説明

難燃性ポリウレタン原料組成物及びそれにより成形される難燃性に優れた発泡成形品

【課題】従来の臭素や塩素等のハロゲン系の難燃剤を使用することがなく、環境調和型の難燃性を用いた難燃性ポリウレタン原料組成物、及びそれにより成形される燃焼時においてドリップ現象がなく高度な難燃性を発揮する発泡成形品を提供する。
【解決手段】ポリウレタン原料に、難燃剤としてカーボンからなる第1の難燃剤と、赤リンと縮合リン酸エステルからなる第2の難燃剤の二元系からなる複合難燃剤を含有させた。難燃剤の各成分の含有量は、ポリウレタン原料中のポリエーテルポリオール液100重量部に対し、高導電性カーボンブラック:0.2〜2.0重量部、膨張黒鉛:7〜15重量部、赤リン:2〜10重量部、縮合リン酸エステル:5〜10重量部であり、また複合難燃剤の合計含有量が15〜40重量部であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の臭素や塩素等のハロゲン系の難燃剤を使用することがなく、環境調和型の難燃性を用いた難燃性ポリウレタン原料組成物、及びそれにより成形される燃焼時においてドリップ現象がなく高度な難燃性を発揮する発泡成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック材料は電気機器、建築、航空機、船舶、車両、自動車、日用品などの分野に広く使用されて日常生活に不可欠となっているが、プラスチック材料は熱に弱く、また燃えやすくて発熱量も高いため火災事故につながるおそれがある。従って、プラスチック材料からなる各種の製品規格においては難燃性や不燃性が義務づけられている。また、これら製品の安全基準は環境変化とともに年々厳しくなってきており、要求される性能も難燃性や不燃性だけでなく、低毒性、低発煙性などの環境に対応できる性能も要求されるようになってきた。
【0003】
一方、前記難燃剤としては、従来から、特許文献1や特許文献2に示されるように、臭素系、リン系、ハロゲン系、メラミン系、アンチモン系のものが知られており、その中でハロゲン系、特に臭素や塩素を含有する有機化合物、またはこれと三酸化アンチモンとの併用が難燃性の向上に優れており多く使用されていた。
しかしながら、ハロゲン系の難燃剤は環境調和の面において問題があるため、最近では実用性を失いつつあり、環境にやさしい新たな難燃剤を用いた難燃性ポリウレタン原料組成物の開発が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−86285公報
【特許文献2】特開平1−74263公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機物の発泡成形体であるポリウレタンフォームは、微細なセル集合体によって構成され、そのセルの壁は数μmレベルと極めて薄いものである。また、各セルの内部には空気が存在しているため、燃焼時において燃え易い構造となっている。
この発泡成形体の燃焼メカニズムは、以下のように分析されている。先ず、火源から発せられる輻射熱により成形体表面が加熱され、内部に熱伝導して高分子が溶融し、低分子化を経て分解する。これにより、可燃性ガスが生成してこのガスが成形体内部に拡散する。更に、可燃性ガスが成形体表面まで到達すると、気相に拡散して着火燃焼し、燃焼を継続させることとなる。
【0006】
そこで、本願発明者はどのような材料が、燃焼時においてドリップ現象がなく高度な難燃性を発揮するのに効果的であるかを調べるなかで、先ず燃焼のメカニズムについて分析した。
燃焼サイクルの中で最も注目したのが可燃性ガスである。つまり、燃焼現象は高分子の分解によって気体となった可燃性ガスが主因である。このことは、対象物が熱分解により可燃性ガスの発生量を抑制できれば高度な難燃性を発揮できるということである。
【0007】
このことから、高度な難燃性を発揮する難燃剤として採用するための第1の条件は、着火温度が高く、熱安定性に優れ、揮発減量が少量であって、そのもの自身が着火しないことである。第2の条件は、断熱物質を形成し、熱安定性に優れることである。第3の条件は、環境を阻害せず、また安全衛生上も問題がないことである。第4の条件は、難燃剤の添加によって粘性が高くなると、成形型内での流動性が悪くなり寸法通りの成形品が得られなくなるので、添加量が少ないことである。第5の条件は、モールド成形における原料の流動性を確保するよう、ウレタン原料と相溶性があることである。
【0008】
本願発明者は、以上の第1〜5の条件を満足し、燃焼時においてドリップ現象がない高度な難燃剤として種々の材料を選択し、かつその配合量につき多くの実験を重ねた結果、全ての条件を満たす材料として、カーボンからなる第1の難燃剤と、同属系の無機化合物及び有機化合物を併用したリンからなる第2の難燃剤の二元系からなる複合難燃剤を用いると高度な難燃性を発揮することを見出した。
より具体的には、高導電性カーボンブラックと膨張黒鉛の同属系の2種のカーボンからなる第1の難燃剤と、赤リンと縮合リン酸エステルの同属系の2種のリンからなる第2の難燃剤の二元系からなる複合難燃剤が、高度な難燃剤として使用できることを見出し、本発明を完成したのである。
また、上記のカーボンとリンの二元系からなる複合難燃剤をウレタン原料に配合添加して得られた発泡成形体の難燃試験を行った結果、燃焼時においてドリップ現象がない高度な難燃性を確保できることも確認した。
【0009】
本発明は、上述の発明者が見出した事実に基づき、従来の臭素や塩素等のハロゲン系の難燃剤を用いずに、環境調和型の二元系からなる複合難燃剤を用いた難燃性ポリウレタン原料組成物及びそれにより成形される難燃性に優れた発泡成形品を提供することを目的として完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、ポリウレタン原料に、難燃剤としてカーボンからなる第1の難燃剤と、赤リンと縮合リン酸エステルからなる第2の難燃剤の二元系からなる複合難燃剤を含有させたことを特徴とする難燃性ポリウレタン原料組成物である。
【0011】
前記カーボンからなる第1の難燃剤は、高導電性カーボンブラックと膨張黒鉛からなるものが好ましく、これを請求項2に係る発明とする。
【0012】
また、難燃剤の各成分の含有量が、ポリウレタン原料中のポリエーテルポリオール液100重量部に対し、高導電性カーボンブラック:0.2〜2.0重量部、膨張黒鉛:7〜15重量部、赤リン:2〜10重量部、縮合リン酸エステル:5〜10重量部であり、また複合難燃剤の合計含有量が15〜40重量部であることが好ましく、これを請求項3に係る発明とする。
【0013】
更に、前記の難燃性ポリウレタン原料組成物を発泡成形して得られる難燃性に優れた発泡成形品を請求項4に係る発明とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、難燃剤としてカーボンからなる第1の難燃剤と、赤リンと縮合リン酸エステルからなる第2の難燃剤の二元系からなる複合難燃剤を含有させたので、少量の難燃剤の添加量で優れた難燃性を発揮し、またハロゲンフリーで環境に調和したやさしいものとすることができる。
【0015】
請求項2に係る発明では、カーボンからなる第1の難燃剤として高導電性カーボンブラックと膨張黒鉛からなるものとしたので、2種のカーボンにより中空状の各セルの空隙を狭めて熱対流を抑制し、燃焼時におけるドリップの防止を図ることができる。
【0016】
請求項3に係る発明では、難燃剤の含有量を所定の範囲のものとしたので、難燃剤の添加量を少なくでき、またウレタン原料との相溶性及び流動性が良好で効率よく成形を行うことができる。
【0017】
請求項4に係る発明では、燃焼時においてドリップ現象がない高度な難燃性を有し、かつ成形型通りの寸法精度の高い製品が得られることとなる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のウレタン原料組成物は、軟質の液状ポリウレタン原料に、難燃剤としてカーボンからなる第1の難燃剤と、赤リンと縮合リン酸エステルからなる第2の難燃剤の二元系からなる複合難燃剤を含有させたものである。また、カーボンからなる第1の難燃剤としては、高導電性カーボンブラックと膨張黒鉛からなるものが好ましい。
これは、高導電性カーボンブラックと膨張黒鉛という同属系のカーボンを併用した第1の難燃剤と、無機リン化合物と有機リン化合物という同属系のリンを併用した第2の難燃剤の二元系からなる複合難燃剤を用いると、前述の第1〜5の全ての条件を満足して高度な難燃性を発揮するとともに、特に、火炎の減少と燃焼時間の抑制に大きな効果を発揮することを確認できたことによる。また、高導電性カーボンブラックとしては、ケッチェンブラックが特に好ましい。
【0019】
高導電性カーボンブラックと膨張黒鉛は、1000℃以上の高温でも着火燃焼することがなく、また耐熱性にも優れている。赤リンと縮合リン酸エステは、脱水炭化作用により固相表面に緻密なチャー(炭化皮膜)が形成されて基質から熱や酸素を遮断し、炎の伝播を阻止する効果が得られる。そして、いずれも従来の臭素や塩素等のハロゲン系の難燃剤に代わり、ハロゲンフリーとして環境に調和できるものである。
【0020】
前記ウレタン原料は、一般的にはポリエーテルポリオール液(以下、A液と称する)とジイソシアネート液(以下、B液と称する)から構成されており、この混合物をウレタン原料と称している。本発明では前記難燃剤をA液に対して添加し、プロペラ撹拌機などにより均一に混合分散して相溶化させたうえ、これにB液を加えて混合し液状のウレタン原料としている。この場合は、優れた相溶性を発揮して高品質のウレタン原料を簡単に製造することができる。A液への難燃剤の相容化を行なうには、常用のプロペラ攪拌機付のタンク容器を用いることができ、減圧可能な容器の場合はより都合がよい。
なお、難燃剤をA液とB液の混合液に加えることや、難燃剤をB液に加えた後にA液を加えることも可能である。
【0021】
難燃剤の各成分の含有量は、ポリウレタン原料中のポリエーテルポリオール液100重量部に対し、高導電性カーボンブラック:0.2〜2.0重量部、膨張黒鉛:7〜15重量部、赤リン:2〜10重量部、縮合リン酸エステル:5〜10重量部の範囲が好ましい。含有量がいずれも下限値より少ない場合は、火炎長が大きくなり、また残炎時間も長くなり、更には、ドリップ現象も見られ所望の難燃性を得ることができない。一方、含有量が上限値より多くても難燃効果は頭打ちであり、含有量としては上限値で十分である。
また複合難燃剤の合計含有量は15〜40重量部の範囲が好ましい。下限値より少ない場合は、十分な難燃性を得ることができず、一方、上限値より多いとウレタン原料中への均一な混合が難しくなるので好ましくない。
【0022】
なお、高導電性カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック等があるが、特にケッチェンブラックが好ましい。このケッチェンブラックは、高い導電性を有して品質も安定しており、他の高導電性カーボンブラックに比べて半分以下の添加量で同等以上の性能を得ることができる。
【0023】
以上のように、難燃剤として高導電性カーボンブラックと膨張黒鉛からなる第1の難燃剤と、赤リンと縮合リン酸エステルからなる第2の難燃剤の二元系からなる複合難燃剤を含有させた場合の難燃作用の理由については明確でないが、以下の理由によるものと解される。
これは酸化反応の場において、酸素とは反応するが、その反応のエンタルピーが著しく低い無機物質が存在すれば、その物自身は燃焼反応に無関係となり単位体積当りの材料としての割合が減少し、酸化反応場での燃焼熱が減少する。更に、カーボンと酸素との反応が起きれば、固相中の酸素濃度の低下を招くこととなる。この作用は、高導電性カーボンブラック(即ち、ケッチェンブラック)が主となる。
【0024】
次に、膨張黒鉛については、急速な温度上昇に伴って体積が著しく膨張し炭化層を形成することで、連通化したセル孔(空隙)を狭めて熱対流を抑制し、更にフレーク形状による基地(マトリックス)強化へ働くことにより、燃焼時におけるドリップ防止となる。
【0025】
赤リンと縮合リン酸エステルは、脱水炭化によって形成された炭化物質(残渣)が、セル孔をポーラス連通状から閉塞状とすることにより、断熱効果を奏して熱の伝播を阻止することとなる。
以上の高導電性カーボンブラックと膨張黒鉛からなる第1の難燃剤と、赤リンと縮合リン酸エステルからなる第2の難燃剤の二元系からなる複合難燃剤の相乗効果により、高度な難燃性を発揮するものと解される。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例について説明する。
表2に使用材料を示し、表3その材料の性状を示す。この材料を表4、5に示す割合でA液と難燃剤を配合し、プロペラ攪拌機によって1000〜1500rpm/minで3分間均一に混合した。次いで、B液をポリエーテルポリオール液100重量部に対し所定量、添加し、1800rpm/minで5秒間混合した。これをポリプレピレン製の型枠容器に投入し、24時間熟成後、発泡成形品を得た。
【0027】
得られた発泡成形品から試験片を採取し、「UL94(20mm垂直燃焼試験)」に準じた燃焼試験を実施した。
「UL94」は、国際規格となっているアメリカの燃焼試験法であり、バーナの筒の上端が試験片の下端から10±1mmになるようにし、試験片の中央に対し炎を垂直に当て、その距離を10±0.5秒間保って、試験片の燃焼及び溶融落下物による脱脂綿の着火の有無を調べる方法である。試験条件は下記の表1に示す通りである。
【0028】
【表1】

【0029】
得られた結果を表4、表5に示す。なお、表4はカーボンからなる第1の難燃剤として膨張黒鉛のみを用いた場合を示し、表5は第1の難燃剤として高導電性カーボンブラック(ケッチェンブラック)と膨張黒鉛を用いた場合を示している。結果は、試験片の着火は認められず、また試験片が溶けて下にある脱脂綿上にドリップ(滴下)する現象も見られず、「UL94」でいう燃焼性クラスの「V−0」に相当する効果があることが確認できた。
なお、表4、表5中の残炎時間は、10秒の接炎後における試験片の残炎状態を測定するものであり、実施例では残炎がないのでゼロ秒に近いが、1秒以下として記載した。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
【表5】

【0034】
次に、一例として自動車用ヘッドレスト用発泡成形品の製造について説明する。
表5の実施例6に示す難燃性ポリウレタン原料組成物を準備した。このウレタン原料を、離型剤(コニシ社製URH−580)を塗布したアルミ製発泡モールド型(580×400×375mm)内へ注入した。なお、このモールド型は、熱風循環式加熱炉において型温45℃に加熱しておく。
注入後の型を熱風循環式加熱炉に装入し、80℃で15分間キュア(硬化)処理して発泡成形した。その後、発泡成形品を型から取り出し、ウレタン発泡樹脂よりなる所定形状の自動車用ヘッドレスト製品を得た。
この製品から試験片を切り出し、前記の表1に示す燃焼試験方法により難燃テストを行った結果、試験片の着火は認められなかった。また、試験片が溶けて下にある脱脂綿上にドリップ(滴下)する現象も見られず、優れた難燃性を発揮することが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン原料に、難燃剤としてカーボンからなる第1の難燃剤と、赤リンと縮合リン酸エステルからなる第2の難燃剤の二元系からなる複合難燃剤を含有させたことを特徴とする難燃性ポリウレタン原料組成物。
【請求項2】
カーボンからなる第1の難燃剤が、高導電性カーボンブラックと膨張黒鉛からなるものである請求項1に記載の難燃性ポリウレタン原料組成物。
【請求項3】
難燃剤の各成分の含有量が、ポリウレタン原料中のポリエーテルポリオール液100重量部に対し、高導電性カーボンブラック:0.2〜2.0重量部、膨張黒鉛:7〜15重量部、赤リン:2〜10重量部、縮合リン酸エステル:5〜10重量部であり、また複合難燃剤の合計含有量が15〜40重量部である請求項2に記載の難燃性ポリウレタン原料組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の難燃性ポリウレタン原料組成物を発泡成形して得られることを特徴とする難燃性に優れた発泡成形品。

【公開番号】特開2012−97169(P2012−97169A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244972(P2010−244972)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(591028751)株式会社豊和化成 (10)
【Fターム(参考)】