説明

難燃性合成木材用の成形材料及び難燃性合成木材

【課題】高充填率で木粉を充填した合成木材に対し臭素−アンチモン系難燃剤を機械的物性や耐候性を低下させない範囲で添加しつつ,必要な難燃性を得る。
【解決手段】熱可塑性樹脂と木粉により構成され,前記木粉を30〜70mass%含有する主材と,臭素及びアンチモンを含む難燃剤と,トリアジン構造を有する炭化水素基を側鎖に有する含窒素化合物を含み,前記難燃剤中の臭素(Br)及びアンチモン(Sb)分が全体量に対し5.5〜9.5mass%の範囲と成るよう前記難燃剤を添加すると共に,前記含窒素化合物の添加量を全体量に対し0.25〜2.0mass%の範囲とする。これにより,合成木材の機械物性及び耐候性を損なうことなく,高い難燃性が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,木粉を多量に含む熱可塑性樹脂を成形して得られる合成木材用の成形材料,及び前記成形材料によって製造された合成木材に関し,より詳細には難燃性の合成木材を得るための成形材料,及び前記成形材料によって製造された,難燃性の合成木材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂と木粉,及び必要に応じて添加されるその他の副資材を共に溶融混練して得た成形生地を所望の形状に成形して得られる合成木材は,木材の風合いを持ちつつも,腐敗し難い等といった樹脂成形体としての特性をも併せ持つことから,例えば板材等として加工することにより屋外に設置されるウッドデッキ用の建築材料等として広く使用されている。
【0003】
このような合成木材にあっては,充填材である木粉の添加量を増加する程,軽量で安価な製品が得られると共に,木材の風合いが高まるものとなるが,木粉を添加することにより耐燃性が低下し,しかも,木粉の充填量が増える程,燃焼し易くなるという欠点を有しており,このような合成木材の難燃化が要望されている。
【0004】
このような合成木材を難燃化する方法として,熱可塑性樹脂の難燃剤として既知の臭素−アンチモン系の難燃剤を添加することも提案されており,一例として,特許文献1には,樹脂100重量部に木粉が10〜50重量部配合されてなる合成樹脂層中に,10〜60wt%の無機系又は有機系難燃剤を配合した合成木材が記載されていると共に(特許文献1の[特許請求の範囲]),このような難燃剤として,臭素系難燃剤と三酸化アンチモンを共に添加することを開示している(特許文献1の[実施例1])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−80399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように,熱可塑性樹脂に木粉を充填した合成木材においても,これに難燃剤を添加して難燃性を付与することは既に行われている。
【0007】
しかし,前述したように,合成木材に対する木粉の添加量が増加すると耐燃性が低下することから,木粉の充填量が増えるに従い難燃剤の添加量を増やす必要があり,特に,熱可塑性樹脂70〜30mass%に対し,木粉を30〜70mass%充填した合成木材では,木粉を添加していない熱可塑性樹脂に対する臭素−アンチモン系難燃剤の添加量に対して2倍以上の難燃剤の添加が必要となる。
【0008】
そして,難燃剤は高価であることから,難燃剤の添加量が増加すれば合成木材の製造原価が高まることとなり,この製造原価を製品価格に転嫁すれば,価格競争力が失われる。
【0009】
また,前述のように木粉を添加していない熱可塑性樹脂に対する添加量に対し,2倍もの臭素−アンチモン系難燃剤を添加する場合には,得られた合成木材の機械的物性や耐候性が著しく低下するという新たな問題が生じる。
【0010】
そのため,難燃剤の添加を機械的物性や耐候性の低下が生じない範囲の添加量に抑制しながら,必要な難燃性を合成木材に与えることができるようにすることが要望されるが,このような技術は現状において提案されていない。
【0011】
そこで本発明は,上記従来技術における欠点を解消するために成されたものであり,30〜70mass%という高充填率で木粉を充填した合成木材でありながら,臭素−アンチモン系難燃剤の添加量を,合成木材の機械的物性や耐候性を低下させない最小限の範囲に留めつつ,必要な難燃性を得ることができる合成木材用の成形材料,及び前記成形材料によって成形された合成木材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために,本発明の難燃性合成木材用の成形材料は,熱可塑性樹脂と木粉により構成され,前記木粉を30〜70mass%含有する主材と,
少なくとも臭素及びアンチモンを含む難燃剤と,
トリアジン構造を有する炭化水素基を側鎖に有する次式で示す含窒素化合物を含み,
【化1】

前記難燃剤中の臭素(Br)及びアンチモン(Sb)分が全体量に対し5.5〜9.5mass%の範囲と成るよう前記難燃剤を添加すると共に,前記含窒素化合物の添加量を全体量に対し0.25〜2.0mass%の範囲としたことを特徴とする(請求項1)。
【0013】
前記構成の難燃性合成木材用成形材料において,前記熱可塑性樹脂は,これをPP及び/又はPEをベースとしたオレフィン系樹脂とすることができる(請求項2)。
【0014】
また,前記含窒素化合物に対し,臭素(Br)及びアンチモン(Sb)分の合計が質量比で6.5〜37倍となるよう配合する(請求項3)。
【0015】
更に,本発明の合成木材は,前述したいずれかの難燃性合成木材用成形材料を成形して得た難燃性合成木材である(請求項4)。
【発明の効果】
【0016】
以上で説明した本発明の難燃性合成木材用成形材料を使用して合成木材を成形することにより,機械的特性及び耐候性を損なうこと無しに,26%以上という比較的高い酸素指数(材料が燃焼を持続するのに必要な最低酸素濃度:JIS K7201)を有し,且つ,着火しても数秒以内に消火する高い耐燃性を得る合成木材を得ることができた。
【0017】
この酸素指数26%以上という数値は,耐燃性に関するUL規格(アメリカの Underwriters Laboratories 社が定め,同社によって評価される規格)の「94V−2」レベルを達成し得るものである。
【0018】
また,前記含窒素化合物は,側鎖にヒンダードアミン(HALS)骨格を有するため,別途光安定剤等を添加することなく,ヒンダードアミン系光安定剤を添加した場合と同様,得られた合成木材の耐候性を維持乃至は向上させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】臭素−アンチモン系難燃剤の添加量の変化と酸素指数の変化との相関関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態につき以下説明する。
【0021】
1.原料
本発明の難燃性合成木材用成形材料は,前述したように,主材,難燃剤,及び含窒素化合物を少なくとも含み,これに必要に応じてタルク,炭酸カルシウム,その他の無機フィラーや,強化剤,着色剤,酸化防止剤等の副資材を添加することもできる。
【0022】
(1)主材(熱可塑性樹脂+木粉)
本発明の難燃性合成木材用成形材料を構成する前述の主材は,PP,PE,ABS,塩化ビニル等の熱可塑性樹脂30〜70mass%に,木粉を70〜30mass%配合することにより形成されている。
【0023】
この主材の構成成分である前述の熱可塑性樹脂としては,前述したように各種の熱可塑性樹脂を使用可能であるが,好ましくはポリプロピレン(PP),ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン樹脂,及び前記ポリオレフィン樹脂を主成分とする樹脂(以下,ポリオレフィン樹脂及びポリオレフィン樹脂を主成分とする樹脂を総称して「ポリオレフィン系樹脂」という。)を好適に使用することができ,例えば前掲のポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)の混合樹脂を使用するものとしても良い。
【0024】
また,これらの熱可塑性樹脂は,そのうちの一種を単独で使用しても良く,又は複数種類を混合して使用することも可能であり,例えば複数種の熱可塑性樹脂が混在した状態で回収された廃棄プラスチック等を原料として使用することも可能である。
【0025】
ここで,ポリプロピレン(PP)の種類としては,ホモポリマー,ランダムコポリマー,ブロックコポリマーが挙げられるが,本発明においてはこれらのいずれのポリプロピレン共に使用可能であり,また,例えば容器リサイクル法(所謂「容リ法」)に従って回収されたポリプロピレンや,各種ポリプロピレンが混在したもの等,いずれであっても使用可能である。
【0026】
主材の構成成分の他方である木粉は,一般に市販されている各種の木粉の他,例えば未使用の木材,使用済みの建築廃材,木材加工の際に発生したオガ屑等の廃材等をクラッシャ,カッタ,ミルを使用して破砕する等して得ても良い。
【0027】
使用する木材の品種は特に限定されず,複数の品種の木材が混在していても構造上は問題が無いが,最終的に得られる木質成形体の仕上がりを考慮すれば,ある程度色目の揃ったものを使用することが好ましい。
【0028】
使用する木粉は,粒径1,000μm以下のものであれば各種のものを使用することができ,好ましくは粒径150〜600μmのものを使用する。
【0029】
木粉は,熱可塑性樹脂との馴染みの向上や加熱混練時における水蒸気の発生防止等の観点から,他原料との配合前に乾燥されていることが好ましく,好ましくは含有水分量が1mass%以下に乾燥されているものを使用する。
【0030】
木粉と,前述の熱可塑性樹脂との好ましい配合比は,前述したように木粉/熱可塑性樹脂で30〜70mass%/70〜30mass%であるが,より好ましくは,40〜60mass%/60〜40mass%である。
【0031】
(2)難燃剤
本発明の難燃性合成木材用成形材料で使用する難燃剤としては,熱可塑性樹脂の難燃化に一般的に使用されている,臭素−アンチモン系難燃剤を使用し,この難燃剤中の臭素(Br)及びアンチモン(Sb)分が全体量に対し5.5〜9.5mass%,好ましくは5.94〜9.24mass%となるように添加する。難燃成分の添加量が5.5mass%以下では,必要な難燃性を付与することができず,9.5mass%を越えると,難燃性は向上するが,機械物性が低下する。
【0032】
臭素−アンチモン系難燃剤が,化合物の状態で臭素及びアンチモンを含む場合には,この化合物のうちの臭素(Br)及びアンチモン(Sb)分が,全体量に対して前記数値範囲となるように難燃剤を添加する。
【0033】
一例として,臭素化合物及びアンチモン化合物が合計で80mass%,PEを20mass%含む難燃剤のマスタバッチを使用した本実施形態において,臭素化合物中の臭素(Br)部分の質量は約83%,アンチモン化合物中のアンチモン(Sb)部分の質量は約83%であったことから,マスタバッチ全体中の臭素(Br)及びアンチモン(Sb)分の合計は,『80%×83% ≒ 66%』である。
【0034】
従って,上記の例では,難燃剤のマスタバッチを,全体量に対して8.3〜14.4mass%(9〜14mass%程度)添加することで,臭素(Br)及びアンチモン(Sb)分を全体量に対し6.5〜9.5mass%の範囲とすることができる。
【0035】
この難燃化剤における臭素分子とアンチモン分子の比は,質量比で臭素(Br)/アンチモン(Sb)で1〜3の範囲とすることが好ましく,本実施形態では2.5とした。
【0036】
なお,前掲の臭素化合物としては,一例として次式で示すエチレンビスペンタブロモベンゼン,アンチモン化合物としては三酸化アンチモンをそれぞれ使用することができ,市販されているエチレンビスペンタブロモベンゼンとしては鈴裕化学株式会社の「ヒロマスターC510」等,三酸化アンチモンとしては鈴裕化学株式会社の「AT−3CN」等がある。
【化2】

【0037】
本発明において利用できるその他の臭素化合物としては,一例として以下のものを挙げることができる。
【0038】
(1) ビス[3,5−ジブロモ−4−(2,3ジブロモプロポキシ)フェニル]スルフォン〔臭素(Br)含量66%〕:市販されているものとしては,鈴裕化学株式会社の「ファイアカットP−65CN」等がある。
【化3】

(2) TBA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)〔略称「TBA−BP」;臭素(Br)含量66〜68%〕:市販されているものとしては,鈴裕化学株式会社の「ファイアカットP−680」等がある。
【化4】

(3) テトラビス−フェノールA−テトラブロモビスフェノールAグリシジルエーテルコポリマー〔臭素(Br)含量53%〕:市販されているものとしては,阪本薬品工業株式会社の「SRT−500」,「SRT−48」,「SRT−7S」等がある。
【化5】

(4) BC−58テトラブロモビスフェノールA−カルポネートオリゴマー〔臭素(Br)含量58.7%〕
【化6】

(5) ブロム化ポリスチレン:市販されているものとしては,鈴裕化学株式会社「パイロチェック68PB」等がある。
(6) ポリ(ペンタブロモベンジル)アクリレート〔臭素(Br)含量72%以上〕:市販されているものとしては,ICL−IP JAPAN株式会社の「FR−1025」等がある。
【化7】

【0039】
(3)含窒素化合物
本発明において前述した難燃剤と共に添加する含窒素化合物は,トリアジン構造を有し,炭化水素基を側鎖に有する,次式で表される構造を有する。
【化1】

【0040】
この含窒素化合物は,ヒンダードアミン系光安定剤が有するヒンダードアミン(HALS)骨格を有することから,光安定剤としても機能することで,得られる合成木材の耐候(光)性が低下することをも防止し得るものとなっている。
【0041】
この含窒素化合物は,全体量に対し0.25〜2mass%添加する。
【0042】
添加量が0.25mass%未満では必要な難燃性が得られず,一方,含窒素化合物の添加量が増えるに従って機械物性は徐々に低下し,5mass%を越えると必要な機械物性が得られないと共に,製造コストが高くなる。
【0043】
本発明では,含窒素化合物の添加量を0.25〜2mass%の範囲とすることで,前述した難燃剤の添加量の範囲において合成木材の酸素指数を26%以上とすることができ,前述したUL規格における「94V−2」レベルの難燃性を実現できるようにした。
【0044】
(4)その他の原料
前述の配合比で木粉,熱可塑性樹脂,難燃剤及び含窒素化合物を配合して得た本発明の成形材料に対しては,更に必要に応じてタルクや炭酸カルシウム等の無機フィラー,着色用の顔料,強化剤,酸化防止剤等を添加しても良い。
【0045】
前述のタルクは,最終的に得られる合成木材の強度を向上するために添加するものであり,タルク添加後の成形材料の全質量に対し,5〜25mass%となるように添加することができ,この量に対してタルクの添加量が少ないと強度の向上が得られず,また,逆に添加量が多すぎると脆さが出てかえって強度が低下する。
【0046】
添加するタルクの粒径としては,比較的広範囲のものを使用することができ,好ましくは,平均粒径3〜50μm程度のものを使用する。
【0047】
顔料は,最終的に得られる木質合成板に着色を行うために添加するものであり,最終製品で得ようとする色に対応して,各種の顔料を各種の配合で添加することができる。
【0048】
一例としてブラウン系の着色を施すために酸化鉄系の顔料を使用する場合には,顔料を成形材料の全体に対し3mass%程度添加する。
【0049】
更に,添加材料として強化剤を添加することも可能であり,前述したように,主原料たる熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを使用する場合には,この強化剤としてマレイン酸変性ポリプロピレンを添加することで,木粉と樹脂間の結合性を向上させることができる。
【0050】
この強化剤は,添加量が少なすぎると効果がない一方,多く入れれば入れる程効果は増大するもののコストが嵩むと共に難燃性の低下が生じるため,得られる成形材料の全体に対し一例として0.3〜2.0mass%程度の添加が好ましい。
【0051】
2.合成木材の成形
以上説明した本発明の難燃性合成木材用成形材料は,前述した配合比で各材料を配合したものを,そのまま成形材料として使用するものとしても良いが,好ましくは,これらの原料を予め攪拌,混練する等して,所定粒径のペレットに形成しておくことが好ましい。
【0052】
このようなペレットの製造は,既知の各種のペレット製造装置を使用して行うことができ,ペレットを製造することができればその製造方法は特に限定されず,例えば原料を共に押出機に投入して溶融混練しながら押出機のバレル先端に取り付けたノズル状のダイより丸紐状のストランドを押し出し,このストランドを所定長さ毎に切断して複合ペレットを得ても良く,又は,既知のヘンシェルミキサ等を使用して予練りした混練材料を所定サイズの粒径となるように破砕する等してバッチ式でペレットを得ても良く,更には,予練りが完了した混練材料が硬化する前に,攪拌により所定の粒径に造粒することで複合ペレットを得るものとしても良い。
【0053】
このようにして形成された本発明の難燃性合成木材用成形材料は,これを各種合成木材の成形に使用する。
【0054】
成形に際し,前述した成形材料に更に発泡剤を添加する等して原料を発泡させた状態で成形して合成木材を得るものとしても良い。
【0055】
成形は,射出成形,押出成形,圧縮成形等,既知の各種の方法を使用した成形が可能であり,例えば,合成木材がデッキ用の板材等の長尺の成形品である場合には,押出成形により長手方向に連続して長尺の合成木材を押出成形する。
【0056】
このようにして得られた合成木材は,酸素指数が26%以上と高く,ガスバーナの火炎を当てて着火した場合であっても,極めて短時間(1.5秒以下)で消火する優れた難燃性を有するものであると共に,曲げ強度,シャルピー衝撃強度等の機械的特性に優れ,且つ,耐候性にも優れるものである。
【実施例】
【0057】
次に,本発明の難燃性合成木材用成形材料を使用して得た合成木材と,比較例の合成木材につき,難燃性,機械物性及び耐候性の比較試験を行った結果を以下に示す。
【0058】
1.使用材料
〔主材〕
実施例5を除き,その他の実施例及び比較例いずれ共に,オレフィン系樹脂であるポリプロピレン(PP)と木粉とを質量比で45:55の割合で配合した主材を使用した。
【0059】
使用したPPは,サンアロマー株式会社製の「PL−400A」であり,MI(メルトインデックス)は2.0である。
【0060】
また,使用した木粉は,カネキ燃料有限会社製「A−100」(平均粒径150μm)である。
【0061】
なお,実施例5の主材は,そのうちの熱可塑性樹脂がPP70mass%とPE30mass%のブレンド品である。
【0062】
上記オレフィン系樹脂と木粉は,これを予め容量100リットルのヘンシェルミキサ内に投入して温度約200℃の半溶融状態で混合した後,細かく破砕して使用した。
【0063】
〔難燃剤〕
難燃剤として,株式会社鈴裕化学製の「ヒロマスターC510」を使用した。
【0064】
この難燃剤は,臭素化合物であるエチレンビスペンタブロモベンゼンと,アンチモン化合物である三酸化アンチモンを,PEでペレット化したマスタバッチであり,エチレンビスペンタブロモベンゼンと三酸化アンチモンとの合計80mass%と,20mass%のPEによって構成されている。
【0065】
なお,臭素化合物であるエチレンビスペンタブロモベンゼンの構造を次式に示す。
【化2】

エチレンビスペンタブロモベンゼン分子中における臭素(Br)分の質量比は約83%,三酸化アンチモン分子中におけるアンチモン(Sb)分の質量比は約83%であるから,上記難燃化剤のマスタバッチ全体に対する約66%(80%×83%)が難燃成分である臭素(Br)とアンチモン(Sb)の合計量である。
【0066】
なお,臭素(Br)とアンチモン(Sb)の配合比(Br/Sb)は,2.5である。
【0067】
〔含窒素化合物〕
トリアジン構造を有する炭化水素基を側鎖に有する前述の含窒素化合物として,BASF社製の「Flamestab NOR 116 FF」を使用した。
【0068】
2.ペレット化
上記主材,難燃化剤,及び含窒素化合物を,それぞれ後述する各実施例及び比較例で示す配合割合で配合し,小型の一軸押出機(株式会社池貝製「FS−65」)を使用して,200℃,吐出速度(Q)を30kg/hrとして直径2.5mmのストランドを押し出すと共に,このストランドを長さ3.0mm毎に切断して成形材料のペレットを得た。
【0069】
3.試験片(合成木材)の製作
以上のようにして得た成形材料のペレットを,シンシナティ・エクストルージョン社製のコニカル二軸押出機(シリンダ内直径53mm)のバレル内に投入して溶融・混練し,開口部の幅145mm,高さ25mmの中空金型を介して押し出すことで,幅145mm,厚さ25mmの合成木材(板材)を得た。
【0070】
この合成木材を必要なサイズに切断して,難燃性,機械物性,及び耐候性を測定するための試験片を得た。
【0071】
4.試験方法
以下の方法により,各試験を行った。
【0072】
〔酸素指数の測定〕
酸素指数(Oxigen Index)とは,材料が燃焼を持続するのに必要な最低酸素濃度(容量%)を言い,燃焼時間が180秒以上継続するか,又は接炎後の燃焼長さが50mm以上燃え続けるのに必要な最低の酸素濃度(そのときの窒素濃度)を求めたもので,JIS K7201−2に従って測定した。
【0073】
〔消火時間の測定〕
試験片に対しガスバーナの炎を1分間接炎した後,離炎し,離炎後,試験片が消火する迄の時間(秒)を測定して消火時間とした。
【0074】
〔曲げ強度〕
JIS K 7171の規定に従い,曲げ強度(曲げ強さ)を測定した。
【0075】
測定に使用した試験片は,幅10mm,長さ80mm,厚さ4mmであり,支点間距離を64mmとし,圧子を試験速度10mm/minで押圧した時の曲げ強さを測定した。
【0076】
〔シャルピー衝撃強度〕
JIS K 7111の規定に従い,シャルピー衝撃値を測定した。
【0077】
測定に使用した試験片は,フラットワイズ衝撃試験片〔1号試験片(切欠無し),厚さ4mm〕を使用した。
【0078】
〔耐候性〕
サンシャインウェザメータによる1000時間の光の照射後,処理後の試験片の曲げ強度を測定した。なお,曲げ強度の測定方法は,前述した曲げ強度の測定方法と同様である。
【0079】
また,光照射前の曲げ強度に対し,光の照射後の曲げ強度の低下率(%)を次式により算出して,評価の際に参照した。
低下率(%)=〔1−(光照射後の曲げ強度/光照射前の曲げ強度)〕×100
【0080】
5.配合比及び試験結果
各実施例及び比較例における各材料の配合比と,難燃性,機械物性及び耐候性の測定結果を下記の表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
なお,上記の表1において,消火時間における「∞」は,着火後激しく燃え続け,試験片が燃え尽きる迄,消火しなかったことを示す。
【0083】
6.試験結果の考察
(1)評価方法
以下の基準に従い,実施例及び比較例の合成木材を評価した結果を表2に示す。
【0084】
(1-1) 難燃性
酸素指数26%以上,消火時間1.5秒以下のものをそれぞれ「○」(要求する難燃性を満たしている),それ以外を「×」(要求する難燃性を満たしていない)と評価。
【0085】
(1-2) 機械物性
難燃剤及び含窒素化合物を添加していない合成木材(比較例1)が示した曲げ強度(25MPa),及びシャルピー衝撃強度(3.5kJ/m2)を100%とし,これに対し80%以上の強度,すなわち曲げ強度で20MPa以上,シャルピー衝撃強度で2.8kJ/m2以上あるものを「○」(要求する機械特性を満たしている),それ以外を「×」(要求する機械特性を満たしていない)と評価した。
【0086】
(1-3) 耐候性
前述した曲げ強度の低下率が15%以下のものを,「○」(耐候性有り),それ以外のものを「×」(耐候性無し)と評価した。
【0087】
【表2】

【0088】
(2)難燃剤の添加量に基づく物性の変化確認
含窒素化合物を添加することなく,難燃剤の添加量を変化させることにより,難燃性,機械物性,及び耐候性の変化の様子を確認した(比較例1〜8)。
【0089】
これらの比較例1〜8の結果に基づき,難燃剤の添加量の変化と酸素指数の変化の関係をグラフにしたものを図1に示す。図1のグラフにおいて,破線で示した線図は,PP単体(木粉の添加なし)に対し,難燃剤の添加量を変化させた場合における酸素指数の変化を示したグラフである。
【0090】
図1より明らかなように,木粉添加の有無に拘わらず,難燃剤の添加量が増えるに従い酸素指数の増加,従って難燃性の向上が確認できたが,木粉を添加していないPPに比較して,木粉を添加したPPでは明らかに難燃性が低下しており,同等の難燃性(一例として酸素指数26%)を得るためには,木粉を添加していないPPに対する難燃剤の添加量(マスタバッチで10mass%,難燃成分で6.6mass%)に比較して,約2倍の難燃剤の添加(マスタバッチで20mass%,難燃成分で13.2mass%)が必要となっている。
【0091】
また,表1,表2より明らかなように,難燃剤の添加量がマスタバッチで10mass%,難燃成分で6.6mass%以下の範囲では,機械物性,耐候性共に必要な強度を維持していたが(比較例1〜4),難燃剤の添加量を上記範囲を超えてマスタバッチで15〜30mass%,難燃成分で10〜20mass%添加した例(比較例5〜8)では,機械物性及び耐候性共に大幅な低下が見られ,必要な機械物性や耐候性を維持することが難しくなることが確認された。
【0092】
更に,難燃剤を添加しない場合,サンシャインウェザメータによる1000時間の光の照射前後において曲げ強度は8%程しか低下を見せなかったのに対し(比較例1),難燃剤の添加量が増えるに従い,曲げ強度の低下率は増加し,難燃剤をマスタバッチで30mass%(難燃成分で20mass%)添加した例では低下率が43%に迄達していることから(比較例8),難燃剤の添加は,得られる合成木材の耐候性を低下させる作用があると共に,添加量が増大するに従い,耐候性の低下が顕著に表れることが確認された。
【0093】
(3)含窒素化合物の添加量が合成木材の物性に及ぼす影響
上記比較例1〜8に基づく試験結果において,含窒素化合物を添加しない場合において合成木材の機械物性を維持できることが確認された難燃剤の添加量の上限値(マスタバッチで10mass%,難燃成分で6.6mass%)で難燃剤の添加量を固定する一方,含窒素化合物の添加量を変化させ,難燃性,機械物性,及び耐候性がどのように変化するかを比較例4,9,10,実施例1〜5及び比較例14に基づき確認した。
【0094】
含窒素化合物を添加していない比較例4では,機械物性は維持されているものの,難燃性については酸素指数19.0%,消火時間30.0秒であり,必要な難燃性を得ることができなかった。また,耐候性についても低下率25%という大幅な低下が見られた。
【0095】
これに対し,含窒素化合物を0.25〜2.0mass%添加した実施例1〜5では,合成木材の機械物性と共に耐候性についても維持しつつ,いずれも酸素指数26%以上,消火時間1.5秒以下という高い難燃性を得ることができた。
【0096】
従って,0.25〜2.0mass%という比較的僅かな量の含窒素化合物の添加により,難燃剤の添加量を合成木材の機械物性や耐候性を損なわない程度の添加量とした場合であっても,必要な難燃性の向上が得られることが確認できた。
【0097】
但し,含窒素化合物の添加量が0.1mass%と比較的少ない場合(比較例9),含窒素化合物を添加していない比較例4に比較して難燃性の向上は見られるものの,酸素指数22.0%,消火時間20.0秒と,依然として難燃性の大幅な向上は得られないものとなっていた。
【0098】
なお,含窒素化合物の添加量を0.2mass%とした例では(比較例10),酸素指数25.0%,消火時間2.0秒と,含窒素化合物を添加しない場合(比較例4),及び含窒素化合物の添加量を0.1mass%とした場合に比較して,大幅な難燃性の改善が確認されているが,本願ではこれよりも更に高い難燃性,すなわち,前掲のUL規格の「94V−2」レベルの難燃性を得るべく,これを達成し得る酸素指数26%が得られる含窒素化合物の添加量である,0.25mass%を添加量の下限とした。
【0099】
一方,含窒素化合物の添加量が増加する程,難燃性の向上が見られるものの,機械物性及び耐候性は低下する。
【0100】
また,含窒素化合物の添加量が2.0mass%を越えている比較例11,12では,酸素指数26%以上の難燃性が得られなかった。
【0101】
よって,含窒素化合物の好適な添加量は0.25〜2.0mass%の範囲(実施例1〜9)となる。
【0102】
なお,実施例5は,PP樹脂に対してPEを30mass%混合したものであり,主材の89.75%の内訳は,『PP+PE+木粉=28.3+12.1+49.35=89.75(mass%)』となる。
【0103】
この場合においても,難燃剤のマスタバッチの添加量10mass%(難燃成分6.6mass%)において,含窒素化合物0.25mass%の添加により,機械物性及び耐候性を維持しつつ,難燃性の向上を得ることができることが確認された。
【0104】
更に,難燃剤をマスタバッチで10mass%,難燃成分で6.6mass%添加した比較例4では,当初24(MPa)あった曲げ強度が,サンシャインウェザメータによる1000時間の光の照射を行った後では18(MPa)に迄低下しており,元の曲げ強度に対する光の照射後の曲げ強度の低下率は25%という比較的高い数値を示した。
【0105】
これに対し,同様に難燃剤をマスタバッチで10mass%,難燃成分で6.6mass%添加した場合であっても,含窒素化合物を0.25〜2.0mass%の範囲で添加した例(実施例1〜5)では,サンシャインウェザメータによる光の照射前後における曲げ強度の低下率は8〜13%の範囲に抑えられており,難燃剤の添加に伴う合成木材の耐候性の低下が抑制されていることが確認された。
【0106】
(4)難燃剤の添加量の上下限値
含窒素化合物を添加する場合における難燃剤の添加量の上限(必要な機械物性を維持できる添加量の上限)を確認するため,含窒素化合物の添加量を前述した下限値である0.25mass%で固定した状態で,難燃剤の添加量を6.6〜9.90mass%(マスタバッチで10〜15mass%)の範囲で変化させ,難燃性,機械物性,耐候性の変化を確認した(実施例1,実施例7〜9)。
【0107】
難燃剤の添加量が9.24mass%(マスタバッチで14mass%)である実施例9では必要な機械的物性が維持されていることが確認できたが,難燃剤の添加量が9.90mass%(マスタバッチで15mass%)である比較例13では,必要な機械的物性を僅かに下回っていた。
【0108】
従って,難燃剤の添加量の上限値は,実施例9の添加量と比較例13の添加量の中間にあり,9.5mass%程度,より確実には,実施例9の添加量である9.24mass%であることが判る。
【0109】
また,含窒素化合物を添加する場合における難燃剤の添加量の下限(必要な難燃性を発現する添加量の下限)を確認するため,難燃剤の難燃成分と含窒素化合物の添加量の合計が6.85mass%となるように,難燃剤及び含窒素化合物の添加量を変化させた(実施例1,5,6及び比較例11,12)。
【0110】
難燃剤の添加量がマスタバッチで6mass%,難燃成分で3.96mass%と,最も少ない比較例12では,2.89mass%の含窒素化合物を添加しても酸素指数22.0%,消火時間20.0秒であり,必要な難燃性が得られていない。
【0111】
難燃剤の添加量をマスタバッチで7mass%,難燃成分で4.62mass%とした比較例11では,酸素指数25.0%,消火時間2.0秒となり,難燃性の大幅な向上が見られるものの,得られた難燃性は,必要な難燃性(酸素指数26%以上,消火時間1.5秒以下)を僅かに下回る。
【0112】
これに対し,難燃剤の添加量をマスタバッチで9mass%,難燃成分で5.94mass%とした実施例6では,酸素指数26.0%,消火時間1.5秒が実現されていることから,難燃剤の添加量の下限値は,実施例6の添加量と比較例11の添加量の間にあり,5.5mass%程度,より確実には,実施例6の添加量である5.94mass%であることが判る。
【0113】
以上より,難燃剤の添加量の範囲は,マスタバッチにおいて8〜14mass%,難燃成分において約5.5〜9.5mass%,より確実には5.95〜9.24mass%である。
【0114】
また,前述の試験結果から,含窒素化合物に対し,臭素とアンチモンの合計量が質量比で2〜3倍程度の範囲では必要な難燃性が得られず(比較例11,12),約6.5倍程度となって初めて必要な難燃性が発現する一方(実施例3,6),含窒素化合物に対し臭素とアンチモンの合計量が質量比で約37倍の範囲(実施例9)を超えると,機械物性が維持できなくなることから(比較例13),含窒素化合物に対し臭素とアンチモンの合計量が質量比で6.5〜37倍の範囲となるように添加することが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と木粉により構成され,前記木粉を30〜70mass%含有する主材と,
少なくとも臭素及びアンチモンを含む難燃剤と,
トリアジン構造を有する炭化水素基を側鎖に有する次式で示す含窒素化合物を含み,
【化1】

前記難燃剤中の臭素(Br)及びアンチモン(Sb)分が全体量に対し5.5〜9.5mass%の範囲と成るよう前記難燃剤を添加すると共に,前記含窒素化合物の添加量を全体量に対し0.25〜2.0mass%の範囲としたことを特徴とする難燃性合成木材用成形材料。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が,PP及び/又はPEをベースとしたオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1記載の難燃性合成木材用成形材料。
【請求項3】
前記含窒素化合物に対し,臭素(Br)及びアンチモン(Sb)分の合計が質量比で6.5〜37倍となるよう配合したことを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性合成木材用成形材料。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項記載の難燃性合成木材用成形材料を成形して得た難燃性合成木材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−149180(P2012−149180A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9235(P2011−9235)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(506007046)WPCコーポレーション株式会社 (8)
【Fターム(参考)】