説明

難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物

【課題】難燃性PBT樹脂組成物よりなる成形部品について、特に薄肉成形品で二次的加工を加えなくてもIEC60695−2規格を満足する絶縁材料を提供する。
【解決手段】(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(B)ハロゲン系難燃剤5〜50重量部、(C)難燃助剤5〜40重量部、(D)液晶性ポリマー5〜100重量部及び(E)無機充填剤0〜200重量部を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤熱棒着火温度を向上させた難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下PBT樹脂と略称することがある)組成物及びこのPBT樹脂組成物からなる絶縁材料部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PBT樹脂は、優れた機械的特性、電気的特性、耐熱性、耐候性、耐水性、耐薬品性及び耐溶剤性を有するため、エンジニアリングプラスチックとして、自動車部品、電気・電子部品などの種々の用途に広く利用されている。また、その難燃性向上に関しても数々の技術が開発されているが、アンダーライターズ・ラボラトリーズ(Underwriter's Laboratories Inc.)のUL−94規格の難燃性や比較トラッキング指数(Comparative Tracking Index、略称CTI)等の向上を達成した報告が主であり、国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission、略称IEC)のIEC60695−2規格に対するものはほとんどない。同規格の中では電気電子機器に用いられる絶縁材料部品は、動作中の着火および炎の伝播に対して耐性が要求されており、特にオペレータが付かない状態で動作する機器の部品で、定格電流が0.2Aを超える接続部を支持しているか、またはこれらの接続部から3mm以内の距離にある電気絶縁材料部品の安全に対する要求が高まっている。そして、同規格の中で赤熱棒燃焼指数(Glow-wire Flamability Index、略称:GWFI)が850℃以上であること、かつ赤熱棒着火温度(Glow-wire Ignition Temperature、略称:GWIT)が775℃以上であることを満足させなければならなくなった。熱可塑性樹脂に対して特にGWITの規格を満足させることは、これまでのUL−94規格の難燃性評価においてV−0を有する材料においても非常に困難であり、これまでの技術を更に改良させるような難燃化技術の開発が近年増加している。
【0003】
実際のGWIT評価における傾向として、グローワイヤーを接触させる30秒の間に貫通しない肉厚のもの(たとえば繊維強化材料の3mmt)や、非常に薄い肉厚ものについては良好な結果が出る傾向にあり、繊維強化系PBT樹脂では特に1〜2mmの厚みが最も厳しいことが分かってきている。
【0004】
現在検討されている樹脂材料は、市場で使用される場合に、その製品肉厚が限定されず、またリブ等の入り込んだ構造が想定されることから、あらゆる肉厚で同燃焼試験をクリアする必要がある。
【0005】
また、これら材料としては、燃焼試験に対しての耐性に加えて、難燃性や耐トラッキング性、機械的性質についても、バランスよく満たす材料が求められている。
【0006】
PBT樹脂に難燃性を付与する方法としては、PBT樹脂にハロゲン化ベンジルアクリレート等のハロゲン含有難燃剤と三酸化アンチモン等の無機系難燃助剤とを組み合わせ、更に特定のグラフト共重合体を併用した組成物が知られている(特許文献1)。
【0007】
また、熱可塑性樹脂の難燃化技術としては、熱可塑性樹脂に液晶性ポリマーを併用することが知られているが、GWITについては触れられていない(特許文献2〜4)。
【0008】
また、特許文献5には、PBT樹脂にポリハロゲン化ベンジル(メタ)アクリレートと五酸化アンチモンを配合した樹脂組成物を用いて形成された樹脂成形部を有する絶縁材料部品で、GWIT温度の向上が図られているが、2mm以下の樹脂部に対しては金属等の耐熱板を組み合わせることによってIEC60695−2−13規格に記載のGWIT温度の向上を図っており、PBT樹脂組成物単体として同規格を満足するものではない。
【特許文献1】特開平8−109320号号公報
【特許文献2】特開平3−179051号公報
【特許文献3】特開平9−31339号公報
【特許文献4】特開平10−279821号公報
【特許文献5】特開2005−232410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、これまで困難とされている、難燃性PBT樹脂組成物よりなる成形部品について、特に薄肉成形品で二次的加工を加えなくてもIEC60695−2規格を満足する絶縁材料を提供することにある。
【0010】
本発明の更に他の目的は、前記特性に加えて難燃性、機械的性質についてもバランスよく満たし、市場に広く利用できる樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、PBT樹脂にハロゲン系難燃剤、難燃助剤、液晶性ポリマー、繊維状強化剤を組み合わせることで得た樹脂組成物では、赤熱棒に対する耐性が向上すること、そして特に困難とされている成形品厚み1.5mmにおいても、難燃剤を特定量配合することによりIEC60695−2−13規格による赤熱棒着火温度が775℃以上となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち本発明は、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して
(B)ハロゲン系難燃剤5〜50重量部
(C)難燃助剤5〜40重量部
(D)液晶性ポリマー5〜100重量部
(E)無機充填剤0〜200重量部
を配合してなり、好ましくは更に(F)トリアジン化合物、フォスフィン酸塩およびジフォスフィン酸塩から選ばれた1種以上の化合物1〜100重量部(対(A)成分100重量部)を配合してなる難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。更に本発明では、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物によって構成される絶縁材料部品である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物によれば、成形性・組み立て性に優れた絶縁材料部品(プリント回路基板、端子台、プラグ等)を提供でき、定格電流が0.2Aを超える接続部を支持しているか、またはこれらの接続部から3mm以内の距離にある絶縁材料部品の安全性を向上させ、幅広く使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に用いるPBT樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ハロゲン系難燃剤、(C)難燃助剤、(D)液晶性ポリマーにより構成され、更に(E)無機充填剤を配合するのが好ましく、また(F)トリアジン化合物、フォスフィン酸塩およびジフォスフィン酸塩から選ばれた1種以上の化合物を配合するのが好ましい。
[(A)PBT樹脂]
本発明における(A)PBT樹脂とは、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体と炭素数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)またはそのエステル形成性誘導体を重縮合して得られる熱可塑性樹脂であり、ブチレンテレフタレート繰り返し単位を70重量%以上含有する共重合体であってもよい。
【0015】
テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体(低級アルコールエステル等)以外の二塩基酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、コハク酸等の脂肪族、芳香族多塩基酸またはそのエステル形成性誘導体が上げられる。また、1,4−ブタンジオール以外のグリコール成分としては、通常のアルキレングリコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール等、1,3−オクタンジオール等の低級アルキレングリコール、ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族アルコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等のアルキレンオキサイド付加体アルコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリヒドロキシ化合物またはそのエステル形成性誘導体等が挙げられる。本発明では、上記の如き化合物をモノマー成分として重縮合して得られるPBT樹脂は何れも本発明の(A)成分として使用することができ、単独で又は2種類以上混合して使用される。
【0016】
本発明で用いられるPBT樹脂(A)は、溶剤としてO−クロロフェノールを用い25℃で測定した固有粘度が0.6〜1.2g/dlの範囲、好ましくは0.65〜1.1g/dlの範囲、更に好ましくは0.65〜0.9g/dlの範囲のものが望ましい。固有粘度が0.6g/dl未満ではテトラヒドロフラン等のPBT樹脂を発生源とするガスの発生良が十分低減できず、成形時に外観不良およびデポジット付着等が発生し好ましくない。また、1.2g/dlを超えると成形時の流動性が不良となる場合がある。
【0017】
本発明では、PBT樹脂としてコポリマーに属する分岐ポリマーも用いることができる。ここでいうPBT樹脂分岐ポリマーとは、いわゆるPBT樹脂またはブチレンテレフタレート単量体を主成分とし、多官能性化合物を添加することにより分岐形成されたポリエステルである。ここで使用できる多官能性化合物としては、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらのアルコールエステル、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等がある。
[(B)ハロゲン系難燃剤]
ハロゲン系難燃剤(B)は、難燃性の維持向上のために必須成分である。ハロゲン系難燃剤(B)としては、ハロゲン化芳香族ビスイミド化合物、ハロゲン化ベンジルアクリレート、ハロゲン化ポリスチレン化合物、あるいは末端を変性したハロゲン化芳香族エポキシ化合物がGWIT向上効果の点で好ましい。
【0018】
ハロゲン系難燃剤として一般的に使用されているハロゲン化ポリカーボネートを後記する(F)成分と併用した場合には、GWIT性については効果が得られるものの、混練時あるいは成形時の滞留安定性が悪化し、ガス発生や粘度低下等の現象が見られることから好ましくない。
【0019】
また、ハロゲン化芳香族エポキシ化合物を後記する(F)成分と併用した場合には、エポキシの反応が生じることで、混練時あるいは成形時に増粘が見られ生産性が低下することから、エポキシ末端を変性したハロゲン化芳香族エポキシ化合物を選択する必要がある。
【0020】
以上のことから、ハロゲン系難燃剤としては、ハロゲン化芳香族ビスイミド化合物、ハロゲン化ベンジルアクリレート、ハロゲン化ポリスチレン化合物が好ましい。
【0021】
ハロゲン原子には、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が含まれるが、好ましくは塩素、臭素である。
【0022】
ハロゲン系難燃剤(B)は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。ハロゲン系難燃剤(B)の添加量は、PBT樹脂(A)100重量部に対して5〜50重量部、好ましくは10〜40重量部、特に好ましくは15〜40重量部である。ハロゲン系難燃剤(B)の添加量が5重量部より少ないと十分な難燃性が得られず、50重量部より多いと機械的特性が低下しやすい。
[(C)難燃助剤]
難燃助剤(C)は、ハロゲン系難燃剤(B)と併用した場合に難燃性の相乗効果が知られる三酸化アンチモンや五酸化アンチモン等のアンチモン化合物、またタルクやマイカ等のケイ酸塩類、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、ベーマイト、硫酸亜鉛、酸化亜鉛等が使用できるが、アンチモン化合物が好ましい。
【0023】
難燃助剤(C)の添加量は、PBT樹脂(A)100重量部に対して5〜40重量部、好ましくは10〜30重量部、更に好ましくは15〜30重量部である。難燃助剤(C)の添加量が5重量部より少ないと難燃助剤としての効果が発揮されず、40重量部より多いと機械的強度を低下させる。
[(D)液晶性ポリマー]
本発明で使用する液晶性ポリマー(D)とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性ポリマーは直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0024】
前記のような液晶性ポリマーとしては特に限定されないが、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましく、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。これらは60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1重量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、さらに好ましくは2.0〜10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが使用される。
【0025】
本発明に適用できる液晶性ポリマー(D)としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドとして特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンの群から選ばれた少なくとも1種以上の化合物を構成成分として有する芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミドである。
【0026】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミドなどが挙げられる。さらに上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0027】
本発明に適用できる前記液晶性ポリマー(D)を構成する具体的化合物の好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)および下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p−アミノフェノール、p−フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【0028】
【化1】

【0029】
(但し、X :アルキレン(C1〜C4)、アルキリデン、-O- 、-SO-、-SO- 、-S-、-CO-より選ばれる基、Y :-(CH)-(n =1〜4)、-O(CH)O-(n =1〜4)より選ばれる基)
本発明が適用される特に好ましい液晶性ポリマー(D)としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を主構成単位成分とする芳香族ポリエステル及び芳香族ポリエステルアミドである。
【0030】
前記液晶性ポリマー(D)は単独で又は2種以上組み合わせて使用できるが、液晶性ポリマーの融点が高すぎる場合にはPBT樹脂との混練等に問題が生じる。例えば液晶性ポリマーの融点がPBT樹脂の加工温度よりもはるかに高い場合には、PBT樹脂の加工温度で混練すると液晶性ポリマーの良分散性が得られない。また、良分散を得るために加工温度を上げていくとPBT樹脂自身の熱分解が生じてしまう。そのゆえ、液晶性ポリマーの融点としては320℃以下であることが望まれる。
【0031】
液晶性ポリマー(D)の添加量は、PBT樹脂(A)100重量部に対して5〜100重量部、好ましくは10〜50重量部、更に好ましくは10〜30重量部である。液晶性ポリマー(D)の添加量が5重量部より少ないとGWIT改善効果が少なく、100重量部より多いとPBT樹脂組成物としての特性が失われてしまう。
[(E)無機充填剤]
本発明に用いる樹脂組成物には、機械的物性を改善する目的で無機充填剤(E)を添加することが好ましい。
【0032】
無機充填剤(E)としては、繊維状物、板状物、粒状物及びこれらの混合物が挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、金属繊維(例えばステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等)、有機繊維(例えば、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維等)等の繊維状物、ガラスフレーク、マイカ、タルク等の板状物及び/又は層状珪酸塩、ガラスビーズ、カーボンブラック、炭酸カルシウム等の粒状物など周知のものが挙げられる。機械的強度や剛性については、繊維状物、特にガラス繊維が選定され、成形品の異方性およびソリの低減が重要なものは板状物、特にマイカが選ばれる。
【0033】
これら無機充填剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、好ましい無機充填剤は繊維状物、特にガラス繊維である。
【0034】
繊維状強化剤の平均繊維径は特に制限されず、例えば、1〜100μm、好ましくは1〜50μm、特に好ましくは3〜30μm程度である。また、繊維状強化剤の平均繊維長も特に制限されず、例えば、0.1〜20mm程度である。
【0035】
無機充填剤(E)の添加量は、例えば、PBT樹脂(A)100重量部に対して0〜200重量部であり、要求される剛性や寸法安定性のレベルに応じて配合量を決定すればよい。配合量としては、通常5〜120重量部、好ましくは30〜100重量部である。配合量が200重量部より多いと溶融混練性、成形性が低下するため好ましくない。
【0036】
尚、無機充填剤は、必要により収束剤又は表面処理剤(例えば、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物)で表面処理してもよい。無機充填剤は、前記収束剤又は表面処理剤により予め表面処理してもよく、又は樹脂組成物の調製の際に収束剤又は表面処理剤を添加して表面処理してもよい。
【0037】
本発明のPBT樹脂組成物においては、GWITを更に向上するために、(F)成分としてトリアジン化合物、フォスフィン酸塩およびジフォスフィン酸塩から選ばれた1種以上の化合物を配合することが好ましい。
【0038】
トリアジン化合物としては、メラミン、メラミンシアヌレート、メラム、メレム、メロン等が挙げられ、燃焼時に昇華や分解する際の吸熱反応で燃焼系を冷却する効果、分解時に発生する窒素ガス等による遮断効果、燃焼成分の希釈効果等により、難燃性を付与することができる。
【0039】
本発明で使用するフォスフィン酸塩としては、例えば下記式(1)で表されるものであり、ジフォスフィン酸塩としては、例えば下記式(2)で表されるものであり、これらの重合体を使用することもできる。
【0040】
【化2】

【0041】
(式中、R1およびR2は直鎖又は分岐鎖のC1〜C6アルキル、またはフェニルを表し、R3は直鎖又は分岐鎖のC1〜C10 アルキレン、アリーレン、アルキルアリーレン、またはアリールアルキレンを表し、M はカルシウムイオンまたはアルミニウムイオンを表し、m は2または3であり、n は1または3であり、そしてX は1または2である。)
中でも、ジメチルフォスフィン酸塩、エチルメチルフォスフィン酸塩、ジエチルフォスフィン酸塩、メチルフェニルフォスフィン酸塩等の金属塩が好ましく利用でき、特に好ましくはジエチルフォスフィン酸塩の金属塩である。本発明においてはこれら化合物の1種又は2種以上が用いられる。
【0042】
(F)成分の添加量は、PBT樹脂(A)100重量部に対して1〜100重量部、好ましくは1〜80重量部、特に好ましくは1〜60重量部、更に好ましくは5〜50重量部である。(F)成分の添加量が1重量部より少ないとGWIT改善効果が少なく、100重量部より多いと機械物性を低下させることがある。
【0043】
尚、成形品の用途によっては、UL規格94の難燃区分「V−0」であることを要求される場合がある。その場合には、フッ素系樹脂等の滴下防止剤を難燃剤と共に用いることが好ましい。
【0044】
フッ素系樹脂には、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等のフッ素含有モノマーの単独又は共重合体や、前記フッ素含有モノマーとエチレン、プロピレン、(メタ)アクリレート等の共重合性モノマーとの共重合体が含まれる。
【0045】
このようなフッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド等の単独重合体や、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体等の共重合体が例示される。これらのフッ素系樹脂は1種又は2種以上混合して使用できる。また、これらのフッ素系樹脂は、分散状の形態で使用できる。
【0046】
フッ素系樹脂の添加量は、例えば、PBT樹脂(A)100重量部に対して0〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部、更に好ましくは0.2〜1.5重量部程度である。
【0047】
さらに、本発明に使用する樹脂組成物には、必要に応じて、慣用の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、耐候安定剤等の安定剤、滑剤、離型剤、着色剤、結晶核剤、結晶化促進剤等を添加してもよく、また他の熱可塑性樹脂(例えば、ポリアミド、アクリル樹脂等)や熱硬化性樹脂(例えば、不飽和PBT樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等)を添加してもよい。
【0048】
本発明に使用するPBT樹脂組成物は、粉粒体混合物や溶融混合物であってもよく、(A)PBT樹脂、(B)ハロゲン系難燃剤、(C)難燃助剤、(D)液晶性ポリマー、必要により(E)無機充填剤、(F)トリアジン化合物、フォスフィン酸塩およびジフォスフィン酸塩から選ばれた1種以上の化合物、フッ素系樹脂、その他の添加剤等を慣用の方法で混合することにより調製できる。例えば、各成分を混合して、一軸又は二軸の押出機により混練し押出してペレットとして調製することができる。この場合、液晶性ポリマーの融点以上で溶融混練を行い、PBT中に液晶性ポリマーを良分散させることが好ましい。本発明の絶縁材料部品は、上記のようにして調製したPBT樹脂組成物を使用して射出成形等の公知の成形を行うことで得られる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
実施例1〜7、比較例1〜3
表1に示すように、(A)PBT樹脂100重量部に所定量の(B)、(C)、(D)及び(F)成分を配合し、Vブレンダーにて均一に混合した。この得られた混合物を日本製鋼所社製二軸押出機のホッパーに投入し、所定量の(E)ガラス繊維はサイドフィードし、バレル温度280℃にて溶融混合し、ダイスから吐出されるストランドを冷却後切断してペレット状組成物を得た。得られたペレットを140℃にて3時間乾燥後、ファナック社製射出成形機を使用して、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件にて、所定の各種試験用成形品を成形し、下記する各種物性評価を行った。結果を表1に示す。
(1)GWIT評価
評価用試験片(8cm×8cm×厚み3mmの平板、及び同厚み1.5mmの平板、並びに、6cm×6cm×厚み0.75mmの平板)について、IEC60695−2−13に定める試験法に従って評価した。即ち、所定形状の赤熱棒(外形4mmのニッケル/クロム(80/20)線をループ形状にしたもの)を30秒間接触させ、着火しないか、あるいは5秒以上延焼しない場合の先端の最高温度より25℃高い温度として定義される。同規格における難燃用途としては、GWITとして775℃以上が求められる。
(2)GWFI評価
上記試験片について、IEC60695−2−12に定める試験法に従った。即ち、所定形状の赤熱棒(外形4mmのニッケル/クロム(80/20)線をループ形状にしたもの)を30秒間接触させ、その後引き離す動作の中で着火しないか,着火しても引き離し後30秒以内に火が消える先端の最高温度として定義される。難燃用途にはGWFIとして850℃以上が求められる。
(3)難燃性試験
試験片(厚み1/32インチ)について、アンダーライターズ・ラボラトリーズのUL−94規格垂直燃焼試験により実施した。
(4)引張試験
ISO294記載の4mm厚みのダンベル試験片を用いて、ISO527に準拠して引張強さ、引張伸びを測定した。
【0051】
実施例・比較例で使用した各成分の詳細は以下の通りである。
(A)PBT樹脂
・ウィンテックポリマー社製、固有粘度0.7g/dl
(B)ハロゲン系難燃剤
・(B−1)ポリペンタブロモベンジルアクリレート(ブロムケムファーイースト社製、FR1025)
・(B−2)エチレンビステトラブロモフタルイミド(アルベール社製、SAYTEX BT93W)
・(B−3)臭素化ポリスチレン(グレートレイクスケミカルズ社製、PDBS−80M GLC)
(C)難燃助剤;三酸化アンチモン(日本精鉱社製、PATOX−M)
(D)液晶性ポリマー;ポリプラスチックス(株)製A950(融点280℃)
(E)無機充填剤;ガラス繊維(日本電気硝子社製、ECS03T−127、φ10)
(F)成分
・(F−1)1,2 ジエチルフォスフィン酸のアルミニウム塩
下記手法により製造した。
【0052】
2106g(19.5モル)のジエチルフォスフィン酸を6.5リットルの水に溶解し、507g(6.5モル)の水酸化アルミニウムを、激しく攪拌しながら加え、混合物を85℃に加熱した。混合物を80〜90℃で合計65時間攪拌し、次に60℃に冷却し、吸引濾過した。質量が一定となるまで120℃の真空乾燥キャビネット中で乾燥した後、300℃以下では溶融しない微粒子粉末2140gが得られた。収率は理論値の95%であった。
・(F−2)メラミンシアヌレート(日産化学社製ホスタフロンTF1620)
滴下防止剤;四フッ化エチレン樹脂(ヘキストインダストリー社製、ホスタフロンTF1620)
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、PBT樹脂に、ハロゲン系難燃剤と液晶性ポリマーを併用配合することで、試験片厚み0.75mmt、3mmtにおいてIECの60695−2−13記載の赤熱棒着火温度775℃以上が可能となる(実施例1〜4)。更にトリアジン化合物、フォスフィン酸塩を併用することでIECの推奨する厚み0.75〜3mmtまでの広い範囲でGWIT775℃以上が可能となる。
【0055】
しかも、実施例1〜3と比較例1〜3との対比から明らかなように、本発明によれば物性の低下がほとんどない中でGWITに対する効果が向上していることがわかる。
【0056】
このようなことから、オペレータが付かない状態で動作するPBT製品のうち、動作中に0.2Aを超える電流が流れる接続部を支持している部品、またはこれらの接続部から3mm以内の距離にある部品(プリント回路基板、端子台、プラグ等)に対し、本発明の難燃性PBT樹脂を使用することで電気的安全性を向上させることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して
(B)ハロゲン系難燃剤5〜50重量部
(C)難燃助剤5〜40重量部
(D)液晶性ポリマー5〜100重量部
(E)無機充填剤0〜200重量部
を配合してなる難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(B)ハロゲン系難燃剤が、ハロゲン化芳香族ビスイミド化合物、ハロゲン化ベンジルアクリレート又はハロゲン化ポリスチレン化合物である請求項1記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
(D)液晶性ポリマーが融点320℃以下のものである請求項1又は2記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
更に(F)トリアジン化合物、フォスフィン酸塩およびジフォスフィン酸塩から選ばれた1種以上の化合物1〜100重量部(対(A)成分100重量部)を配合してなる請求項1〜3の何れか1項記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
試験片厚み0.75mmt、1.5mmt、3mmtの何れにおいてもIEC60695−2−13記載の赤熱棒着火温度775℃以上の条件を満足する請求項1〜4の何れか1項記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物によって構成されてなる絶縁材料部品。

【公開番号】特開2008−19400(P2008−19400A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−194662(P2006−194662)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(501183161)ウィンテックポリマー株式会社 (54)
【Fターム(参考)】