説明

難燃性を有する接着性ポリオルガノシロキサン組成物

【課題】 未硬化の状態で流動性を有し、付加反応型で、室温で硬化して接着性を発現し、厚さ2mmでUL94V−0の難燃性を示す接着性ポリオルガノシロキサン組成物を提供する。
【解決手段】 (A)分子中に2個以上のアルケニル基を含有し、23℃における粘度が1.0〜500Pa・sの直鎖状ポリオルガノシロキサン;(B)少なくとも3個のアルケニル基を含有する分岐状ポリオルガノシロキサン;(C)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン;(D)白金族金属化合物;(E)炭素官能性基とケイ素官能性基を有する少なくとも2種の有機ケイ素化合物;ならびに(F)炭酸亜鉛または塩基性炭酸亜鉛を含み、低粘度のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンを含有しない接着性ポリオルガノシロキサン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加反応によって硬化する接着性ポリオルガノシロキサン組成物に関し、特に室温で硬化させても接着性を発現させ、かつ硬化物が難燃性を有するポリオルガノシロキサン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
未硬化状態で流動性を示し、硬化によってゴム状弾性体を形成する硬化性ポリオルガノシロキサン組成物としては、硬化機構により、付加反応硬化型の組成物と、縮合反応硬化型の組成物とがある。前者は、組成によっては室温でも硬化するが、接着性を発現させるためには、70℃以上に加熱する必要がある。後者は室温で硬化し、接着性を発現させるが、硬化に長時間を要するうえ、深部硬化性が悪いこと、広い面を接着させることが困難なこと、および硬化の際に副生物を発生させるので収縮を生じ、寸法安定性に欠けるなどの問題がある。
【0003】
付加反応硬化型のポリオルガノシロキサン組成物の基本組成である、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンおよび白金系金属化合物には、接着性を発現させる要素がないので、接着性を付与するために、架橋の際に共重合により網状構造に結合する各種の添加成分を配合することが行われている。
【0004】
特許文献1には、ケイ素原子に結合した水素原子の数の、ケイ素原子に結合したアルケニル基、代表的にはビニル基の数に対する比(以下、Si−H/Vi比という)が0.5〜4.0である上記の基本組成に、ケイ素原子に結合した水素原子と、ケイ素原子に結合した下記式:
【0005】
【化2】

【0006】
(式中、Q1およびQ2は、たがいに独立して、直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し、R3は、炭素数1〜4のアルキル基を表す)
で示される側鎖とを有する有機ケイ素化合物を配合して、組成物が、70℃、8時間の硬化条件で、優れた接着性を発現することが開示されている。
【0007】
特許文献2には、Si−H/Vi比が0.5〜5.0の基本組成に、エポキシ化合物とアルミニウムキレートまたはアルミニウムアルコラート化合物とを配合して、100℃、1時間の硬化条件で、優れた接着性を発現することが開示されている。
【0008】
特許文献3には、Si−H/Vi比が0.3〜5.0の基本組成に、(メタ)アクリロキシアルキル基含有アルコキシシラン、エポキシ基含有アルコキシシラン、イソシアヌレート化合物のうち少なくとも2種を配合することにより、120℃に加熱して、プラスチックに対して優れた接着性を発揮することが開示されている。
【0009】
特許文献4には、Si−H/Vi比が0.5〜4.0の基本組成に、不飽和基含有β−ジケトン化合物またはβ−ジケトン構造を有し、かつケイ素原子に結合した水素原子を有する有機ケイ素化合物を配合することにより、100〜120℃における短時間の加熱で、金属やプラスチックに対して優れた接着性を発揮することが開示されている。
【0010】
特許文献5には、基本組成のうちアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンとして、直鎖状ポリジオルガノシロキサンとレジン状ポリオルガノシロキサンを併用し、Si−H/Vi比が0.6〜20.0であり、エポキシ基含有有機ケイ素化合物と無機質充填剤を配合した組成物が、エアーバッグ用合成繊維への浸透性と薄膜コーティング性に優れ、180℃の加熱で硬化して、優れた接着強度を示すことが開示されている。
【0011】
しかしながら、これらの文献に記載された発明を包含する従来の技術では、付加反応による硬化でゴム状弾性体を形成するポリオルガノシロキサン組成物を用いて、室温で各種被着体に対する接着性を発現することは、不可能であった。そのため、半導体デバイスの実装や封止、半導体や汎用プラスチックのような熱に不安定なものを使用する近傍の接着、汎用プラスチックへの広い面での接着、深部硬化性を必要とする部位の接着など、縮合反応型ポリオルガノシロキサン組成物を用いることができず、しかも加熱を伴わずに接着性を発現したい用途に用いることができる、付加反応型ポリオルガノシロキサン組成物が望まれている。
【0012】
一方、硬化の際に接着性を発現する付加反応型ポリオルガノシロキサン組成物の用途には、半導体デバイスの実装や封止などがあり、各種の電子機器、特に航空機、自動車、鉄道車両、家庭などに用いられる電子機器など、難燃性が必要なものが多い。このような用途には、上記の室温における接着性と、難燃性を兼ね備える必要がある。
【0013】
付加反応型ポリオルガノシロキサンの場合、硬化触媒として用いられる白金化合物は、ポリオルガノシロキサンに対して特異な難燃化効果を示すが、用途によってはそれだけでは充分な難燃性を示すに至らず、使用条件に応じて各種の難燃剤を併用することが多い。そのような難燃剤としては、カーボンブラック(特許文献6)、粉砕石英、カーボンブラックおよび炭酸亜鉛のような金属炭酸塩の組合せ(特許文献7)ならびに水酸化アルミニウム、炭酸亜鉛およびトリアゾール化合物の組合せ(特許文献8)が例示される。しかしながら、これらは接着性を伴わないゴムまたはゲルに関するものであり、常温における接着性と難燃性を共に示す付加反応型ポリオルガノシロキサンは知られていない。
【0014】
【特許文献1】特開昭54−48853号公報
【特許文献2】特開昭60−101146号公報
【特許文献3】特開平03−37265号公報
【特許文献4】特開2000−73041号公報
【特許文献5】特開平05−214295号公報
【特許文献6】特開平07−113045号公報
【特許文献7】特開平06−016937号公報
【特許文献8】特開平09−316335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、未硬化の状態で流動性であり、室温で硬化するとともに優れた接着性と優れた難燃性を発現する、付加反応型の接着性ポリオルガノシロキサン組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記の課題を解決するために研究を重ねた結果、ベースポリマーとして、23℃における粘度が1.0〜500Pa・sのアルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンと、アルケニル基含有分岐状ポリオルガノシロキサンを組み合わせて用い、Si−H/Vi比を0.2〜1.5とし、かつ炭素官能性基とケイ素官能性基を有する、少なくとも2種の有機ケイ素化合物を配合することにより、その課題を解決しうることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、
(A)分子中に2個以上のR1(式中、R1は、アルケニル基を表す)を含有し、23℃における粘度が、1.0〜500Pa・sである直鎖状ポリオルガノシロキサン 100重量部;
(B)SiO4/2単位とR3SiO1/2単位、および場合によってはさらにR2SiO単位
(式中、RはR1またはR2であり、うちR1は、前述のとおりであり、R2は、脂肪族不飽和炭素−炭素結合を有しない非置換または置換の1価の炭化水素基を表す)
からなり、R中、1分子あたり少なくとも3個がR1である分岐状ポリオルガノシロキサン 5〜100重量部;
(C)ケイ素原子に結合した水素原子を、分子中に3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン (A)および(B)に存在するアルケニル基1個に対するケイ素原子に結合した水素原子の数が、0.2〜1.5になる量;
(D)白金族金属化合物 白金族金属原子を、(A)と(B)の合計量に対して0.1〜1,000重量ppm含有する量;
(E)下記(E1)〜(E3):
(E1) ケイ素原子に結合した水素原子と、ケイ素原子に結合した下記式(I):
【0018】
【化3】

【0019】
で示される側鎖とを有する有機ケイ素化合物、
(E2) Si(OR3n基とエポキシ基含有基を有する有機ケイ素化合物、
(E3) Si(OR3n基と脂肪族不飽和炭化水素基を有するシラン化合物
(上記各式中、Q1は、ケイ素原子とエステル結合の間に2個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し;Q2は、酸素原子と側鎖のケイ素原子の間に3個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し;R3は、炭素数1〜4のアルキル基または2−メトキシエチル基を表し;nは、1〜3の整数である)
の有機ケイ素化合物の少なくとも2種 1.0〜20重量部;ならびに
(F)炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、またはそれらの混合物 3.0〜50重量部
を含み、
数平均重合度が250以下のアルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンを、10重量部以上含まない接着性ポリオルガノシロキサン組成物に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によって、未硬化の状態で流動性を有し、室温で硬化するとともに、硬化の際に各種被着体に対する優れた接着性を示す。また、UL94により、厚さ1mmでV−1ないしV−0、厚さ2mmでV−0の優れた難燃性を発現する、付加反応型の接着性ポリオルガノシロキサン組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明で用いられる(A)成分の直鎖状ポリオルガノシロキサンは、本発明の接着性ポリオルガノシロキサン組成物において、ベースポリマーとなる成分である。この(A)成分は、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有し、(C)成分のSi−H結合との付加反応により、網状構造を形成することができるものであれば、どのようなものであってもよいが、代表的には、一般式(II):
(R1a(R2bSiO(4-a-b)/2 (II)
(式中、
1は、アルケニル基を表し;
は、脂肪族不飽和炭素−炭素結合を含まない、非置換または置換の1価の炭化水素基を表し;
aは、1または2であり;
bは0〜2の整数であり、ただし、a+bは2または3である)
で示されるアルケニル基含有シロキサン単位を、分子中に少なくとも2個有するアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンである。
【0022】
1としては、ビニル、アリル、3−ブテニル、5−ヘキセニルなどが例示され、合成が容易で、また硬化前の組成物の流動性や、硬化後の組成物の耐熱性を損ねないという点から、ビニル基が最も好ましい。aは、合成が容易なことから、1が好ましい。
【0023】
2および(A)成分中の他のシロキサン単位のケイ素原子に結合した有機基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシルのようなアルキル基;シクロヘキシルのようなシクロアルキル基;フェニルのようなアリール基;2−フェニルエチル、2−フェニルプロピルのようなアラルキル基;クロロメチル、クロロフェニル、2−シアノエチル、3,3,3−トリフルオロプロピルのような置換炭化水素基が例示される。これらのうち、合成が容易であって、機械的強度および硬化前の流動性などの特性のバランスが優れているという点から、メチル基が最も好ましい。
【0024】
1は、ポリオルガノシロキサン(A)の分子鎖の末端または途中のいずれに存在してもよく、その両方に存在してもよいが、硬化後の組成物に優れた機械的性質を与えるためには、少なくともその両末端に存在していることが好ましい。なお、(A)成分のシロキサン骨格は、実質的に直鎖状であるが、若干の分岐が存在してもよい。
【0025】
(A)成分の粘度は、未硬化状態の組成物が、良好な流動性を示して、注型やポッティングの際に優れた作業性を示し、硬化後の組成物が、優れた機械的強度、および適度の弾性と硬さを示すために、23℃における粘度は、1.0〜500Pa・sの範囲である。この粘度範囲は、代表的な(A)成分である、両末端がジメチルビニルシロキサン単位で閉塞され、中間単位がジメチルシロキシ単位からなるポリメチルビニルシロキサンの場合、数平均重合度として320〜2,000に該当する。23℃における粘度の下限は、3.0Pa・sが好ましく、10.0Pa・sがさらに好ましい。上限は、300Pa・sが好ましく、200Pa・sがさらに好ましい。特に、本発明の特徴である、常温における接着性の発現のためには、(A)成分の粘度が高いことが好ましい。(A)成分は、1種を用いても、2種以上のものを混合して用いても差支えなく、後者の場合、粘度とは、混合されたアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンの粘度を意味する。ただし、本発明の組成物中に、数平均重合度が250以下のアルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンが、(A)成分100重量部に対して10重量部以上存在すると、常温における接着性を著しく阻害する。この重合度は、上記の代表的な(A)成分の場合、23℃の粘度として約0.5Pa・sに該当する。
【0026】
本発明に用いられる(B)成分は、前述の(A)成分とともに、本発明の組成物のベースポリマーとなり、特に硬化後の組成物に優れた機械的強度を与える成分である。特に、通常の付加反応型シリコーンゴムより低いSi−H/Vi領域を選択する場合に、優れた機械的強度を有するゴム状弾性体を得るためには不可欠な成分である。この(B)成分は、SiO4/2単位とR3SiO1/2単位、および場合によってはさらにR2SiO単位(式中、Rは前述のとおりである)からなる分岐状のポリオルガノシロキサンからなり、特に硬化反応において架橋点となるように、1分子あたり少なくとも3個のRがR1であり、残余がR2ある。硬化した組成物に、優れた機械的強度を与えるには、R3SiO1/2単位とSiO4/2単位の比率は、モル比として、1:0.8〜1:3の範囲の、常温で固体ないし粘稠な半固体の樹脂状のものが好ましい。なお、オルガノクロロシラン類を共加水分解・縮合させる方法によって得られる(B)成分には、シラノール基が存在するが、本発明においては、水酸化カリウムのようなアルカリ性物質で処理することにより、シラノール基を縮合させて、シラノール基が存在しないものを用いることが好ましい。
【0027】
1およびR2の定義、例示および好ましい基は、前述の(A)成分のR1およびR2とそれぞれ同様である。R1は、R3SiO1/2単位のRとして存在してもよく、R2SiO単位のRとして存在してもよいが、室温で速い硬化を得るためには、R3SiO1/2単位に存在することが好ましく、換言すれば、R3SiO1/2単位の一部または全部が、R122SiO1/2単位であることが好ましい。
【0028】
(B)成分の量は、(A)成分100重量部に対して5〜100重量部の範囲であり、10〜50重量部が好ましい。5重量部未満では、機械的強度を与える効果が充分でなく、100重量部を越えると、組成物の見掛け粘度が著しく上昇して、取扱いが困難になる。
【0029】
本発明で用いられる(C)成分のポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、分子中に含まれるヒドロシリル基が、(A)成分および(B)成分中のR1との間で付加反応することにより、(A)成分および(B)成分の架橋剤として機能するものである。硬化物を網状化するために、該付加反応に関与するケイ素原子に結合した水素原子を、少なくとも3個有している。このようなポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、代表的には、一般式(III):
(R5cdSiO(4-c-d)/2 (III)
(式中、
5は、脂肪族不飽和炭素−炭素結合を含まない、非置換または置換の1価の炭化水素基を表し;
cは、0〜2の整数であり;
dは、1または2であり、ただし、c+dは1〜3の整数である)
で示される単位を分子中に少なくとも3個有する。
【0030】
5としては、前述の(A)成分におけるR2と同様のものが例示され、それらの中でも、合成が容易な点から、メチル基が最も好ましい。また、合成が容易なことから、dは1が好ましい。
【0031】
(C)成分におけるシロキサン骨格は、直鎖状、分岐状または環状のいずれであってもよい。また、これらの混合物を用いてもよい。
【0032】
(C)成分の重合度は特に限定されないが、同一のケイ素原子に2個以上の水素原子が結合したポリオルガノハイドロジェンシロキサンは合成が困難なので、3個以上のシロキサン単位からなることが好ましく、硬化温度に加熱しても発揮せず、かつ流動性に優れて(A)成分と混合しやすいことから、シロキサン単位の数は、6〜200個がさらに好ましく、10〜150個が特に好ましい。
【0033】
(C)成分の配合量は、充分な接着力が得られ、また硬化して得られるシリコーンゴムが優れた機械的性質を有することから、(A)成分および(B)成分中のR1基に対する(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の比(Si−H/Vi)が、0.2〜1.5、好ましくは0.5〜1.3となるような量である。Si−H/Viが0.2未満では、優れた機械的強度を有するゴム状弾性体が得られず、1.5を越えると、室温における充分な接着性が得られない。
【0034】
本発明で用いられる(D)成分の白金系触媒は、(A)成分および(B)成分中のアルケニル基と(C)成分中のヒドロシリル基との間の付加反応を促進させ、また同様の付加反応によって、架橋重合体のシロキサン網状骨格に、(E1)および/または(E3)を導入するための触媒である。
【0035】
白金族金属化合物としては、白金、ロジウム、パラジウムのような白金族金属原子の化合物が用いられ、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコールの反応生成物、白金−オレフィン錯体、白金−ビニルシロキサン錯体、白金−ケトン錯体、白金−ホスフィン錯体のような白金化合物;ロジウム−ホスフィン錯体、ロジウム−スルフィド錯体のようなロジウム化合物;パラジウム−ホスフィン錯体のようなパラジウム化合物などが例示される。
【0036】
これらのうち、触媒活性が良好な点から、白金−ビニルシロキサン錯体が好ましく、室温において短時間に硬化して接着性を発現することから、白金−1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン錯体が特に好ましい。
【0037】
(D)成分の配合量は、優れた硬化速度が得られることから、(A)成分および(B)成分、ならびに後述の(E)成分として(E3)を用いる場合はさらに該(E3)との合計量に対して、白金族金属原子換算で通常0.1〜1,000重量ppmであり、好ましくは0.5〜200重量ppmである。
【0038】
本発明に用いられる(E)成分は、本発明の組成物に接着性を付与する成分であり、本発明で選択的に用いられる(A)成分の重合度およびSi−H/Vi比と相まって、室温における接着性の発現を担保する。なお、(E)成分は、各種の被着体に対する室温における接着性を付与するために、下記の(E1)〜(E3)成分のうち少なくとも2種を併用する。
【0039】
(E1)は、組成物の硬化のための付加反応の際に、(A)成分および(B)成分との付加反応によって、架橋したシロキサン構造に導入され、式(I)の側鎖が接着性を発揮する部分として、組成物の室温における接着性に寄与する成分である。また、(E1)の側鎖に存在するアルコキシ基は、(E2)および/または(E3)のアルコキシ基との共加水分解・縮合反応により、(E2)および/または(E3)をシロキサン骨格に導入するにも寄与する。
【0040】
該(E1)は、ケイ素原子に結合した水素原子と、ケイ素原子に結合した下記式(I):
【0041】
【化4】

【0042】
(式中、Q1、Q2およびR3は、それぞれ前述のとおりである)
で示される側鎖とを有する有機ケイ素化合物である。Q1としては、エチレン、トリメチレン、2−メチルエチレン、テトラメチレンなどのアルキレン基が例示され、合成および取扱いが容易なことから、エチレン基および2−メチルエチレン基が好ましい。Q2としては、トリメチレン、2−メチルトリメチレン、テトラメチレンなどのアルキレン基が例示され、合成および取扱いが容易なことから、トリメチレン基が好ましい。R3としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルなどのアルキル基;および2−メトキシエトキシ基が例示され、良好な接着性を与え、かつ加水分解によって生じるアルコールが揮発しやすいことから、メチル基およびエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0043】
(E1)の特徴である上記の水素原子と上記の側鎖とは、合成が容易なことから、別個のケイ素原子に結合していることが好ましい。したがって、(E1)の基本部分は、鎖状、分岐状または環状シロキサン骨格を形成していることが好ましく、特定の化合物を制御よく合成し、精製しうることから、環状シロキサン骨格がさらに好ましい。(E1)に含まれるSi−H結合の数は、1個以上の任意の数であり、環状シロキサン化合物の場合、2個または3個が好ましい。
【0044】
このような(E1)としては、下記の化合物が例示され、1種を単独で用いても、2種以上を併用しても差支えない。
【0045】
【化5】

【0046】
(E2)は、ケイ素原子に結合したアルコキシ基(以下、OR3に関しては、2−メトキシエトキシ基を包含する)と、(E1)および/または(E3)のケイ素原子に結合したアルコキシ基との加水分解・縮合反応によって、架橋したシロキサン構造に導入され、エポキシ基が接着性を発揮する部分として、組成物の室温における接着性、特にプラスチックに対する接着性の向上に寄与する成分である。
【0047】
該(E2)は、Si(OR3n基とエポキシ基含有基を有する有機ケイ素化合物(式中、R3およびnは、前述のとおり)である。R3としては、(E1)の場合と同様な基が例示され、良好な接着性を与えることから、メチル基およびエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。エポキシ基含有基としては、合成が容易で、加水分解性がなく、優れた接着性を示すことから、3−グリシドキシプロピル基のような、エーテル酸素原子を含む脂肪族エポキシ基含有基;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基のような脂環式エポキシ基含有基などが好ましい。ケイ素原子に結合したアルコキシ基の数は、分子中2個以上であることが好ましい。OR3基とエポキシ基含有基とは、同一のケイ素原子に結合していてもよく、別のケイ素原子に結合していてもよい。
【0048】
このような(E2)としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピル(メチル)ジメトキシシランのような3−グリシドキシプロピル基含有アルコキシシラン類;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メチル)ジメトキシシランのような2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基含有アルコキシシラン類;nが2以上のこれらシラン類の部分加水分解縮合物;ならびに鎖状または環状メチルシロキサンのメチル基の一部が、トリメトキシシロキシ基または2−(トリメトキシシリル)エチル基と、上記のエポキシ基含有基とで置き換えられた炭素/ケイ素両官能性シロキサンなどが例示され、1種を単独で用いても、2種以上を併用しても差支えない。
【0049】
(E3)は、ケイ素原子に結合したアルコキシ基と、(E1)および/または(E2)分子のケイ素原子に結合したアルコキシ基との加水分解・縮合反応によって、架橋したシロキサン構造に導入され、または該(E3)の有する脂肪族不飽和炭化水素基が、組成物の硬化のための付加反応の際に、(C)成分との付加反応によって、架橋したシロキサン構造に導入されて、アルコキシ基が他の(E3)のアルコキシ基、および(E2)と併用する場合は、(E2)のアルコキシ基との共加水分解・縮合反応によって、他の(E3)および/または(E2)をシロキサン構造に導入する。そして、残存するアルコキシ基が、接着性を発揮する部分として、組成物の室温における接着性、特に金属に対する接着性の向上に寄与する成分である。
【0050】
該(E3)は、Si(OR3n基と脂肪族不飽和炭化水素基を有するシラン化合物(式中、R3およびnは、前述のとおり)である。R3としては、(E1)の場合と同様な基が例示され、良好な接着性を与えることから、メチル基およびエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。nは、2または3が好ましい。脂肪族不飽和炭化水素基は、ビニル、アリル、3−ブテニルのようなアルケニル基の場合、ケイ素原子に直接結合していてもよく、3−アクリロキシプロピル、3−メタクリロキシプロピルのように、不飽和アシロキシ基が3個以上の炭素原子を介してケイ素原子に結合していてもよい。不飽和炭化水素基含有基としては、合成および取扱いが容易なことから、ビニル基、メタクリロキシプロピル基などが好ましい。
【0051】
このような(E3)としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、メチルビニルジメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、メチルアリルジメトキシシランのようなアルケニルアルコキシシラン類;3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピル(メチル)ジメトキシシランのような(メタ)アクリロキシプロピルアルコキシシラン類などが例示され、1種を単独で用いても、2種以上を併用しても差支えない。
【0052】
(E)成分は、上述の(E1)と(E2);(E1)と(E3);(E2)と(E3);または(E1)、(E2)および(E3)を含有することにより、他の構成成分とともに、組成物が広範囲の被着体に対して、室温で接着性を発現するように機能する。(E)成分は、(E1)と、(E2)および/または(E3)との組合せを含むことが好ましい。(E)成分の配合量は、該(E)成分の合計量として、(A)成分100重量部に対して1.0〜20重量部の範囲であり、3.0〜15重量部が好ましい。(E)成分が1重量部未満では、室温における接着性が充分でなく、20重量部を越えると、(A)、(B)成分と(C)成分の間の付加反応による架橋の密度が減少して、硬化によって得られた接着層の機械的強度が減少するばかりではなく、200℃以上の高温にさらされると、接着層に残存するアルコキシ基の縮合反応による架橋が進行して、硬さが上昇し、伸びが低下して、接着層が破壊される。なお、(E)成分が上記の2種類の混合物である場合、良好な接着性を得るために、(E)成分中、重量比で一方が他方の0.05〜20倍の範囲であることが好ましい。また、(E)成分が(E1)、(E2)および(E3)の混合物である場合、それぞれが(E)成分の5重量%以上配合されていることが好ましい。
【0053】
本発明で用いられる(F)成分は、硬化した組成物に難燃性を付与する難燃化剤である。(D)成分の触媒能を阻害せず、また熱により炭酸ガスを発生して酸素遮断効果を生じるため、過度に多量に配合しなくても硬化した組成物に充分な難燃性を付与することができるので、未硬化の組成物が充分な流動性を保ち、かつ常温付近における硬化の際に系が充分な接着性を発現する。(F)成分としては、炭酸亜鉛すなわちZnCO、塩基性炭酸亜鉛すなわち2ZnCO・3Zn(OH)・HO、及びそれらの混合物(以下、これらの総称として炭酸亜鉛類という)を用いる。このような炭酸亜鉛類としては、硬化した組成物が少量の配合でより優れた難燃性を発揮すること、および(E)成分と反応してその機能を阻害することがないことから、炭酸亜鉛を主成分とするものが好ましく、純度95重量%以上、熱分析における熱重量減少率が33〜36%、炭酸ガス発生量が30重量%以上の高純度の炭酸亜鉛が特に好ましい。
【0054】
(F)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して3.0〜50重量部であり、6.0〜25重量部が好ましい。(F)成分が3.0重量部未満では、硬化した組成物に充分な難燃性を付与することができず、50重量部を越えると、常温付近における硬化の際に充分な接着性を発現できない。
【0055】
本発明において、さらに(G)成分として、Si(OR44(式中、R4は、炭素数1〜3のアルキル基を表す)で示されるテトラアルコキシシラン、またはその部分加水分解縮合物を配合してもよく、このことにより、室温における金属への接着性を、さらに向上させることができる。
【0056】
4としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルのような、直鎖状または分岐状のアルキル基が例示され、容易に入手でき、取扱いが容易で、接着性の向上効果が著しいことから、エチル基が好ましい。
【0057】
硬化して得られるシリコーンゴムに、室温における金属への優れた接着性を付与することから、(G)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、0.5〜5重量部がさらに好ましい。
【0058】
本発明の組成物に、(D)成分の触媒能を阻害しない範囲で、さらに他の接着性付与剤を併用しても差支えない。そのような接着性付与剤としては、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリプロポキシド、アルミニウムトリブトキシドのようなアルミニウムアルコキシド;チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトライソプロペニルオキシドのようなチタンアルコキシド;ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシドのようなジルコニウムアルコキシドなどが例示される。このような金属アルコキシド類の併用により、さらに接着強さを高めることができる。金属アルコキシドの配合量は、(A)成分100重量部に対して0.2〜5重量部が好ましい。
【0059】
本発明の組成物に、(D)成分の触媒能を阻害しない範囲で、さらに他の難燃化剤を併用しても差支えない。そのような難燃化剤としては、ベンゾトリアゾールのようなトリアゾール化合物;水酸化アルミニウムなどが例示される。また、後述の充填剤として挙げられている材料中、カーボンブラックや粉砕石英にも、難燃性を付与する性質があるので、これらを併用しても差し支えない。
【0060】
本発明の組成物に、場合によっては配合してもよい接着性付与剤として、マレイン酸ジアリルのような分子中に極性基を含む有機化合物を挙げることができる。この種の接着性付与剤は、組成物の硬化反応速度を抑制して、取扱いの作業性、および接着性の発現と硬化速度とのバランスの向上にも寄与する。硬化抑制剤としては、上記のほか、アセチレンアルコール類やその誘導体のような、不飽和を含む既知の化合物を用いることができる。
【0061】
本発明の組成物に、硬化前の段階で適度の流動性を与え、硬化して得られるゴム状弾性体に、その用途に応じて要求される高い機械的強度を付与するために、無機質充填剤を添加することが好ましい。このような無機質充填剤としては、煙霧質シリカ、焼成シリカ、シリカエアロゲル、沈殿シリカ、煙霧質酸化チタン、およびこれらの表面をポリオルガノシロキサン類、ヘキサメチルジシラザンなどで疎水化したもののような補強性充填剤;ならびにけいそう土、粉砕シリカ、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、アルミノケイ酸、炭酸カルシウム、有機酸表面処理炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、タルク、酸化第二鉄のような非補強性充填剤が例示され、押出し作業性と、硬化して得られるゴム状弾性体に必要な物性に応じて選択される。また、目的に応じてカーボンブラックのような導電性充填剤を配合してもよい。これらの充填剤の添加量は、組成物の使用目的を損なわないかぎり限定されない。
【0062】
さらに、本発明の組成物には、目的に応じて、顔料、チクソトロピー性付与剤、押出し作業性を改良するための粘度調整剤、紫外線防止剤、防かび剤、耐熱性向上剤など、各種の添加剤を加えてもよい。また、用途によっては、本発明の組成物を、トルエン、キシレンのような有機溶媒に溶解ないし分散させてもよい。
【0063】
本発明の組成物は、(A)〜(F)成分、およびさらに必要に応じて配合される他の成分を、万能混練機、ニーダーなどの混合手段によって均一に混練して調製することができる。なお、(B)成分として固体ないし半固体の樹脂状物を、取扱いを容易にするために、トルエン、キシレンなどの炭化水素溶液として配合することがある。その場合、(A)成分の一部または全部を、(B)成分を含む上記の溶液と混合し、ついで減圧加熱により溶媒を留去して、(A)成分と(B)成分の溶液として、組成物の調製に供することができる。また、安定に長期間貯蔵するために、(C)成分と(E1)成分に対して(D)成分が別の容器になるように、適宜、2個の容器に配分して保存しておき、使用直前に混合し、減圧で脱泡して使用に供してもよい。
【0064】
本発明のポリオルガノシロキサン組成物を、接着すべき部位に注入、滴下、流延、注型、容器からの押出しなどの方法により、またはトランスファー成形や射出成形による一体成形によって、接着対象物に付着させ、室温で放置して、硬化させることにより、シリコーンゴムを得ることができ、同時に接着対象物に接着させることができる。通常、室温で18時間の放置により、表面が指触乾燥する。接着性を発現させるための放置時間は、通常、18時間以上であり、24時間以上が好ましい。この指触乾燥時間および接着性発現時間は、(D)成分と反応抑制剤のそれぞれの種類と量比を変えることにより、任意に設定することができる。また、必要に応じて、たとえば80℃で30分、または100℃で10分という、比較的低温、短時間の加熱で硬化・接着させることもできる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに詳細に説明する。これらの例において、部は重量部を示し、粘度は23℃における粘度を示す。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0066】
実施例および比較例に、下記のポリシロキサンを用いた。以下、シロキサン単位を、次のような記号で示す。
単位: (CH3)3SiO1/2
v単位: (CH3)2(CH2=CH)SiO1/2
単位: −(CH3)2SiO−
H単位: −(CH3)HSiO−
v単位: −(CH3)(CH2=CH)SiO−
単位: SiO4/2(4官能性)
A−1:両末端がMv単位で封鎖され、中間単位がD単位からなり、23℃における粘度が100Pa・sである直鎖状ポリメチルビニルシロキサン;
A−2:両末端がMv単位で封鎖され、中間単位がD単位からなり、23℃における粘度が10Pa・sである直鎖状ポリメチルビニルシロキサン;
A−3:両末端がMv単位で封鎖され、中間単位がD単位からなり、23℃における粘度が3.0Pa・sである直鎖状ポリメチルビニルシロキサン;
A−4:両末端がMv単位で封鎖され、中間単位がD単位からなり、23℃における粘度が0.35Pa・sである直鎖状ポリメチルビニルシロキサン;
B−1:M単位、Mv単位およびQ単位からなり、モル単位比がM5v8で示される分岐状ポリメチルビニルシロキサン;
C−1:両末端がM単位で封鎖され、中間単位が50モル%のDH単位と残余のD単位からなり、23℃における粘度が0.2Pa・sである直鎖状ポリメチルハイドロジェンシロキサン。
【0067】
実施例および比較例に、触媒として、下記の白金−ビニルシロキサン錯体を用いた。
D−1:塩化白金酸をMvvで示されるシロキサン二量体と加熱することによって得られ、白金含有量が2重量%である錯体;
D−2:塩化白金酸をDv4で示される環状シロキサンと加熱することによって得られ、白金含有量が2重量%である錯体。
【0068】
実施例および比較例に、(E)成分として、下記の有機ケイ素化合物を用いた。
E−1:式:
【0069】
【化6】

【0070】
で示される環状シロキサンの異性体混合物;
E−2:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン;
E−3:ビニルトリエトキシシラン。
【0071】
実施例および比較例に、(F)成分として、下記の炭酸亜鉛類を用いた。
F−1:XFRによる純度97重量%、GC−MSによる定量法で求めた炭酸ガス発生量34%、測定温度範囲25〜500℃の熱分析(セイコー電子工業(株)製、TG/DTA220)による熱重量減少率34.7%の炭酸亜鉛。
【0072】
実施例および比較例に、下記の粉砕シリカを用いた。
S−1:平均粒径1.2μmの粉砕石英
【0073】
実施例1〜6、比較例1〜4
下記の方法により、表1に示すように、の原料を用いて、ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。撹拌機、加熱装置および減圧装置を備えた容器に、A−1と、あらかじめ調製した濃度50重量%のB−1トルエン溶液を入れ、均一になるように混合した後、150℃、0.13kPa{1Torr}でトルエンを留去して、ポリシロキサン溶液を調製した。これを万能混練機に移し、F−1および場合によりS−1を添加して、100℃で3時間減圧下に混練し、40℃以下まで冷却して、マレイン酸ジアリルとD−1を混合した。次に、あらかじめ調製しておいたA−3、C−1、E−1、E−2およびE−3の混合物を添加して、10分間すばやく減圧混練することにより、脱泡を行って、ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例7〜10、比較例5〜8
実施例1と同様にして、実施例2の組成物の、マレイン酸ジアリルの代わりにテトラエトキシシランを配合した実施例7、E−3の代わりにテトラエトキシシランを配合した実施例8、およびC−1を過剰に配合した比較例5の各組成物を、それぞれ調製した。また、A−3の代わりにA−2を用い、各成分の組成比を変えた実施例9、および(A)成分としてすべてA−2を用いた(配合手順としては、A−2のうち65部をB−1との溶液の調製に当て、残余をC−1および接着性付与成分との溶液の調製に当てた)実施例10を調製した。さらに、実施例9の各組成物の、A−2の代わりに低分子量のA−4を用いた比較例6、(E)成分としてE−1のみを用いた比較例7、および(E)成分としてE−3のみを用いた比較例8の各組成物を、それぞれ調製した。
【0076】
【表2】

【0077】
評価方法および結果
実施例1〜10および比較例1〜8の組成物の、硬さ、難燃性および接着性の評価を、次のような方法を用いて行った。
(1)硬さ
組成物をそれぞれコーカーから注型して、室温で24時間放置することにより、厚さ2mmのシートを作製した。このシートを3枚重ねて、JIS K6253により、タイプEデュロメータを用いて、硬さを測定した。ただし、実施例4は、72時間放置後の硬さを測定した。
(2)難燃性
上記と同様の注型により、厚さ1mmおよび2mmのシートを作製し、室温で24時間放置した後、UL94の20mm垂直燃焼試験によって難燃性の評価を行った。
(3)接着性
組成物をそれぞれコーカーに充填した。表2に示す各種材質の試片(80×25×2mm)に、組成物をコーカーから、直径10mm、長さ60mmのビードを形成するように押出して塗布し、室温で24時間または72時間放置して、硬化・接着させて、ゴム状の硬化物を得た。その後、硬化物と試片との界面の端にナイフで20mmの切込みを入れ、破断するまで、上90°の方向に硬化物を引張って、破断状況によって接着性を評価した。
○:接着性優(硬化物が破断し、試片との接着面の100%に、硬化物が付着している)
△:接着性良(試片との接着面に、部分的に硬化物が付着し、一部が剥離する)
×:接着性なし(試片から硬化物が剥離し、接着面への硬化物の付着がない)
【0078】
評価結果を、表3および表4に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
表3および表4から明らかなように、本発明のポリオルガノシロキサン組成物は、室温で硬化するとともに優れた接着性を示し、硬化して得られたシリコーンゴムは、UL94による厚さ1mmでV−1ないしV−0、厚さ2mmでV−0の優れた難燃性を示した。それに対して、F−1を配合しない比較例1、およびF−1の配合量の少ない比較例2の組成物は、いずれも各種の被着体に対する接着性は優れていたが、得られたシリコーンゴムは、厚さ1mmでは難燃性を示さず、厚さ2mmでも充分な難燃性を示すに至らなかった。また、F−1の配合量の多い比較例3の組成物は、優れた難燃性のシリコーンゴムが得られるが、多くの金属およびプラスチックに対して接着性を示さず、F−1の代わりに多量の粉砕シリカを配合した比較例4の組成物は、多少の難燃性を示すシリコーンゴムが得られるが、接着性はさらに悪かった。
【0082】
比較例5の組成物は、Si−H/Viが2.5という、通常の付加反応型シリコーンゴムには一般的な範囲で、本発明にとってはSi−H結合が過剰な領域のものであり、各種の接着性付与剤を配合したのにもかかわらず、常温ではガラス以外の被着体には接着性を示さなかった。比較例6の組成物は、低重合度のビニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンを用いたもので、実施例と同様に各種の接着性付与剤を配合したのにもかかわらず、被着体から剥離して、接着性を全く示さなかった。また、比較例7の組成物は、(E)成分としてE−1のみを用い、比較例8の組成物は、同様にE−3のみを用いたものである。比較例7の組成物は、ガラスに対しては優れた接着性を示すものの、他の被着体への接着性が悪く、比較例8の組成物も、充分な接着性を示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のポリオルガノシロキサン組成物は、室温で硬化する際に優れた接着性を示すとともに、厚さ2mmでUL94V−0の優れた難燃性を示すシリコーンゴムを与える。したがって、本発明のポリオルガノシロキサン組成物は、半導体デバイスの実装や封止、半導体や汎用プラスチックのような熱に不安定なものを使用する近傍の接着、汎用プラスチックへの広い面での接着、深部硬化性を必要とする部位の接着など、加熱を行うことができず、また縮合反応型の接着性ポリオルガノシロキサン組成物を使用できない用途で、難燃性と接着性を共に必要とする用途に用いることができ、産業上、きわめて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子中に2個以上のR1(式中、R1は、アルケニル基を表す)を含有し、23℃における粘度が、1.0〜500Pa・sである直鎖状ポリオルガノシロキサン 100重量部;
(B)SiO4/2単位とR3SiO1/2単位、および場合によってはさらにR2SiO単位
(式中、RはR1またはR2であり、うちR1は、前述のとおりであり、R2は、脂肪族不飽和炭素−炭素結合を有しない非置換または置換の1価の炭化水素基を表す)
からなり、R中、1分子あたり少なくとも3個がR1である分岐状ポリオルガノシロキサン 5〜100重量部;
(C)ケイ素原子に結合した水素原子を、分子中に3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン (A)および(B)に存在するアルケニル基1個に対するケイ素原子に結合した水素原子の数が、0.2〜1.5になる量;
(D)白金族金属化合物 白金系金属原子を、(A)と(B)の合計量に対して0.1〜1,000重量ppm含有する量;
(E)下記(E1)〜(E3):
(E1) ケイ素原子に結合した水素原子と、ケイ素原子に結合した下記式(I):
【化1】


で示される側鎖とを有する有機ケイ素化合物、
(E2) Si(OR3n基とエポキシ基含有基を有する有機ケイ素化合物、
(E3) Si(OR3n基と脂肪族不飽和炭化水素基を有するシラン化合物
(上記各式中、Q1は、ケイ素原子とエステル結合の間に2個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し;Q2は、酸素原子と側鎖のケイ素原子の間に3個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し;R3は、炭素数1〜4のアルキル基または2−メトキシエチル基を表し;nは、1〜3の整数である)
の有機ケイ素化合物の少なくとも2種 1.0〜20重量部;ならびに
(F)炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、またはそれらの混合物 3.0〜50重量部
を含み、
数平均重合度が250以下のアルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンを、10重量部以上含まない接着性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項2】
(A)の23℃における粘度が、3.0〜300Pa・sである、請求項1記載の接着性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項3】
(A)および(B)のR1が、ビニル基である、請求項1または2記載の接着性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項4】
(D)が、白金−ビニルシロキサン錯体である、請求項1〜3のいずれか1項記載の接着性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項5】
(D)が、白金−1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン錯体である、請求項4記載の接着性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項6】
(F)が、炭酸亜鉛を主成分とする、請求項1〜5のいずれか1項記載の接着性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項7】
さらに、(G)Si(OR44(式中、R4は、炭素数1〜3のアルキル基を表す)で示されるテトラアルコキシシラン、またはその部分加水分解縮合物 0.1〜10重量部を含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の接着性ポリオルガノシロキサン組成物。

【公開番号】特開2006−117845(P2006−117845A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308674(P2004−308674)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000221111)ジーイー東芝シリコーン株式会社 (257)
【Fターム(参考)】