説明

難燃性ポリカーボネート樹脂フィルム

【構成】ポリカーボネート樹脂(A)75〜99.5重量%及びテルペン樹脂(B)0.5〜25重量%からなる樹脂成分100重量部、有機金属塩化合物(C)0.02〜2.5重量部、主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(D)0.005〜2.5重量部、繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)0〜2.5重量部および無機充填剤(F)0〜55重量部からなる組成物を成形してなる難燃性ポリカーボネート樹脂フィルム。
【効果】本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂フィルムは、ハロゲンやリンなどを含有する従来の難燃剤を使用することなく優れた難燃性を示し、燃焼時にハロゲン含むガスの発生等の懸念もなく、環境調和性の面からも極めて優れ、各種難燃性電気絶縁材料として好適に使用できる為、工業的利用価値が非常に高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性のポリカーボネート樹脂フィルムに関する。より詳細には、ポリカーボネート樹脂に対し、テルペン樹脂、有機金属塩化合物、特定構造のシリコーン化合物、繊維形成型の含フッ素ポリマーおよび所望によって無機充填剤を特定量配合した高度な難燃性を示すポリカーボネート樹脂フィルムに関する。さらには、ハロゲンやリンを含有する従来の難燃剤を使用することが全くないため、環境調和性にも極めて優れたフィルムが得られる点に特徴がある。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性等に優れた熱可塑性樹脂であり、電気・電子・ITE、機械、自動車、建材等の分野で広く使用されている。このうち電気・電子・ITEの分野では、パーソナルコンピュータのように高度な難燃性や耐熱性を要求される部品が少なくない。ポリカーボネート樹脂は、自己消火性を備えた難燃性の高いプラスチック材料ではあるが、電気・電子・OA分野では安全上の要求を満たすため、UL94VTM−0やVTM−1相当の一層高い難燃性を有するポリカーボネート樹脂フィルムが求められている。
【0003】
そこでポリカーボネート樹脂フィルムの難燃性を向上するために、従来、難燃剤としてハロゲン系化合物やリン系化合物を配合する方法が採用されている。これらの中で特に臭素や塩素等のハロゲン系化合物については、環境面からこれらを含有しない難燃剤の使用が市場より望まれている。
【0004】
一方、難燃性のポリカーボネート樹脂にテルペン樹脂を配合することは行われているが(特許文献3及び4)、これらにおいてテルペン樹脂は難燃効果をもたらすものとしては用いられておらず、リン系化合物等の難燃剤を配合して難燃性を達成するものであった。またフィルムについては記載されていない。
【0005】
【特許文献1】特開平7−179742号公報
【特許文献2】特開平9−95610号公報
【特許文献3】特開2000−63651号公報
【特許文献4】特開2003−160724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハロゲンやリン系化合物等の難燃剤を配合したポリカーボネート樹脂フィルムは、耐熱性、衝撃強度、流動性、耐侯性のバランス等の面で必ずしも満足できるものではなく、特にハロゲン系は衝撃強度や環境面の改良、リン系では耐熱性の改良が求められていた。本発明は、ハロゲンやリンを含有せず優れた難燃性ポリカーボネート樹脂フィルムを提供することを目的とする。ハロゲンやリンを含有しないため環境面からも望ましく、各種難燃性電気絶縁材料として好適に使用できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリカーボネート樹脂に対し、テルペン樹脂、有機金属塩化合物、特定構造のシリコーン化合物、繊維形成型の含フッ素ポリマーおよび所望によって無機充填剤を特定量配合することにより、ハロゲンやリンなどを含有する従来の難燃剤を使用することなく、高度な難燃性を示すポリカーボネート樹脂フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)75〜99.5重量%及びテルペン樹脂(B)0.5〜25重量%からなる樹脂成分100重量部、有機金属塩化合物(C)0.02〜2.5重量部、主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(D0.005〜2.5重量部、繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)0〜2.5重量部および無機充填剤(F)0〜55重量部からなる組成物を成形してなる難燃性ポリカーボネート樹脂フィルムを提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂フィルムは、ハロゲンやリンなどを含有する従来の難燃剤を使用することなく優れた難燃性を示し、燃焼時にハロゲン含むガスの発生等の懸念もなく、環境調和性の面からも極めて優れ、各種難燃性電気絶縁材料として好適に使用できる為、工業的利用価値が非常に高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0011】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0012】
これらは、単独又は2種類以上混合して使用されるが、ハロゲンで置換されていない方が燃焼時に懸念される当該ハロゲンを含むガスの環境への排出防止の面から好ましい。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0013】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。
3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタン及び2,2−ビス−[4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル]−プロパンなどが挙げられる。
【0014】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、通常10000〜100000、好ましくは15000〜35000、さらに好ましくは17000〜28000である。かかるポリカーボネート樹脂(A)を製造するに際し、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0015】
本発明にて使用されるテルペン樹脂(B)には、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、β−ピネン/リモネン樹脂、水添リモネン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、フェノール変性テルペン樹脂などが含まれる。
【0016】
テルペン樹脂(B)はテルペン化合物を原料として得られ、テルペン化合物は、一般にモノテルペン、セスキテルペン、ジテルペン等のイソプレンの重合体を基本骨格とする化合物である。テルペン化合物として、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、d−リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α−フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノーレン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類等、好ましくはα−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、d−リモネン等が挙げられる。
【0017】
テルペン樹脂(B)は、これらテルペン化合物をフリーデルクラフト触媒のもとで、カチオン重合したものである。原料としてテルペン化合物単独のほか、テルペン化合物と芳香族化合物(その重合体を芳香族変性テルペン樹脂という。)、テルペン化合物とフェノール系化合物(その重合体をフェノール変性テルペン樹脂という。)を使用してもよい。芳香族化合物として、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン等が挙げられ、フェノール系化合物として、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノール等が挙げられる。また、得られた上記テルペン樹脂を水素添加処理したものを使用してもよい。またテルペン樹脂として、テルペン化合物と環状ポリオレフィン、非環式モノ不飽和オレフィン等の成分を併用したものを使用してもよい。
【0018】
このようなテルペン樹脂(B)として、例えば、ヤスハラケミカル(株)社製の「YSレジンPX」(テルペン樹脂)、「YSレジンTO」(芳香族変性テルペン樹脂)、「YSレジンTR」(芳香族変性テルペン樹脂)、「クリアロン」(水添テルペン樹脂)、「YSポリスター」(フェノール変性テルペン樹脂)、「マイティエース」(フェノール変性テルペン樹脂)などの商品名で市販されているものが挙げられる。
【0019】
テルペン樹脂(B)の配合量は、樹脂成分中0.5〜25重量%、好ましくは1〜5重量%である。0.5重量%未満であると、相乗効果が得られにくいため十分な難燃性を示さないので好ましくない。また、25重量%を越えるとテルペン樹脂(B)自体の易燃性のため難燃性が低下するので好ましくない。
【0020】
本発明にて使用される有機金属塩化合物(C)としては、芳香族スルホン酸の金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩があげられる。金属の種類としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。好適には、4−メチル−N−(4−メチルフェニル)スルフォニル−ベンゼンスルフォンアミドのカリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン−3−3′−ジスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩等が好適に使用できる。
【0021】
有機金属塩化合物(C)の配合量は、樹脂成分100重量部に対し、0.02〜2.5重量部である。さらに好ましくは0.05〜1重量部、より一層好ましくは0.05〜0.3重量部の範囲である。配合量が0.02重量部未満では、相乗効果が得られにくいため難燃性が低下するので好ましくない。また、2.5重量部を超えると、衝撃強度や難燃性が得られなかったり、表面外観が悪化したりするといった問題が発生するので好ましくない。
【0022】
本発明にて使用されるシリコーン化合物(D)は、主鎖が分岐構造でかつ有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなり、下記一般式(1)にて示される。
一般式(1)
【0023】
【化1】

【0024】
ここで、R1、R2およびR3は主鎖の有機官能基を、Xは末端の官能基を表わす。
すなわち、分岐単位としてT単位(RSiO1.5)および/またはQ単位(SiO2.0)を持つことを特徴とする。これらは全体のシロキサン単位(R3〜0SiO2〜0.5)の20モル%以上含有することが好ましい。(Rは有機官能基をあらわす。)また、シリコーン化合物(D)は、含有される有機官能基のうち芳香族基が20モル%以上であることが好ましい。
【0025】
この含有される芳香族基としては、フェニル、ビフェニル、ナフタレンまたはこれらの誘導体であるが、フェニル基が好適に使用できる。
【0026】
シリコーン化合物(D)中の有機官能基で、主鎖や分岐した側鎖に付いたもののうち芳香族基以外の有機基としては、炭素数4以下の炭化水素基が好ましく、メチル基が好適に使用できる。さらに、末端基はメチル基、フェニル基、水酸基の内から選ばれた1種またはこれらの2種から3種までの混合物であることが好ましい。
【0027】
シリコーン化合物(D)の平均分子量(重量平均)は、好ましくは3000〜500000であり、更に好ましくは5000〜270000である。
【0028】
シリコーン化合物(D)の配合量は、樹脂成分100重量部に対して0.005〜2.5重量部である。配合量が当該範囲外においては何れの場合も難燃効果が不十分であるので好ましくない。より好ましくは0.05〜1重量部である。
【0029】
ポリカーボネート樹脂(A)に対し、上記のテルペン樹脂(B)、有機金属塩化合物(C)、シリコーン化合物(D)をそれぞれ単独で配合するのみでは十分な難燃性を示さない。すなわち、ポリカーボネート樹脂(A)に対し、テルペン樹脂(B)、有機金属塩化合物(C)を配合することにより相乗的効果が得られ、ドリッピングを生じない自己消火性で、かつ造粒加工時の作業性や表面外観に優れ、さらに環境面への影響にも十分配慮した難燃性ポリカーボネート樹脂フィルムが提供できるのである。
【0030】
これに加えて繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)、を添加すると、さらにドリッピングを生じないポリカーボネート樹脂フィルムが得られる。
【0031】
本発明にて使用される、繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)としては、樹脂成分中で繊維構造(フィブリル状構造)を形成するものがよく、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、等)、米国特許第4379910号に示される様な部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート等が挙げられる。とりわけ、分子量1000000以上で二次粒子径100μm以上のフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが好適に使用される。
【0032】
繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)の配合量は、樹脂成分100重量部に対し、0〜2.5重量部である。配合量が2.5重量部を超えると造粒が困難となることから安定生産に支障をきたすので好ましくない。この配合量は、好ましくは、0〜1重量部、より好ましくは0〜0.5重量部の範囲である。この範囲では、難燃性、成形性のバランスが一層良好となる。
【0033】
本発明において、無機充填材(F)を添加すると、難燃性ポリカーボネート樹脂フィルムの燃焼時の形状保持性が著しく高くなり、さらに薄肉での難燃性に優れる。無機充填材(F)としては、例えばガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、炭素繊維、タルク粉、クレー粉、マイカ、チタン酸カリウムウィスカー、ワラストナイト粉、シリカ粉等が挙げられる。
【0034】
無機充填材(F)の配合量は、樹脂成分100重量部に対し、0〜55重量部である。無機充填材を55重量部以下で添加した場合には、薄肉成型体の燃焼時の形状保持性が著しく高くなり、難燃性が向上する。50重量部を超えると造粒時にポリカーボネート樹脂(A)の分子量低下を引き起こすので好ましくない。この配合量は、好ましくは2〜20重量部、より好ましくは3〜15重量部の範囲である。この範囲では、難燃性ポリカーボネート樹脂フィルムの加工性、難燃性のバランスが一層良好となる。
【0035】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の熱安定剤、酸化防止剤(リン系やフェノール系酸化防止剤)、紫外線吸収剤、着色剤、蛍光増白剤、離型剤、軟化材、帯電防止剤、展着剤(エポキシ大豆油、流動パラフィン等)等の添加剤、衝撃性改良材、他のポリマーを配合してもよい。熱安定剤としては、例えば硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素リチウム等の硫酸水素金属塩及び硫酸アルミニウム等の硫酸金属塩等が挙げられる。
【0036】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂フィルムに使用される各種配合成分の混合順番や混合方法には特に制限はなく、公知の混合機、例えばタンブラー、リボンブレンダー等による混合が可能であって、その混合物を通常の一軸または二軸押出機により容易に溶融混練することができる。
【0037】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂フィルムを成形する方法としては、特に制限はなく、公知のTダイ押出成形法、カレンダー成形法等を用いることができる。また、本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂フィルムの厚みは、0.10〜0.35mmのものをいう。尚、当該厚みのシートであっても本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂フィルムの範疇に含まれる。
【実施例】
【0038】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に制限されるものではない。尚、「部」は重量基準に基づく。
【0039】
表2〜4に示す配合成分、配合量に基づき、タンブラーを用いて各種配合成分を混合し、37mm径の二軸押出機(神戸製鋼社製KTX−37)を用いて、シリンダー温度240℃にて溶融混練し、各種樹脂組成物のペレットを得た。
【0040】
使用した配合成分は、それぞれ以下のとおりである。
ポリカーボネート樹脂:
住友ダウ社製・カリバー200−3
(粘度平均分子量28000、以下「PC」と略記)
テルペン樹脂:
ヤスハラケミカル社製・マイティーエースG−150
(フェノール変性テルペン樹脂、以下「テルペン樹脂」と略記)
有機金属塩化合物:
バイエル社製バイオウエットC−4
(パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩、以下「金属塩」と略記)
【0041】
シリコーン化合物:(以下「シリコーン化合物」と略記)
シリコーン化合物は、一般的な製造方法に従って製造した。すなわち、適量のジオル
ガノジクロロシラン、モノオルガノトリクロロシランおよびテトラクロロシラン、あ
るいはそれらの部分加水分解縮合物を有機溶剤中に溶解し、水を添加して加水分解し
て、部分的に縮合したシリコーン化合物を形成し、さらにトリオルガノクロロシラン
を添加して反応させることによって重合を終了させ、その後、溶媒を蒸留等で分離し
た。上記方法で合成したシリコーン化合物の構造特性は、以下のとおり:
・主鎖構造のD/T/Q単位の比率:40/60/0(モル比)
・全有機官能基中のフェニル基の比率(*):60モル%
・末端基:メチル基のみ
・重量平均分子量(**):15000
*:フェニル基は、T単位を含むシリコーン中ではT単位にまず含まれ、残った場合
がD単位に含まれる。D単位にフェニル基が付く場合、1個付くものが優先し、
さらにフェニル基が残余する場合に2個付く。末端基を除き、有機官能基は、フ
ェニル基以外は全てメチル基である。
**:重量平均分子量は、有効数字2桁。
【0042】
繊維形成型の含フッ素ポリマー:
ダイキン社製・ポリフロンFA−500
(ポリテトラフルオロエチレン、以下「PTFE」と略記)
無機充填材:
山口雲母社製A−41
(微粉状マイカ、以下「無機充填材」と略記)
【0043】
得られた各種樹脂組成物のペレットをTダイ押出機(田辺プラスチック製単軸40mm押出機)で、溶融温度280℃、の条件下にてフィルム(幅300mm、厚み0.15mm)を作成し、厚みの変動、外観及び難燃性を評価した。
【0044】
評価方法は、それぞれ下記のとおりである。
(厚みの変動)
作成したフィルムの厚みをマイクロメーターにて30点測定し、厚みの標準偏差を求めた。厚みの標準偏差値(σ)の求め方は、フィルムの幅方向に30点マイクロメーター(最小単位=0.001mm)にて厚み測定を行い、次式を使って求めた。
【0045】
【数1】

【0046】
厚みの変動の評価基準は以下のとおりである。
良好:フィルム厚み(0.2mm)の標準偏差(σ)が0.01以下。
普通:フィルム厚み(0.2mm)の標準偏差(σ)が0.011〜0.02。
劣る:フィルム厚み(0.2mm)の標準偏差(σ)が0.021以上。
普通から良好を合格とした。
【0047】
(外観)
作成したフィルムの外観を目視にて判定した。判定基準は以下のとおりである
良好:◎・・・・表面に発泡、ダイライン、筋状のマークの無いフィルム
普通:○・・・・表面に発泡、ダイライン、筋状のマークがほんの少しあるフィルム
劣る:×・・・・表面に発泡、ダイライン、筋状のマークが劣るフィルム
普通から良好を合格とした。
【0048】
(難燃性)
前述のフィルム(厚み0.15mm)を幅50mm、長さ200mm、に切断し、温度23℃、湿度50%の恒温室の中で72時間放置し、アンダーライターズ・ラボラトリーズが定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)に準拠した難燃性の評価を行った。UL94VTM−0とは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を3秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、以下のクラスに分けられる。
【0049】
【表1】


表1に示す残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の試験片が、有炎燃焼を続ける時間の長さであり、ドリップによる綿の着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。
評価の基準は、0.15mm厚さのフィルムにおいてVTM−0を合格とした。
【0050】
評価結果をそれぞれ表2〜4に示した。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

*NRはどの難燃クラスにも属さないものを表す。
【0054】
実施例1〜10に示すように、本発明の構成要件を具備したものについては、フィルムの厚みの標準偏差、外観、難燃性等すべての性能において規格を満足するものであった。
【0055】
一方、比較例1〜7に示すように、本発明の構成要件を満たさない場合においては、何れも何らかの欠点を有していた。
比較例1では、テルペン樹脂の配合量が規定範囲の下限よりさらに少ないため、難燃性が不合格となった。
比較例2は、逆にテルペン樹脂の配合量が規定範囲の上限を超えている場合であるが、難燃性が不合格となった。
比較例3は、金属塩化合物が規定範囲の下限よりさらに少ないため、やはり難燃性が不合格となった。
比較例4は、シリコーン化合物が規定範囲の下限よりさらに少ないため、難燃性と厚みの標準偏差が不合格となった。
比較例5は、金属塩、シリコーン化合物の配合量が規定範囲の上限を超えている場合であるが、厚みの標準偏差と外観が不合格となった。
比較例6は、PTFEの配合量が規定範囲の上限を超えている場合であるが、厚みの標準偏差と外観が不合格となった。
比較例7は、無機充填剤の配合量が規定範囲の上限を超えている場合であるが、厚みの標準偏差と外観が不合格となった。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)75〜99.5重量%及びテルペン樹脂(B)0.5〜25重量%からなる樹脂成分100重量部、有機金属塩化合物(C)0.02〜2.5重量部、主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(D)0.005〜2.5重量部、繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)0〜2.5重量部および無機充填剤(F)0〜55重量部からなる組成物を成形してなる難燃性ポリカーボネート樹脂フィルム。
【請求項2】
テルペン樹脂(B)が、芳香族変性テルペン樹脂である請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂フィルム。
【請求項3】
テルペン樹脂(B)が、フェノール変性テルペン樹脂である請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂フィルム。
【請求項4】
有機金属塩化合物(C)が、芳香族スルホン酸の金属塩またはパーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩であることを特徴とする請求項1記載の難燃性ポリカーボネート樹脂フィルム。





【公開番号】特開2006−316149(P2006−316149A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138934(P2005−138934)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(396001175)住友ダウ株式会社 (215)
【Fターム(参考)】