説明

難燃性ポリアリレート樹脂組成物、及びその製造方法

【課題】透明性に優れ、機械的特性、特に耐衝撃性に優れ、耐熱変形性や成形性に優れた難燃性ポリアリレート樹脂を提供する。
【解決手段】二価フェノール残基と芳香族ジカルボン酸残基とから構成される難燃性ポリアリレート樹脂組成物であって、二価フェノール成分が、特定のオルガノシロキサンモノマーと、特定のビスフェノールモノマーからなり、その配合比が、下記式で示されるオルガノシロキサン/ビスフェノール=7/93〜1/99(モル%)であり、シャルピー衝撃試験値が20kJ/m以上、荷重たわみ温度(荷重1.8MPa)が180℃以上であることを特徴とする難燃性ポリアリレート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、透明性に優れ、機械的特性や耐熱変形性や成形性に優れた難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
二価フェノール類とテレフタル酸及び/又はイソフタル酸とからなるポリアリレートはエンジニアリングプラスチックとして既によく知られている。ポリアリレートは耐熱性が高く、機械的強度や寸法安定性に優れ、加えて透明であるので、その成形品は電気・電子機器、自動車、機械などの分野に幅広く使用されている。
【0003】
これら電気・電子機器の分野では高度な難燃性が要求される部品が少なくなく、安全上の要求を満たすため、UL94V-0や94V-1相当の高い難燃性がプラスチック材料に求められる場合が多い。従来からポリアリレート樹脂は、自己消火性を備えたプラスチック材料として用いられてきたが、電気、電子機器の高い難燃性の要求に対して十分とは言えなかった。
【0004】
ポリアリレート樹脂に難燃性を付与する方法としては、ポリアリレート樹脂に臭素を直接反応させ難燃化する方法(特許文献1)、ポリアリレート樹脂中に臭素化ポリカーボネートオリゴマーを溶融混練し難燃化する方法(特許文献2)が知られている。
【0005】
しかしながら、難燃剤として、ハロゲン化合物を使用した場合には、燃焼時にダイオキシン等の有毒なガス発生の可能性がある問題があり、そのため、最近の環境問題の高まりから、燃焼してもダイオキシン等の発生の少ない難燃剤を使用した、いわゆるハロゲンフリーの難燃性樹脂材料が要望されている。
【0006】
ハロゲン系難燃剤以外の難燃剤としては、リン酸エステルなどのリン化合物、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの無機金属水和物、メラミン、メラミンシアヌレートなどの窒素化合物、ポリオルガノシロキサンなどのシリコン化合物、ガラス繊維やタルクなどの無機充填剤が検討されている。
【0007】
その中でも、ポリオルガノシロキサンなどのシリコン化合物を難燃剤として使用した樹脂化合物に関しては、数多くのものが開示されている(例えば、特許文献3〜5)。
【0008】
しかしながら、ポリアリレート樹脂に関してシリコン化合物単独で難燃剤として使用した場合には、シリコン化合物との相溶性が悪く、安定して難燃性を発現する添加量まで混練することができない問題があった。
【0009】
そのため、オルガノシロキサンモノマーをポリアリレートに共重合することで、難燃化することが検討されている。
【0010】
また、ポリアリレートの耐熱性が高いが、180℃以上のさらに高温で使用するには、十分ではなかった。そのため、二価フェノール成分をビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)の一部分または全部を、ビスフェノールAP(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン)にしたポリアリレートを使用することが提案されている(例えば、特許文献6)。
【0011】
しかしながら、ビスフェノールAPに関しては、その剛直な分子構造によって、出来たポリアリレートは単独では、非常に脆く、耐衝撃性に著しく悪いものとなり、大抵の用途には使用不可であった。そのため、ポリカーボネートとアロイするなどの方法によって、本来の耐熱性を犠牲にし、耐衝撃性を向上させることで使用可能となっていた(例えば、特許文献6)。
【特許文献1】特開平5−163338号公報
【特許文献2】特開平10−158491号公報
【特許文献3】特開昭50−77457号公報
【特許文献4】特開昭50−78643号公報
【特許文献5】特開平11―263903号公報
【特許文献6】特開平5−209119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、透明性に優れ、機械的特性、特に耐衝撃性に優れ、高度な耐熱変形性や成形性に優れた難燃性ポリアリレート樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、オルガノシロキサンモノマーを配合し、難燃性を付与したポリアリレート樹脂組成物において、特定のオルガノシロキサンモノマーと特定のビスフェノールモノマーを共重合したポリアリレートを作製することで、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0015】
(1) 二価フェノール残基と芳香族ジカルボン酸残基とから構成される難燃性ポリアリレート樹脂組成物であって、二価フェノール成分が、下記一般式(I)で示されるオルガノシロキサンモノマーと、下記式(II)で示されるビスフェノールモノマーからなり、その配合比が、(I)/(II)=7/93〜1/99(モル%)であり、シャルピー衝撃試験値が20kJ/m以上、荷重たわみ温度(荷重1.8MPa)が180℃以上であることを特徴とする難燃性ポリアリレート樹脂組成物。
【0016】
【化1】

但し、nは10〜100の整数を表す。
【0017】
【化2】

(2) (1)の難燃性ポリアリレート樹脂の製造方法。
【0018】
(3) (1)の難燃性ポリアリレート樹脂を成形して得られる成形品。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、難燃性ポリアリレート樹脂における難燃剤が、ハロゲンを含有しないオルガノシロキサンを用いるので、燃焼時に有害なハロゲン化合物が発生することがなく、透明性に優れ、機械的特性、特に耐衝撃性に優れ、高度な耐熱変形性や成形性に優れた難燃性ポリアリレート樹脂を提供することができる。
【0020】
また、オルガノシロキサン共重合ポリアリレートを使用しているために、難燃性を発現する濃度までオルガノシロキサンを導入できる上、さらに耐衝撃性、熱変形温度を高めた良好な難燃性ポリアリレート樹脂が製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明でいうポリアリレート樹脂とは、二価フェノール残基と芳香族ジカルボン酸残基とから構成されているポリマーである。
【0022】
本発明の難燃性ポリアリレート樹脂の二価フェノール残基としては、特定のオルガノシロキサンモノマーとビスフェノールAP(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン)を特定の比率で使用するが、本発明の効果を損ねない範囲で他の二価フェノールを使用してもよい。
【0023】
また、前述した二価フェノールの一部を、実質的にその特性を損なわない範囲で、他の二価アルコール類で置き換えてもよい。そのような二価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、1,4-ジヒドロキシメチルシクロヘキサン等を挙げることができる。
【0024】
本発明の難燃性ポリアリレート樹脂を構成する芳香族ジカルボン酸残基としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、クロルフタル酸、ニトロフタル酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、メチルテレフタル酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2−ビス(4−カルボキシフェノキシ)エタン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸など等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
本発明の難燃性ポリアリレート樹脂を構成する芳香族ジカルボン酸成分として、特に好適に用いることのできる芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸とイソフタル酸であり、これらの比率がテレフタル酸/イソフタル酸=8/2〜2/8の範囲、好ましくは、7/3〜3/7の範囲であり、コストパフォーマンスから好ましいのは両者の等量混合物である。
【0026】
また、前述した芳香族ジカルボン酸の一部を、実質的にその特性を損なわない範囲で、他の脂肪族ジカルボン酸類で置き換えてもよい。そのようなジカルボン酸としては、ジカルボキシメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、ドデカン二酸等を挙げることができる。
【0027】
さらに、本発明のオルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂(A)は下記一般式(I)のオルガノシロキサンモノマーを成分として含有する。
【0028】
【化3】

(但し、nは10〜100の整数を表す。)
オルガノシロキサンモノマーの共重合比率としては、所望する難燃性、機械物性、および成形加工性を勘案して決定されるが、全二価フェノール成分に対して1〜7モル%、好ましくは、1〜5モル%、最適には1〜3モル%配合する必要がある。共重合するオルガノシロキサンモノマーの種類にもよるが、10モル%を超えると重合性が極端に低下し、粘度低下が著しく問題となり、また耐熱性も極端に低下する。一方、1モル%より少ないと、所望の難燃性を達成できない上に、耐衝撃性が極端に悪くなる。
【0029】
本発明の難燃性ポリアリレート樹脂は、二価フェノールと芳香族ジカルボン酸またはこれらの誘導体を原料とし、公知の重合方法を用いて製造される。重合方法としては、界面重合、溶液重合、溶融重合などが挙げられるが、界面重合が好ましい。以下では、界面重合による製造方法を例示する。
【0030】
界面重合は、二価フェノールをアルカリ水溶液に溶解させた水相と、ジカルボン酸ハライドを水に溶解しない有機溶剤に溶解させた有機相とを、触媒の存在下で混合することによっておこなわれる(W.M.EARECKSON,J.Poly.Sci.XL399(1959)、特公昭40−1959号公報)。溶液重合と比較して反応が速く、酸ハライドの加水分解を最小限に抑えられ、結果として、高分子量のポリアリレートを得ることができる。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、1,1,2,2-テトラクロロエタン100mlに試料1.0gを溶解し、温度25℃における対数粘度が0.40〜0.70であることが好ましく、0.45〜0.60であることがより好ましい。対数粘度が0.40未満であると機械的特性が劣ったものとなり、逆に0.70を超えると溶融粘度が高く射出成形時の流動性が悪化してよくない。
【0032】
また、本発明の樹脂組成物には、その難燃性、透明性、機械特性を損なわない範囲で、樹脂の混合時、成形時に他の添加剤、例えば、顔料、染料、耐衝撃改良剤、耐熱剤、酸化劣化防止剤、耐候剤、滑剤、離型剤、可塑剤、流動性改良剤、帯電防止剤などを添加することができる。
【0033】
本発明のポリアリレート樹脂組成物は任意の方法で各種成型品に成形することができる。成形方法は特に制限されず、通常、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法または溶液キャスティング法で加工され、各種成形体、フィルム、シート形状で、好ましく用いられる。
【0034】
また、本発明における難燃性樹脂組成物のシャルピー衝撃値は20kJ/m以上であることが必須である。20kJ/mより小さいと、高度な耐衝撃性が必要とされる用途で用いることができず問題である。
【0035】
また、本発明における難燃性樹脂組成物の荷重たわみ温度(荷重1.8MPa)は180℃以上であることが必須である。180℃より低いと、高度な耐衝撃性が必要とされる用途で用いることができず問題である。
【0036】
本発明の難燃性樹脂組成物は、家電製品、OA機器等のハウジングやエンクロージャー、携帯情報機器等のハウジングやケーシング、自動車内装品、外装品、建築材料等の種々の成形品を形成する材料として有用である。特に、本発明の成形品の成形品は、透明性を有し、耐衝撃性と耐熱性に優れるために、液晶、プラズマディスプレイ、有機EL等の薄型ディスプレー等のディスプレー基板材料、ハウジング材料や、家電や自動車の照明機器のカバー材、ハウジング材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。各種物性値の測定は、以下の方法により実施した。
1.測定方法
(難燃性)
厚み0.8mm、長さ125mm、幅12mmの短冊型成形品について、アンダーライターズ・ラボラトリーズが定めているUL94試験に準拠し、垂直に保持した成形品にバーナーの炎を10秒間2回接炎した後のそれぞれの残炎時間とドリップ性によって難燃性を評価した。表1に示すようなクラスに分類した。
【0038】
【表1】

(シャルピー衝撃値)
ISO準拠の試験片を射出成形機において所定の成形条件で成形し、ISO179に準拠して測定した。
(荷重たわみ温度)
ISO準拠の試験片を射出成形機において所定の成形条件で成形し、ISO75に準拠し、荷重たわみ温度を荷重1.8MPaで測定した。
【0039】
〔実施例1〕
攪拌装置を備えた反応容器中に、二価フェノール成分として1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(以下ビスフェノールAP)60.36kg(208モル)、末端封止剤としてp−tert−ブチルフェノール(PTBP)1.61kg(11モル)、アルカリとして水酸化ナトリウム21.10kg(528モル)、重合触媒としてベンジル−トリ−n−ブチルアンモニウムクロライド(BTBAC)896g、ハイドロサルファイトナトリウム(SHS)302gを仕込み、水1200Lに溶解した(水相)。また、これとは別に、塩化メチレン70Lに、下記式(III)で示すオルガノシロキサン18.95kg(6モル)を溶解した(有機相1)。この有機相1を、先に調製した水相中に強攪拌下で添加し、そのまま15℃で30分間攪拌した。
【0040】
【化4】

さらに、この有機相1とは別に、塩化メチレン630Lに、テレフタル酸クロライドとイソフタル酸クロライドの当量混合物であるフタル酸クロライド(モル比50:50)44.60kg(220モル)を溶解した(有機相2)。この有機相2を、すでに攪拌している水相と有機相1の混合溶液中に強攪拌下で添加し、15℃で2時間重合反応を行った。この後攪拌を停止し、水相と有機相をデカンテーションして分離した。水相を除去した後、純水1200Lと酢酸を添加して反応を停止し、15℃で30分間攪拌した。この有機相を純水で5回洗浄した後に、有機相をヘキサン中に添加してポリマーを沈殿させ、分離・乾燥後、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂(P−1)を得た。得られたオルガノシロキサン共重合ポリアリレート(P−1)を1H−NMRにて、組成分析をおこなったところ、得られた重合比率は仕込み比率と同じであることが確認された。
【0041】
得られたポリアリレート樹脂は二軸押出機(東芝機械製TEM−48SS型)を用いて、シリンダー温度300〜340℃、スクリュー回転300rpm、吐出量100kg/hにて、溶融混練を行い、ストランド状に押し出し、冷却した後、カッティングしてポリアリレート樹脂を得た。それを射出成形機(東芝機械製EC100N型)を用いて、シリンダー温度300〜340℃、金型温度100℃にて、厚み0.8mm、長さ125mm、幅12mmの試験片を作成し、難燃性の評価を行ない、さらにISO準拠の試験片を作成し、シャルピー衝撃試験値および荷重たわみ温度を評価した。その結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

〔実施例2〜4〕
オルガノシロキサンモノマー(III)とビスフェノールAPとの共重合比率を変えた以外は、実施例1と同様にして行った。その結果を表2に示す。
〔比較例1〜4〕
オルガノシロキサンモノマー(III)とビスフェノールAPとの共重合比率を変えた以外は、実施例1と同様にして行った。その結果を表2に示す。
【0043】
実施例1〜3では、本願記載のオルガノシロキサンモノマーと、ビスフェノールAPモノマーを所定の共重合比率で重合したため、十分な難燃性、耐熱性、耐衝撃性を有するポリアリレート樹脂組成物が得られた。
【0044】
比較例1〜4については、共重合比率が所定の範囲を逸脱しているために、所定の性能が発揮できなかった。





















【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価フェノール残基と芳香族ジカルボン酸残基とから構成される難燃性ポリアリレート樹脂組成物であって、二価フェノール成分が、下記一般式(I)で示されるオルガノシロキサンモノマーと、下記式(II)で示されるビスフェノールモノマーからなり、その配合比が、(I)/(II)=7/93〜1/99(モル%)であり、シャルピー衝撃試験値が20kJ/m以上、荷重たわみ温度(荷重1.8MPa)が180℃以上であることを特徴とする難燃性ポリアリレート樹脂組成物。
【化1】

但し、nは10〜100の整数を表す。
【化2】

【請求項2】
請求項1に記載の難燃性ポリアリレート樹脂の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の難燃ポリアリレート樹脂を成形して得られる成形品。


【公開番号】特開2010−59349(P2010−59349A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228452(P2008−228452)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】