説明

難燃性発泡成型体用樹脂組成物、難燃性発泡成型体用樹脂シート、及び難燃性発泡成型体

【課題】優れた耐熱性や光拡散性と反射率および難燃性を保ちながら、機械特性と耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂発泡体が得られる難燃性熱可塑性ポリエステル系樹脂組成物を得ること。
【解決手段】少なくとも熱可塑性ポリエステル系樹脂60〜95重量%とテトラブロモビスフェノール系難燃剤5〜40重量%とが含まれてなる難燃性発泡成型体用樹脂組成物。好ましくは、前記テトラブロモビスフェノール系難燃剤が、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとブロム化ビスフェノール付加物、テトラブロモビスフェノールAのカーボネートオリゴマー、及びトリブロモフェノールで末端封止したブロム化ビスフェノールAのカーボネートオリゴマーから選択される少なくとも1種である難燃性発泡成型体用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性発泡成型体用樹脂組成物、及び、該樹脂組成物を用いて得られる難燃性発泡成型体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル系樹脂発泡体は、耐熱性や機械特性に優れることから、これまで保温材や断熱材、あるいは耐衝撃材などとして使用されてきた(例えば、特許文献1または2参照)。また、光拡散性と反射率にも優れることから、照明器具やディスプレイなどのバックライトの反射板としても使用されてきた(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平5−230259号公報
【特許文献2】特開平4−268345号公報
【特許文献3】特開2006−335935号公報
【0003】
近年、これらの工業材料の中でも特に電気及び電子部品の分野では火災に対する安全性の要求が高まり、米国UL規格に代表される難燃化に関する各種規制が強化されるに伴い、多くの使用上の制限を受けてきており、難燃性の熱可塑性ポリエステル系樹脂発泡体の開発が望まれている。
【0004】
そこで熱可塑性樹脂発泡体の難燃化の検討がなされている。例えば、PETに分解温度が300℃以上の臭素化芳香族化合物と有機錫系化合物からなる熱可塑性ポリエステル系樹脂組成物の押出発泡板が得られている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献4】特開平4−142363号公報
【0005】
しかしながら、こうして得られた押出発泡板は、難燃性ではあるが、環境ホルモン作用を有するとされている有機錫化合物を含むため、より環境に優しい難燃性の熱可塑性ポリエステル樹脂発泡体が求められている。
【0006】
他にも例えば、ポリエステルとノンデカブロム系難燃剤と難燃助剤からなるシートであって、内部に平均気泡径50μm以下の複数の孔を有するポリエステル系樹脂発泡体が得られている(例えば、特許文献5参照)。
【特許文献5】特開2006−249158号公報
【0007】
しかしながら、前記特許文献5に記載された熱可塑性樹脂発泡体は、難燃助剤である三酸化アンチモンが1重量%以上も添加されると、三酸化アンチモンがポリエステルの解触媒作用を有することから、得られたシートの固有粘度は低くなる。そのため、熱可塑性樹脂発泡体の特長である機械特性や耐衝撃性に優れたものが得られない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れた耐熱性や光拡散性と反射率および難燃性を保ちながら、機械特性と耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂発泡体を得ることを課題とする。また、本発明はその様な熱可塑性樹脂発泡体を得ることのできる難燃性熱可塑性ポリエステル系樹脂組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前述した課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性ポリエステル系樹脂に特定の難燃剤を添加して発泡させることにより、内部に平均気泡径10μm以下の複数の孔を有する熱可塑性ポリエステル系樹脂発泡体が得られることを見出した。
すなわち本発明は以下の構成よりなる。
1. 少なくとも熱可塑性ポリエステル系樹脂60〜95重量%とテトラブロモビスフェノール系難燃剤5〜40重量%とが含まれてなることを特徴とする難燃性発泡成型体用樹脂組成物。
2. テトラブロモビスフェノール系難燃剤が、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとブロム化ビスフェノール付加物、テトラブロモビスフェノールAのカーボネートオリゴマー、及びトリブロモフェノールで末端封止したブロム化ビスフェノールAのカーボネートオリゴマーから選択される少なくとも1種であることを特徴とする上記第1に記載の難燃性発泡成型体用樹脂組成物。
3. 0.1〜35重量%ポリオレフィンが含まれてなることを特徴とする上記第1または第2に記載の難燃性発泡成型体用樹脂組成物。
4. 酸化アンチモン、酸化モリブデンなどの金属酸化物、アンチモン酸ソーダ、及びホウ酸亜鉛、から選択される少なくとも1種の難燃助剤を含むことを特徴とする上記第1〜第3のいずれかに記載の難燃性発泡成型体用樹脂組成物。
5. 上記第1〜第4のいずれかに記載の難燃性発泡成型体用樹脂組成物から得られることを特徴とする難燃性発泡成型体用樹脂シート。
6. 上記第5に記載の難燃性発泡成型体用樹脂シートから得られることを特徴とする難燃性発泡成型体。
【発明の効果】
【0010】
本発明により得られる熱可塑性ポリエステル系樹脂発泡体は平均気泡径が10μm以下と微細であるため、光の反射率が高く、また良好な難燃性を示すため光反射板などの工業材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(熱可塑性ポリエステル樹脂)
本発明において用いられる熱可塑性ポリエステル系樹脂は特に限定されない。ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のホモポリエステル。或いは、該熱可塑性ポリエステル系樹脂が、ポリエステルの全構成ユニットに対して、エチレンテレフタレートユニットとその他のエステルユニットからなることを特徴とする共重合ポリエステル。これらの中から適宜選択でき、一種で用いても、二種以上を混合して用いても良い。
【0012】
(熱可塑性ポリエステル系樹脂の特性)
本発明で用いる熱可塑性ポリエステル樹脂の極限粘度は、後述する方法で測定した場合に、0.6dl/g以上(好ましくは0.7dl/g以上、より好ましくは0.8dl/g以上、さらに好ましくは0.9dl/g以上)であることが好ましい。本発明で用いるポリエステル樹脂は、発泡成型体用の樹脂組成物であることから、極限粘度が0.6dl/g未満の場合には機械特性や衝撃強度が低下する場合がある。
【0013】
(熱可塑性ポリエステル系樹脂の含有率)
本発明に係る難燃性発泡成型体用樹脂組成物には、上記ポリエステル樹脂が60重量%(より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上)以上含まれることが好ましい。ポリエステル樹脂の含有率が60重量%未満の場合には、このポリエステル樹脂を用いて得られる発泡成型体の耐熱性や剛性の低下が著しく好ましくない。
【0014】
(熱可塑性ポリエステル系樹脂の製造方法)
本発明で用いる熱可塑性ポリエステル系樹脂は、その製造方法は特に限定されるものではなく、例えば、テレフタル酸及びエチレングリコールを主成分として、エステル化反応、溶融重縮合、及び固相重合を経て製造することができる。また、テレフタル酸に代えて、テレフタル酸ジメチル等のエステルを用いて、エステル交換反応を経る方法であってもよい。
【0015】
(エステル化反応)
テレフタル酸とエチレングリコールを主成分とする原料成分のエステル化反応は、150〜300℃、常圧〜加圧下で原料成分を撹拌することによって行うことができる。この際、窒素ガス存在下で原料成分の撹拌を行ってもよい。
【0016】
エステル化反応を行う際に用いる原料成分としては、上記テレフタル酸やエチレングリコールの他に、他の成分(多価カルボン酸、多価アルコール)が含まれてもよい。
【0017】
例えば、テレフタル酸以外の多価カルボン酸としては、イソフタル酸、ナフタレン−1,4−もしくは−2,6−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シュウ酸、コハク酸等や、通常ダイマー酸と称される脂肪族ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸及びそれらの酸無水物等の芳香族多価カルボン酸等が挙げられる。
【0018】
また、エチレングリコール以外の多価アルコールとしては、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール等の脂環式ジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の脂肪族多価アルコール等が挙げられる。
【0019】
(溶融重縮合)
溶融重縮合は、上記エステル化反応によって得られた反応物に、重縮合触媒を添加し、200℃〜300℃、13.3Pa〜3990Pa下で撹拌することによって行うことができる。
【0020】
重縮合触媒としては、慣用の種々の触媒が使用でき、例えばチタン系触媒(チタニウムテトラブトキシド等)、アンチモン系触媒(三酸化アンチモン、酢酸アンチモン等)、ゲルマニウム系触媒(二酸化ゲルマニウム等)、コバルト系触媒(酢酸コバルト等)、スズ系触媒(モノブチルヒドロキシスズオキサイド等)、マンガン系触媒(酢酸マンガン等)、アルミニウム系触媒(塩基性酢酸アルミニウム等)等が挙げられる。これらの重縮合触媒は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明においては、発泡成型体の製造コストを低く抑える観点から、ゲルマニウム系触媒以外の触媒を用いることが好ましい。
【0021】
(固相重合)
固相重合は、溶融重縮合によって得たポリエステル樹脂のプレポリマーを、水等で冷却しながら切断して平均粒径1.5mm〜5mmのチップにした後、不活性ガスの流通下、あるいは減圧下、プレポリマーの融点未満の温度で好ましくは1〜30時間加熱することによって行うことができる。
【0022】
固相重合に先立って、固相重合を行う温度よりも低い温度で予備結晶化を行ってもよい。これにより、固相重合をより効率よく進行することができる。この予備結晶化工程は、例えば、プレポリマーのチップを不活性ガス下または減圧下あるいは水蒸気または水蒸気含有不活性ガス雰囲気下において、50℃〜240℃の温度で1時間〜24時間加熱して行うことができる。
【0023】
ポリエステル樹脂のプレポリマーを切断してチップにした後は、篩を通す方法、あるいはチップを空送等する場合にはサイクロン式エアフィルタを通す方法等により、プレポリマーのチップ中に含まれる微粉体やシート状物を除去することが好ましい。これにより、組成が均一な長尺のポリエステル樹脂シートを得ることができる。
【0024】
(テトラブロモビスフェノール系難燃剤)
本発明において用いられるテトラブロモビスフェノール系難燃剤としては、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとブロム化ビスフェノール付加物、ブロム化ビスフェノールAのカーボネートオリゴマー、及びトリブロモフェノールで末端封止したブロム化ビスフェノールAのカーボネートオリゴマーが挙げられる。中でもテトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとブロム化ビスフェノール付加物は、ポリエステル系樹脂との配合において分散性良好で、且つグリシジル基の持つ優れた反応性を生かして、樹脂の熱分解による強度低下の保持などの機能で機械特性に優れ、更には耐候性、耐加水分解性、電気特性に優れた難燃性樹脂を提供するため好ましい。
【0025】
(難燃剤の製造方法)
テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとブロム化ビスフェノール付加物は、以下の方法で得ることができる。第一の方法は、テトラブロモビスフェノールAとエピクロルヒドリンとトリブロモフェノール及びメチルイソブチルケトンの混合物をアルカリ金属水酸化物の存在下に反応させて得る方法。第二の方法は、テトラブロモビスフェノールAとトリブロモフェノールのグリシジルエーテル及びエピクロルヒドリンとイソブチルケトンの混合物をアルカリ金属水酸化物の存在下に反応させて得る方法。第三の方法は、テトラビスフェノールA型エポキシ樹脂とテトラブロモビスフェノールAとトリブロモフェノールをリン系触媒の存在下に反応させて得る方法。第四の方法は、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂とトリブロモフェノールをリン系触媒の存在下に反応させて得る方法。第五の方法は、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂とトリブロモフェノールA及びトリブロモフェノールのグリシジルエーテルをリン系触媒の存在下に反応させて得る方法である。得られた難燃剤の分子量は、30,000〜100,000が特に好ましい。
【0026】
(難燃剤の含有量)
熱可塑性ポリエステル系樹脂に対するテトラブロモビスフェノール系難燃剤の含有量は特に限定されないが、熱可塑性ポリエステル系樹脂60〜95重量%とテトラブロモビスフェノール系難燃剤5〜40重量%であることが好ましい。より好ましくは、熱可塑性ポリエステル系樹脂92〜70重量%と難燃剤8〜30重量%、更に好ましくは、熱可塑性ポリエステル系樹脂90〜80重量%と難燃剤10〜20重量%、である。難燃剤の添加量が5重量%より少ないと難燃性が低下する傾向があり、一方、難燃剤の添加量が40重量%より多いとグリシジル基の影響で金属との付着性が生じるため、難燃樹脂の押出時に熱ヤケを発生し易く、樹脂の着色を起こしたり、黒いヤケ物の発生がみられるなどの問題点が生じる場合がある。更にはゲル化の発生に因る押出機内の詰まりが起こる可能性もあり、溶融樹脂の流動性が安定しにくい等の欠点が出る。
【0027】
(難燃助剤)
本発明において好ましく用いられる難燃助剤としては、アンチモン、モリブデンなどの金属酸化物、アンチモン酸ソーダ、ホウ酸亜鉛が挙げられ、中でも三酸化アンチモンは入手が容易で安価である。
【0028】
三酸化アンチモンは、熱可塑性ポリエステル系樹脂の解触媒としての活性も有する。そのため三酸化アンチモンを1重量%以上添加する時は、熱可塑性ポリエステル系樹脂の固有粘度が低下する場合があり、その結果難燃化された熱可塑性ポリエステル系樹脂の機械特性や耐衝撃性が低下するなどの弊害が見られることがある。
【0029】
三酸化アンチモンを難燃助剤として用いる場合に、上述の様な問題が見られる際は、三酸化アンチモンの大粒径化や五酸化アンチモンやアンチモン酸ソーダを用いると良く、更にはこれらアンチモン酸化物の表面をシラン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物あるいはチタネート化合物などの金属化合物で処理することなどにより解触媒活性を抑制し、難燃性の向上と熱可塑性ポリエステル系樹脂の固有粘度低下の抑制を両立させることができる。もちろん含有していない態様でも良いが、含有する場合には、含有量としては、0.1重量%以上であることが好ましく、更に好ましくは0.3重量%以上である。また、含有量は15重量%以下でよく、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、更に好ましくは3重量%以下である。
【0030】
上記難燃助剤の多くは、粉末状であり、必要に応じてマスターバッチ化によりチップ化して添加することもできる。
【0031】
(ポリオレフィン)
本発明の難燃性発泡成型体用樹脂組成物は、上記熱可塑性ポリエステル系樹脂及びテトラブロモビスフェノール系難燃剤の他に、さらにポリオレフィンを含んで構成されることが好ましい。ポリオレフィンを含んで構成される樹脂組成物から得られる樹脂シートを発泡させることにより、内部に平均気泡径10μm以下の均一な微細孔を含有する、高い反射率を有する発泡成型体を得ることができる。
【0032】
平均気泡径は、発泡成型体断面のSEM写真を撮影し、発泡層の一定断面積内に含まれる任意の気泡30個について、観測した気泡を球形に近似した場合の直径を算出し、これを平均化することにより求めることができる。
【0033】
ポリオレフィンを含有させることによって、反射率の高い高発泡で高密度な発泡成型体が得られる理由については定かではないが、ポリエステル樹脂に非反応性ガスを含有させることによってポリエステル樹脂を結晶化する(後述する)際、ポリエステル樹脂中に分散したポリオレフィンが、結晶核生成の起点となって微結晶が生成したり、非反応性ガスがポリオレフィン中に偏在または高濃度に含浸・含有したり、発泡過程で気泡核生成の起点となったり、あるいは、熱可塑性ポリエステル系樹脂中のポリオレフィンの分散径をミクロンオーダーからサブミクロン以下に微分散させることにより微細発泡化したりするなどの効果を発揮することに因ると考えられる。
【0034】
本発明において用いるポリオレフィンとしては、例えば、汎用の低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、及びエチレン系の共重合体、スチレン系の共重合体等が挙げられ、具体的には、エチレン酢酸ビニル(EVA)、エチレンメチルメタアクリレート(EMMA)、エチレンエチルアクリレート(EEA)、エチレンメチルアクリレート(EMA)、エチレンエチルアクリレート無水マレイン酸(E−EA−MAH)、エチレンアクリル酸(EAA)、エチレンメタクリル酸(EMAA)、アイオノマー(エチレンメタクリル酸金属架橋)、MAH−G−ポリオレフィン(PEやPPに無水マレイン酸をグラフト重合したもの)、エチレングリシジルメタクリレート(E−GMA)、エチレングリシジルメタクリレート酢酸ビニル(E−GMA−VA)、エチレングリシジルメタクリレートアクリル酸メチル(E−GMA−MA)、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、スチレン−エチレン/プロピレン共重合体(SEP)、スチレン−エチレン/ブチレン−エチレン共重合体(SEBC)、水添スチレン/ブタジエン共重合体(HSBR)等が挙げられる。中でもSEBS、SEBCがより好ましい。
【0035】
ポリオレフィンは、熱可塑性ポリエステル系樹脂中に均一に微分散するように、熱可塑性ポリエステル系樹脂と化学反応、もしくは何らかの相互作用をし得る官能基を有していることが好ましい。官能基としては、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基(酸無水物、金属塩となっているカルボキシル基も含む)、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、スルホ基、ニトロ基、ハロゲン基、オキサゾリン基、イソシアネート基、チオール基が挙げられる。
【0036】
スチレン系の共重合体への官能基の導入は、例えば官能基がエポキシ基の場合は、ジエン成分を一部エポキシ化したり、グリシジルメタクリレートのようなエポキシ含有化合物をグラフト変性したりすることによって行うことができる。
【0037】
本発明の樹脂組成物中のポリオレフィンの含有率は、難燃性発泡成型体用樹脂組成物100重量%中0.1重量%以上(より好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは0.7重量%以上)が好ましく、35重量%以下(より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下)が好ましい。含有率が0.1重量%未満の場合には、高発泡で高密度な発泡成型体を得ることが容易ではない。また、35重量%を超える場合には、結果的に樹脂組成物中の熱可塑性ポリエステル系樹脂の含有率が低下することから、得られる発泡成型体の耐熱性や剛性・強度が低下する場合がある。
【0038】
本発明において、特性に影響を及ぼさない範囲で、発泡前の難燃性熱可塑性ポリエステル系樹脂に、結晶化核剤、結晶化促進剤、気泡化核剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、顔料、染料、相溶化剤、滑剤、強化剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、増粘剤、減粘剤などの各種添加剤を配合しても良い。また、得られた難燃性熱可塑性ポリエステル系樹脂発泡体に上記添加剤を含有する樹脂を積層しても良いし、上記添加剤を含有する塗料をコーティングしても良い。
【0039】
(難燃性熱可塑性ポリエステル系樹脂発泡成型体)
上記の発泡成型体用難燃性熱可塑性ポリエステル系樹脂組成物を用いて難燃性発泡成型体を得る方法としては特に限定されるものではないが、例えば以下の方法が挙げられる。
【0040】
すなわち、先ず、1種又は2種以上の上記熱可塑性ポリエステル系樹脂のチップと、テトラブロモビスフェノール系難燃剤(チップ)と、難燃助剤(粉末またはマスターバッチ化チップ)と、ポリオレフィン(チップ)と、必要に応じて帯電防止剤等の各種添加剤を、ホッパドライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥し、押出機を用いて200〜300℃の温度でフィルム状に押し出して、難燃性熱可塑性ポリエステル系樹脂シート(未延伸)を作製する。あるいは、未乾燥の1種又は2種以上の上記熱可塑性ポリエステル系樹脂のチップと、テトラブロモビスフェノール系難燃剤(チップ)と、難燃助剤(粉末またはマスターバッチ化チップ)と、ポリオレフィン(チップ)と、必要に応じて帯電防止剤等の各種添加剤を、ベント式押出機内で水分を除去しながら同様にフィルム状に押し出して、難燃性熱可塑性ポリエステル系樹脂シート(未延伸)を作製する。押出に際しては、Tダイ法、チューブラ法等、既存のどの方法を採用しても構わない。
【0041】
押出後は、キャスティングロールで急冷する。その際、上記押出機とキャスティングロールの間に電極を配設し、電極とキャスティングロールとの間に電圧を印加し、静電気的にシートをロールに密着させてもよい。
【0042】
次に、難燃性熱可塑性ポリエステル系樹脂シートとセパレーターとを重ねて巻くことによりロール形成し、このロールを加圧非反応性ガス雰囲気中に保持して、難燃性熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに非反応性ガスを含浸させる。
【0043】
ここで、本発明において用いることができる非反応性ガスとしては、二酸化炭素、ヘリウム、窒素、アルゴンなどが挙げられ、樹脂へのガス浸透性(速度、溶解度)を考慮すると、二酸化炭素がより好ましい。
【0044】
難燃性熱可塑性ポリエステル系樹脂シートへの非反応性ガスの浸透処理時間、および浸透量は、発泡させる樹脂の種類、非反応性ガスの種類、浸透圧力およびシートの厚さによって適宜調整されるが、15〜30℃、5.0〜7.1MPa下で非反応性ガスをポリエステル樹脂シートに含浸させる態様が挙げられる。具体的には、本発明のポリエステル樹脂シートに二酸化炭素を含浸させる場合にあっては、25℃、6.4MPa下、CO2ガスが充填されたチャンバーにて、ポリエステル樹脂シートの結晶化度が25%になるまで上記ロールを保持する。
【0045】
なお、難燃性熱可塑性ポリエステル系樹脂シートへの非反応性ガスの含浸は、超臨界状態で行ってもよい。
【0046】
その後、非反応性ガスを含浸させた難燃性熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、常圧下、熱可塑性ポリエステル系樹脂の軟化温度以上に加熱して発泡させる。具体的には、本発明においては、非反応性ガスを含浸させた難燃性熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを220℃で1分間加熱して行う。
【0047】
本発明において、比重が大きくなる、つまり発泡倍率が小さくなると、結果として気泡率の低下による反射率の低下や成形性の低下、軽量化効果の減少につながる。得られる難燃性発泡成型体の見かけ密度は100〜1300kg/m3であることが好ましい。
【0048】
(用途)
本発明の発泡成型体は、難燃性と反射率および機械物性に優れる。具体的には、後述する方法で測定したときに、UL94(構造体を除く発泡材料の水平燃焼試験)を満足し、400〜700nmの光波長域における平均反射率が90%以上となる。このため、電飾看板や照明器具用基材のみならず、他の難燃性と高反射率が共に要求される用途においても、好適に用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、実施例で採用した測定・評価方法は次の通りである。また、実施例中で「部」とあるのは「質量部」を意味し、「%」とあるのは断りのない限り「重量%」を意味する。
【0050】
(測定・評価方法)
(1)極限粘度
本発明で用いるポリエステル樹脂の極限粘度IV(実測値)は、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール(2:3重量比)混合溶媒中30℃における溶液粘度から求めた。
【0051】
(2)結晶化度
本発明の発泡成型体用樹脂組成物から得られた樹脂シートから、縦35mm×横45mm×厚さ0.6mmの大きさの試料片を切り出し、超臨界流体処理試験装置(型式;HV1−SC、株式会社日阪製作所製)にセットし、25℃、5MPa下でCO2ガスに所定時間曝露した後、試料片を超臨界流体処理試験装置から取り出し、23℃×50%R.H.×48時間風乾した。次いで、風乾後の試料片を示差走査熱量計(EXSTAR6000、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、以下、単に「DSC」と称する場合がある。)にセットし、10℃/分にて昇温しながら、試料片の結晶化および融解に基づく熱量を測定し、下記式に基づいて結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=(A−B)/C
A;融解に基づく熱量
B;結晶化に基づく熱量
C;100%結晶化PETの融解熱量(117.6J/g)
【0052】
(3)拡散反射率
分光光度計(UV−3150;島津製作所製)を用いて、550nmの光波長域における発泡成型体の反射率を測定し、得られたチャートより1nm間隔で反射率を読み取り、平均値を測定した。なお、下記表3において、硫酸バリウム(和光純薬工業株式会社製、和光一級)の微粉末を固めた白板の拡散反射率を100%として、各々の発泡成型体の拡散反射率を相対値で示している。
【0053】
(4)全反射率
分光光度計(UV−3150;島津製作所製)を用いて、550nmの光波長域における発泡成型体の反射率を測定し、得られたチャートより1nm間隔で反射率を読み取り、平均値を測定した。なお、下記表3において、硫酸バリウム(和光純薬工業株式会社製、和光一級)の微粉末を固めた白板の全反射率を100%として、各々の発泡成型体の全反射率を相対値で示している。
【0054】
(5)難燃性
UL94規格に準じて、UL94(構造体を除く発泡材料の水平燃焼試験)の評価を行った。燃焼性判定基準は、HF−1>HF−2>HBF>不合格、の順である。
【0055】
(実施例および比較例)
ポリエチレンテレフタレート(グレード:RP560、東洋紡績(株)製)、ポリエチレンテレフタレート(グレード:RE530、東洋紡績(株)製)、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとブロム化ビスフェノール付加物(グレード:フェノトートYPB−43MP、東都化成(株)製)、エチレンビスペンタブロモベンゼン(グレード;FCP−801、(株)鈴裕化学製)、三酸化アンチモン(グレード;PATOX−M、平均粒径0.5μm、日本精鉱(株)製)、三酸化アンチモン(グレード;PATOX−C、平均粒径1.0μm、日本精鉱(株)製)、三酸化アンチモン(グレード;PATOX−P、平均粒径3.0μm、日本精鉱(株)製)、三酸化アンチモン(グレード;PATOX−L、平均粒径8.0μm、日本精鉱(株)製)、アンチモン酸ソーダ(グレード;SA−A、平均粒径5.0μm、日本精鉱(株)製)、シランカップリング処理三酸化アンチモン(グレード;STOX−M、日本精鉱(株)製)、ホウ酸亜鉛(グレード;STOX−101、日本精鉱(株)製)、ポリオレフィンとしてスチレン−エチレン/ブチレン−スチレン共重合体(グレード;8630P、JSR社製)、帯電防止剤(アルカンスルホン酸ソーダ、松本油脂製薬株式会社製)、を押出機直上のホッパに供給して混合し、280℃に温調した二軸押出機を用いて溶融押出し、40℃の冷却ロールで急冷して巻き取って、厚さ約0.6mmの樹脂シートを得た。樹脂シートの一部を結晶化度測定用に裁断した後、残りを下記方法によって発泡させて、発泡成型体を得た。
【0056】
すなわち、樹脂シートとセパレーター(オレフィン系不織布(FT300グレード、日本バイリーン株式会社製))を重ねて巻くことによりロールを形成し、このロールを25℃、6.4MPa下、CO2が充填されたチャンバーにて保持して、樹脂シートの結晶化度が25%になるまで樹脂シート1にCO2ガスを含浸させる。圧力容器からロールを取り出し、セパレーターを取り除きながらCO2ガスが浸透した樹脂シートだけを220℃に設定した熱風循環式発泡炉に発泡時間が1分となるように連続的に供給して発泡した。
この結果を表1及び表2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
実施例1〜13のものは十分な難燃性と光の反射性を有し、機械特性、耐衝撃性を併せ持つ好ましいものであった。一方、比較例1及び2のものは難燃性において不十分であり、比較例2は機械特性、耐衝撃性についても不十分であった。比較例3〜5のものは機械特性、耐衝撃性において不十分であり、比較例3及び5は難燃性も各実施例にものに比べて劣っていた。比較例6及び7のものは難燃性において各実施例のものより劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の難燃性発泡成型体用樹脂組成物は、その樹脂シートを発泡させることによって、耐熱性と難燃性を保ちながら機械特性と耐衝撃性に優れた難燃性発泡成型体を製造することができる。また、光拡散性と反射率に優れることから、電飾看板や照明器具等の反射板用途として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱可塑性ポリエステル系樹脂60〜95重量%とテトラブロモビスフェノール系難燃剤5〜40重量%とが含まれてなることを特徴とする難燃性発泡成型体用樹脂組成物。
【請求項2】
テトラブロモビスフェノール系難燃剤が、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとブロム化ビスフェノール付加物、テトラブロモビスフェノールAのカーボネートオリゴマー、及びトリブロモフェノールで末端封止したブロム化ビスフェノールAのカーボネートオリゴマーから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性発泡成型体用樹脂組成物。
【請求項3】
0.1〜35重量%ポリオレフィンが含まれてなることを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性発泡成型体用樹脂組成物。
【請求項4】
酸化アンチモン、酸化モリブデンなどの金属酸化物、アンチモン酸ソーダ、及びホウ酸亜鉛、から選択される少なくとも1種の難燃助剤を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性発泡成型体用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性発泡成型体用樹脂組成物から得られることを特徴とする難燃性発泡成型体用樹脂シート。
【請求項6】
請求項5に記載の難燃性発泡成型体用樹脂シートから得られることを特徴とする難燃性発泡成型体。

【公開番号】特開2009−298928(P2009−298928A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155384(P2008−155384)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】