいはRおよびRは相互に結合してリン原子に結合している窒素原子と共に環を形成している。)
【化2】

(上記一般式(II)中、Ar、ArおよびArは、同一のアリール基を示す。)
【化3】

(上記一般式(III)中、R、R、RおよびRは水素原子を示し、Yは−CH−基、−C(CH−基、−S−基、−SO−基、−O−基、−C=O−基、−N=N−基のいずれかであり、nは0以上の整数を示す。mは0〜4の整数を示す。なお、上記一般式(III)において、ベンゼン核と線で結ばれたRの表記は、R、RおよびRのそれぞれが前記ベンゼン核内の異なる炭素原子と結合していることを意味する。)
【化4】

(上記一般式(IV)中、R、R、RおよびRはいずれもフェニル基、クレジル基、キシレニル基のいずれかを示し、Ryは下記一般式(V)で表される基のいずれかを示す。)
【化5】

(上記一般式(V)中、Aは下記化学式(VI)で表される基のいずれかを示し、nは1〜20の整数である。)
【化6】

【請求項2】
前記カルボジイミド末端封鎖剤が、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミドおよびN,N′−ジイソプロピルカルボジイミドからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物からなる、請求項1に記載の難燃加工剤。
【請求項3】
N−アルキルフタルイミドおよび安息香酸エステルを含む、請求項1に記載の難燃加工剤。
【請求項4】
請求項1に記載の難燃加工剤を含有する処理液中に脂肪族ポリエステル繊維構造物を投入する投入工程と、該脂肪族ポリエステル繊維構造物が投入された前記処理液を循環させながら浴中加工する浴中加工工程と、浴中加工された前記脂肪族ポリエステル繊維構造物を洗浄する洗浄工程と、洗浄された前記脂肪族ポリエステル繊維構造物を脱水する脱水工程と、脱水された前記脂肪族ポリエステル繊維構造物を乾燥する乾燥工程とを有することを特徴とする難燃性脂肪族ポリエステル繊維構造物の製造方法。
【請求項5】
前記浴中加工工程における浴中加工温度が80〜140℃である、請求項4に記載の難燃性脂肪族ポリエステル繊維構造物の製造方法。
【請求項6】
前記投入工程の前段に、前記処理液中に染料を混合させる混合工程を有する、請求項4に記載の難燃性脂肪族ポリエステル繊維構造物の製造方法。
【請求項7】
前記脂肪族ポリエステル繊維構造物がポリ乳酸繊維を含む、請求項4に記載の難燃性脂肪族ポリエステル繊維構造物の製造方法。
【請求項8】
前記脂肪族ポリエステル繊維構造物が、芯部がポリ乳酸からなり、鞘部が芳香族ポリエステルからなる芯鞘複合繊維を含む、請求項4に記載の難燃性脂肪族ポリエステル繊維構造物の製造方法。
【請求項9】
前記芯鞘複合繊維の前記鞘部がポリトリメチレンテレフタレートからなる、請求項8に記載の難燃性脂肪族ポリエステル繊維構造物の製造方法。

【公開番号】特開2013−96021(P2013−96021A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237802(P2011−237802)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(592092032)大京化学株式会社 (19)
【Fターム(参考)】