説明

難燃性樹脂組成物

【課題】高い難燃性、耐衝撃性および耐熱変色性を有する非ハロゲン系難燃性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩およびこれらの重合体からなる群より選択される少なくとも一種のホスフィン酸塩類(B)ならびにエポキシ基を有するアクリルコアシェル型ポリマー(C)を含有する難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物に関する。より詳しくは、非ハロゲン系難燃剤を使用したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレートは、優れた機械的特性、電気的特性、耐候性、耐薬品性や耐溶剤性を有する。そのため、エンジニアリングプラスチックとして電気・電子部品、機械機構部品、自動車部品など種々の用途に利用されている。一方、ポリブチレンテレフタレートの利用分野が拡大するにつれ、上記特性に加えて難燃性が要求されてきている。
【0003】
ポリエステル樹脂組成物に難燃性を付与する方法としては、ハロゲン化合物やアンチモン化合物を用いた難燃剤を添加する方法がよく知られている。しかし、ハロゲン系難燃剤は、燃焼分解時にダイオキシン系化合物を発生する可能性があり、環境上好ましくない。そこで、非ハロゲン系の難燃剤として、リン系化合物が検討されている。
【0004】
例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂に、ホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩および/またはその重合体と、窒素含有有機物を配合してなる難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1〜2参照)。しかしながら、かかる樹脂組成物から得られる成形体は耐衝撃性が不十分である課題があった。そこで、優れた流動性と衝撃強度を有する樹脂組成物として、ポリブチレンテレフタレート樹脂に、リン酸エステルおよび制電ポリマーを配合してなる難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。かかる技術により、成形品の耐衝撃性は向上するものの、難燃性が不十分であり、さらに熱により成形品が変色する課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−60924号公報
【特許文献2】特開2007−138185号公報
【特許文献3】特開2004−91693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来公知の非ハロゲン系難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、耐衝撃性、難燃性および耐熱変色性を両立することが困難であった。本発明は、高い難燃性、耐衝撃性および耐熱変色性を有する非ハロゲン系難燃性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩およびこれらの重合体からなる群より選択される少なくとも一種のホスフィン酸塩類(B)ならびにエポキシ基を有するアクリルコアシェル型ポリマー(C)を含有する難燃性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の難燃性樹脂組成物は、難燃性に優れ、高い耐衝撃性と耐熱変色性を有する成形品を得ることができる。本発明の難燃性樹脂組成物を成形して得られる成形品は、光熱に晒される照明部材などの、高い耐衝撃性、難燃性および耐熱変色性を求められる用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明におけるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)とは、テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体と1,4−ブタンジオールあるいはそのエステル形成性誘導体との重縮合反応によって得られる重合体である。テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体とともに、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、シュウ酸などを共重合してもよいし、1,4−ブタンジオールあるいはそのエステル形成性誘導体とともに、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、分子量400〜6000のポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを共重合してもよい。これら共重合成分は20モル%以下とすることが好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂の好ましい例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。なお、「/」は共重合を意味する。
【0011】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、JISK 7367−5(2000)に従い、o−クロロフェノール溶媒を用いて25℃で測定した固有粘度が、0.36〜3.0の範囲にあるものが好ましく、得られる難燃性樹脂組成物の成形性に優れ、成形品の耐衝撃性をより向上させることができる。0.42〜2.0の範囲がより好ましい。固有粘度の異なるポリブチレンテレフタレート樹脂を2種以上含有してもよい。この場合、全てのポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度が上記範囲内にあることが好ましい。
【0012】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、m−クレゾール溶液をアルカリ溶液で電位差滴定して求めたCOOH末端基量が少ないことが好ましい。さらに、耐久性および異方性抑制効果の観点から、COOH末端基量(ポリマー1トン当りの末端基量)が1〜50eq/tの範囲にあることが好ましい。
【0013】
本発明におけるホスフィン酸塩類(B)とは、ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩およびこれらの重合体からなる群より選択される少なくとも一種であり、樹脂組成物に難燃性を付与する。下記一般式(1)で表されるホスフィン酸塩、下記一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩およびこれらの重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらを2種以上含有してもよい。
【0014】
【化1】

【0015】
上記一般式(1)中、RおよびRは同一でも異なってもよく、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。RおよびRは互いに結合して隣接するリン原子とともに環を形成してもよい。Mm+は価数mの金属を示し、mは2〜4の整数を示す。上記一般式(2)中、RおよびRは同一でも異なってもよく、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。Rはアルキレン基、2価の脂環式炭化水素基またはアリーレン基を示す。Mn+は価数nの金属を示し、nは2〜4の整数を示す。
【0016】
〜Rを構成するアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状の基が挙げられ、炭素数は1〜6が好ましい。シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基などが挙げられ、炭素数は5〜8が好ましい。アリール基としては、例えば、フェニル基などが挙げられ、炭素数は6〜10が好ましい。アラルキル基としては、例えば、ベンジル基などの炭素数6〜10のアリール基と炭素数1〜4のアルキル基が結合した基などが挙げられる。これらの基のうち、炭素数1〜4のアルキル基および炭素数6〜10のアリール基が好ましい。
【0017】
およびRが互いに結合して隣接するリン原子とともに環を形成する場合、形成されるリン原子含有ヘテロ環は、通常、4〜20員ヘテロ環であり、5〜16員ヘテロ環が好ましい。リン原子含有ヘテロ環はビシクロ環であってもよい。
【0018】
を構成するアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,4−ブタンジイル基、1,3−ブタンジイル基などの直鎖状または分岐鎖状の基が挙げられ、炭素数は1〜10が好ましい。アルキレン基は、フェニル基などの炭素数6〜10のアリール基で置換されていてもよい。2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロヘキシレン基、シクロヘキサジメチレン基などが挙げられ、炭素数は5〜8が好ましい。アリーレン基としては、例えば、例えば、フェニレン基などが挙げられ、炭素数は6〜10が好ましい。アリーレン基は、炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよく、トリレン基、キシリレン基、ビフェニレン基、メタジフェニレン基などが挙げられる。これらの基のうち、炭素数1〜6のアルキレン基が好ましい。
【0019】
m+とMn+を構成する金属としては、例えば、Mg、Ca、Al、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Mnなどが挙げられる。これらの金属のうち、Al、Ca、Zn、Tiが好ましく、Alがより好ましい。
【0020】
前記一般式(1)で表されるホスフィン酸塩としては、例えば、ジメチルホスフィン酸Al、メチルエチルホスフィン酸Al、ジエチルホスフィン酸Alなどのジアルキルホスフィン酸Al塩、フェニルホスフィン酸Al、ジフェニルホスフィン酸Alなどのアリールホスフィン酸Al塩、メチルフェニルホスフィン酸Alなどのアルキルアリールホスフィン酸Al塩、これらのAl塩に対応するCa塩、Zn塩、Ti塩、他の金属塩などが挙げられる。
【0021】
前記一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩としては、例えば、エタン−1,2−ビス(ホスフィン酸)Al塩などのアルカンビス(ホスフィン酸)Al塩、エタン−1,2−ビス(メチルホスフィン酸)Al塩などのアルカンビス(アルキルホスフィン酸)Al塩、これらのAl塩に対応するCa塩、Zn塩、Ti塩、他の金属塩などが挙げられる。
【0022】
ホスフィン酸塩類には、これらのホスフィン酸の多価金属塩および/またはジホスフィン酸の多価金属塩の重合体も含まれる。
【0023】
これらホスフィン酸塩類のとしては、クラリアントジャパン社の「“Exolit(登録商標)”OP1230」や「“Exolit”OP1240」などが挙げられる。
【0024】
本発明の難燃性樹脂組成物において、ホスフィン酸塩類(B)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対し17重量部以上が好ましく、得られる樹脂組成物の難燃性をより向上させることができる。一方、45重量部以下が好ましく、得られる成形品の耐衝撃性をより向上させることができる。26重量部以下がより好ましい。
【0025】
本発明におけるエポキシ基を有するアクリルコアシェル型ポリマー(C)とは、コア層とシェア層を有する多層構造を有する。アクリル系エラストマーをコア層、エポキシ基を有するビニル系(共)重合体をシェル層とするアクリルコアシェルポリマーが好ましい。アクリルコアシェル型ポリマーを含有することにより、得られる成形品の耐衝撃性を向上させることができる。さらに、アクリルコアシェル型ポリマーの中でもエポキシ基を有するものを用いることにより、得られる成形品の耐熱変色性を向上させることができる。これらを2種以上含有してもよい。
【0026】
かかるコアシェル型ポリマーのコア層としては、アクリル系エラストマーが好ましく用いられる。アクリル系エラストマーに珪素系エラストマーを共重合/グラフト重合させてもよい。
【0027】
アクリル系エラストマーは、ブチルアクリレートなどのアクリル酸エステルと、少量のブチレンジアクリレートなどの架橋性モノマーを重合させて得られる。上記アクリル酸エステルとしては、ブチルアクリレートの他に、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどが挙げられる。また、架橋性モノマーとしては、ブチレンジアクリレートの他に、ブチレンジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、オリゴエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどのビニル化合物、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルイタニレート、モノアリルマレート、モノアリルフマレート、トリアリルシアヌレートなどのアリル化合物などが挙げられる。耐熱性や滞留安定性に優れるため、ブタジエン成分などの共役ジエンを含まないアクリル系エラストマーが好ましく用いられる。
【0028】
珪素系エラストマーは、オルガノシロキサン単量体を重合させて得られる。オルガノシロキサン単量体としては、例えば、ヘキサメチルトリシクロシロキサン、オクタメチルシクロシロキサン、デカメチルペンタシクロシロキサン、ドデカメチルヘキサシクロシロキサン、トリメチルトリフェニルシロキサン、テトラメチルフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサンなどが挙げられる。
【0029】
かかるコアシェル型ポリマーのシェル層としては、エポキシ基を有するビニル系(共)重合体が好ましく用いられる。エポキシ基を有するビニル系(共)重合体は、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、メタクリル酸エステル系単量体およびアクリル酸エステル単量体の中から選ばれる少なくとも1 種のモノマーと、エポキシ基を含むビニル系モノマーを共重合させて得られる。エポキシ基を含むビニル系モノマーとしては、α,β−不飽和カルボン酸のエポキシエステル、エーテル化合物が好ましく用いられる。代表的な化合物としては、グリシジルメタクリレートが一般的に用いられるが、本発明にはエポキシ基の導入方法、導入量によらず、いずれのエポキシ基を有するビニル系(共)重合体も好ましく用いることができる。
【0030】
かかるコアシェル型ポリマーのコア層とシェル層は、通常グラフト結合によって結合されている。このグラフト共重合は、必要な場合には、コア層の重合時にシェル層と反応するグラフト交差剤を添加し、コア層に反応基を与えた後、シェル層を形成させることによって得られる。グラフト交差剤としては、シリコン系ゴムでは、ビニル結合を有するオルガノシロキサンあるいはチオールを有したオルガノシロキサンが用いられ、好ましくはアクリロキシシロキサン、メタクリロキシシロキサン、ビニルシロキサンが使用される。
【0031】
エポキシ基を有するアクリルコアシェル型ポリマー(C)は、平均粒径1.0μm以下のコアシェル型ポリマーが好ましい。平均粒径が1.0μm以下であれば、得られる成形品の耐衝撃性をより向上させることができる。ここで、アクリルコアシェル型ポリマー(C)の平均粒径とは、レーザー回折散乱式の方法で測定される累積分布50%粒子径とする。
【0032】
これらエポキシ基を有するアクリルコアシェル型ポリマーの市販品としては、例えば、ロームアンドハースジャパン(株)社製「“パラロイド(登録商標)”EXL−2314」(コア層:ブチルアクリレートを主な重合成分とする(共)重合体、シェア層:エポキシ基を導入したメチルメタクリレートを主な重合成分とする(共)重合体)などが挙げられる。
【0033】
本発明の難燃性樹脂組成物において、エポキシ基を有するアクリルコアシェル型ポリマー(C)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対し1重量部以上が好ましく、得られる成形品の耐衝撃性をより向上させることができる。4重量部以上がより好ましい。一方、14重量部以下が好ましく、難燃性をより向上させることができる。
【0034】
本発明の難燃性樹脂組成物は、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩(D)を含有することが好ましく、難燃性をより向上させることができる。トリアジン系化合物1モルに対し、シアヌール酸またはイソシアヌール酸0.5モルまたは1モルの組成を有する塩が好ましい。シアヌール酸とイソシアヌール酸は交互異性体であり、シアヌール酸はエノール型、イソシアヌール酸はケト型である。これらを2種以上含有してもよい。
【0035】
トリアジン系化合物としては、メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、2−アミド−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン、モノ(ヒドロキシメチル)メラミン、ジ(ヒドロキシメチル)メラミン、トリ(ヒドロキシメチル)メラミンが好ましく、メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミンがより好ましい。
【0036】
トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩は、公知の方法で製造されるが、例えば、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸の混合物を水スラリーとし、混合して両者の塩を微粒子状に形成させた後、このスラリーを濾過し、乾燥することにより、粉末状の塩を得る方法が挙げられる。上記の塩には、多少未反応のトリアジン系化合物ないしシアヌール酸、イソシアヌール酸が残存していてもよい。また、上記の塩の分散性が悪い場合には、トリス(β−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどの分散剤や公知の表面処理剤、シリカ、ポリビニルアルコールなどを併用してもかまわない。
【0037】
トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩の平均粒径は、100μm〜0.01μmが好ましく、10〜1μmがより好ましい。ここで、平均粒径とは、レーザー回折散乱式の方法で測定される累積分布50%粒子径とする。
【0038】
トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩の市販品としては、例えば、日産化学(株)製「MC−4000」や「MC−6000」などが挙げられる。
【0039】
本発明の難燃性樹脂組成物において、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩(D)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対し1重量部以上が好ましく、難燃性をより向上させることができる。一方、30重量部以下が好ましく、得られる成形品の耐衝撃性を高いレベルで維持することができる。
【0040】
本発明の難燃性樹脂組成物は、ガラス繊維(E)を含有することが好ましく、樹脂組成物の機械特性を向上させることができる。ガラス繊維としては、チョップドストランドタイプやロービングタイプのガラス繊維が挙げられる。アミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤および/またはウレタン、酢酸ビニル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラック系エポキシ化合物などの一種以上のエポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が好ましく、シランカップリング剤および/または集束剤はエマルジョン液で使用されていてもよい。これらを2種以上含有してもよい。
【0041】
ガラス繊維(E)の平均繊維径に特に制限はないが、1〜100μmが好ましく、5〜20μmがより好ましい。ガラス繊維(E)の平均繊維長に特に制限はないが、0.1〜20mmが好ましく、1〜10mmがより好ましい。
【0042】
本発明に用いるガラス繊維(E)は、円形ガラス繊維、任意の縦横比の楕円形ガラス繊維、扁平ガラス繊維およびまゆ型形状ガラス繊維など任意の断面を持つ繊維強化材を用いることもでき、射出成形時の流動性向上と、ソリの少ない成形品が得られる特徴がある。
【0043】
これらガラス繊維の市販品としては、例えば、日東紡績(株)社製「CS3J948」などが挙げられる。
【0044】
本発明の難燃性樹脂組成物において、ガラス繊維(E)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して1重量部以上が好ましく、得られる成形品の耐衝撃性をより向上させることができる。一方、100重量部以下が好ましく、得られる樹脂組成物の成形性を向上させることができる。
【0045】
本発明の難燃性樹脂組成物は、公知の方法で製造することができる。例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩およびこれらの重合体からなる群より選択される少なくとも一種のホスフィン酸塩類(B)ならびにエポキシ基を有するアクリルコアシェル型ポリマー(C)、必要に応じてトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩(D)、ガラス繊維(E)、(A)成分以外の樹脂、離型剤、(E)以外の無機充填材、エポキシ化合物、酸化防止剤、顔料や染料、帯電防止剤や可塑剤などの添加剤を予備混合して押出機や混練機などに供給し、溶融混練する方法、あるいは、重量フィダーなどの定量フィダーを用いて各成分を所定量押出機や混練機などに供給して溶融混練する方法などにより、本発明の難燃性樹脂組成物が製造される。
【0046】
上記の予備混合の例として、ドライブレンドする方法、タンブラー、リボンミキサーおよびヘンシェルミキサーなどの機械的な混合装置を用いて混合する方法などが挙げられる。また、無機充填材は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加してもよい。また、液体の添加剤の場合は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中に液添ノズルを設置してプランジャーポンプを用いて添加してもよいし、元込め部などから定量ポンプで供給してもよい。
【0047】
押出機としては、例えば、“ユニメルト(登録商標)”あるいは“ダルメージ”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、コニカル押出機などを挙げることができる。
【0048】
かくして得られる難燃性樹脂組成物を、公知の方法で射出成形することによって、成形品を得ることができる。射出成形方法としては、通常の射出成形方法以外にガスアシスト法、2色成形法、サンドイッチ成形、インモールド成形、インサート成形およびインジェクションプレス成形などが知られているが、いずれの成形方法も適用できる。
【0049】
本発明において、難燃性樹脂組成物を成形して得られる成形品は、例えば、機械機構部品、電気電子部品または自動車部品として用いることができる。特に、光熱に晒される照明部材などの、高い耐衝撃性、難燃性および耐熱変色性を求められる用途に好適に用いられる。具体的には、ブレーカー、電磁開閉器、フォーカスケース、フライバックトランス、複写機やプリンターの定着機用成形品、一般家庭電化製品、OA機器などのハウジング、バリコンケース部品、各種端子板、変成器、プリント配線板、ハウジング、端子ブロック、コイルボビン、コネクター、リレー、ディスクドライブシャーシー、トランス、スイッチ部品、コンセント部品、モーター部品、ソケット、プラグ、コンデンサー、各種ケース類、抵抗器、金属端子や導線が組み込まれる電気・電子部品、コンピューター関連部品、音響部品などの音声部品、照明部品、電信・電話機器関連部品、エアコン部品、VTRやテレビなどの家電部品、複写機用部品、ファクシミリ用部品、光学機器用部品、自動車点火装置部品、自動車用コネクター、および各種自動車用電装部品などの成形品が挙げられる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明の効果を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各実施例、比較例において、以下に記載する測定方法によって、その特性を評価した。
【0051】
1.難燃性・燃焼時間
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度260℃、金型温度80℃の条件で厚み0.75mmの燃焼試験片を得た。得られた燃焼試験片を用い、UL94垂直試験に定められている評価基準に従い、難燃性を評価した。難燃性はV−0>V−1>V−2の順に低下しランク付けされる。5枚の試料の第1接炎後と第2接炎後の残炎時間の合計を燃焼時間とした。
【0052】
2.耐衝撃性
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度260℃、金型温度80℃の条件で厚み4mmの評価用試験片を射出成形した。シャルピー衝撃強度(ノッチ付)をISO179に従って測定した。
【0053】
3.耐熱変色性
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度260℃、金型温度80℃の条件で厚み3mmの評価用試験片を射出成形した。得られた評価用試験片を190℃に保った熱風乾燥機中に96時間入れ、加熱前後の評価用試験片の色差ΔEを評価した。色差ΔEは、スガ試験機(株)社製カラーコンピューターSM−5−IS−2Bにより、D−65光 10度視野の試験条件にてLab値を測定し、下式に従い算出した。ΔE値が小さいほど耐熱変色性は優れることを示す。
ΔE={(L−L+(a−a+(b−b}1/2
L、a、b:加熱前
、a、b:加熱後 。
【0054】
各実施例、比較例に用いた材料を以下に示す。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)
<A−1>東レ(株)社製「“トレコン(登録商標)”−1100M」
ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩およびこれらの重合体からなる群より選択される少なくとも一種のホスフィン酸塩類(B)(以下、ホスフィン酸塩類と略す)
<B−1>クラリアントジャパン(株)社製「“Exolit”OP1240」
エポキシ基を有するアクリルコアシェル型ポリマー(C)(コアシェル型ポリマーと略す)
<C−1>ロームアンドハースジャパン(株)社製「“パラロイド”EXL−2314」
トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩(D)
<D−1>日産化学工業(株)社製「MC−4000」(MC塩と略す)
ガラス繊維(E)
<E−1>日東紡績(株)社製「CS3J948」
(B)成分以外の難燃剤
<F−1>大八化学工業(株)社製「PX−200」(芳香族縮合リン酸エステル)
(C)成分以外の耐衝撃性改質材
<G−1>三菱レイヨン(株)社製「SX−006」(アクリロニトリル・スチレン・アクリル酸ブチル・ジメチルシロキサン共重合体)
<G−2>住友化学(株)社製「“ボンドファースト(登録商標)”7M」(エチレン−グリシジルメタクリレート−メチルアクリレート共重合体)
<G−3>三井化学(株)社製「MH−5020」(エチレン−ブテンー1−無水マレイン酸共重合体) 。
【0055】
実施例1〜12、比較例1〜6
表1〜2に示す各成分を混合して、スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き2軸押出機(日本製鋼所製、TEX−30α)に元込め部から添加した。ただし、ガラス繊維(E)は、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。混練温度270℃、スクリュー回転150rpmの押出条件で溶融混練を行い、難燃性樹脂組成物をストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃の熱風乾燥機で5時間乾燥した後、前記方法で難燃性、燃焼時間、耐衝撃性および耐熱変色性を評価した。評価結果を表1〜2に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
実施例1〜12において得られた難燃性樹脂組成物は、何れも難燃性、耐衝撃性、耐熱変色性に優れたものであった。一方、比較例1は、コアシェル型ポリマー<C−1>を配合していないため、耐衝撃性が満足いくものではなかった。比較例2は、ホスフィン酸塩類<B−1>を配合していないため、難燃性が満足いくものではなかった。比較例3は、ホスフィン酸塩類<B−1>にかえて他の難燃剤を多量に配合したため、耐衝撃性が満足いくものではなかった。比較例4〜6は、コアシェル型ポリマー<C−1>にかえて他の耐衝撃性改質材を配合したため、難燃性と耐熱変色性が満足いくものではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩およびこれらの重合体からなる群より選択される少なくとも一種のホスフィン酸塩類(B)ならびにエポキシ基を有するアクリルコアシェル型ポリマー(C)を含有する難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ホスフィン酸塩類(B)が、下記一般式(1)で表されるホスフィン酸塩、下記一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩およびこれらの重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【化1】

上記一般式(1)中、RおよびRは同一でも異なってもよく、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。RおよびRは互いに結合して隣接するリン原子とともに環を形成してもよい。Mm+は価数mの金属を示し、mは2〜4の整数を示す。上記一般式(2)中、RおよびRは同一でも異なってもよく、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。Rはアルキレン基、2価の脂環式炭化水素基またはアリーレン基を示す。Mn+は価数nの金属を示し、nは2〜4の整数を示す。
【請求項3】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、前記ホスフィン酸塩類(B)を17〜45重量部、前記エポキシ基を有するアクリルコアシェル型ポリマー(C)を1〜14重量部含有する請求項1または2記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
さらにトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩(D)1〜30重量部を含有する請求項3記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
さらにガラス繊維(E)1〜100重量部を含有する請求項3または4記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を成形して得られる成形品。

【公開番号】特開2011−213769(P2011−213769A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80637(P2010−80637)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】