説明

難燃性ポリエステルフィルム

【課題】ポリエステルの熱安定性低下を伴うことなく、非ハロゲン系の難燃成分により高い難燃性が付与された難燃性ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】(2−カルボキシエチル)メチルホスフィン酸2−ヒドロキシエチルなどの特定の有機リン化合物を含む共重合ポリエステル層(A)を含む難燃性ポリエステルフィルムであって、該有機リン化合物のリン原子換算の含有量がフィルム重量に対して0.4重量%以上2.5重量%以下の範囲である難燃性ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性を有するポリエステルフィルムに関するものであり、更に詳しくは、非ハロゲン系の難燃成分を用いた、熱安定性に優れる難燃性ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートの二軸延伸フィルムは、優れた機械的性質、耐熱性、耐薬品性を有するため、磁気テープ、強磁性薄膜テープ、写真フィルム、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、金属ラミネート用フィルム、保護用フィルム等の素材として広く用いられている。
【0003】
近年、製造物責任法の施行に伴い、火災に対する安全性を確保するために樹脂の難燃化が強く要望されている。
従来用いられている有機ハロゲン化合物、ハロゲン含有有機リン化合物等のハロゲン系難燃剤は難燃効果は高いものの、成形・加工時にハロゲンが遊離し、腐食性のハロゲン化水素ガスを発生して、成形・加工機器を腐食させる可能性、また作業環境を悪化させる可能性が指摘されている。また前記難燃剤は、火災などの燃焼に際してハロゲン化水素等のガスを発生する可能性が指摘されている。そのため、近年ハロゲン系難燃剤に替わり、ハロゲンを含まない難燃剤を用いることが要望されている。
【0004】
ハロゲンを含まない難燃剤による難燃化方法の1つとして種々のリン系化合物が検討されているが、例えばリン酸エステル化合物を用いた難燃化方法は、多量に添加すると耐ブリードアウト性が低下することがあり、またポリエステルの機械特性低下を伴うことがあった。
また、ポリエステルと共重合可能なリン系化合物として、例えば特許文献1、特許文献2にはポリエステルにカルボキシホスフィン酸を共重合する方法が開示されている。しかしながらこの難燃化手法の場合、難燃性は発現するものの、ポリエステルの熱安定性低下を伴うことがある。
このように、ポリエステルフィルムの熱安定性低下を伴うことなく、高い難燃性が付与された非ハロゲン系難燃性ポリエステルフィルムが求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭53−13479号公報
【特許文献2】特開2007−9111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、ポリエステルの熱安定性低下を伴うことなく、非ハロゲン系の難燃成分により高い難燃性が付与された難燃性ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の有機リン化合物をポリエステルに共重合することにより、ポリエステルの熱安定性を低下させることなく、高い難燃性を有するフィルムを提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明の目的は、下記式(I)で表される有機リン化合物を含む共重合ポリエステル層(A)を含む難燃性ポリエステルフィルムであって、該有機リン化合物のリン原子換算の含有量がフィルム重量に対して0.4重量%以上2.5重量%以下の範囲である難燃性ポリエステルフィルム。によって達成される。
【0009】
【化1】

(上式(I)中、Rは炭素数1〜18のモノヒドロキシアルキル基、Rは炭素数1〜18のアルキル基またはアリール基、Rは直鎖状もしくは環状のアルキレン基またはアリーレン基、Rは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基または水素原子をそれぞれ表わす)
【0010】
また本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、ポリエステル層(A)を構成するポリエステルの主たる成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレンジカルボキシレートであること、層(A)の片面にさらに共重合ポリエステル層(B)が積層され、該層(B)を構成するポリエステルが共重合成分12モル%以上30モル%以下の共重合ポリエチレンテレフタレートであること、フレキシブルフラットケーブルまたはフレキシブルプリント回路基板の基材フィルムに用いられること、の少なくともいずれか一つを具備するものを包含する。
さらに本発明によれば、本発明の難燃性ポリエステルフィルムを基板フィルムとして含むフレキシブルフラットケーブルも包含される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、非ハロゲン系の難燃成分を用いながら、ポリエステルの熱安定性を損なうことなく高い難燃性を有することから、難燃性が求められるフレキシブルフラットケーブルやフレキシブルプリント回路基板など種々の用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
<ポリエステル層(A)>
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、下記式(I)で表される有機リン化合物を含む共重合ポリエステル層(A)を含む難燃性ポリエステルフィルムであり、該有機リン化合物のリン原子換算の含有量がフィルム重量に対して0.4重量%以上2.5重量%以下の範囲である。
【0013】
【化2】

(上式(I)中、Rは炭素数1〜18のモノヒドロキシアルキル基、Rは炭素数1〜18のアルキル基またはアリール基、Rは直鎖状もしくは環状のアルキレン基またはアリーレン基、Rは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基または水素原子をそれぞれ表わす)
【0014】
(有機リン化合物)
有機リン化合物として式(I)で表される有機リン化合物を用いることにより、ポリエステルの熱安定性を損なうことなく高い難燃性が得られるため、ポリエステルの優れた耐熱性や耐熱寸法安定性などの低下を防ぐことができる。
ポリエステルフィルムに対して高い難燃性が得られるカルボキシホスフィン酸として、例えば(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、(3−カルボキシプロピル)フェニルホスフィン酸といったリン化合物が従来より提案されているが、かかる難燃成分は水酸基がリン原子と結合しているのに対し、本発明の有機リン化合物はグリコールタイプの基で置換されおり、かかるリン化合物をモノマー成分として共重合化されてポリエステル中に存在することによって、耐熱安定性が特異的に高まるものと考えられる。
【0015】
式(I)で表わされる有機リン化合物の中でも、Rが炭素数1〜5のモノヒドロキシアルキル基であり、Rが水素原子である有機リン化合物が好ましく、さらにRがメチル、エチル、プロピル、ブチルまたはフェニルであり、Rがメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンである有機リン化合物が好ましく用いられる。
これらの中でも特に好ましい化合物として、(2−カルボキシエチル)メチルホスフィン酸2−ヒドロキシエチル、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸2−ヒドロキシエチル、および(2−カルボキシエチル)エチルホスフィン酸2−ヒドロキシエチルなどが挙げられ、上述の有機リン化合物を2種以上併用してもよい。
【0016】
かかる有機リン化合物をモノマー成分として用い、ポリエステルに共重合化して共重合ポリエステルとする。該有機リン化合物のリン原子換算の含有量は、フィルム重量に対して0.4重量%以上2.5重量%以下、好ましくは0.5重量%以上2.0重量%以下、さらに好ましくは0.6重量%以上1.5重量%以下である。有機リン化合物のリン原子換算での含有量が下限値に満たない場合、十分な難燃性能が発現しない。また、有機リン化合物のリン原子換算での含有量が上限値を超える場合にはポリエステルの耐熱性が低下する。
【0017】
(ポリエステル)
本発明の共重合ポリエステル層(A)を構成するポリエステルは、下記式(I)で表される有機リン化合物を含む共重合ポリエステルである。
【0018】
【化3】

(上式(I)中、Rは炭素数1〜18のモノヒドロキシアルキル基、Rは炭素数1〜18のアルキル基またはアリール基、Rは直鎖状もしくは環状のアルキレン基またはアリーレン基、Rは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基または水素原子をそれぞれ表わす)
【0019】
かかる共重合ポリエステルの主たる成分は、アルキレンテレフタレートまたはアルキレンナフタレンジカルボキシレートが好ましく、これらの中でもエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレンジカルボキシレートが好ましい。また、エチレンナフタレンジカルボキシレートはさらにエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。
【0020】
層Aを形成する共重合ポリエステルは、ポリエステルの全繰り返し単位に対して10モル%以下の範囲内で前記有機リン化合物以外の共重合成分をさらに有することができる。かかる共重合成分として、例えばアジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、などのジカルボン酸の中から主成分以外のものを用いることができる。また、p−オキシ安息香酸などのオキシカルボン酸、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコールなどのジオール成分を用いてもよい。
【0021】
これらの共重合成分は、1種または2種以上用いてもよく、これらの共重合成分の中で、好ましい酸成分としては、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、p−オキシ安息香酸であり、好ましいジオール成分としては、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物である。
【0022】
本発明のポリエステルは、従来公知の方法、例えばジカルボン酸とグリコールの反応で直接低重合度ポリエステルを得る方法や、ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとを従来公知のエステル交換触媒を用いて反応させた後、重合触媒の存在下で重合反応を行う方法で得ることができる。重合触媒としては、アンチモン系化合物、ゲルマニウム系化合物、チタン系化合物を用いることができる。
前記有機リン化合物は、ポリエステルの製造時の任意の時期に添加されるが、より好ましい添加時期はエステル化反応あるいはエステル交換反応により低重合体を生成する第1段階の反応の終了後から、得られた低重合体を重縮合反応させる第2段階の開始までの間である。
【0023】
エステル交換反応を経由して重合を行う場合は、重縮合反応前にエステル交換触媒を失活させる目的で、通常トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、正リン酸等のリン化合物が添加されるが、それらは例えばリン元素として100ppm前後のごく少量であり、難燃性能を付与する目的で添加されるものではない。また、添加時期によっては前記エステル交換反応抑制剤の代わりに本発明の有機リン化合物を用いてもよい。
【0024】
本発明におけるポリエステルの固有粘度は、o−クロロフェノール中、35℃において、0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40〜0.90dl/gであることがさらに好ましい。固有粘度が0.40dl/g未満では工程切断が多発することがある。また固有粘度が0.9dl/gより高いと溶融粘度が高いため溶融押出が困難であるうえ、重合時間に長時間要する。
【0025】
(その他樹脂成分)
本発明の難燃性ポリステルフィルムを構成する共重合ポリエステル層(A)には、上記のポリエステル以外の樹脂成分が更に含まれていてもよい。例えば上記ポリエステル以外のポリエステル樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテルおよびフェノキシ樹脂が挙げられる。かかる樹脂は、層(A)の重量に対して10重量%以下の範囲内で用いることが好ましい。かかる樹脂を上限を超えて用いた場合、ポリエステルが本来有する物理的特性を損なうことがある。
【0026】
<共重合ポリエステル層(B)>
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、層(A)の片面にさらに共重合ポリエステル層(B)が積層された積層フィルムであってもよい。層(B)を有する場合は、層(B)を構成するポリエステルが共重合成分12モル%以上30モル%以下の共重合ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。また、共重合量はより好ましくは15モル%以上27モル%以下、さらに好ましく18モル%以上24モル%以下である。共重合成分として層(A)に記載されている有機リン化合物以外の共重合成分のいずれかを適宜用いることができ、特にイソフタル酸成分が好ましい。
【0027】
かかる共重合ポリエステル層(B)を層(A)に積層することにより、融点の低い層(B)をいわゆるヒートシール層として機能させることができる。具体的には、本発明の難燃性ポリエステルフィルムの層(B)面を貼り合せる相手材と対向させ、層(B)の融点以上層(A)の融点より低い温度で熱プレス処理を施すことにより、溶融状態の層(B)を相手材と熱融着させて接着することができ、いわゆるヒートシール層として機能させることができる。
【0028】
<他添加剤>
本発明の難燃性ポリステルフィルムには、フィルムの取り扱い性を向上させるため、発明の効果を損なわない範囲で不活性粒子などが添加されていてもよい。かかる不活性粒子は、積層構成の場合、層(A)、層(B)のいずれの層に配合されてもよい。不活性粒子としては、例えば、周期律表第IIA、第IIB 、第IVA 、第IVBの元素を含有する無機粒子(例えばカオリン、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素など)、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂粒子などの耐熱性の高いポリマー粒子が挙げられる。
【0029】
不活性粒子を含有させる場合、不活性粒子の平均粒径は、0.001〜5μmの範囲が好ましく、層重量に対して0.01〜10重量%の範囲で含有されることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.05〜3重量%である。
本発明の難燃性ポリステルフィルムには、さらに必要に応じて熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤などの添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。これら添加剤はいずれの層に配合されても構わない。
【0030】
<フィルム厚み>
難燃性ポリエステルフィルムのフィルム厚みは5〜300μmであることが好ましく、より好ましくは8〜250μm、更に好ましくは10〜200μmの範囲である。
【0031】
<塗膜層>
本発明において、難燃性ポリエステルフィルム表面に各種の機能を付与するため、少なくとも一方の面に塗膜層が形成されてもよい。塗膜層を構成するバインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂の各種樹脂を使用し得る。たとえば、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、およびポリオレフィン、ならびにこれらの共重合体やブレンド物が挙げられる。中でもポリエステル、ポリイミド、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリウレタンが好ましく例示される。かかるバインダー樹脂は、更に架橋剤を加えて架橋されたものでも良い。また塗膜層には、構成成分としてさらにポリアルキレンオキサイドなどの界面活性剤や不活性粒子などを含んでいてもよい。
【0032】
塗膜層はコーティングによって形成される方法が好ましく、コーティング塗剤の溶媒として、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトンなどの有機溶媒および混合物が使用され、また水を溶媒としてもよい。ポリエステルフィルムの少なくとも片面に前記成分からなる塗膜を形成させる方法として、例えば延伸可能なポリエステルフィルムに塗膜形成成分を含む水溶液を塗布した後、乾燥、延伸し必要に応じて熱処理することにより積層することができる。
【0033】
上記の延伸可能なポリエステルフィルムとは、未延伸ポリエステルフィルム、一軸延伸ポリエステルフィルムまたは二軸延伸ポリエステルフィルムであり、これらの中でもフィルムの押出方向(縦方向または長手方向)に一軸延伸した縦延伸ポリエステルフィルムが特に好ましい。
塗布方法としては公知の任意の塗布方法が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法およびカーテンコート法などを単独または組み合わせて用いることができる。
【0034】
<その他の層>
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、他の機能を付与する目的で片面または両面にさらに他層を積層した積層体としてもよい。ここでいう他の層とは、例えば透明なポリエステルフィルム、金属箔、ハードコート層が挙げられる。
【0035】
<熱安定性>
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、特定の有機リン化合物を用いることにより、カルボキシホスフィン酸などを共重合したポリエステルフィルムに比べて熱安定性に優れる。具体的には170℃で100時間加熱した後の引張強度保持率が80%以上であることが好ましい。
【0036】
<フィルム製造方法>
本発明のポリエステルフィルムを製造する方法として、熱可塑性ポリエステルを溶融押出し、固化成形したシートを少なくとも一方向に延伸するフィルム製造方法が挙げられ、二方向に延伸した二軸配向フィルムであることが好ましい。
本発明のポリエステルフィルムは、公知の製膜方法を用いて製造することができ、例えば十分に乾燥させたポリエステルを融点〜(融点+70)℃の温度で溶融押出し、キャスティンクドラム上で急冷して未延伸フィルムとし、次いで該未延伸フィルムを逐次または同時二軸延伸し、熱固定する方法で製造することができる。逐次延伸法により製膜する場合、未延伸フィルムを縦方向に60〜100℃で2.3〜5.5倍、より好ましくは2.5〜5.0倍の範囲で延伸し、次いでステンターにて横方向に80〜130℃で2.3〜5.0倍、より好ましくは2.5〜4.8倍の範囲で延伸する方法が挙げられる。
【0037】
熱固定は、130〜260℃、より好ましくは150〜240℃の温度で緊張下又は制限収縮下で行うのが好ましく、熱固定時間は1〜1000秒が好ましい。また同時二軸延伸の場合、上記の延伸温度、延伸倍率、熱固定温度等を適用することができる。また、熱固定後に弛緩処理を行ってもよい。
また、共重合ポリエステル層(B)を積層する場合、共重合ポリエステル層(A)と異なる押出機に供給し、融点〜(融点+70)℃の温度で溶融し、両層用の溶融樹脂をダイ内部で積層する方法、例えばマルチマニホールドダイを用いた同時積層押出法により、積層された未延伸フィルムを得る方法が挙げられる。その後の延伸方法については上述の方法を用いることができる。
【0038】
<用途>
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、難燃性と耐熱性が求められる用途に好適に用いることができ、例えばフレキシブルフラットケーブルやフレキシブルプリント回路基板などといった用途が例示される。また、これら用途以外の金属層と貼り合せて用いられる用途にも用いることができる。
【0039】
(フレキシブルフラットケーブル)
本発明の難燃性ポリエステルフィルムはフレキシブルフラットケーブルの被覆材として使用することができる。フレキシブルフラットケーブルは、導電体が電気絶縁性被覆材でサンドイッチ状に被覆されたフラットな形状のケーブルである。
本発明の難燃性ポリエステルフィルムを用いてフレキシブルフラットケーブルを作成する場合、以下の2つの方法が好ましく例示される。
【0040】
1番目の方法として、本発明の難燃性ポリエステルフィルム上に接着剤を塗布・乾燥して接着層を形成し、この接着フィルム2枚を用いて接着層同士を対向させ、その間に複数本の導電体を間隔をあけて平行に配列し、プレスして接着させることによりフレキシブルフラットケーブルを作成することができる。
【0041】
2番目の方法として、本発明における層(B)を積層した難燃性ポリエステルフィルムを2枚用いて層(B)同士を対向させ、その間に複数本の導電体を並列配置して挟みこみ、その後層(B)の融点以上、層(A)の融点未満の温度範囲で層(B)を溶融させてプレスし、熱融着させることにより難燃性のフレキシブルフラットケーブルを作成することができる。
【0042】
導電体としては、フレキシブルフラットケーブルに使用される通常の導電体を使用でき、例えば銅、メッキされた銅、銀などが挙げられる。導電体は箔状や平角状であり、所定の間隔をもって並列に配置される。
かかる用途に本発明の難燃性ポリエステルフィルムを用いることにより、フレキシブルフラットケーブルを作成する過程に高温加工が含まれていてもポリエステルフィルムの熱安定性が損なわれることがなく、ポリエステル本来の耐熱性を備えるフレキシブルフラットケーブルが得られる。またフレキシブルフラットケーブルが高温下で使用されるときに、ポリエステル本来の耐熱性が維持され、しかもポリエステルフィルムとしての難燃性に優れるだけでなく、フレキシブルフラットケーブルとして用いたときも高い難燃性を有する。
【0043】
(フレキシブルプリント回路基板)
本発明の難燃性ポリエステルフィルムはフレキシブルプリント回路基板用にも使用できる。
かかる用途に用いる場合、難燃性ポリエステルフィルムの一方の面に金属箔が積層され、フレキシブルプリント回路基板として用いられることが好ましい。本発明において用いられる金属箔としては銅箔が例示される。金属箔の接合手段や形状の具体的手段としては特に制限はなく、例えば金属箔を難燃性ポリエステルフィルムに貼り合せた後、金属箔をパターンエッチングするいわゆるサブトラクティブ法、難燃ポリエステルフィルム上に銅などをパターン状にメッキするアディティブ法、パターン状に打ち抜いた金属箔を難燃性ポリエステルフィルムに貼り合せるスタンピングホイルなどを利用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0045】
(1)ポリエステル成分の種類および含有量
H−NMR測定、13C−NMR測定により、ポリエステルの成分および共重合成分および各成分量を特定した。
【0046】
(2)リン成分の種類
NMRおよびEPMAを用いてリン成分の種類を特定した。
【0047】
(3)リン原子の含有量
得られたフィルムのリン原子含有量を蛍光X線の発光強度より算出した。
【0048】
(4)燃焼性
フィルムサンプルをUL−94VTM法に準拠して評価した。サンプルを20cm×5cmにカットし、23±2℃、50±5%RH中で48時間放置し、その後、試料下端をバーナーから10mm上方に離し垂直に保持した。該試料の下端を内径9.5mm、炎長20mmのブンゼンバーナーを加熱源とし、3秒間接炎した。VTM−0,VTM−1,VTM−2の評価基準に沿って難燃性を評価し、n=5の測定回数のうち、同じランクになった数の最も多いランクとした。
【0049】
(5)耐熱安定性
200mm×10mmの短冊状のフィルムを170℃のオーブン内にステンレス製のクリップで吊り下げる。100時間経過後にオーブンからフィルムを取り出し、ORIENTEC社製テンシロンUTM−4−100型を用いてチャック間距離100mm、引張速度100mm/secで引張応力を測定し、下記式に従って100時間経過時の強度保持率を算出した。測定は5回行い、その平均値より下記基準で耐熱安定性を判定した。
強度保持率(%)=(100時間経過時の引張応力/初期の引張応力)×100
○: 強度保持率 80%以上100%以下
△: 強度保持率 60%以上80% 未満
×: 強度保持率 0%以上60%未満
【0050】
(6)フラットケーブルの燃焼性
フィルムの片面にホットメルト接着剤(日本マタイ株式会社製、製品名「エルファンPH」)を約30μmの厚みとなるよう塗布したものを作成し、接着剤を塗布した面に、幅3mmにカットした35μm厚みの銅箔を並べて配置し、銅箔を挟んでヒートシール層が対向するよう2枚のフィルムを貼り合わせ、熱融着させてフラットケーブルサンプルを作製した。
また共重合ポリエステル層(B)を有するフィルムについては、2枚のフィルムの層Bを対向させ、フィルムの間に幅3mmにカットした35μm厚みの銅箔を並べて配置して熱融着した。
いずれの熱融着条件も、温度140℃、圧力は2.8kgf/cm、熱融着時間は2secであった。
作製したフラットケーブルサンプルをUL−94V法に準拠して評価した。サンプルを13mm×125mmにカットし、50±5%RH中で48時間放置し、その後、試料下端をバーナーから10mm上方に離し垂直に保持した。該試料の下端を内径9.5mm、炎長19mmのブンゼンバーナーを加熱源とし、10秒間接炎した。それぞれ5点ずつ評価し、離炎後の自己消火性を評価した。
○: 5点の測定すべて、離炎後10秒以内に消火
△: 5点の測定すべて、離炎後10秒を超えて燃えるが消火する
×: 5点の測定のうち、離炎後10秒を超えて燃えるが消火するものとサンプルが最後まで燃えるものとが混在する。
【0051】
[実施例1]
層(A)用に、テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03重量部、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.4重量%含有するように添加して、常法に従ってエステル交換反応をさせた。滑剤はフィルム重量に対する配合量を示す。ついで、(2−カルボキシエチル)メチルホスフィン酸2−ヒドロキシエチルをリン原子含有量で0.5重量%になるよう添加し、三酸化アンチモン0.03重量部を添加して、引き続き高温高真空下で常法にて重縮合反応を行い、固有粘度0.67dl/gのポリエステルを得た。得られたポリエステルを170℃ドライヤーで3時間乾燥後、押出機に投入し、260℃で溶融してダイスリットより押出した後、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
この未延伸フィルムを100℃で縦方向(連続製膜方向)に3.2倍延伸し、その後、130℃で横方向(幅方向)に3.6倍に逐次二軸延伸し、さらに230℃で熱固定処理し、さらに200℃で横方向に1%の弛緩後、均一に除冷して室温まで冷やし、50μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0052】
[実施例2]
(2−カルボキシエチル)メチルホスフィン酸2−ヒドロキシエチルをリン原子含有量で1.0重量%に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0053】
[実施例3]
ポリエステル層(A)として実施例1と同じ組成物を用いて押出機に投入し、260℃で溶融混練した。また、ポリエステル層(B)として、イソフタル酸を18mol%共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレートを160℃ドライヤーで4時間乾燥後、別の押出機に投入し、270℃で溶融混練した。
それぞれ溶融した状態で2層に積層し(厚み比率 層(A):層(B)=4:1)、かかる積層構造を維持した状態でダイスリットより押出した後、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて2つの層からなる未延伸フィルムを作成した。
その後、実施例1と同様の製膜条件で製膜を行い、50μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0054】
[実施例4]
ポリエステル層(A)として実施例2と同じ組成物に変更した以外は実施例3と同様の操作を行い、75μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0055】
[比較例1]
(2−カルボキシエチル)メチルホスフィン酸2−ヒドロキシエチルをリン原子含有量で0.3重量%に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0056】
[比較例2]
層(A)用に、テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03重量部、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.4重量%含有するように添加して、常法に従ってエステル交換反応をさせた。滑剤はフィルム重量に対する配合量を示す。ついで、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸をリン原子含有量で0.4重量%になるよう添加し、三酸化アンチモン0.025重量部を添加して、引き続き高温高真空下で常法にて重縮合反応を行い、固有粘度0.82dl/gのポリエステルを得た。このポリエステルを用いて実施例1と同様の操作を行い、50μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本発明の有機リン化合物に代えてカルボキシホスフィン酸を用いた場合は、高い難燃性が得られるものの、耐熱安定性が十分ではなかった。
【0057】
[比較例3]
(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸をリン原子含有量で0.7重量%に変更した以外は比較例2と同様の操作を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本発明の有機リン化合物に代えてカルボキシホスフィン酸を用いた場合は、高い難燃性が得られるものの、耐熱安定性が十分ではなかった。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、非ハロゲン系の難燃成分を用いながら、ポリエステルの熱安定性を損なうことなく高い難燃性を有することから、難燃性が求められるフレキシブルフラットケーブルやフレキシブルプリント回路基板など種々の用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される有機リン化合物を含む共重合ポリエステル層(A)を含む難燃性ポリエステルフィルムであって、該有機リン化合物のリン原子換算の含有量がフィルム重量に対して0.4重量%以上2.5重量%以下の範囲であることを特徴とする難燃性ポリエステルフィルム。
【化1】

(上式(I)中、Rは炭素数1〜18のモノヒドロキシアルキル基、Rは炭素数1〜18のアルキル基またはアリール基、Rは直鎖状もしくは環状のアルキレン基またはアリーレン基、Rは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基または水素原子をそれぞれ表わす)
【請求項2】
ポリエステル層(A)を構成するポリエステルの主たる成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレンジカルボキシレートである請求項1に記載の難燃性ポリエステルフィルム。
【請求項3】
層(A)の片面にさらに共重合ポリエステル層(B)が積層され、該層(B)を構成するポリエステルが共重合成分12モル%以上30モル%以下の共重合ポリエチレンテレフタレートである請求項1または2に記載の難燃性ポリエステルフィルム。
【請求項4】
フレキシブルフラットケーブルまたはフレキシブルプリント回路基板の基材フィルムに用いられる請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性ポリエステルフィルム。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性ポリエステルフィルムを基板フィルムとして含むフレキシブルフラットケーブル。

【公開番号】特開2012−214658(P2012−214658A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81891(P2011−81891)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】