説明

難燃性ポリエステル樹脂及び難燃性ポリエステル短繊維

【課題】低融点でありながら結晶性に優れ、かつ難燃性も有し、生産性よく得ることができる難燃性ポリエステル樹脂、また、バインダー繊維として用いると、熱接着させる際には低い温度で加工することができ、寸法安定性よく地合、柔軟性、機械的特性、難燃性に優れた不織構造物等の製品を得ることができる難燃性ポリエステル短繊維を提供する。
【解決手段】テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、リン原子の含有量が2000〜15000ppmとなるようにリン化合物が共重合されており、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、かつ融点(TmA)が100〜150℃、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足することを特徴とする難燃性ポリエステル樹脂。b/a≧0.05(mW/mg・℃)・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低融点でありながら結晶性に優れ、かつ難燃性も有するポリエステル樹脂であり、生産性よく得ることができる難燃性ポリエステル樹脂に関するものである。また、繊維表面の少なくとも一部をこの難燃性ポリエステル樹脂が占めるように配した繊維であり、操業性よく得ることができ、特にバインダー繊維として用いることが好適な熱接着性を有する難燃性ポリエステル短繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエステル系樹脂において低融点化したものの要求が高く、繊維化してバインダー繊維として用いたり、接着剤等に用いられている。このような用途には、一般に共重合ポリエステルが用いられており、例えば、特許文献1にはバインダー繊維に好適なポリマーとして、ポリマー組成がいくつか提案されている。
【0003】
しかしながら、これらの共重合ポリエステルは、明確な結晶融点を示さないものが多く、通常90〜200℃で軟化する。明確な結晶融点を示さないポリマーを用いて繊維を製造する場合、紡糸、延伸、熱処理工程において繊維の融解、繊維同士の膠着が生じやすく、また、それぞれの製造工程において装置への繊維の溶着も生じやすく、操業性に劣るものであった。
【0004】
そして、このような共重合ポリエステルを用いた繊維においては、繊維の溶着等を防ぐために、延伸・熱処理工程を低温で行うこととなり、得られる繊維は熱収縮率が高く、熱接着時の収縮が大きいものとなる。そして、このような繊維をバインダー繊維として使用した製品は、寸法安定性が悪く、また、高温雰囲気下で使用した場合、接着強力が低下して変形するという問題が生じていた。
【0005】
そこで、上記の問題を解決するには、共重合ポリエステルは明確な結晶融点を示すことが望ましい。特許文献2には、酸成分が芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ラクトンからなり、ジオール成分が脂肪族ジオール成分からなり、結晶性が良好なポリエステルも提案されている。
【0006】
そして、この結晶性が良好なポリエステルを鞘部に配し、ポリエチレンテレフタレートを芯部に配した芯鞘型複合繊維も提案されている(特許文献3)。
【0007】
この複合繊維は、鞘部の共重合体は結晶性であり明確な融点を示すため、繊維を得る際の延伸・熱処理工程を高温で行うことができ、熱収縮率の低い繊維を得ることができる。このため、加熱接着処理の際に収縮することがなく寸法安定性に優れ、また、高温雰囲気下で使用した際の耐熱性にも優れた不織構造体を得ることができる。しかしながら、この共重合ポリエステルは融点が150〜200℃の範囲のものであり、まだ低融点領域であるとはいえず、熱接着させる際には加工温度を高くする必要があり、コスト的にも不利であった。
【0008】
また、自動車用内装材やインテリア用途等においては、バインダー繊維を用いて得られた繊維製品が難燃性を有していることも要望されており、繊維製品に良好な難燃性を付与することができるバインダー繊維が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−34327号公報
【特許文献2】特開平10−298271号公報
【特許文献3】特開2006−118066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであって、低融点でありながら結晶性に優れ、かつ難燃性も有し、生産性よく得ることができる難燃性ポリエステル樹脂を提供することを技術的な課題とするものである。また、通常の紡糸延伸装置で操業性よく生産することができ、特にバインダー繊維として用いると、熱接着させる際には低い温度で加工することができ、寸法安定性よく地合、柔軟性、機械的特性、難燃性に優れた不織構造物等の製品を得ることができる難燃性ポリエステル短繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、次の(1)、(2)を要旨とするものである。
(1)テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、リン原子の含有量が2000〜15000ppmとなるようにリン化合物が共重合されており、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、かつ融点(TmA)が100〜150℃、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足することを特徴とする難燃性ポリエステル樹脂。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・(1)
なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
(2)(1)記載の難燃性ポリエステル樹脂が繊維表面の少なくとも一部を占めるように配され、繊維長が1〜100mmであることを特徴とする難燃性ポリエステル短繊維。
【発明の効果】
【0012】
本発明の難燃性ポリエステル樹脂は、低融点で結晶性に優れているため、操業性よく生産することができ、また難燃性にも優れるため、難燃性を要求されるバインダー繊維をはじめ、各種の接着用途に好適に使用することができる。
また、本発明の難燃性ポリエステル短繊維は、繊維表面の少なくとも一部を本発明のポリエステル樹脂が占めるように配したものであるため、紡糸工程においては単糸間の溶着がなく、延伸、熱処理工程においては高温で熱処理を行うことができるので、乾熱収縮率の小さいものとすることができる。そして、本発明の難燃性ポリエステル短繊維をバインダー繊維として用いると、熱接着処理時に低い温度でポリエステル樹脂を溶融させて接着成分とすることができ、コスト的に有利であり、また、熱接着性にも優れている。このように、本発明の難燃性ポリエステル短繊維をバインダー繊維として使用することにより、寸法安定性よく各種の用途に用いることができる不織布等の製品を得ることが可能となる。
さらには、本発明の難燃性ポリエステル短繊維は、本発明のポリエステル樹脂中にリン化合物が共重合されているため、熱接着処理により溶融すると、難燃性を有する接着成分となり、得られる不織布等の製品に良好な難燃性を付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のポリエステル樹脂におけるDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の難燃性ポリエステル樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、リン化合物が共重合されており、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、かつ融点(TmA)が100〜150℃、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足するものである。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・(1)
【0015】
ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸を主成分とするものであり、テレフタル酸(以下、TPAとする)は60モル%以上、中でも80モル%以上であることが好ましい。TPAが60モル%未満であると、ポリマーの融点が本発明の範囲外のものとなったり、結晶性が低下しやすくなるため好ましくない。
【0016】
なお、TPA以外の共重合成分としては、その効果を損なわない範囲であれば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フタル酸、イソフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0017】
ジオール成分としては、1,6−ヘキサンジオール(以下、HDとする)が50モル%以上であり、他の成分としてはエチレングリコール(以下、EGとする)や1,4−ブタンジオール(以下、BDとする)を用いることが好ましい。ジオール成分において、HDは50モル%以上であり、中でも60〜95モル%であることが好ましい。HDが50モル%未満の場合、融点が150℃を超えるものとなる。
【0018】
ジオール成分として、HDとともにEGやBDを用いる際には、EGやBDをジオール成分において、5〜50モル%とすることが好ましく、中でも5〜40モル%とすることが好ましい。
【0019】
さらに、ジオール成分には、HD、EGやBD以外の他の共重合成分として、その特性を損なわない範囲で、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどに例示される芳香族グリコールを用いることができる。
【0020】
そして、本発明の難燃性ポリエステル樹脂は、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有するものであり、中でも0.5〜3.0質量%含有することが好ましい。
【0021】
本発明の難燃性ポリエステル樹脂は、上記のような共重合組成であることにより、結晶性を有しているものであるが、結晶核剤を含有することによって降温時の結晶化速度を向上させることができ、後述する(1)式を満足することができるものとなる。そして、このポリエステル樹脂を用いて繊維を得る場合、溶融紡糸工程においては単糸間の溶着を生じることなく、延伸、熱処理工程においては高温で熱処理することが可能となるため、乾熱収縮率の低い繊維とすることができる。
【0022】
結晶核剤の含有量が0.01質量%未満であると、降温時の結晶化速度を向上させることができず、後述する(1)式を満足することができない。一方、5.0質量%を超えると、結晶核剤の含有量が多くなりすぎ、紡糸、延伸時の操業性を悪化させることとなる。また、操業性が悪化することで糸質のバラツキが大きくなり、繊維の乾熱収縮率も高くなる。
【0023】
結晶核剤としては、無機系微粒子やポリオレフィン、硫酸塩等を使用することが好ましい。
【0024】
無機系微粒子としては、中でもタルクなどの珪素酸化物を主成分としたものが好ましく、平均粒径3.0μm以下もしくは比表面積15m/g以上の無機系微粒子を用いることが好ましい。上記平均粒径もしくは比表面積を満足していない場合、結晶核としての機能に乏しく、ポリエステル樹脂は後述する(1)式を満足することが困難となりやすい。
【0025】
また、結晶核剤として含有させるポリオレフィンは、反応系内で溶融するため、形状については特に限定するものではなく、例えば粒径2mm程度のチップ状のものや、粒径数μmのワックス状のものであってもよい。
【0026】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体などを挙げることができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。なお、ポリオレフィンが炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタチック重合体であってもよい。
【0027】
結晶核剤として含有させる硫酸塩は、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができ、中でも結晶核剤としての効果の点から、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムが好ましい。
【0028】
さらに、本発明の難燃性ポリエステル樹脂は、リン化合物が共重合されているものである。ポリエステル樹脂中のリン原子の含有量が2000〜15000ppm、好ましくは4000〜10000ppmとなるよう共重合されていることが必要である。
【0029】
リン化合物の共重合量が、リン原子の含有量として2000ppm未満になると、十分な難燃性能が得られない。一方、15000ppmを超えると、結晶性が低下すると同時にポリエステルの重合性が悪くなるため、重合度を十分に上げることが困難となる。その結果、紡糸性が悪くなったり、繊維としたときの強度等が不足するので好ましくない。
【0030】
リン化合物としては、難燃性を有していれば特に限定されるものではないが、好ましくは下記構造式(1)で表される有機リン化合物が好ましく、具体的には下記構造式(a)〜(c)で示される有機リン化合物が好ましい。
【0031】
【化1】

【0032】
【化2】

【0033】
これらのなかでも、有機リン化合物の安定性、リン原子含有率の高さ、繊維製造工程での有機リン化合物の揮発、飛散の少なさ、繊維物性への影響等を総合的に判断すると、式(a)で示される化合物である、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドのイタコン酸付加体 (以下、HCA-IAと略す)が好ましい。その他にも、ホスホラン、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジフェニル、(2−カルボキシルエチル)メチルホスフィン酸、(2−カルボキシルエチル)フェニルホスフィン酸、(2−メトキシカルボキシルエチル)フェニルホスフィン酸メチル、(4−メトキシカルボニルフェニル)フェニルホスフィン酸メチル、〔2−(β−ヒドロキシエトキシカルボニル) エチル〕メチルホスフィン酸のエチレングリコールエステル等が挙げられる。
【0034】
上記のようなリン化合物をポリエステルに共重合させる方法としては、ポリエステルを製造する際にリン化合物をそのまま反応系に添加して反応させる方法が工業的に好ましいが、リン化合物をエチレングリコール、メタノール等と反応させてエステル体の形にしてから反応系に添加してもよい。
【0035】
そして、本発明の難燃性ポリエステル樹脂の融点(TmA)は、100〜150℃であり、中でも105〜140℃、さらには110〜130℃であることが好ましい。ポリエステル樹脂の融点が100℃未満であると、熱安定性が悪くなるため、操業性や生産性も低下する。一方、融点が150℃を超えると、接着用途に用いる際に、高温での熱処理が必要となりコスト的にも不利となる。
【0036】
さらに、本発明の難燃性ポリエステル樹脂は、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記(1)式を満足するものであり、中でもb/a≧0.06であることが好ましい。一方、b/aが大きいほど降温時の結晶性に優れるものとなるが、本発明で目的とする効果を奏するには、b/aを0.5以下とすることが好ましい。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) (1)
【0037】
本発明におけるポリエステル樹脂の融点とDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線は、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲−20℃〜250℃、昇温(降温)速度20℃/分、試料量2mgで測定する。
【0038】
上記b/aは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線より求められる。図1に示すように、ポリエステル樹脂のDSC曲線において、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【0039】
b/aは、降温時の結晶性を表す指標であり、b/aの値が高いと結晶化速度が速く、逆に0に近いほど、結晶化速度が遅いことを示している。b/aが0.05(mW/mg・℃)未満の場合、結晶化速度が遅いため、ポリエステルのチップ化や貯蔵・運搬、および乾燥工程においてブロッキングが生じやすくなる。また、繊維化する際には延伸・熱処理工程における熱処理温度を高くすると、繊維の融解・膠着が生じ、高温での熱処理を行うことができないため熱収縮率の低い繊維を得ることができない。
【0040】
上記したように、b/aは、ポリエステル樹脂の共重合組成を特定のものとし、結晶核剤の含有量を上記範囲の量とすることにより、本発明で規定する範囲のものにすることができる。
【0041】
また、本発明の難燃性ポリエステル樹脂は、極限粘度が0.5以上であることが好ましい。極限粘度が0.5未満のものでは、各種の物理的、機械的、化学的特性が劣るとともに、繊維とする際には紡糸性が損なわれるため好ましくない。一方、極限粘度が高すぎても溶融粘度が高くなるため、押出が困難になったり、また繊維とする際には、溶融粘度を下げるべく紡糸温度を上げると、ポリエステルの熱分解が顕著になり紡糸が困難になることから、実用上1.5以下であることが好ましい。
【0042】
また、本発明の難燃性ポリエステル樹脂中には、本発明の効果を損なわない範囲で、安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
【0043】
次に、本発明の難燃性ポリエステル短繊維について説明する。本発明の短繊維は、本発明の難燃性ポリエステル樹脂が繊維表面の少なくとも一部を占めるように配された、繊維長が1〜100mmのものである。
【0044】
本発明の難燃性ポリエステル短繊維の形態としては、本発明の難燃性ポリエステル樹脂(ポリエステルAとする)のみからなる単成分のもの、ポリエステルAと他の成分(成分Bとする)とからなり、単糸の横断面形状において、ポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配された複合繊維形態のものが挙げられる。
【0045】
本発明の難燃性ポリエステル短繊維においては、ポリエステルAは熱接着処理により溶融して接着成分とすることが好ましいものであり、バインダー繊維として用いることが好ましいものである。
【0046】
そして、ポリエステルAはリン化合物を共重合したものであり、繊維中に特定量のリン原子を含有するものであるため、ポリエステルAが溶融して接着成分となると、接着成分中に適量のリン原子が含有されることとなり、主体繊維同士を良好に接着することができるとともに、主体繊維からなる繊維構造物(織編物や不織布等)に難燃性を付与することが可能となるものである。
【0047】
本発明の難燃性ポリエステル短繊維をポリエステルAのみからなる単成分のものとする場合には、他の繊維を主体繊維として用い、本発明の難燃性ポリエステル短繊維を熱接着処理により溶融して接着成分となるバインダー繊維(全融のバインダー繊維)として用いることが好ましい。
【0048】
本発明の難燃性ポリエステル短繊維をポリエステルAと他の成分(成分B)からなる複合繊維とする場合は、成分BをポリエステルAと同程度もしくはそれ以下の融点又は流動開始温度を有するものとする場合(成分Bを低融点とする場合)と、成分BをポリエステルAよりも高い融点又は流動開始温度を有するものとする場合(成分Bを高融点とする場合)とがある。
【0049】
前者の成分Bを低融点とする場合は、ポリエステルAと成分Bともに熱接着処理により溶融し、接着成分とすることが好ましいものであり、織編物や不織布等の製品を得る際には、本発明の難燃性ポリエステル短繊維をバインダー繊維(全融のバインダー繊維)として用い、他の繊維を主体繊維として用いることが好ましい。
【0050】
後者の成分Bを高融点とする場合は、ポリエステルAのみ熱接着処理により溶融し、接着成分とすることが好ましいものであり、織編物や不織布等の製品を得る際には、本発明の難燃性ポリエステル短繊維のみを用い、ポリエステルAを接着成分、成分Bを主体繊維として用いたり、本発明の難燃性ポリエステル短繊維と他の繊維を用い、ポリエステルAを接着成分、成分Bと他の繊維を主体繊維として用いることが好ましい。
【0051】
次に、本発明の難燃性ポリエステル短繊維の形態について説明する。前記したように、本発明の難燃性ポリエステル短繊維は、ポリエステルAのみからなる単成分のものと、ポリエステルAと他の成分(成分B)からなる複合繊維形態のものがある。
【0052】
複合繊維の場合は、単糸の横断面形状(繊維軸方向に沿って垂直に切断した断面の形状)においてポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めているものである。
【0053】
このような複合繊維の形状としては、サイドバイサイド型や偏心芯鞘型、多層型のもの等が挙げられるが、中でも単糸の横断面形状においてポリエステルAが鞘部、成分Bが芯部に配された芯鞘形状であることが好ましい。
【0054】
そして、このような複合繊維とする場合は、成分BをポリエステルAと同程度もしくはそれ以下の融点又は流動開始温度のものとする場合(成分Bを低融点とする場合)と、成分BをポリエステルAよりも高い融点又は流動開始温度とする場合(成分Bを高融点とする場合)とが挙げられる。
【0055】
成分Bを低融点とする場合の本発明の短繊維においては、成分Bは、ポリエステルAともに熱接着処理により溶融させて接着成分とすることが好ましいものである。通常、熱接着処理温度は、繊維表面に配されているポリエステルAの融点より10℃高い温度で行うものであるため、このような熱接着処理温度で成分Bが溶融するためには、成分Bの融点又は流動開始温度は、ポリエステルAの融点より高くても5℃以下とすることが好ましく、中でもポリエステルAの融点より低いことが好ましい。
したがって、成分Bの融点又は流動開始温度(TmB)とポリエステルAの融点(TmA)との差(TmB−TmA)を+5℃以下のものとすることが好ましい。なお、TmBが低くなりすぎると、紡糸操業性が悪化するため、(TmA−TmB)が20℃以下であることが好ましい。
【0056】
また、成分Bを高融点とする場合の本発明の短繊維においては、成分Bは熱接着処理により溶融せずに主体繊維となって、織編物や不織布等の繊維製品を形成することが好ましいものである。この場合は、成分Bの融点又は流動開始温度は、ポリエステルAの融点よりも20℃以上高いことが好ましい。なお、ポリエステルAと成分Bとの差が大きくなりすぎると、紡糸操業性が悪化するため、(TmB−TmA)が100℃以下であることが好ましい。
【0057】
成分Bとしては、ポリエステルAとの相溶性を考慮すると、ポリエステルを用いることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とするものが好ましい。そして、上記のような融点のものとするには、次に示すような成分を共重合させたものとすることが好ましい。
【0058】
共重合成分としては、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、およびエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン等が挙げられる。
【0059】
中でも成分Bは低融点とすることが好ましく、TPA成分、EG成分を含有する共重合ポリエステルであって、非晶性のものが好ましい。共重合成分として好ましいのはイソフタル酸、あるいはアジピン酸などの芳香族カルボン酸成分であり、その共重合量は全酸成分に対して25〜45モル%とすることが好ましく、中でも27〜40モル%とするのがより好ましい。共重合量が25モル%未満であると流動開始温度が高くなりやすく、一方、共重合量が45モル%より多いと、Tgが低くなりやすく、紡糸時に単糸密着が発生して製糸性が悪くなりやすい。
【0060】
成分Bを非晶性のものとすることで、熱接着処理により溶融すると流動性が低いものとなり、ポリエステルAは結晶性ポリマーのため溶融すると流動性が高いものとなり、この2種類の成分が接着成分となることで、適度な流動特性を有し、主体繊維(他の繊維)同士を均一かつ良好に接着することができ、品位が高く、接着性に優れた繊維製品を得ることが可能となる。
【0061】
また、成分Bが高融点、低融点の場合ともに成分B中にもリン化合物が共重合されていてもよい。なお、その場合でもリン原子の含有量は上記した本発明の難燃性ポリエステル樹脂の含有量と同様の範囲内のものとすることが好ましい。さらに、成分B中には、安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
【0062】
本発明の難燃性ポリエステル短繊維は、繊維長1〜100mmの短繊維であり、中でも繊維長は3〜80mmが好ましい。繊維長が1mm未満であると、切断時の熱によって繊維の融着や膠着が生じる。繊維長が100mmを超えると、カード機での解繊性が悪くなり、得られる不織布等の繊維構造物は均斉の劣るものとなる。
【0063】
さらに、本発明の難燃性ポリエステル短繊維の単糸繊度は1〜20dtexであることが好ましく、中でも1〜15dtexであることが好ましい。単糸繊度が1dtex未満であると、紡糸、延伸工程において単糸切断が頻発し、操業性が悪化するとともに、得られる不織布等の製品の強力も劣る傾向となる。一方、単糸繊度が20dtexを超えると紡糸糸条の冷却が不十分となり、得られる繊維の品位が低下しやすくなる。
【0064】
また、本発明の難燃性ポリエステル短繊維は、マルチフィラメントでもモノフィラメントのいずれであってもよく、単糸の横断面形状は丸型のみならず扁平型、トリローバル型、ヘキサローバル型、W型、H型等の異形断面や、四角形や三角形等の多角形状、中空形状のものでもよい。
【0065】
そして、本発明の難燃性ポリエステル短繊維は結晶性に優れるポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配されているものであるので、溶融紡糸する際に単糸間の溶着が発生せず、延伸、熱処理を高温で施すことができ、熱収縮率の低い繊維とすることができる。
【0066】
具体的には、本発明の難燃性ポリエステル短繊維は、ポリエステルAの融点をTmAとしたとき、(TmA−30)℃における乾熱収縮率が7%以下であることが好ましく、中でも5%以下であることが好ましく、さらには4.5%以下とすることが好ましい。
【0067】
本発明における乾熱収縮率とは、JIS L−1015の収縮率の測定における乾熱収縮率の測定方法により測定するものであり、初荷重を50mg/デシテックス、つかみ間隔を25mm、処理温度を(TmA−30)℃として測定するものである。なお、繊維長が短くて測定が困難である場合は、短繊維にカットする前の繊維を用いて測定するものとする。
【0068】
(TmA−30)℃における乾熱収縮率を7%以下とすることで、この短繊維をバインダー繊維として不織布等を製造する際に、ウエブ等を熱接着処理する際の収縮が小さくなり、熱接着処理後に得られる不織布等の製品は、地合や均斉に優れるものとなる。一方、(TmA−30)℃における乾熱収縮率が7%を超えるものでは、このような効果を奏することが困難となりやすい。
【0069】
従来のような明確な結晶融点を示さないポリエステルを用いて短繊維を製造すると、溶融紡糸する際に単糸間の溶着が発生するとともに、延伸、熱処理工程において熱処理温度を100℃以上とすると、繊維の融解、膠着が生じ、実施が困難となる。したがって、延伸、熱処理工程を低温で行うこととなり、得られる短繊維は乾熱収縮率が高くなる。このため、このような短繊維をバインダー繊維として不織布を製造すると、ウエブを熱接着処理する際の収縮が大きくなり、得られる不織布は熱接着処理前のウエブの面積と比較したウエブ収縮率が大きくなり、地合や均斉に劣るものとなっていた。
【0070】
次に、本発明の難燃性ポリエステル樹脂の製造方法について、一例を用いて説明する。
本発明におけるポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応またはエステル交換反応させ、重縮合反応を行うことにより本発明のポリエステル樹脂組成物を製造することができる。具体的には、重縮合反応は通常 0.01〜10hPa程度の減圧下、220〜280℃の温度で所定の極限粘度のものが得られるまで行う。また、重縮合反応は、触媒存在下で行われるが、触媒としては従来一般に用いられているアンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マンガンおよびコバルト等の金属化合物のほか、スルホサリチル酸、o-スルホ安息香酸無水物等の有機スルホン酸化合物を用いることができる。
結晶核剤や各種添加剤(本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる)は、粉体またはジオールスラリー等の形態で、ポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。そして、重縮合反応においてポリエステルが所定の極限粘度に到達したら、ストランド状に払い出して、冷却、カットすることによりチップ化する。
【0071】
次に、本発明の難燃性ポリエステル短繊維(複合繊維)の製造方法について一例を用いて説明する。
上記のようにして得られた本発明の難燃性ポリエステル樹脂のチップと成分Bのチップを通常の複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行う。紡出糸条を冷却固化した後、一旦容器へ収納する。そして、この糸条を集束して糸条束とし、ローラ間で延伸倍率2〜4倍程度で延伸を施す。続いて100〜120℃で熱処理し、次いで仕上げ油剤を付与後、スタフィングボックス等で機械捲縮を付与し、目的とする繊維長にカットして難燃性ポリエステル短繊維を得る。
【実施例】
【0072】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
(a)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
(b)難燃性ポリエステル樹脂(ポリエステルA)の融点、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線
前記の方法により測定した。
(c)成分Bの融点
示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製Diamond DSC)を用い、昇温速度20℃/分で測定した融解吸収曲線の極値を与える温度を融点とした。
(d)成分Bの流動開始温度
フロテスター(島津製作所CFT−500型)を用い、荷重9.8MPa、ノズル径0.5mmの条件で、初期温度50℃より10℃/分の割合で昇温していき、ポリマーがダイから流出し始める温度として求めた。
(e)ポリマー組成
得られたポリエステル樹脂又はポリエステル短繊維を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて 1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(f)操業性
1.チップ化
ポリエステル樹脂をAUTOMATIK社製USG-600型カッターでチップ化する際、フィードローラーまたはカッターブレードへのポリエステルの巻き付きやストランド間の融着により2つ以上のチップが融着したものの発生等により、カッターの運転を中断した場合を×、融着等の問題が生じ、時折中断するもののチップ化できた場合を△、融着等の問題は生じながらも、カッターの運転を中断することなくチップ化できた場合を○、融着による問題が生じることなくチップ化できた場合を◎とした。
2.チップのブロッキング
チップの貯蔵・運搬および乾燥工程で、崩れないブロック状の塊や壁面への融着物が生じた場合を×、ブロック状の塊や壁面への付着物があり、ハンマー等で直接衝撃を加えるなどある程度の力により解消される場合を△、ブロック状の塊や壁面への付着物があるものの、手で触れたり、ハンマー等により壁面へ衝撃を加えることによりそれらが解消される程度である場合を○、ブロック状の塊や壁面への融着が全く発生しなかった場合を◎とした。
3.紡糸操業性
紡糸の状況により下記の2段階で評価した。
○:紡糸時の切れ糸回数が1回/トン以下であり、単糸間での溶着がない。
×:紡糸時の切れ糸回数が1回/トンを超えるか、単糸間での溶着の発生がある。
(g)ポリエステル樹脂の難燃性
JIS K 7201によりLOI値(限界酸素指数)を測定し、26以上のものを合格(○)とし、26未満のものを不合格(×)とした。
(h)乾熱収縮率(%)
前記の方法で測定した。
(i)不織布の評価
1.地合
得られた不織布表面の地合を目視にて、良好(○)、不良(×)の2段階で評価した。
2.ウエブ収縮率
不織布を得る際に得られたウエブから、面積A0(タテ20cm×ヨコ20cm=400cm)のサンプルを切り取り、ポリエステル(A)の融点をTmとしたとき、このサンプルを(Tm+10)℃に設定した熱風乾燥機中に15分間放置し(熱接着処理を行い)、その後(熱接着処理後)の不織布の面積をA1とし、下式により算出するものである。ウエブ収縮率は10%以下、中でも9.5%以下であることが好ましい。
ウエブ収縮率(%)={(A0−A1)/A0}×100
3.柔軟性(風合)
得られた不織布の柔軟性を触感にて判断し、良好(○)、不良(×)の2段階で評価した。
4.難燃性
得られた不織布を、消防安第65号に準拠して限界酸素指数(LOI)で評価し、LOI値27以上を合格とした。
【0073】
実施例1
エステル化反応缶に、TPAとEG(モル比 1/1.6) のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化反応率95%の反応物を得た。この反応物40kgを重縮合反応缶に移送し、艶消し剤として酸化チタンを34質量%含有するEGスラリーを0.6kg、結晶核剤として平均粒径1.0μm、比表面積35m2/gのタルクを10質量%含有するEGスラリーを10kg、重縮合触媒としてテトラブチルチタネートを4質量%含有するEG液を7kg、リン化合物としてHCA−IAを63質量%含有するEG溶液を6kg、HD31kgを重縮合反応缶に投入し、温度240℃、常圧下で1時間攪拌した。
次にこれらを重縮合反応缶に投入した後、反応器内の圧力を徐々に減じ、70分後に1.2hPa以下にした。この条件下で撹拌しながら重縮合反応を約3時間行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化し、ポリエステル樹脂を得た。
【0074】
実施例2〜3、比較例1〜9
HDの共重合量、リン化合物の共重合量、結晶核剤の種類(PEWAX:ワックス状のポリエチレン)及び含有量を表1に示すように種々変更した以外は、実施例1と同様に行い、ポリエステル樹脂を得た。
【0075】
実施例4
エステル化反応缶に、PBT9kg、TPA26kg、HD26kg、BD5kg、リン化合物としてHCA−IAを3.8kg供給し、エステル化反応触媒としてヒドロキシモノブチルスズオキサイドを0.02kg、結晶核剤として平均粒径1.0μm、比表面積35m2/gのタルクを1.0kg(ポリマーに対して2質量%)、添加し、温度230℃、圧力0.2MPaの条件で3時間撹拌し、エステル化反応を行った後、重縮合反応缶に移送した。そして、重縮合触媒としてテトラブチルチタネートを4質量%含有するBD液1.4kgとを重縮合反応缶に投入した後、反応器内の圧力を徐々に減じ、70分後に1.2hPa以下にした。この条件下で撹拌しながら重縮合反応を約3時間行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化し、ポリエステル樹脂を得た。
【0076】
実施例5〜6
HDの共重合量、リン化合物の共重合量、結晶核剤の種類(PEWAX:ワックス状のポリエチレン)及び含有量を表1に示すように種々変更した以外は、実施例4と同様に行い、ポリエステル樹脂を得た。
【0077】
比較例10
重縮合反応缶へのTPAとEGの反応物の投入量を24kgとし、イソフタル酸(IPA)を4.5kg、エチレングリコールを9kg投入したこと以外は実施例1と同様に行い、表1に示すポリマー組成のポリエステル樹脂を得た。
【0078】
実施例1〜6、比較例1〜10で得られたポリエステル樹脂の特性値及びチップ化時の操業性の評価結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1から明らかなように、実施例1〜6のポリエステル樹脂は、(1)式を満足するものであり、結晶性に優れていたので、チップ化、ブロッキングの操業性評価に優れ、紡糸操業性にも優れていた。そして、難燃性の評価も良好であった。
一方、比較例1のポリエステル樹脂は、結晶核剤を含有しておらず、比較例2、3のポリエステル樹脂は、結晶核剤含有量が少なかったため、いずれも(1)式を満足せず、結晶性が低いため、チップ化の操業性が悪く、チップ同士のブロッキングも生じ、いずれもチップ化できなかった。比較例4のポリエステル樹脂は、結晶核剤(タルク)の含有量が多すぎたため、この樹脂を用いて溶融紡糸すると、紡糸時に糸切れが多発した。比較例5のポリエステル樹脂は、結晶核剤(PEWAX)の含有量が多すぎたため、重合性が悪く、樹脂の極限粘度が低いため、チップ化の操業性が悪く、チップ化できなかった。比較例6のポリエステル樹脂は、リン化合物を含有していなかったため、比較例7のポリエステル樹脂は、リン化合物の共重合量が少なかったため、両者ともに難燃評価の低いものであった。比較例8のポリエステル樹脂は、リン化合物の共重合量が多く、結晶性を有しておらず、融点がDSCでは確認できず、熱安定性が悪く、チップ化できなかった。比較例9のポリエステル樹脂は、HDが50モル%未満であったため、融点が150℃を超えるものであった。比較例10のポリエステル樹脂は、イソフタル酸(IPA)成分を多く含有するものであったため、結晶性を有しておらず、融点がDSCでは確認できず、熱安定性が悪く、チップ化できなかった。
【0081】
実施例7
実施例1で得られたポリエステル樹脂のチップを紡糸装置に供給し、紡糸温度220℃、吐出量307g/分、紡糸孔数518、紡糸速度850m/分の条件で紡糸した。次いで、紡出糸条を18℃の冷風で冷却し、引き取って未延伸糸を得た。
この未延伸糸を集束して11万dtexのトウ状にした未延伸繊維に、延伸倍率2.62倍、延伸温度40℃で延伸を行い、この後、ヒートドラム(温度110℃)で熱処理を施した。次いで、押し込み式クリンパーで捲縮を付与し、繊維長51mmに切断して単糸繊度2.2デシテックスの難燃性ポリエステル短繊維を得た。
得られた難燃性ポリエステル短繊維をバインダー繊維とし、主体繊維として、ポリエチレンテレフタレートからなる、融点256℃、繊度2.2dtex、繊維長51mm、強度5.5cN/dtex、伸度40%、170℃、15分での乾熱収縮率が3.0%の短繊維を用い、混合比率を質量比30/70(バインダー繊維/主体繊維)でカード機を通して乾式ウエブを作成した。得られた乾式ウエブを温度138℃、風量20m/分の連続熱処理機で1分間の熱処理を行い、目付け100g/mの乾式不織布を得た。
【0082】
実施例8、比較例11〜12
ポリエステル樹脂として表2に示すポリエステルを使用した以外は、実施例7と同様にしてポリエステル短繊維を得た。さらに、実施例7と同様にして乾式不織布を得た。
【0083】
実施例9
実施例3で得られたポリエステル樹脂をポリエステルAとし、成分Bとして、イソフタル酸を酸成分として33mol%共重合したPET(流動開始温度130℃、極限粘度0.79、表2のB−1)を用いた。
ポリエステルAチップと成分Bチップを複合紡糸装置に供給し、ポリエステルAが鞘部、成分Bが芯部となる芯鞘形状となるようにし、両成分の質量比を50/50として紡糸口金より溶融紡糸を行った。このとき、紡糸温度220℃、吐出量600g/分、紡糸孔数1014、紡糸速度800m/分の条件で紡糸した。次いで、紡出糸条を18℃の冷風で冷却し、引き取って未延伸糸を得た。
この未延伸糸を集束して11万dtexのトウ状にした未延伸繊維に、延伸倍率3.2倍、延伸温度50℃で延伸を行い、この後、ヒートドラム(温度110℃)で熱処理を施した。次いで、押し込み式クリンパーで捲縮を付与し、繊維長51mmに切断して単糸繊度2.2デシテックスの難燃性ポリエステル短繊維を得た。
得られた難燃性ポリエステル短繊維をバインダー繊維とし、主体繊維として、ポリエチレンテレフタレートからなる、融点256℃、繊度2.2dtex、繊維長51mm、強度5.5cN/dtex、伸度40%、170℃、15分での乾熱収縮率が3.0%の短繊維を用い、混合比率を質量比50/50(バインダー繊維/主体繊維)でカード機を通して乾式ウエブを作成した。得られた乾式ウエブを温度138℃、風量20m/分の連続熱処理機で1分間の熱処理を行い、目付け100g/mの乾式不織布を得た。
【0084】
実施例10〜11
実施例3で得られたポリエステル樹脂をポリエステルAとし、成分Bとして、表2に示す組成のポリエステル〔B−2は、イソフタル酸を酸成分として40mol%共重合したPET(流動開始温度115℃、極限粘度0.75)、B−3は、テレフタル酸100mol%、ジオール成分としてブタンジオール50mol%とエチレングリコール50mol%用いたPET(流動開始温度180℃、極限粘度0.82)〕を用いた以外は、実施例9と同様にしてポリエステル短繊維を得た。さらに、実施例9と同様にして乾式不織布を得た。
【0085】
実施例7〜12、比較例11〜12で得られたポリエステル短繊維と乾式不織布の特性値及び評価結果を表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
表2から明らかなように、実施例7〜12のポリエステル短繊維は、本発明の難燃性ポリエステル樹脂を用いたものであったため、紡糸の操業性が良好で、また延伸時に熱処理を良好に行うことができ、乾熱収縮率の低いものとすることができた。そして、これらの短繊維から不織布を得る際にはウエブ収縮率が低く、寸法安定性よく得ることができ、得られた不織布は、地合、柔軟性、難燃性ともに優れたものであった。
一方、比較例11のポリエステル短繊維は、結晶核剤としてのタルクの含有量が多いポリエステル樹脂を用いたものであったため、紡糸時に切れ糸が発生し、操業性が悪かった。これにより糸質のバラツキが大きくなり、乾熱収縮率が高い短繊維となり、不織布を得る際にはウエブ収縮率が大きく、得られた不織布は地合が悪く柔軟性に乏しいものであった。比較例12のポリエステル短繊維は、ポリエステル樹脂中のリン原子の含有量が少なかったため、難燃性能の乏しい不織布となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、リン原子の含有量が2000〜15000ppmとなるようにリン化合物が共重合されており、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、かつ融点(TmA)が100〜150℃、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足することを特徴とする難燃性ポリエステル樹脂。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・(1)
なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【請求項2】
請求項1記載の難燃性ポリエステル樹脂が繊維表面の少なくとも一部を占めるように配され、繊維長が1〜100mmであることを特徴とする難燃性ポリエステル短繊維。



【図1】
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【公開番号】特開2009−299031(P2009−299031A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107774(P2009−107774)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】