説明

難燃性ポリ塩化ビニル原料組成物及びそれにより成形される難燃性に優れた塩化ビニル成形品

【課題】従来のハロゲン系の難燃剤を使用することがなく環境に調和しつつ高度な難燃性を発揮することができ、また流動性もよく優れた加工性を発揮できる難燃性ポリ塩化ビニル原料組成物と、それにより成形される難燃性の焼成品を提供する。
【解決手段】塩化ビニル原料に、難燃剤としてカーボンからなる第1の難燃剤と、リンからなる第2の難燃剤の二元系からなる難燃剤を含有させた。前記第1の難燃剤は、高導電性カーボンブラックと膨張黒鉛からなり、第2の難燃剤は、赤リンと有機系リン化合物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のハロゲン系の難燃剤を使用することがなく環境に調和しつつ高度な難燃性を発揮することができ、また流動性もよく優れた加工性を発揮できる難燃性ポリ塩化ビニル原料組成物、及びそれにより成形される難燃性に優れた焼成品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は安価なことはもとより、更には加工性、耐薬品性、耐候性、耐傷付き性、電気的特性などバランスのとれた物性を有することから、産業用及び家庭用電気製品の分野のみならず、建築用、室内装飾品、自動車部品などの各種分野に多く利用されている(例えば、特許文献1や特許文献2を参照)。係る使用目的の多様化に伴い、塩化ビニル系樹脂製品も高度な難燃性が要求されるようになってきており、しかも、その要求性能、安全性、環境への配慮などはより厳しくなってきた。また、法規制などにより基準値を義務付けされているものもある。
【0003】
本来、塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル樹脂自体が56%の塩素を含み自己消火性であるが、塩化ビニルペーストでは可燃性の可塑剤が多量に配合されており、平均塩素含有量が30%以下になると自己消火性を失うと言われている。このため、一般的な塩化ビニル系樹脂が火炎に曝された場合は、熱により溶融して熱分解し、可燃性ガスを発生して着火し燃焼を継続しながら樹脂をドリップする現象を生じることになる。
【0004】
そこで、難燃剤を添加して難燃性の向上を図ることが提案されている。例えば、難燃剤として水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムがあるが、これらは分解時の吸熱量が小さいため多量の添加が必要となり機械的強度の低下を招き、また軽量化にも反するという問題があった。また、ハロゲン系の難燃剤の場合は比較的少量での配合で高難燃性が得られるが、煤や煙の発生が多くハロゲン化水素等の発生により加工機の腐食や人体への悪影響が懸念されるという問題があった。従って、新たな難燃剤を用いた難燃性ポリ塩化ビニル原料組成物の開発が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−302593号公報
【特許文献2】特開平9−241460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
塩化ビニル樹脂の燃焼メカニズムは次の通りである。まず火源から発せられる輻射熱により成形体表面が加熱されると、内部に熱伝導することにより高分子が溶融し、低分子化を経て熱分解をすると考えられる。高分子の熱分解は、大部分がラジカル的切断によって起こり、結合エネルギーの大きな高分子ほど熱分解しにくい。また、ビニル系高分子はC‐C結合エネルギーが一般的に小さくランダム分解、解重合が容易に起こる。こうしたことから、分解によって可燃性ガスが生成し、発生ガスが成形体内部に拡散し、更に、可燃性ガスが成形体表面まで到達すると気相に拡散して着火燃焼し、このサイクルにより燃焼が継続することになる。
【0007】
そこで本願発明者は、どのような材料が燃焼時においてドリップ現象がなく、低発煙性を得て、小量の難燃配合で高度な難燃性を発揮するのに効果的であるかを調べるなかで燃焼メカニズムについて分析した。
燃焼サイクルの中で最も注目したのは、高分子の溶融分解である。熱分解はラジカル反応の連鎖により起こる。つまり、燃焼現象は高分子の熱分解によって発生した可燃性ガスが、その後の燃焼となっていく。このことは、対象物がラジカルをトラップする化合物を用いれば反応を抑制でき、更には可燃性ガス量の発生量抑制もできれば高度な難燃性を発揮できるということになる。
【0008】
このことから、難燃性を発揮するための第1の条件は、着火温度が高く、熱安定性に優れており、また揮発減量が少量であって、それ自体が着火しないことである。第2の条件は、脱水炭化作用による炭化層(チャー)の生成とラジカルトラップすることである。第3の条件は、可塑剤構成を耐熱性可塑剤(トリメリット酸混合アルキルエステル、ジペンタエリスリト、ピロメリット酸)に難燃性可塑剤(クレジルフェニルホスフェート、レゾルシノールジホスフェート、芳香族縮合リン酸エステル)を併用することである。第4の条件は、難燃剤の添加によって粘性が高くなると、成形型内での流動性が悪くなり、寸法通りの成形品が得られなくなるため、小量の添加量であることである。第5の条件は、環境を阻害せず、また安全衛生上も問題がないことである。第6の条件は、モールド成型における原料の流動性を確保するよう塩化ビニルペースト原料と相容性があることである。
【0009】
本願発明者は、以上の第1〜6の条件を満足し、燃焼時においてドリップ現象がなく低発煙性の高度な難燃剤として種々の材料を選択し、かつその配合量につき多くの実験を重ねた結果、全ての条件を満足する材料として、微細粒子のカーボンからなる第1の難燃剤と、リンからなる第2の難燃剤の二元系からなる難燃剤を併用することが好適であることを見出した。
より具体的には、前記カーボンからなる第1の難燃剤は、高導電性カーボンブラックと膨張黒鉛との併用からなるものが好ましく、また、リンからなる第2の難燃剤は、赤リンとリン酸エステルとの併用からなるものが好ましい。更に、前記リン酸エステルは、トリメリット酸混合アルキルエステルとクレジルフェニルホスフェートを混合したものとすれば、高度な難燃剤としての作用を発揮するだけでなく、ポリ塩化ビニルペースト原料の可塑剤としての作用も発揮することができるので好ましい。
【0010】
また、上記のカーボンとリンの二元系からなる難燃剤(リン酸エステルはポリ塩化ビニルペースト原料の可塑剤としても作用する)からなる複合難燃剤を、ポリ塩化ビニル原料に配合添加して得られた成形体の難燃試験を行った結果は、燃焼時においてドリップ現象がない高度な難燃性(「UL94」のV0相当の効果)を確保できることを確認した。また、低発煙効果についても大幅に発煙が減少することを確認した。
【0011】
本発明は、上述の発明者が見出した事実に基づき、従来からあるハロゲン系の難燃剤や三酸化アンチモンの難燃助剤を用いずに、環境調和型の二元系からなる複合難燃剤を用いた難燃性ポリ塩化ビニル原料及びそれによって成形される難燃性に優れた成形品を提供することを目的として完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するためになされた本発明は、ポリ塩化ビニル原料に、難燃剤としてカーボンからなる第1の難燃剤と、リンからなる第2の難燃剤の二元系からなる難燃剤を含有させたことを特徴とする難燃性ポリ塩化ビニル原料組成物である。
【0013】
前記カーボンからなる第1の難燃剤は、高導電性カーボンブラックと膨張黒鉛からなるが好ましく、これを請求項2に係る発明とする。
【0014】
また、前記リンからなる第2の難燃剤は、赤リンと有機系リン化合物からなるものが好ましく、これを請求項3に係る発明とする。
【0015】
前記有機系リン化合物は、トリメリット酸混合アルキルエステルとクレジルフェニルホスフェートを混合したものが好ましく、これを請求項4に係る発明とする。
【0016】
ポリ塩化ビニル原料100質量部に対し、高導電性カーボンブラック:0.1〜2.0質量部、膨張黒鉛:2.0〜10.0質量部、赤リン:0.5〜10.0質量部の割合で含有されているものが好ましく、これを請求項5に係る発明とする。
【0017】
また、ポリ塩化ビニル原料100質量部に対し、トリメリット酸混合アルキルエステル:30.0〜70.0質量部、クレジルフェニルホスフェート:10.0〜40.0質量部の割合で含有されているものが好ましく、これを請求項6に係る発明とする。
【0018】
更に、前記記載の難燃性ポリ塩化ビニル原料組成物を成形型内に注入し、加熱焼成して成形したことを特徴とする難燃性に優れたポリ塩化ビニル成形品を請求項7に係る発明とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明では、難燃剤としてナノ(nm)微粒子径サイズのカーボンからなる第1の難燃剤と、赤リンとリン酸エステルからなる第2の難燃剤の二元系からなる複合難燃剤を含有させたことで小量の難燃剤の添加量で優れた難燃性を発揮し、ハロゲンフリーで環境に調和したものとすることができる。
【0020】
請求項2に係る発明では、ナノ(nm)微粒子径サイズのカーボンからなる第1の難燃剤として高導電性カーボンブラックと膨張黒鉛からなるものとしたので、熱伝導率向上による熱の拡散放熱により表面での燃焼拡大を抑制し、燃焼時における溶融物のドリップ防止と発煙量低下を図ることができる。
【0021】
請求項3に係る発明では、リンからなる第2の難燃剤を赤リンと有機系リン化合物からなるものとしたので、前記カーボンとの相乗効果により優れた難燃性を発揮することができる。
【0022】
請求項4に係る発明では、有機系リン化合物をトリメリット酸混合アルキルエステルとクレジルフェニルホスフェートを混合したものとしたので、難燃剤として作用するだけでなく、ポリ塩化ビニルペースト原料の可塑剤としても作用し、可塑化効率を妨げず流動性も確保して可塑化と難燃化(火炎長・残炎時間の短縮)の機能を併せ持つものとすることができる。
【0023】
請求項5に係る発明では、難燃剤の含有量を所定の範囲のものとしたので、難燃剤の添加量を少なくでき、ポリ塩化ビニル原料との相容性及び流動性が良好で効率よく成形を行うことができる。
【0024】
請求項6に係る発明では、トリメリット酸混合アルキルエステルとクレジルフェニルホスフェートの含有量を所定の範囲のものとしたので、可塑化と難燃化の機能を十分に発揮できる。
【0025】
請求項7に係る発明では、燃焼時において、ドリップ現象が発生せず残炎時間、火炎長の短縮化と低発煙性である高度な難燃性を有し、かつ成形型通りの製品を効率よく成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のポリ塩化ビニル原料組成物における可塑剤量と粘度の関係を示すグラフである。
【図2】本発明のポリ塩化ビニル原料組成物における有機系リン化合物添加量と粘度の関係を示すグラフである。
【図3】本発明のポリ塩化ビニル原料組成物における有機系リン化合物添加量と残炎時間の関係を示すグラフである。
【図4】本発明のポリ塩化ビニル原料組成物における有機系リン化合物添加量と火炎長の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を示す。
本発明のポリ塩化ビニル原料組成物は、軟質の液状(ゾル)のポリ塩化ビニル原料に難燃剤としてカーボンからなる第1の難燃剤と、リンからなる第2の難燃剤とする二元系からなる複合の難燃剤を含有させたものである。
前記カーボンからなる第1の難燃剤は、高導性カーボンブラックと膨張黒鉛という同属系のカーボンを併用したものであり、リンからなる第2の難燃剤は、無機リン化合物の赤リンと有機リン化合物のリン酸エステルの同属系のリン化合物を併用したものである。このようなカーボンとリンの二元系からなり、かつカーボン、リンともに各々2種類の同属系物質で構成されている複合の難燃剤を用いると、前述の第1〜6の全ての条件を満足して高度な難燃性を発揮するとともに、特に火炎の減少と燃焼時の抑制に大きな効果を発揮することを確認したことによる。
【0028】
高導電性カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック等があるが、特にケッチェンブラックが好ましい。このケッチェンブラックは、ナノ(nm)レベルの超微粒子で高い導電性を有して品質も安定しており、他の高導電性カーボンブラックに比べて半分以下の添加量で同等以上の性能を得ることができる。
カーボン元素は、融点が3550℃と高融点を持つ元素であり、特に本発明で使用しているケッチェンブラックと膨張黒鉛については、ブンゼンバーナによる火炎を直接に接炎しても着火燃焼することがなく優れた耐熱性を発揮することが確認できている。
【0029】
赤リンと有機系リン化合物は、脱水炭化作用により固相表面に炭化皮膜の形成を促進する。また、有機系のリン酸エステルは、燃焼時においてPO・ラジカルが生成されるので、発生ラジカルを捕捉して高分子の熱分解を抑制するという効果が得られる。
また、有機系リン化合物としてトリメリット酸混合アルキルエステルとリン酸エステルを混合したものを用いており、これらがポリ塩化ビニルペースト原料の可塑剤としても作用することにより、可塑化効率を妨げず流動性も確保して、可塑化と難燃化(火炎長・残炎時間の短縮)の二つの機能を併せ持つものとして機能している。
なお、以上の本発明の難燃剤はいずれも従来の臭素塩素・フッ素・ヨウ素等ハロゲン化合物の難燃剤に代わり、ハロゲンフリーとして環境に調和できるものである。
【0030】
ポリ塩化ビニル原料100質量部に対し、高導電性カーボンブラック:0.1〜2.0質量部、膨張黒鉛:2.0〜10.0質量部、赤リン:0.5〜10.0質量部の割合で含有されているのが好ましい。含有量がいずれも下限値より少ない場合は、火炎長が大きくなり、また残炎時間も長くなり、更には、ドリップ現象も見られ所望の難燃性を得ることができない。一方、含有量が上限値より多くても難燃効果は頭打ちであり、含有量としては上限値で十分である。
また上記難燃剤の合計含有量は3.0〜20質量部の範囲が好ましい。下限値より少ない場合は、十分な難燃性を得ることができず、一方、上限値より多いとウレタン原料中への均一な混合が難しくなるので好ましくない。
【0031】
ポリ塩化ビニル原料100質量部に対し、トリメリット酸混合アルキルエステル:30.0〜70.0質量部、クレジルフェニルホスフェート:10.0〜40.0質量部の割合で含有されているのが好ましい。含有量がいずれも下限値より少ない場合は、ポリ塩化ビニルペースト原料の可塑剤としての作用を十分に発揮することができない。一方、含有量が上限値より多いと、塩化ビニルペースト原料の流動性が低下するので好ましくない。
また、これらの合計含有量はポリ塩化ビニル原料100質量部に対し、50.0〜80.0質量部の範囲であることが好ましい。50.0質量部未満では可塑剤としての作用が不十分となり、80.0質量部より多いと機械的強度の低下を招くので好ましくない。
【0032】
以上のように、難燃剤として高導電性カーボンブラックと膨張黒鉛からなる第1の難燃剤と赤リンと有機系リン化合物からなる第2難燃剤の二元系からなる難燃剤を含有させた場合の難燃作用の理由については明確ではないが、以下によるものと解される。
これは酸化反応の場において、酸素とは何らかの反応はするが、その反応のエンタルピーが著しく低い無機物質が存在すれば、そのもの自身は燃焼に無関係となり、単位体積当たりの材料、即ち高分子の部分が減少し、揮発性可燃性ガスの割合が低下し、酸化反応場での火炎を抑制することになる。更に、カーボンと酸素との反応が起きれば、固相中の酸素濃度の低下を招くこととなる。
なお、この作用は高導電性カーボンブラック(即ち、ナノ粒子サイズのケッチェンブラック)が主体となる。また、膨張黒鉛については、急速な温度上昇に伴って体積が著しく膨張して炭化層を形成し、その炭化形状がカール状を呈することから、カール形状のジョイント効果を促してマトリックスへの強化作用として働き、燃焼時におけるドリップ防止となる。
【0033】
また、本発明では、特に有機系リン化合物としてトリメリット酸混合アルキルエステルとクレジルフェニルホスフェートを混合したものを用いている。この有機系リン化合物は、燃焼に伴い有機材料の表面に炭化層を形成するとともに、燃焼時分解して生成するHPO-PO等のラジカルが気相において活性なHラジカルやOHラジカルをトラップする作用を奏して燃焼反応を抑制する効果がある。更には、これらがポリ塩化ビニルペースト原料の可塑剤としても作用することにより、可塑化効率を妨げず流動性も確保して、可塑化と難燃化(火炎長・残炎時間の短縮)の二つの機能を併せ持つものとして機能する。
以上のように、高導電性カーボンブラックと膨張黒鉛からなる第1の難燃剤と、赤リンと有機系リン化合物からなる第2の難燃剤の二元系からなる複合難燃剤の相乗効果により、高度な難燃性と低発煙性を発揮するものと解される。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について説明する。
本発明のポリ塩化ビニル原料組成物に使用する材料を表1に示す。また、表2にそれら使用材料の性状を示し、表3にそれら使用材料のブンゼンバーナによる着火・燃性特性を示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
表1の材料を表4に示す割合で配合し、プロペラ撹拌機によって1000〜1500rpm/minで3分間均一に混合した。次いで、この混合液を金属製の型(150W×250L×10H、単位:mm)に所定厚み分を注型した後、ギヤーオーブンにて190℃×8分で加熱焼成し焼成品(シート)を得た。
得られた焼成品から試験片(10W×125L×1.6t(厚み)、単位:mm)を採取し、「UL94(20mm垂直燃焼試験)」に準じた燃焼試験を実施した。
「UL94」は、国際規格となっているアメリカの燃焼試験法であり、バーナの筒の上端が試験片の下端から10±1mmになるようにし、試験片の中央に対し炎を垂直に当て、その距離を10±0.5秒間保って、試験片の燃焼及び溶融落下物による脱脂綿の着火の有無を調べる方法である。試験条件は下記の表5に示す通りである。
【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
得られた難燃性試験の結果を表4に示す。本発明では試験片の着火は認められず、また試験片が溶けて下にある脱脂綿上にドリップ(滴下)する現象も見られず、「UL94」でいう燃焼性クラスの「V−0」に相当する効果があることを確認した。
【0042】
また、図1に有機系リン化合物(トリメリット酸混合アルキルエステルのみ)の添加量(質量部)と粘度(MPa・s)の関係を示す。このグラフから、可塑剤の添加量が増加するのに伴いリニアーに粘度が低下することがわかる。
図2に有機系リン化合物(トリメリット酸混合アルキルエステルのみの場合と、トリメリット酸混合アルキルエステルとクレジルフェニルホスフェートの混合の場合)の添加量と粘度の関係を示す。このグラフから、クレジルフェニルホスフェートの添加によって可塑化効率が良好になることがわかる。これは、流動性が向上することを意味し成形性にとって重要なファクターとなる。
図3に有機系リン化合物の添加量と残炎時間の関係を示す。このグラフから、クレジルフェニルホスフェートの添加によって残炎時間を短縮できることがわかる。
図4に有機系リン化合物の添加量と火炎長の関係を示す。このグラフから、クレジルフェニルホスフェートの添加によって火炎長を短くできることがわかる。
【0043】
次に、一例として自動車用内装材の製造について説明する。
表4の実施例に示すポリ塩化ビニル原料組成物を準備した。このポリ塩化ビニル原料を、離型剤(コニシ社製URH−580)を塗布したアルミ製モールド型内へ注入した。なお、このモールド型は、熱風循環式加熱炉において型温45℃に加熱しておく。
注入後の型を熱風循環式加熱炉に装入し、190℃で8分間加熱焼成処理した。その後、成形品を型から取り出し、ポリ塩化ビニル泡樹脂よりなる所定形状の自動車用内装材を得た。
この製品から試験片を切り出し、前記の表5に示す燃焼試験方法により難燃テストを行った結果、試験片の着火は認められなかった。また、試験片が溶けて下にセットしてある脱脂綿上にドリップ(滴下)する現象も見られず、優れた難燃性を発揮することが確認できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル原料に、難燃剤としてカーボンからなる第1の難燃剤と、リンからなる第2の難燃剤の二元系からなる難燃剤を含有させたことを特徴とする難燃性ポリ塩化ビニル原料組成物。
【請求項2】
カーボンからなる第1の難燃剤が、高導電性カーボンブラックと膨張黒鉛からなるものである請求項1に記載の難燃性ポリ塩化ビニル原料組成物。
【請求項3】
リンからなる第2の難燃剤が、赤リンと有機系リン化合物からなるものである請求項1に記載の難燃性ポリ塩化ビニル原料組成物。
【請求項4】
有機系リン化合物は、トリメリット酸混合アルキルエステルとクレジルフェニルホスフェートを混合したものである請求項3に記載の難燃性ポリ塩化ビニル原料組成物。
【請求項5】
ポリ塩化ビニル原料100質量部に対し、高導電性カーボンブラック:0.1〜2.0質量部、膨張黒鉛:2.0〜10.0質量部、赤リン:0.5〜10.0質量部の割合で含有されている請求項2または3に記載の難燃性ポリ塩化ビニル原料組成物。
【請求項6】
ポリ塩化ビニル原料100質量部に対し、トリメリット酸混合アルキルエステル:30.0〜70.0質量部、クレジルフェニルホスフェート:10.0〜40.0質量部の割合で含有されている請求項4に記載の難燃性ポリ塩化ビニル原料組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性ポリ塩化ビニル原料組成物を成形型内に注入し、加熱焼成して成形したことを特徴とする難燃性に優れたポリ塩化ビニル成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−126771(P2012−126771A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277579(P2010−277579)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(591028751)株式会社豊和化成 (10)
【Fターム(参考)】